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2014年10月21日 (火)

スイス マイリンゲン=インナートキルヘン鉄道

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マイリンゲン駅MIB専用乗り場
(13番ホーム)

名探偵シャーロック・ホームズ Sherlock Holmes が活躍する短編集を熱心に読まれた方なら、スイスのマイリンゲン Meiringen という地名を覚えておられるに違いない。「最後の事件 The Final Problem」でホームズとワトソンが宿をとり、モリアーティ教授が待つ運命のライヘンバッハ滝 Reichenbachfall(下注)へ向かったあの村だ。

*注 地形図の表記はRychenbachfall。

マイリンゲンには、この大滝ともう一つ、アーレ峡谷 Aareschlucht という観光名所がある。まだこのあたりが一面氷河に覆われていた時代に、氷河の下の水流が、行く手を阻む石灰岩の山キルヘット Kirchet を侵食して、巨大なナイフで切り裂いたかのような深くて狭い谷を造り上げた。幅1mまで狭まる暗い谷底を、アルプスの青白い融雪水を集めたアーレ川が激しい勢いで流れている。

この名所を訪れる人に交通手段を提供しているのが、マイリンゲン=インナートキルヘン鉄道 Meiringen-Innertkirchen-Bahn、略称MIBだ。川のすぐ脇を長いトンネルで貫いて、峡谷の東西の入口近くに停留所を設けている。鉄道は名前のとおり、マイリンゲンと谷奥のインナートキルヘン Innertkirchen(下注)という小村を結んでいるのだが、滝や峡谷の探訪客、さらにはアルプストレッキングに出かける人々も乗るようになり、30年ぶりに再訪したら、一端の観光路線に変わりつつあった。今回は、スイスアルプスの山懐を行くこの小鉄道にスポットを当てたい。

*注 この地名の日本語の表記に関しては、インナートキルヒェン、インネルトキルヒェンなど揺れがある。ドイツ語の発音は「イナートキアヒェン」に近い。

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まずはその生い立ちから。

インナートキルヘンは人口800人余りのごく小さな村だが、地理的には、東のズステン峠 Sustenpass や、南のグリムゼル峠 Grimselpass へ向かう街道の分岐点に位置している。マイリンゲン(下注)からこれらの峠を越えて鉄道を通す構想は早くからあった。1898年にズステン峠経由でヴァッセン Wassen へ、1904年にグリムゼル峠経由でグレッチュ Gletsch への路線がそれぞれ認可を受けている。いずれも既存の鉄道に連絡するもので、沿線で水力発電を行って動力に利用する点でも共通していたが、資金難により実現しないままに終わった。

*注 マイリンゲンへは1888年に、アルプナッハシュタート Alpnachstad ~ブリエンツ Brienz 間の鉄道(現在のZBブリューニック線)が到達していた。

これに対し1919年に、奥地の電源開発を計画する企業が、建設資材や作業員を輸送する工事鉄道 Werkbahn の認可を得る。区間はマイリンゲンからインナートキルヘンを経て、グリムゼルへの街道筋にあるグートタンネン Guttannen の村までで、その先工事現場までは索道(ロープウェー)で結ぶというものだった。当初、峡谷区間ではキルヘットの山塊を乗り越える予定だったが、勾配を避けるために長さ1.5kmのトンネル案に変更された。工費の見積りが予想以上に膨らんだため、やむなく鉄道をマイリンゲン~インナートキルヘン間に短縮し、索道のほうを延長する決定がなされた。これが長さ5kmのミニ路線となった理由だ。

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マイリンゲン=インナートキルヘン鉄道 周辺図
スイス官製1:100,000地形図ブリューニック峠 Brünigpass 図葉の一部を使用

