2013年7月 7日 (日)

アメリカ合衆国の道路地図-公式交通地図

今でこそあまり見かけなくなっているが、アメリカ合衆国の道路地図は無料頒布 giveaway  によって普及した。ガソリンやタイヤなどの販売業者が顧客向けに、あるいは各地の自動車クラブが会員向けに、あたかも競うようにして作成し、配っていたからだ。USハイウェーの整備が本格化する1920年代から、2度の石油危機に見舞われて石油会社の収益構造が悪化する1970年代までが、その全盛期だった。

配っていたのは、民間企業や団体だけではない。各州政府もまた、定期的に同じような道路地図を刊行していた。一般にこれを「公式道路地図 Official Highway Map」、または鉄道路線なども盛り込まれているので「公式交通地図 Official Transportation Map」と呼んでいる(下注)。大判用紙の両面を使って印刷され、コンパクトに折り畳んだ形で頒布された。このスタイルは今でも変わっていない。民間地図が有料化されていくなかで、公式交通地図については非売品としての伝統が維持されてきた。

*注 地図の実際の名称はさまざまで、Highway Map、Transportation Mapのほか、State Map、観光局が所管するものはVisitor's MapやTravel Mapになっている場合もある。

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公式交通地図の表紙

従来作成していたのは、州の運輸局(下注)だ。アーカイブを公開している州の例で見ると、初版の刊行は1920年代前後で、州内の道路網の整備状況を周知するのが主たる目的だった。道路の建設と同時に道路番号の整理が行われるため、公報としての意義も大きかったに違いない。しかし、30年代以降は、次第に旅行者への情報提供という側面が強くなる。カラフルな表紙がつき、裏面には観光振興のための写真や記事が配されるようになった。

*注 運輸局の正式名称は州によって異なるが、Department of Transportation(略称DOT)と称するところが多い。

戦後の高度成長期を経て、公式交通地図は州の広報媒体に位置付けられ、毎年刊行されたが、景気が減退した70年代からは隔年刊行が主流になる。2000年代に入ると、ウェブでの公開に切替えて頒布を廃止する例も現れ始めた。事業は現在でも多くの州で運輸局の所管だが、目的の変化から、モンタナ州のように観光局と共同刊行にしたり、アリゾナ州やバーモント州のように観光局に完全に移管してしまったところもある。

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公式交通地図の表紙(つづき)

無料とはいえ州政府の刊行物なので、内容はしっかりしている。道路網に道路種別、道路番号、そして主要地名という道路地図の骨格はもとより、地点間距離も基本的に記載対象だ。地図上の地名を探すための地名索引や、マイレージ・チャート Mileage Chart と呼ばれる主要都市間の距離表もほとんどの場合、地図の余白か裏面に付けられている。

道路の関係ではほかに、シーニック・バイウェー Scenic Byway と呼ばれる景色のいい地方道を強調する例や、ルイス・アンド・クラークトレール Lewis and Clark Trail、オレゴントレール Oregon Trailのような開拓時代の旧道、アパラチアントレール Appalachian Trailのような長距離自然歩道を表示した例が見られる。これらは旅行者向けの情報だが、サウスカロライナ州では、ハリケーンの来襲に備えて避難指定経路 Hurricane Evacuation Routes の地図を添えている。

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ワシントン州公式道路地図 2011年版の一部

同じ交通路でも鉄道網については、民間の道路地図では省かれがちだ。しかし、運輸局の所管事項であるからか、公式交通地図ではおおむね居場所を与えられている。ただ、描き方には個性があり、旅客と貨物を問わず線路があれば描くというのが多数派だが、アムトラック Amtrak その他の旅客列車運行路線だけを描いている州も少なくない。旅行者にとって貨物路線の情報は不要という判断だろう。興味深いのは停車駅の表示で、日本のような長方形ではなく、線路脇にアムトラックのロゴを置いている例が数州ある(下注)。停まる町は限られているので、これでも十分用を果たしている。

*注 確認した限りでは、ミズーリ、モンタナ、ネブラスカ、ノースダコタ、オクラホマといった主として中部の各州がこのロゴを使用する。他にバージニア州は円の中にA(メトロの駅Mと区別)、デラウェアは独自デザインのピクトグラムを充てている。

本来の道路地図の要件ではないものの、旅行者がターゲットになったことで付加された情報もある。一つは土地管理区分だ。国立/州立公園 National / State Park、国有林 National Forest、自然保護区 Wilderness Area などの範囲が緑のアミなどで示される。ほかにインディアン居留地 Indian Reservation や軍用地 Military Area も描かれる。視覚効果を上げるために、山岳地域を擁する州では地勢の陰影(ぼかし)も付加されている。

もう一つは旅行スポットの表示だ。キャンプ、ハイキング、スキー、水泳、魚釣り、狩猟、野外生物観察といったレクリエーション活動の定番はもとより、灯台、湧水、養殖場、さらには屋根付き橋、ゴーストタウンその他、ご当地観光の見どころが特製の記号で示されている。州別地図帳で見られるような州立公園の機能一覧表(どんな活動ができるのか、どんな設備が用意されているのかを表にしたもの)が掲載されている場合もある。さすがにガソリンスタンドやAAAのステーションの位置はないにしても、内容が市販の道路地図のレベルに達している州は多い。

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モンタナ州公式道路地図2013年版 の凡例の一部
アムトラック駅やゴーストタウンの記号が見られる

本国には熱心な収集家もいる公式交通地図だが、難点は、「無料頒布のみ Free Distribution Only」という断り書きが示すとおり、書店等を通した販売が許されていないことだ。したがって日本で入手するには、頒布先に直接リクエストしなければならない。各州の運輸局のウェブサイトに頒布案内があり、リクエストフォームが用意されている。そうでなければメールで請求することになる。基本的に郵送料は向こう持ちだ。ただ、リーマンショック以降、経費節減のために国外送付を取止める運輸局が増えてきた。フォームの国名選択欄に合衆国とカナダしか出てこなければ、その他の国へは送らないという意味だ。メールを出しても同じ答えが返ってくる。

そのときは次の策として、州の観光局のサイトを調べるといい。そこで提供されている観光資料のキットに公式地図が含まれるか、または追加で請求できるようになっている場合があるからだ。もとより、多くの運輸局のウェブサイトではPDFファイルでも提供しているので、印刷物にこだわらなければ最新版を簡単に入手できる。参考までに、各州の公式交通地図の名称、刊行者の一覧を以下に掲げる。

*注 観光局の名称も州によりさまざまだが、州名+Tourismで検索すると必ずヒットする。

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なお、公式交通地図はカナダの各州でも作成されており、内容や請求方法も合衆国のそれに準じている。

■参考サイト
過去の公式道路地図が見られるサイト(リンク切れご容赦)
アラバマ州(インタラクティブ画像)
http://alabamamaps.ua.edu/historicalmaps/stateroads/
アーカンソー州(地図PDF)
http://www.arkansashighways.com/planning_research/mapping_graphics/archived_tourist_maps/archived_tourist_maps.aspx
ジョージア州(地図PDF)
http://www.dot.ga.gov/informationcenter/maps/Pages/StateMaps.aspx
イリノイ州(インタラクティブ画像)
http://www.idaillinois.org/cdm/landingpage/collection/isl9
ミシシッピ州(地図PDF)
http://sp.mdot.ms.gov/Office of Highways/Planning/Maps/State Highway Maps Archive/Forms/AllItems.aspx
ミズーリ州(地図PDF)
http://www.modot.org/historicmaps/
ネバダ州(地図PDF)
http://www.nevadadot.com/Traveler_Info/Maps/HistoricalMaps.aspx
ペンシルベニア州(主として表紙画像)
http://www.pahighways.com/oshm.html
http://www.mapsofpa.com/roadstate.htm
ワシントン州(表紙画像と地図PDF)
http://www.wsdot.wa.gov/Publications/HighwayMap/FeatureMaps.htm
カナダ アルバータ州(表紙画像)
http://www.altaroads.ca/

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2013年6月 8日 (土)

アメリカ合衆国の道路地図-カッパ・マップ、AAA他

前回紹介したランド・マクナリー社以外にも、多くの出版社がアメリカ合衆国の道路地図を手掛けている。アメリカン・マップ社などの流れを汲むカッパ・マップ・グループ、AAAの略称で知られるアメリカ自動車協会、科学雑誌のブランドで知られるナショナル・ジオグラフィックなどだ。本国以外でもイギリスのAA出版社 AA Publishing、フランスのミシュラン Michelin などが刊行しているが、ここでは国産3社の、主として道路地図帳について紹介したい。いずれも、アメリカ合衆国とカナダの州別地図にメキシコの小縮尺図を加えた北米道路地図帳だ。

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カッパ・マップ
「最も読み易い」北米道路地図帳
2013年版表紙

合従連衡を繰り返して今や地図出版の最大手に躍り出たカッパ・マップ・グループ Kappa Map Group だが、そのカタログには数多くの道路地図帳が載っている。カッパの名はギリシャ文字に由来するが、地図出版界での知名度はまだ低い。それもそのはずで、1955年創立以来、雑誌出版社だった同社が地図出版の買収を活発化させたのは、2007年以降だからだ。

この年まず、ユニヴァーサル・マップ・エンタープライズ Universal Map Enterprise を傘下に収めた。2010年にはテキサス州拠点のマプスコ Mapsco を買収、さらにランゲンシャイト出版グループ Langenscheidt Publishing Group から、傘下のアメリカン・マップ American Map、ハモンド・マップ Hammond Map 等を買収した。印刷地図事業がデジタル地図に圧迫されるなか、カッパは、各社が持つリソースを糾合することで競争力を高める戦略をとった。地域別地図帳や市街図などは、表紙のスタイルをグループ全体で統一しながらも、通りの良い旧ブランドを名乗り続けているが、ユニヴァーサル・マップの名を残していた北米道路地図帳は、2011年からカッパ・マップのブランドへ切替えを行った。

この中でフラグシップに位置付けられているのは、「北米デラックス道路地図帳 North America Deluxe Road Atlas」だ。ランド・マクナリーなら黄表紙の道路地図帳(下注)に相当する。横27.6×縦35.6cmの大判、週刊誌と同じ中綴じ式で144ページ。そのほか、次のようなバリエーションがある。地図を3割拡大した「最も読み易い拡大版 Easiest to Read Large Print Road Atlas」は、判型はデラックスと同じでスパイラル綴じ、280ページ。判型を小ぶりにした「中判 Mid-Size Road Atlas」は中綴じ、64ページ。その地図を30%拡大した「大縮尺版 Large Print Road Atlas」は大判、スパイラル綴じ、96ページ。

