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2015年9月 5日 (土)

ハルツ狭軌鉄道 II-ブロッケン線

1日目は天気予報が晴れを告げていたので、ブロッケン Brocken の山頂へ上る計画を立てた。列車のヴェルニゲローデ Wernigerode 始発は8時55分と遅いのだが(下注)、8時過ぎには駅へ着いていた。時差ぼけのせいで早く目が覚めてしまう。

*注 ヴェルニゲローデ駅の始発は7時25分だが、これはハルツ横断線の単行気動車で、ブロッケンには行かない。

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HSBの主力機関車99.23-24形、ヴェルニゲローデ駅構内にて

駅舎の裏にあるHSB(ハルツ狭軌鉄道 Harzer Schmalspurbahnen)のホームは頭端式で、連ねた客車を受け入れるために有効長をかなりとっている。右端の31番ホーム Gleis 31 には、乗るべき車両がすでに据え付けられていた。構成は、オープンデッキの古典ボギー客車6両と、その前に緩急車1両。機関車はまだ入線していないが、待ち時間も退屈することはない。プラットホームの脇に、出入り自由の展望台があるからだ。駅構内とともに、機関庫や転車台や給炭クレーンのある車両基地全体が見渡せ、しかも遠景にはブロッケン山とあれば、シチュエーションに文句のつけようがない。

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ヴェルニゲローデ駅のホーム(別の日に撮影)
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ヴェルニゲローデ駅 (左)乗降設備、奥は駅舎 (右)構内が見渡せる展望台
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展望台から (左)転車台 (右)機関庫

ブロッケン方面の列車はすべて蒸気機関車が牽引する。主力になっているのは軸配置2-10-2のDR99.23-24形蒸気機関車で、1954~56年にかけて当時のドイツ国営鉄道 Deutsche Reichsbahn, DR(東ドイツ国鉄)が調達したいわゆる「新造機関車 Neubaulokomotive / Neubaulok」のグループに入る。全部で17両(231~247号機)製造されたうち、10両が改修を受けて現在も稼働している(下注)。

*注 車番231~247は1970年のコンピュータ化に際して7231~7247に改番され、その後油焚き改造で0231のように再改番された。ナンバープレートは3桁と4桁が混在している。

やがて、99 7247機が前に連結され、発車の準備が整った。間際になってもホームは割合閑散としていて、車内も比較的空席がある。いつでも座れる状況なので、まずは最後尾のデッキに陣取った。車掌の腕が上がり、軽い汽笛とともに列車は定刻に発車した。

■参考サイト
Wikimedia - DR99.23-24形の写真集
https://commons.wikimedia.org/wiki/Category:DR_Class_99.23-24

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(左)客車との連結作業 (右)出発を待つばかり

次のヴェルニゲローデ・ヴェステルントーア Wernigerode Westerntor まではわずか1kmだ。ヴェステルントーアというのは西門のことで、旧市街を囲む市壁にあった4つの門の一つだが、今はこれしか残っていない。門が近いということは旧市街の最寄り駅を意味しているので、帰りはここで下車して宿へ戻った。この駅で列車交換が行われることも多いし、鉄道の整備工場が隣接していて、留置中の車両が車窓からも見える。撮り鉄ならば見逃せないスポットだ。

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ヴェステルントーア駅

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ヴェルニゲローデ市街とその周辺、赤い円で囲んだ位置が撮影スポット1~3
官製1:25,000 4130 Wernigerode 1997年版に加筆
(c) Landesamt für Vermessung und Geoinformation Sachsen-Anhalt (LVermGeo) 2015

その他近辺にある撮影スポットも紹介しておこう。

1.駅のはずれの跨線橋(上図の1の円内、以下同じ)

DB線とHSB線をまたぐ自転車と歩行者専用の跨線橋で、ヴェルニゲローデの車両基地を遠望できる。本線の線路も跨線橋の前後でカーブしているので絵になる。ヴェルニゲローデ駅から跨線橋まで約500m。

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駅のはずれの跨線橋
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跨線橋から遠望した駅構内
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跨線橋からの眺め (左)ブロッケン山に向けて出発 (右)煙を残して去る

