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2018年7月 3日 (火)

北海の島のナロー V-ヴァンガーオーゲ島鉄道 前編

ヴァンガーオーゲ Wangerooge ~西埠頭 Westanleger 3.4km
支線(不定期運行):ザリーネ分岐 Abzweigung Saline ~ヴェステン Westen 2.0km
非電化、軌間 1000mm、1897年開通

東フリジア諸島の東の端で、ようやくイメージどおりの島の軽便に巡り合えた気がした。ヴァンガーオーゲ島鉄道 Wangerooger Inselbahn は、非電化、1000mm軌間の鉄道路線だ。ヴァンガーオーゲ Wangerooge ~西埠頭 Westanleger 間3.4kmを結ぶ本線と、途中のザリーネ分岐 Abzweigung Saline~ヴェステン Westen(下注)間2.0kmの支線があるが、一般の旅客列車が運行されるのは本線のみだ。

*注 ヴェステン Westen は(町の)西を意味するが、地名化しているので原語読みで記す。

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ヴァンガーオーゲ島の塩性湿地を横断する列車

この島内鉄道には、二つの際立った特徴がある。その一つは、航路とともにドイツ鉄道 Deutsche Bahn (DB) グループによって運営されていることだ。もともと19世紀末にオルデンブルク大公国邦有鉄道 Großherzoglich Oldenburgische Eisenbahn が開通させ、戦前のドイツ帝国鉄道 Deutsche Reichsbahn を経て、DB(ドイツ連邦鉄道→ドイツ鉄道)に引き継がれた(下注)。これまで見てきた民営のボルクムや公営のランゲオークに対して、生粋の国鉄路線であり、DBとして今や唯一のナローゲージでもある。

*注 現在は、DB長距離輸送株式会社 DB Fernverkehr AG が運行する。

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ヴァンガーオーゲの駅名標もDB仕様

二つ目は、運行ダイヤが毎日違うという点だ。本土と島の間の航路が浅いため、船は潮位が高いときしか航行できない。そのため、接続する列車の発着時刻も日替わりになる。DBサイトには、ザンデ Sande 発着の本土側の連絡バスを含めた1年間のダイヤが一覧表で掲載されている。旅行計画を立てるときは要注意だ。

*注 島への航路が潮汐に依存するのはヴァンガーオーゲのほか、ユースト Juist、バルトルム Baltrum、シュピーカーオーク Spiekeroog だが、これらの島には島内鉄道がない。

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日替わりの時刻表(一部)。ab は発時刻 Abfahrtszeit の意

ヴァンガーオーゲ島行きの船が出る本土の港は、ワッデン海に面したハルレジール Harlesiel だ。ノルデン Norden から路線バス K1系統で向かった。今日の船は13時発なので、空き時間を使って、2km内陸にある旧港カロリーネンジール Carolinensiel を見に行こうと思う。ハルレジールは船の大型化に伴って1890年に築かれた新港で、それまではカロリーネンジールがこの役を果たしていたのだ。

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カロリーネンジール旧港

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カロリーネンジール~ハルレジール付近の1:50,000地形図(L2312 Wangerland 1988年版)。なお、描かれている鉄道はイェーファー=ハルレ線だが、すでに廃止されている(詳細は後述)
© Landesamt für Geoinformation und Landentwicklung Niedersachsen, 2018

北海の島のナロー I-概要」でも記したが、北海沿岸では、内陸の水が干潟に出ていく位置に、高波を防ぐ水門を構えたジール港 Sielhafen が多数造られた。それは島へ渡る船の乗り場であると同時に、漁港であり、貨物港でもあった。周りに宿屋が建ち並び、物資の交易で賑わった。その後、干拓の沖合への進行や、船舶の大型化などで港の機能は失われたが、昔の情景が残され、観光地化しているところも多い。

カロリーネンジールもその一つで、ワッデン海に通じるハルレ川が拡幅され、そこが船溜まりになっている(下注)。堤に沿って歩いてみると、係留中の帆船と、それを取り囲む赤屋根の家並みの組み合わせが絵になる。その一角で、外輪蒸気船 Raddampfer と大書した案内プレートに目が留まった。観光用にハルレジールのヨットハーバー Yachthafen との間を往復しているらしい。連日の快晴から打って変わって、きょうは雲が空を覆い、強い風にときどき雨粒も混じる。ハルレジールまで歩く予定をあっさり変更して、これに乗っていくことにした。

