2009年12月24日 (木)

デンマークのサイクリング地図

ヨーロッパでオランダに次いで自転車が市民生活に溶け込んでいるのが、デンマークだ。今回はこの国のサイクリング地図について紹介しよう。

Blog_denmark_cyclingmap2 「パンケーキのように平たいFlat as a pancake」。デンマークの国土はしばしばこう例えられる。ヨーロッパ全図のような小縮尺の地図では一面緑色に塗られているので、見渡す限り平坦な国土だと思っている人も多いに違いない。しかし、パンケーキの形容が真にふさわしい理由は、別のところにある。すなわち、少しだけ厚みを持っている点が共通なのだ。事実、地形図を開くと、デンマークの多くの地域で50~100m前後の等高線が複雑に入り組んでいるのが読み取れる。特にユランJylland(ユトランド)半島の東半分は丘陵が海岸まで張り出し、丘を刻む谷もそれなりに深い。オランダ(南東部を除く)のように起伏があるのは川の堤だけというのとは事情が違い、サイクリングも少々アップダウンを覚悟しなければならない。

この国のサイクリング地図(サイクリングマップ)は、主にデンマークサイクリスト連盟Dansk Cyklist Forbund(略称DCF、英訳Danish Cycling Federation)が作成している。オランダでは2つの団体・会社による競作が見られたが(下記「オランダのサイクリング地図」参照)、人口がオランダの1/3程度のデンマークではそれほどの市場はないようで、他には後述するノーディスク社製の1点しかない。

Blog_denmark_cyclingmap1 DCFは、自転車がまだ馬の足跡だらけの凹凸道を走っていた1905年、「コペンハーゲン周辺の自転車交通にもっと良好で安全な条件を提供する」ために創立され、現在は22000人の会員を擁する全国組織に成長している。サイクリング地図には、全国が1枚に収まる縮尺1:500 000と、8面に分割した1:100 000の2種類がある。1:500 000は手元にないので、ロンドンの地図店スタンフォードStanfordのウェブサイトにあるコメント(一部略)を引用させていただこう(右写真はDCFのサイトから)。

曰く、DCFのサイクリング余暇地図Cykelferiekortは、「全国の自転車国道・地方道のネットワークを表している。道路の舗装状況や代替道路を表示し、サイクリストとハイカー専用のキャンプ場、一般キャンプ場、ユースホステル、旅行案内所の位置を記号化している。本土と各島を結ぶフェリー航路もある。地理座標はつけられていない。コペンハーゲンは詳細拡大図があり、地名索引、道路標識例も付いている。裏面には、列車やバス、フェリーへ輪行(自転車持込み)する際の規則、ユースホステルと旅行案内所の連絡先、自転車部品の解説など、デンマークのサイクリングに関する情報を満載する。凡例とすべての記事に英語を併記している。」

サンプル図によれば、地図データベースから編集された基図の上にルートを加筆してあり、道路番号つきのいわば公認道は青色で、さらに舗装してあれば実線、未舗装は破線と区別している。併設道はオレンジの実線、番号なしの地方道は緑の点線、そして自転車の走行が禁止されている道路は×印で示してある。これ1枚で国内の自転車道路網が一望でき、旅の必要知識もチェックできるので、旅程のラフスケッチを作るときには、最初に参考すべき地図と言えるだろう。

Blog_denmark_cyclingmap2_index ただし、1:500 000は図上1cmが実地の5kmになる縮尺だから、自転車旅行に携行するには詳しさの点で十分ではない。そこに1:100 000(図上1cmが実地1km)の出番がある。こちらは単体では販売されておらず、地方別に8巻に分かれたサイクリングガイドブックCykelguideの添付地図の形をとっている。ガイドブック本体はデンマーク語版、英語版、ドイツ語版の3種が別々に刊行されているが、添付地図は3か国語併記なので、どの版にも同じものが付いている。冒頭の写真は国内でも一番人気のユラン半島東部編Østjyllandだが、筆者が買おうとしたときには前2者はすでに売切れで、ドイツ語版だけが残っていた(右写真は同 索引図)。

地図は大判(111×70cm)の耐水紙に両面刷りしたものだ。ベースマップに官製1:100 000地形図をそっくり使用し、その上に自転車道を描き、テントサイトや案内所、自転車修理店など旅行に関連する施設や見どころをピクトグラム(絵文字)で示している。自転車道の表示のしかたは、配色が違うだけで1:500 000全国図を踏襲しているが、縮尺が大きいだけに細かい分岐点まで判別できるし、5m間隔の等高線によって、冒頭で述べた道のアップダウンも読めるのが強みだ。裏面まで使って官製1:100 000よりはるかに広い範囲を収めているので、官製図の高価なオンデマンド印刷(ディトコートDitKort)の代替品としても大きな価値がある。