この工事鉄道を建設したのは、オーバーハスリ電力会社 Kraftwerke Oberhasli AG (KWO) という発電事業者で、1926年に完成し、運行が開始されている。アーレ川の上流では、すでに最初の開発案件となるハンデック発電所 Kraftwerk Handeck の建設が始まっており、鉄道は開通早々、資材輸送の任務に追われた。SBBから調達した客車を使って、作業員や地域住民の輸送も実施された。

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かつて活躍した馬面の6号電動車
(Bem 4/4) 1984年撮影

しかし、工事はいつまでも続くわけではない。そのために、路線は2度にわたって存廃の岐路に立たされている。最初は1932年、当面予定された建設事業が終盤を迎えた頃だ。このときは、交通手段を失うことを恐れた地元自治体が赤字補填を提案したことで、廃止を免れた。第二次大戦中、新たにインナートキルヘン発電所やズステン峠道路の建設が進められて、貨物輸送は再び活気を呈したが、戦争が終わると廃止論が再燃した。今回は連邦政府の意向もあって、定期運行する一般旅客鉄道への転換が図られることになり、1946年にKWOの出資で設立されたMIBの手で、新たなスタートが切られた。

工事鉄道として造られたMIBは当初非電化で、蒸機が列車を引っ張っていたが、1931年に旅客輸送用に蓄電池式電車が導入された。しかし、蓄電池式は重く線路に負担がかかるため、車両の老朽化を機に1977年、直流電化の工事が完成して、今日に至る。現在定期運行に就いているのは、1996年に導入されたシュタッドラー・レール製の両運転台車(Be 4/4形8号機)だ。ほかに中古の予備車もあるが、短い路線のため運行のほとんどはこの車両1両で賄われている。

筆者は昨年(2013年)、MIBを再訪する機会があった。そのときの写真を添えてレポートしよう。

ご承知のように、MIBの起点マイリンゲンは、インターラーケンとルツェルンを結ぶツェントラル鉄道ブリューニック線 Brünigbahn(下注)のおよそ中間に位置する。ブリューニック線はここでスイッチバックするので、MIBのほうがむしろ本線の延長のように見える。軌間も両者同じ1000mmで線路はつながっているが、前者の交流15 kV 16.7Hz(スイス連邦鉄道SBBと同じ)に対して、後者は直流1200Vと電化方式が異なるため、乗入れは行われていない。

*注 ブリューニック線は、むしろSBB唯一のメーターゲージ路線として記憶されている方が多いかもしれない。同線は2005年にSBBからルツェルン・シュタンス・エンゲルベルク鉄道 Luzern-Stans-Engelberg-Bahn (LSE) に売却され、同時にLSEはツェントラル鉄道 Zentralbahn (ZB) に改称した。

マイリンゲン駅の3番ホームの東端にある乗場(13番ホームと称する)から、MIBの電車は出発する。この設備が供用されたのはごく最近、2010年12月のことだ。以前は構内の東を限る踏切の先に乗り場があり、両線との乗換えには約300mの徒歩連絡を要した。改良工事の完成で、ブリューニック線の列車で1~3番線のどこに着いても、プラットホームを前方へ平面移動するだけになった。新しい乗場には、バス停にあるような簡易待合所も設置されている。

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(左)ZBマイリンゲン駅舎
(右)ブリューニック線ホームの先にMIB乗り場がある(遠方でホームがカーブしている付近)
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(左)MIBの主力車両Be 4/4形8号機 (右)待合所の案内板

MIBはわずか4.99kmの路線なので、中間に列車交換施設はない。単行電車が30分間隔で往復していて(時期により日中減便あり)、片道の所要時間は11分だ。発車6分前に、私たちが待つホームに電車が入ってきた。登山用のリュックを背負った人たちが降り、折返し14時17分にインナートキルヘンへ向け、出発した。

路線図には、起終点を含めて7つの駅・停留所が描かれているが、そのうち4つはリクエストストップで、うち2つは時刻表に時刻すら記載されていない。滝の最寄りになるアルプバッハAlpbachもそれで、この列車は通過した。

