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2017年5月13日 (土)

オーストラリアの地形図-タスマニア州 II

タスマニア州の第一次産業・公園・水・環境省 Department of Primary Industries, Parks, Water and Environment が2015年4月に作成した「タスマップ地形図作成 将来の方向性 TASMAP Topographic mapping Future directions」というパンフレットがある。その中でタスマップ(下注)の将来の方向性について、次の5項目が提案されている。

*注 現地の発音はタ「ズ」マップだが、タスマニアの慣用表記に合わせて、本稿ではタスマップと記す。

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「タスマップ地形図作成 将来の方向性」表紙

1.新たに1:50,000地形図シリーズを導入する
2.新たに1:50,000タスマニア マップブックシリーズを導入する
3.1:25,000、1:50,000、1:100,000、1:250,000基本図シリーズのデジタル版を導入する
4.1:25,000および1:100,000地図シリーズの現行版を保管し、今後改訂を行わない
5.1:250,000シリーズ、国立公園・観光・レクリエーション地図、タスマニア市街地図帳の保守・製作を継続する

この方針が出された背景には、オンラインマッピングやドライビング・ナビゲーションの急速な普及と技術的進化がある。その影響下で人々は、地図上の情報が常に最新であることを期待し、そのことが紙地図需要の低迷に拍車をかける一因になっている。地図製作・供給の現場はいずこも、この状況にどう対処していくべきかという共通の悩みを抱えているのだ。

前回紹介したタスマップの1:25,000地形図は全415面あるが、製作後の経過年数は平均20年で、40%は25年以上放置されている。1:100,000図40面でも、平均経過年数は10年だ。そして地形図は、点数が多い割に大して売れない。例えば、タスマップ1:25,000図で年間販売実績が100部を越えるのは、わずか14面に過ぎない。

それなら紙地図はもう不要かというとそうではなく、タスマニアでは例えば、エマージェンシーサービス組織や、人里離れた奥地を歩くブッシュウォーカーらに、まだ根強い需要があるという。それが紙地図の全面廃止ではなく、縮尺シリーズの整理という穏当な結論につながったようだ。

2015年の方針のなかで最も興味を惹かれるのは、1:50,000地形図シリーズを新たに導入するという点だ。縮尺1:50,000は、従来のタスマップの地図体系にはなかった。更新停止となる1:25,000図と1:100,000図の「最良の機能を結合して、より良質で適切な製品を提供する」というコンセプトで開発された1:50,000地形図とは、どのような中身なのか。さっそく、タスマップの販売サイトを通じて現物を取り寄せた。

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1:50,000地形図表紙
(左)TQ08 Wellington 第1版 2015年 (右)TM06 St Clair 第1版 2015年

上記パンフレットによれば、1:50,000地形図は80面で州全域(離島のマッコーリー島 Macquarie Island を除く)をカバーする。2015年に刊行がスタートしたが、優先的に1:25,000図が在庫切れのエリアや、需要が大きいエリアの図が刊行されていて、2017年3月現在の刊行面数は23面となっている。

図郭は1:25,000と同様にUTM座標区切りで、1面で東西40km×南北30kmのエリア(面積1200平方km)を収める。用紙寸法を拡大した効果もあって、これで1:25,000図(200平方km)の6倍の面積が描けることになり、その分、面数が減ってストックの維持コストも軽くなるはずだ。

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1:50,000索引図の一部(2017年3月現在)、緑の図葉が刊行済

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1:50,000の凡例

既存の1:25,000図と、内容を比べてみよう。地図表現では、配色に目立った変化はなさそうだ。等高線間隔は日本の1:50,000と同じ20mになったが、ぼかし(陰影)が付されているので、それがない1:25,000より地勢を感じ取りやすい。ただし、1:100,000図の明瞭なぼかしに比べれば控えめだ。植生は、1:25,000で8種に分類されていたものが4種に簡素化された。森林 Forest と低木林 Scrub の高さで2種に分け、ほかに植林地、果樹園・葡萄園を区別する。

