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2016年7月 3日 (日)

新線試乗記-北海道新幹線で函館へ

「この列車は13時31分発、北海道新幹線新函館北斗(しんはこだてほくと)行きです。」東京から乗り通してきた「はやぶさ13号」の車内にアナウンスが流れた。何気なく聞いてはいても、北海道新幹線ということばの響きが新鮮で、耳に残る。

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(左)東京駅に新函館北斗行き「はやぶさ13号」が入線
(右)開業を知らせるJR東日本のパンフレット

今、列車は新青森駅に停車している。京都駅を出たのは朝7時半で、東京で30分弱の乗継ぎ時間をとったとはいえ、すでにお昼を回った。新函館北斗まではトータルで7時間かかる計算だ。ずっと座りづめで、そろそろお尻が痛くなってきたが、日本海側を走る特急「白鳥」や寝台の「日本海」で1日がかりの長旅をしていたころに比べれば、贅沢な悩みかもしれない。

北海道新幹線の新青森~新函館北斗間148.8kmは、2016年3月26日に開業した。上下各13本の列車が設定され、両駅間は最短61分になった。運用車両は、東北新幹線で使われてきたE5系とJR北海道所有のH5系だ。どちらも基本的に同じ仕様で、明るい緑と白のツートンをまとっているが、側面の帯はE5系のピンクに対して、H5系はご当地色のラベンダーを巻く。

新青森を発車した後も、アナウンスは続いた。「これから青函トンネルを通り、チューリップの春を迎えた北海道へと参ります」。乗車したのは5月20日、春到来の北の大地を想像して心が弾む。6年前に東北新幹線が新青森まで延びた時、駅の北方にある車両基地へ去っていくはやぶさを見送りながら、新幹線が見る夢はまだ当分続くと思った。その夢に現実が追いついたのだ。線路が右手に分かれていき、その車両基地が車窓をよぎった。

*注 東北新幹線の新青森延伸については、本ブログ「新線試乗記-東北新幹線、新青森延伸+レールバス見学」参照

線路は、津軽半島の東岸を北上する。右手には水が張られた田んぼが続き、その向こうにJR津軽線と沿岸集落、それから青い陸奥湾を隔てて夏泊半島の山々がくっきりと見えている。それはまるで新旧交通路の交代劇をなぞるようだ。集落の手前の線路には、ほんの2か月前まで函館をめざす特急列車の姿があったし、30年前にはあの海を国鉄の青函連絡船が行き交っていたから。

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新青森から津軽半島東岸を北上する
陸奥湾の向こうに夏泊半島、その左後方は下北半島のシルエット

しかしこの眺めも長くは続かない。海峡に達するまでに両手に余る数のトンネルが控えている。闇と明かりをいくつか過ぎたところで、電車は減速し始めた。狭軌との合流地点にさしかかったらしい。

青函トンネルを含む「海峡線」区間は、1988年の完成時から在来線として旅客・貨物の輸送に使われ続けてきた。特に貨物は大動脈で、北海道の産業にとって生命線になっている。新幹線の開通によって旅客輸送は完全に移行するが、貨物列車は依然在来線から乗入れてくる。高速ですれ違った場合、風圧がコンテナ貨物に与える影響が懸念されて、新幹線列車は時速140kmまで速度を落として走ることになったのだ。

在来線の線路が高架に上がってきて、シェルターの中で合流した。あっという間だった。新幹線は標準軌(1435mm)、在来線は狭軌(1067mm)と軌間が異なるので、この区間はレールが3本並ぶ3線軌条に改築されている。素人目には珍しい光景程度の感覚だが、その開発と保守作業の舞台裏は想像以上に大変らしい。

JR北海道のサイトによれば、3線軌条に対応するため、1台19億円のレール削正車をはじめ特別仕様の作業車を揃えた。また、地上設備は12か所の3線分岐器(ポイント)のほか、限界支障報知、レール破断検知、饋電区分制御など特殊な装置を開発して設置した。日常作業でも、線路の点検個所が1.5倍に増える上に、貨物列車が深夜早朝に走行するため、実質2時間弱しか確保できない。また、レールが近接する側は作業がしにくく、冬はこの部分に氷塊がはさまって分岐器の不転換(ポイントが切り替わらない)が起こらないよう警戒する必要があるのだそうだ。

