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2016年1月23日 (土)

ミンデン保存鉄道-風車と運河の郷へ

ミンデン Minden という町をご存知だろうか。ドイツ中部山地を発して北海をめざすヴェーザー川 Weser が、山あいから広大な平原に躍り出る。まさにその位置に築かれ、1200年余の歴史を紡いできた地方都市だ。このミンデンを拠点に、1970年代から保存鉄道が運行されている。沿線は春になれば菜の花で埋まり、畑の向こうに風車も回るのどかな土地だ。今回は、このミンデン保存鉄道 Museumseisenbahn Minden(略称 MEM)を訪ねてみることにしよう。

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春の列車は菜の花の絨毯の上を走る

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保存鉄道の拠点はミンデン・オーバーシュタット駅 Minden-Oberstadt。旧市街の北のはずれ、ミッテルラント運河 Mittellandkanal のすぐそばだ。近くには、運河がヴェーザー川と立体交差する壮大な水路橋や、高低差のある川と運河の間を船が往来するための古い閘門もある。2015年の時刻表によれば、ミンデン・オーバーシュタットからの運行区間は次の2方面だ。

1.東へ進み、川を渡りDB線を越えて、クライネンブレーメンKleinenbremenへ(以下では便宜上、東線と呼ぶことにする)。
2.西へ進み、運河と並行するようにヒレ Hille へ(同、西線)。

どちらのルートも、ミンデン郡鉄道 Mindener Kreisbahnen(略称 MKB)という民間会社の所有する貨物線で、保存鉄道はその線路を使用して、年に数日、観光列車を走らせているのだ。

*注 ミンデン保存鉄道には、ミンデンの西30kmのプロイシシュ・オルデンドルフ Preußisch Oldendorf にもう一つの拠点があり、オスナブリュック郡交通企業 Verkehrsgesellschaft Landkreis Osnabrück GmbH(旧 ヴィットラーゲ郡鉄道Wittlager Kreisbahn)所有の路線で、ボームテ Bohmte までの運行を行っている。

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ミンデン保存鉄道と周辺路線 (赤が保存鉄道運行路線)

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ミンデンのミッテルラント運河 (左)水路橋(旧橋) (右)閘門

ミンデン郡鉄道と名乗る理由は、もともと郡有の軽便鉄道だったからだ。設立の背景には、1892年に成立したプロイセン軽便鉄道法 Kleinbahngesetz(下注)がある。この法律は、それほど重要性が高くない地方路線を対象に、建設や運行の際に課している要件を緩和することで、建設を促進し、地域振興と構造改革を図ろうとするものだった。実行主体には、民間会社のほか、自治体がなる場合も少なくなかった。ミンデン郡鉄道の場合も、当時のミンデン郡 Kreis Minden が設立し、1978年に株式会社組織に転換されるまで、ずっと直営の形態をとっていた。

*注 クラインバーン Kleinbahn は直訳すれば小鉄道。ここでは軽便鉄道と訳しているが、軌間は必ずしも狭軌とは限らない。

建設に当たって費用を抑えるために、軌間はメーターゲージ(1000mm軌間)、曲線半径は小さく、路盤も簡素な設計とされた。最初に開通したのは北線で1898年のことだ。ミンデン国鉄駅の北側に設けられたミンデン貨物駅 Minden Übergabebahnhof(後のフリードリヒ・ヴィルヘルム・シュトラーセ Friedrich-Wilhelm-Straße)を起点に、ヴェーザー川を渡った後、左岸を北上してウフテ Uchte まで行く路線で、延長は30.2km。3両の蒸気機関車を使って、さっそく貨客輸送が始められた。続いて国鉄との乗継ぎの便を改善するために、1902年に国鉄駅 Staatsbahnhof(後に連邦鉄道駅 Bundesbahnhof)まで支線が延長された。

