2018年3月12日 (月)

アラスカの地図

ヨーロッパへ初めて出かけた1980年代、極東から北回りルートで飛ぶ航空機は、途中給油のためにアラスカ州のアンカレッジ空港 Anchorage Airport に寄港していた。乗客も全員降ろされ、出発準備が整うまで空港で待つことになる。展望デッキに上がると、冷え冷えとした曇り空の下、地を這う針葉樹林の黒い帯と、その先にアンカレッジ市街の高いビル群がいとも小さく見えた。

北米大陸最北部にあるアラスカは、人の想像力を揺さぶる土地だ。面積は172万平方km、本土で面積ベスト3のテキサス、カリフォルニア、モンタナ各州をすべて収めてもなお余りがある。アラスカ湾岸パンハンドル Panhandle の温帯雨林から、北緯70度ノース・スロープ North Slope の北極ツンドラまで(下注)、気候の変化に伴って動植物相も多彩だ。

*注 パンハンドルは、回廊状の領土をフライパンの柄に見立てたもので、南東部の沿岸地帯をアラスカ・パンハンドルと呼ぶ。またノース・スロープは、ブルックス山脈 Brooks Range の北斜面に広がる永久凍土地帯。

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ワンダー湖 Wonder Lake に映る北米最高峰のデナリ(マッキンリー)山 Mount Denali (McKinley)
Photo from wikimedia. License: CC BY-SA 3.0

あのとき筆者が目にしたアラスカはそのごく一角に過ぎず、全体を見渡そうとすれば、地図に頼るほか手段はない。数年前、アンカレッジから発信されている野外活動情報サイトのグッズショップ(末尾の参考サイト参照)で、そのような地図を数点購入したことがある。アラスカを知る手がかりとして、今回はそれを紹介したい。

アイマス・ジオグラフィクス Imus Geographics

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アイマス・ジオグラフィクス
「アラスカ」表紙

アラスカ州全域の詳細地形を描いた1枚ものの地図では、アイマス・ジオグラフィクスが2004年に発表したものがお奨めだ。大判用紙の折図で、縮尺は1:3,000,000(300万分の1)。

「この56.25×28.5インチ(横143×縦72cm)の旅行地図は、今までにないアラスカを見せてくれるだろう。賞を獲得したデザインで、そこにあるものが見られるだけでなく、あなたが見たいと思うアラスカが見られるのだ。(中略)ぼかしによる詳細な地勢表現の実例と豊富な情報を一つのシートに融合させたアラスカの地図は、他にはない。」

気負ったようなショップの紹介文だが、あながち誇張でもない。確かに、地形の起伏を表現するぼかし(陰影)と、植生や裸地など地表の状況を描写するベージュやアップルグリーンなどの彩色が、図面上でうまく調和している。小縮尺図というのに、眺めたときに深い満足感がある。さらに、おびただしい数の居住地名や自然地名が注記され、余白に加えた地名索引によって、レファレンスとしても十分使える。アメリカ測量地図会議 American Congress on Surveying and Mapping が催す地図デザインの年次コンペで「ベスト・レファレンス・マップ」を受賞したのも頷ける話だ。

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サンプル図。表紙の一部を拡大
© 2018 Imus Geographics

アラスカをテーマにした同社の地図には、ほかに縮尺1:100,000の「チュガッチ州立公園 Chugach State park」がある。アンカレッジ東郊の雄大な自然公園域を描く中縮尺図で、濃い目のぼかしによる地勢表現で立体感が強調され、こちらもたいへん美しい。

■参考サイト
Imus Geographics  http://www.imusgeographics.com/

ナショナル・ジオグラフィック「アラスカ・アドベンチャーマップ」

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アラスカ・アドベンチャーマップ 表紙

一方、旅行地図業界の第一人者たるナショナル・ジオグラフィック National Geographic も、アラスカをテーマにした1枚ものの地図を何点か製作している。そのうち、アラスカ全域を図郭に入れたものが図番3117「アラスカ・アドベンチャーマップ Alaska Adventure Map」だ。アドベンチャーマップは比較的広域の旅行適地を対象にしたシリーズで、等高線とぼかしで描いたメインの地図と、その周囲に、人気観光地の案内がカラー写真とともに配置してある。

アラスカ図葉は縮尺1:2,250,000(225万分の1)で、片面に北部(実際はメインランド)、もう片面に南部(パンハンドル、アラスカ半島、アリューシャン列島)が配されている。アイマスの製作方針が地図表現に集中しているのに対して、こちらはベースマップの精度が高いとは言えず、特に川や湖沼など水部の表現はどうかと思うほど大雑把だ。盛り込まれた地名の数もアイマスとはかなり差がある。

代わりに旅行案内は充実しており、シリーズの他図葉と同じく、公園や保護区の境界が明確に色分けされ、野外活動適地が目を引くピクトグラムで示される。余白に地名索引もあるので、検索も可能だ。必要な情報がすぐに引き出せるのは、定評あるシリーズの強みだろう。もちろん実際に現地で使うには縮尺が粗すぎるので、より大縮尺のトレール・イラストレーティッド Trail Illustrated シリーズ(下注)と併用するとよい。

*注 本シリーズについては「アメリカ合衆国のハイキング地図-ナショナル・ジオグラフィック」で詳述。

■参考サイト
National Geographic Maps - Trails Illustrated Maps
http://www.natgeomaps.com/trail-maps/trails-illustrated-maps

地図帳形式の刊行物はどうだろうか。米国本土でもライバル関係にある2社が、州別地図帳シリーズでアラスカ州を取り上げている。

デローム「アラスカ アトラス・アンド・ガゼッティアー」

まず、デローム DeLorme の「アラスカ アトラス・アンド・ガゼッティアー Alaska Atlas & Gazetteer」だが、中綴じ体裁が基本のシリーズ(全48巻、下注)で、これはカリフォルニア州版とともに平綴じにされている。実際、他の州はせいぜい100ページ前後なのに対して、アラスカは156ページ(索引含む)と1.5倍のボリュームがある。平綴じはノドの部分がしっかり開かないため、見開きの地図には向いていないのだが、そうせざるを得ないほどのページ数が必要なのだ。

*注 本シリーズについては「アメリカ合衆国の州別地図帳-デローム社」で詳述。

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アラスカ アトラス・アンド・ガゼッティアー 表紙

異例なのは綴じ方だけでなく、地図の図式も他州版と異なる。地勢表現はぼかしをかけず、等高線のみ。道路区分も色分けしておらず、線幅による簡易仕様だ。ベースにしている地図はUSGS(米国地質調査所)の1:250,000地形図データだが、等高線、氷河、植生などの表現はほぼそのまま使われている。道路区分はデロームの旧来図式(下注)である赤の実線等に変換され、居住地名はフォントや配置が見直されているものの、両者を見比べても違いは目立たない。

*注 近年の本土各州版は、道路に二重線(くくりのある)記号を使っている。

縮尺は、集落が一程度分布する南東部が1:300,000で、もとの地形図を凝縮したイメージだ。生の地形図をこれだけ買い揃えるのは不可能に近いので、大変お徳用だ。一方、残りの地域は1:1,400,000(140万分の1)と、非常に小さい縮尺にとどまる。それも、元データを拡大したらしい大雑把な造りで、前者との精度上の落差は極めて大きい。

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サンプル図。表紙の一部を拡大
© 2018 DeLorme

ベンチマーク・マップス「アラスカ ロード・アンド・レクリエーション・アトラス」

もう1社、ベンチマーク・マップス Benchmark Maps の「アラスカ ロード・アンド・レクリエーション・アトラス Alaska Road & Recreation Atlas」は2016年の刊行で、同社の州別地図帳シリーズ(下注)では最も新しい。

*注 本シリーズについては「アメリカ合衆国の州別地図帳-ベンチマーク・マップス社」で詳述。

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アラスカ ロード・アンド・レクリエーション・アトラス 表紙

小縮尺図から順に縮尺を拡大して、スムーズに詳細区分図まで誘導する内容構成が、ベンチマーク地図帳の特徴だ。アラスカ州版の場合、まず「アラスカへの道 Roads to Alaska」で、本土からカナダ領を経由してアラスカに至るハイウェールートが示される。これで本土の読者に距離感と方向性を理解させた後、次ページの1:7,920,000のアラスカ全図に移る。

しかし、3番目のリクリエーション・マップス Recreation Maps は、全域を数面の区分図で示す従来方式とは趣向が違う。アンカレッジ、フェアバンクス、ジュノーといった主要都市周辺と、インサイド・パッセージ Inside Passage やドルトン・ハイウェー Dalton Highway(下注)のルートが特集されているのだ。アラスカの旅行適地は限られるので、メイン図で描き切れない細部を説明する役割に切り替えたようだ。

*注 インサイド・パッセージは、外洋を避けてアレキサンダー諸島 Alexander Archipelago のフィヨルドを抜ける南東岸の航路。ドルトン・ハイウェーは、内陸のフェアバンクス Fairbanks から北極海岸を目指すハイウェー。

メインの区分図は、デロームと同様、エリアによって縮尺が変わっており、南東部が1:316,800(5マイル1インチ)、それ以外が1:1,267,200(20マイル1インチ)から1:2,534,400(40マイル1インチ)になっている。デロームより縮尺がやや小さいが、地勢描写は縮尺に応じた詳細さを保っていて、どの図も見応えがある。

デロームの等高線図に対して、ベンチマークは繊細なぼかしと彩色を駆使して、地勢を視覚的に実感させる。1995年以来、同社が実績を積んできた描法だ(冒頭のアイマス・ジオグラフィクスも、これに学んだのは間違いない)。驚いたことに、さらにアラスカ版では1000フィート(305m)間隔の粗い等高線が加えられている。これはむしろデローム図式を真似た形だが、傾斜角の変化が小さい氷河や、緩やかな起伏の周氷河地形では、高度情報を補うために有用と判断したのだろう。

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サンプル図。表紙の一部を拡大
© 2018 Benchmark Maps

■参考サイト
Benchmark Maps http://www.benchmarkmaps.com/

両者とも地図表現だけでなく、文字による旅行情報の充実にも力が注がれている。とりわけ釣り場の情報が抜きんでて多く、デロームは淡水魚、海水魚を合わせて約400か所、それぞれ獲れる魚の種類や利用可能な施設のマトリクス表が付される。ベンチマークも負けておらず、500か所近くのリストアップがある。しかし、これでさえ釣り場とされているのは主要道周辺の湖沼などに限られ、奥地の自然はまったくの手つかずだ。想像を超えたアラスカの広さを地図はよく伝えている。

今回紹介した地図のうち、1枚ものは、筆者も利用したオンラインショップ Alaska Outdoors Supersite Store https://alaskaoutdoorssupersite.com/alaska-store/ で取り扱っている。地図帳は日本のアマゾンや紀伊國屋などのショッピングサイトにある。

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 アメリカ合衆国のハイキング地図-ナショナル・ジオグラフィック
 アメリカ合衆国のハイキング地図-ヨセミテ国立公園を例に
 アメリカ合衆国の州別地図帳-デローム社
 アメリカ合衆国の州別地図帳-ベンチマーク・マップス社