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(左)狭軌の在来線が合流 (右)3線軌条で青函トンネルへ

はやぶさ13号は、中間にある2駅にも停車する。一つは本州側の奥津軽いまべつ、在来線時代の津軽今別駅だが、全面屋根のかかった立派なホームに変身していた。知らぬ間に発車する。

しばらくしてまたアナウンスがあった。「これから青函トンネルに入ります。右側に赤い鳥居と展望台が見えましたら、次が青函トンネルです」。新幹線にはビジネスライクな印象を抱いていたが、「スーパー白鳥」と同じような観光案内が続いているのは嬉しい。とはいえ、トンネルに突入しても、「入りました」のアナウンスと、トンネルを紹介する電光掲示が流れるのみで、窓が一斉に曇ったりはしない。昼間だからか貨物列車のすれ違いもなく、53.85kmの闇を走り抜ける25分間はひたすら静かに過ぎていく。

10年以上も前、ここの竜飛海底(たっぴかいてい)駅で降りたことを思い出した。あのときは斜坑に設置されたケーブルカーで龍飛崎まで上がり、津軽海峡を眺めながら、北端まで来た感慨にふけったものだ。残念なことに新幹線の工事開始に伴って、駅は閉鎖されてしまった(下注)。

*注 現在も龍飛崎の青函トンネル記念館やケーブルカー(斜坑線)は利用可能だが、地上からしか行けない。

次に地上に顔を出すのは、知内町湯ノ里付近で、左の車窓に、瑞々しい春の山々と初めての北海道の集落が見える。二つ目の中間駅が木古内(きこない)だ。ここは後刻、在来線の列車で訪れた。新幹線開業と同時にJRから切り離され、道南いさりび鉄道という第3セクターの運営になったが、キハ40が担う通勤通学の風景は変わらない。

山側の新幹線駅舎が威容を見せつけているが、本来の正面である海側に立ついさりび鉄道の駅舎も建て直されている。内装には木材を多用して、昔の学校の廊下を思わせるところがおもしろい。正面入口から新幹線に乗ろうとすると、いったん在来線をまたいで降りて、地表にある新幹線の改札を入り、再び3階相当のホームへ上ることになる。もちろん地元の人は、ダイレクトに山側の駅舎へ回るだろうが。

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木古内駅 (左)新幹線ホームの駅名標 (右)在来線側の駅舎も新築

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木古内駅 (左)在来線側の改札入口 (右)在来線は道南いさりび鉄道に転換された

木古内を出てから2km半ほど、新幹線は海岸沿いに走る。しかし、防音壁に阻まれて、海はほとんど見えない。新幹線は建設の時代が下がるほど平地の用地取得が難しくなってトンネルが増え、さらに最近の新幹線は防音対策が厳重で、少しでも家並みがあるとたちまち高い壁でブラックアウトにされてしまう。

終点まであと13分。トンネルをいくつか抜けると、南向きに広がった函館平野に出る。アナウンスが「函館山がご覧になれます」と告げるのだが、実際は例の防音壁によって、細切れの眺めしか得られない。在来線のときは、湾を隔てて島かと見まごう函館山がどんどん大きくなり、終点の近いことを教えてくれた。あの感動を味わうことは難しい。

100名定員の広い車内に、もう数組しか乗っていない。前にいた中年グループの一人が、軽く伸びをしながら「は~るばるきたぜ函館へ」と口ずさんだ。東京から4時間乗ってきたのだとしたら、歌い出したくなる気持ちもわかる。まもなく車体が左に傾き始め、右手に横津岳の西麓が近づいてくる。車両基地の建物群が横に並び、はやぶさ13号は新函館北斗駅の真新しいホームに滑り込んだ。

