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2016年8月13日 (土)

イタリアの鉄道地図 II-シュヴェーアス+ヴァル社

専門家やコアな鉄道愛好家向けに、魅力的な鉄道地図帳を刊行し続けてきたドイツのシュヴェーアス・ウント・ヴァル社 Schweers+Wall (S+W) が、ヨーロッパアルプスの南の路線網に初めて取り組んだのが、この「イタリア・スロベニア鉄道地図帳 Atlante ferroviario d'Italia e Slovenia / Eisenbahnatlas Italien und Slowenien」だ。192ページ、横23.5×縦27.5cmの上製本で、2010年1月に初版が刊行された。

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イタリア・スロベニア鉄道地図帳 表紙

鉄道地図には大別して、列車や路線のネットワークを表現するものと、路線のインフラ設備を詳述するものの2種類がある。S+W社の鉄道地図帳シリーズは後者に相当し、対象国内の全鉄道路線、全駅を含む主要鉄道施設が、正縮尺の美しいベースマップの上に表現されている。徹底的に調査され、細部まで描き込まれた鉄道インフラの最も詳しい地図帳として定評を得ている。

本書はタイトルのとおり、イタリアと東の隣国スロベニアの鉄道がテーマだ。イタリア半島にあるサンマリノとバチカン市国はもとより、歴史的に関連が深いイストラ半島(イタリア語ではイストリア Istria、大部分がクロアチア領)や地中海のマルタ島 Malta も範囲に入っている(下注1)。イタリアの鉄道地図は、長い間ボール M.G.Ball 氏の地図帳(下注2)以外に満足できるものがなかったので、S+W版の参入で一気に書棚が充実した印象がある。

*注1 現在、マルタ島には鉄道はないが、1931年まで1000mm軌間の鉄道がバレッタ Valetta から内陸に延びていた。
*注2 ボール鉄道地図帳については、「ヨーロッパの鉄道地図 I-ボール鉄道地図帳」参照。

さらに、旧ユーゴスラビア連邦の一部だったスロベニアまで範囲が広げられているのも嬉しい。もちろんこの国もボール地図帳のほかに詳しい鉄道地図はなかった。電化方式がイタリア在来線と同じ直流3000Vなので、今回一体的に取り扱ったものと推測するが、そもそもスロベニアの地はハプスブルク帝国領の時代が長い。最初に開通した鉄道は、帝国の首都ウィーンとアドリア海の港町トリエステ(現 イタリア領)を結んだ東部鉄道 Südbahn だ。その史実からすれば、オーストリア編のときに出ていてもよかったくらいだ。

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ローマ~ナポリ間カッシーノ Cassino 付近 (表紙の一部を拡大)

イタリア・スロベニア編のページ構成だが、地図のセクションは全部で157ページある。縮尺1:300,000で描いた全国区分図のほかに、路線網が錯綜する主要都市とその周辺について1:100,000、一部は1:50,000の拡大図がかなりの数挿入されている。余白にはそのページの図に記載された私鉄の社名、軌間、電化方式、開業年/廃止年のメモがつく。地図ページに続いては、駅その他の鉄道施設の名称索引が24ページある。

内容については、まず本書ドイツ語序文の該当箇所を引用させてもらおう(迷訳ご容赦)。

「路線は、各図でインフラの所有権と関係づけて描かれている。その際、記号や配色はドイツ、スイス、オーストリアの地図帳からおおむね引き継がれている。

RFI(下注)の非電化線は黒で、私鉄はオレンジで描かれる。電化線は、適用される架線電圧方式に応じて、異なる色で記される。直流3000VのRFI国鉄路線網の路線は青、私鉄は明るい青で描かれ、交流25kVの路線(高速線)は緑で描かれる。それ以外の電圧、例えば1500Vまたは1650Vは紫で示される。引込線は茶色の破線、狭軌鉄道や路面軌道は独自の記号をもっている。イタリアに多数ある私鉄は、地図の縁にあるテキスト欄で簡潔に説明している。略号は地図で使用される略号を示している。」