2.西門に通じる交差点

ここでは十字路になった道路に対して、線路がたすきがけに交わっている。列車通過時は、警報が鳴るとともに道路信号は全方向が赤になる(ただし、線路に支障しない右左折のみ通行可)。大名行列に遭遇したかのように車が一斉にひれ伏す中、蒸機がしずしずと交差点に進入してくる。ヴェステルントーア駅から南へ200m、市庁舎のあるマルクトから西へ300mにある。

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西門に通じる交差点 (左)背後の塔が西門 (右)交差点をたすきがけに横断

3.ホッホシューレ・ハルツ Hochschule Harz 停留所(下注)のすぐ西にある併用軌道

ごく短区間だが、1車線の生活道路に蒸機が堂々と割り込んでいく。ちょっとバート・ドベラーン Bad Doberan の「モリー Molli」を思わせる珍しい光景だ。

旧市街からは1.5kmほど離れているので、列車の便がないときは線路沿いの遊歩道を歩くか、並行する道路(上の地形図で黄色に塗られた道路)を走る市内バスHVB(1系統と4系統)を利用するとよい。最寄りのバス停はホッホシューレ・ハルツではなく、キルヒシュトラーセ Kirchstraße。

*注 鉄道のこの停留所はかつてヴェルニゲローデ・キルヒシュトラーセ Wernigerode Kirchstraße(教会通りの意)と称したが、近くにあるホッホシューレ・ハルツ(ハルツ大学)の名をとって改称された。

なお、機関車は基本的に、ヴェルニゲローデ発の列車では正面を向いているが、同駅着の列車は逆向き(後退運転)になるので注意のこと。

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(左)ホッホシューレ・ハルツ停留所から見た併用軌道
(右)通過する列車の最後尾から撮影
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(左)停留所を出発する列車 (右)生活道路を一時占有

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路線図
官製1:200,000 CC4726 Goslar (2010年版)に加筆
(c) Bundesamt für Kartographie und Geodäsie.

私を乗せた列車は、今ヴェルニゲローデを駅名に冠する最後の停留所ヴェルニゲローデ=ハッセローデ Wernigerode-Hasserode を出たところだ。ここから本格的な山登りが始まる。ハルツ山地は、西北西~東南東の方向に走る断層(北ハルツ境界断層)に沿って隆起したいわゆる地塁山地だ。ヴェルニゲローデは渓口集落の一つで、山地から流れ下るホルテンメ川 Holtemme が平地に出る場所に立地する。

HSBはこの谷を遡って山地の本体にとりつくのだが、今も隆起運動が継続しているため、谷は深くて急傾斜だ。ハッセローデ駅の標高280mに対してサミットの先にあるドライ・アンネン・ホーネ駅は543m、高度差が260m以上もある。これを規定の勾配に収めるには、2駅間の直線距離が6km足らずのところ、線路延長を9.8kmと1.6倍に引き延ばす必要があった。地形図でご覧いただけるように、山襞に忠実に沿う羊腸の軌跡がその答えになる(下の地形図参照)。

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ハッセローデ~
ドライ・アンネン・ホーネ
鉄道記号の矢羽根は
20‰以上の勾配区間を表す
旧東独官製1:50,000 M-32-10-C Braunlage 1988年版
M-32-10-D Wernigerode S 1988年版に加筆

具体的に見ていこう。ハッセローデを出ると、まず東北東~西北西の谷筋シュタイネルネ・レンネ Steinerne Renne(下注)に少し寄り道する。迂回して高度を稼ぐ目的もあるだろうが、ここは渓流が剥き出しの岩肌を無数の小さな滝となって流れ落ち、以前から景勝地として知られていた。狭い谷の中で線路が方向転換した先に同名の駅が設けられ、観光名所への足も確保されることになった。

*注 シュタイネルネ・レンネ Steinerne Renne は、石の多い渓谷の意。Renne は Rinne に同じ。

ちなみにこの方向転換は半径60mで、線内での最急曲線だ。ここまで私はずっと最後尾のデッキにとどまっていたのだが、それは、曲線に入った時に後ろから列車の全景を捉えようと狙っていたからだ。ところが、期待はあっさり裏切られてしまった。曲線があまりに急なために、先頭の機関車は周りの森に隠され、たなびく煙しか見えない。カメラのアングルに収めようとするなら、前から4~5両目までが限界だろう。過ぎたるは及ばざるがごとしと、ここで思い知った。

