« スイスの地形図-今昔シリーズ II | トップページ | スイスのスーパースライダーを地図で追う »

2015年2月 7日 (土)

スイスのハイキング地図-スイストポ

Blog_swiss_map_wander1
グリンデルヴァルトの村を見下ろしながら
メンリッヘンからクライネ・シャイデックに
下りるハイキングトレール

なだらかな丘陵地から険しい山岳地帯まで、スイスの山野を縦横に巡るハイキングトレールは、62,000km以上の長さがあるそうだ。スイスハイキング連盟 Schweizer Wanderwege, SAW は、ハイキングトレール Wanderwege / Hiking trails(下注)を難易度によって3種に区分し、現地に立てた標識でも識別できるようにしている。

*注 ドイツ語のヴァンデルング Wanderung、英語のハイキング Hiking は、交通用具を使わない徒歩旅行一般を指すことば。ヴェーク Weg/トレール Trail も、一般車両が通れない徒歩用の道。適当な和訳を思いつかないので、以下、トレールの種別は英語の読みのままとした。

まず、ハイキングトレール Wanderwege / Hiking trails は、最も危険度が低いトレールで、特別な装備や知識がなくても利用できる。険しい区間では階段が作られ、落下の恐れがある個所には手すりが設けられている。標識(サインポスト、矢印、マーキング等)は黄色1色だ。

Blog_swiss_map_wander2
ミューレンの村で
見かけた標識

マウンテンハイキングトレール Bergwanderwege / Mountain hiking trails は、中クラスの危険度で、概して険しく道幅も狭く、特に危険な個所ではザイルやチェーンが張られている。防水服と登山靴の着用が必須とされる。標識は同じ黄色だが、先端部や矢印などは白・赤・白に塗られる。

アルパインハイキングトレール Alpinwanderwege / Alpine hiking trail は、危険を伴うトレールで、一部に礫原や岩屑斜面、あるいは雪原、雪渓を越える個所があり、短いながら岩登りも含まれる。危険防止のための設備は期待できないので、登山用の装備に加えて、高度計、コンパス、ザイルやピッケルが必須とされる。標識は青地で、先端部や矢印などは白・青・白に塗られている。

■参考サイト
Wikimedia - ハイキングトレール標識の実例
http://commons.wikimedia.org/wiki/File:BergAlpinWegweiser.jpg

Blog_swiss_map_wander50k
1:50,000
ハイキング地図表紙
ミシャベル Mischabel
2004年版

このようなトレールのルートを詳しく描き、利用者の必携品とされているのが「ハイキング地図 Wanderkarte / Hiking map」だ。連邦地形測量所スイストポ Bundesamt für Landestopographie Swisstopo は、SAWの協力のもとで、官製地形図(ランデスカルテ Landeskarte、下注)をベースにしたこの種の地図を多数揃えている。

*注 ランデスカルテは、スイスの現行地形図の名称。詳しくは本ブログ「スイスの地形図-概要」参照。

最もポピュラーなのは、縮尺1:50,000のハイキング地図(区分図)だろう。一部の例外を除き、1:50,000ランデスカルテと同一図郭で、現在58面が刊行され、全土をカバーしている。図番は数字3桁(集成図は4桁)の後にTがつく(例:213 T, 5001 T)。

Blog_swiss_map_wander50k_index
1:50,000ハイキング地図索引図
黄色が既刊の区分図、橙色は集成図。国境付近は隣接図に取り込まれ、単独図としては刊行されていない。

Blog_swiss_map_wander50k_sample
1:50,000ハイキング地図サンプル
(266T Valle Leventinaの一部
BLT地図カタログ1995/96年版より)

内容は、ランデスカルテの上に、ハイキングに必要な情報を赤色で加刷するという伝統的なスタイルだ。上記3種のトレールは、線の形状で描き分けられている。すなわち、ハイキングトレールは実線、マウンテンハイキングトレールは破線、アルパインハイキングトレールは点線だ。中でも、スイスモビリティ計画(下注)の一翼を担う「スイスのハイキング Wanderland Schweiz / Hiking in Switzerland」の主要ルートについては、線を太くし、かつ特徴的なルート番号のロゴが添えられているので、よく目につく。

*注 スイスモビリティ SchweizMobil / SwitzerlandMobility は、主として休暇や観光のための、自動車に依存しない交通網を整備する計画。これに基づき、ハイキングトレールをはじめ、自転車、マウンテンバイク、スケート、カヌー、バリアフリーのルートが整備されている。

トレール以外の表示もある。山小屋はランデスカルテにも記載があるので、その位置を円で囲んで目立たせるという手法を採る。道路はランデスカルテで種別を表していた塗り色を省き、その代りにバスの運行ルートを黄色で強調している。また、バス停の位置には赤丸が打たれ(停留所名はない)、公共交通網とトレールの接点が容易に見つけられるようにしている。