*注 ランド・マクナリー社の道路地図については、本ブログ「アメリカ合衆国の道路地図-ランド・マクナリー社」参照。

デラックス版をマクナリーの黄表紙と比べてみると、州別図を見開き2ページに展開する基本構成は変わらない。大きく違うのは、ページの余白には、市街図ではなく地名索引が優先的に配置されていることだ。索引を巻末にまとめていないので、探したい地名が地図のどこに描かれているかがすぐに検索できる。これが、マクナリーに対抗するセールスポイントだ。ただし、掲載スペースを捻出するために、市街図の掲載数がより少なくなる、あるいはメインの州別図が若干小さく、つまり小縮尺になってしまうのはやむを得ない。一方、道路、公園・保護区、都市域などの地図表現は似たり寄ったりだが、地名の書体や地方道の色分けなどでは、マクナリーのほうがいくらか見易く感じる。

■参考サイト
カッパ・マップ・グループ https://www.kappamapgroup.com/

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AAA道路地図帳 2013年版表紙

日本のJAF(日本自動車連盟)に相当するアメリカ自動車協会 American Automobile Associationにも、独自の道路地図帳がある。AAA(トリプルAと読む)の略称で知られる協会は、合衆国各地で運営されている51の自動車クラブ motor club の連合体だ。1902年の設立からまもない1905年に1枚ものの道路地図を提供し始め、1985年には、今も続く北米道路地図帳の刊行を開始している。

現在、地図帳は2種類あり、標準版の「AAA道路地図帳 AAA Road Atlas」と拡大版の「AAA読み易い道路地図帳 AAA Easy Reading Road Atlas」だ。標準版は中綴じ、144ページ。上記マクナリーの黄表紙やカッパのデラックス版と同じタイプで、地名索引はやはり地図と同じページに配される。カッパに比べて文字サイズがやや大きいので読取りはしやすい。地図表現もカッパに似ている。黒塗りの箱に白抜き数字を入れた高速道路の出口番号が目立ち、図の印象を重くしているが、肯定的に言えば、識別性が高いということになる。当然のことながら、市街図にはAAAのステーションの位置が示されていて、会員にとっては便利だ。

拡大版「読み易い」のほうは中綴じ、104ページ。標準版より4割拡大する代わりに、市街図などは標準版300点に対して50点にとどめている。これによって、全体のページ数は4割減となり、むしろ軽装版といった印象だ。

■参考サイト
アメリカ自動車協会AAA  http://www.aaa.com/
 日本から閲覧すると国際版のページが表示される。

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ナショナル・ジオグラフィック
道路地図帳アドベンチャー版
2012年版表紙

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ナショナル・ジオグラフィック
道路地図サンプル
(同地図帳裏表紙より)

ナショナル・ジオグラフィック協会 National Geographic Society の商業地図部門といえば旅行地図が主だが、1点だけ北米道路地図帳、正確には「ナショナル・ジオグラフィック道路地図帳アドベンチャー版 National Geographic Road Atlas Adventure Edition」がある。スパイラル綴じ、168ページ。筆者の手元にあるものは2012年のコピーライトが記載されているが、表紙で強調していないところから察すると、毎年新版を出すつもりはないのだろう。

タイトルにあるアドベンチャー版というのは、各種野外活動の情報が盛り込まれているという意味だ。冒頭に、1999~2009年の間刊行されていた雑誌「ナショナル・ジオグラフィック・アドベンチャー National Geographic Adventure」の編集者が選ぶ全米の優良野外活動適地100か所の簡潔な紹介記事があり、次いで全米の国立公園に関する地図と紹介文がある。20数ページを費やすこの巻頭記事が、地図帳の最大の特色だ。

その後に続く道路地図は州別地図で、デザインはマクナリーに似ている。これは協会の独自編集ではなく、アンテナ・オーディオ社 Antenna Audio, Inc から供給を受けたものだ(下注)。ここでも野外活動の目的地となる名所その他のスポット(地図帳の表現では point of interest)の記載が多数見られる。地名索引は巻末にまとめているので、その分、市街図や国立公園図などの挿図も豊富だ。市街を表す塗色には協会のシンボルカラーである黄色が充てられている。また、州別地図の背景には地勢を表すぼかしが控えめに付加され、この点でも他の道路地図帳と一線を画している。

*注 ミシュランの全米道路地図帳もアンテナ・オーディオ社から供給を受けているので、記載内容は協会とほぼ同一だ。ただし、ミシュランの場合は州別地図ではなく、経緯度で区分している。

■参考サイト
ナショナル・ジオグラフィック・マップスのページ  http://www.natgeomaps.com/

以上、商業出版による北米道路地図帳を見てきた。スタイルで端的に分類すると、ランド・マクナリーとナショナル・ジオグラフィックはモダン派、カッパとAAAは伝統派になろう。前者はフォントや彩色などが洗練されており、市街図や公園図も豊富に盛り込まれている。一方、伝統派は、1枚もののレイアウトを踏襲して、地図と索引が同一ページに配置されている点がメリットだ。情報量については、取り立てて言うほどの優劣はないように思う。

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2013年5月 3日 (金)

アメリカ合衆国の道路地図-ランド・マクナリー社

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ランド・マクナリー道路地図帳
2014年版

ドライバーを対象にした道路地図が初めてアメリカで現れたのは1898年だという。しかし当時、自動車はまだ富裕層の持ち物だった。20世紀に入ると、大量生産で価格の下がったT型フォードが爆発的に売れ、それを契機として大衆車の時代が訪れる。1910年代には、石油会社が需要喚起の策として、ガソリンスタンドで折り畳み式の道路地図を無料配布し始めた。アメリカの道路地図は、こうして瞬く間に広まっていった。

この種の地図の代名詞的存在となっているのが、ランド・マクナリー Rand McNally 社だ。1868年にシカゴで創業した同社は、はじめ鉄道に関わる印刷と出版を手掛け、次いで商業や教育の分野に進出した。鉄道地図や地球儀、世界地図帳、さらに地理の教科書を製作し、地図出版社としての地歩を固めていった。同社最初の道路地図は1904年、ニューヨークとその近郊の道路網を主題にしたものだった。

1920年、同社はガルフ石油 Gulf Oil から委託を受けて、配布用の道路地図の作成を開始した。1924年には、48州(下注)の道路地図を1冊にまとめた「ランド・マクナリー自動車の友 Rand McNally Auto Chum」を刊行している。掲載された地図は手描きで、紺(ダークブルー)と赤の簡素な2色刷り、まだ地名索引もなかった。1926年からタイトルが変わり、今も通用する「ランド・マクナリー自動車道路地図帳 Rand McNally Auto Road Atlas」になった。

*注 1924年時点では、アラスカとハワイは準州 Territory で、収録範囲外だった。

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グーシェイの
ミズーリ州道路地図

ガソリンで走る車の急速な普及は、道路網の整備も促していった。ナンバー付きのUSハイウェーを骨格とする合衆国の道路体系は、この20年代に構築されたものだ。いきおい道路地図の需要も高まって、地図製作に携わる会社が大小乱立した。30年代からは、ランド・マクナリーと並んで、H・M・グーシェイ H.M.Goosha、ジェネラル・ドラフティング General Drafting が覇を競い、人々はこれらを地図業界のビッグスリーと呼んだ。

しかし、この中で今も残っているのはランド・マクナリーだけになっている。ライバルが火花を散らしていたのは70年代までで、オイルショックをきっかけに石油会社や自動車クラブの地図配布が削減されるとともに、安定的な収入源を失った地図会社の経営は悪化していく。カーナビの興隆を待つことなく、他の2社は、90年代で歴史を閉じてしまった(下注)。実はランド・マクナリー社も2003年に倒産して、資本は入れ替わっているのだが、知名度の高いブランド自体は継続している。

*注 グーシェイ社は1996年にランド・マクナリーに買収され、ジェネラル・ドラフティング社は1992年にアメリカン・マップ社(現カッパ・マップ・グループ Kappa Map Group)に吸収されて消滅した。

グード世界地図帳 Goode's World Atlas のような教育分野の書籍も刊行しているとはいえ、ランド・マクナリー社の主力製品は、やはり道路地図だ。大別すると、大判用紙を折り畳んだ1枚ものと、地図帳形式に綴じたものがある(下注)。

*注 地図業界の競争領域はとうにデジタル地図に移っているが、その紹介は筆者の手に余る。現況は同社サイト等でお調べいただきたい。

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1枚もの州別地図
(左)ニューヨーク州 Easy to Read!版
(中)同 Easy to Fold!版
(右)地域別道路地図 サンフランシスコ・ベイエリア

1枚ものはさらにいくつかに分類できる。まず、1~2州を1面に収めた州別地図 State Mapシリーズでは、赤表紙の「Easy to Read!(読み易い)」と紺表紙の「Easy to Fold!(畳み易い)」が併存する。

「読み易い」版は、地図が拡大されていて、文字も大きい。余白には主要都市の市街図や代表的観光地の拡大図も多数掲載されている。その代り、用紙が大判になるため、何重にも折り畳まれ、携行する場合は少々扱いにくい。一方、「畳み易い」版は、縦2つ折り、横4つ折り程度で収まるコンパクトな用紙で、かつコーティング加工してあるので畳み易く、拡げ易い。しかし、文字は小さくなり、地図も州全体図が中心だ。ただし、すべての州でこの2種類が揃っているわけではないようだ。

1枚ものには、ほかに緑の表紙のシリーズもある。これは、都市域、旅行適地など需要の見込める特定地域の拡大版だ(右上写真の右側がその例)。州別地図についている拡大図のレベルでは描ききれない細部の街路との位置関係、主要施設の位置などが把握できる。州別地図よりはるかに現地感覚に沿った縮尺なので、調べたい地域が絞れる場合は選ぶ価値がある。

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Easy to Read!版表紙の地図部分を拡大

次に地図帳だが、これも数種類刊行されていて、1枚ものと同様、判型や地図の縮尺、それに綴じ方などが異なる。

その中で代表とみなせるのが、黄表紙の「ランド・マクナリー道路地図帳 Rand McNally Road Atlas」だ(冒頭の写真)。中綴じ式で、判型はA3に近い27.6×39cm という大判だが、後発組の他社もこれを踏襲したので、アメリカの道路地図帳の標準様式になった。いうまでもなく同社の看板商品で、同社のサイトには90周年を祝う記念ページが上がっている。

