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2016年4月10日 (日)

台湾の地形図-經建版

現行の台湾の官製地形図は、1985年に刊行が始まった。正式名称は中華民國臺灣地區地形圖だそうだが、通常は「經建版」地形図と称している。經建(経建)というのは経済建設の略称で、それまで軍事用の位置づけだった地形図を再編集して、民間による利用を可能にしたものだ。所管しているのは内政部地政司だが、製作は内政部の直轄機関である國土測繪中心 National Land Surveying and Mapping Center (下注)が行っている。

*注 國土測繪中心は、直訳すれば国土測量センター。

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1:100,000經建版地形図 宜蘭 (見本図)
画像は國土測繪中心サイトより取得

第二次大戦後、台湾では数種の地形図シリーズが作られたが、經建版以前はいずれも軍用の扱いだった。手元の1:50,000に関する資料によれば、まず1955~64年にかけて米国陸軍地図局(AMS)の協力のもとに「譯註美版臺灣五萬分一地形圖」108面が作製された(下注)。二番目が1966~71年の製作で、図郭を現在の縦長形に改めた「老五萬系列新製五萬分一地形圖」、三番目が、その改訂版として1980~84年に作られた「新五萬系列新製五萬分一地形圖」だ。

*注 この譯註美版1:50,000については復刻書も刊行されている。本ブログ「台湾の旧版地形図地図帳 II-光復初期」参照。

第四のシリーズに相当する經建版は、1975年に整備が開始された平地丘陵1:5,000、山地1:10,000の台灣地圖像片基本圖(航空写真基本図)をもとにして作製された。すでに数回改訂が実施されており、地図を公開している「台灣百年歴史地圖」のサイトではそれぞれ第一版、第二版のように呼んでいる(下注)。

*注 「台灣百年歴史地圖」のサイトについては、本ブログ「台湾の地形図-ウェブ版」参照。

同サイトによれば、縮尺別の作成時期は以下のとおりだ。

1:25,000
第一版 1985~1989年
第二版 1992~1994年
第三版 1999~2001年
第四版 2003年、北部地区のみ

1:50,000
第一版 1990年~1991年
第二版 1996年~
第三版 2002年、北部地区のみ

1:100,000
第一版 2003年、北部地区のみ

どの縮尺も最終版が2000年代前半と古いが、國土測繪中心は別途、2015年までの製作面数を公表しているので、その後も改訂が続けられているようだ。なお、各縮尺の作成時期は、百年歴史地圖と國土測繪中心のサイトで記述に食い違いが見られる。

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1:25,000 第一版 南崁、桃園
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1:50,000 第二版 淡水、桃園
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1:100,000 第一版 台北縣、桃園

經建版地形図は黒、茶、赤、青、緑の5色刷、1面の図郭は1:25,000が東西・南北とも7分30秒、1:50,000が同15分、1:100,000が同30分だ。韓国も同じ仕様で、戦後これらの地域で地図の整備を支援したアメリカの影響が強く表れている。

縮尺が大きくなるほど表現が詳細になるとはいえ、上図でご覧のとおり、どの縮尺も見た目は良く似ている。地勢表現は等高線のみで、間隔は1:25,000が10m間隔、同様に1:50,000が20m、1:100,000は40m。初期の版では、急傾斜地で等高線の間引き(省略)が行われていた。

地図記号はどうか(下図参照)。まず、道路(中国語では公路、以下同じ)はくくりのない赤の実線を使い、線の太さで国道、省道、県道、その他の道路を区別する。これなどはアメリカ式というよりカナダやオーストラリアで採用されている、より簡略化された形状だ。なお、2003年(民国92年)以前の図式では、実線が舗装(硬面路)で、破線が未舗装(鬆面路)を表していたが、未舗装道が少なくなったからか、2007年(民国96年)図式からは区別がなくなった。

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2003年以前の版の凡例
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2007年以降の版の凡例

鉄道(鐵路)は、実線に短線を交差させる形の日本でいう私鉄記号を基本とする。森林鉄道や製糖鉄道などの軽便鉄道(輕便鐵路)は、短線を片側へ交互に突き出す記号が使われる。おもしろいのは都市鉄道(捷運路網)や高速鉄道(高速鐵路=台湾新幹線)で、凡例のとおり他国では見かけないユニークなデザインだ。