ちなみにこの付近では、MIBとは別の路面電車が走っていた時代がある。名称はマイリンゲン=ライヘンバッハ=アーレ峡谷路面軌道 Trambahn Meiringen–Reichenbach–Aareschlucht (MRA) といい、1000mm軌間、延長2.8kmの、これもまたミニ路線だった。名前どおりマイリンゲン駅前から滝へ上るケーブルカー山麓駅と峡谷の西口へ通じるもので、開業は1912年に遡る。工事鉄道(現MIB)とは現 アルプバッハ停留所の手前で平面交差していたが、1956年に休止となったことで、今は交差の形跡もない(下の地形図でルートを確かめられたい)。

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マイリンゲン=ライヘンバッハ=アーレ峡谷路面軌道 周辺図
図上、薄い赤を施しているのが当該路線
スイス官製1:50,000地形図ズステン峠 Sustenpass 図葉(1948年版)の一部を使用

MIBの線路は、ここからアーレ川の堤に沿っていく。対岸の山腹にかかるライヘンバッハ滝とケーブルカーの線路が、車窓からもよく見える。次の停留所は、アーレシュルフト・ヴェスト Aareschlucht West(アーレ峡谷西口の意)だ。以前はザントシュテーク Sandsteg(ザント小橋の意、ザントは地名)と称し、同名の小橋でアーレ川を渡って5分ほど歩けば、峡谷の西口ゲートに達する。

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(左)車窓から見えるライヘンバッハ滝、その右にケーブルカーの線路
(右)アーレシュルフト・ヴェスト停留所にて下車
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(左)アーレ峡谷西口ゲート (右)峡谷へいざなう遊歩道

峡谷は、長さが1400m、壁面は水面からの高さが最大180mという、スイスアルプスでも屈指の規模をもつ。クライネ・エンゲ Kleine Enge(小狭間)、グローセ・エンゲ Grosse Enge(大狭間)という川幅が最も狭まる場所では、両側の岩壁が間近に迫って人一人すり抜けるのがやっとだ。峡谷を貫く遊歩道は、トンネルや桟道で整備されているので、誰でもこの自然の驚異をたやすく目にすることができる。

一方、鉄道はこの間を長さ1502mのキルヘットトンネル Kirchettunnel で一気に抜けてしまっており、車窓からは峡谷がまったく見えない。MIBに乗車する機会があるなら、列車で単純往復せずに、途中下車して峡谷を散策されることをぜひお薦めしたい。峡谷の西口と東口の間を徒歩で抜けるには約40分、MIBの停留所間なら約1時間といったところだ(下注)。

*注 峡谷内は有料区域で、2014年現在、大人15フラン(1スイスフラン110円として1650円)。

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アーレ峡谷の地形図
スイス官製1:25,000地形図インナートキルヘン Innertkirchen 図葉の一部を使用

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アーレ峡谷
(左)昼なお暗きクライネ・エンゲ(小狭間)の桟道 (右)遊歩道は断崖をくりぬいて続く

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アーレ峡谷
(左)グローセ・エンゲ(大狭間) (中)後半、谷幅は少し広がる (右)しかし危うい桟道は最後まで

遊歩道の終点である東口ゲートは、車道に面した高台になっている。インナートキルヘンののどかな里の景色が目の前に広がり、峡谷探検で鬱積した圧迫感が一気に解きほぐされる。山野歩きがお好きなら、キルヘットの山を越えて西口に戻るか、山腹を伝ってライヘンバッハ滝へ足を延ばすのもいいだろう。しかし筆者は、MIBの残り区間に乗らなくてはならない。

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インナートキルヘン盆地の展望。アーレ川の堤をMIBの電車が走る