Blog_denmark_cyclingguide ユラン東部はコペンハーゲン首都圏と並んで自転車道の密度が高い地域とあって、地図の至るところに自転車道が走っている。不規則に曲がる田舎道が多いなかで、なめらかな曲線を描いているのは鉄道の廃線跡を転用したものらしい。自転車道沿線には、キャンプ地や宿泊施設が一定の距離を置いて配置されているのが見て取れる。その充実ぶりを追えば、自転車旅行が気軽なレジャーとして定着しているのも当然のことに思えるだろう。

ガイドブックは82ページの充実した冊子だ(右写真)。1:500 000の裏面に書かれているような情報のほかに、ナンバールート別に美しい写真付きで見どころの詳しい紹介があり、地図を傍らに置いて読むだけで、早くも行った気分にさせてくれる。巻末に主要都市の市街図がついているのも便利だ。これらの地図はDCF公式サイトのオンラインショップ(下記)で購入できる。

Blog_denmark_cyclingmap3 最後に、ノーディスク・コートハネル社Nordisk Korthandelが刊行するサイクリング地図に触れておこう。同社は官製地形図の販売を代行している会社なので、「デンマーク・サイクリング地図Cykelkort Danmark」も同社オリジナルの1:500 000に自転車道などの情報を加筆したものだ(右写真)。

内容はDCFとほぼ同じで、コペンハーゲンの拡大図があるところまでよく似ている。裏面にはデンマーク語、英語、ドイツ語で自転車旅行に関する簡単な説明があるが、紙面に書ききれない詳細は同社の特設サイトに誘導する形にしてある。歴史と実績のあるDCFに対抗しての企画とは思うが、DCF全国版の価格25クローネ(1クローネ18円として450円)に対して、こちらは75クローネ(1350円)もするので、残念だがはなから勝負になっていない。

■参考サイト
デンマークサイクリスト連盟 http://www.dcf.dk/
 オンラインショップ http://shop.dcf.dk/ 英語版あり
ノーディスク・コートハネル社のサイクリング地図
http://www.scanmaps.dk/cykelkort/index_en

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 デンマークの地形図

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2009年12月18日 (金)

フェロー諸島の地形図

Blog_faroeislands まず、フェロー諸島がどのあたりにあるかを知るために、1:200 000地図の表紙にある地図を掲げておこう。国名が略号で記されているので、フルネーム(ただし通称)を赤字で添えておいた。中央のFÆRØERNE (Faroe Islands) がフェロー諸島だ。デンマークDenmarkの自治領になっているが、地図で見てもデンマーク本国からはかなり遠く、イギリスでもノルウェーでもないのが不思議なくらいだ。なぜここがデンマーク領なのかという話をするには、14世紀まで時間を戻さなければならない。

その頃、北大西洋に浮かぶ島々、東からシェトランドShetland、オークニーOrkney、フェロー諸島、アイスランドIceland、そしてグリーンランドGreenlandはすべて海の王国ノルウェーNorwayの支配下にあった。沖合いに飛び石のように点在するこれらの島々は、ヴァイキングとその末裔が活躍する舞台だったのだ。しかし1380年、ノルウェー王の死去をきっかけに、デンマーク国王がノルウェー王を兼ねる同君連合が成立する(1397年からスウェーデンも加わってカルマル同盟に)。デンマークが三国の盟主となる一方でノルウェーは衰退し、1536年、ついにデンマークの属州とされるに至る。シェトランドはそれより早く、浪費家の国王によってオークニーとともにスコットランド王へ借金の形に差し出されてしまった(1468~69年)ため、現在までイギリス領だが、残る島々はデンマークに属することになった、というわけだ。

大小18の島々で構成されるフェロー諸島は、周囲の島から300~400kmも離れた洋上にある。アイスランドと同様、海底の火山活動で生じた陸地は起伏が大きく、氷河による侵食を強く受けている。フィヨルドが北北西から南南東方向に伸びて島々を寸断し、平地は水没を免れたU字谷の底にわずかに残るだけだ。西側斜面は外洋の風波に容赦なく削られて、高さ数百mもの断崖が連続する。地形図を手に取ると、そのような荒々しい地形が余すところなく観察できるのだが、それとともに注目したいのは、地形上の障壁を果敢に克服する道路網だ。玄武岩の山脈にあまたのトンネルが貫かれ、狭いフィヨルドには橋がかけられ、幅2kmもあるような海峡には海底トンネルが通る。空港のあるヴォーアル島Vágarや、中心都市トースハウンTórshavnのあるストレイモイ島Streymoyなど、北部の主要6島間はすでにクルマで行き来できるようになっている。独立志向の強い諸島を繋ぎ止めるために、公共投資が注ぎ込まれていることを窺わせる。

