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2019年6月23日 (日)

フォルヒドルフ鉄道-標準軌の田舎電車

フォルヒドルフ鉄道 Vorchdorferbahn

ランバッハ Lambach ~フォルヒドルフ・エッゲンベルク Vorchdorf-Eggenberg 間 14.7km(うち 3.8kmは ÖBB線を走行)
軌間1435mm(標準軌)、直流750V電化
1903年開通

前回まで3回にわたり、グムンデン駅からフォルヒドルフまで、トラムの行路をたどってきた。今回のテーマ、フォルヒドルフ鉄道はその続きになるが、起点がランバッハ Lambach なので、そちらから順に話を進めよう。

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ランバッハ駅11番線に停車中の
フォルヒドルフ鉄道の電車
 

その日、降り立った西部本線 Westbahn の中間駅ランバッハのホームはひっそりとしていた。普通列車しか停まらないというだけではない。この駅の西にある急カーブを避けるバイパス線ができたため、特急や貨物など通過列車は構内を通らないからだ。その静かな駅の東側に、屋根も案内板もない、忘れられたような頭端式の11番線がある。フォルヒドルフ鉄道 Vorchdorferbahn の列車は、ここから出発する。

もともとここは、隣の12番線とともに、ÖBB(オーストリア連邦鉄道)ランバッハ=グムンデン地方線 Lokalbahn Lambach–Gmunden(以下、トラウンタール線 Trauntalbahn)と共用していた。トラウンタール線は、トラウン川の谷沿いにグムンデン・ゼーバーンホーフ Gmunden Seebahnhof へ通じる路線だが、旅客輸送は1988年5月に廃止されてしまった(下注)ので、今はフォルヒドルフ鉄道の車両しか入ってこない。12番線は長らく使われていないらしく、ホームは雑草に覆われている。

*注 貨物輸送もシュタイアラーミュール Steyrermühl とラーキルヘン Laakirchen にある製紙工場までで、以遠の区間は実質廃線。

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ランバッハ駅
(左)駅舎 (右)ÖBB線のホーム
 

フォルヒドルフ鉄道は、平日19往復(2019年6月現在、下注)運行されているが、間隔は30分から2時間とまちまちで、活性化前のトラウンゼー鉄道と似た状況だ。経済的に結びつきの強いヴェルス Wels やリンツ Linz など東部方面の列車との接続を優先するダイヤが組まれている。

*注 他の路線と同様、土曜は9往復、日曜祝日は7往復に削減される。

この路線も、地元の交通企業シュテルン・ウント・ハッフェルル社が運行を担っているが、車両や設備が一新されたトラウンゼートラム Traunseetram とは対照的に、現状維持にとどまっているというのが第一印象だ。グムンデン市が再生を推進した前者に比べて、沿線にそれほど有力な自治体が存在しないという事情が影響しているのかもしれない。

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グムンデン周辺の鉄道路線の位置関係
緑がフォルヒドルフ鉄道
 

訪れたときは、細身の旧形車がぽつんと客待ちしていた。標準軌の電車で、車番はET 20 109。1956年製だから、車齢は60年を超えている。しかし車内はそれらしい広さがあり、窓が大きいので明るい。清掃も行き届いているようだ。座席は背中合わせの2人掛けシートで、低い背もたれはレールバスのそれを思わせる。乗り込んだのは朝10時台の便で、初めは他に誰もいなかったが、出発直前に本線の連絡列車から3人が乗継いだ。

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(左)前後を絞ったスタイルの標準軌電車ET 20 109
(右)側窓にフォルヒドルフ往復の表示
 
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(左)運転台、右手前に乗車券発行機
(右)車内は広めで窓が大きい
 

フォルヒドルフ鉄道とトラウンタール線との施設共用は駅構内にとどまらない。ランバッハから次のシュタッドル・パウラ Stadl-Paura まで3.8kmの間、同じ線路を走っている。線路の所有権から言えば、この間はÖBB線なので、フォルヒドルフ鉄道の列車が乗り入れている形だ(下注)。

*注 シュタッドル・パウラ以南のフォルヒドルフ鉄道独自の区間は、連邦政府のほか、州、沿線自治体、シュテルン・ウント・ハッフェルル社等が共同出資するランバッハ=フォルヒドルフ・エッゲンベルク地方鉄道株式会社 Lokalbahn Lambach-Vorchdorf-Eggenberg AG が所有する。

