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2016年1月11日 (月)

ドイツのサイクリング地図-コンパス社とバイクライン

多彩なドイツ自転車道地図(サイクリングマップ)の世界は、3つの主たるブランドが支えている。前回は、BVAビーレフェルト出版社刊行のADFC(全ドイツ自転車クラブ Allgemeiner Deutscher Fahrrad-Club)公式地図を紹介したが、それと拮抗するラインナップを誇るコンパス社とバイクライン(エステルバウアー社)の製品を見てみよう。

コンパス社 Kompass は、緑の表紙のハイキング地図 Wanderkarte でつとに名高い(下注)。ドイツ語圏の書店の地図コーナーには必ず置いてあるような定番商品の一つだ。ハイキング地図といっても、実態は自転車道やスキールートも収録する総合旅行地図なのだが、これには一つの弱点があった。なんでも載っているばかりに、テーマの掘り下げが十分でない部分が見られたのだ。

*注 コンパス社のハイキング地図については「オーストリアの旅行地図-コンパス社」参照。

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コンパス
サイクリング地図
「東アルゴイ、プファッフェンヴィンケル」表紙

ハイキング地図の第一の目的はルートの位置の明示、つまり道に迷わないようにすることだ。次にルートの状況が重要で、同社の場合、歩き道にはヴェーク Weg(車輪を転がすことができる凹凸の少ない小道)、フースヴェーク Fußweg(それほど険しくない歩き道、英語のフットパス Footpath)、シュタイク Steig(山道、険しい道)が記号で描き分けられている。しかし自転車道は、マウンテンバイクルートとの区分があるだけで、道の主従関係も路面の状況も実際よくわからなかった。情報社会が進んでサイクリングを楽しむ人たちの要望レベルが上がると、目的により適合した地図が求められるようになる。コンパス社としても、従来品では満足してもらえないという判断があったに違いない。

赤い表紙の「コンパス サイクリング地図 Kompass Fahrradkarte」が現れたのはここ数年のことだが、早やドイツ全土をほぼカバーするまでに成長した。テリトリーは、オーストリアのチロル州 Tirol やイタリア側の南チロル Südtirol(上アディジェ Alto Adige)まで拡がっている(下注)。空白地域がまだ残るハイキング地図に比べても、目を見張る充実ぶりだ。

*注 コンパス社の本拠地はチロル州インスブルック Innsbruck なので、チロルを重視するのは当然のことだ。

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コンパスサイクリング地図 索引図

縮尺はハイキング地図の1:50,000に対して、サイクリング地図では、単位時間に稼げる距離の違いを考慮して1:70,000に縮小してあるが、これでもADFC地図(1:75,000)より心持ち大きい。地図は耐水紙に両面印刷され、合せて東西70km×南北60km程度のエリアを収録している。また、図葉によって、別刷りの1:20,000主要市街図が添付されていることがある。

内容はどうだろうか。地勢表現はハイキング地図を準用しているようだ。陰影(ぼかし)がかけられ、丘陵地でも起伏を読み取ることができる。官製地形図と並べても遜色のない水準だが、自転車道を引き立たせるために敢えてトーンを抑えている。

その自転車道には紫、橙、緑の3色が使われる。紫が長距離自転車道 Fernradweg、橙が主要自転車道 Hauptradweg、緑がそれらを補完する地方自転車道 Nebenradweg だ。いずれも実線で良好な道、破線で悪路を表現する(下図凡例参照)。長距離道と主要道には、道路地図のような区間距離が添えられ、走るときの目安にできる。地図記号を使った駐車場、宿泊施設、案内所その他の観光情報もひととおり揃っているが、自転車修理場や貸出し所といった、ADFCにある自転車特有の項目が見当たらないのは少々残念だ。

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コンパスサイクリング地図 2013年版 凡例の一部

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コンパス
広域自転車旅行地図
「バイエルン南部」
表紙

なお、もっと広域を一度に見たいという向きには、2015年に新たに刊行された「広域自転車旅行地図 Großraum-Radtourenkarte」がある。縮尺は1:125,000で、両面印刷の地図2枚を1セットにしている。手元の「バイエルン南部 Bayern Süd」の場合、東西215km×南北160kmと広大なエリアを概観できる。内容は上記サイクリング地図とほぼ同じだ。2015年末の時点ではまだカタログに4点しかないが、2017年にはドイツ全土を全12点でカバーするという。

