« スイスのハイキング地図-スイストポ | トップページ | アイルランドの地形図-概要 »

2015年2月28日 (土)

スイスのスーパースライダーを地図で追う

Blog_swiss_rodelbahn1
ピラトゥス山中腹にあるスーパースライダー

ボブスレー、リュージュあるいはスケルトンというウィンタースポーツをご存知だろう。いずれも曲がりくねった樋(とい)状のコースを、専用の橇(そり)に乗って猛スピードで滑り降りる競技だ。見るからにスリリングで、素人にはとても真似できそうにないが、それを一般向けにして、かつ夏でも楽しめるようにした遊具がある。スーパースライダーと呼ばれ(下注)、遊園地のほか、スキー場などでオフシーズンのアトラクションとしても導入されているものだ。

*注 これはいわゆる和製英語。英語ではtoboggan run(トボガン・ラン)、alpine slide(アルパイン・スライド)など。ドイツ語ではローデルバーン Rodelbahn、特に夏用のものはゾンマーローデルバーン Sommerrodelbahn という。また、後述するレール製はmountain coaster(マウンテン・コースター)、alpine coaster(アルパイン・コースター)などと呼ばれる。

コースは自然の斜面を利用して、コンクリートやアルミニウムあるいはステンレス鋼で造られ、小さな車輪のついた1~2人乗りのカートで滑る。カートにはブレーキレバーがついていて、通常これを手前に引けばブレーキがかかり、押すとブレーキが緩んで加速する。乗り手が自分に合った速度にコントロールできるというのが、ジェットコースターなどとの最大の違いだ。

本場はもちろん欧米で、はるかに本格的なコースが多数存在する。日本では長さがせいぜい数百mといったところだが、彼の地では1kmを超えるものも多い。現在、世界最長を誇るのは、オーストリアのイムスト Imst にある「アルパイン・コースター・イムスト Alpine Coaster Imst」で、全長3535m、高度差500m、ふつうに滑ると9分かかるという。どんなコースなのかは、下記YouTubeの実走動画をご覧いただきたい。

■参考サイト
YouTube - Long Alpine Coaster (Imst) - no brakes!
https://www.youtube.com/watch?v=MUVFiNVRvEU

お気づきのように、イムストのそれは従来の平滑な凹面コースではなく、ジェットコースターと同じようにレールの上を走行するタイプだ。ドイツのヴィーガント Wiegand 社が代表的メーカーで(下注)、欧米だけでなく中国やベトナムにも設置の実績がある。このタイプの特徴は、走行車輪とは別にレールを下から押し付ける浮上防止車輪があることで、高速でカーブに入ってもコースを逸脱する恐れがない。さらに車輪の回転数を制御する遠心ブレーキも装備されている。動画の投稿主がブレーキをかけずに5分で完走したと豪語できるのも、こうした安全装置があるからだ。

*注 ヴィーガント社は、日本にも導入されているステンレス鋼製コース(ゾンマーローデルバーンはもともと同社の商品名)のメーカーだが、1997年にこのレール式コース(商品名アルパイン・コースター)を発表した。

スイスのピラトゥス山 Pilatus の中腹、フレークミュントエック Fräkmüntegg にもスーパースライダーがある。1996年に開設されたもので、全長1070m(下注)。ヴィーガント社のステンレス製コースを使用したものではスイス最長だ。

*注 以下、ヴィーガント社製の路線延長は同社サイトhttp://www.wiegandslide.com/ に拠っているので、施設の公式サイトの記載とは数値が異なる場合がある。

Blog_swiss_rodelbahn_map1
フレークミュントエック付近の1:25,000地形図

たまたまこれに乗る機会があった。ピラトゥス鉄道で山頂に上った折りのことだ。何気なく駅の案内モニターを眺めていたら、このコースの走行シーンが映った。日本ではあまり見かけない遊具で(筆者が知らないだけだったが)、連れていた小学生の息子が俄然興味を示し、ここへ行きたいと言い出した。

山頂からルツェルン方面へ降りていく長いロープウェーの乗継駅(下注)が、そのフレークミュントエックだ。標高1415m、冬はスキー場に変わるのだろう、急傾斜の草原が眼下に広がっている。草原の際を5分ほど上ったところに、スーパースライダーの乗場があった。

