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2016年4月24日 (日)

フィリピンの地形図

西太平洋に面するフィリピン共和国 Republic of the Philippines は、ルソン島、ミンダナオ島を筆頭に7,100とも7,600とも言われる多数の島から成る。環太平洋火山帯に位置し、赤道にも近いことが、この国にしばしば台風、地震、噴火といった自然災害をもたらす一方で、豊かな天然資源や、世界でも有数の生物多様性をはぐくんできた。

そのフィリピンの公式測量機関「国土地図・資源情報局 National Mapping and Resource Information Authority (NAMRIA) 」のサイトでは、国土をカバーする地形図体系の紹介とともに、地形図画像が多数公開されている。断片的な情報で恐縮だが、サイトの記述をもとに同国の地形図事情を追ってみたい。

■参考サイト
NAMRIA - Topographic map(紹介ページ)
http://www.namria.gov.ph/products.aspx
NAMRIA - Topographic map Download(画像ダウンロード)
http://www.namria.gov.ph/download.php

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1991年に大噴火を起こしたルソン島のピナトゥボ山、噴火口にはカルデラ湖が生じている
1:50,000地形図(PNTMS、JICA協力図) Mount Pinatubo 2007年版の一部

NAMRIAは、環境・天然資源省 Department of Environment and Natural Resources に属する行政機関だ。戦後フィリピンが改めてアメリカから独立を果たしたとき、米軍が担っていた測量・地図作成業務は、フィリピン沿岸測地測量局 Philippine Coast and Geodetic Survey (PC&GS) が引継いだ。組織は当初海軍に属していたが、後に国防省の内局となって、Bureau of Coast and Geodetic Survey (BCGS) と改称される。大統領令に基づき、国民に提供する地図の製作を目的としてNAMRIAが設立されたのは、ようやく1988年のことだ。

同国の地形図体系は、縮尺の小さい順に1:250,000、1:50,000、1:10,000、1:5,000とあるが、全土をカバーしているのは前2者にとどまり、改訂の進捗も十分とは言いがたい。

では、縮尺別に見てみよう。

まず1:250,000は全55面で、東西1度30分、南北1度の横長図郭だ。地勢表現は100m間隔の等高線とぼかしによる。サイトが提供している画像は解像度が低すぎて、注記文字を含めて詳細が全く判読できない。紹介文には「フィリピン沿岸測地測量局 Philippine Coast and Geodetic Survey、(米国)陸軍地図局 Army Map Service (AMS)、(米国)工兵隊 Corps of Engineer、米国沿岸測地測量局 US Coast and Geodetic Survey、公共道路局 Bureau of Public Highwaysその他の機関からの情報をもとに製作された」とあるので、1950年代のAMSによるS501シリーズを転用したものと推測できる。

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1:250,000地形図 Manila

AMS製作の原図は、テキサス大学ペリー・カスタネダ図書館地図コレクションで精細画像が提供されている(下記参考サイト)。上のマニラ図葉の一部に相当するAMS図を下に掲げた。両者を見比べると、未舗装道や市街地の色が違うようだが、注記文字の位置・書体、ぼかしの掛け方などはそのままだ。NAMRIA画像の低解像度に対する欲求不満は、これで十分解消できるだろう。

■参考サイト
University of Texas at Austin, Perry-Castañeda Library
Philippines 1:250,000 Series S501
http://www.lib.utexas.edu/maps/ams/philippines/

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AMS 1:250,000地形図 ND51-5 Manilaの一部

1:50,000については、数種のシリーズが混在している。最初に製作されたのが、711シリーズ(S711)だ。JICAの資料(下注)によれば、全842面。もともとAMSによって1947~53年撮影の航空写真から作られたもので、1970年代初めに全土をカバーしたとされる。AMS標準の5色刷で、日本の1:50,000と同じく、東西15分×南北10分の横長図郭だ。地勢表現は20m間隔の等高線による。

*注 JICA「フィリピン国国土総合開発計画促進に関する地図政策支援行政整備調査 第1編」2008年3月

サンプルとして、サトウキビ畑に製糖鉄道が張り巡らされていたネグロス島バコロド Bacolod, Negros 付近と、ルソン富士の異名をもつ円錐形のマヨン火山 Mayon Volcano の図葉を掲げておこう(下図)。とりわけ前者は、記号や書体にAMS様式が色濃く感じられる。