■参考サイト
ランド・マクナリー社-道路地図帳90周年版
http://www.randmcnally.com/pages/anniversary

2014年版は144ページ、合衆国とカナダの州別道路地図をメインに、主要市街図、国立公園図、それにメキシコの全図も収録している。州別地図は地理的位置に関わらずアルファベット順に並べられ、多くは見開き2ページを使って展開される。ページの余白には各州の基礎データ、観光局連絡先、都市間距離表、それに旅行情報の詳細にリンクするマイクロソフトタグがつく。もちろん巻末には、地名索引が付随している。必要な情報を網羅した過不足のない編集で、アメリカの代表的地図帳というにふさわしい。

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大縮尺道路地図帳 2014年版

同じ判型でも「大縮尺道路地図帳 Large Scale Road Atlas」は、スパイラル綴じで264ページと、同社の地図帳では最もボリュームがある。タイトルのとおり、地図を上記地図帳より35%拡大して、読み取り易くしたのが特徴だ。当然、州別地図は見開き2ページに収まらないので適宜分割し、市街図なども再配置されている。ただ大縮尺になっても、記載内容にほとんど差はない。また、この版のみカナダ、メキシコの図は省かれている。

大判の地図帳にはもう1種、「モーターキャリア用道路地図帳 Motor Carriers' Road Atlas」がある。これは大型のトラックやバスの運転に特化した版で、州指定トラックルート、危険物規制データ、21ページに及ぶ都市間距離表などが盛り込まれたものだ。

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(左)中判道路地図帳 (右)読み易い中判道路地図帳 いずれも2014年版

さて、以上の大判タイプに対して、A4に近い21.6×26.7cm(8.5×10.5インチ)の地図帳も刊行されている。標準形は緑表紙の「中判道路地図帳 Midsize Road Atlas」で、中綴じ96ページの、携行に手ごろな冊子だ。合衆国とカナダの州別道路地図を完備しているものの、大判地図帳と見比べると縮尺は小さく、情報量も絞られる。市街図の数は1/4程度に減り、実用性の点では大判図にかなわない。「読み易い中判道路地図帳 Easy-to-Read Midsize Road Atlas」はその大縮尺版で、スパイラル綴じ、160ページある。

このように、種類が多いため選択には迷うところだが、行動範囲が1つの州に限られるなら1枚ものの州別地図で十分だ。広域に移動するなら、まずは黄表紙の「ランド・マクナリー道路地図帳 Rand McNally Road Atlas」に当たるといい。

アメリカの道路地図の特徴の一つは、多くの場合、地勢表現、すなわち土地の起伏を表すぼかし(陰影)、等高線、段彩を省いていることだ(下注)。3次元的情報がないこの種の地図を、プラニメトリックマップ(平面図)と称している。製図や印刷の技術が伴わなかった道路地図の創生期ならいざしらず、汎用の地勢データが提供されている現代でも使わないのだから、これはデザイン上の方針なのだろう。

*注 地勢表現が全く無視されているのではなく、ランド・マクナリーでも国立公園図にはぼかしが使われている。また、州政府作成の公式道路地図には、地勢表現を付したものも少なくない。

道路地図はいうまでもなく、道路網や区間距離など、自動車を走らせるために必要な情報を記した地図だ。テーマと直接関係のない描写を略すのは、図面の錯雑さを回避する意味で妥当性がある。さらにランド・マクナリーの道路地図では、それを補うように、国立公園や国有林、自然保護区などの範囲に緑のアミをかぶせ、景勝ルートにはトーマス・クックの鉄道地図のような緑の点線を添える。地勢を見せるより、旅行者にはこのほうが実用的だ。

加えて、赤色の実線を効果的に用いる道路網の配色や、識別性の高い文字書体の組合せなど、細部まで研究の跡が窺える。こうした読取りの容易さと、利用者のニーズを受け止める豊富な情報量。類書があまた並ぶ中でランド・マクナリーの道路地図が長年にわたり支持されてきた理由は、このあたりにあるのではないだろうか。

ランド・マクナリーの地図は、日本のアマゾンや紀伊國屋BookWebなどでも扱っているので、入手は容易だ。地図帳のeブック(電子書籍)版も用意されている。

■参考サイト
ランド・マクナリー社 http://www.randmcnally.com/
同社道路地図のページ  http://www.randmcnally.com/product/road-atlas
 各版の仕様比較がある
同社オンライン道路地図 http://maps.randmcnally.com/
 同社オリジナルのウェブ地図。ペーパー版とは配色などが異なるが、やはり地勢表現はない。

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 カナダの道路地図

2013年4月 5日 (金)

アメリカ合衆国の地形図-新シリーズ「USトポ」

アメリカ合衆国の新しい地形図は、「US Topo(以下、USトポと表記)」という愛称で呼ばれる。トポは、トポグラフィック(マップ) Topographic (map) で、地形図を意味する。2008年に旧来の地形図の更新作業が廃止されたが、その後、約3年の製作期間を経て、2012年10月に本土48州をカバーするUSトポが完成を見た。引き続き、2013年中にアラスカ州、ハワイ州と、海外領土であるプエルトリコ Puerto Rico の製作が進められることになっている。

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USトポ 1:24,000 ワシントン西部 2011年版
前回掲載の旧版地形図画像と縮尺を合わせるため137%に拡大
この版では構造物および地表面レイヤーは未装備

USトポの一部を掲げた(上写真)。縮尺は1:24,000(下注)、1面の図郭は緯度、経度とも7分30秒と、旧来の枠に準じて展開されているものの、見慣れたこれまでの地形図とは全く趣きが異なる。ベースになっているのは、空中から地上を撮影した写真だ。正確にはオルソイメージ(正射画像)といい、撮影時のカメラの傾きや地表の高度差によって写真に生じるひずみを補正してある。その上に、等高線や道路など別途作成されたデータを重ねて生成したのが、この地図だ。

*注 1:24,000を優先的に整備するため、その他の縮尺図の作成については、見通しが示されていない。

こうした写真地図は決して珍しいものではなく、デジタル化以前から作成されていた。地形図は、縮尺に応じて描く対象を取捨選択し、記号化、総描という編集過程を経ることによって読み易さを実現する。そのため、重要度が低いと判断されて描かれないものや、総描でひとまとめにされてしまうものが出てくる。一方、オルソイメージは位置補正を施す以外、ありのままの地表の様子が捉えられているが、土地の高度や地名、建物の機能(たとえば郵便局なのか警察署なのか)など上空から写せないものは表現しようがない。写真地図は、二者を合体しておのおのの欠点を補完することを目論むものだ。

しかし、USトポは、印刷物が前提の写真地図とも異なり、デジタル化の時代らしい特徴を備えている。その一つが、データを複数のレイヤー(層)に分けているという点だ。そのため、画面上で、各レイヤーの表示と非表示を自由に切替えることができる。オルソイメージを非表示にすれば見た目は地形図になり、逆に地形図の要素をすべて非表示にすれば空中写真として使える。

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USトポ 1:24,000 サンフランシスコ北部 2012年版
(上)全レイヤー表示 (下)画像レイヤー非表示

現在のレイヤーの種類は、階層順に以下の通りだ。

「図枠外の記述 Map Collar」
 図名、図歴・図法等、凡例、縮尺など、いわゆる整飾事項のレイヤー。

「図枠内の記述 Map Frame」
 これはさらに以下のレイヤーから構成されている。
-「投影法とグリッド Projection and Grids」 UTM座標値、地理座標値、UTMグリッド線を含む。
-「地名 Geographic Names」 居住地名、自然地名を含む。これらは、USGSが地名委員会 U.S. Board on Geographic Names (BGN) と共同開発した地名情報システム Geographic Names Information System (GNIS) に定義された標準地名。なお、街路名はここではなく、交通レイヤーにある。
-「構造物 Structures」 現在は、消防署(赤四角にFの文字)、病院(青四角にHの文字)に限られる。
-「境界 Boundaries」 行政界(国・州・郡)と名称、自然保護区界と名称を含む。
-「交通 Transportation」 道路と道路番号・街路名、空港(滑走路)とその名称、フェリー航路を含む。道路は、インターステート、連邦道、州道、地方道、森林局U.S. Forest Service所管の道路、4WD道路(四輪駆動など車高の高い車しか通れない)などに細かく分類されている。残念ながら鉄道は対象外。
-「水系 Hydrography」 河川、湖沼、海洋のほか、これらに関係する堰堤、水門、閘門、滝、早瀬、隠顕岩、湧水、運河、パイプラインなどを含む。
-「等高線 Contours」 10~20フィート間隔の等高線。全国高度データセット National Elevation Dataset (NED) から取られているため、旧来の地形図の等高線とは異なる。
-「地表面 Land Cover」 全国地表面データベース National Land Cover Database (NLCD) に拠る。現在は森林のみ、緑のハーフトーンで表示。

「画像 Images」
 最下層にあるオルソイメージのレイヤー。農務省の全国農業画像プログラム National Agriculture Imagery Program (NAIP) を使用しており、解像度(1ピクセル当り)は1mから1フィート(0.3m)かそれより高いとされる。

USGSは、連邦、州、地方の各行政機関と連携して地理的基礎情報のデータベースを構築しており、「ナショナル・マップ(国勢地図)National Map」と称してウェブ上で公開している(下注)。ここには全国規模のシームレスで一貫性のあるデータが集積されていて、自由に取り出して利用できるようになっている。すでに2000年の段階でUSGSは、旧来の地形図更新事業を段階的に縮小して、このデータベースで代替していくと表明していたが、地形図の持つ総合性や記録性を端から否定するつもりはなかったようだ。

*注 ナショナル・マップ・ビューアー National map Viewer
http://viewer.nationalmap.gov/

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USトポの地図記号(一部)

従来の地形図のルック・アンド・フィール(見た目と使い勝手)を保ちながら、ナショナル・マップから得られる最良のデータを組合せて新世代のデジタル地形図を作る。USトポはこのビジョンのもとに作られている。実は、オルソイメージの上に従来の地図記号を単純に載せると、可読性に問題が生じる。写真に無秩序に写り込んだ地物の中に、地図記号が紛れ込んでしまうのだ。USGSは、その問題の解決のためにペンシルベニア州立大学と共同研究を行い、地図デザインの改良に取組んだ。その成果が、新しい地図記号の形状や配色に生かされている。

