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2016年8月25日 (木)

イタリアの鉄道地図 III-ウェブ版

EUの基本政策に従って、イタリアでも旧 国鉄 Ferrovie dello Stato, FS の鉄道事業が上下分離された。移行段階を経て最終的に、インフラ管理は RFI(イタリア鉄道網 Rete Ferroviaria Italiana、2001年設立)が、列車運行はトレニタリア Trenitalia(2000年設立)が担う形に落ち着いた(下注1)。さらに旅客輸送についてはオープンアクセス化に伴い、2012年に NTV(新旅客輸送社 Nuovo Trasporto Viaggiatori)が深紅の高速列車イタロ italo を投入し、トレニタリアのフレッチャ(Freccia、矢の意)シリーズとサービスを競い合っている。また、アルプスの北側諸国に比べて、地方路線に私鉄(下注2)が多いのも特徴だ。この稿では、こうしたイタリアの鉄道網を、ウェブサイトで提供されている鉄道地図(路線図)で見ていくことにしたい。

*注1 RFIもトレニタリアも、国が出資するFS(国有鉄道会社 Ferrovie dello Stato S.p.A.)の子会社。
*注2 私鉄といっても、FSや州、地方自治体が多く出資しており、公営鉄道の性格が強い。

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ミラノ中央駅に勢ぞろいした高速列車
手前からE414機関車(フレッチャビアンカ)、AGV575(イタロ)、
ETR1000、ETR500(いずれもフレッチャロッサ)
海外鉄道研究会 戸城英勝氏 提供、2016年5月撮影

まず、RFIとその線路を使う鉄道会社のサイトから。

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RFI
http://www.rfi.it/
営業路線網 Rete in esercizio を示す全国図と州別図があり、それぞれインタラクティブマップ(対話式地図)とPDF版が用意されている。

・全国図
伊語版トップページ > Linee stazioni territorio > Istantanea sulla rete
または、英語版トップページ > The Italian rail network in figuresのバナー

路線は、幹線 Linee Fondamentali が青色、地方線 Linee Complementari(直訳は補完線)が水色、都市近郊線 Linee di Nodo が橙色で表される。全国の路線網を一覧できるのはいいが、駅の記載が少なすぎて実用的とはいえない。また、自社管理外の私鉄線は描かれていない。

・州別図
伊語版トップページ > Naviga nella rete RFI(RFI路線網へ移動)のクリッカブルマップで州を選択
または、伊語版トップページ > Linee stazioni territorio > 左メニューの Nelle regioni > クリッカブルマップかドロップダウンリストで州を選択

州(レジョーネ Regione)ごとに作成された路線図だ。さすがに全国図より詳しく、ベースマップでおよその地勢もわかる。路線は上記全国図の3分類に加えて、電化/非電化と複線/単線の組合せで区分している。記載する駅の数も決して十分ではないが、全国図よりは多い。

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RFI営業路線網図 トスカーナ州の一部

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トレニタリア Trenitalia
http://www.viaggiatreno.it/

上記URLは、トレニタリアの列車時刻表や発着状況を調べることができる「ヴィアッジャトレーノ Viaggiatreno(列車の旅の意)」というサイトだ。初期画面では、全国旅客路線網が現れる。残念ながら地図を拡大しても、多少駅名表記が増える程度で、情報量はさほど変わらない。なお、右上の言語選択では日本語を含む9か国語に対応している。左から伊(イタリア)、英、独、仏、西(スペイン)と来て、次の青・黄・赤の見慣れない三色旗はルーマニア語を意味している。イタリア語と同じラテン語系の言語なので、イタリアへの旅行者が多いのだろうか。

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NTV(イタロ Italo)
http://www.italotreno.it/

トップページ > Destinazioni e orari(英語版はDestinations & Timetable)
高速列車イタロのサイトには、簡単な系統図しかなかった。走行ルートが限られており、主要都市にしか停まらないから、これで用が足りるのだろう。

 