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ネグロス島バコロド付近
1:50,000地形図(S711)3652-III Bacolod、3651-IV Murciaの一部
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マヨン火山 1:50,000地形図(S711)3759-IV Ligaoの一部

次の701シリーズ(S701)は、1979年撮影の航空写真によるS711の修正版だ。ただし現物を見ていくと、新たに描かれた(改測)図葉もあるようだ。製作されたのはルソン島のみで、上記JICA資料によれば151面ある。図郭が東西15分×南北15分の単位に切り直されたため、S711の図郭とは一致しない。

サンプル(下図)に挙げたのは、旧市街が世界遺産に登録されているルソン島北西岸のビガン Vigan 付近と、同じく世界遺産のコルディリェーラの棚田群のあるルソン島北部のバナウエ Banaue。それに、小火山や火口湖が点在するルソン島中部のサン・パブロ San Pablo を加えた。前2者はAMS様式だが、後者はむしろオーストラリア官製図の雰囲気を持っている。画像では図歴が欠落しているため、正確なところはわからないのだが。

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ビガン付近 1:50,000地形図(S701)7078-II Viganの一部
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コルディリェーラの棚田群のある一帯
1:50,000地形図(S701)7276-IV Lagaweの一部
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サンパブロ付近 1:50,000地形図(S701)7271-II San Pabloの一部

ここまではシリーズ名からも明らかなように基本は軍用地図なのだが、1988年からは、NAMRIAによる民生用地形図の計画がスタートする。その成果が、フィリピン全国地形図シリーズ Philippine National Topographic Map Series の頭字をとったPNTMSと呼ばれるシリーズだ。地形図は、空中写真や衛星写真はもとより、マニラ周辺では作成済みの1:10,000地形図なども資料にして編集されている。図郭はS701を踏襲したが、図番体系が変更されている。地勢表現は20m間隔の等高線で、適宜5~10m補助曲線が用いられた。

このシリーズは全部で672面の予定だそうだが、索引図を見る限り、まだ126面しか完成していない。そしてこの中には、日本のJICA(国際協力機構)が実施した国土総合開発計画促進のためのパイロット・プロジェクトで作成された中部ルソン地方 Central Luzon の地形図24面も含まれている。

サンプル(下図)には、首都マニラの南で、日本人にはモンテンルパとして知られるムンティンルパ・シティ Muntinlupa City と、マニラの北に接するマロロス・シティ Malolos City 付近を取り上げた。前者が計画的な道路パターンに市街地のアミを掛けただけの無愛想な図面であるのに対して、後者は独立家屋や施設の記号を多用して丁寧かつ鮮明に描かれている。前者はNAMRIAのオリジナル、後者はJICAが協力した(日本が提供した)24面の一つで、技術力の差は覆い隠せない。冒頭に掲げたピナトゥボ山の図も、JICAの協力図だ。

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ムンティンルパ・シティ
1:50,000地形図(PNTMS)3229-IV Muntinlupa Cityの一部
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マロロス・シティ
1:50,000地形図(PNTMS)3130-I Malolos Cityの一部
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1:50,000地形図(PNTMS) 3130-I Malolos City (全体)

1:50,000はこのように、一応全土をカバーしているものの、製作年代も図化精度もまちまちで、とりわけルソン島以外ではまだ、50年も前に作られた米軍由来のS711が大半を占めるという状況だ。

1:250,000と同様、これらもNAMRIAのサイトで画像公開されている(下注)。用意された索引図の画像があまりに小さいため、或る程度土地鑑がないと、目的の図葉にたどり着くのに苦労する。しかし、画像自体は、細かい注記文字も読み取れる解像度で、実用に耐えうるものだ。もちろん、交通網や市街地などの人工景観については、現況とかなり差異が出ていることを覚悟しておく必要があるが。

*注 S711、S701の旧シリーズにもNAMRIAのクレジットが挿入されているから、単純に旧図をスキャンしたものではないようだ。

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1:50,000地形図(PNTMS、JICA協力図)の凡例

1:10,0001:5,000は一部の都市域で作成されているにとどまる。NAMRIAによれば、1:10,000はマニラ首都圏(メトロ・マニラ Metro Manila)と隣接地域、イロコス・ノルテ Ilocos Norte、ラ・ユニオン La Union、バギオ・シティ Baguio City、スービック Subic、レガスピ Legaspi City、サンボアンガ・シティ Zamboanga City の各都市、また、1:5,000はバコロド・シティ Bacolod City、イリガン・シティ Iligan City、イロイロ都市圏 Metro Iloilo、セブ都市圏 Metro Cebu、カガヤン・デ・オーロ Cagayan de Oro の都市域だ。地形図そのものの画像は公開されていないが、下記サイトにデータが使われている。

■参考サイト
フィリピン・ジオポータル http://www.geoportal.gov.ph/
 上部メニューのModule > Map Viewer

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1:10,000地形図 3229-IV-6 Alabang

使用した地形図の著作権表示 (c) 2016 NAMRIA.