アドビ社のPDFを拡張した地理参照型PDF (GeoPDF) という形式で配布されているのも特徴だ。ユーザーズガイドには、無償の専用ツールを使うことで、座標値の決定、地点間の距離や角度、面積の測定、GPS端末との連携などが容易になると書かれているが、閲覧だけなら、通常のアドビリーダーでも全く支障はない。

USトポは3年周期で更新される予定になっている。これは、オルソイメージが農務省の全国農業画像プログラム National Agriculture Imagery Program (NAIP) から提供されていて、その更新周期に合せているためだ。しかし、57,000面といわれる膨大な数をわずか3年で一巡させるには、単純計算でも1日50面以上の恐るべき量産化が要求される。手作業の多い旧来の地形図とは違い、地図1面の生成に費やす対話作業は、せいぜいテキスト配置と最終検査程度だという。ナショナル・マップという既存の統合データベースを最大限利用しているからこそ可能な計画だ。

さて、画期的な次世代地形図は、当初のビジョンどおりの仕上がりになっているだろうか。地形図として見た場合、不十分な点は多々ある。構造物レイヤーの情報量が貧弱で、教会や学校のような基本的施設すら表示されていない。交通レイヤーでは鉄道や駅の表示がない。地表面レイヤーでは植生表示が森林のみで、詳細はオルソイメージを解読するしかない。等高線レイヤーでは、精度が低い(甘い)ため道路の屈曲に適応していない。また、かなり拡大しないと主曲線と計曲線の区別がつかない、標高点の記載がない等々。

USGSの資料によれば、地勢を三次元的に表現するぼかし(陰影)を含めて、今後、データやレイヤーの追加が検討されている。つまりUSトポはこれが最終形ではなく、まだ開発途上ということらしい。旧来の地形図のルック・アンド・フィールにできるだけ近づくように、さらなる情報充実と品質改良を期待したいものだ。

USトポは、USGSのサイトにあるナショナル・マップ・ビューアー National Map Viewer か、USGSストア(USGS地形図の閲覧・購入サイト)からダウンロードできる。

Map images courtesy of the U.S. Geological Survey.

■参考サイト
合衆国地質調査所USGS http://www.usgs.gov/
ナショナル・マップ(国勢地図) http://nationalmap.gov/

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 アメリカ合衆国の地形図-廃止された旧体系 I
 アメリカ合衆国の地形図-廃止された旧体系 II

2013年3月24日 (日)

アメリカ合衆国の地形図-廃止された旧体系 II

今回は、2008年以前のUSGSの地形図体系を縮尺別に見ていこう。

1:1,000,000(100万分の1)
いわゆる国際図(IMW)図式によるシリーズだが、陸軍地図局AMSのクレジットが入った1950年代の編集図(変更多円錐図法 Modified Polyconic Projection による)と、1962年の国連技術会議の決定を受けたUSGS製作のシリーズ(ランベルト正角円錐図法 Lambert conformal Conic Projection による)の2系統があり、図郭によっては併存する。本来ならUSGS版で置換えを完了すべきところ、予定面数の半分にも達しないうちに事業が中止されてしまったからだ。そのため、最も新しいものでも1979年の編集で、資料としてはいささか古びている。しかし、州を越えた100km単位の広域で地勢、鉄道網などを概観したいときには、今でも役に立つ。

緯度4度、経度6度の図郭で、地勢表現は等高線と段彩による。高度表示は日本人にとって扱い慣れたメートル法のため、読図に抵抗がない。国際図については、下記サイトで、合衆国エリアを含む世界各地の地図画像が公開されている。

■参考サイト
ペリー・カスタネダ図書館地図コレクション > 国際図
http://www.lib.utexas.edu/maps/imw/

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1:1,000,000 カスケード山脈 1951年版

1:500,000
州別地図 State map の形式をとっているので、州域全体をある程度詳しく見たいときに適した地図だ。1州1面が原則だが、州の面積は、最小のロードアイランド州と最大の(アラスカは別として)テキサス州で170倍以上の開きがある。そのため、ニューハンプシャーとバーモント、コネチカット(下注)とマサチューセッツとロードアイランド、デラウェアとメリーランドはそれぞれ複数州で1面となる一方、カリフォルニア、ミシガン、モンタナの各州は2面に、テキサス州は4面に分割されている。

*注 コネチカット州の州別地図は、1:125,000の単独版もカタログに掲載されている。

用紙サイズもかなり大きいものがあり、例えばカリフォルニア州は北部版、南部版とも54×44インチ(137×112cm)と、平図のままでは取扱いに苦労する。

州別地図には、3つの異なる版が存在した(必ずしも全ての州で3つの版が揃っているわけではない)。1つ目は「基本図 Base map」で、交通網、水部、居住地、行政界、公有地界など地図の基本項目は網羅しているが、等高線は省かれている。2つ目は「地形図 Topographic map」で、「基本図」に等高線が入る。3つ目は「ぼかし地図 Shaded-relief map」で、「地形図」にさらに地勢を表すぼかし(陰影)が加わる。日本の1:200,000地勢図に似た仕様だが、多くの場合、ぼかしは濃いめにかけられ、立体感が強調されている。なお、どの版も州の外側はほぼ完全に白紙で、道路や河川が州境を越えるとどの方向へ進んでいくのかはわからない。

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1:500,000 カリフォルニア州南部 「地形図」 1981年版
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1:500,000 コロラド州 「ぼかし地図」 1980年版

なお、州別地図については、1:1,000,000(100万分の1)バージョンも一部の州、一部の版で刊行されていた。また、アラスカの州別地図には1:500,000がなく、カタログに掲載されているのは1:1,584,000(158万4千分の1)、1:2,500,000(250万分の1)、1:5,000,000(500万分の1)、1:12,000,000(1200万分の1)などだ。

1:250,000からは、図郭の経緯度幅を用いた独特の名称がある。1:250,000は"1x2 (one by two) degree map"といい、緯度1度、経度2度の範囲の図郭という意味だ。個々の図は1x2 degree quadrangle(クウォドラングルは四角形の意)とも表現する。同じように1:100,000は"30x60 minute map"、図郭は緯度30分、経度60分(=1度)になる。たまたま経緯度の区切りがそうだというだけで、縮尺との間に有意の関係はないのだが、通称としてよく見かける。

1:250,000(1×2度地図)
150km程度の幅のまとまった地域を概観することができる地形図で、合衆国本土(アラスカ州を除く)を489面でカバーする。このシリーズはUSGSのオリジナルではなく、1950年代に陸軍地図局AMSが作成した軍用地図をベースにしている。USGSがそれに適宜、経年変化の修正を加えてきた。

出自の違いは、他の中縮尺図と異なる地図記号にも表れている。合衆国の地図では、鉄道は概して不遇で、省かれるか、そうでなくても消え入りそうな細線で描かれることが多いが、ここでは太めの目立つ実線だ。また、市街地には他で使われない黄色のベタ塗りが配され、図面上のアクセントになっていた(改訂図式では色数が減らされたため灰色のアミとなり、効果は薄れた)。

地勢表現は原則として等高線のみによるが、初期の図にはぼかし(陰影)を加えたものも散見される。等高線間隔や高度表示はフィート単位で、距離もマイルで示される。カタログでも図上1インチが実長約4マイルと記されていて、実用上は1/4インチ地図 Quarter-inch Map(分数化すると1:253,433)と同等に扱われているようだ。従来は平図で頒布されていたが、近年の刊行図は折図仕様で、表紙の色は等高線の茶色を用いる。

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1:250,000 サンフランシスコ 1956年版
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1:250,000 カンザスシティ(ぼかし付加) 1954年版

なお、ハワイ州の1:250,000は、島の位置に合わせた特別図郭で4面ある。また、アラスカ州では、アラスカ探査シリーズ Alaska reconnaissance series と呼ばれる旧版が153面で本土と付属島嶼をカバーしていたが、より精度を高めた新シリーズへ置換えが順次実施された。

下記サイトで、合衆国全土の1:250,000の地図画像を見ることができる。ページ最上段にある索引図で図名を検索するとよい。

■参考サイト
ペリー・カスタネダ図書館地図コレクション>合衆国地形図1:250,000
http://www.lib.utexas.edu/maps/topo/250k/

1:100,000(30×60分地図)
緯度30分、経度60分(=1度)の図郭をもつ地形図で、1面で東西80km、南北50km程度の範囲をカバーする。かつて中縮尺図として1:125,000(下注)が作られていたが、第二次大戦後、1:24,000から新たに編集されたこのシリーズに置換えられた。旧図に比べて図郭は、東西方向が2倍に拡大されている。

*注 1:250,000を2倍に拡大した縮尺。図上1インチが実長2マイルを表す1/2インチ地図 Half-inch Map とほぼ同等。

比較的新しい設計のため、等高線間隔、高度表示ともメートル法に統一され、図上1cmが実長1kmという切りの良さと相まって、使い易いものに仕上がっている。地勢表現は、等高線のみの簡潔なスタイルで、表紙の色は水色だ。一部の図葉では等高線を省いたプラニメトリック(平面図)版 Planimetric edition も用意されていた。

なお、この地形図をベースにして、土地管理局 Bureau of Land Management は、国有地などの範囲を加刷した土地管理区分図 Surface Management Status および表層鉱物管理区分図 Surface Minerals Management Status を製作している。これは主として西部各州をカバーする。

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1:100,000 カンバーランド 1981年版

1:62,500または1:63,360(15分地図)
緯度15分、経度15分の図郭のため、15分地図 15 minute map と称する。本土48州とハワイ州では縮尺1:62 500で作成された。これは1:125,000を2倍に拡大した縮尺で、図上1インチが実長でおよそ1マイルとなる。東部では19世紀から着手されていたが、全国をカバーすべく本格的に製作が始まったのは1910年とされ、それ以来1950年代まで、合衆国の基本地形図に位置付けられていた。比較的遅い時期まで残っていたので、目にする機会は多い。ハワイ州では、最大のハワイ島を除き、1島を1面に収めた図郭拡大版が作成されている。

