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2017年5月 7日 (日)

オーストラリアの地形図-タスマニア州 I

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オーストラリアの地図を眺めると、大陸の南東沖に逆三角形をした島が見つかる。タスマニア島 Tasmania(下注1)だ。大陸との比較で小さな島と思われがちだが、面積は約64,500平方km(下注2)と北海道の8割強の広さがあり、周辺の島嶼とあわせて一つの州を形成している。歴史的にも、大陸の東半を占めていたニューサウスウェールズからの分離が1825年で、他の植民地に一歩先んじており、早くから独自の行政体制を整えていたことが知れる。

*注1 1856年まではヴァン・ディーメンズランド Van Diemen's Land と呼ばれていた。Tasmania の実際の発音は、タズマイニアに近い。
*注2 周辺島嶼を含めたタスマニア州全体の面積は68,401平方km。

タスマニアはまた、地形図の分野でも他州をしのぐ技術と実績を有している。オーストラリアでは1:100,000以下の縮尺図は連邦の測量機関(現在はジオサイエンス・オーストラリア  Geoscience Australia)が担当する原則なのだが、タスマニアだけは例外で、1:100,000も1:250,000も州の測量機関によって独自の体裁で作られてきた。

しかし、地形図体系の見直しという世界レベルの大波は、ここタスマニアにも押し寄せている。その結果、2015年には思い切った方針転換が発表されるに至った。豊富なラインナップを誇ったタスマニアの地形図は、今後どうなっていくのか。2015年以前の体系と以後の体系について、今回と次回で概観してみたい。

タスマニア州の測量機関は、第一次産業・公園・水・環境省 Department of Primary Industries, Parks, Water and Environment のもとで2015年に設立されたランド・タスマニア Land Tasmania だ。それまでは情報・土地サービス局 Information and Land Services Division と称していた。

官製地図のブランドである「タスマップ(タズマップ) TASMAP」は、民間とは一線を画した高品質な地図製品をユーザーに認識してもらうとともに、組織変更による影響を避ける目的で、1973年に初めて導入された。このアイデアは他州政府にもすぐに取入れられて、ビクマップ VICMAP(ビクトリア州)やサンマップ SUNMAP(クイーンズランド州)が誕生している。

州全域(離島のマッコーリー島 Macquarie Island を除く)をカバーする最大縮尺図は1:25,000で、全部で415面ある。タスマップの公式サイトによれば、このシリーズは「行政や産業用および一般用途の重要な資料である。環境管理、緊急事態管理、農場設計、鉱物探査に使われる。また、ブッシュウォークやマウンテンバイク、乗馬などのレクリエーションのユーザーにもおなじみである。」

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1:25,000地形図表紙
(左)旧版 4038 Cradle 第1版 1986年 (右)新版 5225 Hobart 第4版 2008年

図郭はUTM(ユニバーサル横メルカトル)座標系で区切るもので、1面に東西20km×南北10kmの範囲を収める。地図用紙としてはかなり横長になる。これに対して1:100,000の図郭は、経緯度で区切る国際図に準拠しているため、両者の間には全く整合性がない。デジタル図で主流になったUTM座標系の図郭を早くから採用した先見性に驚かされる一方、各縮尺間で図郭や図番が体系化されていないため、地図を選ぶときに不便なのも事実だった(下注)。

*注 次回紹介するが、新1:50,000でもUTM座標系の図郭が踏襲されている。

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1:25,000索引図
図中の青枠が1:100,000図郭で、1:25,000図郭とは合わない
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1:25,000図の例 5225 Hobart 2008年
© Tasmanian Government, 2017

1:25,000図は、全国をカバーする大縮尺基本図として、1970年代後半から整備が始められた。上の表紙画像で左側の黄色地のものは2003年以前の旧版で、旧測地系 AGD66に基づいている。右側のタスマニアのレリーフ地図を強調したデザインは、2003年以降の新版だ。測地系が新しい GDA94に切り替えられたため、旧版との間に生じるずれを埋める必要があった。それで図面には、上縁および右縁に隣接図との重複部分が設けられ、いわゆる裁ち落としの体裁が取られた。

等高線は日本の1:25,000と同じ10m間隔で、地形の詳細とともに、所有地や土地区画などの地籍情報も表示されている。地図記号では道路を、常用として維持されるものと、利用制限のあるものに分類するのがユニークだ。前者は実線の記号、後者は破線が用いられる。また、舗装の有無は赤と橙の色で区別する。キャラバンパークやキャンプ場と並んで、公共トイレ、ごみ箱設置場所の記号が定義されているのもおもしろい。

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1:25,000図の凡例

残念ながら1:25,000は更新停止の断が下されたため、オフセット印刷図の販売も在庫限りで終了する。品切れになった図葉はオンデマンド印刷で対応するとともに、デジタルファイルでの供給もすでに実施中だ。なお、1:25,000はタスマニア土地情報システム Land Information System Tasmania (LIST) のベースマップとして、ウェブサイトでの閲覧も可能になっている(次回詳述)。