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2016年4月19日 (火)

インドの鉄道地図 VI-ロイチャウドリー地図帳第3版

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「インド鉄道大地図帳」第3版

サミット・ロイチャウドリー Samit Roychoudhury 氏の「インド鉄道大地図帳 The Great Indian Railway Atlas」については、初版(2005年)第2版(2010年)と感想を連ねてきたが、さきごろ第3版(2015年11月)の刊行が報じられた。きっかり5年の改訂周期を守っているようだ。

言うまでもなくここには、インド国内に張り巡らされた総延長65,000kmを超える鉄道路線網とその付属施設が、正確で合理的なグラフィックにより、余すところなく表現されている。ヨーロッパの類書にも匹敵する完成度の高さから、今やインドの鉄道を語る際の必需品といってよい。期待の新版は、過去2版とはまた装いを一新しており、本ブログとしては、常に進化し続ける鉄道地図帳のようすを追わないわけにはいかない。

第3版に旧版刊行以降に生じた動向が反映されているのは当然だが、変化はそれにとどまらない。まず目に付くのは、判型が拡大したことだ。旧版(初版と第2版)の横18cm×縦24cmに対して、第3版は一回り大きな横21.5cm×縦28cmで、アメリカのレターサイズ(8インチ半×11インチ)に相当する。旧版はコンパクトで携帯に便利だったので、この変更はユーザーの間で賛否両論がありそうだ。

むろん大判化の断行には理由がある。地図の縮尺が、従来の1:1,500,000(150万分の1)から1:1,000,000(100万分の1)に改められたのだ。前者では図上1cmが実長15kmのところ、後者は10kmで、それだけ大きく、また詳しく描くことが可能になる。旧版の場合、詳細を補うために拡大図が多用されていたが、新版ではある程度、本図の中に収まっている。それでも描ききれない大都市の路線網については、別図が用意されている。本図にその旨の注釈がなく、索引図に戻らないと掲載ページがわからないのが玉に瑕だが。

縮尺が変わると、図郭を切る位置も旧版とずれる。やむを得ないことだが、同じ路線や駅でも各版で掲載ページが違ってくるので、経年変化を追跡するのは少々面倒だ。一方で改良された点もある。たとえば首都デリー Delhi の位置だ。第2版ではちょうど図郭の境界に当たっていた(ただし別途、拡大図あり)が、第3版では図郭の中央に移動した。そのおかげで、首都圏 National Capital Region から放射状に広がる路線網が明瞭になった。

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サンプル図(裏表紙より)

地図の表現はどうだろうか。第2版では多色化したメリットを生かして、路線の色を管理区 Division(下注)ごとに変えるという方式を試みた。管理区の及ぶ範囲が明確になるだけでなく、見た目にも美しい地図に仕上がっていた。一転して第3版では、色分け方式をあっさり放棄して、日本の時刻表地図の会社界のように、管理区の境界を示すにとどめている。作者は記載する情報の選別に苦心したようだ。管理区のほかにも、第2版で白抜き表示されていた道路、記号表示の空港、さらに集落名や行政名など鉄道とは直接関係のない地名も第3版では省かれた。読取りやすさを優先させるために、描写対象は鉄道の属性に絞るという方針だ。

*注 インド鉄道の管理体制は、16の地域鉄道(ゾーン zone)に分かれ、地域鉄道はさらに管理区(ディヴィジョン division)に分かれる。

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凡例(地図記号)の一部

初版の紹介でも記したが、単線・複線を実線の数で表すというような直感的な記号デザインが、類書に比べた時にこの地図帳の特色になっている。急勾配区間などで上り側の線路が単独の迂回ルートをとることがあるが、こうしたケースもそれらしく描かれている。第2版では小さくて目立たなかった工夫だが、第3版では容易に読み取れる。