地図記号では、市町村界 Local Government Area boundary がグレーの太線で存在を主張しているのに気づくが、これは1:25,000図式の踏襲だ。1:50,000ではさらにこの線に沿って市町村名が付された。建物関連では警察署、消防署、救急施設、州立エマージェンシーサービス、病院、郵便局といった公共サービス関連の記号がカラフルなデザインで目を引く。上述のように、こうした組織内での利用が意識されているのだろう。

業務用としてはともかく、個人の山歩きなどには使えるだろうか。セント・クレア湖 Lake St Clair 周辺の図を見てみると、主要な登山道は名称ともども網羅されていた。山小屋の場所と名称も記されている。少なくともタスマップが従来出している旅行地図(下注)に描かれる対象物は、きちんと転載されているようだ。なお、旅行地図のような耐水仕様の用紙ではないので、野外での本格的な使用には注意が必要だ。

*注 参考にしたのは、タスマップ刊行の "Lake St Clair Day Walks" 2016年版。

ところで、1:100,000もそうだったが、図名に必ずしも主要地名は使われない。明確な命名基準は知らないが、図郭の中央近くにある自然地名を用いることが多いようだ。州都ホバート Hobart が載る図葉は「ウェリントン Wellington」で、これは町の背後にあるピークまたは山地 range の名だ。その北隣の図葉「グリーン・ポンズ Green Ponds」は、目を凝らして探すとジョーダン川 Jordan River 支流の小河川の名だった。

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1:50,000図 市街地の例 TQ08 Wellington 2015年 表紙を拡大
© Tasmanian Government, 2017
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1:50,000図 山地の例 TM06 St Clair 2015年 表紙を拡大
© Tasmanian Government, 2017

方針の第2項目にあるとおり、1:50,000は1枚物の折図のほかに、地図帳(マップブック Map Book) としての刊行も予定されている。州全域を301図に分け、3分冊で刊行されるという。マップブックはすでにビクトリア州、南オーストラリア州で実例があるが、上記パンフレットでは2007年製作の旧版を置き換えると書いているので、企画自体はタスマニア州が先鞭をつけていたのかもしれない(下注)。

*注 残念ながら筆者は2007年版を実見したことがない。

一方、既存の1:25,000図と1:100,000図は、オフセット印刷としては在庫限りとなるが、直販サイト TASMAP eShop(下記参考サイト)でオンデマンド印刷による販売が継続される。また、これらを含むタスマップの各縮尺図は、同じ直販サイトでデジタルファイルのダウンロード販売も行われている。これにはGPSデバイスやGISソフトで使えるGeo TIFFファイルと、グーグルアース等で開くKMZファイルの2種類がある。オンデマンド印刷の価格が55オーストラリアドルときわめて高価なのに対して、ダウンロードの価格は1件当たりわずか2ドルだ。

*注 ちなみにオフセット印刷図は9.95ドル(2017年5月現在)。

■参考サイト
TASMAP eShop  https://www.tasmap.tas.gov.au/

また、タスマップには地図閲覧サイト LISTmap(タスマニア土地情報システム Land Information System Tasmania、下記参考サイト)も用意されている。ここでは、ベースマップとしてデジタル地図のほかに、1:250,000図と1:25,000図のラスタ画像を表示できる。画像はやや鮮明さに欠けるが、読図には支障がない。

■参考サイト
LISTmap  http://maps.thelist.tas.gov.au/

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LISTmap 初期画面
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地形図画像は右上の Basemaps ドロップダウンリストの "Scanned Maps" を選択
ちなみに "Topographic" はデジタル版地形図
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左端のスケールバーで縮尺を大きくすると、1:250,000画像が表示される
Blog_au_tas_map_hp4
さらに縮尺を大きくすると、1:25,000画像が表示される

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 オーストラリアの地形図-連邦1:100,000
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