2018年3月 3日 (土)

アメリカ合衆国のハイキング地図-ヨセミテ国立公園を例に

巨大な鑿で気の向くままにそいだような花崗岩の断崖が、幾重にも折り重なる谷間の風景は、19世紀半ばに注目されて以来、常に人々の心を惹きつけてきた。ユネスコ世界遺産にも登録されたヨセミテ国立公園 Yosemite National Park は、西海岸カリフォルニア州の中央部にある代表的観光地だ。全体の広さは3000平方kmを越える(東京都の1.4倍)が、多くの人がかの絶景を一目見ようと、中心部で回廊状に延びるヨセミテ渓谷 Yosemite Valley に集まってくる。

自然が産み出した巧みな造形美をさまざまな方向から眺められるように、一帯には整備されたハイキングトレールが張り巡らされていて、その案内役となるべき地図も多数作られてきた。今回は、筆者の手元にある範囲で、ヨセミテを地図の上から俯瞰してみたい。

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ディスカヴァリー・ビュー Discovery View(別名トンネル・ビュー Tunnel View)からのヨセミテ渓谷の眺望
左の断崖がエル・キャピタン El Capitan、右の滝はブライダルヴェール滝 Bridalveil Falls、最奥部にハーフ・ドーム Half Dome の頂部が覗く
Photo by Joe Parks at wikimedia. License: CC BY 2.0

USGS(米国地質調査所)

連邦の公的測量機関である USGS はかつて、「国立公園地図 National Park map」シリーズを作成していた。通常の地形図をベースにして、対象となる公園区域を1面に収録したいわゆる集成図で、エリアの広さに応じて、縮尺も用紙サイズもさまざまだった。その中に、「ヨセミテ国立公園および周辺 Yosemite National Park and Vicinity」図葉がある。

大判用紙に印刷された縮尺1:125,000の地図で、手元にあるのは1958年版だ。地勢表現は、200フィート(約61m)間隔の等高線にぼかし(陰影)を加えている。ぼかしのタッチがやや精彩さを欠き、低地の緑と重なると色が濁るという難はあるものの、広大な公園の地形の概略がこれによって手に取るようにわかる。

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1:125,000「ヨセミテ国立公園および周辺」の一部

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「ヨセミテ渓谷」
(通常版)表紙

それとは別に、ヨセミテ渓谷に焦点を絞った縮尺1:24,000の「ヨセミテ渓谷 Yosemite Valley」図葉もあった。1958年が初版で、1970年に部分修正が加えられた。こちらは横長の用紙を用いて、東西に15kmほど続く渓谷をカバーしている。等高線間隔は40フィート(約12m)で、日本の1:25,000(10m間隔)と同じような感覚で眺めることができる。

この図葉には、等高線のみの通常版と、ぼかしと連続的な段彩を入れた「ぼかし版 shaded relief edition」の2種が存在する。もちろん後者のほうが見栄えは格段によく、丹念に描かれた濃いぼかしで、険しいU字谷の情景を見事に再現している。段彩は単純な高度別ではなく、平坦な谷底面がアップルグリーン、谷壁が薄いベージュ、浸食を免れた高位面が卵色と、地形の特性に従った色分けにされているところが興味深い。

両図とも、特徴的な岩山や滝などの名称注記があり、主要トレールも細い破線で記されている。しかし、主目的はあくまで地形描写で、そのことは地図の裏面全面を使って溪谷の地形学的な成立過程が詳しく解説されていることでもわかる。このため、旅行地図としては情報不足で、民間会社の地図製品の代替になるものではない。

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1:24,000「ヨセミテ渓谷」(ぼかし版)の一部
冒頭の写真は、図左端にある Discovery View から右(東)方向を見ている

ナショナル・ジオグラフィック・マップス National Geographic Maps

前回紹介したナショナル・ジオグラフィックのトレール・イラストレーティッド・マップス Trail Illustrated Maps で公園全域を収録するのは、図番206「ヨセミテ国立公園 Yosemite National Park」(縮尺1:80,000、部分図は1:40,000)だ。さらに、縮尺を1:40,000に拡大した4面シリーズ(図番306~309)もあり、図番306「ヨセミテ南西部-ヨセミテ渓谷およびワウォーナ Yosemite SW: Yosemite Valley & Wawona」にヨセミテ渓谷が収まる。

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トレール・イラストレーティッド・マップス表紙
(左)図番206「ヨセミテ国立公園」 (右)図番306「ヨセミテ南西部」

USGS地図由来の等高線の上に、緑とベージュで森林と裸地を描き分け、コントラストの強いぼかしをかけるスタイルは共通だ。ただ、肝心の渓谷中心部が、宿泊キャンプ禁止のエリアを示す藤色で覆われ、せっかくの地勢表現が目立たないのは惜しい。その点、トレールについては黒色の太い破線なので、ベースが何色であろうと識別性に対する影響は小さい。

ただ、USGSの1:24,000図を見た後では、1:40,000という縮尺は小さく感じられる。渓谷に焦点を絞った拡大図がついていれば言うことはないのだが。

■参考サイト
National Geographic Maps - Trails Illustrated Maps
http://www.natgeomaps.com/trail-maps/trails-illustrated-maps

トム・ハリソン・マップス Tom Harrison maps

地元カリフォルニアのサン・ラフェル San Rafael に本拠を置くトム・ハリソン社も、州内各地のハイキング地図を多数刊行している。土地鑑をもつ強みで、ヨセミテ国立公園が図郭に入るものだけでも実に8面を数える。国立公園全域を収めるのは、縮尺1:125,000の「ヨセミテ国立公園 Yosemite National Park」だ。ほかに、人気の高い南部高地を拡大した1:63,360「ヨセミテ・ハイカントリー Yosemite High Country」、ヨセミテ渓谷に絞った1:24,000「ヨセミテ渓谷 Yosemite Valley」、ハーフ・ドームを中心に渓谷の上流部を収めた1:31,680「ハーフ・ドーム Half Dome」などがある。

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トム・ハリソン・マップス表紙
(左)「ヨセミテ国立公園」 (中)「ヨセミテ・ハイカントリー」 (右)「ヨセミテ渓谷」

ベースはUSGS地図で、それにぼかしを加えたものだ。トレールはドイツの官製旅行地図のように赤の破線で示され、地点間距離も入っている。さらに、幹線格であるジョン・ミューア・トレール John Muir Trail などは縁取りで強調され、ルートを追いかけるのが容易だ。

■参考サイト
Tom Harrison Maps  https://tomharrisonmaps.com/

ウィルダーネス・プレス Wilderness Press

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「ヨセミテ:
渓谷および周辺高地」
表紙

同じカリフォルニア州のバークレー Berkeley にある出版社ウィルダーネス・プレスの目録にも、地形図を使ったハイキング地図がある。公園全域をカバーする縮尺1:125,000の「ヨセミテ国立公園及び周辺 Yosemite National Park & Vicinity」と、対象エリアを絞って縮尺を拡大した1:62,500の「ヨセミテ:渓谷および周辺高地 Yosemite: The Valley & Surrounding Uplands」だ。

地勢表現は等高線のみで、第一印象はUSGSの地形図そのものだ。ただし、地方道を表す赤の旗竿が黒に変えられており、鉄道記号のように見える。代わりにトレールが赤の線で描かれるが、地点間距離は記されていない。上記2社の製品に比べると、ぼかしが施されていないこともあって、地図としての面白みに欠けるのは事実だ。しかし地名索引が付き、裏面には規制事項、気候、ルート案内、体験可能な野外活動などヨセミテの旅行案内がぎっしり記されており、文字情報の量で旅行書出版社の面目を保っている。

■参考サイト
Wilderness Press   https://www.wildernesspress.com/

ルーフス・ガイド Rufus Guides の絵地図

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「ヨセミテ渓谷への地図と案内」表紙

絵になる景色に囲まれたヨセミテが、絵心を誘うのは当然のことだ。ルーフス・ガイドは、カリフォルニアとその周辺にある名だたる観光地の鳥瞰絵図をいくつか作っているが、その一つに「ヨセミテ渓谷への地図と案内 Map & Guide to Yosemite Valley」がある。

横長用紙の片面全面を使って、渓谷の絵図が刷られている。比較的淡い色調の水彩スケッチだが、谷間や高原を覆う森の木々の細かさと、輪郭をなぞるにとどめることで強調された岩山のボリュームが好対照をなし、風景の特徴がよく捉えられている。もう一方の面はルーフスならではの公園ガイドで、渓谷と周辺のビューポイントをカラー写真つきで解説し、地形の成因、公園の歴史、動植物相、野外活動のあらましがコンパクトにまとめてある。蛇腹折りでかさばらないし、お土産にするのもよさそうだ。

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「ヨセミテ渓谷への地図と案内」表紙の一部を拡大
© 2018 Rufus Graphics

■参考サイト
Rufus Guides  http://www.rufusguides.com/

カルト・アトリエ Carto Atelier の絵地図

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ヨセミテバレー・
ツーリストマップ表紙

最後に紹介するのも絵地図だ。「ヨセミテバレー・ツーリストマップ Yosemite Valley Tourist Map」と表紙に日本語が併記されているが、日本製ではなく、スイスで刊行されたものだ。収載図には1997~98年のコピーライト表示がある。

同じ絵地図のジャンルでもルーフスとは趣がまるで違う。こちらは、巨匠H・C・ベラン H.C.Berann のそれを連想させる美しい鳥瞰絵図で、アルネ・ローヴェーダー Arne Rohweder 氏の筆になるものだ。渓谷の西(下流)側から東を見た図だが、幻想的かつスケール感のあるイメージ(下図参照)は、もはや写真を超越している。絵図の隣には、ぼかしで地勢を描き、植生をパターンで表現した国立公園の1:350,000全体図がある。裏面はUSGSの1:24,000地形図で、他社図と同じようにトレールが橙色で強調され、観光情報のピクトグラムが配されている。地勢のぼかしも入り、これだけでも十分なハイキング地図だ。

発行所のカルト・アトリエは、現在、ゲコマップス Geckomaps(Geckoはドイツ語でヤモリの意)の名で引き継がれ、ローヴェーダー氏やその協力者によるヒマラヤその他、世界の観光地のイラストマップを多数扱っている。このヨセミテの絵地図は筆者のお気に入りの一冊なのだが、悲しいことに同社の現行カタログには見当たらない。

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ヨセミテバレー・ツーリストマップ表紙の一部を拡大
© 2018 Arne Rohweder

■参考サイト
Geckomaps  http://www.geckomaps.com/

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 アメリカ合衆国のハイキング地図-ナショナル・ジオグラフィック
 アメリカ合衆国の地形図-新シリーズ「USトポ」

2018年2月25日 (日)