電化区間については、旧版とデザインが変わり、橙色の太いアミを掛けて、マーカーを引いたように見せる。電化工事が進行中の場合は、同じく黄緑色のアミだ。電化路線が強調されて効果的であることに異論はないが、他方、従来同じようなマーキングが施されていたガート区間 Ghat section(山上り区間)と区別がつきにくくなってしまったのは残念だ。

記載内容を第2版と照合してみよう。やはり地方に残る1m軌(メーターゲージ)や狭軌線が数を減らしている。インド広軌(1676mm)への改軌計画 Project Unigauge が着々と進行中なのだ。

さらに注目すべきは、貨物専用回廊 Dedicated Freight Corridor (DFC) の整備計画だ。インドでも貨物輸送に占める鉄道の割合が減少しており、飽和状態にある道路交通の緩和と温室効果ガスの削減を図るために、在来線に沿う貨物専用ルートの建設が進められている。新ルートは、旅客と貨物の分離を図るだけでなく、建築限界や牽引定数を拡大し、曲線や勾配の緩和で列車速度を向上させて、輸送効率を高めているのが特徴だ。

第3版では、認可済の2本のDFCルート、すなわちデリー近郊ダドリ Dadri ~ムンバイのジャワハルラール・ネルー港 Jawaharlal Nehru Port 間1,468 kmの西部回廊 Western Corridor と、パンジャーブ州ルディヤーナー Judhiana ~コルカタ近郊ダンクニ Dankuni 間1,760 kmの東部回廊 Eastern Corridor を確認できる。多くは在来線の線増だが、都市域では、武蔵野線のようなバイパス線を造っているようだ。

イギリスやドイツには定番の鉄道地図帳が存在し、定期的に更新されて愛好家の信頼を勝ち得ている。第3版を数えるわがインド鉄道大地図帳も、いよいよその領域に入ってきたようだ。しかも現状に満足することなく毎回新たなスタイルを試み、理想の鉄道地図を追求すること怠りない。今から5年後に告知されるであろう第4版の刊行が、早や楽しみになってきた。

■参考サイト
The Great Indian Railway Atlas Third Edition  http://indianrailstuff.com/gira3/

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2016年4月10日 (日)

台湾の地形図-經建版

現行の台湾の官製地形図は、1985年に刊行が始まった。正式名称は中華民國臺灣地區地形圖だそうだが、通常は「經建版」地形図と称している。經建(経建)というのは経済建設の略称で、それまで軍事用の位置づけだった地形図を再編集して、民間による利用を可能にしたものだ。所管しているのは内政部地政司だが、製作は内政部の直轄機関である國土測繪中心 National Land Surveying and Mapping Center (下注)が行っている。

*注 國土測繪中心は、直訳すれば国土測量センター。

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1:100,000經建版地形図 宜蘭 (見本図)
画像は國土測繪中心サイトより取得

第二次大戦後、台湾では数種の地形図シリーズが作られたが、經建版以前はいずれも軍用の扱いだった。手元の1:50,000に関する資料によれば、まず1955~64年にかけて米国陸軍地図局(AMS)の協力のもとに「譯註美版臺灣五萬分一地形圖」108面が作製された(下注)。二番目が1966~71年の製作で、図郭を現在の縦長形に改めた「老五萬系列新製五萬分一地形圖」、三番目が、その改訂版として1980~84年に作られた「新五萬系列新製五萬分一地形圖」だ。

*注 この譯註美版1:50,000については復刻書も刊行されている。本ブログ「台湾の旧版地形図地図帳 II-光復初期」参照。

第四のシリーズに相当する經建版は、1975年に整備が開始された平地丘陵1:5,000、山地1:10,000の台灣地圖像片基本圖(航空写真基本図)をもとにして作製された。すでに数回改訂が実施されており、地図を公開している「台灣百年歴史地圖」のサイトではそれぞれ第一版、第二版のように呼んでいる(下注)。

*注 「台灣百年歴史地圖」のサイトについては、本ブログ「台湾の地形図-ウェブ版」参照。

同サイトによれば、縮尺別の作成時期は以下のとおりだ。

1:25,000
第一版 1985~1989年
第二版 1992~1994年
第三版 1999~2001年
第四版 2003年、北部地区のみ

1:50,000
第一版 1990年~1991年
第二版 1996年~
第三版 2002年、北部地区のみ

1:100,000
第一版 2003年、北部地区のみ

どの縮尺も最終版が2000年代前半と古いが、國土測繪中心は別途、2015年までの製作面数を公表しているので、その後も改訂が続けられているようだ。なお、各縮尺の作成時期は、百年歴史地圖と國土測繪中心のサイトで記述に食い違いが見られる。

