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2015年3月15日 (日)

アイルランドの地形図-概要

北大西洋に浮かぶ島、アイルランド。北上する暖流の影響を受けて、極端な寒暖は少なく穏やかな気候の土地だ。しばしば襲うにわか雨を恵みにして、大地には草木が青々と生い茂り、別名をエメラルドの島 Emerald Isle という。山野にひっそりと残るケルト文化の痕跡を求めて旅する人も多い。

島は、北海道より少し大きい。世界の島を面積順に並べると、アイルランド島が19位(84,406平方km)、次いで北海道(20位、78,073平方km)になるそうだ。とはいえ、地勢は北海道とはまるで違い、真ん中がへこみ、周囲が盛り上がったいわばお盆のような形状をしている。中央部には標高の低い平原が広がり、大小の湖も点在する。一方、海に近い地域は山がちで、特に西側は断崖が海に落ち込む荒々しい景観で知られる。

島は、行政的にアイルランド共和国 Republic of Ireland と、イギリスに属する北アイルランド Northern Ireland に分かれている。前者が島の面積の5/6を占め、北西部にある残り1/6が後者のエリアだ。後で述べる歴史的経緯からそうなっているのだが、地形図については両者の測量局間で顕著な協力関係が見られる。

Blog_ireland_50k1
1:50,000地形図表紙
 (左)OSI 図番50 ダブリン  2001年版
(右)OSNI 図番15 ベルファスト
2000年版
いずれも現行版とは表紙デザインが異なる

アイルランド共和国の地図作成機関は、オードナンス・サーヴェイ・アイアランド Ordnance Survey Ireland(略称 OSI)と称し、日本語ではアイルランド陸地測量部と訳されている。同様に北アイルランドのそれは Ordnance Survey Northern Ireland (OSNI)、北アイルランド陸地測量部と言った。OSIは現存するが、OSNIのほうは、北アイルランド政府の行政改革で、2008年4月1日に他の機関とともに国土・資産局 Land & Property Services に統合されたため、現在はOSNI地図という呼称だけが残されている。

オードナンス・サーヴェイは直訳すれば軍用測量で、イギリスのそれと同じ名称だ。アイルランドの測量部は1824年の創立だが、当時アイルランド島はイギリスに併合されていたので、本国の方針に則っての設置であったことはいうまでもない。

当面の目標とされたのは、土地評価に基づいた課税を実施するために、1マイル6インチの精度(下注)で全島の地籍測量を行うことだった。これほどの大縮尺と実施規模は、イギリス本土のみならず世界でもまだ例がなかった。イギリス陸地測量部の長官だったトーマス・コルビー Thomas Colby と工兵隊の士官たちがロンドンからダブリンに渡り、1846年まで20年以上の時間をかけて任務を達成した。

*注 実長1マイルを図上6インチで表す縮尺。分数表示では1:10,560になる。19世紀の6インチ図はOSIのサイトで公開されている。 http://maps.osi.ie/publicviewer/

20世紀に入ると、アイルランドでは自治権獲得の運動が高揚していく。第一次世界大戦直後の独立戦争を経て、カトリックの南アイルランドは1922年にアイルランド自由国 Irish Free State として独立し、プロテスタントが多数を占める北アイルランドはイギリス(連合王国)にとどまった。これに伴って、100年近く続いた陸地測量部の事業も、自由国(後にアイルランド共和国となる)が同年4月1日、北アイルランドは少し早く1月1日に、それぞれ発足した新しい組織に引継がれることになった。イギリス陸地測量部 Ordnance Survey (OS) の担当するエリアが、北アイルランドに及んでいないのはこうした経緯があるためだ。

しかし、組織名称と同様、地形図の仕様についてもアイルランド共和国、北アイルランド、そしてイギリス(下注)の3者互いに類似点がある。それは地図記号によく表れている。

*注 以下「イギリス」という場合、イギリス陸地測量部の担当するエリア、グレートブリテン島と付属島嶼を指し、北アイルランドを含まない。

Blog_ireland_50k_legend
OSI 1:50,000の凡例の一部
Blog_northernireland_50k_legend
OSNI 1:50,000の凡例の一部

まず道路については、記号の形状がほぼ同じだ。ただし分類方式はそれぞれ異なるため、一部の配色に違いが出ている。具体的に言うと、高速自動車道 Motorway(道路番号にMがつく)の青色、地方道 Secondary road, Regional road の橙色などは3者共通だ。ところが、高速道の一つ下のクラスでは、イギリスが一級道路 Primary Road を緑色、主要道 Main Road を赤色と区別するのに対して、アイルランド島では赤を使わない。その影響で地図全体の色合いも、アイルランド島のそれはより穏やかな印象を受ける。緑と橙は共和国の国旗の色でもあり、お国ぶりのようなものが感じられて興味深い。

次に鉄道は、単線/複線を区別しない、踏切にはLC(平面交差 Level crossing の略)と注記を入れる、駅は矩形ではなく赤い丸印で表現する、などが3者共通の特徴だ。ただし、イギリスと北アイルランドは主要な駅に矩形を充てるのに対して、共和国は、ダブリン市内のコノリー Connolly やヒューストン Heuston といったターミナル駅でも赤丸で通している。

植生については、畑(果樹園を除く)や牧草地を描かない点が共通している。これは軍用地図のなごりで、遠方の見通しや軍隊の通過に影響しないものは描く必要がなかったからだ。森林も、針葉樹林(共和国は針葉樹植林地)/落葉樹林(同 自然林)/混合樹林に分類して、樹形を模した記号を面的に配するところがそっくりだ。ただし、イギリスはそのエリアにすべてアップルグリーンのアミを被せるのに対し、北アイルランドは森林に色を塗っていない。共和国も以前はそうだったが、図式改訂でアミをかけるようになり、かつ森林の種類ごとに色まで変えている。

図式の共通性とともに、アイルランド島の2者の地形図にはもう一つ、重要な特徴がある。区分図の図郭や図番体系が全島で統一されているのだ。そのため、発行体は違っても、もはや一連の刊行物群とさえいうことができる。

詳しくは次回以降の記事に委ねるが、まず、全島を1冊でカバーする道路地図帳(1:210,000)は、2者共同製作の形をとる。先述した道路分類の違いを除けば、図式も完全に統一されている。4面で揃う1:250,000図は、北部編 North が北アイルランドの、残り3面が共和国の担当で、カバーデザインは共通だ。一方、92面ある1:50,000図は、シリーズの名称が少し異なり(下注)、さすがにカバーデザインも独自のものが使われる。しかし、2者で通しの図番が振られ、地図では互いの国境線の外側も分け隔てなく描かれるなど、基本部分での共通性が維持されている。

*注 北アイルランドのそれはディスカヴァラー(発見者)シリーズ Discoverer Series、共和国はディスカヴァリー(発見)シリーズ Discovery Series と称する。

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1:50 000索引図 緑がOSI、ベージュがOSNIの担当図郭
(OSIカタログ 2000年版より)

アイルランドの地形図は、共和国OSIのショッピングサイト(下記参考サイト参照)で、北アイルランドの製品も含めて扱われているので、日本からも入手は容易だ。もう一つ付け加えれば、OSIは独立採算が課せられているため、地図データを自由使用に任せず、著作権でしっかり管理して事業収入につなげている。そのため、二次利用には制約がある。

■参考サイト
アイルランド陸地測量部 http://www.osi.ie/
同 オンラインショップ http://shop.osi.ie/
北アイルランド陸地測量部地図 OSNI Mapping(nidirectサイトの一部)
http://www.nidirect.gov.uk/osni

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