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2016年10月30日 (日)

開拓の村の馬車鉄道

少し前に、存続の危機に瀕しているマン島ダグラス Douglas の馬車軌道(馬車鉄道)のことを書いたことがある(下注)。調べていくうちに、同じように馬に牽かせる鉄道が日本にもあることを知った。その一つが、札幌近郊にある「北海道開拓の村」で、観光アトラクションとして運行されている。札幌在住の人にそのことを話すと「あの馬鉄はかなり前からありますよ」と不思議がられたのだが、訪れてみれば、周りに点在する保存建物とともに開拓時代の雰囲気が巧みに再現されていて、一見に値するものだった。今回は北の国を走るこの小さな馬車鉄道をレポートしたい。

*注 本ブログ「ダグラスの馬車軌道に未来はあるのか」、旅行記は「マン島の鉄道を訪ねて-ダグラス・ベイ馬車軌道

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ニセアカシアの並木道を馬車がやってくる

北海道開拓の村は、北海道百年を記念して1983年4月に、野幌森林公園の一角に造られた公開施設だ(下注)。公式サイトでは、「開拓の過程における生活と産業・経済・文化の歴史を示す建造物等を移設、復元して保存するとともに、開拓当時の情景を再現展示して、北海道の開拓の歴史を身近に学ぶことのできる野外博物館」と紹介している。いわば、博物館明治村、あるいは江戸東京たてもの園の北海道版だ。

*注 北海道開拓の村への公共交通機関は、JR千歳線・地下鉄東西線の新札幌(しんさっぽろ)駅前から、JR北海道バスの新22系統「開拓の村」行きを利用。このバスはJR函館本線の森林公園駅にも立ち寄る。バスの時刻表は、下記開拓の村の公式サイトにある。

■参考サイト
北海道開拓の村 http://www.kaitaku.or.jp/
北海道開拓の村付近の1:25,000地形図
http://maps.gsi.go.jp/#15/43.048200/141.497100

訪れたのは10月のよく晴れた土曜日だった。旧札幌停車場を縮小再現したという正面玄関の堂々とした建物を通り、右手のメインストリートを少し行くと、背の高いニセアカシアの並木に抱かれるようにして伸びる複線のか細い線路が見えてくる。これが馬車鉄道の走行線だ。線路の総延長は516.58m、軌間は762mm(2フィート6インチ、いわゆるニブロク)で、昔の札幌市内の馬車鉄道と同じにしてあるという(下注)。

*注 数値は、ウィキペディア日本語版「馬車鉄道」の項を参考にした。

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(左)正面玄関は旧札幌停車場のレプリカ (右)馬車鉄道の起点にある旧浦河支庁庁舎

使われている車両は、ダブルルーフ、オープンデッキつきの小型2軸客車だ。1981(昭和56)年日本車輌の製造銘板を付け、内部は6人掛けのロングシートが向い合せになっている。これを「道産馬(どさんこ)」と呼ばれる馬が牽く。正式には北海道和種馬といい、小柄ながら脚が丈夫で辛抱強いので、昔から農作業や荷物の運搬に重宝されてきた種だ。場内のパネルによると、本日の担当は、1991年生まれの「リキ」と1994年生まれの「アラシ」で、二頭とも毛並みの美しい白馬だった。案内の人の話では、彼らは外の飼育場で飼われていて、毎週開拓の村へ出勤してくるのだそうだ。

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(左)ダブルルーフにロングシートの客車内部 (右)牽き馬は道産馬(どさんこ)種

運行は、「旧浦河支庁庁舎前」と「旧ソーケシュオマベツ駅逓所前」の間で行われている。いずれも付近の保存建物の名にちなんでいるが、乗降設備などはなく、「馬車鉄道のりば」と書かれた小さな立て札が立っているだけだ。時刻表の上には、「ご乗車希望のお客様は、並んでお待ちください。定員約18名」と書き添えられていた。座席に12名とつり革6つで18名という計算だが、「約」としているのは、詰めてもらえばあと少しは乗れますよというニュアンスかもしれない。

試乗は後回しにして、午後の始発となる13時10分発を観察した。村内は広くて散策している姿も目立たないのだが、発車時刻が近づくと、待ち合わせ場所に自然と人が集まってくる。グループに子供連れ、ベビーカーを押してきたお母さんもいる。歩けばそれなりに距離があるので、場内唯一であるこの交通手段で移動するのは正解だ。ベビーカーは折り畳んでデッキの隅に置かれる。この回はほぼ満席になり、なかなかの人気であることがわかった。

