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2015年8月 2日 (日)

黒部ルート見学会 II-黒四発電所~欅平

「黒部ルート見学会」の後半、黒部川第四発電所から欅平までの道中をレポートする。

黒部川第四発電所

インクライン下部駅に隣接して、黒部川第四発電所(黒四(くろよん)発電所、あるいは黒四P/S)の施設がある。自然環境の保護と雪害回避のために、黒部川右岸の岩盤を刳り抜いて造られた高さ33m、幅22m、長さ117mの巨大な地下空間だ。見学会ではここで70分滞在することになっている(下注)。

*注 黒部ダム出発コースは70分だが、欅平出発コースは昼食時間がないため、43分の滞在。

まず、テーブルの間に峡谷の大きな地形模型が置かれた会議室に通された。ここで食事タイムとなる。売店などないことは事前に知らされているので、各自用意してきた弁当や軽食を広げた。隣の部屋は、例の中島みゆきが仮眠をとった会議室だ。サイン入り色紙など当時の思い出資料が展示されていて、自由見学が許される。案内人氏が、このソファーでお休みになりましたと教えてくれるが、誰も遠慮して腰を下ろさない。

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黒四発電所内部
(左)発電機が設置された巨大な地下空間 (右)ペルトン水車の大きさがわかる

その後、会議室では、前方スクリーンに黒部川電源開発の資料映像が映し出された。一同、熱心に見入る。

黒部川の豊富な水資源に着目した電源開発は、すでに大正期から手掛けられている。難工事を極めた高熱隧道の貫通により工事ルートが確保され、1940(昭和15)年には仙人谷ダムと第三発電所が完成、稼働を開始した。しかし戦後、経済復興が本格化すると、全国で深刻な電力不足が生じるようになる。停電が頻発し、産業界への影響はもとより、「電気をよこせ」と叫ぶ民衆の街頭デモまで起きるありさまだった。

1950年代後半になると大型火力発電所の建設が本格化するが、需要の急変動に対応するために、出力の制御が容易な水力発電の増強も必要とされた。関電が、水利権をもつ峡谷の奥地に、日本最大級の貯水ダム(黒部ダム)と地下発電所(黒四発電所)を建設しようとしたのは、そのためだ。

ダム予定地に通じる工事用道路として、長野県側から北アルプスを貫いてトンネル(大町トンネル、後に関電トンネル)が掘削された。途中、未知の破砕帯に遭遇し、突破のために工事史上まれに見る苦闘を重ねた経緯は、「黒部の太陽」の小説や映画に描かれて、よく知られている。同時に、ダムの下流9km(直線距離)に位置する地下発電所施設へ向けて、資材運搬路が造られた。これがさきほど通った黒部トンネルとインクラインになる(本ブログ「黒部ルート見学会 I」で詳述)。

予備知識を仕入れた後、発電所の内部を案内してもらった。建屋の巨大な空間は、見る者の距離感覚を狂わせる。床下にある発電機を天井クレーンで吊り上げるにはこのクリアランスが必要なのだが、2階テラスから見下ろすと、手前に置かれた直径3.3mもある大型のペルトン水車ですらコンパクトに思えるほどだ。人が近づいて初めて、真の大きさに気づく。

それから順に、床下にある制御室、発電機室へと案内された。後者では、金属の太いシャフトが実際に高速回転していて、耳を覆いたくなるような轟音が響いている。関電の営業エリアに住んでいる者としては、人もほとんど通わないような奥山の施設が日々のくらしの一端を支えていることに、一種の感慨を抱かざるを得ない。

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(左)4号水車が扉の中に (右)轟音を立てて高速回転するシャフト

■参考サイト
黒四発電所付近の最新1:25,000地形図
http://maps.gsi.go.jp/#15/36.644900/137.689500

上部専用鉄道(上部軌道)

発電所の見学を終えたあとは、トロッコ列車に乗ってさらに下流へと向かう。列車が走る線路はいわゆる上部軌道で、軌間762mm、欅平上部~黒部川第四発電所前間6.5kmをつないでいる。旧 日本電力が、仙人谷ダム建設のために1939(昭和14)年に仙人谷まで開通させたものだ。その後、黒部川第四発電所の建設に伴って、1963(昭和38)年に現在の終点まで延長された。仙人谷の鉄橋区間を除いて、全線がトンネル内にある。

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黒部ルート 上部軌道北半区間の1:25,000地形図
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黒部ルート 上部軌道南半区間の1:25,000地形図
注意:使用した地形図は1976~77年の修正測量図であり、登山道等の情報は現在と異なる。