地方私鉄はどうだろうか。

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フェッロヴィーエノルド(北部鉄道)Ferrovienord
http://www.ferrovienord.it/

トップページ > La rete(路線網)
または直接リンク http://www.ferrovienord.it/orari_e_news/mappa_interattiva.php

ミラノMilanoとブレッシャ(ブレシア)Brescia から北へ路線を広げる主要私鉄で、ミラノ北駅 Milano Nord ~サロンノ Saronno 間21kmは堂々たる複々線が敷かれ、北イタリアの空の玄関口ミラノ・マルペンサ空港 Aeroporto di Milano-Malpensa へも乗り入れている。路線図はコーポレートカラーの黄緑を使って、運行系統を示すものだ。

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チルクムヴェズヴィアーナ(ヴェズヴィオ環状鉄道)Circumvesuviana
http://www.eavsrl.it/

ナポリからヘルクラネウム Herculaneum(伊語:エルコラーノ Ercolano)やポンペイ Pompei、ソレント Sorrentoなど著名観光地へのアクセスにもなっている歴史ある鉄道だが、現在はナポリ地下鉄などとともにヴォルトゥルノ公社 Ente Autonomo Volturno, EAV の一部門だ。残念ながらEAVのサイトには系統ごとの図しか見当たらないので、ウィキメディア収載の図を紹介しておこう。
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Circumvesuviana_maps.png

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スド・エスト鉄道(南東鉄道)Ferrovie del Sud Est
https://www.fseonline.it/

トップページ > Orari e tariffe(時刻表と運賃)> / Download linee e orari
または直接リンクhttps://www.fseonline.it/downloadorari.aspx

南部プッリャ(プーリア)Puglia 州の幹線網を補完する役割の鉄道で、長靴形をしたイタリア半島のかかとに当たるサレント半島に路線網を築いている。上記ページの Le nostre linee(自社線)に系統図(png画像)と路線網のPDFがある。系統図のほうが色分けされてわかりやすいが、拡大はできない。

 

都市交通では、代表的な3都市を見てみよう。いずれも地方鉄道に比べればしっかりしたデザインで、好感が持てる。

ミラノ Azienda Trasporti Milanesi, ATM
http://www.atm.it/

トップページ > Viaggia con noi > Schema Rete
または直接リンク http://www.atm.it/it/ViaggiaConNoi/Pagine/SchemaRete.aspx

ページの最下段の、マウスオンすると "Scarica lo schema di rete(路線網図をダウンロード)" と出る画像からリンクしている。地図は、メトロ(地下鉄)の色を目立たせ、連絡するトレニタリアの列車系統は控えめに描くという、オーソドックスなデザインだ。

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ローマ ATAC
http://www.atac.roma.it/

トップページ > per te
またはトップページ > Linee e Mappe(路線と地図)

市街地や郊外のバス路線図、メトロ路線図など、充実したラインナップを提供していて見ごたえがある。

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ナポリ Azienda Napoletana Mobilità, ANM
http://www.anm.it/

トップページ > Metro(Mのマーク) > Linee metro e funicolari > 本文中の "rete metropolitana" のリンク

自社運営する2本のメトロと4本のケーブルカーだけでなく、トレニタリアやEAVなど他社線も分け隔てなく描いた総合路線図にしているところを特に評価したい。

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ANM市内路線図の一部

個人サイトでは、「ヨーロッパの鉄道地図 V-ウェブ版」で紹介したウェブ版鉄道地図帳である「Railways through Europe」のサイトに、イタリア編もある。
http://www.bueker.net/trainspotting/maps_italy.php

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非常に有益な旧版鉄道地図のコレクションも見つかる。
http://www.stagniweb.it/

トップページ > 左メニューの MAPPE STORICHE(歴史地図)> Carte ferroviarie(鉄道地図)