この広域自転車旅行地図がADFCの自転車旅行地図(1:150,000)に、先述のサイクリング地図がADFC地域図(1:75,000)に対応するとすれば、ADFCの自転車旅行ガイドに対しては、「自転車旅行ガイド Fahrradführer」が用意されている。長距離自転車道などのルート案内が目的で、リング綴じ、横長、天綴じのフォーマットと、ADFCとまったく同じような体裁の製品だ。残念ながら筆者は実見していないが、公式サイトによれば、市街図には薬局、自転車修理場、ATMなど実用的な参考情報も掲載されているそうだ。

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コンパス広域自転車旅行地図 表紙の一部を拡大

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バイクライン
サイクリング地図
「プファッフェンヴィンケル」表紙

ドイツのサイクリング愛好者なら、エステルバウアー Esterbauer 社の名は知らなくても、「バイクライン bikeline」のブランドにはきっと馴染みがあるに相違ない。「何の気苦労もなく自転車を楽しむために」の一言をロゴに添えたセルリアンブルーの表紙の地図やガイドブックは、ADFCとともに書店の地図棚の常連だ。オーストリアを拠点にするエステルバウアー社は1980年代の創業で、サイクリング関係の出版を専門にしている。公式サイトによればすでに400点以上のタイトルがあるという。主力製品は、サイクリング地図と自転車旅行ブックで、言うまでもなく前者は1枚もの折図、後者は横長スタイルの冊子だ。

バイクライン サイクリング地図 bikeline Radkarte」は、ドイツの主要地域のほか、オーストリアやフランスのアルザス地方の一部もカバーする。縮尺は1:75,000で、他社製品と同じく、耐水紙に両面印刷されている。収録エリアは、東西65km×南北60km程度の範囲だ。余白に主要市街図が添えられている。

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バイクライン サイクリング地図 索引図

メイン図のベースマップは比較的簡単なものだ。標高データから生成したと思われる等高線は、山地では滑らか過ぎ、平地では不自然な形状なのだが、登山用ではないから地形の概観が掴めればいい、という考えだろう。交通路や市街地は正確に描かれているが、地勢と同様、色のトーンが落とされ、鮮やかな色を用いた自転車道との対比に効果を発揮している。3社のなかではルートの視認性(見易さ)が最も高く、この点が人々に長く支持されてきた理由の一つだと思う。

では、肝心の自転車道はどうか。凡例を下に掲げた。まず主要ルート Hauptroute とそれを補完する地方ルート Nebenroute、その他の自転車ルートという大きな括りがある。その中で自転車道 Radweg と自転車ルート Radroute を線の色で分類し、さらに舗装・未舗装、悪路、玉石舗装など道路の状況を線の形状で区別する。コンパス社よりはるかに親切で、実走調査が行き届いていることがわかる。ただ、紫、赤、茶、黄、ピンクと多くの色を用いたため、地図上でルートの主従関係、あるいはネットワーク構造が直感的に理解しにくくなっているのが惜しい。

道路状況以外では、区間距離、道路勾配、修理場や自転車貸出所、駐輪場の位置などサイクリングに役立つ必要な情報が網羅されている。ADFCの地図では図郭内を走る自転車道について文章による説明もついているが、バイクラインには特にない。その役割はガイドブックに任せて、地図はグラフィックによる情報表現に徹するものと決めているようだ。

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バイクライン サイクリング地図2013年版 凡例の一部(和訳を付記)

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バイクライン自転車旅行ブック
「長距離自転車道
ハンブルク~ブレーメン」表紙

これに対して、長距離ルートに焦点を絞ったブック形式のガイドは「自転車旅行ブック Radtourenbuch」の名称で刊行されている。会社の事業としてはこちらが本領のようで、テリトリーは、ドイツ語圏(ドイツ、オーストリア、スイス)にとどまらず、オランダ、フランス、デンマーク、スペイン、イタリアなどにも及ぶ。他社と同様の横長判でリング綴じだが、ADFCやコンパス社の縦開きに対して、バイクラインは左に綴じ目がある横開きタイプだ。

ここまでドイツをカバーする3社のサイクリング地図を概観してきた。それぞれに特徴があって、一概に優劣はつけがたいのだが、敢えて私見を述べれば、情報の種類と量ではADFC、地図自体が洗練されているのはコンパス、地図の見易さではバイクラインが優位に立っている。とはいえ、机上で眺めているのと実走で参照するのとでは、着眼点が変わるに違いない。実際に使ってみた感想をお持ちの方は、ぜひコメントをお寄せいただきたい。

これらの地図は、日本のアマゾンや紀伊國屋などのショッピングサイトでも購入できる。"Kompass Fahrradkarte" "bikeline" などで検索するとヒットする。

■参考サイト
コンパス社 http://www.kompass.de/
エステルバウアー出版社 http://www.esterbauer.com/

★本ブログ内の関連記事
 ドイツのサイクリング地図-ADFC公式地図
 ドイツの旅行地図-ライン渓谷を例に

 オランダのサイクリング地図
 デンマークのサイクリング地図
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コメント