2003年に新設されたアーレシュルフト・オスト Aareschlucht Ost(アーレ峡谷東口)停留所は、川岸まで下りて、華奢な吊り橋を渡った先にある。停留所へ入る鉄扉は常時閉まっている。乗り場は地中にあるのだ。列車に乗りたければ、扉の横にある運行方向別のリクエストボタンを押して、待たなければならない。扉の小窓から漏れる風圧で、列車が接近してくるのがわかる。列車のブレーキ音が止んで初めて扉が自動で開くが、トンネル内はホームなどないに等しく、目の前に車両の前扉がある。土合(上越線)や筒石(北陸本線)のような深いトンネル駅とは違って、エレベーターのドアが開いたら中で列車が待っていた、というのに似た不思議な感覚が味わえる。

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アーレシュルフト・オスト停留所
(左)吊り橋で川を渡って停留所へ (中)小道を行くと行止り
(右)鉄扉の脇にリクエストボタンがある。行きたい方向のボタンを押して待つ
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アーレシュルフト・オスト停留所
(左)列車が来ると鉄扉が開く。奥に見えているのは電車のドアステップ
(右)車内から見た停留所入口(帰路写す)

さて、インナートキルヘン行きに再乗車すると、まもなくキルヘットトンネルの闇を抜け、再びアーレ川の護岸に位置づく。次のウンターヴァッサー Unterwasser 停留所(リクエストストップ)は、付近に発電所しかなく、多くの場合通過だ。屋根付き橋の傍らを過ぎ、短いトンネルを一つくぐると、インナートキルヘン・ポスト Innertkirchen Post。停留所の周辺が村の中心で、ズステン峠やグリムゼル峠方面に向かうバスも、道路を隔てた郵便局の前を拠点にしている。乗客はほとんどここで降りてしまう。

しかし、鉄道はここで終わりではない。さらに500m進んだインナートキルヘンKWO(カーヴェーオー)Innertkirchen KWO が本当の終点だ。KWOは先述のとおり、オーバーハスリ電力会社の略称だが、留置線の両脇に大きな倉庫が立ち並ぶだけの殺風景な場所で、ローカル線の終点としては少々興醒めだ。倉庫の裏に回ると、大規模な変電施設がある。静かな山里に立つ鉄塔と送電線のジャングルを目にすれば、この鉄道が果たしてきた役割を思い起こすことができる。

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(左)ウンターヴァッサー付近、トラス橋の脇に屋根付き橋 (右)終点が見えてきた
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(左)インナートキルヘンKWO停留所は倉庫の前 (右)MIB踏破の記念撮影

この記事は、Florian Inäbnit "Schweizer Bahnen, Berner Oberland" Prellbock Druck & Verlag, 2012、参考サイトに挙げたウェブサイトを参照して記述した。
使用した地形図の著作権表示 (c) 2014 swisstopo.

■参考サイト
グリムゼルの世界(観光案内サイト)>マイリンゲン=インナートキルヘン鉄道
http://www.grimselwelt.ch/grimselerlebnis/bahnen/meiringen-innertkirchen-bahn
アーレ峡谷(観光案内サイト)
http://www.aareschlucht.ch/

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 スイスの鉄道時刻表

2014年10月 5日 (日)

ドイツの旅行地図-ライン渓谷を例に

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シューマン Schumann の交響曲第3番「ライン Rheinische」を聴いていたら、かの地の旅行地図を見たくなった。曲そのものは必ずしも特定の風景の描写を意図してはいないらしいが、第1楽章冒頭で流れる明るく堂々とした主題は、ライン下りで知られた、中世の古城が見守る谷の中をライン川が滔々と流れるあの風景を想像させずにはおかない。

ドイツを代表する観光名所の一つであるこの地域は、「ライン渓谷中流上部(オーバレス・ミッテルラインタール Oberes Mittelrheintal)の文化的景観」として世界文化遺産にも登録されている。わかりにくい表現の登録名称を噛み砕いて言うと、ライン川中流域(中ライン Mittelrhein、下注)に位置する谷をさらに二分したときの上流のほう、という意味だ。具体的には、谷の入口にあるビンゲン・アム・ライン Bingen am Rhein からモーゼル川と出合うコブレンツ Koblenz にかけての67kmとその周辺が指定地域になっている。