ここには最も古いもので1876年、新しいもので1989年の、イタリアの鉄道網を描いたさまざまな図面が収集されている。各図の Apri la mappa ad alta risoluzione / Open full size map のリンクから拡大画像をダウンロードすれば、より詳細に路線網の構成や変遷を追うことができる。眺めているうちに、時の経つのを忘れてしまうだろう。

★本ブログ内の関連記事
 イタリアの鉄道地図 I-バイルシュタイン社
 イタリアの鉄道地図 II-シュヴェーアス+ヴァル社

 近隣諸国のウェブ版鉄道地図については、以下を参照。
 フランスの鉄道地図 III-ウェブ版
 フランスの鉄道地図 IV-ウェブ版
 スイスの鉄道地図 IV-ウェブ版
 オーストリアの鉄道地図 II-ウェブ版
 ヨーロッパの鉄道地図 V-ウェブ版

2016年8月13日 (土)

イタリアの鉄道地図 II-シュヴェーアス+ヴァル社

専門家やコアな鉄道愛好家向けに、魅力的な鉄道地図帳を刊行し続けてきたドイツのシュヴェーアス・ウント・ヴァル社 Schweers+Wall (S+W) が、ヨーロッパアルプスの南の路線網に初めて取り組んだのが、この「イタリア・スロベニア鉄道地図帳 Atlante ferroviario d'Italia e Slovenia / Eisenbahnatlas Italien und Slowenien」だ。192ページ、横23.5×縦27.5cmの上製本で、2010年1月に初版が刊行された。

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イタリア・スロベニア鉄道地図帳 表紙

鉄道地図には大別して、列車や路線のネットワークを表現するものと、路線のインフラ設備を詳述するものの2種類がある。S+W社の鉄道地図帳シリーズは後者に相当し、対象国内の全鉄道路線、全駅を含む主要鉄道施設が、正縮尺の美しいベースマップの上に表現されている。徹底的に調査され、細部まで描き込まれた鉄道インフラの最も詳しい地図帳として定評を得ている。

本書はタイトルのとおり、イタリアと東の隣国スロベニアの鉄道がテーマだ。イタリア半島にあるサンマリノとバチカン市国はもとより、歴史的に関連が深いイストラ半島(イタリア語ではイストリア Istria、大部分がクロアチア領)や地中海のマルタ島 Malta も範囲に入っている(下注1)。イタリアの鉄道地図は、長い間ボール M.G.Ball 氏の地図帳(下注2)以外に満足できるものがなかったので、S+W版の参入で一気に書棚が充実した印象がある。

*注1 現在、マルタ島には鉄道はないが、1931年まで1000mm軌間の鉄道がバレッタ Valetta から内陸に延びていた。
*注2 ボール鉄道地図帳については、「ヨーロッパの鉄道地図 I-ボール鉄道地図帳」参照。

さらに、旧ユーゴスラビア連邦の一部だったスロベニアまで範囲が広げられているのも嬉しい。もちろんこの国もボール地図帳のほかに詳しい鉄道地図はなかった。電化方式がイタリア在来線と同じ直流3000Vなので、今回一体的に取り扱ったものと推測するが、そもそもスロベニアの地はハプスブルク帝国領の時代が長い。最初に開通した鉄道は、帝国の首都ウィーンとアドリア海の港町トリエステ(現 イタリア領)を結んだ東部鉄道 Südbahn だ。その史実からすれば、オーストリア編のときに出ていてもよかったくらいだ。

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ローマ~ナポリ間カッシーノ Cassino 付近 (表紙の一部を拡大)

イタリア・スロベニア編のページ構成だが、地図のセクションは全部で157ページある。縮尺1:300,000で描いた全国区分図のほかに、路線網が錯綜する主要都市とその周辺について1:100,000、一部は1:50,000の拡大図がかなりの数挿入されている。余白にはそのページの図に記載された私鉄の社名、軌間、電化方式、開業年/廃止年のメモがつく。地図ページに続いては、駅その他の鉄道施設の名称索引が24ページある。