従来、スイストポのハイキング地図は、この1:50,000区分図のほかに、1:50,000集成図9面、1:25,000集成図8面という品揃えだった。ところが2013年に、縮尺1:33,333のハイキング地図が新たに刊行されるというニュースが発表されたのには、正直驚いた。スイス地形図史上、前例のない縮尺であり、今さら既存の縮尺の中間を狙ったところで本当に需要が見込めるのかと、製作の意図を疑ったからだ。

Blog_swiss_map_wander33k
1:33,333
ハイキング地図表紙
ティトリス Titlis
2013年版

さっそく現物を取り寄せたところ、その正体は、1:50,000ハイキング地図の内容を単純拡大した、いわゆる「でか字」バージョンだった。1:50,000では実地の1kmが図上2cmになるが、1:33,333なら1.5倍の図上3cmに表せる。前者では注記文字や地形描写が細か過ぎると感じるシニアの方でも、後者なら比較的楽に読取りができるだろう。

改良点はそれだけではない。用紙は、野外での使用に配慮して、耐水性をもつ合成紙に変えられた。副次効果でインクの発色がよくなり、精細なグラフィックが一段と鮮明になった。また、用紙寸法も従来ものに比べて一回り小さい。折れば11×17.5cmと、7インチタブレット程度のポケットサイズで、携帯に便利だ。

縮尺が大きい分、収載範囲が狭くなるというハンディに対しては、両面印刷にすることである程度手当ができている。図郭の面積は1:50,000より減るが、それでも片面で実地15km四方は表せるから、日帰り程度の徒歩旅行で使うには十分だ。むしろ、1:50,000は範囲が広過ぎるきらいがあったし、1:25,000集成図は折り畳むと分厚くなり、戸外では扱いにくかった。

新企画の意図するところについて、スイストポの担当者は、ある掲示板で次のように回答している。「従来のハイキング地図は、区分図は1点当り22.50フラン、集成図は32.50フランと非常に高価だ。外国で販売する場合、為替相場のフラン高に現地の付加価値税が加わり、スイス国内よりもさらに高くなる。このため、従来のハイキング地図は販売実績が落ち込んでいる。」

「1:33,333ハイキング地図は、1:50,000の内容を何ら変えずに、縮尺を拡大して読み易くした。表面と裏面に図が分割されてしまうが、わずかな欠点に過ぎない。また、焼却しても無害な用紙を使用しており、環境に負荷をかけない。」

「他のハイキング地図との競合が予想されるが、新図は4色刷(プロセスカラー)、原版の再利用など製作過程を効率化することでコストを抑え、11.80フランとリーズナブルな価格に設定できた。外国での販売促進も期待される。」

Blog_swiss_map_wander33k_index
1:33,333ハイキング地図索引図(2015年1月現在)

現在、1:33,333はアルプスとジュラ山地で計20面が刊行済だが、ユングフラウ地域を含め、未刊のハイキング適地は多数残っており、新刊の通知は今後もしばらく続くのだろう。それ自体は楽しみだが、一方でこれがユーザーの支持を得れば得るほど、競合する従来図が売れなくなるのは目に見えている。そこは他人事ながら心配だ。

情報更新はデータベース上で定期的に行われており、すでにインターネットを介しても提供されている。あとは、印刷物をどの範囲まで維持するのかという問題になる。1:33,333は図郭が表面と裏面で千鳥状になっているものも多く、全土をくまなくカバーすることは初めから想定されていないようだ。そこにまだ1:50,000の存在意義が残されているのだが、需要の多い地域でライバルの1:33,333が揃っていけば、もはやニーズは限りなく減少するに違いない。スイストポの正式見解は知らないが、将来的に印刷物としてのハイキング地図は1:33,333に集約され、その他の従来図は更新停止となって市場から姿を消していくのではないだろうか。

ハイキング地図は、連邦地形測量所スイストポのオンラインショップ(英語版なら Maps > Leisure Maps)はもとより、日本のアマゾン等のショッピングサイトでも扱っている。"Swisstopo" "Wanderkarte"等で検索するとよい。

■参考サイト
連邦地形測量所スイストポ http://www.swisstopo.admin.ch/
スイスハイキング連盟 http://www.wandern.ch/
スイスモビリティ-スイスのハイキング SwitzerlandMobility – Hiking in Switzerland(英語版)
http://www.wanderland.ch/en/wanderland.html
同 インタラクティブ地図 http://map.wanderland.ch/

★本ブログ内の関連記事
 スイスの地形図-概要
 スイスの1:50,000地形図
 リヒテンシュタインのハイキング地図

 オーストリアの旅行地図-アルペン協会
 ドイツの旅行地図-ライン渓谷を例に
 フランスの山岳地図-ランド・エディシオン
 イタリアの旅行地図-タバッコ出版社
 

« スイスの地形図-今昔シリーズ II | トップページ | スイスのスーパースライダーを地図で追う »

旅行地図」カテゴリの記事

西ヨーロッパの地図」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

« スイスの地形図-今昔シリーズ II | トップページ | スイスのスーパースライダーを地図で追う »

2017年7月
            1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31          

BLOG PARTS


無料ブログはココログ