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1:62,500 ジョージタウン 1903年版

一方、アラスカ州では、本来の1インチ地図(図上1インチが実長1マイル)である1:63,360で作成された。2008年のカタログでは、州域2920面のうち97%が製作済とされている。いずれも等高線間隔、高度表示はフィート単位だ。

これら15分地図の作成・更新は、アラスカ州を除いて、より大縮尺の1:24,000に主役の座を譲る形で廃止された。そのため、合衆国は、先進国では縮尺1:50,000かそれと同等の区分地形図を維持していない唯一の国となっていた(下注)。

*注 ただし、各郡域を描く郡別地図 County Map の多くは、旧版1:62,500から編集された1:50,000地形図だ。

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アラスカ州1:63,360 スワードD-5 1952年版

1:24,000(7.5分地図)
緯度、経度とも7分30秒の図郭をもつこのシリーズの普及で、アラスカ州を除くと、これが合衆国の基本地形図になった。いうまでもなく最大の地形図シリーズで、1947年から鋭意製作が進み、本土48州については1991年に整備が完了した。オンラインカタログによると、面数は48州とハワイ州、海外領土 U.S. Territories を合わせて約57,000面あるとされる。ちなみに、日本の1:25,000地形図は全部で4,372面(2013年3月現在)だ。1面の大きさが日本の2倍以上あり、さらに面数が約13倍だから、全体のボリュームは想像を超えている。

なお、アラスカ州は、先述のとおり1:63,360が基本地形図とされているが、アンカレジ Anchorage、フェアバンクス Fairbanks、プルードー湾 Prudhoe Bay 周辺で1:25,000が作成されている。

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1:24,000 ワシントン西部 1956年版(再掲)
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1:24,000 ワシントン西部 1983年改訂版
改訂個所はマゼンタで加刷されている

1960年代後半からは並行して改訂作業も始まったが、予算上の制約により、各原版に手を入れる全面改訂ではなく、主として、変化した個所をマゼンタ(赤紫色)で加刷する方式(訂補 minor revision あるいは基本修正 basic revision)が採られた。修正は空中写真や行政資料に基づくもので、現地調査はしていないという断り書きも見られる。

これとは別に、農務省森林局 U.S. Forest Service が改訂を加えた版(刊行はUSGS)も流通している。そこでは、国有林 National Forest 内にある山道の状態や道路番号、管轄地の分布といった情報が付加されている。

ところで、ふつうなら1:25,000とすべきところを、なぜ1:24,000という半端な縮尺にしているのだろうか。それはこの地形図が、図上1インチで実長2000フィート(=24000インチ)を表すという、純然たるヤード・ポンド法で描かれているためだ。当然、等高線間隔や高度の表示もフィート単位になる。イギリス、アイルランド、ニュージーランドなどもかつて地形図にヤード・ポンド法を用いていたが、とうにメートル法への切替えを完了している。それに比べて合衆国の場合、測地測量の単位がフィート(測量フィート)のままという理由もあるようだが、地形図体系は混乱気味だ。

むろんUSGSも状態を放置していたわけではなく、縮尺を1:25,000に変え、高度もメートル法表示にした新版の刊行に着手していた(下注)。このバージョンは、図郭を東西方向で2倍(経度15分)に拡大し、7.5×15分地図と称した。薄緑色の表紙もつけて、先述の1:250,000や1:100,000と仕様を共通化しようとしていたのだ(下図参照)。しかし、予算不足で更新は遅々として進まず、結局、新しいデジタル地図(次回詳述)では、図郭も縮尺も単位系も、多数派である旧来のものを採用せざるを得なかった。メートル法への統一は、当面おあずけの状況だ。

*注 ただし、等高線は描き直さず、等高線間隔10フィートは3mに、20フィートは6mに換算表示していた。

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1:25,000 ボストン南部 1987年版

ここまでがUSGS地形図の旧体系の概要だが、新体系ではこれがどのように整理され、変貌したのだろうか。次回はその内容を見ていきたい。

Map images courtesy of the U.S. Geological Survey.

■参考サイト
合衆国地質調査所 USGS http://www.usgs.gov/
ナショナル・マップ(国勢地図) http://nationalmap.gov/

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 アメリカ合衆国の地形図-廃止された旧体系 I
 アメリカ合衆国の地形図-新シリーズ「USトポ」

 ペリー・カスタネダ図書館地図コレクション
 アメリカ合衆国の州別地図帳-ナショナル・ジオグラフィック
 カナダの地形図

2013年3月23日 (土)

アメリカ合衆国の地形図-廃止された旧体系 I

1884年12月5日、アメリカ合衆国地質調査所 U.S. Geological Survey(以下、USGSという)の第2代所長ジョン・ウェズレー・パウエル John Wesley Powell は、連邦議会で次のように証言した。「この国に適した地形図を構築すること以上に、政府は、人々の役に立ついかなる科学事業もなしえません。」 民生用地形図作成の幕開けを告げる声明だった。時は移り2009年、USGSは地図事業が始まって125年になるのを盛大に祝ったが、皮肉なことにその時すでに、パウエルの後継者たちは、地形図の改訂作業を放棄してしまっていた。伝統的な手法による地形図の維持更新は、前年の2008年をもって中止されたのだ。

印刷を前提にした地図の時代は終わり、現在は、その代替として特別なフォーマットによるデジタル地図(USトポ)が提供されている。製作過程は大きく異なるものの、図郭の踏襲を含め、従来の地形図の使い勝手をそがない配慮を払った設計が特徴だ。一方で、これまで製作されてきた膨大な数の地形図も、価値ある歴史資料として、インターネット上で大規模に公開されている。これから数回にわたり、アメリカ合衆国の変貌する地形図体系を、過去から現在へと順に紹介したい。

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1:24,000 ワシントン西部 1956年版の一部
右端にユニオン駅や国会議事堂、中央にホワイトハウス、左はポトマック川

地形図の用途には大別して軍用と民生用がある。もとをたどれば、地形図は主に軍事作戦や国土防衛のための資料として整備されたのだが、近代国家が成熟する過程で、段階的に機密が解除され、国土の開発計画や民間のさまざまな用途に供されるようになった。

USGSは1879年に創設され、それまで陸軍工兵隊と内務省が行っていた地図製作業務を引き継いだ。1917年、アメリカの第一次大戦参戦を機に、海外(特に欧州)の地形図整備のために軍用地図部門が新たに編成されていった(下注)が、USGSは内務省のもとで民生用地形図の製作部局としてとどまり、現在に至っている。

*注 このとき陸軍工兵隊に設置された工作複製部隊 Engineer Reproduction Plant (ERP) が、第二次大戦下の1941年に、戦後日本の地形図作成にも少なからぬ影響を及ぼした陸軍地図局 U.S. Army Map Service (AMS) に発展する。

2008年以前、USGSの地形図は次のような体系を持っていた。

・合衆国全図 1:10,000,000(1000万分の1、1982年版)、1:7,000,000(700万分の1、1974年版)、1:6,000,000(1974年訂補版)、1:3,168,000(1インチ50マイル図、1965年版)、1:2,500,000(1972年版)
・1:1,000,000国際図
・1:500,000州別地図
・1:250,000 (1×2度地図 1x2 degree map)

*注 以上は、USGS "Index to Small-scale Maps of the United States", April 1, 1989による。ただし、第二次大戦以前の編集図は省略した。

・1:100,000 (30×60分地図 30x60 minute map)
・1:62,500 (15分地図 15 minute map)。アラスカ州は1:63,360
・1:24,000 (7.5分地図 7.5 minute map)。一部図葉は1:25,000

USGSが築いた地図体系は、さまざまな地図カタログからも跡をたどることができる。"Catalog of Maps"(下写真) は、地図の種類をサンプル図とともに列挙したリーフレットだ。本稿の記述の多くもこれに拠っているが、地形図はもとより、USGSのもう一つの重要業務である地質調査、鉱物資源探査などに関するカラフルな地図も多数紹介されていて、たいへん興味深い。内容はUSGSのサイトにも転載され、今でも残置されているが、地図画像が粗くて詳細が読み取れないのが残念だ。

■参考サイト
USGS地図オンライン版-地形図(内容は従来地形図廃止以前の状況)
http://egsc.usgs.gov/isb/pubs/booklets/usgsmaps/usgsmaps.html

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"Catalog of Maps" 1991年8月版、表紙と内容の一部

ほかに地形図に特化したものでは、小縮尺図(合衆国全図~1:250,000)の索引図 "Index to Small-scale Maps of the United States"、中縮尺図(1:100,000、郡別地図)の索引図 "Index to Intermediate-scale Mapping"、同(7.5および15分地図)の刊行・改訂範囲の表示図 "Status of Topographic Mapping" などがある。図葉ごとに刊行年次や異版の列挙など、刊行状況が詳しく記載されている貴重な資料だ。

これらは全国版だが、州ごとの編集版も別に用意されている。「刊行図索引図 Index to Topographic and Other Map Coverage」と「刊行図カタログ Catalog of Topographic and Other Published Maps」だ。

「刊行図索引図」は、当該の州に関するすべての地形図シリーズの索引図を集めたもので、簡単な紹介記事もついている。とりわけ1:24,000地形図の索引図は、居住地名、交通網、水部が描かれた図をベースにしていて、膨大な面数から見たい図葉が簡単に特定できる優れものだ。

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州別刊行図索引図、カリフォルニア州版 (左)表紙 (右)索引図の一部

「刊行図カタログ」は、縮尺別にファイル番号、図名、刊行年、索引コードを列挙したリストを収載している。索引コードというのはUSGSの作成図に共通のコード体系で、5桁の数字で緯度(2桁)と経度(3桁)を、次の2桁でその枠内の位置を、次の1桁で地図の種別を、次の1桁で単位系(フィートまたはメートル)を、次の3桁で縮尺を表す(下写真)。地形図の表紙や整飾にも必ず記載されていたが、新しいデジタル地図では省かれてしまった。

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刊行図カタログ、カリフォルニア州版 (左)表紙 (右)刊行図リストの一部
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索引コード

これらUSGSの地形図は直販サイトまたは合衆国内の主要地図商で扱っていて、旧体系の更新が廃止された今でも、現物のストックがあればそれを、なければプリンタ出力のコピーを送ってくれる。ただし、USGSの直販サイトは国内専用のため、国外から発注するには、注文書面をFAXか郵送しなければならなかった。しかし、高精度の地図画像が製作時期の新旧を問わずPDFファイルで直接入手できるようになった今では、その手間も昔語りになったといっていい。

ウェブサイトからのダウンロードについては、稿を改めて紹介することにして、次回は、この地形図体系を個別に見ていこう。

(2006年12月8日付記事を全面改稿)

Map images courtesy of the U.S. Geological Survey.