*注 厳密にいうと、大型キャビンで運行されるロープウェー Luftseilbahn はフレークミュントエックが終点。ここから先、ルツェルン方面へは4人乗りのゴンドラ Panorama-Gondelbahn に乗換えになる。

銀色に光るコースが、蛇行しながらはるか下まで続いている(冒頭の写真参照)。その中を橇が相当なスピードで滑り降りていくが、見たところ、子どもも一人で乗っているし(ただし8歳以上)、ヘルメットすら被っていないので、危険はないのだろう。しかし、操作法や注意点が書かれた看板が、乗場の前に立っていた。絵入り、かつ日本語も併記されているのでよくわかる。「重要:ソリには制動距離があり、すぐには止まりません。運転中は体を運転方向、つまりカーブ側に倒してください、カーブと反対側に体を倒さないようにしてください。事故の危険があります。」……

荷物をロッカーに預け、大人8フラン、小人6フランを払って別々に乗り込んだ。先行者とは25mの間隔を空ける必要があり、青信号が出ればスタートできる。滑り降りていく先には、山と湖の美しい景色が広がり、シチュエーションは最高だ。途中の計測表示によれば、時速30~40kmほども出ているのだが、カーブの手前で「ブレーキかけろ!」の標識が現れるので、案ずることもなく速度の加減は判断できた。風を切ってスラロームしていくと、あっという間に終点に着いてしまった。

その後がおもしろい。そりは一定速度で回っているスキーリフトに綱でつながれて(操作は係員がやってくれる)、後ろ向きに引き上げられる。その間、利用者はただ乗っていればよく、汗もかかずに初めの乗場に戻れる。

Blog_swiss_rodelbahn2
(左)乗場 (右)6か国語で書かれた注意書き
Blog_swiss_rodelbahn3
(左)猛スピードでトンネルを抜ける (右)39km/hの速度表示
Blog_swiss_rodelbahn4
帰りはリフトにつないだ綱で引き上げられる

■参考サイト
公式サイト http://www.pilatus.ch/de/pilatus-aktiv/sommer/fun-action/sommer-rodelbahn/
地形図 http://s.geo.admin.ch/2b9cf340d
動画 https://www.youtube.com/watch?v=iKe7-RGOuD4

このコースが1:25,000地形図にも描かれていることは、そのときから気づいていた。細い実線が使われ、Rodelbahn という注記もある。小型車なら通れる4級車道(幅1.8m以上)の地図記号に似ているが、線状の構築物なのでそれで代用しているのだろうと思った。ところが、後で凡例(地図記号一覧)を調べると、キャンプ場やグラウンドのそれに混じってローデルバーン Rodelbahn / Summer toboggan-run という記号が示されているではないか。細線の両端を短線で止めるというのがその仕様だ。他国の地形図まで調べてはいないが、少なくともこの国では、独立した記号が設けられるくらい、この遊具は一般的なものらしい。

Blog_swiss_rodelbahn5
スイス官製地形図の凡例の一部
円で囲んだ記号がRodelbahn

実際に1:25,000官製地形図で、スーパースライダーはどのように描かれているのだろうか。スイス政府観光局の特集サイト(下記)を手掛かりにいくつか探してみた。ルートを地形図上に薄い赤でマーキングするとともに、YouTubeに投稿された実走動画へのリンクも掲げておいたので参考にしていただきたい。

■参考サイト
My Switzerland.com - Rodelbahnen http://www.myswitzerland.com/de/rodelbahnen.html

クールヴァルデン Churwalden
同国最長のコースは、東部グラウビュンデン州の州都クール Chur から約8kmのクールヴァルデンにある。開設は1999年。ヴィーガント社のレール式(アルパイン・コースター)を使い、延長3060m、高度差 480m、所要時間7~10分という大規模なコースだ。起点へはチェアリフトで上り、際限なく続くかに思える蛇行ルートで斜面を降りていく。ラビューザ川 Rabiusa を渡った後は、リフトに沿った長い直線路になる。

