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2018年6月24日 (日)

北海の島のナロー IV-ランゲオーク島鉄道

ランゲオーク Langeoog ~埠頭 Anleger (Anlegestelle) 間 2.6km
非電化、軌間 1000mm
1901年開通(馬車鉄道)、1937年ディーゼル化

ランゲオーク Langeoog は、文字どおり長い(lange)島(oog)だ。地図で見ればユーストやノルダーナイのほうがより長いのだが、ワッデン海の沖に砂丘がどこまでも伸びるさまを見て、昔の人が素直に名付けたのだろう。ところが地名とは対照的に、ランゲオーク島鉄道 Inselbahn Langeoog は、3島の鉄道の中で最も短い。ランゲオーク駅と埠頭 Anleger (Anlegestelle) 駅の間 2.6km、ゆっくり走っても7分で着いてしまう。

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ランゲオーク島鉄道のカラフルな旅客列車

宿泊していたエムデン Emden から朝、ランゲオーク島をめざした。まずは船が出る本土側の港までたどり着かなければならない。東フリジアの各島の港と本土の港は、ほぼ1対1で対応している。この島に渡るにはこの港からというのが決まっているのだ。ボルクム島であればエムデン、ノルダーナイ島はノルトダイヒ・モーレ Norddeich Mole、そしてランゲオーク島の場合はベンザージール Bensersiel になる(下の地図参照)。

エムデンやノルトダイヒ・モーレへは本土の鉄道網が通じているが、その他の港はもはや鉄道では行けない。実際、旅行者の多くが自家用車で直接港まで来てしまうので、需要が細っているのだ。その分、港の周辺には大規模な駐車場が用意され、テーマパークの前かと思うほど車が並んでいる。

しかし感心するのは、片や公共交通機関のネットワークもしっかり維持されていることだ。各港を一つ一つ回っていくバス路線があり、列車も船もそれに連絡するようにダイヤが組まれている。ノルデン Norden からは、K1系統が日中1時間毎に、エーゼンス Esens を経由して、最終的に最東端ヴァンガーオーゲ島への港であるハルレジール Harlesiel まで行く。

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東フリジアの鉄道路線
"Personenverkehr Deutschland", DB Vertrieb, 12/2016

エムデン中央駅から、7時42分発のノルトダイヒ・モーレ行き列車に乗った。ブレーメン Bremen からやって来たダブルデッカーのIC(インターシティ)だが、案の定、車内はガラガラだ。ノルデン Norden で下車し、駅北側のターミナルで8時15分発のバスに乗り継ぐ。ベンザージールまで1時間近くかかる。

バスは数えるほどの客を乗せて、広大な平野をひた走った。一帯は干潟や塩性湿地が長い時間かけて干拓され、見渡す限り緑の農地に姿を変えている。エーゼンスでは駅前に入り、ヴィルヘルムスハーフェン Wilhelmshaven から来る列車(下注)の到着を待った。

*注 ノルトヴェスト鉄道 Nordwestbahn が連接気動車を運行している。ブレーメン Bremen やオルデンブルク Oldenburg 方面からはこのルートが近い。

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(左)島への港を回っていくバスK1系統 (右)緑の平野をひた走る

改めて北へ進んだバスは、高い防波堤を乗り越えて、ベンザージール港の旅客ターミナルの前で停まった。見ると、切符を求める人の列が玄関からはみ出している。出航は9時30分。あと20分しかないので少々焦る。しかし、中に入ると窓口が3つ開いていて、思ったより早く順番が回ってきた。

島内鉄道込みで大人往復25.20ユーロ(リゾート税 Kurtaxe 別)。日帰り券 Tagesrückfahrkarte は22.50ユーロだ。ただ、渡されるのは皆同じICチップの入ったランゲオークカード LangeoogCard で、レシートを見ないと何の切符かわからない。しかもこれは使い回しなので、帰りの船に乗る際、ターミナルの改札機で回収されてしまう。

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(左)ベンザージール港の旅客ターミナルには切符を買う人の列
(右)ランゲオークカード

ランゲオーク島の年間訪問者数は約21万人(2016年)で、ノルダーナイ、ボルクムに次いで諸島で3番目に多い。それで夏季(5~10月)は、本土との間を船が6~7往復しており、比較的自由に旅程が組める。この港からランゲオークの町まで、船と列車を介して約1時間というのも手軽でいい。

平日というのに、乗り込むとすでにデッキのベンチにも客があふれていて、人気ぶりが窺える。後部デッキの端に陣取って、海を眺めた。ちょうど干潮のタイミングらしく、周りは泥の干潟だ。船は防波堤の間の長い水路をたどり、十分沖合まで出たところでようやく速度を上げた。行く手にはすでに島の白い帯が見えていて、次第に輪郭がはっきりしてくる。30分もすればもう、島の港の突堤に迎えられる。