そのフェロー諸島の地形図は、デンマークの測量局である国立測量・地籍局Kort- og Matrikelstyrelsenが作成している。本土の地形図刊行は廃止されてしまったが、フェロー諸島とグリーンランドは今のところその適用を受けていない。そして、地形図体系も図式も本土と異なる点が多いので、縮尺別に紹介していこう。

Blog_faroeislands200k エリア全体を1枚で見渡せるのは、1:200 000だ。右写真では表紙の表裏を並べたが、左のタイトルFøroyarはフェロー語、右のFærøerneはデンマーク語で、どちらもフェロー(諸島)を意味する(英語ではFaroes / Faroe Islands。Faeroesの綴りもある)。地図は等高線を使わず、粗いぼかしで地勢を表現している。集落は黄色、主要道路は赤で塗り、区間距離が入っている。島同士を結ぶフェリーや旅行案内所、キャンプ場、ユースホステルの記号もあって、道路地図あるいは旅行地図といった趣きだ。余白には地名索引もある。地形図というには物足りないが、島の位置関係を把握するだけなら十分に用が果たせるので、前回紹介したデンマークの地図帳でもこの地図が採用されている。

Blog_faroeislands100k 1:100 000には1枚もの(区分図)はなく、本土と同じように地形図地図帳Topografiskt Atlasに編まれたものが唯一だ。とはいっても、表紙を含めて12ページ、中綴じしてから半分に折っただけの簡易な冊子に過ぎない。内容は、北大西洋全図、1:500 000諸島全図、1:20 000地形図の索引図、そして本編の1:100 000地形図が6ページ、最後に地名索引が付く。表記は表紙のタイトルでも察せられるようにフェロー語主体だが、デンマーク語、英語、独語を併記しているところが親切だ。1:100 000地形図は、20m間隔の等高線にぼかし(陰影)も付加されて、フィヨルド、U字谷、カール(圏谷)、氷河湖と特徴的な氷河地形が手に取るようにわかる。また、先述した西海岸の切り立った崖は、等高線があまりに混みすぎて茶色の色面と化している。地図記号は1:200 000の設定を引き継ぎながらも、集落を黒抹家屋に置き換え、耕作地、造林など土地利用の表現を加えて、地形図としての体裁をしっかり整えている。

Blog_faroeislands20k 一般的な用途ならこれ以上を望む必要もないのだが、もっと微地形に迫ろうとする人には、37面で全域をカバーする1:20 000地形図がある。横12.5cm×縦30cmの細長い折り方は本土の地形図と同じだ。しかし、本土の1:25 000が、比較的平坦な国土を反映して等高線間隔は5mと小刻みで、ぼかし(陰影)もないのに対し、フェロー諸島はそれより縮尺は大きいのに等高線間隔10m(5mの補助曲線あり)で、控えめながらぼかしも付いて、山岳地図仕様だ。凡例の表記がフェロー語とデンマーク語なので正確にはわからないが、山腹から頂にかけて、連なる崖、剥き出しの岩、風化した岩と岩場に関する記号で広く覆われていて、本土とはまったくの別世界を呈する。わずかな耕作地と造林地は緑系に塗られているので、それ以外は羊が放たれるような草原ということになるのだろう。デンマークのきめ細かな地図描写が応用されたことにより、フェロー諸島の地表の様子が生々しく映し出されて、興味が尽きない。

フェロー諸島の地形図は、トースハウンにあるソルバウ社Solbergのサイトで全点を扱っている。ここはスーベニアショップだが、英語表記の画面が用意されているのと、国外への販売を非課税扱いにしてくれるので、利用価値が高い。また、地形図閲覧サイトは、国立測量・地籍局が提供しており、1:100 000地形図が閲覧できる。URLなどは下記「官製地図を求めて-フェロー諸島」の「地図閲覧」の項を参照されたい。

■参考サイト
フェロー諸島観光局 http://www.faroeislands.com/
 トップページ > Gelleryには、美しい写真集がある。
ソルバウ社 http://www.solberg.fo/ 
 トップページ > Webshop

「官製地図を求めて-フェロー諸島」
http://homepage3.nifty.com/homipage/map/map_faroeislands.html

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2009年12月10日 (木)