■参考サイト
合衆国地質調査所 USGS http://www.usgs.gov/
ナショナル・マップ(国勢地図) http://nationalmap.gov/

★本ブログ内の関連記事
 アメリカ合衆国の地形図-廃止された旧体系 II
 アメリカ合衆国の地形図-新シリーズ「USトポ」

 アメリカ合衆国の州別地図帳-ナショナル・ジオグラフィック
 ペリー・カスタネダ図書館地図コレクション
 カナダの地形図

2013年3月10日 (日)

アメリカ合衆国の州別地図帳-ナショナル・ジオグラフィック

赤表紙のデローム、黒表紙のベンチマーク・マップス、この二社で占められていたアメリカの州別地図帳界に、2012年、突如三社目が現れた。モバイル機器の普及で紙地図の未来にいささかの不安を抱いていただけに、それは予想外の朗報だった。新参の名乗りを上げたのは、黄表紙をまとうナショナル・ジオグラフィック・マップス National Geographic Maps。いうまでもなく、ナショナル・ジオグラフィック協会 National Geographic Society(以下、協会という)の地図部門だ。

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シリーズの1点 ミシガン州版

同部門は1915年の創設で、アメリカ地図業界では老舗の部類に入る。協会が刊行する「ナショナル・ジオグラフィック」誌の付録地図や掲載図を通じて、ほぼ1世紀にわたり、学術地図の分野で評価を確立してきた。また、地図帳、壁掛け地図(ウォールマップ)、レクリエーション地図や旅行地図など、学校教育や一般分野でも多数の製品を送り出している。その意味でこれは、大御所の登場と言えよう。

「レクリエーション・アトラス Recreation Atlas」と名づけられた州別地図帳シリーズは、昨年(2012年)5月に五大湖周辺のミシガン州とミネソタ州の2巻が刊行されたのが最初だ。同年9月に同じくウィスコンシン州と、南部のジョージア、アラバマ、フロリダの3州が続刊され、現時点で6州6巻が入手できる。また、公式サイトの告知によれば、間もなくニューヨーク、ペンシルベニア、バージニアの東海岸3州が、ラインナップに加わるようだ(2013年3月下旬刊行予定)。刊行のペースはかなり速く、デロームの向こうを張って全国をカバーするのも時間の問題かもしれない。

地図帳の判型は横11×縦15インチ(27.9×38.1cm)、ページ数は州によって異なるものの112~144ページだ。綴じ方や用紙の質を含めて先行2社と大差なく、同じ土俵での勝負は覚悟の上のようだ。

ページ構成はどうだろうか。最初の見開きは「全米道路地図 United States Highway Map」、次が当該州の道路地図で、幹線道路と主要都市を州境とともに描いたものだ。ベンチマークのように地勢を表すぼかしも入れられ、平面的な道路地図とは一線を画している。ただ、ベンチマークではここが導入部として効果的に使われていたが、協会版はテーマとなる州を目立たせたり、詳細図の索引図を添えたりしてはおらず、単なる扉地図という位置づけにとどまる。

次は「州内の見どころ Places of Interest」の紹介で、1個所10~20行程度の概要とともにカラー写真が配され、場所のイメージを喚起する。続く「自然・気候図 Physical & Climate Maps」では、見開きに土地利用図、地形学的あるいは生態系分類図、そして州内の降水量、気温、結氷初日、紅葉期間などを表した気候分布図が多数配置される。こうした情報ページは2社の及ぶところではなく、豊富な地理データを有する組織の特色が全面に出ている。

その後は、各社とも力を注ぐレクリエーション情報のページだ。協会版も、キャンプ場、州立公園、トレール、ゴルフ場・スキー場、湖・水浴場と、一通りのリストが揃っている。見開きの左ページに場所を記した州全図、右ページに文字情報をそれぞれ配置する方法は、ベンチマークの「レクリエーション」セクションと似ているが、まとめ方には違いがある。ベンチマークが区分図に含まれる地域単位で文字情報を一括りにするのに対し、協会版は情報の項目ごとに地図を当てる。つまり、行動するエリアが決まっていて、そこでどんなレクリエーションが楽しめるかを知りたいなら前者が役に立つ。そうではなく、やりたいスポーツが決まっていて、それが州内のどこでできるかを知りたいなら後者がいい。

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区分図の例、ミシガン州版表紙より
(c) natgeomaps.com, 2013

メインである区分図の図式にも個性が滲み出る。まず縮尺だが、デロームの場合、州によってまちまちで、州境を越えての探索に戸惑いを覚えることがある。その点、協会版は今のところ1:175,000(南部3州)か1:150,000(それ以外の州)に統一されている。今後、面積や人口密度が極端に異なる州が対象になってくればこれほどスマートには行かないだろうが、縮尺はできるだけ広域で揃っているほうが好ましい。

地図記号については、道路や公有地界などの表現はデローム(新図式)と似たり寄ったりだ。そもそも、道路の配色や番号を配する図形などは、道路地図で一般的に使われる一種の約束事になっていて、変えようがない。それに協会版の図式は1枚ものの旅行地図などで早くから使われていて、2009年ごろに現れたデロームの新図式のほうが後発だ。デロームが改良に際して協会版を参照したとすれば、似ていても不思議なことではない。

注記文字では、協会版はデローム新図式よりポイントが小さめだが、字体の工夫で決して読みにくくはない。むしろデロームのほうが、集落名のポイントの大きさと比べて街路名が小さすぎるなど、バランスの点で問題がある。

一方、地勢表現は、両者で大きな差があるところだ。デロームは、メッシュ標高から生成した等高線のため、滑らかさがなく、あまりに小さな閉曲線など一部で不自然な表現が残るが、読取りに支障はない。一方の協会版は、おそらくUSGS(合衆国地質調査所)のラスタデータを利用しており、正確な代わり、縮尺に比べて等高線間隔が狭くなる(注1)。平野部はともかく、ちょっとした傾斜地でもぎっしり詰まってしまう。ぼかし(陰影)も掛っているのだが、薄すぎるのか、影の部分が等高線の集積と重なるためか、効果を発揮していない(注2)。この点ではデロームに分があるだろう。

*注1 縮尺1:175,000で等高線間隔50フィート=15m。日本の官製1:200,000の同100mはもとより、1:50,000の同20mに比べても狭い。
*注2 3月刊行のペンシルベニア州版のサンプルでは、ぼかし効果の改良が見て取れる。

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区分図の凡例(一部)

根っからの地図ファンでもない限り、同じ州の地図帳を複数揃えようとは思わない。1冊だけ選ぶとすれば、デローム、ベンチマーク、協会版のどれにすべきか迷うところだ。そのうち、ベンチマークと協会版は、現時点では前者が西部、後者は中部から東部と棲分けができていて、競合しない。そのためか、協会自身のオンラインショップで、ベンチマークの地図帳が堂々と販売されている。

問題は、デロームと協会版が両方刊行されている州だ。比較すれば上述したような差異があるほか、協会版は、各ページに配された凡例(地図記号一覧)、現在ページや接続ページの明瞭な表示など、使い易さがよく研究されている。デロームの先駆者としての功績に敬意を払いつつも、全体的なデザインの洗練度も総合的に勘案して、筆者は協会版のほうに軍配を上げたいと思う。

■参考サイト
ナショナル・ジオグラフィック・マップスのページ http://www.natgeomaps.com/
地図帳に関する情報は、トップページ左メニューの"State Recreation Atlases"

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2013年3月 1日 (金)

アメリカ合衆国の州別地図帳-ベンチマーク・マップス社

前回紹介したデローム社の州別地図帳は、全米をカバーする唯一のシリーズなのだが、ロッキー山脈から西海岸にかけては、ライバルと目される地図帳が版図を拡げている。オレゴン州メドフォード Medford とカリフォルニア州サンタバーバラ Santa Barbara に拠点を置くベンチマーク・マップス社 Benchmark Maps の「ロード・アンド・レクリエーション・アトラス Road & Recreation Atlas」だ。

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シリーズの1点 モンタナ州版

こちらは等高線を用いない代わり、きわめて精密な陰影と高度に応じた彩色を組み合わせて、立体写真以上の鮮やかさで人の目を奪う。かつて、同社サイトで引用されていた書評にはこう表現されていた。「アリゾナは決して平坦ではない。この地図帳は州がどのように平坦でないかを細かいところまで手に取るように見せてくれる。」平板な道路地図が優勢な国ならでは、刊行時のインパクトの大きさが想像できる。

このシリーズで最初に世に出たのはニューメキシコ州版で、1995年のことだ。西海岸で地図製作を手掛けていた3つの会社が、見栄えと表現法を根本から変える地図帳をつくろうと共同研究した成果だった。斬新な地図表現は高い評価を得て、アメリカ測量地図会議 American Congress on Surveying and Mappingによって、その年の「ベスト・アトラス Best Atlas」に選ばれた。

余勢を駆って翌年のアリゾナ州版では「ベスト・アトラス」と「ベスト・オブ・ショー Best of Show」の二冠に、次のカリフォルニアを経て、地勢表現をさらに精緻化したオレゴン州版(1998年)では三たび「ベスト・アトラス」に輝き、ベンチマークはすっかりアメリカ地図業界の台風の目に成長した。それ以来、ワシントン、ユタ、ネヴァダ、アイダホ、コロラド、モンタナ、ワイオミングと1~2年ごとに続刊が発表され、2008年までにロッキー山脈とその西側の11州がすべて揃った。

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「景観」図の山地表現の例、ワイオミング州版表紙より
(c) Benchmark Maps, 2013

ベンチマーク地図帳は、そのページ構成に特徴がある。あたかも、拡大縮小や図種の切替えが自由なネット上の地図のように、対象のエリアについて縮尺を変え、表現を変えながら、徹底的に説明しようとするのだ。全体は「地域 Regionals」「レクリエーション Recreation」「景観 Landscape」、そして地名録である「索引 Index」の計4つのセクションから成っている。また、州によっては、さらに州都など中心都市の拡大図がある「都市近郊 Metro Areas」セクションが付随する。順に内容を説明していこう。