アメリカ合衆国のハイキング地図-ナショナル・ジオグラフィック

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図番201
「イエローストーン
国立公園」図葉表紙

アメリカ合衆国(以下、米国)で山野歩きに持っていける地図(印刷図)は、と問われたら、米国森林局 U.S. Forest Service とナショナル・ジオグラフィック National Geographic の両シリーズが思い浮かぶ。いずれもUSGS(米国地質調査所)の地形図をベースに、トレールのルートや関連情報を加えた旅行地図だ。地域を限定すれば、ほかにも選択肢はあるが、全国的に主要エリアをカバーするのはこの2種のみだろう。

ただし、前者は国有林 National Forest に対象を絞った地図で、販売所も限られている(下注)ため、使い慣れた人以外にはなじみが薄い。それに対して、後者は国立公園その他刊行範囲が広く、かつショッピングサイトなどで気軽に買えるところが魅力だ。

*注 ショッピングサイトで全国の図葉を扱うのは、同局の直販サイトやUSGS、一部の地図専門店など。

ナショナル・ジオグラフィック・マップス National Geographic Maps は、自然科学雑誌の刊行で知られたナショナル・ジオグラフィック協会 National Geographic Society(以下、協会という)の地図部門だ。1世紀にもわたり、雑誌の付録地図はもとより地図帳、壁貼り地図、地球儀とさまざまな種類を世に送り出してきた。その中で確立されたものの一つが、ハイキングやトレッキングのための地図シリーズ「トレールズ・イラストレーティッド・マップ Trails Illustrated Maps」で、これまでに250タイトル以上が出ている。

下記参考サイトで見られる索引図によると、刊行エリアは、米国本土からアラスカ、ハワイ、さらに一部はカナダ領内にも及んでいる。

■参考サイト
National Geographic Maps - Trails Illustrated Maps
http://www.natgeomaps.com/trail-maps/trails-illustrated-maps

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サンプル図(1501「アパラチアン・トレール」マップガイドの表紙を拡大)
© 2018 National Geographic Maps

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表紙の変遷 228「シェナンドー国立公園」
(左)1997年改訂版 (中)2002年改訂版 (右)2015年版

まず東部では、メイン州からジョージア州まで帯状に長く連なる図郭が目を引く。いうまでもなくアパラチアン・トレール Appalachian Trail、約3,500kmのルートを追うもので、全行程が計13点のマップガイド Map guide(地図入りガイドブック、図番1501~1513、縮尺1:63,360)に収まる。また、それと重なる矩形の図郭は1枚ものの折図(740~790番台、下注)で、周辺の国有林 National Forest にも網がかかっている。

*注 3桁の図番は大判用紙を折った1枚ものの地図、4桁は地図入りガイドブックを示す。他地域も同じ。

大陸の背骨を成すロッキー山脈では、コロラド州からユタ州にかけてのエリアが広くカバーされる。とりわけコロラド・フォーティナーズ Colorado 14ers の高峰群が集中するあたりでは、官製図のような整然とした図郭の折図(100~130番台、その多くが縮尺1:40,680)が設定されて壮観だ。グランドキャニオン Grand Canyon、ザイオン Zion その他、グランドサークル Grand Circle と呼ばれる著名な自然公園分布域でも、必要な地図が揃っている。

西部では、ワシントン州からオレゴン州にかけてのカスケード山脈 Cascade Range(図番818~827など)と、セントラル・ヴァレー Central Valley の東にそびえるシエラネバダ山脈 Sierra Nevada Mountains が中心だ。とりわけシエラネバダでの布陣は手厚く、縮尺1:63,360でほぼ全域を覆う(800番台)だけでなく、人気の高いヨセミテ国立公園 Yosemite National Park ではさらに詳しい1:40,000の区分図4面(図番306~309)も用意されている。

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マップガイドの表紙
(左)1501 「アパラチアン・トレール スプリンガー山~ダヴェンポート峠」
(中)1302 「コロラド・フォーティナーズ」
(右)1001 「ジョン・ミューア・トレール」

道路地図ばかりか歩くための地図でさえ、等高線などの地勢表現が省かれたいわゆるプラニメトリックマップ(平面図)が使われることのある米国では、等高線入りのハイキング地図は貴重な存在だ。特にトレールズ・イラストレーティッド・マップの場合は、等高線に加えて、濃いめの精妙なぼかし(陰影)をかけることで、真に迫った地勢表現を実現している。用紙は耐水・耐擦性を備えた合成紙だが、これも「バックカントリー・タフ backcountry tough(=過酷な使用環境にも耐えられる)」なだけでなく、発色の良さで見栄えを高めている。

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凡例(201「イエローストーン国立公園」より)
図葉によって記号の種類は多少異なる

右画像が凡例だが、ハイキング地図とはいえ、車が通る道も含めて道路網全体を強調するデザインであることが見て取れる。そのうえで、自動車道(ハイウェー Highway およびロード Road)は二重線、歩く道(トレール Trail およびパス Path)は太い破線で描き分け、さらに色で細分化するのだ。

画像ではわかりにくいが、ハイキング・トレール Hiking Trail の記号は黒で、許可を受けたオフロードバイクも走行できるモータライズド・トレール Motorized Trail は紫色が充てられている。同様に、舗装された自転車道 Paved Bike Path は緑、雪原や雪渓を行く冬用トレール Winter Use Trail は黒の太い点線だ。さらに有名トレールは、シンボルマークと緑やオレンジのマーカーでルートが強調される。地点間の距離(マイル表示)が記されている場合もある。

そのほかピクトグラムの記号でも、キャンプ地、ピクニックエリア、トレールの出発点 Trailhead、駐車場、見晴らし台、有料エリア、休憩所、野生動物観察地、自転車ルートの路面状態など、さまざまな情報が描かれる。余白には文字情報、たとえばトレールに関する距離、高度、所要時間、難易度などのデータや、域内で行えるレクリエーションでの諸注意などが記され、地図1枚で、野外活動に必要な情報がひととおり得られるようになっている。

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サンプル図(1001「ジョン・ミューア・トレール」マップガイドの表紙を拡大))
© 2018 National Geographic Maps

あるマウンテンバイクの専門サイトでは、このシリーズを次のように紹介していた(以下は要約)。

「USGS地形図は専門的で、読図に精通している必要がある。また、かなり古く、ときには最後に編集されてから20年から40年経過している。こうした問題のほとんどすべてを切り抜ける優れた地図として、トレールズ・イラストレーティッド・マップを参考にされたい。極めて正確なUSGS地図をベースに使用するこの地図は、常に更新され、図郭内にあるすべてのトレールを表示している。マウンテンバイクや乗馬のためのトレールも表示されている! 無料ではないが、費用(約10ドル)を支払う価値はある。」

ナショナル・ジオグラフィックの地図は、日本のアマゾンや紀伊國屋などのショッピングサイトでも扱っている。品切れの場合、米国のアマゾン http://www.amazon.com や地図専門のオムニマップ http://www.omnimap.com/ のサイトを覗いてみるとよい。いずれも日本へも送ってくれる。

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2013年7月 7日 (日)

アメリカ合衆国の道路地図-公式交通地図

今でこそあまり見かけなくなっているが、アメリカ合衆国の道路地図は無料頒布 giveaway  によって普及した。ガソリンやタイヤなどの販売業者が顧客向けに、あるいは各地の自動車クラブが会員向けに、あたかも競うようにして作成し、配っていたからだ。USハイウェーの整備が本格化する1920年代から、2度の石油危機に見舞われて石油会社の収益構造が悪化する1970年代までが、その全盛期だった。

配っていたのは、民間企業や団体だけではない。各州政府もまた、定期的に同じような道路地図を刊行していた。一般にこれを「公式道路地図 Official Highway Map」、または鉄道路線なども盛り込まれているので「公式交通地図 Official Transportation Map」と呼んでいる(下注)。大判用紙の両面を使って印刷され、コンパクトに折り畳んだ形で頒布された。このスタイルは今でも変わっていない。民間地図が有料化されていくなかで、公式交通地図については非売品としての伝統が維持されてきた。

*注 地図の実際の名称はさまざまで、Highway Map、Transportation Mapのほか、State Map、観光局が所管するものはVisitor's MapやTravel Mapになっている場合もある。

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公式交通地図の表紙

従来作成していたのは、州の運輸局(下注)だ。アーカイブを公開している州の例で見ると、初版の刊行は1920年代前後で、州内の道路網の整備状況を周知するのが主たる目的だった。道路の建設と同時に道路番号の整理が行われるため、公報としての意義も大きかったに違いない。しかし、30年代以降は、次第に旅行者への情報提供という側面が強くなる。カラフルな表紙がつき、裏面には観光振興のための写真や記事が配されるようになった。

*注 運輸局の正式名称は州によって異なるが、Department of Transportation(略称DOT)と称するところが多い。

戦後の高度成長期を経て、公式交通地図は州の広報媒体に位置付けられ、毎年刊行されたが、景気が減退した70年代からは隔年刊行が主流になる。2000年代に入ると、ウェブでの公開に切替えて頒布を廃止する例も現れ始めた。事業は現在でも多くの州で運輸局の所管だが、目的の変化から、モンタナ州のように観光局と共同刊行にしたり、アリゾナ州やバーモント州のように観光局に完全に移管してしまったところもある。

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公式交通地図の表紙(つづき)

無料とはいえ州政府の刊行物なので、内容はしっかりしている。道路網に道路種別、道路番号、そして主要地名という道路地図の骨格はもとより、地点間距離も基本的に記載対象だ。地図上の地名を探すための地名索引や、マイレージ・チャート Mileage Chart と呼ばれる主要都市間の距離表もほとんどの場合、地図の余白か裏面に付けられている。

道路の関係ではほかに、シーニック・バイウェー Scenic Byway と呼ばれる景色のいい地方道を強調する例や、ルイス・アンド・クラークトレール Lewis and Clark Trail、オレゴントレール Oregon Trailのような開拓時代の旧道、アパラチアントレール Appalachian Trailのような長距離自然歩道を表示した例が見られる。これらは旅行者向けの情報だが、サウスカロライナ州では、ハリケーンの来襲に備えて避難指定経路 Hurricane Evacuation Routes の地図を添えている。

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ワシントン州公式道路地図 2011年版の一部

同じ交通路でも鉄道網については、民間の道路地図では省かれがちだ。しかし、運輸局の所管事項であるからか、公式交通地図ではおおむね居場所を与えられている。ただ、描き方には個性があり、旅客と貨物を問わず線路があれば描くというのが多数派だが、アムトラック Amtrak その他の旅客列車運行路線だけを描いている州も少なくない。旅行者にとって貨物路線の情報は不要という判断だろう。興味深いのは停車駅の表示で、日本のような長方形ではなく、線路脇にアムトラックのロゴを置いている例が数州ある(下注)。停まる町は限られているので、これでも十分用を果たしている。

*注 確認した限りでは、ミズーリ、モンタナ、ネブラスカ、ノースダコタ、オクラホマといった主として中部の各州がこのロゴを使用する。他にバージニア州は円の中にA(メトロの駅Mと区別)、デラウェアは独自デザインのピクトグラムを充てている。