やがて発車時刻になった。ランバッハ駅を後にすると、列車は、側線に留め置かれた貨車の群れを見ながら北東へ走り、やがてゆっくりと右へそれていく。このカーブは長く続き、結局反転して西を向いてから、トラウン川を渡る。地図(下図参照)を見ても不自然な逆行ルートだが、これには理由がある。

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(左)ランバッハ駅を出発
(右)トラウン川を渡る
  (いずれも列車後方を撮影)
 

ÖBBトラウンタール線は今でこそ支線だが、意外にも、主要幹線である西部本線より歴史が古い。前回や前々回にも少し触れたとおり、ルーツは、岩塩輸送のために1836年に開通したブドヴァイス=リンツ=グムンデン馬車鉄道だ。現在のシュタッドル・パウラが当時、ランバッハ(アルト・ランバッハ Alt-Lambach)駅だった。1855~56年には、リンツ~グムンデン間が蒸気鉄道に転換されている。しかし、ウィーンとザルツブルクを結ぶ皇后エリーザベト鉄道(現 西部本線)が開通すると、並行するリンツ~ランバッハ間は1859年に廃止され、代わりに新設の現 ランバッハ駅からトラウン川橋梁の手前まで接続線が造られた。それがこの逆行ルートだ。

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ランバッハ周辺の地形図に鉄道ルートを加筆
緑色の線がフォルヒドルフ鉄道
Image from bergfex and OpenStreetMap, License: CC BY-SA
 

シュタッドル・パウラでは最も左側の線路に移るとともに、トラウンタール線から分かれて独自ルートへ入っていく。森と畑が交錯する中を、くねくねと落ち着きなく曲がる。線路こそ標準軌だが、線形は軽便鉄道と大差ない。

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(左)シュタッドル・パウラを通過
(右)森と畑が交錯する中をくねくねと
  (いずれも列車後方を撮影)
 

最初に停車したのはバート・ヴィムスバッハ・ナイドハルティング Bad Wimsbach-Neydharting で、起終点以外では唯一の町だ。中間の全駅・停留所がリクエストストップ扱いで、列車交換か乗降がなければ停車しない。乗車券も、駅に自販機などは置いておらず、乗り込んだときに運転士から購入するという、路線バス方式だ。

しばらく段丘の崖際を走り、直線では速度計が50km/hに達した。アウ Au という停留所を通過する。アウは水辺や湿地を表す地名語(下注)だが、オーストリアでは最も短い駅名だという。昔ながらの施設設備かと思いきや、停留所の改修は地道に行われていて、ここにも小ざっぱりした待合所が出現していた。

*注 実際の発音はアオに近い。各地に見られる Aue、Ach、Ache などの自然地名もこれと同源。

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アウ停留所
待合室の壁にも Au の文字が
 

また建物が増えてきたと思ったら、もうフォルヒドルフだ。フォルヒドルフ・シューレ(学校)Vorchdorf Schule で停車して、一人降りた。町の中心へはこの停留所が近い。次が終点のフォルヒドルフ・エッゲンベルクで、車庫兼整備工場の脇を通って到着した。ランバッハからの所要時間は25分。何本かの側線を隔てたメーターゲージの線路で、グムンデン方面へ行く連接トラムが接続待ちをしている。

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フォルヒドルフ・エッゲンベルク駅に到着
 

最後に、この路線の歴史について簡単に記しておこう。

フォルヒドルフ鉄道、正式名ランバッハ=フォルヒドルフ・エッゲンベルク地方鉄道 Lokalbahn Lambach–Vorchdorf-Eggenberg は、1903年9月13日に蒸気鉄道として開業した。建設計画は1897年に地元の交通企業であるシュテルン・ウント・ハッフェルル Stern und Hafferl 社から出されていたが、ランバッハ駅を共用することから、運行管理は当初、国鉄が行った。

しかし、世界恐慌の影響で経営が悪化した国鉄が地方路線の見直しを進める中で、1931年にシュテルン・ウント・ハッフェルル社が運行を引き継いだ。同社は電化工事を実施し、蒸気から電気運転に切り替えた。以来、フォルヒドルフ鉄道は、接続するトラウンゼー鉄道などとともに、同社によって粛々と運行されている。1980年代までは、終点駅の南に位置するエッゲンベルク城ビール醸造所 Brauerei Schloss Eggenberg への貨物線も使われていたが、今は休止状態のようだ。

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同駅の標準軌エリア
奥の建物は車庫兼整備工場
 

次回は、トラウン湖の西隣にあるアッター湖 Attersee へ足を延ばす。

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