*注 訪れる時間がなかったが、ここにはジール港に関する博物館 Sielhafenmuseum もある。

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(左)外輪蒸気船の案内板 (右)蒸気船コンコルディア2世号が到着

コンコルディア2世号 Concordia II は、舷側に水車(外輪)をもつ小型船だった。小型といっても、後で聞くとデッキとサロン室で100人乗れるそうで、見かけによらず輸送力がある。今のようなフェリーが就航する以前は、こうした船が本土と島を結んでいたのだ。

狭い水路に波を立てない配慮もあるのか、船はほとんど人が歩くくらいの速度で進んだ。途中、跳ね橋のかかるフリードリヒ水門 Friedrichsschleuse を通過する。これが外海の高波からジールを護る水門で、1765年に初めて造られた。今でこそ内陸だが、昔はここが河口だったのだ。その外側は川幅が一気に広がり、停泊するヨットの群れの先に、近代的だが不愛想な雰囲気の水門が見えてきた。途中1か所、桟橋に寄港したとはいえ、外輪船は約2kmの水路を、実に40分かけてその水門前に到着した。

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(左)狭いフリードリヒ水門を通過
(右)帆船が通れるよう跳ね橋になっている(通過後撮影)
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(左)ハルレジール・ヨットハーバー。ハルレジール水門が正面に
(右)40分の小旅行を終えて下船

堤防を越えて、東埠頭のフェリーターミナル Fährhaus へ歩いていくと、ヴァンガーオーゲで使われていたと思しき旧型車両が静態展示されていた。長物車、普通客車が1両ずつと、その奥に少し離れて2軸のディーゼル機関車だ。軌間の違いを示す解説プレートがあるだけで、車両については何ら言及がない(下注)。

*注 深緑色の小型ディーゼル機関車は、ドイツ Deutz 社 OMZ 122 F、1941年製。シュピーカーオーク島で1965年に廃車となり、1969年にドイツ鉄道協会 DEV に引き取られていたが、2000年当地に設置。ヴァンガーオーゲにもごく短期間いたことがある。客車はヴァイヤー Weyer 社1913年製で、ヴァンガーオーゲ島で1992年まで使われていた。1997年設置。

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ハルレ旧駅の保存車両
3線軌条は展示用に後補したもの。軌間の違いを説明するパネルも設置

ただし、昔を知る人にとっては、車両が問題ではなく、この場所が保存されていることに意義を認めるはずだ。というのも、ここはかつてDB線の終着駅ハルレ Harle だったからだ(上の地形図参照)。イェーファー=ハルレ線 Bahnstrecke Jever–Harle と呼ばれるその支線は、オルデンブルク大公国時代の1890年にハルレまで開業し、1957年に港の拡張に伴って、現位置へ延長された。航路に接続するティーデツーク Tidezug(潮汐列車の意、下注)がここに発着し、本土での連絡手段となっていた。

*注 潮汐に依存する船の発着に合わせて、ダイヤは毎日変動するため、この名がある。一方、固定ダイヤで走る列車はカロリーネンジール止まりだった。

しかし自動車の普及で、利用者数は減少の一途をたどる。1987年に定期旅客列車が消え、2年後の1989年には貨物列車も廃止となった(下注)。その後、ハルレ駅舎は航路専用になり、線路は構内の今ある部分だけが残された。現役時代は普通の標準軌だったが、メーターゲージ車両を展示するためにレールを1本追加し、3線軌条にしてあるのだ。

*注 列車廃止に伴ってDBの代行バス(ティーデブス Tidebus)が、今もザンデ~ハルレジール間を走り、航路に接続する。

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「ティーデブス Tidebus」の表示を掲げた代行バス。ザンデ駅前にて

その駅舎ならぬフェリーターミナルの窓口で、島に渡る往復券(35.10ユーロ)を求める。DBが日帰り専用の時刻表 Tagesfahrpläne を作成しているくらいだから、割安の1日券(26.70ユーロ)もあるのだが、運航が1日2~3便きりなので、日程がうまく組めなかった。今日はキャリーバッグを引いて、島に泊ることにしている。

ここも紙の切符ではなく、ランゲオークと同じく、使い回しの「ヴァンガーオーゲカード WangeroogeCard」を渡された。改札機は本土側にのみ設置されているので、帰路この埠頭に戻ってきたときにカードが回収される。

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(左)旧駅は今、フェリーターミナル専用に (右)ヴァンガーオーゲカード