線路は1:30(33.3‰)の急勾配で上り続けている。谷奥への2つ目の迂回を過ごしたあと、短いトンネルに入るが、これが長さ58mのトゥムクーレンコプフトンネル Thumkuhlenkopftunnel だ。HSB全線でトンネルはこれ一つしかなく、たとえ短くても言及する価値がある。確かに、蒸機運転ではトンネルが少ないほうがありがたいが、これだけの山岳路線でトンネルを回避しようとすれば、どれほど厳しい線形が要求されたか、想像に余りある。

このあたりでは谷底との比高が70~80mに達するが、トウヒの大木が斜面をすっかり覆っていて、視界が開ける区間はほとんどない。次の駅との間は8.2kmも開いているので、途中に列車交換のためのドレンゲタール信号所 Drängetal Betriebsbahnhof がある。ドレンゲタール(ドレンゲ谷)は、今たどっている南北に切れ込んだ谷の名だ。やがて車窓下方に道路が見え隠れするようになると、前半の難路も終わりが近い。上りきったところはブロッケン山塊の東麓にあたり、標高500m前後の高地に広大な森が広がっている。

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(左)今はさびれたシュタイネルネ・レンネ駅 (右)ドレンゲタール信号所を通過

深い森を切り拓いたドライ・アンネン・ホーネ Drei Annen Hohne 駅に9時32分到着。ブロッケン線 Brockenbahn の本来の起点で3面3線を擁する立派な駅だが、それでもお昼前後のピーク時には3線とも満杯になる。というのも、麓の町から来る列車のほかに、当駅始発・終着となる便が設定されているからだ。ヴェルニゲローデ発の山頂行きは朝を除きおよそ90分間隔だが、ここで間に1本入って45分間隔になる。実は、山頂方面への道路は許可車両を除いて進入不可のため、歩いて登る元気がないなら列車に乗るしか方法がないのだ。そのために駅の南側に大きな駐車場が用意されていて、多くのマイカー客がここから列車を利用する。その点で、ドライ・アンネン・ホーネはブロッケン山への隠れた玄関口だ。この列車にもたくさん乗り込んで来て、空だったボックスもあらかた埋まった。

10分強停車して、9時45分定刻に発車。左手にハルツ横断線の線路を見送ったあと、列車はブロッケン線を上り始めた。すでにハルツ国立公園 Nationalpark Harz の域内だ。深い森がさっきと同じように続いているが、これからはブロッケン山塊の南斜面に沿っての上り道になる。気がつくと、デッキに出て写真を撮っている顔ぶれが交代している。さっき乗り込んできた人たちだろう。

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ドライ・アンネン・ホーネ駅
(左)ホームと駅舎 (右)この駅始発もあるので、帰りは3線とも列車で満杯

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ブロッケン線シールケ~ブロッケン
旧東独官製1:50,000  M-32-10-C Braunlage  1988年版に加筆

次のシールケ Schierke が、最後の旅客駅になる。標高は687m。地図を見ると、駅は森の中にぽつんとあり、シールケの村までは1.5kmほど離れている(下注)。ドイツが東西に分断されていた時代、国境に隣接する村は立入りが厳しく制限されていた。シールケまで1日2本だけ運行されていた旅客列車も、当局の特別通行証がないと乗れなかった。

*注 シールケ村から山手へは許可車両以外走行できないため、駅へのアプローチは徒歩のみ。しかし、このとき駅のそばに乗用車が何台も停まっているのを見かけたので、制限が緩和された可能性もある。

その先入観でうら寂しい無人駅を予想していたが、現実は全く違った。列車が着くと、見物なのか乗るつもりか定かでないが、わらわらとホームに上がってくる人たちがいる。駅舎では店も開いて繁盛しているようだ。シールケ村は戦前、夏は登山、冬はスキーのリゾートで「北のサン・モリッツ St. Moritz des Nordens」の異名をとっていた。再統一後はその復興が進んでいる。乗換え客主体のドライ・アンネン・ホーネと違って潜在需要があることが、駅頭の賑わいからも窺い知れた。

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シールケ駅
(左)昼間は必ず列車交換がある (右)乗降客と見物客で大賑わい(いずれも帰路写す)