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1:25,000 第一版 南崁、桃園
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1:50,000 第二版 淡水、桃園
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1:100,000 第一版 台北縣、桃園

經建版地形図は黒、茶、赤、青、緑の5色刷、1面の図郭は1:25,000が東西・南北とも7分30秒、1:50,000が同15分、1:100,000が同30分だ。韓国も同じ仕様で、戦後これらの地域で地図の整備を支援したアメリカの影響が強く表れている。

縮尺が大きくなるほど表現が詳細になるとはいえ、上図でご覧のとおり、どの縮尺も見た目は良く似ている。地勢表現は等高線のみで、間隔は1:25,000が10m間隔、同様に1:50,000が20m、1:100,000は40m。初期の版では、急傾斜地で等高線の間引き(省略)が行われていた。

地図記号はどうか(下図参照)。まず、道路(中国語では公路、以下同じ)はくくりのない赤の実線を使い、線の太さで国道、省道、県道、その他の道路を区別する。これなどはアメリカ式というよりカナダやオーストラリアで採用されている、より簡略化された形状だ。なお、2003年(民国92年)以前の図式では、実線が舗装(硬面路)で、破線が未舗装(鬆面路)を表していたが、未舗装道が少なくなったからか、2007年(民国96年)図式からは区別がなくなった。

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2003年以前の版の凡例
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2007年以降の版の凡例

鉄道(鐵路)は、実線に短線を交差させる形の日本でいう私鉄記号を基本とする。森林鉄道や製糖鉄道などの軽便鉄道(輕便鐵路)は、短線を片側へ交互に突き出す記号が使われる。おもしろいのは都市鉄道(捷運路網)や高速鉄道(高速鐵路=台湾新幹線)で、凡例のとおり他国では見かけないユニークなデザインだ。

市街地(房屋區)は赤のアミをかけるだけで、小集落でも独立家屋の記号を使わずに済ませている場合が多い。学校の記号も、四角の上に三角旗を立てた形がいかにもアメリカ式だ。四角の中に大・中・小と書かれており、日本の記号よりもわかりやすい。他に浄水場(水廠)、ガソリンスタンド(加油站)といった珍しい記号も設けられている。

土地利用の記号は、2007年図式で大きく変わった。従来青色を充てていた水田が緑色に置換えられ、さらに乾田(旱田)と水田に区別されるようになった。沼沢・湿地、緑地、果園のデザインも変更された。氾濫原(易氾濫區)、サトウキビ畑(蔗田)の記号が廃止されたのは、治水の完成や産業構造の変化を反映しているのだろう。

民生用として作られた經建版には、軍用施設が描かれていない。下図は、台湾の空の玄関口、桃園国際空港(図では中正國際機場と表記)付近の1:50,000だが、空港の南、大園郷/蘆竹郷の境界線が走る田園地帯は、周囲からぽっかりと浮き出ており、いかにも怪しげだ。事実ここは空軍基地で、滑走路を含めて全体が水田に改描されている(下注)。

*注 最新の民間道路地図には、桃園空軍基地の名称や滑走路が堂々と描かれているので、存在はもはや機密ではないようだ。

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空軍基地の改描例 1:50,000第三版 淡水

ウェブ公開されている各版を眺めているうちに、気づくことがあった。ふつう時代が下るにつれ、測量精度の向上で地図の描写がより正確になっていくものだが、經建版はその法則に当てはまらない。たとえば、縮尺別の比較に使った桃園市付近では、市街地の南東209mの三角点がある丘陵が、1:50,000の第三版では水田の記号で覆われている(下図の円内)。常識的にこの傾斜地を水田化することはありえず、空中写真で照会するまでもなく、樹林か緑地の誤りだ。

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植生の誤描 (左)1:50,000第二版 淡水、桃園 (右)同 第三版 淡水、桃園
円内の丘陵に水田の記号がある

