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2016年7月31日 (日)

ダグラスの馬車軌道に未来はあるのか

140年もの間、マン島 Isle of Man の首都ダグラスのプロムナードを走ってきたダグラス・ベイ馬車軌道 Douglas Bay Horse Tramway (下注)に今、転機が訪れている。

*注 ダグラス馬車鉄道と呼ばれることも多いが、ここでは tramway を軌道と訳した。同 軌道の詳細は「マン島の鉄道を訪ねて-ダグラス・ベイ馬車軌道」参照。

島に残る主な古典的鉄道4本のうち、蒸気鉄道、マンクス電気鉄道、スネーフェル登山鉄道の3本は1978年に国有化(下注)されたが、馬車軌道だけは1900年にダグラス市が買収して以来、一貫して市営で運行されてきた。ところが、2015年12月に厩舎移設のために市議会に提出された資金計画が、慢性的な運営赤字への批判と重なって紛糾し、とうとうトラムの運行を中止するという提案が採択されてしまったのだ。国が乗り出して2018年まで運行が継続されることになったものの、近々予定されるプロムナードの全面改修工事と絡んで、将来的な見通しはまだ示されていない。

*注 本稿で「国」「政府」という場合、イギリスではなく「マン島自治政府」を指している。

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ダグラスのプロムナードを行く(2007年8月撮影)

ことの発端である厩舎というのは、もちろん運行の主役である馬たちがねぐらにしている場所だ。1891年からの古い建物で老朽化しており、ストラサラン Strathallan の軌道終点にある同じく改修が必要な運行拠点に統合して、敷地は売却するという構想が練られていた。そのための改築費用およそ290万ポンドは、30年の市債を発行して確保する予定だった。ところが、議会の審議の中で、トラムの運行で生じている年26万3千ポンドの赤字に、この返済負担が上乗せされることが問題視された。

議会関係者はこう述べている。「議会は常にダグラスの納税者の最善を考えて行動しなければならない。馬車軌道の運行を続けることは、翌会計年度だけでなく近い将来においても、納税者に受入れがたいレベルの重荷を背負わせることになる。」「議会も、馬車軌道の運行に対して島内や世界中から寄せられる愛情を認めてはいるが、こうした背景がある以上、残念だが馬車軌道は存続できない。」(ダグラス市議会ニュース 2016年1月21日)。

運行終了の決議は今年(2016年)1月27日に行われた。あと3か月もすれば次のシーズンが始まるという時期で、しかも今年は開通140周年の記念行事が計画されている。馬車軌道は島の重要な観光資源の一つであり、将来のあり方よりも、まず当面の対策を急ぐ必要があった。決議の当日に、市議会と関連の政府部局、保護団体の代表者による会議が持たれ、問題を調査するための委員会が立ち上げられた。

3月24日になって、政府の社会基盤省 Department of Infrastructure から、2016年のシーズンは同省が馬車軌道の運行の責を果たすと、公式発表があった。つまり、市が放棄した運行事業を国が肩代わりするということだ。しかし、国から特別の支出はないため、持出しとなる費用は、他の保存鉄道を含めた運営予算の中から捻出しなければならない。そこで、運行費用の削減と増収を目標とする計画が実行される。ハイシーズンでも月曜を運休日として、馬や要員の運用を減らす一方で、増収のために運行期間が拡大され、昨年5月11日~9月13日だったものが4月30日~11月30日になった。

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馬車軌道の時刻表リーフレットが経営者の交代を物語る
(左)2015年、右肩にダグラス市議会 Douglas Borough Council の文字
(右)2016年、左下にマン島鉄道 Isle of Man Railways(国有鉄道) の文字