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(左)船はデッキまで満員 (右)長い水路を進む。防波堤の外側は干潟が広がる
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ランゲオークの埠頭
中央やや左、ランプウェーの陰に赤色の機関車が見える(帰路撮影)

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ランゲオーク島の1:50,000地形図(L2310 Esens 1988年版)
© Landesamt für Geoinformation und Landentwicklung Niedersachsen, 2018

ランゲオーク島は、港、鉄道、市街を含めて全体がボルクムのミニ版という印象だ。規模は小さくても、公共交通機関がスムーズに相互接続している点は同じだし、ましてやカーフリーの島なので、それなしでは移動もままならない。

埠頭に建つ、本土側と同じデザインの旅客施設を通り抜けると、駅のプラットホームに直結している。だだっ広い島式ホームはかさ上げされ、車両との段差が小さい。トラムのようだったボルクムの軽便に比べて、いくぶん普通鉄道の雰囲気がある。ここも機関車が列車の両端に付くプッシュプル運転なので、町に向かって左側の発着線には機回し用の側線もなかった。

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(左)埠頭駅の島式ホーム (右)ホームの両側に列車が停車中

ホームの両側に列車が停まっている。右の列車は客車5両のみの編成、左は客車6両とその後ろに、託送手荷物の小型コンテナを載せる長物車が連結されている。小ぶりの客車はデッキ付きで、内部は2人掛けクロスシートの木製ベンチが並ぶ。また、中央の車両はバリアフリーの特別仕様だ。ホームとの空隙を埋める踏み板が出て、座席も1人掛けで通路が広く取られている。塗装は1両ごとに色が違い、紺、青、赤、黄、緑とカラフルだ。それに赤いディーゼル機関車(シェーマ・ロコ Schöma-Lok)が付くと、軌間1000mmでも遊園地の列車のように見える。

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(左)シェーマ・ロコ CFL 250形
(右)託送手荷物を積む長物車(ランゲオーク駅で撮影)
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(左)客車はデッキ付き (右)車内は2人掛けのクロスシート
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(左)バリアフリー車両は中央に両開き扉、踏み板つき
(右)1人掛け席で通路を広げている

船を降りた客のほとんどが右側の列車に乗り込んでいくので、それに従った。出発すると、右にカーブしながら、フリントヘルン防潮堤 Flinthörndeich の陸閘を通過する。それから堤防前地 Deichvorland に広がる牧草地の中を走っていく。緑の波に無数のタンポポが揺れる。その中で馬が悠々と草をはみ、野鳥の群れが羽を休めている。実にのどかな景色だ。

踏切を渡って、ハーフェンシュトラーセ(港通り)Hafenstraße 沿いに進む。右の車窓に、セスナ機が駐機している滑走路が見えた、と思う間に側線が左右に分かれ、ランゲオーク駅のホームが近づく。実際乗ってみても、遊覧列車並みの感覚だった。

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(左)列車は牧草地の中を行く (右)ハーフェンシュトラーセ(港通り)を横断
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(左)堤防前地の広大な牧場 (右)島の飛行場を右に見る

鉄道の規模に比べて、駅はかなり大きい。列車は1面1線のホームのどん詰まり(町側)に停車するが、後方(港側)にも広いスペースがあり、倉庫のような建物が続いている。ここでは2008年まで鉄道貨物の受け渡しが行われていたのだ。取扱いが廃止されて以降、貨物輸送は、本土側で仕立てたコンテナトレーラーを船に載せ、島に着いたら電動カートでそれを目的地まで牽いていくロールオン・ロールオフ方式が取られている。駅で扱うのはもはや託送手荷物だけなので、広い作業場は遊休化している。

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ランゲオーク駅に到着
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(左)駅舎内部。出札窓口の右側は託送荷物の受付
(右)駅前にある手荷物運搬用のリヤカー置き場
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島の道を行く車両は馬車と電動車

ボルクムの経験から、埠頭に残っていたもう1本の列車が続行してくると予想し、カメラを手に構内の南にある踏切で待った。線路を横切るのは馬車か、電動車が牽くトレーラーだ。カーフリーの島ならではだが、肝心の列車はいっこうに現れなかった。さんざん待たされた挙句、見送ったのは埠頭から来る列車ではなく、ランゲオーク11時30分発の埠頭行きだった。とすると埠頭にいたあの列車は、次の船を待っていたのだろうか…。

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埠頭行き列車を見送る

駅前の幅広の通りを西へ向かった。中央通り Hauptstraße の名のとおり、町を貫くちょっとしたショッピング街だ。滞在客もそぞろ歩いていて、明るく開放的なリゾートの雰囲気が漂う。突き当りの坂の上にレトロな意匠の給水塔 Wasserturm があり、見晴らしが利く。起伏の多い海岸砂丘(カープ砂丘 Kaapdünen の名がある)はすっかり植生に覆われていて、その間を縫っていく遊歩道の先に、海も望めた。