デンマークの地形図地図帳

これまで筆者が親しんできたデンマークの地形図Topografisk Kortは、1:100 000だ。最初に出会ったのが1:100 000の区分図だったし、その後購入した地図帳もこの縮尺だった。初めから意図していたわけではないが、土地勘を得るためにとりあえずは国土全体をざっと眺め渡したいと思うので、地形や地物がそこそこ読み取れる1:100 000は、結果的にニーズに適っていた。これより縮尺が小さくなると(1:200 000など)等高線が省略されてしまうからだ。

Blog_denmark100k 1:100 000地形図は1センチ地図1cm Kortと呼ばれる。全土を33面でカバーするが、それとは別に、図郭をずらしてまとまりのある地域を一面に収めた特別版が4面(Djursland, Sundeved og Als, Sydfyn og Langeland, Sydsjælland og Møn)ある。右写真は1998年修正のコペンハーゲン図幅(デンマーク語ではケベンハウンKøbenhavn)だが、オフセット印刷による1枚ものの紙地図は2002年をもって刊行が停止されたため、残念なことにこの形式としては最終版になってしまった。

今、最新の地形図が見たければウェブかオンデマンド印刷になるが、1:100 000に関しては、地図帳という選択肢もまだ残されている。地図帳は全土が1冊に収められているので、初期投資は大きいものの、それに見合う価値はある。デンマークでは、第2次大戦前からこの縮尺で地形図地図帳が刊行されてきた。同国の測量局である国立測量・地籍局Kort- og Matrikelstyrelsenが出版元だったが、現在は、紙地図の販売全般を代行するノーディスク・コートハネル社Nordisk Korthandelの手に移っている。

序文によると、最初の1:100 000地図帳はいわゆる参謀本部地図Generalstabskortを全3巻に集成したもので、1928~33年に現 測量局の前身に当たる測地学研究所Geodætisk Institutの設立を記念して製作された。参謀本部地図という呼称は軍用地図だった時代の名残だが、1960年代半ばの第3版までこの名がタイトルに掲げられていた。しかし、1970年代初めに準備された第4版の発行は中止となる。作図方法の改良に伴って、デザインを一新した1:100 000地形図の作成が検討されることになったからだ。1975~81年に旧図から新図への置き換えが行われ、その成果を反映した地図帳が、1982年に「デンマーク1:100 000 地形図地図帳Danmark 1:100 000 Topografisk Atlas」と名称を改めて刊行された。

Blog_denmarkatlas1この地図帳は珍しい横長の判型(31×27.5cm)を採用している。もとの地形図の図郭を上下2分割したものを見開き2ページに収めるためだ。こうすると、1ページの掲載範囲がちょうど1:50 000の図郭と一致するので、大縮尺図の索引図としても使えるという利点があった。筆者の手元にあるのは、1982年の衣替えから数えて第3版に当たる1989年版(右写真)だ。表紙カバーは、ユランJylland(日本語ではユトランド)半島中部、オーフスÅrhusの近郊だそうだが、明るくのびやかな海辺の風景は旅情を誘う。

中身の地図は1:100 000の区分図そのものだ。等高線が5m間隔とこの縮尺にしてはかなり精度が高いので、隆起台地に細かい谷筋やフィヨルドが入り組む複雑な地形も手に取るように分かり、眺めていて飽きることがない。原図の修正に間に合わなかった変化、特に新設道路は、紫で加刷するというアメリカの地形図のような小技も駆使している。しかし、かつての参謀本部地図が朱色や黄色といった派手な色を惜しげもなく使っていたのに比べて、黒、青、緑(アップルグリーン)、茶(ココアブラウン)の4色刷は、いかにも地味な色調で見映えがしない。印刷の色数を絞ろうとしたのだろうが、せっかくのスマートなデザインが生きてこないと思っていた。

Blog_denmarkatlas2 ノーディスク・コートハネル社から刊行されている現行の第7版(2008年、右写真)は、判型が25×34cmと縦長に戻り、まったく別の地図帳のようだ。総ページ数は224ページで、地図166ページ、地名索引38ページ、その他(行政区分図、道路網図・都市間距離、オンデマンド地図紹介、基礎データ集など)20ページから成る。デンマーク本土の1:100 000とともに、フェロー諸島1:200 000、グリーンランド1:5 000 000(500万分の1)も添付されている。判型が見直されたことで、1ページの掲載範囲が区分図の図郭と合わなくなったが、その代わり、隣接図とは2~3cmの重複を持たせてあるのが親切だ。

地図はもちろん測量局のデータベースから生成されたもので、プロセスカラー印刷を前提に配色が改善され、コート紙の使用によってすっきりした仕上がりになった。記号デザインは、色や形状が差し替えられた行政界と道路番号表示を除いてほとんど同じにもかかわらず、第3版と比較すると全体の印象が大きく変わっている。以前紹介したオランダの地形図の目覚しさとはまた違う、落ち着いた美しさが好ましい。