元来この軌道は、後述する竪坑エレベーターを介して、宇奈月温泉~欅平間の下部軌道と一体的に構成されていた。下部軌道は、1953(昭和28)年から地方鉄道法に基づく一般旅客輸送を開始し、1971(昭和46)年には分社化されて、黒部峡谷鉄道(黒鉄)となった。一方の上部軌道も、地元では観光鉄道化が切望されているものの、基準に適合させるための改修に莫大な費用がかかるため、関電の作業用設備として維持されるにとどまっている。

軌道の乗場は、インクライン下部駅と隣り合せだ。蒲鉾形の空間に2線が収容され、片側には低いホームも設けられている。掲示されていた時刻表によれば、1日6往復で、黒四発電所前の発時刻は8:10、9:30、11:20(不定期)、13:10、14:45、16:55(不定期)となっていた。見学会が利用するのは、13時10分発の第8列車だ(下注)。

*注 列車番号は、欅平発が奇数、黒四発電所前発は偶数が付与されている。

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上部軌道黒部第四発電所駅
(左)左の係員氏の右奥にインクラインがある (右)地下駅とホーム

客車は黒鉄より一回り小さい10人乗りで、バッテリー機関車と貨車(?)に続いて5両連結されていた。会議室でもらった色別シールで指定の車両に分乗する。入口は茶室のにじり口かと思うほど低く、乗る時にたいてい頭をぶつける。入口では慎重にクリアできた人も、車内に入ると気が緩んで、天井でゴツンとやる。このためのヘルメットだったのか!と参加者同士で笑いあった。

車内はロングシートがレール方向に並ぶ。高熱区間を通るため、車両は耐熱仕様になっており、窓は密閉され、手動のワイパーが取り付けられている。発電所からは保安を兼ねて案内人の人数も増え、各車両に1人ずつ配置された。

警笛を合図に、定刻発車。のっそりと動き出す。ゴロゴロと大きな走行音を立てるので、すぐ近くにいる案内人さんの声でさえ聞き取りにくい。駅空間から狭いトンネルに出たあたりが「地上の星」が歌われた舞台で、冬季に車両等を使って到達できる最遠地点だそうだ。暖かいお茶の間で見ていても全く実感が湧かなかったが、現場に来てみると、よくもこのような奥地から生中継をしたものだと思う。

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上部軌道黒部第四発電所駅
(左)見学会が乗り込む列車 (右)紅白「地上の星」の舞台
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上部軌道(上部専用鉄道)の説明板

間もなくトンネルを抜けて、鉄橋の上で停車した。駅名標には仙人谷、標高859mとある。黒部ルートで唯一の明かり区間で、これまで右岸(東側)にあったルートがここで黒部川を渡って左岸(西側)に移る。鉄橋は上路式のプラットトラスで、上部に鉄道、下部に水路管を通している。上路には全面切妻屋根が掛けられているが、側方はオープンになっている。

全員いったん客車から降りて、線路上に出た。左手正面が、峡谷を塞いで造られた高さ43.5mの重厚な仙人谷ダムだ。奥の谷壁には雪渓も望める。鉄橋の南詰めにポイントがあって、ダムのほうへ資材輸送用の引込線が延びているようだ。ダムの建設当時はここに基地があったのだろう。谷底を覗くと遥か下方を、澄んだ水が、白い岩肌に蒼い淵を作りながら流れ落ちていく。

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仙人谷駅 (左)橋梁上が乗降場所 (右)駅名標と発車時刻表
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仙人谷駅 (左)橋の上から仙人谷ダムを望む (右)足もとの谷を見下ろす

トロッコの旅が再開した。これから徐行で入っていくトンネルが高熱隧道と呼ばれる区間で、阿曽原(あぞはら)谷まで約1km続く。掘削中、地熱が上昇し続け、摂氏166度にも達した。そのため岩盤から吹出した熱水で火傷を負う作業員が続出したり、ダイナマイトの自然発火で多数の犠牲者を出すなど、困難極まる工事を経て、ようやく貫通したトンネルだ。

乗っている客車の窓がじわじわと白く曇ってくる。案内人氏が車両のドアを開けると、硫化水素の匂いのする生暖かい空気が車内に入ってきた。岩盤の温度は、水路管の埋設による冷却効果などで往時より下がっているが、それでも40度ぐらいはあるそうだ。トンネルの壁面には、ぼこぼこと黄味を帯びた硫黄華がこびりついている。下部軌道のように電化されていないのも、窓のワイパーが手動なのも、硫黄分のために金属がすぐ腐食してしまうからだ。通信ケーブルも空気に触れないよう、水に漬けてあるという。

高熱区間を通過した後は、列車の速度が上がったような気がする。主な谷の横断個所には、作業員の乗降場所があるようだが(下注)、ノンストップの車内では全く気付かないまま、終点欅平上部駅に到着した。