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(左)給水塔から見下す市街地
(右)かつて馬車軌道が通ったバルクハウゼン通り Barkhausenstraße
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(左)町のはずれの給水塔 (右)給水塔から海岸砂丘と海を望む

ここランゲオーク島でも、最初に造られたのは馬車鉄道だ。渡船を運営していたエーゼンス=ランゲオーク航運 Reederei Esens-Langeoog の子会社により、1901年6月に開通した。諸島では最も遅い登場になる。当時の桟橋は今の位置ではなく、やや北東にあった。そこから軌道は干潟と湿地を横断して現駅付近で中央通りに入り(併用軌道)、さらに角を曲がってバルクハウゼン通り Barkhausenstraße を北上し、ロックム修道院の宿泊所 Hospiz des Klosters Loccum(下注)に達していた。延長3.62kmのルートだった。

*注 ニーダーザクセン州レーブルク=ロックム Rehburg-Loccum にある修道院が建てた宿泊施設で、現在も残っている。

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波に洗われる桟橋と馬車軌道(ランゲオーク駅舎の展示写真)

当初は冬場運休するなど、細々と走っていたが、1909年に本土の港ベンザージールに1000mm軌間の軽便鉄道(下注)が開通すると、急増した旅行者で運行も安定していった。1925年には他の島のような機関車の導入が計画されたが、町民の反対にあった。騒音に対する懸念も一つの理由にされたが、それより彼らは、船賃が高く旅行者が他の島に流れていると、会社の方針に不満を抱いていたのだ。結局、1927年に町は航路と馬車鉄道を一括で買収することで、公営化に踏み切った。ただ、懸案の動力転換は資金不足のために先送りされた。

*注 レーア=アウリッヒ=ヴィットムント軽便鉄道 Kleinbahn Leer-Aurich-Wittmund のオーゲンバルゲン Ogenbargen ~ベンザージール Bensersiel 間の支線。途中エーゼンス Esens で国鉄に接続した。1967年廃止。

1936年10月、嵐が二度も襲来し、桟橋へ通じる線路は高波をかぶって完全に流失してしまう。復旧に当たって、町は動力化を決断する。その際、町なかの併用軌道は廃止され(下注)、町の南口、すなわち現在位置に駅が設置されることになった。1937年7月15日が馬車鉄道の運行最終日で、ついにランゲオーク島に、ディーゼル機関車が列車を牽く時代が訪れた。

*注 一説では、中央通りからバルクハウゼン通りへの急カーブを列車が曲がれないことも理由にされた。

新しい線路は馬車軌道に並行して敷かれたが、ルートはその後二度変遷する。最初のそれは同じ年、空軍が島に飛行場を設置すると決めたことが原因だ。水害から飛行場を護るために防潮堤が築かれ、資材を陸揚げする新港の建設が始まった。工事は1939年に完成し、同時に鉄道も全面的に移設され、その埠頭に向かうようになった。

この軍用埠頭は戦後、民間開放されてしばらく使われたが、1951年、約400m西に新たな埠頭が建設され、線路も再び移動した。港通りの踏切の手前でカーブする今のルートは、このとき使われ始めたものだ。

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埠頭駅に揃う客船と列車

この間、機関車はドイツ Deutz 社やシェーマ Schöma 社製新車のほか、廃止された近隣の鉄道(シュピーカーオーク、ユーストを含む)からの譲渡でも調達されてきた。1960年代から気動車が運用されたが、現在の主力はシェーマ・ロコ CFL 250形5両だ。これは1994年に州の財政支援を受けた整備の一環で、同時に客車10両、長物車1両も新造された。さらに2005年にバリアフリー車両2両が追加された。

並行して施設の整備も実施されている。1995年にランゲオーク駅舎が今ある姿に改築され、線路配置も変更された。埠頭駅の拡張は2000年で、片面ホームから現在の島式2線になり、多客時の混雑緩和が可能になった。

こうしてランゲオーク島鉄道は、近年見違えるように近代化された。その一方で、長く島の鉄道を記録してきたサイト Inselbahn.de は、「その際、この島だけに残っていた軽便鉄道らしさ Kleinbahn-Flair の多くが失われた」と言って、惜しむ気持ちを隠さない。古典車両を走らせて観光鉄道の側面も強化するボルクムに比べて、こちらは見かけはともかく、中身は機能的で実用本位だ。往年のファンは、理解しつつもそこに一抹の寂しさを感じてしまうのだろう。

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ランゲオーク駅舎

次回は、最東端のヴァンガーオーゲ島鉄道を訪ねる。

■参考サイト
Inselbahn.de  https://www.inselbahn.de/
Langeoog Tourismus Service  https://www.langeoog.de/

本稿は、Malte Werning "Inselbahnen der Nordsee" Garamond Verlag, 2014および参考サイトに挙げたウェブサイトを参照して記述した。

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