Blog_denmark100k_sample 話は変わるが、デンマークの地形図には、踏み台の立面形に似た鉤形の記号が一面にばら撒かれている(右写真は地図帳第7版裏表紙に配されたサンプル図)。どの図幅にも見られるにもかかわらず、1枚ものの地形図の凡例(記号一覧)で一切言及されているのが不思議だ。実はこれ、農場(の建物)を表している。進入路を取り囲む形に建てられた一連の建物を上から見た形だそうだ。よそ者には謎でも、この国ではあまりにありふれた風景なので、わざわざ説明するまでもないのだろう。

■参考サイト
ノーディスク・コートハネル社(英語版) http://www.scanmaps.com/
 上記地図帳は同社のオンラインショップのほか、デンマーク国内の一般書店でも扱っている。

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2009年12月 3日 (木)

デンマークの地形図

Blog_denmark25k_index 2008年度をもって日本では1:50 000などの地形図の更新が停止されてしまったが、電子化時代を象徴するこのような決断は、デンマークDenmarkのほうがかなり早かった。測量局による地形図の刊行廃止は2002年のことで、対象はフェロー諸島とグリーンランドを除く本土のすべての地形図に及んだ。ただし、これには注釈が要る。オフセット印刷による紙地図を作らなくなっただけで、ディジタル地図の更新は依然継続されているからだ。1:500 000、1:200 000、1:100 000、1:50 000、1:25 000、1:10 000の6種の地形図データベースが維持され、これをもとに民間会社の手でさまざまな製品が産み出されている。

デンマークの地図作成は、1989年から国立測量・地籍局Kort- og Matrikelstyrelsen(下注)が担ってきた。紙地図廃止に伴い、同局から頒布されるのはディジタルデータだけになったが、代行する形で、ノーディスク・コートハネル(北欧地図販売)社Nordisk Korthandelが紙地図を取扱っている。そのいくつかを紹介しよう。

*注:1989年に、それまでの測地学研究所Geodætisk Instututと水路局Søkortarkivet、地籍局Matrikeldirektoratetが統合されて国立測量・地籍局となった。原語の組織名は「地図及び地籍局」という意味だが、英語の公式名称National Survey and Cadastreに基づいて上記の訳語を使用する。

Blog_denmark200k 同社がオフセット印刷で最新版を用意しているのは、1:500 000と1:200 000だ。前者は全土1面、後者は全土を4面に分割した区分図と150×80cmの大判用紙を使って1面に表した版の2通りがある。

手元にある1:200 000(右写真は「シェラン島及びボーンホルム島Sjælland og Bornholm」)を見ると、2006年のコピーライトが表示され、上記のデータベースを使用してノーディスク社が作成したと注記されている。等高線などの地勢表現は一切なく、その点で「地形図」とは言えないが、そもそも最高地点の標高が170m程度しかない国土なので、あえて書き込む必要もないのだろう。陸地全体はクリームイエローに塗られ、森を表すミントグリーンやヒースを表すピンクがアクセントのように配される。案内所、キャンプサイト、旧跡、行楽地、ゴルフ場のようなリクリエーションに関する記号が充実し、景色のいい道路にミントグリーンの縁取りがしてあるなど、設計は明らかに旅行地図を志向している。ところが表紙はご覧の通りのそっけなさで、商売っ気がありそうには見えない。

これより大縮尺の地図は、基本的にオンデマンド印刷で提供される。イギリスやフランスでもオンデマンドのサービスがあるのだが、主流はまだ従来型の地形図だ。しかし、デンマークで最新の地形図を得るには、ウェブで閲覧するか、ディトコートDitKort(英語でYour Map)と呼ばれるこのプリントサービスを利用するしか方法がない。発注はウェブ上でできる。縮尺は1:100 000と1:25 000から選べて、図郭も任意に決められるが、従来の地形図図郭または地域限定の広域図郭で指定する方式も併用されている。加えて、1842~99年のいわゆる旧式測図Lave Målebordsblade、1920~30年の改良測図Høje Målebordsblade、そして1953~75年、1980~2001年の4期の旧版地形図も選択できる。これを利用して自分の家や学校を中心にした地形図を作れば、150年間にわたって周辺地域の変遷を調べるというような作業も容易になるのだが、問題は価格で、現行図で1面139クローネ(1クローネ18円として2,502円)もする。受注生産なのでやむをえないとはいえ、むやみに購入するのはためらわれる。