冒頭でも述べたように、1:100,000と1:250,000も州が連邦に代わって製作していた。「タスマップと地図作成の歴史 History of TASMAP and Mapping」(タスマップ公式サイト)はその経緯について、「連邦が1:100,000縮尺を採用したとき、タスマニアには包括的な航空測量計画と地図作成能力があった。そこで、全国シリーズの中でタスマニアの全ての地図を編集し印刷するという協定に至った。1:50,000地形図シリーズに置換えられた2015年まで、タスマニアはこのシリーズの製作を継続した。タスマニアを完全にカバーする小縮尺図は縮尺1:250,000で提供され、現在も維持されている」と述べている。

1:100,000は、州全域を41面でカバーする(マッコーリー島を除く、下注1)。かつては北東沖のフリンダーズ島 Flinders Island と周辺島嶼が4面に分かれていたが、1面にまとめられた。標準図郭は経度30分、緯度30分の縦長判だ。等高線間隔は20mで、繊細なグラデーションのぼかし(陰影)が入れられ、植生を表す緑の塗りとともに、地勢が美しく浮かび上がる。連邦製作の1:100,000に比べても、描画技術は一段上だ(下注2)。

*注1 8512 Maria 図葉が索引図から消えたため、入手できるのは40面。
*注2 連邦1:100,000との比較については「オーストラリアの地形図-連邦1:100,000」も参照。

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1:100,000地形図表紙
1:25,000の4桁図番と混同されないように、タスマニア1:100,000の表紙には図番の記載がない(背表紙にのみ記載される)。
(左)Derwent 第5版 1987年 (右)South Esk 第5版 2007年
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1:100,000図の例 8315 Pipers 2000年
© Tasmanian Government, 2017

連邦図とタスマニア図の相違点は、他にもある。表紙デザイン、地図の折り方、そして折ったときのサイズもそうだ。連邦図の折り方には変遷があるものの、折った状態では横10cm×縦25cmの縦長サイズだ。一方、タスマニア図は、縦長の用紙を横5ツ折、縦4ツ折にするため、横11.5cm×縦17.5cmとコンパクトサイズになる。

図名の付け方もおもしろい。連邦図は図郭内の主要地名を用いるオーソドックスな命名法だが、タスマニア図は都市や集落名ではなく、河川、湖沼、湾、山、岬、島といった自然地名を採用する。例えば、州都ホバート Hobart が載っているのは川の名から採った「ダーウェント Derwent」図葉で、都市はその河口にある。第二の都市ロンセストン Launceston も同じく川の名の「パイパーズ Pipers」図葉の範囲内だが、こちらはパイパーズ川の流域にはない。表紙の右上にその図葉に含まれる主要地名が列挙されているのは、直観的な図名でないことへの対策でもあるだろう。

連邦が1:100,000印刷図の改訂を停止したことに伴い、タスマニアも1:100,000の更新維持を断念した。

一方、1:250,000は、縮尺を連邦と揃えているものの、内容はタスマニアのオリジナル図と言い切ってよい。図郭からして連邦の標準を無視し、2倍近くある大判用紙を用いて、州全域をわずか4面でカバーする(マッコーリー島、キング島 King Island 等は挿図)。表紙デザインや折寸も独自なら、図式もほぼ独自仕様だ。

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1:250,000地形図表紙
(左)South East 第1版 1990年 (右)North East 第4版 2010年
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1:250,000索引図

等高線が100mと連邦図の50mに比べて粗いものの、ぼかしと段彩の組合せで補われている。かつては高度で色を分ける段彩だったが、現行版は色を緑から茶色へ連続的に変化させて、より滑らかな立体感を実現している(下図参照)。植生の表現は省かれており、地勢表現に徹する形だ。道路には道路番号とともに区間距離が添えられ、道路地図の機能も併せ持つ(下注)。注記は隣接図にまたがって配置され、4面を接合して大きな壁掛け図 Wall map にできるよう設計されている。

*注 1:100,000にも同じように区間距離が描かれている。

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1:250,000図の例
(上)North East 1980年(下)North East 2010年
© Tasmanian Government, 2017

ランド・タスマニアの発表によれば、1:250,000は今後も維持され、4年間隔で改訂されることになっている。またLISTでも無償のデジタル版として提供され、この点は連邦と歩調を合わせているようだ。

これが2015年以前の地形図体系だ。結局、既存縮尺では、1:25,000と1:100,000が廃止、1:250,000だけが存続ということになる。次回は、ランド・タスマニアが提案する地形図体系の今後の方向性について、新たに開発された1:50,000シリーズを含めて紹介したい。

■参考サイト
ランド・タスマニア  http://dpipwe.tas.gov.au/land-tasmania
タスマップ TASMAP  http://dpipwe.tas.gov.au/land-tasmania/tasmap

★本ブログ内の関連記事
 オーストラリアの地形図-タスマニア州 II

 オーストラリアの地形図-連邦1:100,000
 オーストラリアの地形図-連邦1:250,000
 オーストラリアの地形図-ビクトリア州

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