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(左)客車が客待ち中 (右)乗り場の立て札

発車数分前に、旧開拓使札幌本庁舎(レプリカ)の裏から、ガラガラと引き棒を引きずりながら、白馬のリキが登場した。御者を務める人が後ろで手綱を握っていて、リキは客車の前でしばし待機する。客が全員車内に収まると、女性車掌が発車を宣言し、続いて御者に向かって「お願いしまーす」と呼ばわった。ここで初めて引き棒の金具が客車に掛けられる。御者が手綱を一振りするのを合図に、馬車は走り出した。初めは首を垂れ、足を踏ん張って重そうにしていたリキだが、車が転がり始めると軽快な足取りになり、カラカラと賑やかな鈴の音を残して見る見る遠ざかっていった。

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(左)おもむろにリキが登場 (右)客車の前でしばし待機
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(左)足を踏ん張り重そうにスタート (右)車が転がり始めると表情が緩む
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馬車は並木道を遠ざかる

次の発車までに、村内をざっと見て回ろうと思った。ところが、いざ行ってみると多くの建物で、人形やパネル展示、音声を駆使しながら、そこで営まれていた仕事や時代背景などがリアルに再現されている。靴を脱いで座敷や部屋に上がったり、説明役の人に話を聞いたりしていると、すぐに時間が経ってしまう。簡単に済ませようという目論見は、全くもって甘かった。

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保存建物と内部のようす
(左)紅葉を映す旧 来正(くるまさ)旅館
(右)旧 南一条巡査派出所ではお巡りさんが道案内
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旧 山本理髪店
(左)外観 (右)懐かしい小道具の前で髭剃りの実演中(もちろん人形です)
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漁村群
(左)豪壮な旧 青山家漁家住宅が中央に
(右)広い居間で囲炉裏の火を囲む(人は本物です)
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(左)旧 札幌農学校恵迪寮 (右)谷間の木漏れ日

市街地群と呼ばれるエリアでは、例の鈴の音がよく聞こえるので、そのつどメインストリートへ引き寄せられる。復元された古びた街並みと秋空を区切る並木道、その間を一心に進んでくる鉄道馬車は、ノスタルジックな絵画そのものだ。線路は並木道の間250mほどが複線で、その後は単線になる。そして池の手前で右カーブし、農村群の一角まで進んだところで「旅客線」は終わる。さらに道端の煉瓦の車庫まで、引込み線が続いていた。傍らを見ると、板囲いの中で、もう一頭の牽き馬アラシが秋の陽を浴びながら出番待ちをしている。

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馬車の走る姿はノスタルジックな絵画を見ているよう

終点からは馬車に乗って戻ることにしよう。乗車券は、車掌さんが手売りしている。まだ日が高いせいか、終点側から乗り込んだのは3人だけだった。もちろんここは一番前の席に陣取るべきだ。走り出すと、鈴の音と車輪の音に蹄のリズミカルな響きが合わさってけっこう騒がしい。それもあいまって、スピード感は見物していたとき以上だ。とりわけ唯一のカーブを曲がるときは、白い尻尾が左右に大きく揺れて迫力があった。並木道に入ると、道行く人がこちらに注目してくれる。ちょっとパレードの主人公になった気分で、初乗りを終えた。

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(左)終点の旧 駅逓所 (右)車庫の前で、折返しの出番を待つリキ
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馬車に乗る (左)カーブを回って複線の並木道へ (右)昔懐かしい風景を行く

この貴重な馬車鉄道は、4月~11月の間、9~16時台(12時台を除く)に運行されている。積雪のある冬季は、馬橇がこれに代わる。月~土曜は40分間隔で運行され、1両が終点まで行っては戻ってくる。日曜・祝日は30分毎で、両端から同時発車して2両が複線区間ですれ違う。このシーンを撮るために来る人もいるようだ。片道の所要時間は約5分で、料金は片道大人(15歳以上)250円、小人(3~14歳)100円だ(開拓の村の入場料が別途必要)。

*注 運行状況、料金は2016年10月現在。

ちなみに、村内の鉄道関係の復元施設としてはもう1か所、山村群の一角に森林鉄道の機関庫がある。内部に、1966年の廃止まで夕張岳森林鉄道で稼働していた小型ディーゼル機関車や貨車、トローリーなどが静態展示されている。本物の森に囲まれ、庫外までレールが引き出されていることもあって、こちらも写真の被写体としていい雰囲気を保っている。

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(左)森林鉄道機関庫 (右)本物の丸太が臨場感を呼ぶ

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