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2018年10月19日 (金)

コンターサークル地図の旅-美幸線跡とトロッコ乗車

2018年9月2日、北の大地はひんやりとした秋の空気に包まれ、見上げればすっきりと青空が広がっている。まだ蒸し暑さが続く関西から来た者にとっては、なんともうらやましい。今朝の旭川の最低気温は10度まで下がったが、昼間は23度という予想なので、行楽に出かけるには最適の季節に違いない。

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仁宇布の美幸線跡を活用した「トロッコ王国美深」

旭川駅9時ちょうど発の稚内行き特急「宗谷」に乗り込んだ。本日のコンターサークル道内の旅は、国鉄美幸線の跡をたどることになっている。美幸線というのは、かつて宗谷本線の美深(びふか)から分岐して、仁宇布(にうぷ)まで21.2kmを走っていたローカル線だ。1964(昭和39)年開業という遅咲きの路線で、沿線が人口希薄な山中のため、筑豊の添田線などとともに日本一の赤字路線の座を争っていたことで知られる。

そもそも路線は仁宇布が目的地ではなく、分水界を越えて、オホーツク海岸の北見枝幸(きたみえさし)で興浜北線と接続する計画だった。起終点の駅名からそれぞれ一字を採った美幸線の名はなかなかよくできているが、国鉄再建法の成立で第一次廃止対象線の一つに挙げられ、1985年に廃止されてしまった。運行されたのはわずか21年で、その名にそぐわず、幸薄かった国鉄線だ。

私も美幸線には一度だけ乗ったことがある。メモを繰れば廃止の2年前、1983年8月のことだ。一日4往復、朱色のディーゼルカーが単行で走っていた。このときは同じ道北の天北線や興浜北線・南線なども巡ったのだが、悲しいことにその後すべて路線図から消えてしまった。廃止から33年、美幸線跡は今どうなっているのだろうか。

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美幸線現役時代の1:200,000地勢図(1973(昭和48)年修正図)

名寄駅で宗谷から降りて、レンタカーを運転してきた真尾さんと合流した。参加者はこの二人だけだった。札幌からの距離は200km以上(下注)、高速道路を使っても車で3時間近くかかる場所だから、無理もないことだ。

*注 JR(国鉄)の営業キロは、札幌から名寄まで213.0km。仁宇布までは256.3kmで、ほぼ東京~浜松間に相当する。

まずは、起点の美深駅へ向かうことにする。そこに美幸線の資料館があると聞いていたからだ。駅舎はレンガタイル貼りの2階建てで、美幸の鐘と称する時計塔が中央に立ち、見た印象は名寄駅よりもはるかに立派だ。階段を上がった2階の半分が展示室に充てられていた。開通から廃止に至るまでの写真や資料、駅や乗務員の備品、時刻表、乗車券類のほか、廃止撤回をめざして精力的に行っていた宣伝活動の品々も揃っている。たいへん充実した内容で、33年経ってもなお、消えた鉄道を惜しむ地元の人々の気持ちが伝わってくる。

1階の売店に記念グッズがあったので、サボ(列車の行先標)を象ったキーホルダーを土産に購入した。美幸線の乗り場は、確か向かいの島式ホームの外側、3番線だったはずだ。駅舎の横から覗くと、当時の面影がまだ残っているように見える。

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(左)美幸の鐘のあるJR美深駅舎
(右)美幸線の列車が発着していた美深駅3番ホーム(島式ホームの外側)
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美幸線展示室の展示品から
(左)サヨナラ列車の写真 (右)サボ(列車の行先標)、切符ほか関係資料
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(左)仁宇布駅の発車時刻表 (右)赤字路線を逆手に取った宣伝活動のチラシ

美深駅を後にして、道道49号美深雄武線を東へ進んだ。畑の中をまっすぐに山手へ向かう一本道だ。美幸線には中間駅が二つあり、東美深、辺渓(ぺんけ)といった。後者は道道のすぐ横にあったはずなので、車を停めて行ってみた。

十号川に架かるコンクリート橋が残っていたから、線路が通っていたのは確実だが、前後に続いていたはずの築堤は消失し、畑に変わっていた。当然、辺渓駅の跡も見当たらない。真尾さんが、橋台の際の、築堤を崩したと思しき場所に生えていた木を指さす。すでに幹の太さが一抱えもあり、経過した時間の長さを感じさせた。