■参考サイト
新函館北斗駅付近の最新1:25,000地形図
http://maps.gsi.go.jp/#15/41.904700/140.648600

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新函館北斗駅
(左)E5系が並ぶ (右)右側に線路増設スペースがある。上階コンコースはガラス張り

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新函館北斗駅 (左)駅舎と駅前広場 (右)2階改札内、在来線は右へ

この駅は、もと渡島大野(おしまおおの)という無人駅で、函館駅から17.9kmの距離にある。札幌に直通する新幹線として、在来線のようにスイッチバックするわけにはいかないとしても、立地はかなり遠い。用地買収や線形の制約があったのだろうが、せめて七飯駅に接続しておけば、下り優等列車が使っていた藤代線も活用できたのにと思う。

それで函館との連絡は、733系電車による「はこだてライナー」が担うことになった。首都圏から訪れる旅行者にも違和感のない新型車両なので、受け入れ態勢としては万全だ。3両編成で、おおむね下りの新幹線と10分程度の接続時間で発車する。走りもいたって軽快で、五稜郭までノンストップの便なら最速15分で函館に着く。

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733系はこだてライナー (左)新函館北斗駅で発車を待つ (右)車内広告も開業を祝う

ただ、10分接続は結構忙しい。乗り遅れると、次の列車は森方面から来る単行気動車ということがままある。筆者がホームにいたときも、「エーッ、1両!」とスーツケースを引いた旅人風の夫妻が呆れて声を上げた。冷房はないし、走りものろいのに加えて、時間帯によっては結構混むので、旅の第一印象を損ねないかちょっと心配だ。

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森方面から来た単行気動車。乗降口にステップがあり、大荷物の人には辛い

そのキハ40に揺られて函館駅に到着した。いうまでもなく函館市の主たる玄関口だが、新幹線開通で本州方面を結んでいた特急がいっさい消えてしまった。交通の結節機能を、新幹線駅に半分譲り渡した格好だ。札幌方面の特急「北斗」が従来どおり発着しているとはいえ、改築された立派な駅舎と長距離列車用の長いプラットホームが、心なしか手持無沙汰に見えた。

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函館駅到着 (左)0キロポストのオブジェ (右)駅舎正面

さて、北海道新幹線に乗ってみて、印象はどうだったか。憧れの北海道に上陸したというのに、車窓から海峡も函館山も大して見えず、在来線のような楽しみは得られなかった。記念の初乗りはともかく、乗ること自体が旅の目的にはなりそうにない。

移動ツールとしての利用はどうか。新函館北斗までなら、到達時間は1時間早くなった。東京から列車が海を越えて直通するという心理的効果も無視できない。団体旅行だと新駅の前から観光バスを出して、そのまま目的地に向かえる。レンタカーもしかり。信号の多い市内の道を走らなくていいから好都合だ。一方、筆者のように函館市内へ行く個人客は、どのみち在来線に乗換えなくてはならない。ライバルとなる空港は市街に近く、羽田へ1時間20分で飛んでいく。駅が空港より立地が悪いようでは、闘う前からすでに競争力に疑問符がついてしまう。

目下JR北海道は、JR東日本とも連携しながら、イベントを打ったり割安な乗車券を売り出すなど、観光需要の喚起に懸命だ。新幹線はこの後札幌まで延伸される予定だが、開通は2031年と、15年も先の話になる。道央に出れば何らかの展開が期待できるとしても、それまであの厄介な線路施設を延々と維持していかなくてはならないのだ。悲願の新幹線とは知りながらも、一筋縄ではいかない重い荷物を預かったものだと思わざるを得ない。

■参考サイト
JR北海道-北海道新幹線特設サイト http://hokkaido-shinkansen.com/
JR北海道-青函トンネル http://www.jrhokkaido.co.jp/seikan/

★本ブログ内の関連記事
 新線試乗記-東北新幹線、新青森延伸+レールバス見学
 新線試乗記-北陸新幹線、金沢延伸 I
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 北海道の新線
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 コンターサークル地図の旅-晩生内の三日月湖群
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