■参考サイト
公式サイト http://www.pradaschier.ch/
地形図 http://s.geo.admin.ch/b538d7ddc
実走動画 https://www.youtube.com/watch?v=3giAttqIhZs

Blog_swiss_rodelbahn_map2

フルムザーベルク Flumserberg
2番目に長いコースは、チューリッヒからクールに向かう途中の、フルムス Flums の山手にある。これもレール式で、延長2060m、高度差250m。3か所のスパイラルループや2か所のトンネルを介した変化に富むコースだ。起点へはチェアリフトで上る。開設は2010年と新しい。

■参考サイト
公式サイト http://www.flumserberg.ch/Sommer/Rodeln
地形図 http://s.geo.admin.ch/62d5ce1841
実走動画 https://www.youtube.com/watch?v=Jo756Q_fY8U

Blog_swiss_rodelbahn_map3

ヤーコプスバート Jakobsbad, Gonten
アッペンツェル Appenzell の西8kmに位置するレール式コース。アッペンツェル鉄道 Appenzeller Bahnen のヤーコプスバート Jakobsbad 駅前にあるので、足の便はすこぶる良い。開設は1998年。上記2件と違って乗場は山麓にあり、リフトに引っ張られて最上部に達した後、重力で落下するループコースになっている。ヴィーガント社のサイトでは延長845mだが、地図上で見積もるともう少し長そうだ。公式サイトでは上り450m、下り1000mとされている。

■参考サイト
公式サイト http://www.kronberg.ch/ > Sommer
地形図 http://s.geo.admin.ch/f8e8ec938
実走動画 https://www.youtube.com/watch?v=FxNgZxC22a8

Blog_swiss_rodelbahn_map4

ザース・フェー Saas-Fee
スイス南部の山岳リゾート、ザース・フェーにもレール式コースがある。正式名はフェーブリッツ・ローデルボブバーン Feeblitz Rodelbobbahn で、2000年の開設。ヤーコプスバートと同じくループコースで、延長は660m。途中にスパイラルループが1か所あり、地形図にも律儀に描かれている。

■参考サイト
公式サイト http://www.feeblitz.ch/
地形図 http://s.geo.admin.ch/8081ed1b6
実走動画 https://www.youtube.com/watch?v=zQZcyKlGhWg

Blog_swiss_rodelbahn_map5

レ・ディアブルレ Les Diablerets
最後に世界で最も高い所を走るコースに触れておこう。場所は、ヴォー(ヴァリス)州レ・ディアブルレ Les Diablerets の東の峠コル・デュ・ピヨン Col du Pillon からロープウェーを乗り継いで上った山上だ。セクス・ルージュ山 Scex Rouge(赤い岩の意)から眼下の氷河に向けて滑り降りるレール式コースで、延長935m。開設は2006年。起点のロープウェー山上駅は標高2940mもあり、営業期間は5~10月だが、雨や雪、強風の場合は休止することがあると注意書きされている。なお、地形図には上りのルートが描かれていないので、空中写真を参考にマーカーを引いておいた。

■参考サイト
公式サイト http://www.glacier3000.ch/
地形図 http://s.geo.admin.ch/62fadee250
実走動画 https://www.youtube.com/watch?v=YcmwD8gix94

Blog_swiss_rodelbahn_map6

ちなみに、ヴィーガント社のサイトを見る限り、日本ではステンレス鋼製が38か所(下注)とかなり設置されているものの、レール式はまだ導入されていないようだ。子ども向けの遊具と見なされているのかもしれないが、スイスでは大のおとなが乗場に列を作っていた。簡単な架設物で取り外しが容易ということもあって、野外での集客装置にはもってこいだと思うのだが。

*注 日本における最長コースは、宮崎県都城市の観音池公園の765m。

★本ブログ内の関連記事
 スイスの地形図-ウェブ版 I
 スイスのハイキング地図-スイストポ

« スイスのハイキング地図-スイストポ | トップページ | アイルランドの地形図-概要 »

西ヨーロッパの地図」カテゴリの記事

西ヨーロッパの鉄道」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

« スイスのハイキング地図-スイストポ | トップページ | アイルランドの地形図-概要 »

2017年9月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30

BLOG PARTS


無料ブログはココログ