*注 RFI(イタリア鉄道網 Rete Ferroviaria Italiana)は、旧 国鉄の線路等インフラ管理を担う企業。

イタリアの在来線の電化方式は直流3000Vなので、図を支配するのは青色(印刷色はウルトラマリン=紫味の強い青)だ。交流15kV 16.7Hzの赤色が目立つドイツ語圏の国々とは違って、落ち着いた雰囲気を醸し出す。イタリアと言えば、鮮やかな赤をまとう高速列車が目に浮かぶが、高速線の交流25kV 50Hz(下注)も緑色で、クールなイメージは崩れない。

*注 最初に完成したフィレンツェ~ローマ間の高速線(直流3000V)を除く。

その高速線は、本書の時点(2009年秋)ですでにトリノからミラノ、ボローニャ、フィレンツェ、ローマを経てナポリまで延び、さらにミラノから東へ、ヴェネツィアの手前までが予定線(下注)として描かれている。在来線でも、山が地中海に迫るジェノヴァ Genova~ヴェンティミーリア Ventimiglia 間やアドリア海岸のペスカーラ Pescara~フォッジャ Foggia 間、アルプスの谷間のウディーネ Udine~タルヴィジオ Tarvisio 間やブレンネロ/ブレンナー Brennero/Brenner~ボルツァーノ/ボーツェン Bolzano/Bozen 間などで、長大トンネルを含む大規模な別線建設が行われていることがわかる。

*注 2016年現在、すでに一部区間が供用中。

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ミラノ拡大図 (裏表紙の一部を拡大)

序文はさらに続く。「廃止線は灰色で描かれる。インフラはまだ一部残っているがもはや運行できない路線(例えばポイントの欠如)も廃止線として扱っている。廃止線では、すべての旧 鉄道施設が図面に表されているわけではなく、キロ程も同様である。さらに言えば灰色の路線記号は、かつて線路がどこを通っていて、鉄道網とどのように接していたかだけを示そうとするものである。鉄道地図帳の重点は、現在運行中の路線網に置かれている。したがって視認性を優先するため、主要都市におけるかつての接続カーブまたは線路位置の再現は断念した。」

表示は完璧なものではないとは言うものの、今は無き廃線のルートや廃駅の位置がわかるのも、この地図帳の大きな特色だ。灰色で示される廃止線は、ほぼどのページにも見つかる。中には極端な蛇行を繰り返し、ときにはささやかなスパイラルまで構えて高みをめざすものがある(下注)。筆者にとって、その軌跡をさらに縮尺の大きい官製地形図や空中写真で確かめるのは、大いなる楽しみの一つだ。

*注 その一例を本ブログ「サンマリノへ行く鉄道」で紹介している。

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凡例の一部

このように実際に列車が走れる線路だけでなく、建設中や計画中の路線を拾い上げ、廃止線が自転車道に転換されればその記号まで付して、鉄道網の過去・現在・未来を一つの図面に示そうとする。この実直で緻密で徹底した編集方針は、類書の遠く及ばないところだ。なにぶんドイツの刊行物のため、序文と解説はドイツ語とイタリア語のみだが、凡例(記号一覧)には独・伊・仏語とともに英語表記があり、読図に大きな支障はない。イタリアの鉄道路線について調べるつもりなら、まず座右に置くべき書物の一つだろう。

なお、刊行から時間が経ち、初版の入手はやや難しくなっているようだ。古書店に当たるか、改訂版の刊行を待つ必要があるかもしれない。

■参考サイト
シュヴェーアス・ウント・ヴァル社 http://www.schweers-wall.de/

★本ブログ内の関連記事
 イタリアの鉄道地図 I-バイルシュタイン社

シュヴェーアス・ウント・ヴァル社の鉄道地図帳については、以下も参照。
 ヨーロッパの鉄道地図 VI-シュヴェーアス+ヴァル社
 ドイツの鉄道地図 III-シュヴェーアス+ヴァル社
 スイスの鉄道地図 III-シュヴェーアス+ヴァル社
 オーストリアの鉄道地図 I
 フランスの鉄道地図 VI-シュヴェーアス+ヴァル社

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