片や西線は、1903~07年にリュベッケ Lübbecke まで26.9kmが開業したのが最初だ。さらに、北線の途中駅クーテンハウゼン Kutenhausen で分かれてヴェークホルム Wegholm までの支線10.3kmが1915年に、東線のクライネンブレーメン Kleinenbremen まで12.2kmが1918~21年にそれぞれ開業して、扇形に広がる路線網が完成を見た。

国鉄との間で貨車を直通させるために、当初は標準軌の貨車を載せる狭軌の専用台車ロールボック Rollbock が利用されていた。しかしこれでは効率が悪いので、1920年代から積極的に標準軌への転換が計画され、暫定的な3線軌条の期間を経て、1957年までに全線で改軌を終えた。

第二次世界大戦までがMKBの成長・安定期だったとすると、戦後は運勢が逆転する。戦災から復興したものの、バスや自家用車へ需要が移行したことで、まず旅客輸送が不振に陥った。1953年に日祝日の運行を休止したのを皮切りに、1959年からは平日の運行区間も順次短縮され、1974年のミンデン~ヒレ間を最後にして、旅客列車は全廃されてしまった。

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MKBのディーゼル機関車

追うようにして、路線そのものの存廃も議論の俎上に載った。すでに1957年に国鉄駅前支線は改軌されることなく廃止されていたが、北線についても末端から順次休止措置がとられ、ヴェークホルム支線を含め、1999年までに全区間で列車の姿が消えた。西線も1972年にヒレ以遠が休止になっており、最盛期に80kmあったMKBの路線網は、現在30km弱まで縮小している(下注)。

*注 MKB公式サイトでは路線長約40km、線路長約53kmとしているが、実際にはミンデン~クライネンブレーメン14.0km、ミンデン~ヒレ14.4km(いずれもミンデン・シュタット起点)しか残っていない。

ミンデン保存鉄道の走る舞台は、どうにか余命をつないでいるMKBのこの路線群だ。1974年、ヴェーザーベルクラント蒸気鉄道 Dampfeisenbahn Weserbergland(下注)という愛好家団体がここで特別列車の運行を始め、そこから1977年にミンデン保存鉄道が組織的に独立して、活動を引き継いだ。蒸気機関車は7両保存されているが、現在稼働できるのは、旧プロイセンのケーニヒスベルク Königsberg(現ロシア、カリーニングラード Kaliningrad)で1912年に製造されたT13形「7906号機シュテッティン Stettin」のみとなっている。この蒸機が20世紀の変わり目に造られた小型客車を牽いて走る「プロイセン列車 Preußenzug」が、鉄道の呼び物だ。

*注 ヴェーザーベルクラント蒸気鉄道は、東隣のシュタットハーゲン Stadthagen ~リンテルン Linteln 間で同様の活動を行っている。

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7906号機シュテッティン
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プロイセン列車に使用される旧型客車
(左)2125号車ポーゼン、1899年製 (右)556号車、1890年製
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(左)ビュッフェ車内 (右)556号車はグッズ売り場
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1937年製の気動車T2は、2014年に改修を終えて現役に復帰

2015年の時刻表によれば、運行日は4月~10月の間に8日設定されている。ミンデン・オーバーシュタット駅を起点に、列車は午前中東線をクライネンブレーメンまで1往復し、午後は西線をヒレまで2往復するのが基本パターンだ。折返しで列車に乗るもよし、沿線にある観光名所に立ち寄って運河の遊覧船や路線バス、あるいは持込みの自転車で戻るもよし、さまざまな手段が選択可能となっている。なお、DBのミンデン駅は旧市街の川向う(東側)に位置しているので、オーバーシュタットまで約3km、40分ほどの歩きが必要だ。

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ミンデン・オーバーシュタット駅
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出発前の一コマ