さらに上っていくと、徐々に車窓が明るくなるのに気づくだろう。まだ森は森なのだが、木々の背丈が低くなってきているのだ。やがてゲーテヴェーク信号所 Goetheweg Betriebsbahnhof を通過。西方のトルフハウス Torfhaus から来る登山道「ゲーテの道」(下注)と交差するので、その名がある。1:30(33.3‰)の急勾配上のため通過式スイッチバックになっていて、帰りはここで列車交換が行われた。下山する列車が側線に入って、登ってくる列車を待避する。車窓からは、上ハルツ Oberharz の蒼く優美な山並みが視界いっぱいに広がるので、通過を待つ時間も苦にならなかった。

*注 ゲーテヴェーク(ゲーテの道)は、1777年にブロッケン山に登った文豪ゲーテがたどったとされるルートに沿う登山道。

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ゲーテヴェーク信号所
(左)登山者に見送られて
(右)勾配途中のためスイッチバック式。帰りはここで上ってくる列車を待った
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(左)対向列車通過 (右)観光客でデッキまで鈴なり(いずれも帰路写す)

いつのまにか山腹を南から西へ、そして北へと回り込んできた。ケーニヒスベルク Königsberg との間の鞍部からは、山頂の送信塔がよく見える。地形図では、線路がいよいよブロッケンの本体に取り付いて、反時計回りというか、「の」の字ロールの形に上っていくのがわかる(上図参照)。森林限界を越えたから視界を遮るものはほとんどなく、回転展望台に座っているようなものだが、1周以上も回ったとは意識しないうちに、早や山頂のブロッケン駅に着いてしまった。10時36分着、最後まで定時運行だった。機関車はすぐに切り離され、機回し線を通って、山麓側に付け直される。転車台は山麓のヴェルニゲローデにしかないので、帰りはどの列車も機関車は逆向きだ。テンダーを前にして走る機関車では絵にならないが、仕方がない。

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最後の区間 (左)山頂が指呼の間に (右)「の」の字の途中で登山道と交差
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ブロッケン駅到着(左写真はビデオからのキャプチャー)

予報どおりのいい天気で、視界はきわめて良好。目の前に展開する大パノラマには大いに感動するものの、吹きさらしの山頂は長袖シャツにパーカーを重ねても寒いくらいだ。周りを見ると、ジャンパー姿の人も多い。寒いとトイレが近くなるが、有料トイレも山頂価格で、1ユーロする(麓の相場は50セント)。札をくずそうと土産物屋へ行くと、箒にまたがった魔女人形が鈴なりになっていた。ゲーテ「ファウスト Faust」のヴァルプルギスの夜の段に描かれているように、ブロッケン山は魔女の集う山だ。言い伝えでは、4月30日の陽が沈むと世界中から魔女がこの山頂に飛んできて、一晩の饗宴が催されるらしい。魔女人形は麓の町でいくらも売っているが、集会の現場で見るとありがたみが増すような気がする。ただ、どれもけっこう怖い顔をしているので、土産にいいのかどうか躊躇するところだ。

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山頂から北望

駅から2~3分歩けば、真の山頂に到達する。広場中央の最高地点には、中央に花崗岩の自然石を使ったモニュメントが据え付けられている。記念写真を撮ろうとして銘板をよく見ると、BROCKEN 1142mとある。待てよ、私の地形図に記された標高は1140.7mだが...。

後で調べたところ、ドイツ再統一以前、ブロッケンの標高は1142mとされ、西側の地図にはそう記されていた(東側の地形図では1140.7mと記載)。しかし、1990年代初めの再測量で、新たに1141.1mの標高値が与えられた。モニュメントは1990年代半ばに設置されたものだが、小さな銘板に下向きの矢印で示されているのが旧標高1142mの位置なのだそうだ。経緯は分かったが、北ドイツの最高峰に造った記念碑にしては、えらく細かい辻褄合わせをしたものだ。

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(左)左からホテル・展望塔、送信塔、博物館 (右)山頂のモニュメント
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山頂を後にするハイカーの一団

次回はハルツ横断線に乗る。

本稿は、「ドイツ・ハルツ山地-地図と鉄道の旅」『等高線s』No.11、コンターサークルs、2014に加筆し、写真、地図を追加したものである。

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