一方、オンデマンドに移行する以前の旧図も、在庫のある限り同社から販売されている。こちらは1:25 000と1:100 000が50クローネ(900円)、1:50 000が95クローネ(1,710円)で、日本に比べればすこぶる高いが、ヨーロッパではまだ許容範囲だ。

Blog_denmark50k デンマークの地形図の呼び方は独特で、「10万分の1地図」ではなく、実長1kmが図上1cmで表されるという意味で「1センチ地図1cm kort」と称している。同じように、1:50 000は2センチ地図、1:25 000は4センチ地図になる。イギリスのワンインチマップ1 inch map(実長1マイルが図上1インチで表される)に倣ったのかもしれない。

その1センチ地図については次回、地図帳の項で紹介するとして、2センチ地図(1:50 000)は全土を109面でカバーする(右写真は1213 II Fredericia)。5色刷りだが、道路や中心市街の塗りに使われて本来なら目立つはずの赤が、ここではオールドローズ(灰色がかったバラ色)のため、全体が落ち着いた色調だ。等高線間隔は5m、等深線も2~10mまで記入されている。地図記号には、湿地・沼地が3種に分類されているのに森林は1種類しかないとか、灌漑用風車、発電用風車、風力タービンと風がらみの記号が多いなど、土地の特徴を探すことができる。

Blog_denmark25k 4センチ地図(1:25 000)は405面あり(右写真は1513 IV SØ Roskilde)、市街地の色はオランダと同じでグレーに変わるが、森林が針葉樹と広葉樹で色分けされるため、図全体はかえって美しい。等高線は同じく5m間隔だが、急傾斜地以外は2.5mの補助曲線が入って、この縮尺としては精度が高い部類だ。

これらの地形図は1980~90年代に作成されたものだが、近年開通したエアソン(エーレスンド)海峡Øresundと大ベルト海峡Storebæltの鉄道併用橋もすでに記載されているので、今使ったとしても大きな支障はないだろう。いずれもノーディスク社のサイトで発注できる。

本稿の冒頭に、地形図の索引図を載せておいた(2000年版カタログによる)。太枠は1:100 000の図郭で、中央にある4桁の数字(例:1318)が図番を表す。これを縦2×横2=4分割したものが1:50 000の図郭になり、図番は4桁の数字+ローマ数字(例:1318 II)で表す。これをさらに4分割したものが1:25 000の図郭で、図番は4桁の数字+ローマ数字+方位の略字(東=Ø、西=V、北=N、南=S)で表す。これにより例えば、ユラン半島北端Frederikshavn図幅は1318 II SØ となる。

ウェブによる地形図閲覧については、下記「官製地図を求めて-デンマーク」の「地図閲覧」の項を参照されたい。

■参考サイト
国立測量・地籍局(英語版) http://www.kms.dk/English/
 紙地図に関する情報は、メインメニューのProducts for General & Professional Use > Professional Use > Paper Maps
ノーディスク・コートハネル社(英語版) http://www.scanmaps.com/

「官製地図を求めて-デンマーク」
http://homepage3.nifty.com/homipage/map/map_denmark.html

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2007年3月29日 (木)

アイスランドから地形図が消えた日

Blog_iceland_1 イギリスの地図販売店スタンフォーズStanfordsのオンラインカタログをチェックしていて、アイスランドの地形図に付された記事に気がついた。
「アイスランド測量局は政府から2007年1月末までに縮尺を問わず地図の在庫をすべて処分するよう指示を受けました。残念ながら、地図類の買い取り先が通知され、新たな所有者と打合せができるまで、私どもはいかなる注文もお受けできません。測量機関自体は、現状では地図類をオンデマンドで印刷する計画を全く持っていません。」

驚いてアイスランド測地測量局Landmælingar ÍslandsのHPに飛ぶと、それを裏付ける直営店閉鎖のニュースが出ていた。旅行地図は引き受け先があったそうだが、地形図のことには一切触れられていない。スタンフォーズの言うとおり、当面入手できない幻の地図になってしまったらしい。アイスランドよお前もか、と思った。5年前、2002年にデンマークの測量局が、離島を除く紙地図の刊行を廃止したのを知っていたからだ。こちらは民間の地図店で地形図の販売を継続しているが、内容の更新までやっているのかどうかは知らない。

21世紀は、地図がもっぱら紙に印刷されていた時代をノスタルジックに振り返ることになるのだろう。今やインターネットで世界中の詳しい地図や空中写真が見られるのは当たり前、車にはカーナビがついていて、登山にもハンディタイプのGPSを携帯する。各国の測量局のHPを見ても、宣伝しているのはDVDなどデジタル媒体かネット配信が主で、紙地図には敢えて触れていなかったりする。