2回連続のサイクリング地図レポート拝読しました。
実は私は学生時代、自転車旅行が好きで日本サイクリング協会(JCA)会員でもありました。これは輪行(自転車を分解して列車に持ち込む)の資格を得るためでした。四国一周や東北への旅は今も良い思い出です。今は、すっかり自転車とはご無沙汰ですが、最近では、奈良県でも自転車専用道路がぼちぼち整備されて安全に走ることができるようです。その昔(1970~80年代)は1級国道のわずかな端を、トラックやトレーラーに煽られるのに怯えながら走っていました。まさに隔世の感です。地図は市販(ワラジヤ)の道路地図、1/20万、1/5万を使っていました。
また、楽しいレポート待っています。では、お元気で。

T様
ブログをご覧くださりありがとうございます。
日本でも河川敷や廃線跡などを利用した自転車道が整備されてきました。ドイツのように、サイクリングマップがビジネスになるほど愛好する人が増えればいいなと思います。

海外旅行プランニング時に、このHPの地図情報を参考にさせてもらっています。
その量、正確さにいつも圧倒されています。

自転車旅行用地図(bikeline)をつかって、実際にドイツ自転車旅行をしたことがあります。
実際にbikelineを使用してみたレポートを書いてみます。


私が実際に使用したのはRomantische Straße(2008年版)です。
http://www.esterbauer.com/db_detail.php?buecher_code=ROM

ドイツ語で書かれていますが、凡例には英語訳が書かれており、地図理解に役立ちました
(2008年以降出版の同シリーズ地図を2冊持っていますが、どちらも英語訳記載がありました。)。
また、コース概要説明部に、コースの断面図があり、
こちらも一日の工程の登り下り把握に役立ちました。
ルート図上での上り下り把握は等高線がかなり荒いため読み取りにくいのですが、
代わりにルート上に<、>というマーク(太さ2種あり。傾斜によって使い分け。)があり、
これで代替できるようになっています。
Romantische Straßeコースは南北に設定されています。
この地図は左右開き、北が上という仕様なので、
地図を繰る回数が多くなってしまうのが厄介でした。
この仕様は同シリーズすべてに貫かれているわけではなく、
同じように南北にコースが設定されているBerlin-Kopenhagenでは、
北が地図左になるページも混在しています。

横長地図がよいか、縦長地図が良いかは、このようにコースの設定向きとの
兼ね合いがあるのですが、それでも私は前者のほうが使いやすいようにおもいます。
というのは、これら地図はハンドルバーに取り付けられたハンドルバッグの天面に置きます。
昨今人気のある完全防水ハンドルバッグのマップケース部は横長なので、
横長地図と親和性が高いのです。
例えば
廉価で手に入るモンベル製防水ハンドルバッグは横長型です。
http://webshop.montbell.jp/goods/disp.php?product_id=1130391
防水バックの草分けで人気のあるドイツ製オルトリーブ社も同じく横長です。
http://charilog.blog21.fc2.com/blog-entry-1410.html
の左側バッグ。
右は日本の老舗メーカーであるオーストリッチ製の大容量タイプで、
天面は正方形に近いですが、このような形状は今や少数かと思います。

もっとも、これをハンドルバッグとは別にとりつければ縦長、横長問題は解決します。
さすがのドイツ製ですね(笑)。
https://www.amazon.de/KlickFix-Freeliner-Kartenhalter-2016-Lenkertasche/dp/B0010AIAEM


話は飛びますが、台湾にも自転車旅行地図がありました。
これは台湾一周自転車旅行に特化したもので、リングとじの縦長タイプ。
それぞれのページで北の向きはバラバラで、ヘディングアップになっていました。
ページの裏表では上下が逆になっており、つまり台湾時計回り、反時計回りどちらにも
対応可能という面白い仕様でした(しかもコンビニでも購入可!)。


ご家族のHPも折々に見ておりました。
旅行記、日々のお話、どちらも面白かったです。
そちらはもう終了されたのでしょうか(お子様も大きくなられましたもんね)?


今後も地図情報の更新、楽しみにしております。

yosikei様
いつもブログをご覧くださりありがとうございます。
サイクリングマップの詳細なモニターレポートをお寄せくださり感謝です。
私は実際に使ったことがないので、利用法の解説がたいへん参考になりました。
台湾の同種の地図も要チェックですね。
それと、家族HPも見ていただいていたとは恐縮です。
育児の時期を終えたこともあり、ひとまず休刊にさせていただきました。

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