本来の道路地図の要件ではないものの、旅行者がターゲットになったことで付加された情報もある。一つは土地管理区分だ。国立/州立公園 National / State Park、国有林 National Forest、自然保護区 Wilderness Area などの範囲が緑のアミなどで示される。ほかにインディアン居留地 Indian Reservation や軍用地 Military Area も描かれる。視覚効果を上げるために、山岳地域を擁する州では地勢の陰影(ぼかし)も付加されている。

もう一つは旅行スポットの表示だ。キャンプ、ハイキング、スキー、水泳、魚釣り、狩猟、野外生物観察といったレクリエーション活動の定番はもとより、灯台、湧水、養殖場、さらには屋根付き橋、ゴーストタウンその他、ご当地観光の見どころが特製の記号で示されている。州別地図帳で見られるような州立公園の機能一覧表(どんな活動ができるのか、どんな設備が用意されているのかを表にしたもの)が掲載されている場合もある。さすがにガソリンスタンドやAAAのステーションの位置はないにしても、内容が市販の道路地図のレベルに達している州は多い。

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モンタナ州公式道路地図2013年版 の凡例の一部
アムトラック駅やゴーストタウンの記号が見られる

本国には熱心な収集家もいる公式交通地図だが、難点は、「無料頒布のみ Free Distribution Only」という断り書きが示すとおり、書店等を通した販売が許されていないことだ。したがって日本で入手するには、頒布先に直接リクエストしなければならない。各州の運輸局のウェブサイトに頒布案内があり、リクエストフォームが用意されている。そうでなければメールで請求することになる。基本的に郵送料は向こう持ちだ。ただ、リーマンショック以降、経費節減のために国外送付を取り止める運輸局が増えてきた。フォームの国名選択欄に合衆国とカナダしか出てこなければ、その他の国へは送らないという意味だ。メールを出しても同じ答えが返ってくる。

そのときは次の策として、州の観光局のサイトを調べるといい。そこで提供されている観光資料のキットに公式地図が含まれるか、または追加で請求できるようになっている場合があるからだ。もとより、多くの運輸局のウェブサイトではPDFファイルでも提供しているので、印刷物にこだわらなければ最新版を簡単に入手できる。参考までに、各州の公式交通地図の名称、刊行者の一覧を以下に掲げる。

*注 観光局の名称も州によりさまざまだが、州名+Tourismで検索すると必ずヒットする。

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なお、公式交通地図はカナダの各州でも作成されており、内容や請求方法も合衆国のそれに準じている。

■参考サイト
過去の公式道路地図が見られるサイト(リンク切れご容赦)
アラバマ州(インタラクティブ画像)
http://alabamamaps.ua.edu/historicalmaps/stateroads/
アーカンソー州(地図PDF)
http://www.arkansashighways.com/planning_research/mapping_graphics/archived_tourist_maps/archived_tourist_maps.aspx
ジョージア州(地図PDF)
http://www.dot.ga.gov/informationcenter/maps/Pages/StateMaps.aspx
イリノイ州(インタラクティブ画像)
http://www.idaillinois.org/cdm/landingpage/collection/isl9
ミシシッピ州(地図PDF)
http://sp.mdot.ms.gov/Office of Highways/Planning/Maps/State Highway Maps Archive/Forms/AllItems.aspx
ミズーリ州(地図PDF)
http://www.modot.org/historicmaps/
ネバダ州(地図PDF)
http://www.nevadadot.com/Traveler_Info/Maps/HistoricalMaps.aspx
ペンシルベニア州(主として表紙画像)
http://www.pahighways.com/oshm.html
http://www.mapsofpa.com/roadstate.htm
ワシントン州(表紙画像と地図PDF)
http://www.wsdot.wa.gov/Publications/HighwayMap/FeatureMaps.htm
カナダ アルバータ州(表紙画像)
http://www.altaroads.ca/

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2013年6月 8日 (土)

アメリカ合衆国の道路地図-カッパ・マップ、AAA他

前回紹介したランド・マクナリー社以外にも、多くの出版社がアメリカ合衆国の道路地図を手掛けている。アメリカン・マップ社などの流れを汲むカッパ・マップ・グループ、AAAの略称で知られるアメリカ自動車協会、科学雑誌のブランドで知られるナショナル・ジオグラフィックなどだ。本国以外でもイギリスのAA出版社 AA Publishing、フランスのミシュラン Michelin などが刊行しているが、ここでは国産3社の、主として道路地図帳について紹介したい。いずれも、アメリカ合衆国とカナダの州別地図にメキシコの小縮尺図を加えた北米道路地図帳だ。

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カッパ・マップ
「最も読み易い」北米道路地図帳
2013年版表紙

合従連衡を繰り返して今や地図出版の最大手に躍り出たカッパ・マップ・グループ Kappa Map Group だが、そのカタログには数多くの道路地図帳が載っている。カッパの名はギリシャ文字に由来するが、地図出版界での知名度はまだ低い。それもそのはずで、1955年創立以来、雑誌出版社だった同社が地図出版の買収を活発化させたのは、2007年以降だからだ。

この年まず、ユニヴァーサル・マップ・エンタープライズ Universal Map Enterprise を傘下に収めた。2010年にはテキサス州拠点のマプスコ Mapsco を買収、さらにランゲンシャイト出版グループ Langenscheidt Publishing Group から、傘下のアメリカン・マップ American Map、ハモンド・マップ Hammond Map 等を買収した。印刷地図事業がデジタル地図に圧迫されるなか、カッパは、各社が持つリソースを糾合することで競争力を高める戦略をとった。地域別地図帳や市街図などは、表紙のスタイルをグループ全体で統一しながらも、通りの良い旧ブランドを名乗り続けているが、ユニヴァーサル・マップの名を残していた北米道路地図帳は、2011年からカッパ・マップのブランドへ切替えを行った。

この中でフラグシップに位置付けられているのは、「北米デラックス道路地図帳 North America Deluxe Road Atlas」だ。ランド・マクナリーなら黄表紙の道路地図帳(下注)に相当する。横27.6×縦35.6cmの大判、週刊誌と同じ中綴じ式で144ページ。そのほか、次のようなバリエーションがある。地図を3割拡大した「最も読み易い拡大版 Easiest to Read Large Print Road Atlas」は、判型はデラックスと同じでスパイラル綴じ、280ページ。判型を小ぶりにした「中判 Mid-Size Road Atlas」は中綴じ、64ページ。その地図を30%拡大した「大縮尺版 Large Print Road Atlas」は大判、スパイラル綴じ、96ページ。

*注 ランド・マクナリー社の道路地図については、本ブログ「アメリカ合衆国の道路地図-ランド・マクナリー社」参照。

デラックス版をマクナリーの黄表紙と比べてみると、州別図を見開き2ページに展開する基本構成は変わらない。大きく違うのは、ページの余白には、市街図ではなく地名索引が優先的に配置されていることだ。索引を巻末にまとめていないので、探したい地名が地図のどこに描かれているかがすぐに検索できる。これが、マクナリーに対抗するセールスポイントだ。ただし、掲載スペースを捻出するために、市街図の掲載数がより少なくなる、あるいはメインの州別図が若干小さく、つまり小縮尺になってしまうのはやむを得ない。一方、道路、公園・保護区、都市域などの地図表現は似たり寄ったりだが、地名の書体や地方道の色分けなどでは、マクナリーのほうがいくらか見易く感じる。

■参考サイト
カッパ・マップ・グループ https://www.kappamapgroup.com/

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AAA道路地図帳 2013年版表紙

日本のJAF(日本自動車連盟)に相当するアメリカ自動車協会 American Automobile Associationにも、独自の道路地図帳がある。AAA(トリプルAと読む)の略称で知られる協会は、合衆国各地で運営されている51の自動車クラブ motor club の連合体だ。1902年の設立からまもない1905年に1枚ものの道路地図を提供し始め、1985年には、今も続く北米道路地図帳の刊行を開始している。

現在、地図帳は2種類あり、標準版の「AAA道路地図帳 AAA Road Atlas」と拡大版の「AAA読み易い道路地図帳 AAA Easy Reading Road Atlas」だ。標準版は中綴じ、144ページ。上記マクナリーの黄表紙やカッパのデラックス版と同じタイプで、地名索引はやはり地図と同じページに配される。カッパに比べて文字サイズがやや大きいので読取りはしやすい。地図表現もカッパに似ている。黒塗りの箱に白抜き数字を入れた高速道路の出口番号が目立ち、図の印象を重くしているが、肯定的に言えば、識別性が高いということになる。当然のことながら、市街図にはAAAのステーションの位置が示されていて、会員にとっては便利だ。

拡大版「読み易い」のほうは中綴じ、104ページ。標準版より4割拡大する代わりに、市街図などは標準版300点に対して50点にとどめている。これによって、全体のページ数は4割減となり、むしろ軽装版といった印象だ。

■参考サイト
アメリカ自動車協会AAA  http://www.aaa.com/
 日本から閲覧すると国際版のページが表示される。

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ナショナル・ジオグラフィック
道路地図帳アドベンチャー版
2012年版表紙

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ナショナル・ジオグラフィック
道路地図サンプル
(同地図帳裏表紙より)

ナショナル・ジオグラフィック協会 National Geographic Society の商業地図部門といえば旅行地図が主だが、1点だけ北米道路地図帳、正確には「ナショナル・ジオグラフィック道路地図帳アドベンチャー版 National Geographic Road Atlas Adventure Edition」がある。スパイラル綴じ、168ページ。筆者の手元にあるものは2012年のコピーライトが記載されているが、表紙で強調していないところから察すると、毎年新版を出すつもりはないのだろう。

タイトルにあるアドベンチャー版というのは、各種野外活動の情報が盛り込まれているという意味だ。冒頭に、1999~2009年の間刊行されていた雑誌「ナショナル・ジオグラフィック・アドベンチャー National Geographic Adventure」の編集者が選ぶ全米の優良野外活動適地100か所の簡潔な紹介記事があり、次いで全米の国立公園に関する地図と紹介文がある。20数ページを費やすこの巻頭記事が、地図帳の最大の特色だ。

その後に続く道路地図は州別地図で、デザインはマクナリーに似ている。これは協会の独自編集ではなく、アンテナ・オーディオ社 Antenna Audio, Inc から供給を受けたものだ(下注)。ここでも野外活動の目的地となる名所その他のスポット(地図帳の表現では point of interest)の記載が多数見られる。地名索引は巻末にまとめているので、その分、市街図や国立公園図などの挿図も豊富だ。市街を表す塗色には協会のシンボルカラーである黄色が充てられている。また、州別地図の背景には地勢を表すぼかしが控えめに付加され、この点でも他の道路地図帳と一線を画している。

*注 ミシュランの全米道路地図帳もアンテナ・オーディオ社から供給を受けているので、記載内容は協会とほぼ同一だ。ただし、ミシュランの場合は州別地図ではなく、経緯度で区分している。