内容については、まず本書ドイツ語序文の該当箇所を引用させてもらおう(迷訳ご容赦)。

「路線は、各図でインフラの所有権と関係づけて描かれている。その際、記号や配色はドイツ、スイス、オーストリアの地図帳からおおむね引き継がれている。

RFI(下注)の非電化線は黒で、私鉄はオレンジで描かれる。電化線は、適用される架線電圧方式に応じて、異なる色で記される。直流3000VのRFI国鉄路線網の路線は青、私鉄は明るい青で描かれ、交流25kVの路線(高速線)は緑で描かれる。それ以外の電圧、例えば1500Vまたは1650Vは紫で示される。引込線は茶色の破線、狭軌鉄道や路面軌道は独自の記号をもっている。イタリアに多数ある私鉄は、地図の縁にあるテキスト欄で簡潔に説明している。略号は地図で使用される略号を示している。」

*注 RFI(イタリア鉄道網 Rete Ferroviaria Italiana)は、旧 国鉄の線路等インフラ管理を担う企業。

イタリアの在来線の電化方式は直流3000Vなので、図を支配するのは青色(印刷色はウルトラマリン=紫味の強い青)だ。交流15kV 16.7Hzの赤色が目立つドイツ語圏の国々とは違って、落ち着いた雰囲気を醸し出す。イタリアと言えば、鮮やかな赤をまとう高速列車が目に浮かぶが、高速線の交流25kV 50Hz(下注)も緑色で、クールなイメージは崩れない。

*注 最初に完成したフィレンツェ~ローマ間の高速線(直流3000V)を除く。

その高速線は、本書の時点(2009年秋)ですでにトリノからミラノ、ボローニャ、フィレンツェ、ローマを経てナポリまで延び、さらにミラノから東へ、ヴェネツィアの手前までが予定線(下注)として描かれている。在来線でも、山が地中海に迫るジェノヴァ Genova~ヴェンティミーリア Ventimiglia 間やアドリア海岸のペスカーラ Pescara~フォッジャ Foggia 間、アルプスの谷間のウディーネ Udine~タルヴィジオ Tarvisio 間やブレンネロ/ブレンナー Brennero/Brenner~ボルツァーノ/ボーツェン Bolzano/Bozen 間などで、長大トンネルを含む大規模な別線建設が行われていることがわかる。

*注 2016年現在、すでに一部区間が供用中。

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ミラノ拡大図 (裏表紙の一部を拡大)

序文はさらに続く。「廃止線は灰色で描かれる。インフラはまだ一部残っているがもはや運行できない路線(例えばポイントの欠如)も廃止線として扱っている。廃止線では、すべての旧 鉄道施設が図面に表されているわけではなく、キロ程も同様である。さらに言えば灰色の路線記号は、かつて線路がどこを通っていて、鉄道網とどのように接していたかだけを示そうとするものである。鉄道地図帳の重点は、現在運行中の路線網に置かれている。したがって視認性を優先するため、主要都市におけるかつての接続カーブまたは線路位置の再現は断念した。」

表示は完璧なものではないとは言うものの、今は無き廃線のルートや廃駅の位置がわかるのも、この地図帳の大きな特色だ。灰色で示される廃止線は、ほぼどのページにも見つかる。中には極端な蛇行を繰り返し、ときにはささやかなスパイラルまで構えて高みをめざすものがある(下注)。筆者にとって、その軌跡をさらに縮尺の大きい官製地形図や空中写真で確かめるのは、大いなる楽しみの一つだ。

*注 その一例を本ブログ「サンマリノへ行く鉄道」で紹介している。

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凡例の一部

このように実際に列車が走れる線路だけでなく、建設中や計画中の路線を拾い上げ、廃止線が自転車道に転換されればその記号まで付して、鉄道網の過去・現在・未来を一つの図面に示そうとする。この実直で緻密で徹底した編集方針は、類書の遠く及ばないところだ。なにぶんドイツの刊行物のため、序文と解説はドイツ語とイタリア語のみだが、凡例(記号一覧)には独・伊・仏語とともに英語表記があり、読図に大きな支障はない。イタリアの鉄道路線について調べるつもりなら、まず座右に置くべき書物の一つだろう。