このあと線路跡と道道は重なり合うように渓谷に入っていく。人家は全くないので、次はもう終点の仁宇布だが、駅間距離は14.9kmもあった。何度か渡るペンケニウプ川には、美幸線のコンクリート橋が、旧 美深町営軌道(下注)のものと思われる橋の遺構と並び残っている。ガーダー橋と違って、橋桁だけ撤去するわけにはいかないからだが、今となっては貴重な史跡だ。それに比べて、道路に並行していたはずの線路跡は、森の中で自然に還ってしまったようだ。

*注 美深町営軌道は、美深~仁宇布間にあった762mm軌間の簡易軌道で、主として木材輸送に用いられたが、美幸線開通に先立ち、1963年に廃止された。

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美幸線廃線跡
(左)辺渓駅手前の十号川に架かるコンクリート橋
(右)道道の第四仁宇布橋から、町営軌道の橋台(手前)、美幸線の橋梁(奥)を望む

やがて、高広パーキングと書いた標識が現れた。ここから仁宇布駅跡までの間は、線路が残されている。ディーゼルカーの代わりにレールバイク(軌道自転車)を使って、美幸線乗車を追体験できる観光施設に使われているのだ。当地ではレールバイクではなくトロッコと呼ぶので、以下の説明はそれに倣うことにしよう。

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仁宇布周辺の1:25,000地形図、トロッコ専用線路の注記がある

仁宇布駅跡を拠点とする「トロッコ王国美深」は、想像以上に設備の整った施設だった。車庫と整備場を兼ねた大きな建物と、その前に3本の側線を備えたヤードもある。整備場に隣接する高床のホームは旧 仁宇布駅のもので、子ども用のトロッコのミニコースが発着している。その後ろには、どういう経緯か知らないが、国鉄時代の581系寝台電車(サハネ581-19)が停めてあり、内部の見学も可能だ。長年の風雨に曝されて、塗装は無残に剥がれているものの、内装はまだきれいだった。

さっそく王国の乗車受付というか、入国審査カウンターへ行く。「広い施設ですね」と話しかけると、係官(?)の女性は「もう20年やっています。その間に拡げていったんです」と言う。トロッコ運行は1998年7月に始まっていて、この種の廃線跡活用では草分け的存在だ。支払いを済ませ、入国旅券の査証欄にスタンプを押してもらって、手続きは完了した。

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「トロッコ王国美深」
(左)現「駅舎」、コタンコロカムイ驛の看板が掛かる (右)内部の休憩スペース
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(左)正面の高床ホームは美幸線時代の遺構
(右)車庫の奥に置かれた581系寝台電車
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記念スタンプと記念乗車券

乗り場に出て、車両を観察する。3人掛けロングシートが前後に並ぶ6人乗りが主だが、グループ用の9人乗りも見かけた。全部で20台あるというから、人気のほどが知れる。車体には農作業などに使われる汎用小型エンジンが搭載されているので、足漕ぎは必要ない。クルマを運転する要領で、床にあるアクセルを踏めば走り、ブレーキを踏めば停止するのだ。サイドブレーキもついていて、停車中はこれを手前に引いておく。こうした操作があるため、運転する人は、普通自動車免許の提示を求められる(下注)。

*注 免許証を持っていない場合は、スタッフが運転する。

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トロッコ車両
(左)汎用小型エンジンを搭載 (右)運転席の床に設置されたアクセルとブレーキのペダル(緑の矢印)

トロッコは毎時00分の出発だ。受け付けたグループ数に応じて台数が用意され、少し間をおいて順にスタートする。私たちは12時発で、全部で6台走るうちの4番目だった。発車10分前に全員、乗り場前に集合して、スタッフの方から乗車に際しての注意事項を聞いた。
「コースは片道5kmありますので、往復で30~40分かかります。安全のために、前を行くトロッコとの車間は詰めないでください。100m程度空けて、つかず離れず走るようにお願いします」

「途中踏切が6か所あります。線路は廃線になっていますので、道路のほうが優先です。農道林道で車はめったに通りませんが、十分注意してください。鉄橋も大小合わせて6か所あります。落下防止のガードレールなどはないので、アクセルを緩めて通過してください。それから、ズボンのポケットに車の鍵やスマホなどを入れている方は、バッグか何かにしまったほうがいいです。線路の脇はすぐ草むらで、落とすとまず見つけられません」。

「折り返し点はループになっていて、上りの急カーブです。スピードを出し過ぎると脱線します。逆に緩めすぎると停まってしまいます。もし車輪が空転して再発進できないときは、助手席の人が降りて後ろから押してください…」。