■参考サイト
ナショナル・ジオグラフィック・マップスのページ  http://www.natgeomaps.com/

以上、商業出版による北米道路地図帳を見てきた。スタイルで端的に分類すると、ランド・マクナリーとナショナル・ジオグラフィックはモダン派、カッパとAAAは伝統派になろう。前者はフォントや彩色などが洗練されており、市街図や公園図も豊富に盛り込まれている。一方、伝統派は、1枚もののレイアウトを踏襲して、地図と索引が同一ページに配置されている点がメリットだ。情報量については、取り立てて言うほどの優劣はないように思う。

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2013年5月 3日 (金)

アメリカ合衆国の道路地図-ランド・マクナリー社

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ランド・マクナリー道路地図帳
2014年版

ドライバーを対象にした道路地図が初めてアメリカで現れたのは1898年だという。しかし当時、自動車はまだ富裕層の持ち物だった。20世紀に入ると、大量生産で価格の下がったT型フォードが爆発的に売れ、それを契機として大衆車の時代が訪れる。1910年代には、石油会社が需要喚起の策として、ガソリンスタンドで折り畳み式の道路地図を無料配布し始めた。アメリカの道路地図は、こうして瞬く間に広まっていった。

この種の地図の代名詞的存在となっているのが、ランド・マクナリー Rand McNally 社だ。1868年にシカゴで創業した同社は、はじめ鉄道に関わる印刷と出版を手掛け、次いで商業や教育の分野に進出した。鉄道地図や地球儀、世界地図帳、さらに地理の教科書を製作し、地図出版社としての地歩を固めていった。同社最初の道路地図は1904年、ニューヨークとその近郊の道路網を主題にしたものだった。

1920年、同社はガルフ石油 Gulf Oil から委託を受けて、配布用の道路地図の作成を開始した。1924年には、48州(下注)の道路地図を1冊にまとめた「ランド・マクナリー自動車の友 Rand McNally Auto Chum」を刊行している。掲載された地図は手描きで、紺(ダークブルー)と赤の簡素な2色刷り、まだ地名索引もなかった。1926年からタイトルが変わり、今も通用する「ランド・マクナリー自動車道路地図帳 Rand McNally Auto Road Atlas」になった。

*注 1924年時点では、アラスカとハワイは準州 Territory で、収録範囲外だった。

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グーシェイの
ミズーリ州道路地図

ガソリンで走る車の急速な普及は、道路網の整備も促していった。ナンバー付きのUSハイウェーを骨格とする合衆国の道路体系は、この20年代に構築されたものだ。いきおい道路地図の需要も高まって、地図製作に携わる会社が大小乱立した。30年代からは、ランド・マクナリーと並んで、H・M・グーシェイ H.M.Goosha、ジェネラル・ドラフティング General Drafting が覇を競い、人々はこれらを地図業界のビッグスリーと呼んだ。

しかし、この中で今も残っているのはランド・マクナリーだけになっている。ライバルが火花を散らしていたのは70年代までで、オイルショックをきっかけに石油会社や自動車クラブの地図配布が削減されるとともに、安定的な収入源を失った地図会社の経営は悪化していく。カーナビの興隆を待つことなく、他の2社は、90年代で歴史を閉じてしまった(下注)。実はランド・マクナリー社も2003年に倒産して、資本は入れ替わっているのだが、知名度の高いブランド自体は継続している。

*注 グーシェイ社は1996年にランド・マクナリーに買収され、ジェネラル・ドラフティング社は1992年にアメリカン・マップ社(現カッパ・マップ・グループ Kappa Map Group)に吸収されて消滅した。

グード世界地図帳 Goode's World Atlas のような教育分野の書籍も刊行しているとはいえ、ランド・マクナリー社の主力製品は、やはり道路地図だ。大別すると、大判用紙を折り畳んだ1枚ものと、地図帳形式に綴じたものがある(下注)。

*注 地図業界の競争領域はとうにデジタル地図に移っているが、その紹介は筆者の手に余る。現況は同社サイト等でお調べいただきたい。

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1枚もの州別地図
(左)ニューヨーク州 Easy to Read!版
(中)同 Easy to Fold!版
(右)地域別道路地図 サンフランシスコ・ベイエリア

1枚ものはさらにいくつかに分類できる。まず、1~2州を1面に収めた州別地図 State Mapシリーズでは、赤表紙の「Easy to Read!(読み易い)」と紺表紙の「Easy to Fold!(畳み易い)」が併存する。

「読み易い」版は、地図が拡大されていて、文字も大きい。余白には主要都市の市街図や代表的観光地の拡大図も多数掲載されている。その代り、用紙が大判になるため、何重にも折り畳まれ、携行する場合は少々扱いにくい。一方、「畳み易い」版は、縦2つ折り、横4つ折り程度で収まるコンパクトな用紙で、かつコーティング加工してあるので畳み易く、拡げ易い。しかし、文字は小さくなり、地図も州全体図が中心だ。ただし、すべての州でこの2種類が揃っているわけではないようだ。

1枚ものには、ほかに緑の表紙のシリーズもある。これは、都市域、旅行適地など需要の見込める特定地域の拡大版だ(右上写真の右側がその例)。州別地図についている拡大図のレベルでは描ききれない細部の街路との位置関係、主要施設の位置などが把握できる。州別地図よりはるかに現地感覚に沿った縮尺なので、調べたい地域が絞れる場合は選ぶ価値がある。

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Easy to Read!版表紙の地図部分を拡大

次に地図帳だが、これも数種類刊行されていて、1枚ものと同様、判型や地図の縮尺、それに綴じ方などが異なる。

その中で代表とみなせるのが、黄表紙の「ランド・マクナリー道路地図帳 Rand McNally Road Atlas」だ(冒頭の写真)。中綴じ式で、判型はA3に近い27.6×39cm という大判だが、後発組の他社もこれを踏襲したので、アメリカの道路地図帳の標準様式になった。いうまでもなく同社の看板商品で、同社のサイトには90周年を祝う記念ページが上がっている。

■参考サイト
ランド・マクナリー社-道路地図帳90周年版
http://www.randmcnally.com/pages/anniversary

2014年版は144ページ、合衆国とカナダの州別道路地図をメインに、主要市街図、国立公園図、それにメキシコの全図も収録している。州別地図は地理的位置に関わらずアルファベット順に並べられ、多くは見開き2ページを使って展開される。ページの余白には各州の基礎データ、観光局連絡先、都市間距離表、それに旅行情報の詳細にリンクするマイクロソフトタグがつく。もちろん巻末には、地名索引が付随している。必要な情報を網羅した過不足のない編集で、アメリカの代表的地図帳というにふさわしい。

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大縮尺道路地図帳 2014年版

同じ判型でも「大縮尺道路地図帳 Large Scale Road Atlas」は、スパイラル綴じで264ページと、同社の地図帳では最もボリュームがある。タイトルのとおり、地図を上記地図帳より35%拡大して、読み取り易くしたのが特徴だ。当然、州別地図は見開き2ページに収まらないので適宜分割し、市街図なども再配置されている。ただ大縮尺になっても、記載内容にほとんど差はない。また、この版のみカナダ、メキシコの図は省かれている。

大判の地図帳にはもう1種、「モーターキャリア用道路地図帳 Motor Carriers' Road Atlas」がある。これは大型のトラックやバスの運転に特化した版で、州指定トラックルート、危険物規制データ、21ページに及ぶ都市間距離表などが盛り込まれたものだ。

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(左)中判道路地図帳 (右)読み易い中判道路地図帳 いずれも2014年版

さて、以上の大判タイプに対して、A4に近い21.6×26.7cm(8.5×10.5インチ)の地図帳も刊行されている。標準形は緑表紙の「中判道路地図帳 Midsize Road Atlas」で、中綴じ96ページの、携行に手ごろな冊子だ。合衆国とカナダの州別道路地図を完備しているものの、大判地図帳と見比べると縮尺は小さく、情報量も絞られる。市街図の数は1/4程度に減り、実用性の点では大判図にかなわない。「読み易い中判道路地図帳 Easy-to-Read Midsize Road Atlas」はその大縮尺版で、スパイラル綴じ、160ページある。

このように、種類が多いため選択には迷うところだが、行動範囲が1つの州に限られるなら1枚ものの州別地図で十分だ。広域に移動するなら、まずは黄表紙の「ランド・マクナリー道路地図帳 Rand McNally Road Atlas」に当たるといい。

アメリカの道路地図の特徴の一つは、多くの場合、地勢表現、すなわち土地の起伏を表すぼかし(陰影)、等高線、段彩を省いていることだ(下注)。3次元的情報がないこの種の地図を、プラニメトリックマップ(平面図)と称している。製図や印刷の技術が伴わなかった道路地図の創生期ならいざしらず、汎用の地勢データが提供されている現代でも使わないのだから、これはデザイン上の方針なのだろう。

*注 地勢表現が全く無視されているのではなく、ランド・マクナリーでも国立公園図にはぼかしが使われている。また、州政府作成の公式道路地図には、地勢表現を付したものも少なくない。

道路地図はいうまでもなく、道路網や区間距離など、自動車を走らせるために必要な情報を記した地図だ。テーマと直接関係のない描写を略すのは、図面の錯雑さを回避する意味で妥当性がある。さらにランド・マクナリーの道路地図では、それを補うように、国立公園や国有林、自然保護区などの範囲に緑のアミをかぶせ、景勝ルートにはトーマス・クックの鉄道地図のような緑の点線を添える。地勢を見せるより、旅行者にはこのほうが実用的だ。

加えて、赤色の実線を効果的に用いる道路網の配色や、識別性の高い文字書体の組合せなど、細部まで研究の跡が窺える。こうした読取りの容易さと、利用者のニーズを受け止める豊富な情報量。類書があまた並ぶ中でランド・マクナリーの道路地図が長年にわたり支持されてきた理由は、このあたりにあるのではないだろうか。

ランド・マクナリーの地図は、日本のアマゾンや紀伊國屋BookWebなどでも扱っているので、入手は容易だ。地図帳のeブック(電子書籍)版も用意されている。

■参考サイト
ランド・マクナリー社 http://www.randmcnally.com/
同社道路地図のページ  http://www.randmcnally.com/product/road-atlas
 各版の仕様比較がある
同社オンライン道路地図 http://maps.randmcnally.com/
 同社オリジナルのウェブ地図。ペーパー版とは配色などが異なるが、やはり地勢表現はない。

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 カナダの道路地図

2013年4月 5日 (金)

アメリカ合衆国の地形図-新シリーズ「USトポ」

アメリカ合衆国の新しい地形図は、「US Topo(以下、USトポと表記)」という愛称で呼ばれる。トポは、トポグラフィック(マップ) Topographic (map) で、地形図を意味する。2008年に旧来の地形図の更新作業が廃止されたが、その後、約3年の製作期間を経て、2012年10月に本土48州をカバーするUSトポが完成を見た。引き続き、2013年中にアラスカ州、ハワイ州と、海外領土であるプエルトリコ Puerto Rico の製作が進められることになっている。

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USトポ 1:24,000 ワシントン西部 2011年版
前回掲載の旧版地形図画像と縮尺を合わせるため137%に拡大
この版では構造物および地表面レイヤーは未装備