そもそも官製図は国家の基本的な地図という位置づけなので、先進国では通常、全土が同じ縮尺で揃っているのだが、地形図は種類が膨大な割には大して売れない。売れる地域も限られる。日本の国土地理院のHPによると、2005年度の1:25 000地形図の販売ランキング第1位は北アルプスの一角、「穂高岳」だが、販売枚数は年間4200枚強に過ぎない。ベストセラーですら1000枚のオーダーだから、まして北海道内陸部の人跡稀な山中とか、南海、西海の孤島を描いた地形図となると、売れ先が極めて絞られることは想像に難くない。紙地図のニーズが根強く存在するとしても、大勢は民間が出版する登山地図や観光地図など実用的なものを志向しているのだ。

筆者のHPでは、カタログの入手に始まり地図の注文まで、紙にこだわった一時代前のスタイルを紹介している。それは、広げてマクロ畳んでミクロと伸縮自在かつ軽量、表示も細部まで鮮明と、紙地図にまだ一日の長があると思っているからだ。旧来型の印刷物がもっていた硬直性を緩和しようとする取り組みも各国で始まっている。

例えば南アフリカ共和国の場合は、顧客のリクエストに応じてデータファイルからインクジェットで印刷する方式だ。ブラジルも在庫の切れた図幅からこの方式に切り替えた。紙地図の6倍もの価格設定には閉口するが、品切れが頻発するよりはましだろう。また、イギリスやアメリカ合衆国は規格品を制作するかたわら、地図の範囲を任意に設定できるというオンデマンドサービスを展開する。規格品では学校の通学範囲が隣の図郭にまたがることがままあるが、これなら学校を中心に据えたオリジナル地図が常に作れ、教材としても優れている。

アイスランドの官製図(右上写真、左1:25 000、右1:50 000)は、小国らしからぬ品揃えと積極的な国外販売で、国の観光広報の役割も果たしていた。それだけに、このように形を変えてでも、早く復活してくれることを望みたい。

■参考サイト
官製地図を求めて-各国地図事情 アイスランド
http://homepage3.nifty.com/homipage/map/map_iceland.html
国土地理院の販売ランキング
http://www.gsi.go.jp/MAP/RANKING/hanbai.htm
イギリスOSのオンデマンド地形図(OS Select)
http://leisure.ordnancesurvey.co.uk/leisure/catalogue.jsp?section=10167

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2006年8月18日 (金)

ノルウェーの地図と鉄道 III-オーフォート鉄道

Blog_narvik 北緯68度26分、ヨーロッパ最北の鉄道としてかねてから有名なオーフォート鉄道Ofotbanen。ソ連崩壊後はサンクトペテルブルク~ムルマンスク線が登場してその地位を譲り渡したが、車窓風景のすばらしさは数字の上でのランキングを補って余りある。

ルートはスカンジナビア半島を縦断している。スウェーデン、ボスニア湾岸のルーレオLuleåを発して、鉄鉱山の町キールナKiruna、国立公園の玄関口アビスコAbiskoを経由、北大西洋に面したノルウェーの港ナルヴィークNarvikに至る。ノルウェー側の線名は地方名オフォーテンOfotenから来ているが、スウェーデン側ではその使命に照らして、ずばり鉱石鉄道Malmbananと呼ばれる。旅客列車の運行は国際的な交通事業者であるコネックス社Connex の担当で、北部地方の列車を意味する「ノールランストーゲNorrlandståget」がこの区間を1日3往復している。

官製地図でその軌跡を追いたい。ハイライト区間であるアビスコ~ナルヴィーク間は国境をまたいでいるため、双方の図郭に含まれている。互いに他国の領土はその国の測量局が図化したものを使用しているのだが、最大縮尺がノルウェーは1:50 000であるのに対して、スウェーデンの場合、山間部は1:100 000にとどまる。これを1枚の地図につなげようとすると工夫が必要になる。

ノルウェーの官製図では、右上に掲げた1431-Ⅳ番Narvik図幅の右(東)に接続する1431-Ⅰ番Bjørnfjell図幅に国境線がある。隣国の部分は1:100 000を2倍に拡大している。等高線は双方とも20m間隔なのでうまく接合するはずだが、単純に拡大したために線幅や文字サイズが違いすぎてとても同じ精度には見えない。