では、まず東線に乗ってみよう。

オーバーシュタットを発車した列車は、旧市街に通じるマリーエン通り Marienstraße と環状路のリング通り Rigstraße を横断し、緑の多い住宅地の横をすり抜けていく。旧市街の最寄りだったミンデン・シュタット Minden Stadt 駅跡を通過してまもなく、悠々と流れるヴェーザー川を長さ約330mの鉄橋(下注)で渡る。またクランク状のカーブがあり、ガスタンクの傍らに設けられた殺風景なフリードリヒ・ヴィルヘルムシュトラーセ Friedrich-Wilhelm-Straße 駅で停車する。

*注 今も軽便鉄道鉄橋 Kleinbahnbrücke と呼ばれる。

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ヴェーザー川鉄橋
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鉄橋を渡る。右はミンデン旧市街

右手はDB線の貨物ヤードだが、すぐに急カーブを切ってDB線を乗り越し、南へ進む。遠方の山並みが途切れているのはポルタ・ヴェストファーリカ(ヴェストファーレンの門)Porta Westfalica、すなわちヴェーザー川が山を突破して開けた谷間だ。針路が東に戻り、森の中でリンテルン通り Rntelner Straße と合流してからは、すっかり道端軌道の雰囲気になる。側線のあるナンメン・バート Nammen Bad 駅は、リクエストストップの扱いだ。

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(左)ポピーに見送られて(マイセン Meißen 東方)
(右)道路に沿う勾配路を行く(ヴュルプケ Wülpke 付近)

この先は最急勾配28‰の坂道で、蒸機の力強いドラフト音が聞こえてくるだろう。その勾配が緩み、右手に連なるヴェーザー山脈 Wesergebirge の方に突っ込む形で、終点クライネンブレーメンがある。所要時間は片道50分。到着後すぐ機回しが行われるが、転車台や三角線はないので、復路の蒸機は後退走行(バック運転)になる。

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クライネンブレーメン到着
列車はすぐ上手の側線まで移動して機回しが行われる

すぐ上手はもと鉄鉱石の採掘場で、ミンデン郡鉄道の子会社が経営する博物館と見学施設 Besucherbergwerk がオープンしている。見学ツアーは90分かかるが、列車は待ってくれないので、午後のミンデン行きMKBバスを利用するとよい。

*注 近郊バスの時刻表は、OWL交通OWL Verkehr GmbHのサイト http://www.owlverkehr.de/ にある。Linienfahrpläne の510系統(平日)、510K系統(休日)を参照。

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鉱山見学施設入口

西線の車窓はどうか。

こちらも駅を出ると、シュティフツアレー Stiftsallee の大通りを横断する。それから、市街地のへりを巻くように左へ曲がっていく。次の反転カーブの途中に、旧市街の西口に通じていたミンデン・ケーニヒストーア Minden Königstor 駅跡がある。針路を西に取り直して、工場の間を進んでいくと、ミッテルラント運河 Mittellandkanal に架かる下路トラスの鉄橋がある。その後は田園地帯を貫く一本道だ。

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ヒレ行きプロイセン列車、出発準備完了(往路はバック運転)
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(左)市街をはずれると運河を横断
(右)ミッテルラント運河を行く貨物船(ジュートヘンメルン付近)

側線が見えたらハルトゥム Hartum 駅だが、リクエストストップなのでおそらく通過する。線路の脇に神社の森のような一角が点在しているのは、自噴泉らしい。左手遠く、風車の大羽根が視界に入ってきたところで、シュペッケン Specken 停留所に停車する。見えていたジュートヘンメルン(南ヘンメルン)風車 Windmühle Südhemmern の公開施設へは、歩いて7~8分ほどだ。敷地内のカフェガーデンでは、ボランティアの人たちのお手製ケーキや黒パンが楽しめる。

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ハーレン Hahlen 付近を行く
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(左)交換可能なハルトゥム駅
(右)風車最寄りのシュペッケン停留所
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ジュートヘンメルン風車とカフェガーデン