USトポの一部を掲げた(上写真)。縮尺は1:24,000(下注)、1面の図郭は緯度、経度とも7分30秒と、旧来の枠に準じて展開されているものの、見慣れたこれまでの地形図とは全く趣きが異なる。ベースになっているのは、空中から地上を撮影した写真だ。正確にはオルソイメージ(正射画像)といい、撮影時のカメラの傾きや地表の高度差によって写真に生じるひずみを補正してある。その上に、等高線や道路など別途作成されたデータを重ねて生成したのが、この地図だ。

*注 1:24,000を優先的に整備するため、その他の縮尺図の作成については、見通しが示されていない。

こうした写真地図は決して珍しいものではなく、デジタル化以前から作成されていた。地形図は、縮尺に応じて描く対象を取捨選択し、記号化、総描という編集過程を経ることによって読み易さを実現する。そのため、重要度が低いと判断されて描かれないものや、総描でひとまとめにされてしまうものが出てくる。一方、オルソイメージは位置補正を施す以外、ありのままの地表の様子が捉えられているが、土地の高度や地名、建物の機能(たとえば郵便局なのか警察署なのか)など上空から写せないものは表現しようがない。写真地図は、二者を合体しておのおのの欠点を補完することを目論むものだ。

しかし、USトポは、印刷物が前提の写真地図とも異なり、デジタル化の時代らしい特徴を備えている。その一つが、データを複数のレイヤー(層)に分けているという点だ。そのため、画面上で、各レイヤーの表示と非表示を自由に切替えることができる。オルソイメージを非表示にすれば見た目は地形図になり、逆に地形図の要素をすべて非表示にすれば空中写真として使える。

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USトポ 1:24,000 サンフランシスコ北部 2012年版
(上)全レイヤー表示 (下)画像レイヤー非表示

現在のレイヤーの種類は、階層順に以下の通りだ。

「図枠外の記述 Map Collar」
 図名、図歴・図法等、凡例、縮尺など、いわゆる整飾事項のレイヤー。

「図枠内の記述 Map Frame」
 これはさらに以下のレイヤーから構成されている。
-「投影法とグリッド Projection and Grids」 UTM座標値、地理座標値、UTMグリッド線を含む。
-「地名 Geographic Names」 居住地名、自然地名を含む。これらは、USGSが地名委員会 U.S. Board on Geographic Names (BGN) と共同開発した地名情報システム Geographic Names Information System (GNIS) に定義された標準地名。なお、街路名はここではなく、交通レイヤーにある。
-「構造物 Structures」 現在は、消防署(赤四角にFの文字)、病院(青四角にHの文字)に限られる。
-「境界 Boundaries」 行政界(国・州・郡)と名称、自然保護区界と名称を含む。
-「交通 Transportation」 道路と道路番号・街路名、空港(滑走路)とその名称、フェリー航路を含む。道路は、インターステート、連邦道、州道、地方道、森林局U.S. Forest Service所管の道路、4WD道路(四輪駆動など車高の高い車しか通れない)などに細かく分類されている。残念ながら鉄道は対象外。
-「水系 Hydrography」 河川、湖沼、海洋のほか、これらに関係する堰堤、水門、閘門、滝、早瀬、隠顕岩、湧水、運河、パイプラインなどを含む。
-「等高線 Contours」 10~20フィート間隔の等高線。全国高度データセット National Elevation Dataset (NED) から取られているため、旧来の地形図の等高線とは異なる。
-「地表面 Land Cover」 全国地表面データベース National Land Cover Database (NLCD) に拠る。現在は森林のみ、緑のハーフトーンで表示。

「画像 Images」
 最下層にあるオルソイメージのレイヤー。農務省の全国農業画像プログラム National Agriculture Imagery Program (NAIP) を使用しており、解像度(1ピクセル当り)は1mから1フィート(0.3m)かそれより高いとされる。

USGSは、連邦、州、地方の各行政機関と連携して地理的基礎情報のデータベースを構築しており、「ナショナル・マップ(国勢地図)National Map」と称してウェブ上で公開している(下注)。ここには全国規模のシームレスで一貫性のあるデータが集積されていて、自由に取り出して利用できるようになっている。すでに2000年の段階でUSGSは、旧来の地形図更新事業を段階的に縮小して、このデータベースで代替していくと表明していたが、地形図の持つ総合性や記録性を端から否定するつもりはなかったようだ。

*注 ナショナル・マップ・ビューアー National map Viewer
http://viewer.nationalmap.gov/

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USトポの地図記号(一部)

従来の地形図のルック・アンド・フィール(見た目と使い勝手)を保ちながら、ナショナル・マップから得られる最良のデータを組合せて新世代のデジタル地形図を作る。USトポはこのビジョンのもとに作られている。実は、オルソイメージの上に従来の地図記号を単純に載せると、可読性に問題が生じる。写真に無秩序に写り込んだ地物の中に、地図記号が紛れ込んでしまうのだ。USGSは、その問題の解決のためにペンシルベニア州立大学と共同研究を行い、地図デザインの改良に取組んだ。その成果が、新しい地図記号の形状や配色に生かされている。

アドビ社のPDFを拡張した地理参照型PDF (GeoPDF) という形式で配布されているのも特徴だ。ユーザーズガイドには、無償の専用ツールを使うことで、座標値の決定、地点間の距離や角度、面積の測定、GPS端末との連携などが容易になると書かれているが、閲覧だけなら、通常のアドビリーダーでも全く支障はない。

USトポは3年周期で更新される予定になっている。これは、オルソイメージが農務省の全国農業画像プログラム National Agriculture Imagery Program (NAIP) から提供されていて、その更新周期に合せているためだ。しかし、57,000面といわれる膨大な数をわずか3年で一巡させるには、単純計算でも1日50面以上の恐るべき量産化が要求される。手作業の多い旧来の地形図とは違い、地図1面の生成に費やす対話作業は、せいぜいテキスト配置と最終検査程度だという。ナショナル・マップという既存の統合データベースを最大限利用しているからこそ可能な計画だ。

さて、画期的な次世代地形図は、当初のビジョンどおりの仕上がりになっているだろうか。地形図として見た場合、不十分な点は多々ある。構造物レイヤーの情報量が貧弱で、教会や学校のような基本的施設すら表示されていない。交通レイヤーでは鉄道や駅の表示がない。地表面レイヤーでは植生表示が森林のみで、詳細はオルソイメージを解読するしかない。等高線レイヤーでは、精度が低い(甘い)ため道路の屈曲に適応していない。また、かなり拡大しないと主曲線と計曲線の区別がつかない、標高点の記載がない等々。

USGSの資料によれば、地勢を三次元的に表現するぼかし(陰影)を含めて、今後、データやレイヤーの追加が検討されている。つまりUSトポはこれが最終形ではなく、まだ開発途上ということらしい。旧来の地形図のルック・アンド・フィールにできるだけ近づくように、さらなる情報充実と品質改良を期待したいものだ。

USトポは、USGSのサイトにあるナショナル・マップ・ビューアー National Map Viewer か、USGSストア(USGS地形図の閲覧・購入サイト)からダウンロードできる。

Map images courtesy of the U.S. Geological Survey.

■参考サイト
合衆国地質調査所USGS http://www.usgs.gov/
ナショナル・マップ(国勢地図) http://nationalmap.gov/

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 アメリカ合衆国の地形図-廃止された旧体系 II

 アメリカ合衆国のハイキング地図-ナショナル・ジオグラフィック

2013年3月24日 (日)

アメリカ合衆国の地形図-廃止された旧体系 II

今回は、2008年以前のUSGSの地形図体系を縮尺別に見ていこう。

1:1,000,000(100万分の1)

いわゆる国際図(IMW)図式によるシリーズだが、陸軍地図局AMSのクレジットが入った1950年代の編集図(変更多円錐図法 Modified Polyconic Projection による)と、1962年の国連技術会議の決定を受けたUSGS製作のシリーズ(ランベルト正角円錐図法 Lambert conformal Conic Projection による)の2系統があり、図郭によっては併存する。本来ならUSGS版で置換えを完了すべきところ、予定面数の半分にも達しないうちに事業が中止されてしまったからだ。そのため、最も新しいものでも1979年の編集で、資料としてはいささか古びている。しかし、州を越えた100km単位の広域で地勢、鉄道網などを概観したいときには、今でも役に立つ。

緯度4度、経度6度の図郭で、地勢表現は等高線と段彩による。高度表示は日本人にとって扱い慣れたメートル法のため、読図に抵抗がない。国際図については、下記サイトで、合衆国エリアを含む世界各地の地図画像が公開されている。

■参考サイト
ペリー・カスタネダ図書館地図コレクション > 国際図
http://www.lib.utexas.edu/maps/imw/

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1:1,000,000 カスケード山脈 1951年版

1:500,000

州別地図 State map の形式をとっているので、州域全体をある程度詳しく見たいときに適した地図だ。1州1面が原則だが、州の面積は、最小のロードアイランド州と最大の(アラスカは別として)テキサス州で170倍以上の開きがある。そのため、ニューハンプシャーとバーモント、コネチカット(下注)とマサチューセッツとロードアイランド、デラウェアとメリーランドはそれぞれ複数州で1面となる一方、カリフォルニア、ミシガン、モンタナの各州は2面に、テキサス州は4面に分割されている。

*注 コネチカット州の州別地図は、1:125,000の単独版もカタログに掲載されている。

用紙サイズもかなり大きいものがあり、例えばカリフォルニア州は北部版、南部版とも54×44インチ(137×112cm)と、平図のままでは取扱いに苦労する。

州別地図には、3つの異なる版が存在した(必ずしも全ての州で3つの版が揃っているわけではない)。1つ目は「基本図 Base map」で、交通網、水部、居住地、行政界、公有地界など地図の基本項目は網羅しているが、等高線は省かれている。2つ目は「地形図 Topographic map」で、「基本図」に等高線が入る。3つ目は「ぼかし地図 Shaded-relief map」で、「地形図」にさらに地勢を表すぼかし(陰影)が加わる。日本の1:200,000地勢図に似た仕様だが、多くの場合、ぼかしは濃いめにかけられ、立体感が強調されている。なお、どの版も州の外側はほぼ完全に白紙で、道路や河川が州境を越えるとどの方向へ進んでいくのかはわからない。

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1:500,000 カリフォルニア州南部 「地形図」 1981年版
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1:500,000 コロラド州 「ぼかし地図」 1980年版

なお、州別地図については、1:1,000,000(100万分の1)バージョンも一部の州、一部の版で刊行されていた。また、アラスカの州別地図には1:500,000がなく、カタログに掲載されているのは1:1,584,000(158万4千分の1)、1:2,500,000(250万分の1)、1:5,000,000(500万分の1)、1:12,000,000(1200万分の1)などだ。

1:250,000からは、図郭の経緯度幅を用いた独特の名称がある。1:250,000は"1x2 (one by two) degree map"といい、緯度1度、経度2度の範囲の図郭という意味だ。個々の図は1x2 degree quadrangle(クウォドラングルは四角形の意)とも表現する。同じように1:100,000は"30x60 minute map"、図郭は緯度30分、経度60分(=1度)になる。たまたま経緯度の区切りがそうだというだけで、縮尺との間に有意の関係はないのだが、通称としてよく見かける。