*注 全長約1240kmのライン川は、上流側から順に、アルペンライン Alpenrhein(源流からボーデン湖)、高ライン Hochrhein(ボーデン湖~バーゼル)、上ライン Oberrhein(バーゼル~ビンゲン)、中ライン Mittelrhein(ビンゲン~ボン)、低ラインまたは下ライン Niederrhein(ボン~独蘭国境)、デルタライン Deltarhein(独蘭国境~北海河口)の6つに区分されている。

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棚から取り出してきた旅行地図は、ラインラント・プファルツ州測量局とヘッセン州測量局の共同刊行による1:50,000休暇地図 Freizeitkarte「ライン渓谷中流上部 Oberes Mittelrheintal」(右写真)。既製の官製地形図に、この地域で行える野外活動の各種情報を加筆してある。休暇地図というのは、州測量局が刊行する旅行者向け地図シリーズだが、加えてこの一点は、表紙に「世界遺産公式地図 Offizielle Karte des Welterbes」という箔がついているので、つい買ってしまった。考えてみれば、役所が作っているのだから公式なのは当たり前だが。

このような種類の地図は、かつて地形図の一バージョン(ハイキングルート加刷版 Ausgabe mit Wanderwegen)として作成されていた。筆者の知る限り、市中の書店や地図店の店頭に置いてある地形図は、たいていこのバージョンだった。しかし1980年代から徐々に、独立した旅行地図シリーズの刊行へと切り替わっていく。その当時、筆者が現地で買った1:50,000集成図「ライン川 Der Rhein」(1980年版、下写真)は、日本の国土地理院の集成図のように、まだ特別仕様の雰囲気を漂わせていた(下注)。これが1990年代に入ると、各州の地図目録に、名称はさまざまながら独自規格の旅行地図の案内が目立つようになる。

*注 刊行元は、当時のラインラント・プファルツ州土地測量局 Landesvermessungsamt Rheinland-Pfalz。

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ドイツの官製旅行地図の特徴を挙げると、一つに官製地形図を基図に用いていること(ただし図郭は自由に設定)、二つ目に掲載情報が州や自治体の観光局、あるいは自然歩道や自然公園の管理組織などの協力で収集されている(と明記してある)ことだ。品揃えも豊富で、コンパス社 Kompass のような民間地図会社のそれを優に凌ぎ、書店の棚でもけっこう幅を利かせている。ただし、1:100,000以上の縮尺図は州測量局の管轄下にあるため、州ごとに整備状況はまちまちだ。

*注 コンパス社の旅行地図は1:50,000が中心で、1:25,000を揃える官製図に比べると、いささか分が悪い。

旅行情報を示す地図記号のデザインに関しては、もともと全国統一の図式規程から出発しているので、基本は州を超えて共通のはずだが、すでに独自の記号を追加するなどして、州別どころかシリーズ別の規格といっていい状況になっている。実際、1:50,000休暇地図「ライン渓谷中流上部」では、緑の太線で表される自転車道 Radweg(これ自体は統一図式)に、固有のピクトグラムを付してルートを区別しているし、観光用のドライブルートも(統一図式にはない)黄色で塗ったうえ、同様のピクトグラムを置いている。

もちろん自転車やクルマの道だけでなく、歩くための自然歩道 Wanderweg や学習歩道 Lehrpfad(下注)も、ピクトグラムを含めてしっかり記載されているのだが、なぜか凡例には挙げておらず、どちらかというと従の扱いだ。想像するに、歩く人は姉妹品の1:25,000図を使ってほしい、というメッセージではないか。確かに、歩きの際に参考とするには1:50,000はコンパクト過ぎて、もう少し詳しく描いた地図がほしくなる。