Blog_swedenfjallkartan 一方のスウェーデンは手元に土地測量局Landmäterietが発行する「山岳地図Fjällkartan」のBD6番 Abisko-Kebnekaise-Narvik がある(右写真)。南方にある同国の最高峰ケブネカイセKebnekaiseまで含んでおり、代表的なトレッキングルート「王様の散歩道Kungsleden」を訪れるのにも最適の地図だ。縮尺は1:100 000ながら、氷河が削った複雑な地形を繊細なぼかしと彩色で表現していて、見た目にも美しい。隣国の部分は当然1:50 000がベースだが、道路や集落の表示、地名の注記文字などを標準サイズに修正しているので違和感がない。ただし、等高線はそのまま1/2に縮小されていて、とにかく細かい。スウェーデン側では急傾斜地の等高線を一部省略しているのに、ノルウェーはそうしないのも原因だろう。

列車でアビスコからナルヴィーク方面へ向かうときは、眺望が終始右手に開けることに注意したい。大小の湖が点在する広大なU字谷を行くこと1時間。国境駅リクスグレンセンRiksgränsenは雪覆いの中だ。そのあとも雪覆いが断続し、分水界を通過した列車は坂道をすべるように降りていく。短い鉄橋を渡ってトンネルを抜けたところは、フィヨルドの深い谷壁の中腹だ。オメガカーブで支谷を大きく巻いて、Katterratという人気のない駅に停車。このあたり、谷底との高低差は300m以上ある。やがて眼下の谷には海水が満ちてきて、それを眺めながらゆっくりと山を下る。フィヨルドを渡る国道E6号線の吊り橋(ロンバーク橋Rombaksbrua)を見送れば、終点まであと10分あまり。窓に張り付いて歓声をあげていた乗客も席に戻って、降りる仕度を始めるだろう。ナルヴィーク旅客駅は標高40mの高台に位置しているが、貨物列車はさらに進んで海岸の港に至る。

■参考サイト
オーフォート鉄道 http://www.ofotbanen.no/
ノルウェー鉄道 http://www.nsb.no/
英語版あり。国内線の時刻表がダウンロードできるが、オーフォート鉄道だけはコネックス社のHPにある。
コネックス社 http://www.connex.se/ 英語版あり
「ノールランストーゲ」時刻表 tidtabell%2030-40%2020060618-20070616.pdf

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2006年8月11日 (金)

ノルウェーの地図と鉄道 II-ラウマ線

Blog_norwayatlas ノルウェー全土をカバーする最も大きな縮尺の官製地図は1:50 000だが、土地勘を得るためにはまず、小縮尺の地図帳であたりをつけるのが筆者の流儀だ。同国の国土地理院Statens Kartverkが刊行する縮尺1:300 000の「ノルウェー道路地図帳Veiatlas Norge」がある。道路地図とはいえ、繊細なぼかし(北西から光を当てたときに得られる影の表現)と彩色で複雑な地勢がみごとに表現されていて、鑑賞に堪えうる地図となっている。

前回に引き続いて、地図でこの国の鉄道を追っていこう。ベルゲンから大西洋を北へ向かうと、次に鉄道が海岸に現れるのは300kmほど離れたオンダルスネスÅndalsnesの町。オスロOsloから内陸を延々458km走ってきた線路の終点だ。途中、山中ののドンボースDombåsで、港町トロンハイムTrondheimへ北上するドブレ線Dovrebanenを分岐し、ここから先はラウマ線Raumabanen(延長114.2km)を名乗っている。

ドンボースあたりではまだ川を遡っている最中だが、氷河が作ったU字谷をさらに進むうちに、いつのまにか川が逆方向、すなわち進行方向に流れているのに気づいて驚く。ベルゲン線と違って峠らしい峠がない。いわゆる谷中分水を通過したのだ。実は分水界には湖が広がっているのだが、それが峠だとは誰一人として気づかない。

ところが、ビョーリBjorliという小駅(標高575m)を過ぎてまもなく、急に谷が深まり、川は水煙をあげて流れ落ちるようになる。直線で10kmほど進む間に400mも下る急流だ。鉄道はスイスアルプスにあるような180度転回を2度繰り返して、この高低差を克服する。ラウマ線のハイライトだ。その先、川の流れは穏やかさを取り戻すが、谷の両側は800~900m、高いところでは1500m以上という切り立った岩壁が続き、夏場の増水期には糸のような滝が随所にかかる。

この景勝路線には1993年からSLが牽引する観光列車が登場した。今年もサマーシーズンの週末を中心に、オンダルスネスからビョーリの間を1日2往復している。オンダルスネスは、秘境ガイランゲルフィヨルドGeirangerfjordや優美な港町オーレスンÅlesundへの玄関口として知られるが、こんな楽しいイベントも用意されているのだ。この国の鉄道に退屈という文字はない。

■参考サイト
ラウマ線(英語版あり) http://www.raumabanen.net

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