台湾最大の湖、日月潭を一周する環湖公路の全通は、1:25,000第三版で初めて登場する。よく見ると、新設ルートはまるで等高線と合致せず、急斜面をジェットコースターさながらに登り降りしている(下図の矩形内)。等高線のほうが甘いという可能性は考えにくいので、道路を描く位置の問題だ。こうした等高線に従わない道路描写は、山岳地帯で散見される。参照した道路資料が大雑把だったのか、でなければ製図がずさんかのどちらかだ。

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道路の誤描 (左)1:25,000第一版 日月潭 (右)同 第三版 日月潭
矩形で囲んだエリアの道路が等高線と合致しない

また、阿里山森林鉄道(鐵路)の有名な獨立山ループでは、1:25,000の第一版から駅(獨立山車站)の位置を誤っていた(下注)のだが、第三版ではそれに加えて、ループの二段目と三段目のつなげ方に誤りがあり(下図の矢印)、さらに獨立山頂直下を貫いているはずのトンネル(第十二號隧道)も省かれている。第三版はトンネルの描き方自体も無骨で、全体に技術水準が落ちているように感じる。

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鉄道の誤描 (左)1:25,000第一版 竹崎 (右)同 第三版 竹崎
右図では矢印の地点で線路が交差し、獨立山頂直下のトンネルがない

*注 獨立山車站の正位置は第9号隧道と第10号隧道の間。下図参照。
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國土測繪中心の案内によれば、經建版地形図は現地の地図販売所で入手できるものの、残念ながらいまだに外国へは持出し禁止とされているようだ。しかし昨今の台湾では、民間会社から意欲溢れる旅行地図や地図帳が多数出版されている。どれも地形図としての精度を保ちつつ、はるかに多くの情報量を盛り込んでいて(下注)、官製地形図の出る幕はほとんどないというのが実情だ。

*注 詳細は本ブログ「台湾の1:25,000地図帳」「台湾の1:50,000地図帳」参照。このほか、1枚ものの山岳地図もレベルが高い。

■参考サイト
內政部國土測繪中心 https://www.nlsc.gov.tw/

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 台湾の地形図-ウェブ版
 台湾の1:25,000地図帳
 台湾の1:50,000地図帳

 香港の地形図
 マカオの地形図

2016年4月 2日 (土)

台湾の地形図-ウェブ版

100年にわたる台湾の国土の発展状況を、新旧の地形図でつぶさに観察できるサイトが開設されている。収録されているコレクションは、戦前(日治時期)の実測図・編集図から、米軍による空中写真を使った修正測量図、そして戦後、台湾政府による「經建版」地形図に及ぶ。台湾を対象に作られた公式地形図をおよそ網羅しており、どれも貴重で、興味の尽きない一級資料ばかりだ。

1.台灣百年歷史地圖
http://gissrv4.sinica.edu.tw/gis/twhgis.aspx

一つは、中央研究院人文社會科學研究中心地理資訊科學研究專題中心(中央研究院人文社会科学研究センター地理情報科学研究専門センター、略称GIS專題中心)の「台灣百年歷史地圖」だ。このサイトでは、1890年代から2003年までの間に作成された膨大な地形図画像が扱われている。グーグルマップに同期させてあるので、位置の特定や拡大縮小などの操作も感覚的に使いやすい。

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初期画面

まず、ポップアップ画面の「進入百年歷史地圖系統」のリンクから、初期画面に入る。初期画面には、見慣れたグーグルマップが表示されている。
左メニューの「図階」(上図矢印)をクリックすると、収録されている地図群の一覧が表示される。

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図階を開いた状態

図階リストから、見たい地図名称を選択する(上図②)。
なお、表は8ページに分かれており、例えば1980年代以降の經建版地形図は4ページ目にある。画像レイヤーの読込みには少し時間がかかるかもしれない。

あとは、地図画面右下のズームボタン(+-)を操作して、適切なレベルまで画像を拡大するだけだ。また、地図名称の右にある「圖例」というのは、凡例(地図記号一覧)を意味する。

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重ね表示

これらの地図は、グーグルマップと重ね表示して比較することができる。混合比率は、地図名称を選択して表示される透明度バーで調整する(上図③)。

各地形図とも必ずしも全土をカバーしているわけではなく、特に戦前のものについては山地などで未測地域が散見される。収録されている地形図を以下、縮尺別にまとめておこう。

1:20,000
・日軍攻台戰鬥地圖 1895(明治28)年
・日治二萬分之一台灣堡圖(明治版) 1898(明治31)~1904(明治37)年
・日治二萬分之一台灣堡圖(大正版) 1921(大正10)年~