なお、刊行から時間が経ち、初版の入手はやや難しくなっているようだ。古書店に当たるか、改訂版の刊行を待つ必要があるかもしれない。

■参考サイト
シュヴェーアス・ウント・ヴァル社 http://www.schweers-wall.de/

★本ブログ内の関連記事
 イタリアの鉄道地図 I-バイルシュタイン社

シュヴェーアス・ウント・ヴァル社の鉄道地図帳については、以下も参照。
 ヨーロッパの鉄道地図 VI-シュヴェーアス+ヴァル社
 ドイツの鉄道地図 III-シュヴェーアス+ヴァル社
 スイスの鉄道地図 III-シュヴェーアス+ヴァル社
 オーストリアの鉄道地図 I
 フランスの鉄道地図 VI-シュヴェーアス+ヴァル社

2016年8月 7日 (日)

イタリアの鉄道地図 I-バイルシュタイン社

アルプスの麓の緑の谷間から、シロッコが吹く地中海の岸辺まで、イタリアの鉄道の守備範囲はとても広い。路線網の総延長は19,400km、営業中のものに限定しても16,700kmあるという。その性格も、フレッチャロッサ Frecciarossa(赤い矢)やイタロ Italo が最高時速300kmで突進する高速線から、半島の周辺部や離島の山懐を健気に走る950mm狭軌のローカル線まで、変化に富んでいる。

イタリアの鉄道網を一定の詳しさで表した印刷物の鉄道地図(路線図)は、2016年現在、筆者の知る限りで3種ある。

1.ボール M.G.Ball 氏の「ヨーロッパ鉄道地図帳 European Railway Atlas」の地域シリーズ Regional Series の1巻「イタリア編」
2.バイルシュタイン社 Beilstein の「レールマップ・イタリー Railmap Italy」
3.シュヴェーアス・ウント・ヴァル社 Schweers+Wall の「イタリア・スロベニア鉄道地図帳 Atlante ferroviario d'Italia e Slovenia」

1については、すでに本ブログ「ヨーロッパの鉄道地図 I-ボール鉄道地図帳」で全般的なレビューをしているので、そちらを参照いただくとして、今回と次回で残りの2種を紹介しておきたい。

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レールマップ・イタリー表紙

2015年4月の新刊である「レールマップ・イタリー Railmap Italy / Carta Ferroviaria Italia(イタリア鉄道地図)」は、1枚ものの鉄道地図だ。横75cm×縦113cmの大判用紙に印刷され、折図にしてハードカバーがつけられている。冊子形式の他2種とは異なり、1枚でイタリア全土を一覧できるのがポイントだ。地図のデザインは一見地味だが、よく練られていて、主題となる路線情報がしっかり目に飛び込んでくる。

バイルシュタインの名はあまり聞き慣れない。実は、キュマリー・ウント・フライ(キュメルリ・フライ)社 Kümmerly+Frey (K+F) 刊行の「レールマップ・ユーロップ Railmap Europe(ヨーロッパ鉄道地図)」(2008年)と「ドイツ鉄道旅行地図 Rail Travel Map Deutschland」(2009年)の製作を担当したスイスの地図製作会社だ(下注)。これらはシートや表紙にバイルシュタインのロゴが見られるものの、あくまでK+Fブランドの出版物だった。それに対して、イタリア図はK+F社と関係なく、バイルシュタインが独自に企画制作、刊行したもののようだ。

*注 K+F社のレールマップ・ユーロップについては本ブログ「ヨーロッパの鉄道地図 IV-キュマリー+フライ社」で、また、ドイツ鉄道旅行地図は「ドイツの鉄道地図 V-キュマリー+フライ社」で紹介している。