*注 起終点を除く駅は欅平側から、蜆谷、志合谷、折尾谷、阿曽原、仙人谷、東谷。地図上に注記した。

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欅平上部駅 (左)来た方向を振り返る (右)素掘りにモルタル吹付けの部分も
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欅平上部駅のルート案内図と発車時刻表
欅平出発コースは第5便を利用

軌道のレールは竪坑エレベーターにつながっているが、車両航送のようなシーンがいつも見られるわけではない。見学会の一行は全員降車し、狭い通路を経て、欅平竪坑展望台に案内された。ここは後立山連峰の白馬鑓ヶ岳や天狗ノ頭が望める場所だが、梅雨時は天候が不安定だ。午後は雲が降りてきて、山頂を覆い隠してしまった。右に目を向けると、釣鐘を伏せた姿の奥鐘山が深い谷からそそり立っている。残念ながら工事中で柵の間際まで近寄れないため、なんとなく消化不良の状態で引返した。

ちなみに、今年(2015年)から「黒部峡谷パノラマ展望ツアー」という有料行事が開始されている。欅平から竪坑エレベーターで昇り、この展望台を経て、パノラマ展望台と名づけられた水平歩道の起点まで歩くというものだ。上部軌道については、トンネル内をごく一部歩くにとどまり、列車には乗れない。

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欅平竪坑展望台の案内板、晴れていればこのように見えるはずだが…

竪坑エレベーター

上部軌道終点の標高800mに対し、欅平は599mだ。50階建てビルに相当するという200mの標高差は、この竪坑エレベーターで解消している。案内板には次のように書かれていた。「この附近の河川勾配は24分の1という急流で、これ以上欅平から河川沿いに鉄道を延ばすことができなかったため、山の中腹に垂直に貫く「竪坑」とさらに「トンネル」を開削し、鉄道を敷設して、「仙人谷ダム」地点へ従業員の上下山と工事用資材の輸送に使用しております。」

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竪坑エレベーター(人荷用)
人専用は左奥に隠れている

勾配1/24は千分率の41.7‰に相当し、確かに重量物を運ぶ貨物鉄道には不向きだ。ループやスイッチバックで緩和しようにも、険しい峡谷に線路を引き回す土地などあるはずもない。輸送効率が落ちるのは覚悟のうえで、中間にエレベーターを介して一気に高度を稼ぐしか選択肢がなかったのだろう。人荷用エレベーターは、籠の中までレールが敷かれ、車両1両を載せられるようになっている。今から70年以上も前(1939年)に設置されたにもかかわらず、最近まで日本最大の巻上げ能力を有していたそうだ。

隣に人専用の小型エレベーターもあるようだが、定員6名のため、見学会では人荷用の方を利用した。案内人氏によると、竪坑には避難階がなく、万一、籠が途中で停止した場合は、内壁のはしごを使って避難しなければならない。それも観光用に開放できない理由の一つだという。とはいえ、下までわずか2分なので、覚悟を固める暇もなかった。

工事用トロッコ電車(下部軌道)

下部駅では、窓付き、1列1-2人掛けの、峡谷鉄道と同じ列車が待っていた。それもそのはず、この線路はそのまま黒鉄の駅までつながっている。後方へ動き出した後、スイッチバックしてトンネルを抜け、すぐに停車。そこはもう黒鉄欅平駅ホームの上流側だった。いうまでもなく、ここは旅行者がふつうに訪れることができる最奥の駅になる。

しかし、それに数段勝る秘境ルートを延々とたどってきた参加者の心の中は、ようやく人里へ戻ってきたという安堵感と、お楽しみに幕が引かれる名残惜しさとが入り混じっている。ここまで案内人を務めてくださった方から、「お疲れ様でした。今後とも関西電力をよろしくお願いします」と締めくくりがあり、一同拍手で見学会は解散となった(下注)。

*注 ちなみに、見学会の参加手続きの中には、黒鉄の欅平~宇奈月温泉間の列車予約も含まれている。出発前に所定額を振込んでおき、その払込証を欅平駅の出札で見せて乗車券を受取る方式だ。指定された車両は、窓付きの特別車両だった。

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エレベーターを降りて、下部軌道の列車に乗り込む
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欅平駅到着
(左)トンネルを出たところが欅平駅
(右)黒鉄欅平駅ホームは長い。改札はカーブの先に

■参考サイト
欅平駅付近の1:25,000地形図
http://maps.gsi.go.jp/#15/36.695700/137.658400

掲載の地図は、国土地理院発行の2万5千分の1地形図欅平(昭和52年修正測量)、十字峡(昭和51年修正測量)を使用したものである。

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