1:25,000
・日治二萬五千分之一地形圖 1921(大正10)~1928(昭和3)年
・日治二萬五千分之一地形圖(航照修正版) 1944(昭和19)年
・美軍二萬五千分之一地形圖 1944年 *美軍=米軍
・二萬五千分一經建版地形圖(第一版) 1985~1989年
・二萬五千分一經建版地形圖(第二版) 1992~1994年
・二萬五千分一經建版地形圖(第三版) 1999~2001年
・二萬五千分一經建版地形圖(第四版) 2003年

1:50,000
・日治五萬分之一蕃地地形圖 1907(明治40)~1916(大正5)年
・日治五萬分之一地形圖(總督府土木局) 1920(大正9)年
・日治五萬分之一地形圖(陸地測量部) 1925(大正14)~1944(昭和19)年
・美軍五萬分之一地形圖 1944年
・臺灣五萬分一地形圖 1955~1964年
・五萬分之一經建版地形圖(第一版) 1990年~
・五萬分之一經建版地形圖(第二版) 1996年~
・五萬分之一經建版地形圖(第三版) 2002年~

1:100,000
・日治十萬分一臺灣圖 1904(明治37)年~1905(明治38)年
・臺灣十萬分一地形圖 1987年~
・十萬分之一經建版地形圖(第一版) 2003年

1:200,000
・日治臺灣假製二十萬分一圖 1897(明治30)年
・二十萬分一帝國圖 1932(昭和7)~1934(昭和9)年

1:300,000
・日治三十萬分之一台灣全圖(第三版) 1924(大正13)年
・日治三十萬分之一台灣全圖(第五版) 1939(昭和14)年

1:500,000
・五十萬分之一輿地圖 1936(昭和11)年

2.國土測繪圖資網路地圖服務系統
National Land Surveying and Mapping Information Web Map Service System
http://maps.nlsc.gov.tw/

台湾の測量局である内政部國土測繪中心(和訳すれば内務省国土測量センター)も、台湾に関するデジタル地図を表示できるサイトを用意しており、その中に主要な地形図シリーズの画像が含まれている。データは上記「台灣百年歷史地圖」と同じものだ。

Blog_taiwan_map_hp4
初期画面

まず、「進入地圖」と書かれた画像をクリックして、初期画面に入る。
初期画面は、基本圖層(ベースマップ)に通用電子地圖(デジタル地図)が表示されている。ここで、右上メニューの「圖層設定」(上図矢印)を選択する。

Blog_taiwan_map_hp5
額外圖層<全部展開>をクリック

これで図層(レイヤー)のメニューが表示される。
メニューにある「基本圖層」はベースマップのことで、電子地圖/正射影像(オルソフォト地図)/Taiwan e-Map(英語版電子地図)/空白底圖(白紙画面)が選択できる。
その下に、表示可能な図層のリストと透明度バーが表示されている。これを使ってもいいのだが、9ページに分割されていて、ページ繰りが面倒だ。その手間を省く別のポップアップメニューが用意されている。赤い帯の「額外圖層<全部展開>」(上図矢印)をクリックする。

Blog_taiwan_map_hp6
圖資列表で圖層を選択

「圖資列表」のポップアップメニューで、必要な地図(複数選択可)にチェックマークを入れる(上図矢印)。

地図の拡大縮小は、画面左のズームバーを操作する。
任意の地点の拡大は、画面上部の「框選放大(ルーペに+の印)」を選択してから、地図上で任意の地点をクリックする。
任意の地域の拡大は、Shiftキーを押しながらマウスで表示範囲をドラッグする(矩形を描く)。
図層の重ね表示は、図層を複数選択(チェックマーク)して、透明度バーで調整する。「台灣百年歴史地圖」では重ね表示の相手がグーグルマップに限られているが、こちらは地形図同士の重ね表示もできる。

収録されている地形図シリーズは以下の通りだ。

・日治臺灣堡圖(明治版1904)
・日治臺灣堡圖(大正版1921)
・日治二萬五千分一地形圖
・日治五萬分之一地形圖(陸地測量部)

・美軍五萬分之一地形圖

・臺灣二萬五千分一地形圖(經建1版)
・臺灣二萬五千分一地形圖(經建2版)
・臺灣二萬五千分一地形圖(經建3版)
・臺灣二萬五千分一地形圖(經建4版)

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