*注 学習歩道(レーアプファート Lehrpfad)は、土地の自然環境や文化などに対する関心を高めるために、説明板などを整備した遊歩道。図式規程では赤の太い点線で表すことになっている。なお、ドイツ語のWanderwegは英語でtrail、またPfadはpathと訳されることが多い(Pfadとpathは同根の語)。

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姉妹品たる1:25,000休暇地図「ライン渓谷中流上部」(右写真)は、1:50,000が青の表紙であるのに対して緑の表紙で、3分冊になっている(北から順に1~3と付番)。掲載範囲は、図番1 (Blatt 1/OM1) がコブレンツKoblenzを中心にアンデルナッハ Andernach ~ブラウバッハ Braubach 間、図番2がラーンシュタイン Lahnstein ~ローレライ Loreley 間、図番3がローレライ~ビンゲン Bingen 間だ(図郭は右下図参照)。

現行版は2010年第4版で、アトキス ATKIS による新図式を用いているが、通常の地形図とは違ってぼかし(陰影)が掛けられ、地形の起伏が手に取るようにわかるのがいい。図上の主役は、歩く道だ。とりわけラインの右岸を行くラインシュタイク(ライン山道)Rheinsteig と、左岸を行くラインブルゲンヴェーク(ライン古城歩道)Rheinburgenweg は別格で、赤の太線に黄色の縁取りまで施して、いやでも目立つようにされている。自然歩道は高みに攀じ登ったかと思えば、ラインに注ぐ支流を渡るために斜面を急降下するという繰り返しで、はなはだ脚に堪えるルートだが、この縮尺であれば、谷壁を昇降するジグザグルートもおおむね描ける。

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1:25,000休暇地図 サンプル図(ローレライ Loreley 付近)
(c) Landesamt für Vermessung und Geobasisinformation Rheinland-Pfalz und Hessisches Landesamt für Bodenmanagement und Geoinformation, 2014
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1:25,000休暇地図「ライン渓谷中流上部」
3点の図郭

父なるラインと言われるとおり、ドイツ語でライン川 Der Rhein は男性名詞だ。川は、上ライン地溝 Oberrheingraben の広大な氾濫原から一転して、ここで標高600m前後の粘板岩山地の中に深い谷を造り、北海平野へと抜けていく。地形の成り立ちからすれば、隆起する地盤を川が浸食した先行谷ということになるのだが、その狭い谷間に豊かな水量が集中するので、見る者に自然の圧倒的なパワーを感じさせる。

古城を眺めながらラインを下る船旅もいいが、川面を俯瞰しながら谷壁をトラバースしていくトレッキングも捨てがたい。オーバーヴェーゼル Oberwesel から、ローレライの岩壁を対岸に見てザンクト・ゴアール Sankt Goar までなら9km、約3時間と手ごろだ。その後は、列車でボッパルト Boppard まで進み、リフトでヒルシュコプフ Hirschkopf の展望台に上って、大河が180度向きを変える現場を見てみたい。旅行地図を眺めながらそんなことを考えていたら、早くもオーケストラが交響曲の最後の主和音を叩き出していた。

これらの旅行地図は、日本のアマゾンや紀伊國屋書店のウェブサイトでも扱っている。"Topographische Freizeitkarte Oberes Mittelrheintal" で検索するとよい。なお、"Topographische Freizeitkarte" で検索すると、他にも官製旅行地図が多数表示されるので、参考にされたい。

(2006年4月14日付「ラインとモーゼル」を全面改稿)

■参考サイト
ラインラント・プファルツ州測量局直販サイト
http://www.lvermgeo.rlp.de/shop/
ユネスコ世界遺産サイト「ライン渓谷中流上部」
http://whc.unesco.org/en/list/1066
世界遺産「ライン渓谷中流上部」公式サイト
http://www.welterbe-oberes-mittelrheintal.info/

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