列車のほうはもう少し先まで進む。左に大きくカーブしたところに、1972年以来の終点ヒレ Hille 駅がある。片道の所要時間は45分。なお、線路はまだ続いていて、再び運河を渡り、運河べりの倉庫群へ通じる引込線を分岐して終わる。

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シュペッケン西方の菜の花畑
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終点ヒレ駅での機回し

西線沿線の旅を楽しむもう一つの方法は、他の交通手段と組み合わせることだ。先ほどの風車で休憩した後、南に5~6分歩けば、運河を航行する遊覧船(下注)が立ち寄る船着場がある。行きか帰りにこのコースを使う周遊券が、駅や船の乗場で発売されている。

*注 遊覧船はミンデン旅客航路 Mindener Fahrgastschiffahrt (MIFA) が運航する。http://www.mifa.com/

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自転車の持込みは無料

列車には自転車を持ち込めるので、行きは列車、帰りはサイクリングという手も可能だ。ミンデンまでわずか12kmだから、まっすぐ帰ってしまうのはもったいない。ミューレンルート(風車ルート)Mühlenroute という自転車道の案内標識をたどって走れば、一帯の風車を巡る午後の小旅行が実現する。実際、保存列車の始発駅では、愛用の自転車を携えた人たちが大勢乗込んでくる。保存鉄道が鉄道ファンのみならず、ミンデン起点の観光資源として人々の間に溶け込んでいることを示す何よりの証しだ。

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ヴェークホルム風車 Wegholmer Mühle の脇を通る廃線跡の自転車道

掲載した写真はすべて、2009年6月および2011年9~10月、2015年5月の3回現地を訪れた海外鉄道研究会のS. T. 氏から提供を受けたものだ。ご好意に心から感謝したい。

■参考サイト
ミンデン保存鉄道 http://www.museumseisenbahn-minden.de/
ミンデン郡鉄道(公式サイト) http://www.mkb.de/
ミンデン郡鉄道の沿革と車両
http://www.schmalspur-ostwestfalen.de/index.php?nav=1407637

★本ブログ内の関連記事
 ヴィーゼンタタール鉄道 I-赤いレールバスが行く
 ヴィーゼンタタール鉄道 II-廃線跡の自転車道

2016年1月11日 (月)

ドイツのサイクリング地図-コンパス社とバイクライン

多彩なドイツ自転車道地図(サイクリングマップ)の世界は、3つの主たるブランドが支えている。前回は、BVAビーレフェルト出版社刊行のADFC(全ドイツ自転車クラブ Allgemeiner Deutscher Fahrrad-Club)公式地図を紹介したが、それと拮抗するラインナップを誇るコンパス社とバイクライン(エステルバウアー社)の製品を見てみよう。

コンパス社 Kompass は、緑の表紙のハイキング地図 Wanderkarte でつとに名高い(下注)。ドイツ語圏の書店の地図コーナーには必ず置いてあるような定番商品の一つだ。ハイキング地図といっても、実態は自転車道やスキールートも収録する総合旅行地図なのだが、これには一つの弱点があった。なんでも載っているばかりに、テーマの掘り下げが十分でない部分が見られたのだ。

*注 コンパス社のハイキング地図については「オーストリアの旅行地図-コンパス社」参照。

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コンパス
サイクリング地図
「東アルゴイ、プファッフェンヴィンケル」表紙

ハイキング地図の第一の目的はルートの位置の明示、つまり道に迷わないようにすることだ。次にルートの状況が重要で、同社の場合、歩き道にはヴェーク Weg(車輪を転がすことができる凹凸の少ない小道)、フースヴェーク Fußweg(それほど険しくない歩き道、英語のフットパス Footpath)、シュタイク Steig(山道、険しい道)が記号で描き分けられている。しかし自転車道は、マウンテンバイクルートとの区分があるだけで、道の主従関係も路面の状況も実際よくわからなかった。情報社会が進んでサイクリングを楽しむ人たちの要望レベルが上がると、目的により適合した地図が求められるようになる。コンパス社としても、従来品では満足してもらえないという判断があったに違いない。