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出発説明はこの看板の前で受ける

乗り場に移動し、赤色の17号車に乗り込んだ。真尾さんが運転席に座る。順番が来ると、スタッフの人が後ろのエンジンを始動した。出発だ。汎用エンジンのバタバタという騒音が響き渡り、それにレールの継ぎ目を通るときのゴトンゴトンというジョイント音が加わる。車体は絶えず小刻みに揺れ、乗り心地がいいわけではないが、風を切って本物の線路の上を滑っていくのは特別な感覚だ。

農道を横切り、白樺の並木を抜け、清らかな谷川のせせらぎを渡り、広葉樹の林に包まれる。片道だけでもけっこう乗りがいがある。真尾さん曰く「アクセルの遊びがないので、踏むとすぐ反応しますね。加減が難しい」。

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トロッコは白樺の並木を抜け、緑濃い森の中へ(左写真は帰路写す)

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(左)踏切の線路側に立つ一時停止標識(通る車はめったにないが)
(右)橋はコンクリート製で、バラストが敷かれ、下が透けてはいない

ようやく終端まで来た。ループは鉄道としては確かに超急曲線で、上り勾配にしてあるのは、速度を落とさせるためだとわかる。通過にはアクセルとブレーキの微妙な調節が必要だが、「だいぶ感覚がつかめてきました」と、停止することもなく無事クリアした。真尾さんは以前にも一度乗ったことがある。「そのときは係の人が手作業で1台ずつ方向を変えていましたから、ずいぶん省力化されましたね」。

ポイントの手前に係員が立ち、すべての車両がループに入るのを待っている。それからポイントを切り替えて、再び1台ずつ発車し、同じ線路を戻っていく。日曜ということもあって、次の13時発も6~7組並んでいて、なかなかの盛況ぶりだった。

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高広の終端ループにさしかかる
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(左)超急カーブ、速度注意! (右)ポイントの交差角度も急過ぎて、汗
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ループに全車両が入った後、ポイントが切り替えられ、仁宇布に向けて再発車

昼食をとった後は、天竜沼へ寄り道した。仁宇布の南南東約5km、松山の中腹にある森の中の湖沼だ。駐車場の端から始まる遊歩道を少し降りたところに、シナノキやナラ、エゾマツの深い林に囲まれて、ひっそりとたたずむ沼があった。濃淡ない混ざった木々の緑が、水面におぼろげに映り込んでいる。池を半周する木道があり、それを伝っていくと、見る角度と光線の差し加減によって、沼の表情が明から暗へ、また明へと刻々と変化するのがおもしろい。

これは、堀さんが好んで訪れた、無名で多少とも行きにくいところにある小さな沼、「B級湖沼」に該当するだろう。「実は、あの言葉を言い出したのは私なんです」と真尾さん。B級グルメなどに倣ってそう呼んでいたのを、堀さんが著書で取り上げたのだそうだ。

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森に囲まれ静かにたたずむ天竜沼
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木道が沼を半周している

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天竜沼周辺の1:25,000地形図

せっかく仁宇布まで来たので、時間の許す限りで、美幸線の未成線、すなわち未開通のまま放棄された線路の跡を追った。1:200,000地勢図に書き込んだルートのとおり、分水界の西尾峠を越えた後も、線路はまったく人家のない山中を縫っていく。これらは路盤工事がかなり進捗していたにもかかわらず、美幸線の営業廃止に伴い、あらかた原野や森に埋もれたか、農地その他に還されてしまった。

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牧場を横断する美幸線の未成線跡

その中で例外的に再利用されているのが、仁宇布~北見大曲間に掘られた第2大曲トンネル(長さ1,337m)だ。2車線に拡幅改築されて、道道美深中頓別線の天の川トンネル(1,353m)に生まれ変わり、難所だった大曲峠の山道を置き換えた。形は違えども、鉄道構想に込められた願いを実現したわけだ。私たちはこの道路トンネルを通り抜け、経緯を記す案内板を見届けて、全線が幻と化した美幸線跡を後にしたのだった。

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未成線のトンネルを拡幅改築した道道の天の川トンネル
(左)西口ポータル (右)経緯を記す西口の案内板

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美幸線未成線のルートと駅予定地
1:200,000地勢図(1972~73(昭和47~48)年修正図)に加筆

掲載の地図は、国土地理院発行の2万5千分の1地形図仁宇布(平成22年更新)、20万分の1地勢図名寄(昭和48年修正)、枝幸(昭和47年修正)を使用したものである。

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