1:250,000(1×2度地図)

150km程度の幅のまとまった地域を概観することができる地形図で、合衆国本土(アラスカ州を除く)を489面でカバーする。このシリーズはUSGSのオリジナルではなく、1950年代に陸軍地図局AMSが作成した軍用地図をベースにしている。USGSがそれに適宜、経年変化の修正を加えてきた。

出自の違いは、他の中縮尺図と異なる地図記号にも表れている。合衆国の地図では、鉄道は概して不遇で、省かれるか、そうでなくても消え入りそうな細線で描かれることが多いが、ここでは太めの目立つ実線だ。また、市街地には他で使われない黄色のベタ塗りが配され、図面上のアクセントになっていた(改訂図式では色数が減らされたため灰色のアミとなり、効果は薄れた)。

地勢表現は原則として等高線のみによるが、初期の図にはぼかし(陰影)を加えたものも散見される。等高線間隔や高度表示はフィート単位で、距離もマイルで示される。カタログでも図上1インチが実長約4マイルと記されていて、実用上は1/4インチ地図 Quarter-inch Map(分数化すると1:253,433)と同等に扱われているようだ。従来は平図で頒布されていたが、近年の刊行図は折図仕様で、表紙の色は等高線の茶色を用いる。

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1:250,000 サンフランシスコ 1956年版
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1:250,000 カンザスシティ(ぼかし付加) 1954年版

なお、ハワイ州の1:250,000は、島の位置に合わせた特別図郭で4面ある。また、アラスカ州では、アラスカ探査シリーズ Alaska reconnaissance series と呼ばれる旧版が153面で本土と付属島嶼をカバーしていたが、より精度を高めた新シリーズへ置換えが順次実施された。

下記サイトで、合衆国全土の1:250,000の地図画像を見ることができる。ページ最上段にある索引図で図名を検索するとよい。

■参考サイト
ペリー・カスタネダ図書館地図コレクション>合衆国地形図1:250,000
http://www.lib.utexas.edu/maps/topo/250k/

1:100,000(30×60分地図)

緯度30分、経度60分(=1度)の図郭をもつ地形図で、1面で東西80km、南北50km程度の範囲をカバーする。かつて中縮尺図として1:125,000(下注)が作られていたが、第二次大戦後、1:24,000から新たに編集されたこのシリーズに置換えられた。旧図に比べて図郭は、東西方向が2倍に拡大されている。

*注 1:250,000を2倍に拡大した縮尺。図上1インチが実長2マイルを表す1/2インチ地図 Half-inch Map とほぼ同等。

比較的新しい設計のため、等高線間隔、高度表示ともメートル法に統一され、図上1cmが実長1kmという切りの良さと相まって、使い易いものに仕上がっている。地勢表現は、等高線のみの簡潔なスタイルで、表紙の色は水色だ。一部の図葉では等高線を省いたプラニメトリック(平面図)版 Planimetric edition も用意されていた。

なお、この地形図をベースにして、土地管理局 Bureau of Land Management は、国有地などの範囲を加刷した土地管理区分図 Surface Management Status および表層鉱物管理区分図 Surface Minerals Management Status を製作している。これは主として西部各州をカバーする。

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1:100,000 カンバーランド 1981年版

1:62,500または1:63,360(15分地図)

緯度15分、経度15分の図郭のため、15分地図 15 minute map と称する。本土48州とハワイ州では縮尺1:62 500で作成された。これは1:125,000を2倍に拡大した縮尺で、図上1インチが実長でおよそ1マイルとなる。東部では19世紀から着手されていたが、全国をカバーすべく本格的に製作が始まったのは1910年とされ、それ以来1950年代まで、合衆国の基本地形図に位置付けられていた。比較的遅い時期まで残っていたので、目にする機会は多い。ハワイ州では、最大のハワイ島を除き、1島を1面に収めた図郭拡大版が作成されている。

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1:62,500 ジョージタウン 1903年版

一方、アラスカ州では、本来の1インチ地図(図上1インチが実長1マイル)である1:63,360で作成された。2008年のカタログでは、州域2920面のうち97%が製作済とされている。いずれも等高線間隔、高度表示はフィート単位だ。

これら15分地図の作成・更新は、アラスカ州を除いて、より大縮尺の1:24,000に主役の座を譲る形で廃止された。そのため、合衆国は、先進国では縮尺1:50,000かそれと同等の区分地形図を維持していない唯一の国となっていた(下注)。

*注 ただし、各郡域を描く郡別地図 County Map の多くは、旧版1:62,500から編集された1:50,000地形図だ。

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アラスカ州1:63,360 スワードD-5 1952年版

1:24,000(7.5分地図)

緯度、経度とも7分30秒の図郭をもつこのシリーズの普及で、アラスカ州を除くと、これが合衆国の基本地形図になった。いうまでもなく最大の地形図シリーズで、1947年から鋭意製作が進み、本土48州については1991年に整備が完了した。オンラインカタログによると、面数は48州とハワイ州、海外領土 U.S. Territories を合わせて約57,000面あるとされる。ちなみに、日本の1:25,000地形図は全部で4,372面(2013年3月現在)だ。1面の大きさが日本の2倍以上あるのに面数が約13倍だから、全体のボリュームは想像を超えている。

なお、アラスカ州は、先述のとおり1:63,360が基本地形図とされているが、アンカレジ Anchorage、フェアバンクス Fairbanks、プルードー湾 Prudhoe Bay 周辺で1:25,000が作成されている。

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1:24,000 ワシントン西部 1956年版(再掲)
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1:24,000 ワシントン西部 1983年改訂版
改訂個所はマゼンタで加刷されている

1960年代後半からは並行して改訂作業も始まったが、予算上の制約により、各原版に手を入れる全面改訂ではなく、主として、変化した個所をマゼンタ(赤紫色)で加刷する方式(訂補 minor revision あるいは基本修正 basic revision)が採られた。修正は空中写真や行政資料に基づくもので、現地調査はしていないという断り書きも見られる。

これとは別に、農務省森林局 U.S. Forest Service が改訂を加えた版(刊行はUSGS)も流通している。そこでは、国有林 National Forest 内にある山道の状態や道路番号、管轄地の分布といった情報が付加されている。

ところで、ふつうなら1:25,000とすべきところを、なぜ1:24,000という半端な縮尺にしているのだろうか。それはこの地形図が、図上1インチで実長2000フィート(=24000インチ)を表すという、純然たるヤード・ポンド法で描かれているためだ。当然、等高線間隔や高度の表示もフィート単位になる。イギリス、アイルランド、ニュージーランドなどもかつて地形図にヤード・ポンド法を用いていたが、とうにメートル法への切替えを完了している。それに比べて合衆国の場合、測地測量の単位がフィート(測量フィート)のままという理由もあるようだが、地形図体系は混乱気味だ。

むろんUSGSも状態を放置していたわけではなく、縮尺を1:25,000に変え、高度もメートル法表示にした新版の刊行に着手していた(下注)。このバージョンは、図郭を東西方向で2倍(経度15分)に拡大し、7.5×15分地図と称した。薄緑色の表紙もつけて、先述の1:250,000や1:100,000と仕様を共通化しようとしていたのだ(下図参照)。しかし、予算不足で更新は遅々として進まず、結局、新しいデジタル地図(次回詳述)では、図郭も縮尺も単位系も、多数派である旧来のものを採用せざるを得なかった。メートル法への統一は、当面おあずけの状況だ。

*注 ただし、等高線は描き直さず、等高線間隔10フィートは3mに、20フィートは6mに換算表示していた。

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1:25,000 ボストン南部 1987年版

ここまでがUSGS地形図の旧体系の概要だが、新体系ではこれがどのように整理され、変貌したのだろうか。次回はその内容を見ていきたい。

Map images courtesy of the U.S. Geological Survey.

■参考サイト
合衆国地質調査所 USGS http://www.usgs.gov/
ナショナル・マップ(国勢地図) http://nationalmap.gov/

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 アメリカ合衆国の地形図-廃止された旧体系 I
 アメリカ合衆国の地形図-新シリーズ「USトポ」

 ペリー・カスタネダ図書館地図コレクション
 アメリカ合衆国の州別地図帳-ナショナル・ジオグラフィック
 カナダの地形図

2013年3月23日 (土)

アメリカ合衆国の地形図-廃止された旧体系 I

1884年12月5日、アメリカ合衆国地質調査所 U.S. Geological Survey(以下、USGSという)の第2代所長ジョン・ウェズレー・パウエル John Wesley Powell は、連邦議会で次のように証言した。「この国に適した地形図を構築すること以上に、政府は、人々の役に立ついかなる科学事業もなしえません。」 民生用地形図作成の幕開けを告げる声明だった。時は移り2009年、USGSは地図事業が始まって125年になるのを盛大に祝ったが、皮肉なことにその時すでに、パウエルの後継者たちは、地形図の改訂作業を放棄してしまっていた。伝統的な手法による地形図の維持更新は、前年の2008年をもって中止されたのだ。

印刷を前提にした地図の時代は終わり、現在は、その代替として特別なフォーマットによるデジタル地図(USトポ)が提供されている。製作過程は大きく異なるものの、図郭の踏襲を含め、従来の地形図の使い勝手をそがない配慮を払った設計が特徴だ。一方で、これまで製作されてきた膨大な数の地形図も、価値ある歴史資料として、インターネット上で大規模に公開されている。これから数回にわたり、アメリカ合衆国の変貌する地形図体系を、過去から現在へと順に紹介したい。

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1:24,000 ワシントン西部 1956年版の一部
右端にユニオン駅や国会議事堂、中央にホワイトハウス、左はポトマック川

地形図の用途には大別して軍用と民生用がある。もとをたどれば、地形図は主に軍事作戦や国土防衛のための資料として整備されたのだが、近代国家が成熟する過程で、段階的に機密が解除され、国土の開発計画や民間のさまざまな用途に供されるようになった。

USGSは1879年に創設され、それまで陸軍工兵隊と内務省が行っていた地図製作業務を引き継いだ。1917年、アメリカの第一次大戦参戦を機に、海外(特に欧州)の地形図整備のために軍用地図部門が新たに編成されていった(下注)が、USGSは内務省のもとで民生用地形図の製作部局としてとどまり、現在に至っている。

*注 このとき陸軍工兵隊に設置された工作複製部隊 Engineer Reproduction Plant (ERP) が、第二次大戦下の1941年に、戦後日本の地形図作成にも少なからぬ影響を及ぼした陸軍地図局 U.S. Army Map Service (AMS) に発展する。

2008年以前、USGSの地形図は次のような体系を持っていた。

・合衆国全図 1:10,000,000(1000万分の1、1982年版)、1:7,000,000(700万分の1、1974年版)、1:6,000,000(1974年訂補版)、1:3,168,000(1インチ50マイル図、1965年版)、1:2,500,000(1972年版)
・1:1,000,000国際図
・1:500,000州別地図
・1:250,000 (1×2度地図 1x2 degree map)