赤い表紙の「コンパス サイクリング地図 Kompass Fahrradkarte」が現れたのはここ数年のことだが、早やドイツ全土をほぼカバーするまでに成長した。テリトリーは、オーストリアのチロル州 Tirol やイタリア側の南チロル Südtirol(上アディジェ Alto Adige)まで拡がっている(下注)。空白地域がまだ残るハイキング地図に比べても、目を見張る充実ぶりだ。

*注 コンパス社の本拠地はチロル州インスブルック Innsbruck なので、チロルを重視するのは当然のことだ。

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コンパスサイクリング地図 索引図

縮尺はハイキング地図の1:50,000に対して、サイクリング地図では、単位時間に稼げる距離の違いを考慮して1:70,000に縮小してあるが、これでもADFC地図(1:75,000)より心持ち大きい。地図は耐水紙に両面印刷され、合せて東西70km×南北60km程度のエリアを収録している。また、図葉によって、別刷りの1:20,000主要市街図が添付されていることがある。

内容はどうだろうか。地勢表現はハイキング地図を準用しているようだ。陰影(ぼかし)がかけられ、丘陵地でも起伏を読み取ることができる。官製地形図と並べても遜色のない水準だが、自転車道を引き立たせるために敢えてトーンを抑えている。

その自転車道には紫、橙、緑の3色が使われる。紫が長距離自転車道 Fernradweg、橙が主要自転車道 Hauptradweg、緑がそれらを補完する地方自転車道 Nebenradweg だ。いずれも実線で良好な道、破線で悪路を表現する(下図凡例参照)。長距離道と主要道には、道路地図のような区間距離が添えられ、走るときの目安にできる。地図記号を使った駐車場、宿泊施設、案内所その他の観光情報もひととおり揃っているが、自転車修理場や貸出し所といった、ADFCにある自転車特有の項目が見当たらないのは少々残念だ。

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コンパスサイクリング地図 2013年版 凡例の一部

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コンパス
広域自転車旅行地図
「バイエルン南部」
表紙

なお、もっと広域を一度に見たいという向きには、2015年に新たに刊行された「広域自転車旅行地図 Großraum-Radtourenkarte」がある。縮尺は1:125,000で、両面印刷の地図2枚を1セットにしている。手元の「バイエルン南部 Bayern Süd」の場合、東西215km×南北160kmと広大なエリアを概観できる。内容は上記サイクリング地図とほぼ同じだ。2015年末の時点ではまだカタログに4点しかないが、2017年にはドイツ全土を全12点でカバーするという。

この広域自転車旅行地図がADFCの自転車旅行地図(1:150,000)に、先述のサイクリング地図がADFC地域図(1:75,000)に対応するとすれば、ADFCの自転車旅行ガイドに対しては、「自転車旅行ガイド Fahrradführer」が用意されている。長距離自転車道などのルート案内が目的で、リング綴じ、横長、天綴じのフォーマットと、ADFCとまったく同じような体裁の製品だ。残念ながら筆者は実見していないが、公式サイトによれば、市街図には薬局、自転車修理場、ATMなど実用的な参考情報も掲載されているそうだ。

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コンパス広域自転車旅行地図 表紙の一部を拡大

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バイクライン
サイクリング地図
「プファッフェンヴィンケル」表紙

ドイツのサイクリング愛好者なら、エステルバウアー Esterbauer 社の名は知らなくても、「バイクライン bikeline」のブランドにはきっと馴染みがあるに相違ない。「何の気苦労もなく自転車を楽しむために」の一言をロゴに添えたセルリアンブルーの表紙の地図やガイドブックは、ADFCとともに書店の地図棚の常連だ。オーストリアを拠点にするエステルバウアー社は1980年代の創業で、サイクリング関係の出版を専門にしている。公式サイトによればすでに400点以上のタイトルがあるという。主力製品は、サイクリング地図と自転車旅行ブックで、言うまでもなく前者は1枚もの折図、後者は横長スタイルの冊子だ。

