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2018年12月31日 (月)

オーストリアの新しい1:250,000地形図

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1:250,000地形図表紙
ウィーン 2011年

1:50 000更新停止の断を下したわが国の例を引くまでもなく、官製地形図の印刷物刊行は世界的に見ても縮小傾向にある。デジタルデータで提供するほうが、多様化している利用形態に適応しやすいとか、製作・流通にかかるコストが削減できるといった点で、有利とみなされているのは明らかだ。

しかし、オーストリアの測量局BEV(連邦度量衡測量庁  Bundesamt für Eich- und Vermessungswesen)は、今のところその趨勢に与していない。もともと地形図の種類(縮尺)が少なかったという背景があるとはいえ、基本的な印刷図の提供体制が維持されているからだ。ただし、細部には変化があり、19世紀以来の歴史をもつ1:200,000は最近、新しい1:250,000地形図に置き換えられた。そこで今回は、この新シリーズの内容を見てみよう。

BEVの公式サイトで新たな印刷地図の刊行が告知されたのは、2011年6月8日だった。それはオーストリア全土をカバーする1:250,000地形図で、12面から成るというものだ。当時、さっそくウィーンの地図商フライターク・ウント・ベルント Freytag & Berndt に注文を出して、実物を数点取り寄せた。

新しい地形図は横91cm×縦57.5cmの用紙サイズで、通常折図で販売されている。表紙のシンボルカラーには、1:25,000の緑、1:50,000の青、1:200,000のオレンジに対して紫色があてられ、図名の都市を象徴する風景写真が配されている。地図の図郭は、経度2度×緯度1度の横長サイズ、すなわち旧1:200,000区分図の2面分に相当し、図番は、1:1,000,000(100万分の1)国際図の図郭を基にしたもの(例:ウィーン図葉はNM33-12)になった。

座標系は、UTM(ユニバーサル横メルカトル)系のETRS89に切り替えられている。これで、先行して2002年から刊行されていた1:50,000や1:25,000の新版(ÖK50-UTM、ÖK25-UTM)と、ようやく足並みがそろった。隣接図葉との間に図上2cm程度の重複を持たせ、図の上端と右端が断切り(たちきり)にされ、貼合せの便が図られているのも同じ体裁だ。

旧1:200,000と比べると、地図は淡泊な印象を受ける。その原因は、色や文字書体の使い方にあるだろう。森林を表すアップルグリーンは薄めのトーンにされ、地名注記の書体も細身のものに変えられたからだ。一方、等高線にぼかし(陰影)という地勢の表現方法は踏襲されている。等高線の版は旧1:200,000と同じデータのように見えるが、アルプスなどで広範囲に現われる露岩の描写は新たに書き起こされている。

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1:200,000図(左)と1:250,000図(右)の比較
インスブルック周辺
© BEV, 2011

地図記号で最も目立つ違いは市街地の描写だ。旧1:200,000の場合、黒抹家屋か総描家屋が丁寧に置かれていたが、新図ではローズピンクの面塗りで、外郭線はかなり大雑把、その上に載る市街地の道路網も最小限度しか描かれていない。また、小さな集落は大小の円を用いて、位置を示すにとどまる。

ただしこれは市街地の話で、郊外では、道路番号や区間距離、インターチェンジの名称、サービスエリア、パーキングの位置など、旧1:200,000にはなかった情報の地図記号が追加され、道路地図の要件を付与されている。

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1:250,000 凡例の一部

新1:250,000の刊行が始まった時点では、まだ従来の1:200,000州別図がカタログに残っていた。近似した縮尺の地形図が並行して販売される形になり、唐突感とともに、驚きと戸惑いを覚えたものだ。そのうち1:200,000の記述は消え、1:250,000に一本化されたのだが、なぜ地図の縮尺が変更されたのだろうか。

実のところBEVは、1:200,000の紙地図を刊行する傍ら、ここしばらく1:250,000のデジタルデータベースも作成していたのだ。これには、欧州各国の測量機関が参加するユーロジオグラフィクス EuroGeographics という組織が関係している。そこでは欧州の空間データ基盤のコンポーネントとして、ユーロリージョナルマップ EuroRegionalMap と呼ばれる1:250,000の汎用ベクトルマップが運用されており、参加機関はそれに対して、収集した地理情報データを供給しなければならない。従来1:200,000を維持してきたオーストリアやドイツのような国も例外とはいかず、二重の編集作業を強いられていた。そこでBEVは体制を見直し、印刷図もこのデータベースからの出力、すなわち縮尺1:250,000で刊行することにしたのだ。

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1:250,000索引図

新図にはもう一つ、注目すべき特徴がある。公式サイトの紹介ページにこう書かれている。「(このシリーズは)軍事地理研究所 Institut für Militärisches Geowesen (IMG) の協力を得てBEVによって製作され、民生用であるとともにオーストリア軍の公式軍用地図としても使われる。内務省の国家危機災害対策局 Staatlichen Krisen- und Katastrophenschutzmanagement (SKKM) は、すべての危機対応組織に対して、この地図製品を計画と活動の基本資料として推奨している。」

軍用地図の証拠として、地図記号のなかに、橋梁の重量制限、道路の狭隘個所、桁下制限高、3段階に分類された道路勾配表示といった汎用図には珍しいものが含まれる(下注)。大型あるいは重量のある軍用車両が通行できるかどうかを示すのが目的で、こうした行軍用の情報は、旧社会主義国の地形図におびただしく盛り込まれていたのを思い起こさせる。

*注 道路整備が行き届いているからか、図中でのこうした記号の使用例は、勾配表示を除けばごく少ない。

しかし、紹介文から読み取るかぎり、これは軍事作戦に向けたものというより、国家組織が担う災害救援活動などへの活用を意図しているようだ。地形図を民軍共用にする方針は隣国ドイツも同様で、すでに大半が切り替えられている(下注)。各国で機能統合が進む背景には、電子地図の普及と進化により、印刷図の需要減退に直面している測量局の危機感があるのだろう。

*注 ドイツの1:250,000については、「ドイツの新しい1:250,000地形図」参照。

オーストリアの地形図体系の改革は、欧州基準に準拠した新しい1:250,000の刊行によって、一段落した感がある。1:250,000地形図は3年ごとに更新されると、アナウンスされている。内容が最新に近い状態に保たれることで、印刷地図の実用性が再認識され、需要動向に少しでも変化が現れることを期待したい。

オーストリアの官製地形図は日本のアマゾン等では扱われていないようだ。BEVは通信販売に応じているが、書面での注文になる。ネット経由なら、フライターク・ウント・ベルント Freytag & Berndt の公式サイト https://www.freytagberndt.com/ で全点が揃う。
索引図は、https://www.freytagberndt.com/wanderkarten-blattschnitte/ にある。個々の図葉は、"BEV-Karte" で検索するとよい。

(2011年10月23日付「オーストリアの新しい1:250,000地形図」を全面改稿)

本稿は、参考サイトに挙げたウェブサイトおよびBEVの出版カタログを参照して記述した。

■参考サイト
BEV  http://www.bev.gv.at/
同サイトの記事「新しいBEVの地図製品:オーストリア1:250,000地形図」
Neues Kartenwerk des BEV: Österreichische Karte 1:250 000 (ÖK250)
http://www.bev.gv.at/portal/page?_pageid=713,2168919&_dad=portal&_schema=PORTAL

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