接岸していたのは760人乗りのヴァンガーオーゲ号、この航路の主力船だ。タラップから乗り込み、すぐにデッキに上がってみるものの、昨日までとは大違いでほとんど誰もいない。なにしろ気温は12度、ベンチは雨で濡れている。5月中旬の北ドイツだからと持参したダウンベストが、ここでようやく役に立った。

ちなみにグーグルマップでは、ヴァンガーオーゲ航路が水路の西側の埠頭から出るように描かれている。まったくの誤りではないが、西から出る便はごく少数で、DB日帰り時刻表にしか掲載されていない。ターミナルと主要埠頭は東側で、路線バスの停留所もそちらにある。

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(左)ヴァンガーオーゲ号に乗船 (右)あいにくの天気で乗客はみな客室に避難

フェリーは、13時定刻を少し遅れて出航した。例の不愛想な水門と埠頭の施設群が後方に遠ざかると、視界は一面、泥を巻き込んだような土色の海原になった。潮位が上がるタイミングで出たのだから、当然のことだ。船は、航路を示す杭の間をまっすぐ進んでいく。島まで1時間ほどかかるので、いったん暖かい船室に避難する。

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ハルレジール港を出航

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ヴァンガーオーゲ島の1:50,000地形図(L2312 Wangerland 1988年版)
© Landesamt für Geoinformation und Landentwicklung Niedersachsen, 2018

次にデッキに上がったときには、もう島の砂浜に近づいていた。遠く曇り空を背景に、島のシンボルになっている西塔 Westturm と灯台がそびえる。まもなく埠頭(正式には西埠頭 Westanleger)も見えてきた。すぐそばに乗換え客を待つ客車が6両、忘れられたように停まっている。次の本土行きの船にはまだ早いので、ほとんど人影もなくうら寂しい雰囲気だ。

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ヴァンガーオーゲ西埠頭に到着。軽便鉄道の客車が待機していた
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(左)乗客はフード付きの防寒ジャケットを着込む
(右)貨物の積替作業が手際よく進んでいく

埠頭に降り立ち、強風に飛ばされそうになりながら、そそくさと客車のほうへ向かった。車端のデッキを上って車内に入り、一息つく。

この客車、一見古典的だが、実は1992~93年の新造だ。外装のコバルトブルーとクリームのツートンカラーは、そのころ本土の幹線を疾駆していたインターレギオ Interregio(地域間急行)を連想させる。ブランデンブルク州ヴィッテンベルゲにある旧東独国鉄の修理工場 Reichsbahnausbesserungswerk Wittenberge から計14両が納入され、それによって旧型車が島から一掃された(下注)。

*注 ハルレジールに置かれていた車両もその一部。

しかし、シートや照明その他の内装は、1990年代とは思えない無粋さだ。想像するに、ドイツ再統一前に確保されていた部材も使って安価に仕上げたのではないか。ただ、今ではそれが、離島の旅情を掻き立てる舞台装置の一つになっている。

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(左)コバルトブルーとクリームに塗り分けた客車
(右)安っぽい内装がかえって旅情を掻き立てる
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機関車が付くのを静かに待つ

機関車はまだ来ない。さっき下船したときは、埠頭の先端で長物車を3両牽いて、船からの積替作業をしていた。この島では、貨物輸送もまだ鉄道が担っている。使われているのはシェーマ Schöma 社の1999年製小型ディーゼル機関車CFL150形で、2両が在籍する(車両番号399 107および108)。すでに他の島でおなじみの顔だが、側面につけたDBのロゴがちょっと誇らしげだ。ほかに、やや無骨な風貌をしたルーマニアのファウル Faur 社製機関車も2両いる(1990年製造、399 105および106)。

エンジンの唸り音で気がつくと、シェーマ・ロコの赤い車体が車窓を横切っていく。埠頭の作業が完了したようだ。機回しされて列車の先頭に付けば、間もなく出発の合図が聞こえてくるはずだ。

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(左)DBのロゴを付けたシェーマ・ロコ
(右)機回し線を通って客車の先頭へ移動していった

続きは次回に。

■参考サイト
Inselbahn.de  https://www.inselbahn.de/
DB Schifffahrt und Inselbahn Wangerooge  https://www.siw-wangerooge.de/

本稿は、Malte Werning "Inselbahnen der Nordsee" Garamond Verlag, 2014および参考サイトに挙げたウェブサイトを参照して記述した。

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