バイクライン サイクリング地図 bikeline Radkarte」は、ドイツの主要地域のほか、オーストリアやフランスのアルザス地方の一部もカバーする。縮尺は1:75,000で、他社製品と同じく、耐水紙に両面印刷されている。収録エリアは、東西65km×南北60km程度の範囲だ。余白に主要市街図が添えられている。

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バイクライン サイクリング地図 索引図

メイン図のベースマップは比較的簡単なものだ。標高データから生成したと思われる等高線は、山地では滑らか過ぎ、平地では不自然な形状なのだが、登山用ではないから地形の概観が掴めればいい、という考えだろう。交通路や市街地は正確に描かれているが、地勢と同様、色のトーンが落とされ、鮮やかな色を用いた自転車道との対比に効果を発揮している。3社のなかではルートの視認性(見易さ)が最も高く、この点が人々に長く支持されてきた理由の一つだと思う。

では、肝心の自転車道はどうか。凡例を下に掲げた。まず主要ルート Hauptroute とそれを補完する地方ルート Nebenroute、その他の自転車ルートという大きな括りがある。その中で自転車道 Radweg と自転車ルート Radroute を線の色で分類し、さらに舗装・未舗装、悪路、玉石舗装など道路の状況を線の形状で区別する。コンパス社よりはるかに親切で、実走調査が行き届いていることがわかる。ただ、紫、赤、茶、黄、ピンクと多くの色を用いたため、地図上でルートの主従関係、あるいはネットワーク構造が直感的に理解しにくくなっているのが惜しい。

道路状況以外では、区間距離、道路勾配、修理場や自転車貸出所、駐輪場の位置などサイクリングに役立つ必要な情報が網羅されている。ADFCの地図では図郭内を走る自転車道について文章による説明もついているが、バイクラインには特にない。その役割はガイドブックに任せて、地図はグラフィックによる情報表現に徹するものと決めているようだ。

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バイクライン サイクリング地図2013年版 凡例の一部(和訳を付記)

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バイクライン自転車旅行ブック
「長距離自転車道
ハンブルク~ブレーメン」表紙

これに対して、長距離ルートに焦点を絞ったブック形式のガイドは「自転車旅行ブック Radtourenbuch」の名称で刊行されている。会社の事業としてはこちらが本領のようで、テリトリーは、ドイツ語圏(ドイツ、オーストリア、スイス)にとどまらず、オランダ、フランス、デンマーク、スペイン、イタリアなどにも及ぶ。他社と同様の横長判でリング綴じだが、ADFCやコンパス社の縦開きに対して、バイクラインは左に綴じ目がある横開きタイプだ。

ここまでドイツをカバーする3社のサイクリング地図を概観してきた。それぞれに特徴があって、一概に優劣はつけがたいのだが、敢えて私見を述べれば、情報の種類と量ではADFC、地図自体が洗練されているのはコンパス、地図の見易さではバイクラインが優位に立っている。とはいえ、机上で眺めているのと実走で参照するのとでは、着眼点が変わるに違いない。実際に使ってみた感想をお持ちの方は、ぜひコメントをお寄せいただきたい。

これらの地図は、日本のアマゾンや紀伊國屋などのショッピングサイトでも購入できる。"Kompass Fahrradkarte" "bikeline" などで検索するとヒットする。

■参考サイト
コンパス社 http://www.kompass.de/
エステルバウアー出版社 http://www.esterbauer.com/

★本ブログ内の関連記事
 ドイツのサイクリング地図-ADFC公式地図
 ドイツの旅行地図-ライン渓谷を例に

 オランダのサイクリング地図
 デンマークのサイクリング地図
 オーストリアの旅行地図-コンパス社

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