実は、この難しい一件がなくても、馬車軌道は一時休止になる予定だった。プロムナードを全面改修する計画が進行しており、本来なら2015年を全面運休して工事を行い、140周年の2016年に華々しく再開される運びだったのだ。計画図面では、現在道路の中央に敷かれている複線の線路が、海側の歩道の脇に寄せて単線化され、途中に「列車交換」するための待避線(パッシングループ)が設けられている。景観は今とかなり変わってしまうが、乗降の際の安全性が高まるとともに、自動車の通行も円滑になるとされた。

しかし、調整が難航して2015年の着工が見送られ、市議会で紛糾したことで、工期はさらにずれ込むことになる。この不透明な状況下で、4月12日に改修計画の修正案が公表された。そこには、馬車軌道の準備を除外した上で、「馬車軌道の将来が保証されるならば、運行をヴィラ・マリーナ Villa Marina ~ダービー・カッスル Darby Castle 間とする申請が別途提出される」と書かれていた。裏を返せば、存続する場合でも、中心街で交通量が多いヴィラ・マリーナ以南には線路を敷かないと言っているのだ。

今月(2016年7月)のマン島議会で本件が審議されることになり、成り行きが注目されたが、23日付のブリティッシュ・トラムズ・オンライン British Trams Online は次のように報じた。

「長時間の討論と修正提案を経て、ティンヴァルド Tynwald(マン島議会)は今週、マン島鉄道 Isle of Man Railways(国有鉄道)が今後2年間(2017~18年)ダグラス・ベイ馬車軌道を運行し続け、一方で今後のより詳細な問題については、軌道の長期にわたる将来のために社会基盤省が準備することを承認した。議論された当初の提案は、プロムナードの改修工事の一部として軌道全線を再敷設することに何ら言及のないものであったが、議論の間に修正が加えられ、シー・ターミナルからダービー・カッスルの全区間に単線の軌道を完全に再敷設することへの言及が見られた。」

つまり、2018年までは運行され、改修工事後も区間短縮はしないということが、なんとか保証されたようだ。

さらに提案には、国が正式に馬車軌道の経営を行うとともに、市から運行に用いる施設設備を買い取る(=国有化する)旨の内容が含まれている。ただし同時に経営の見直しが図られ、車両については、現存の25両中11両のみを引継ぐという。このうち7両を運行の中核部隊とし、4両は「保存 museum」車両として特別行事にのみ使用する。市の所有に残される14両は、遠からず処分される運命にある。

また、厩舎と車庫は、2年間現状のまま使用するが、その後の統合改築については議論が継続される。プロムナード改修計画に軌道工事が含まれていないため、施設の移転改築を含めた工費の見積額は540万ポンドに上る。巨額の資金をどのように工面し、返済していくのかが議論の最大の焦点になるのは間違いない。

馬車鉄道の存続危機が全英に伝わり、今年はマン島の鉄道遺産を訪れる人が急増しているそうだ。シーズン前半、7月3日までの馬車軌道の乗客数は22,173人で、昨年同期比7,707人、率にして52%も増えたという。また、運行コストの縮小も報告されている。特需が後押しした面はあるが、政府がとった再建策も一定の効果を生んでいるのだろう。

保存鉄道の支援団体も、保存鉄道行政が一本化される今回の措置には協力を惜しまないとする。しかし一方で、オリジナルの厩舎と車庫を建て替え、ルートを変更し、車両をスクラップにして、馬車軌道のいったい何を維持しようとしているのか、という疑問の声も上がっている。マン島議会の寛大な決定で一息ついたとはいうものの、何も知らずに仕事にいそしむ馬たちを前に、馬車軌道とその経営者の悩みはかつてなく深い。

■参考サイト
ダグラス湾馬車軌道友の会 Friends of Douglas Bay Horse Tramway
http://www.friendsofdbht.org/
IOM Today  http://www.iomtoday.co.im/
ダグラス市公式サイト(ニュース) http://www.douglas.gov.im/index.php/news
マン島政府公式サイト(ニュース) https://www.gov.im/news/
ブリティッシュ・トラムズ・オンライン http://www.britishtramsonline.co.uk/

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