市街地(房屋區)は赤のアミをかけるだけで、小集落でも独立家屋の記号を使わずに済ませている場合が多い。学校の記号も、四角の上に三角旗を立てた形がいかにもアメリカ式だ。四角の中に大・中・小と書かれており、日本の記号よりもわかりやすい。他に浄水場(水廠)、ガソリンスタンド(加油站)といった珍しい記号も設けられている。

土地利用の記号は、2007年図式で大きく変わった。従来青色を充てていた水田が緑色に置換えられ、さらに乾田(旱田)と水田に区別されるようになった。沼沢・湿地、緑地、果園のデザインも変更された。氾濫原(易氾濫區)、サトウキビ畑(蔗田)の記号が廃止されたのは、治水の完成や産業構造の変化を反映しているのだろう。

民生用として作られた經建版には、軍用施設が描かれていない。下図は、台湾の空の玄関口、桃園国際空港(図では中正國際機場と表記)付近の1:50,000だが、空港の南、大園郷/蘆竹郷の境界線が走る田園地帯は、周囲からぽっかりと浮き出ており、いかにも怪しげだ。事実ここは空軍基地で、滑走路を含めて全体が水田に改描されている(下注)。

*注 最新の民間道路地図には、桃園空軍基地の名称や滑走路が堂々と描かれているので、存在はもはや機密ではないようだ。

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空軍基地の改描例 1:50,000第三版 淡水

ウェブ公開されている各版を眺めているうちに、気づくことがあった。ふつう時代が下るにつれ、測量精度の向上で地図の描写がより正確になっていくものだが、經建版はその法則に当てはまらない。たとえば、縮尺別の比較に使った桃園市付近では、市街地の南東209mの三角点がある丘陵が、1:50,000の第三版では水田の記号で覆われている(下図の円内)。常識的にこの傾斜地を水田化することはありえず、空中写真で照会するまでもなく、樹林か緑地の誤りだ。

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植生の誤描 (左)1:50,000第二版 淡水、桃園 (右)同 第三版 淡水、桃園
円内の丘陵に水田の記号がある

台湾最大の湖、日月潭を一周する環湖公路の全通は、1:25,000第三版で初めて登場する。よく見ると、新設ルートはまるで等高線と合致せず、急斜面をジェットコースターさながらに登り降りしている(下図の矩形内)。等高線のほうが甘いという可能性は考えにくいので、道路を描く位置の問題だ。こうした等高線に従わない道路描写は、山岳地帯で散見される。参照した道路資料が大雑把だったのか、でなければ製図がずさんかのどちらかだ。

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道路の誤描 (左)1:25,000第一版 日月潭 (右)同 第三版 日月潭
矩形で囲んだエリアの道路が等高線と合致しない

また、阿里山森林鉄道(鐵路)の有名な獨立山ループでは、1:25,000の第一版から駅(獨立山車站)の位置を誤っていた(下注)のだが、第三版ではそれに加えて、ループの二段目と三段目のつなげ方に誤りがあり(下図の矢印)、さらに獨立山頂直下を貫いているはずのトンネル(第十二號隧道)も省かれている。第三版はトンネルの描き方自体も無骨で、全体に技術水準が落ちているように感じる。

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鉄道の誤描 (左)1:25,000第一版 竹崎 (右)同 第三版 竹崎
右図では矢印の地点で線路が交差し、獨立山頂直下のトンネルがない

*注 獨立山車站の正位置は第9号隧道と第10号隧道の間。下図参照。
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國土測繪中心の案内によれば、經建版地形図は現地の地図販売所で入手できるものの、残念ながらいまだに外国へは持出し禁止とされているようだ。しかし昨今の台湾では、民間会社から意欲溢れる旅行地図や地図帳が多数出版されている。どれも地形図としての精度を保ちつつ、はるかに多くの情報量を盛り込んでいて(下注)、官製地形図の出る幕はほとんどないというのが実情だ。

*注 詳細は本ブログ「台湾の1:25,000地図帳」「台湾の1:50,000地図帳」参照。このほか、1枚ものの山岳地図もレベルが高い。

■参考サイト
內政部國土測繪中心 https://www.nlsc.gov.tw/

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