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2015年3月21日 (土)

アイルランドの1:50,000と1:250,000地形図

イギリスやフランスなどの後を追うように、アイルランドの官製地形図もまた、汎用図から旅やレジャーに役立つ仕様へと軸足を移してきた。地形図が備えるべき等高線や標高点、経緯度やUTMグリッド、交通網や集落や植生、大小の地名といったオーソドックスなデータに加えて、余暇を楽しむときに有益な情報が、視覚に訴える地図記号で描き込まれているのだ。

アイルランド陸地測量部 Ordnance Survey Ireland (OSI) が刊行する地形図のうち、区分図として全土をカバーしている縮尺1:250,000と1:50,000を中心に、その傾向を見ていこう。

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1:250,000地形図表紙
(左)北部 2002年版 (右)南部 2011年版

1:250,000は全島を4面でカバーする。そのうち、北部編Northは北アイルランド国土・資産局(旧OSNI)が製作・刊行しており、OSIは残り西部 West、東部 East、南部編 Southの3面の担当だ。横11.7×縦27cmの表紙つき折図で、1面で150km×220kmの広域を描ききる。

現行版には見当たらないが、以前の表紙には「ホリデーマップ Holiady Map」のロゴがあり、週末旅行のガイドマップであることがアピールされていた(下注)。その特色は今も受け継がれている。凡例に観光情報 Tourist Information というくくりがあって、さまざまな記号が設定されているのだ。

*注 OSI公式ショッピングサイトでは、今もホリデーシリーズ Holiday Seriesと案内されている。

例えば、キャラバンサイト(ハウストレーラー用のキャンプ場)、キャンプサイト、ピクニックサイト、ユースホステル、駐車場、飛行場、教会、古戦場、展望台、ボート乗場、水浴場、ゴルフコース、旅行案内所、自然保護区、アン・タシュカ An Taisce(アイルランドのナショナルトラスト)等々。また、史跡の名称にはブラックレター(古書体)が使われて、雰囲気を醸し出している。

1:250,000(図上1cmで実長2.5kmを表す)という縮尺なので、これだけで実際の場所を特定するのは難しいかもしれない。しかし、広域を見渡しながら行きたい場所の目星をつけるのには十分だし、地図には道路網もしっかり描かれているので、ドライブ旅行のプランニングにも役立つはずだ。

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1:250,000地形図 旅行情報の凡例

一方、地勢表現は段彩つきの等高線に拠る。以前の版では120m~150m(400~500フィート)ごとに引かれていたのだが、現行版は150m、250m、550mという大雑把な区切りに変更されてしまった。旅行地図なら、ざっくり山地のありかがわかればいい、という趣意だろうか。

そのほか、10km単位のグリッドが掛けられ、主な地名は英語とアイルランド語が併記されている。凡例についてはアイルランド語、英語のほか、仏語、独語の4か国語対応だ。この方針は多くのOSI製地図にも踏襲されている。

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表紙の一部を拡大

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1:126,720地形図表紙
図番15 1976年版

1:250,000より大縮尺の地形図として、かつては1:126,720図があった。縮尺の端数は、図上1/2インチで実長1マイルを表す、いわゆるハーフインチ図 Half-inch map だからだ。1918年までに全島25面が揃って以降、1:50,000新シリーズの刊行が始まるまで、長らく代表的な中縮尺図として親しまれた(下注)。この縮尺はイギリスでは早々に姿を消したが、アイルランド島では1990年代後半の地図体系見直しまでカタログに残っていた。

*注 北アイルランドでは、同じ縮尺で独自シリーズ全4面が刊行され、こちらが更新の対象になっていた。本ブログ「北アイルランドの地形図・旅行地図」参照。

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1:126,720地形図の一部

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OSI 1:50,000地形図表紙
(左)図番45 ゴールウェー 2002年版
(右)図番87 コーク 2012年版

OSIの1:50,000は、「ディスカヴァリーシリーズ Discovery Series」という総称を持っている。地図を携えると、新しい何かを「発見」できる。イギリスの縮尺別地形図に冠されているランドレンジャー Landranger やエクスプローラー Explorer などのシリーズ名と同じような含意だ。

1:50,000の図郭は、92面で北アイルランドを含めた全島をカバーする。本来89面で足りるのだが、OSIが北アイルランドとの国境付近で、自国領がきれいに収まる重複図郭(27A、28A、28B)を独自に設定しているため、その分、面数が増える。それぞれが担当する図葉数は、OSIが75面、北アイルランドが17面だ。

*注 かつて93面だったが、北アイルランドの図番36aが廃止されたため、現在は92面。

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1:50 000索引図 緑がOSI、ベージュがOSNIの担当図郭
(OSIカタログ 2000年版より)

OSIと旧OSNIによる1:50,000の共同刊行は、1978年に締結された協定によって動き出した。高度や距離にメートル法を導入し、図郭も全面的に見直して、従来の1マイル1インチ図(図上1インチで実長1マイルを表す。縮尺1:63,360)をすべて置換えるのが目標だった。当時、OSIの1インチ図はモノクロ印刷、かつ1910年代までの旧図に経年変化を修正しただけの貧しい状態で(下注)、上述した多色刷1:126,720が支持された理由もそこにあった。新図製作の企画は大いに期待されたはずだが、大縮尺図の整備が優先されたため、アイルランド全島の刊行完了は1990年代後半までずれ込んだ。

*注 モノクロの区分図以外に、集成図としてダブリン、ウィックロー Wicklow、コーク Cork、キラーニー Killarney が刊行されており、これは多色刷だった。

その1:50,000も現在は第4~5版を数えるまでになっている。20×11.5cmの折図で、各図幅は40km×30kmのエリアをカバーする(一部例外あり)。島の地形は総じてなだらかなので、等高線は10m間隔だ(ちなみに日本の1:50,000は20m間隔)。山地や海岸の急傾斜地でも、間引き処理は行われていない。地勢を表すのはもはや定番の段彩で、100mごとに施されている。グリッドは1km単位だ。もちろん1:250,000と同様、旅行情報も地図記号で盛り込まれている。縮尺が大きくなった分、史跡の注記が示す位置はより正確で実用的なレベルになる。

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1:50,000地形図の例 (OSIカタログ 2000年版より)

OSIのサイトに、シリーズのベストセラーが挙げられていた。図番50、51、56、70、78の5点だが、具体的にはどこの地図だろうか。

まず、図番50は東海岸の首都ダブリンで、空港を含めて市街とその周辺が図郭に入る。51は西海岸に飛び、石灰岩が露出した不毛の丘陵バレン The Burren や離島アラン諸島 Aran Islands が収まる。同様に56はグレンダーロッホ Glendalough を含むウィックロー山地 Wicklow Mountain、70は最西部のディングル半島 Dingle Peninsula、78はキラーニー Killarneyと、島の最高峰があるマクギリーカディー山脈 Macgillycuddy's Reeks 周辺だ。いずれもよく知られた旅行目的地だが、それでも地図が売れるのは、まだ発見できるものが残っていると信じる人が多いことの証しだろう。

■参考サイト
アイルランド陸地測量部 http://www.osi.ie/
同 オンラインショップ http://shop.osi.ie/

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