まず「地域」セクションは、地図帳への導入部に当たる。最初の見開きは合衆国本土全体の概観図だ。主なインターステート・ハイウェー(州間高速道路)と主要都市をプロットした縮尺1:9,600,000(960万分の1)の地勢図上に、テーマとなる当該州が白枠で示されている。次の見開きはその拡大版で、縮尺はほぼ倍の1:4,500,000(450万分の1)となり、近隣州の範囲がより詳細に示される。3番目の見開きは州全図で、縮尺はさらに大きくなり(例えばコロラド州の場合1:1,650,000)、小さな町の位置まで確かめられる。こうして、ページを繰るたびに地図がズームアップしていくので、なじみのない州でも国土における位置関係が容易に把握できるのだ。

次の「レクリエーション」セクションは、州を10面前後に割った区分図と情報集が、見開きで対になっている。地図は、コロラド州の場合、縮尺が1:500,000だ。地勢図のベースの上に、公有地や公園・森林・保護区など土地の管理区分を色分けしている。一方の情報集は、野外活動の適地や史跡・博物館などの概要と、連絡先や地図上の位置をまとめたレクリエーションガイドで、中心地の年間気温と降水量グラフも添えてある。機能的には、デローム地図帳のガゼッティアー(地名録)と同じだが、見開きにまとめたことで、検索のたびにページを繰る手間が要らない。

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「景観」図の凡例(一部)

「景観」セクションで、いよいよ地図帳のメインに移る。縮尺はさらに大きくなり、州によって異なるが1:200,000から1:400,000の範囲だ。これでもデロームと比べるとまだ小さめなのだが、それをハンディと感じさせることがない。

その理由は、第一に地勢表現の迫真性だ。鮮明かつ精細に描かれたぼかし(陰影)と、高度に応じてシームレスに変化する彩色。その絶妙なアンサンブルで、山塊のボリューム、尾根と谷の複雑な交錯、あるいは平原に刻まれた細かな襞を余すところなく描ききる。あたかも飛行機の窓から眼下の大地を眺めているようで、どこまでも飽きさせない。もちろんこれは手描きではなく、メッシュ標高データを用いて生成しているのだが、表現法としてはもはや芸術的な域に達している。

第二には、道路網描写の的確さをあげたい。道路網に使われている色の数は、デロームの新図式よりむしろ控えめだ。骨格となる幹線道路(地図帳の表現を使えば「出入口が限定されたハイウェー Limited Access Highway」)に青や緑を配するほかは、赤、橙、濃赤といった赤系の色に絞っている。しかし、色以外にくくり(縁取り)の有無や、実線・破線、線幅などを駆使することで、道路種別を効果的に表現する。たとえばくくりのない実線は幹線以外の舗装道、破線は同じく未舗装道の意味を持たせている。実際の図面では、都市近郊を除いてこの手のバックロード backroad が大半を占めているので、幹線道路と明瞭に区別でき、デザイン的にもスマートだ。

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「景観」図、河谷表現の例、オレゴン州版表紙より
(c) Benchmark Maps, 2013

「ロード・アンド・レクリエーション・アトラス」というタイトルから、実用に徹した内容を想像してしまう人もいるだろう。しかし、同社の代表ジョン・グランヴィル John Glanville の目標とするところはもっと高い。情報の質とまとめ方、地図としてのルック・アンド・フィール(見た目と使い勝手)でグーグルと差別化する、と彼は語っている。巨人グーグルに呑み込まれるどころか、むしろ品質では優位に立つ。どの州でも地図帳を一通り読めば、その意気込みが空手形でないことが伝わるはずだ。

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「1995年以来、100万部を優に超える地図帳が世界中の見識ある地図ユーザーに購入されてきた。地図帳を全巻買ったという人の話が私たちの耳に届くのは珍しいことではない。」同社のサイトには誇らしげにそう書いてある。筆者もその一人であることを嬉しく思うが、それと同時に、叶うならば、東部アパラチア山脈の地形を一度、ベンチマークの地図帳で見てみたいものだ。

ベンチマーク・マップスの地図帳は、アマゾン、紀伊國屋などのサイトでも扱っている。また、「レクリエーション」セクションに使われている地図は、「ベンチマーク・レクリエーション・マップ Benchmark Recreation Map」の名称で、1枚ものの折図(右図)としても販売されている。

(2006年12月21日付記事を全面改稿)

■参考サイト
ベンチマーク社 http://www.benchmarkmaps.com/

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 カナダの旅行地図-バックロード・マップブックス

2013年2月24日 (日)

アメリカ合衆国の州別地図帳-デローム社

「アメリカ人は小さいときから Planimetric Map(注:平面図)である道路地図に馴れ親しみ、等高線で三次元表示をしている地形図(Topographic Map)を見る機会が非常に少ない。子供達が家庭や身近な範囲で地形図を見ることは稀である。このような訳で、大学に入って地理のコースを受講して初めて地形図、等高線なるものを見たという学生も少なくない」(安仁屋政武「アメリカの州別道路地図」『地図情報』9巻3号 p.12. 財団法人地図情報センター)。

これが書かれた1989年当時も恐らく今も、白地に道路網を描き入れたシンプルな道路地図がこの国の主流だ。よく知られたランド・マクナリー Rand McNally はもとより、多くの州の運輸省が発行している公式交通地図 Official Transportation Map もこのタイプだ。しかし一方で、地形の情報を盛り込んだ道路地図もいくらかのシェアを得ていて、州単位でまとめた地図帳の形式で販売されている。これから3回シリーズで、そのような「地形が見える」州別地図帳を紹介していこう。

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シリーズの1点 コロラド州版

この種の地図帳の草分け的存在が、デローム社 DeLorme の「アトラス・アンド・ガゼッティアー Atlas & Gazetteer」だ。全48巻の堂々たる規模のシリーズで、アラスカやハワイを含む合衆国全土をカバーしている(下注)。週刊誌のような中綴じ(アラスカ、カリフォルニアを除く)の軽装本だが、判型は横11×縦15.5インチ(27.9×39.4cm)で、B4判とA3判のほぼ中間という大判だ。携帯するには少々不便だが、広範囲が一面に収まるこのスタイルは、後に現れるライバルにも踏襲され、アメリカ州別地図帳の事実上の標準形になっている。

*注 50州で48巻しかないのは、メリーランド州 Maryland とデラウェア州 Delaware、コネチカット州 Connecticut とロードアイランド州 Rhode Island がそれぞれ合冊のため。なお、以前はカリフォルニア州 California が南北で2分冊になっていたが、現在は1巻にまとめられている。

デローム地図帳のルーツは、同社の代表を務めるデーヴィッド・デローム David DeLorme が、1976年に自ら製作した北東部のメイン州版だ。次のような逸話がある。彼はベトナムでの兵役から帰還した後、生まれ故郷であるメイン州の森の中で休息の時を過ごしていた。ムースヘッド湖 Moosehead Lake へ釣り旅行に出たある日のこと、二股の分かれ道にさしかかったのに、手元の地図には直進の一本道のように描かれているのに気づいた。

彼は市販図の品質に不満を覚えると同時に、自分ならもっといいものが作れるはずだと思った。キャビンにこもった彼は、官製地形図をベースに各自治体のさまざまな情報を加えながら、同州の地図帳を作り上げた。1万部の印刷が上がると、車を駆って町から町へと売り歩いた。あらゆる道路、川や湖沼が正確に描かれ、トレールや史跡のリストが付された実用的な地図帳は、たちまち評判を呼び、デロームの名は州一円に知れ渡ったという(下注)。

*注 ちなみにお隣のカナダでも、同じような経験から地図帳を作り上げた人がいる。本ブログ「カナダの旅行地図-バックロード・マップブックス」参照。

同社はさらにニューイングランドやニューヨーク州の地図帳を手掛けることで、カバーする範囲を徐々に拡大していった。また並行してデジタル地図の分野にも進出し、カーナビやPDA、GPS端末などの普及に伴って全米にその地位を築いた。しかし、今でもデロームの本社はメイン州ポートランド Portland 近郊のヤーマス Yarmouth にあり、アーサ Eartha と命名された名物の巨大な回転地球儀が訪問者を迎えている。事業の重心がデジタル地図に移行したとはいえ、ペーパーアトラス(冊子体の地図帳)も十分健在で、メイン州版は2011年1月刊行の現行図で32版を数える。

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上図表紙を一部拡大
(c) DeLorme, 2013

シリーズのタイトル「アトラス・アンド・ガゼッティアー」は、デローム地図帳の特色をよく捉えている。アトラスとは地図帳、ガゼッティアーは地名録のことで、この2つを有機的に合体させたところがアピールポイントだからだ。

まず、アトラス部分は、州域を経緯度によって数十面に区分している。面積の全く異なる各州を1冊に収めるために、縮尺もテキサスの1:400,000から、コネチカットとロードアイランドの1:65,000までさまざまだ。地図には等高線とともに地勢を表すぼかし(陰影)が入り、実用一点張りの無機質な道路地図と比べれば、違いは歴然としている。

地図の図式は一様ではなく、大別して新旧2種類が併存する(下図参照)。両者は初見の印象がかなり違うが、その主な原因は道路の表現と配色バランスにあるだろう。

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旧図式(上)と新図式(下)の違い
ペンシルベニア州ウィルクスバリ Wilkes-Barre 周辺 (同州版表紙を拡大)
(c) DeLorme, 2013

旧図式では、カナダの官製地形図のように、道路をくくり(縁取り)なしの赤で統一し、線幅と線種(実線、破線)で重要度を区別する。一方、図面全体は土地利用景で塗り込められて、森林はアップルグリーン、耕作地などはパールグレー、市街地は薄いオレンジ、そして水面はスカイブルーだ。そのパッチワークにぼかしで立体感を加え、その上に緑の補色である赤色の道路が載って、視覚効果を上げている。全体としてシンプルで明瞭性の高い図面だ。

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新図式の凡例(一部)

一転して新図式では、道路がくくりのある記号に改められている。さらにインターステート(州際道)は藍、有料道路は緑、連邦道は黄、州道はピンクと塗色も変化する。これは道路地図では一般的な方法で、旧図式に比べると、道路網の骨格がより直感的に把握できる。また、注記文字(特に居住地名)のフォントが大きく強調されたので、自然と目に飛び込んでくる。都市近郊のように道路や地名の密度が高い地域では、いささかうるさい図面になってしまうのが玉に瑕だが。