*注 以上は、USGS "Index to Small-scale Maps of the United States", April 1, 1989による。ただし、第二次大戦以前の編集図は省略した。

・1:100,000 (30×60分地図 30x60 minute map)
・1:62,500 (15分地図 15 minute map)。アラスカ州は1:63,360
・1:24,000 (7.5分地図 7.5 minute map)。一部図葉は1:25,000

USGSが築いた地図体系は、さまざまな地図カタログからも跡をたどることができる。"Catalog of Maps"(下写真) は、地図の種類をサンプル図とともに列挙したリーフレットだ。本稿の記述の多くもこれに拠っているが、地形図はもとより、USGSのもう一つの重要業務である地質調査、鉱物資源探査などに関するカラフルな地図も多数紹介されていて、たいへん興味深い。内容はUSGSのサイトにも転載され、今でも残置されているが、地図画像が粗くて詳細が読み取れないのが残念だ。

■参考サイト
USGS地図オンライン版-地形図(内容は従来地形図廃止以前の状況)
http://egsc.usgs.gov/isb/pubs/booklets/usgsmaps/usgsmaps.html

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"Catalog of Maps" 1991年8月版、表紙と内容の一部

ほかに地形図に特化したものでは、小縮尺図(合衆国全図~1:250,000)の索引図 "Index to Small-scale Maps of the United States"、中縮尺図(1:100,000、郡別地図)の索引図 "Index to Intermediate-scale Mapping"、同(7.5および15分地図)の刊行・改訂範囲の表示図 "Status of Topographic Mapping" などがある。図葉ごとに刊行年次や異版の列挙など、刊行状況が詳しく記載されている貴重な資料だ。

これらは全国版だが、州ごとの編集版も別に用意されている。「刊行図索引図 Index to Topographic and Other Map Coverage」と「刊行図カタログ Catalog of Topographic and Other Published Maps」だ。

「刊行図索引図」は、当該の州に関するすべての地形図シリーズの索引図を集めたもので、簡単な紹介記事もついている。とりわけ1:24,000地形図の索引図は、居住地名、交通網、水部が描かれた図をベースにしていて、膨大な面数から見たい図葉が簡単に特定できる優れものだ。

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州別刊行図索引図、カリフォルニア州版 (左)表紙 (右)索引図の一部

「刊行図カタログ」は、縮尺別にファイル番号、図名、刊行年、索引コードを列挙したリストを収載している。索引コードというのはUSGSの作成図に共通のコード体系で、5桁の数字で緯度(2桁)と経度(3桁)を、次の2桁でその枠内の位置を、次の1桁で地図の種別を、次の1桁で単位系(フィートまたはメートル)を、次の3桁で縮尺を表す(下写真)。地形図の表紙や整飾にも必ず記載されていたが、新しいデジタル地図では省かれてしまった。

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刊行図カタログ、カリフォルニア州版 (左)表紙 (右)刊行図リストの一部
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索引コード

これらUSGSの地形図は直販サイトまたは合衆国内の主要地図商で扱っていて、旧体系の更新が廃止された今でも、現物のストックがあればそれを、なければプリンタ出力のコピーを送ってくれる。ただし、USGSの直販サイトは国内専用のため、国外から発注するには、注文書面をFAXか郵送しなければならなかった。しかし、高精度の地図画像が製作時期の新旧を問わずPDFファイルで直接入手できるようになった今では、その手間も昔語りになったといっていい。

ウェブサイトからのダウンロードについては、稿を改めて紹介することにして、次回は、この地形図体系を個別に見ていこう。

(2006年12月8日付記事を全面改稿)

Map images courtesy of the U.S. Geological Survey.

■参考サイト
合衆国地質調査所 USGS http://www.usgs.gov/
ナショナル・マップ(国勢地図) http://nationalmap.gov/

★本ブログ内の関連記事
 アメリカ合衆国の地形図-廃止された旧体系 II
 アメリカ合衆国の地形図-新シリーズ「USトポ」

 アメリカ合衆国の州別地図帳-ナショナル・ジオグラフィック
 ペリー・カスタネダ図書館地図コレクション
 カナダの地形図

2013年3月10日 (日)

アメリカ合衆国の州別地図帳-ナショナル・ジオグラフィック

赤表紙のデローム、黒表紙のベンチマーク・マップス、この二社で占められていたアメリカの州別地図帳界に、2012年、突如三社目が現れた。モバイル機器の普及で紙地図の未来にいささかの不安を抱いていただけに、それは予想外の朗報だった。新参の名乗りを上げたのは、黄表紙をまとうナショナル・ジオグラフィック・マップス National Geographic Maps。いうまでもなく、ナショナル・ジオグラフィック協会 National Geographic Society(以下、協会という)の地図部門だ。

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シリーズの1点 ミシガン州版

同部門は1915年の創設で、アメリカ地図業界では老舗の部類に入る。協会が刊行する「ナショナル・ジオグラフィック」誌の付録地図や掲載図を通じて、ほぼ1世紀にわたり、学術地図の分野で評価を確立してきた。また、地図帳、壁掛け地図(ウォールマップ)、レクリエーション地図や旅行地図など、学校教育や一般分野でも多数の製品を送り出している。その意味でこれは、大御所の登場と言えよう。

「レクリエーション・アトラス Recreation Atlas」と名づけられた州別地図帳シリーズは、昨年(2012年)5月に五大湖周辺のミシガン州とミネソタ州の2巻が刊行されたのが最初だ。同年9月に同じくウィスコンシン州と、南部のジョージア、アラバマ、フロリダの3州が続刊され、現時点で6州6巻が入手できる。また、公式サイトの告知によれば、間もなくニューヨーク、ペンシルベニア、バージニアの東海岸3州が、ラインナップに加わるようだ(2013年3月下旬刊行予定)。刊行のペースはかなり速く、デロームの向こうを張って全国をカバーするのも時間の問題かもしれない。

地図帳の判型は横11×縦15インチ(27.9×38.1cm)、ページ数は州によって異なるものの112~144ページだ。綴じ方や用紙の質を含めて先行2社と大差なく、同じ土俵での勝負は覚悟の上のようだ。

ページ構成はどうだろうか。最初の見開きは「全米道路地図 United States Highway Map」、次が当該州の道路地図で、幹線道路と主要都市を州境とともに描いたものだ。ベンチマークのように地勢を表すぼかしも入れられ、平面的な道路地図とは一線を画している。ただ、ベンチマークではここが導入部として効果的に使われていたが、協会版はテーマとなる州を目立たせたり、詳細図の索引図を添えたりしてはおらず、単なる扉地図という位置づけにとどまる。

次は「州内の見どころ Places of Interest」の紹介で、1個所10~20行程度の概要とともにカラー写真が配され、場所のイメージを喚起する。続く「自然・気候図 Physical & Climate Maps」では、見開きに土地利用図、地形学的あるいは生態系分類図、そして州内の降水量、気温、結氷初日、紅葉期間などを表した気候分布図が多数配置される。こうした情報ページは2社の及ぶところではなく、豊富な地理データを有する組織の特色が全面に出ている。

その後は、各社とも力を注ぐレクリエーション情報のページだ。協会版も、キャンプ場、州立公園、トレール、ゴルフ場・スキー場、湖・水浴場と、一通りのリストが揃っている。見開きの左ページに場所を記した州全図、右ページに文字情報をそれぞれ配置する方法は、ベンチマークの「レクリエーション」セクションと似ているが、まとめ方には違いがある。ベンチマークが区分図に含まれる地域単位で文字情報を一括りにするのに対し、協会版は情報の項目ごとに地図を当てる。つまり、行動するエリアが決まっていて、そこでどんなレクリエーションが楽しめるかを知りたいなら前者が役に立つ。そうではなく、やりたいスポーツが決まっていて、それが州内のどこでできるかを知りたいなら後者がいい。

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区分図の例、ミシガン州版表紙より
(c) natgeomaps.com, 2013

メインである区分図の図式にも個性が滲み出る。まず縮尺だが、デロームの場合、州によってまちまちで、州境を越えての探索に戸惑いを覚えることがある。その点、協会版は今のところ1:175,000(南部3州)か1:150,000(それ以外の州)に統一されている。今後、面積や人口密度が極端に異なる州が対象になってくればこれほどスマートには行かないだろうが、縮尺はできるだけ広域で揃っているのが望ましい。

地図記号については、道路や公有地界などの表現はデローム(新図式)と似たり寄ったりだ。そもそも、道路の配色や番号を配する図形などは、道路地図で一般的に使われる一種の約束事になっていて、変えようがない。それに協会版の図式は1枚ものの旅行地図などで早くから使われていて、2009年ごろに現れたデロームの新図式のほうが後発だ。デロームが改良に際して協会版を参照したとすれば、似ていても不思議なことではない。

注記文字では、協会版はデローム新図式よりポイントが小さめだが、字体の工夫で決して読みにくくはない。むしろデロームのほうが、集落名のポイントの大きさと比べて街路名が小さすぎるなど、バランスの点で問題がある。

一方、地勢表現は、両者で大きな差があるところだ。デロームは、メッシュ標高から生成した等高線のため、滑らかさがなく、あまりに小さな閉曲線など一部で不自然な表現が残るが、読取りに支障はない。一方の協会版は、おそらくUSGS(合衆国地質調査所)のラスタデータを利用しており、正確な代わり、縮尺に比べて等高線間隔が狭くなる(注1)。平野部はともかく、ちょっとした傾斜地でもぎっしり詰まってしまう。ぼかし(陰影)も掛っているのだが、薄すぎるのか、影の部分が等高線の集積と重なるためか、効果を発揮していない(注2)。この点ではデロームに分があるだろう。

*注1 縮尺1:175,000で等高線間隔50フィート=15m。日本の官製1:200,000の同100mはもとより、1:50,000の同20mに比べても狭い。
*注2 3月刊行のペンシルベニア州版のサンプルでは、ぼかし効果の改良が見て取れる。

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区分図の凡例(一部)

根っからの地図ファンでもない限り、同じ州の地図帳を複数揃えようとは思わない。1冊だけ選ぶとすれば、デローム、ベンチマーク、協会版のどれにすべきか迷うところだ。そのうち、ベンチマークと協会版は、現時点では前者が西部、後者は中部から東部と棲分けができていて、競合しない。そのためか、協会自身のオンラインショップで、ベンチマークの地図帳が堂々と販売されている。

問題は、デロームと協会版が両方刊行されている州だ。比較すれば上述したような差異があるほか、協会版は、各ページに配された凡例(地図記号一覧)、現在ページや接続ページの明瞭な表示など、使い易さがよく研究されている。デロームの先駆者としての功績に敬意を払いつつも、全体的なデザインの洗練度も総合的に勘案して、筆者は協会版のほうに軍配を上げたいと思う。

■参考サイト
ナショナル・ジオグラフィック・マップスのページ http://www.natgeomaps.com/
地図帳に関する情報は、トップページ左メニューの"State Recreation Atlases"

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