内容はどうだろう。用紙寸法に収めるために、縮尺は1:1,300,000(130万分の1)と、少し小さめだ。ベースマップはベージュのぼかし(陰影)で地勢を手描きし、そこに水系(川や湖)を加えている。シンプルながら、色合いといい、明暗を際立たせた描法といい、イタリア官製1:100,000を彷彿とさせる美しさがある。森の緑に細かいぼかしで錯雑感が出てしまったドイツ図に比べると、はるかに見やすい。

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サンプル図(ローマ付近)
画像は http://beilstein.biz/ から取得

主役たる鉄道路線はまず、色で電化方式を表す(上図参照)。イタリアの在来線は直流3000Vで赤色が使われているが、高速線や一部の私鉄は緑や橙になっていて、方式が異なることがわかる。また、非電化線は黒色だ。色分けによって、周辺諸国の路線との接続状況も明らかになる。たとえば、国境のトンネルをはさんでどちら側で電源が切り替わるかも一目瞭然だ。

線の形状は、高速線や標準軌/狭軌を区別するのに用いられる。高速線は太い二重線、標準軌は太線、狭軌は輪郭つきの破線だ。建設中または計画中の路線は細い二重線になる。また、旅客列車の走らない路線は、たとえば非電化線なら黒をグレーにするなど、トーンを落として表現する。これらも感覚的に無理のない設定だ。

高速線の記号は目立つので、路線が輻輳している地域でも識別が容易だ。筆者は、イタリアの高速線は交流25kV 50HzのフランスTGV方式だとばかり思っていたのだが、この地図で、最初に開通したフィレンツェ Firenze~ローマ Roma 間だけが在来線と同じ直流3000Vであることに初めて気づいた。また、在来線では、北西部ピエモンテ州のいくつかのローカル線や、アペニン山脈南部の山岳路線で、旅客列車が廃止されているという現実も教えられる。

1:1,300,000という縮尺の制約上、すべての駅や停留所を表示するのは難しい。他の資料と見比べると、旅客駅、すなわちかつての基準で駅舎があって駅員がいる(昨今は条件を満たさないものも多いが)という、イタリア語でいうスタツィオーネ stazione だけが表示の対象のようだ。停留所(フェルマータ fermata、英語の stop, halt)や貨物駅などは描かれていない。一方で各路線には、トレニタリア(旧 国鉄)の時刻表番号、地方の時刻表番号、ヨーロッパ鉄道時刻表の路線番号といったインデックスが丁寧に振られ、時刻表とのリンクが配慮されている。

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サンプル図(メッシーナ海峡)
画像は http://beilstein.biz/ から取得

また、観光大国の鉄道地図とあれば、沿線の旅行情報にも抜かりはない(上図参照)。路線に緑の点線が添えられているのは、景勝路線だ。アルプスの谷間や湖沿い、アペニンの山越え、地中海岸など、目を凝らせばかなりのルートで記号が見つかり、旅心を刺激する。また、保存鉄道を示す蒸気機関車のマークも各所にある。そのほか、著名観光都市には星印が打ってあり、郊外には城、古代遺跡、修道院、景勝地など多数の記号が配されている。鉄道網と合わせてこうした周辺情報を追っていけば、地図を読む楽しみも倍加するだろう。

価格は19.90ユーロ(1ユーロ120円として2,388円)と少々高めの設定だ。しかし、列車で旅をしたいのだが、ウェブサイトにあるような主要路線と主要駅だけのラフな路線図では物足りないとか、イタリア全体を一覧できるものがほしいという向きには最適ではないだろうか。この地図は、バイルシュタイン社の自社サイトのほか、ドイツのアマゾン(Amazon.de)などで発注できる。

■参考サイト
バイルシュタイン社 http://beilstein.biz/

★本ブログ内の関連記事
 イタリアの鉄道地図 II-シュヴェーアス+ヴァル社

バイルシュタイン社の作品群
 ヨーロッパの鉄道地図 IV-キュマリー+フライ社
 ドイツの鉄道地図 V-キュマリー+フライ社

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