土地利用の配色では、旧図式に比べて森林や耕作地の塗色が少し淡く、市街地もクリームイエローに近くなった。背景色の明度が上がったので、相対的に地物の識別性が向上している。また、隣接図との重複が設けられ、GPSユーザーのために経緯度単位のグリッド(方眼)やティックマーク(分目盛)が付加された。デザインの改良が各所に施され、一段と役に立つアトラスになったといえるだろう。

次にガゼッティアー(地名録)だが、これも単なる地名索引にとどまらず、それ以上に地元の人々のためのレジャー関連のデータが充実している。ペンシルベニア州版を例にとると、まず州全体の概要説明がある。次に、ハイキング、自転車、パドリング(カヌー、カヤック)、ダウンヒルスキーの適地が、コメントとともに記される。リクレーション地域の一覧表では、そこで何が楽しめるのか(キャンプ、ボート、釣り、水泳など)がわかる。魚釣り、狩猟の適地は別の表で、取れる獲物の種類まで一覧化されている。さらに、家族で行ける公園、科学館・博物館、観光地などが詳細なリストとなって続く。

これらはすべて掲載ページとインデクスで地図上の位置にリンクされ、逆に地図からはアイコンと項目番号でガゼッティアーにリンクされている。「アトラス・アンド・ガゼッティアー」の名称が言わんとしているのはこの双方向性だ。

ともかく、アメリカ全土にわたって大地の実感が読みとれる地図が存在する意義は大きい。筆者はデロームの地図帳に出会って初めて、それまで広大すぎて取り付く島もないように思えた同国の国土に少しずつ親近感を持てるようになった。グーグルマップで世界中の地点を瞬時に特定できる時代とはいえ、一覧性のある地図帳をぱらぱらとめくりながら、各州の土地勘をゆっくりと手繰り寄せる時間があってもいいのではないだろうか。

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独特な表紙のメイン州版

2013年1月現在、新図式になっているのは全48巻のうち20巻だ。次回紹介するベンチマーク社と競合する西部各州をはじめ、五大湖沿岸の各州などはおおむね切替えられた。ルーツであるメイン州も、表紙は初版以来、特別デザインのまま(右写真)だが、内容はすでに新図式で編集されている(下注)。一方、旧図式も27巻と半数以上残っている。残る1巻はアラスカ州だが、ここは官製地形図を縮小または拡大して利用している(詳細は、下記「州別地図帳の刊行状況」参照)。

*注 メイン州版は表紙だけでなく、新図式に切り替わるまで中身の地図も他州とは異なり、陰影なし、道路記号にくくり(縁取り)あり、鉄道は赤色表示など、初期の図式を残していた。

デローム地図帳は日本のアマゾンなどのサイトでも扱っていて、入手は容易だ。紙地図はかさばって困るという方には、ラスタデータのDVD(Topo North America)も用意されている。

(2006年12月14日付記事を全面改稿)

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州別地図帳の刊行状況

■参考サイト
デローム社 http://www.delorme.com/
 地図帳の情報は、トップページ左メニューの "Paper Atlases"

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 カナダの旅行地図-バックロード・マップブックス

2010年12月30日 (木)

カナダの道路地図

クルマが日常の主たる移動手段なら、カナダの道路地図もアメリカ合衆国同様、たくさん種類があるものと想像していた。しかし、地図商のカタログを当ってみると、そうでもない。印刷物としての地図の選択肢はかなり限られているのだ。カーナビに象徴されるようなデジタル化の洗礼を受けて、早々と淘汰されてしまったのだろうか。いやそうではなく、理由は、人口がアメリカより一桁少ないというマーケット規模から考えるべきだろう。

*注 国連人口部のサイトによれば、2010年の人口はアメリカ3億1800万人に対してカナダ3400万人  http://esa.un.org/UNPP/

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カナダに関する道路地図を類型化すれば、3つのグループに分けられる。一つは、アメリカ合衆国やメキシコも含めて、北米大陸全体を1冊にまとめた地図帳だ。これは比較的種類が多く、合衆国の地図ブランドであるランド・マクナリー Rand McNally(右写真、下注)、カッパ・マップ・グループ Kappa Map Group(旧 アメリカンマップ American Map)、アメリカ自動車協会 AAA をはじめ、イギリスのAA出版社 AA Publishing、フランスのミシュラン Michelin などから選ぶことができる。

カナダについては、全国図と州別図で構成され、余白には主な都市の拡大図が配されているというのが、各社共通した仕様だ。州ごとの主要道路網を把握したいといったニーズならこれで十分用が足せる。

*注 ランド・マクナリー社の道路地図については、本ブログ「アメリカ合衆国の道路地図-ランド・マクナリー社」参照

二つ目は、対象をカナダ一国に絞ったものだ。この全国版は、1枚もの(大判用紙を折り畳んだもの)と地図帳に綴ったタイプがある。三つ目はそれをさらに州別か、地域別に分けたシリーズだ。当然、縮尺は1枚ものより地図帳、全国版より地域特定版のほうが大きく、描写はより詳細に、情報量はより豊かになる。とはいえ、実際問題として、商業ベースに乗るカナダの道路地図は、同国アルバータ州のカルガリーに本社を置くマップアート出版社 MapArt Publishing の系統が、選択肢の大部分を占めている。

地図商スタンフォーズのサイトによると、マップアート社が刊行していた地図の一部が最近の業界再編によって、カナディアンカートグラフィックス社 Canadian Cartographics Corporation (CCC) に移ったという。内容は今一つ定かでないが、カタログで見る限りCCC社に移された地図(表紙に cccmaps.com とある)は1枚ものが中心のようだ。また、これとは別に、フランス語圏のケベック州では、JDMジェオ社 JDM Géo Inc. が刊行する地図に、マップアートのロゴが掲げられている。

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では、マップアート社の地図帳を見てみよう。右写真は、同社の「全国道路地図帳 Canada Road Atlas」2009年版だ(下注)。判型はA4判より縦が少し短い横21.5cm×縦27.5cmで、表紙を除いて全112ページ。まず1:5,000,000(500万分の1)の概要図が14ページあり、そのあとに人口の集中する南部のより詳しい地図(縮尺は1:625,000~1 660,000、地域によって異なる)が76ページにわたって続く。それから主要都市の拡大図7ページがあり、最後に地名索引がつく。

*注 同社の最新カタログでは、この黄表紙の全国道路地図帳が見当たらず、青表紙の「カナダ詳細道路地図帳 Canada Back Road Atlas」が紹介されている。これは後述する州別地図帳の内容を合冊したもので700ページもあり、携帯に向いているとはいいがたい。

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全国道路地図帳の一部 (表紙、裏表紙を拡大)

道路の記号は、高速専用道 Expressway が青、同 有料道 Toll expressway が紫、主要道 Principal highway が赤、地方道 Secondary highway が黄色に赤の縁どりと、なかなかカラフルだ。道路番号とともに区間距離も当然入っているが、km単位のカナダに対して、国境の南側(アメリカ)はマイル単位になっている。主要な鉄道路線も細い実線で描かれる。全駅ではないが、駅の位置がプロットされているので、別途、鉄道地図と対照することも可能だ。

感心するのは旅行情報が充実している点で、公園、自然保護区 Conservation area、野生動物保護区 Wildlife area、インフォメーションセンター、キャンプ地などがシンプルな記号で表され、明るい赤の文字で必ず名称が付されている。その数は相当なもので、ロッキーや西海岸ではこの赤文字で地図が埋め尽くされるかと思うほどだ。また、背景の地勢表現も美しい。道路や文字を読取る邪魔にならないようトーンを抑えながら、高度別の段彩とぼかし(陰影)を微妙に組合せ、高山域ではその上に氷河の水色を載せている。繊細な描写は、道路地図としては上出来の部類と言えよう。

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州別・地域別地図帳は縮尺がもっと大きくなる。手元にあるブリティッシュコロンビア州版(右写真)は、北部が1:1,000,000(100万分の1)、南部が1:500,000だ。これも116ページある。タイトルをBack Road Atlas(バックロードは裏道、田舎道の意)としているのは、道路表現の詳しさをアピールするのはもちろんのこと、他社の旅行地図帳(「バックロード・マップブックス Backroad Mapbooks」、別稿で詳述)も意識したのだろう。もちろん道路地図なので、マップブックスのように登山道までは描いていないが、車の通れる道は赤い縁取りをした太めの線を用いていて、識別性はこのほうが高い。さらに、ほとんどすべての道に丹念に名称を添えているのには驚くほかない。

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BC州地図帳の一部 (裏表紙を拡大)

旅行情報の充実度は、全国版に準じている。地勢表現も同様で、特にカナディアンロッキーや海岸山脈 Coast Mountains のような山岳地域では、立体感がひときわ見事だ。鉄道記号は旗竿型に変わり、駅は黒丸の記号に駅名つきで、さらに旅客列車の停車駅には、運行会社であるVIAレールのロゴを付して知らせている。

これほど丁寧に編集された地図があるなら、敢えてライバルの登場を願う必要もないのだが、一応、CCC社の1枚ものにも触れておこう。右下写真は、ブリティッシュコロンビア州の道路地図だ。大判用紙の両面を使い、片面に北部、別の面に南部、余白に主要都市の市街図を配している。道路網を強調すべく、地勢表現を省略したデザインは、アメリカの典型的な道路地図のスタイルだ。

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それはともかく、上記の地図帳と比較すれば、主要道と地方道の記号がどちらも赤で見分けにくく、旅行情報の記号のバリエーションが少ないなど、記号デザインの工夫不足は覆いがたい。また、添付の市街図は狭いスペースに詰め込もうとしたため、文字が細かくなりすぎた。価格が5ドル程度と安価な点は評価できても、地図としての魅力は薄いと言わざるをえない。アメリカ合衆国と同様、カナダでも州政府監修の公式道路地図 Official Highway Map が定期的に作られている(下注)。道路情報だけが必要なら、これで十分だろう。

*注 公式道路地図については、本ブログ「アメリカ合衆国の道路地図-公式交通地図」参照

■参考サイト
マップアート http://www.mapart.com/
カナディアンカートグラフィックス(CCC) http://www.cccmaps.com/

公式道路地図の例
オンタリオ州運輸局  http://www.mto.gov.on.ca/english/traveller/map/southindexpdf.shtml

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