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2014年2月26日 (水)

スイスの地形図-ウェブ版 II

1838年、ジュネーヴ Genève でスイスの全国地形図の製作を任務とする部局が産声を上げた。現在の連邦地形測量所スイストポ Bundesamt für Landestopografie swisstopo だ。2013年は設立から175年に当ることから、記念のウェブサイトが開設された。その中に、この間作成された膨大な量の地形図、いわゆる旧版地形図を包括的に見られるという、地図ファンにとっては夢のようなコンテンツが含まれていた。

「時間旅行」というしゃれたタイトルを持つこの記念サイトの機能は、その後既存の「連邦ジオポータル」に統合され、現在もほぼ変わりなく提供されている。地図の拡大縮小や地点の特定など、連邦ジオポータルの基本機能については、本ブログ「スイスの地形図-ウェブ版 I」を参照していただくとして、ここでは「地図による時間旅行」の機能に限定して紹介したい。
(記述は2016年4月現在の仕様に基づく)。

「時間旅行」 Zeitreise / Journey through time
http://map.swisstopo.admin.ch/

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初期画面

以下の説明は英語版を前提にしているので、まず画面右上隅の使用言語(上図①)で "EN" を選択していただきたい。

「時間旅行」オプションを選択するには、左メニューの Map displayed > Journey through time - Maps を選択(クリック)する(上図②)。画面例では、その右側に赤の数字があるが、これは地図の年代を表している。今はデフォルトのままでいい。

もし、Maps displayed のサブメニューが表示されないときは、1段上の swisstopo のサブメニューから、Journeys through time > Journeys through time - Maps と選択する。

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時間旅行バーの表示

次に、時代を指定できる「時間旅行バー」を表示させよう。次に、右端の時計デザインのボタンをクリックする(上図①、ただしデフォルトは黒色)。ボタンが赤色に変わり、画面上部に「時間旅行バー」が現れる。

バーには1840年代から現在までの目盛が振られている。ポインター(上図②)に記されている数字が、画面に表示される地図の改訂年次(下注)、と言いたいところだが、そう単純ではない。地図というものは毎年改訂されてはおらず、スイスの場合、現在6年に一度だ。言い換えれば、毎年国土の1/6を更新し、6年かけて全土を一巡している。かつてはもっと不規則だった。したがって、画面上の地図は、ポインターが示す年の時点で最も新しい改訂年次のもの、というのが正確な表現だ。

*注 ここでいう改訂年次 Data status は、地図が表している状態が何年時点のものであるか、という意味。

表示地図の年次を変更するには、2通りの方法がある。

・ポインターをスライド
 →ポインターをバーの上で左右にスライドさせる。動かす都度、地図が入れ替わる。

・ポインターの年次を手入力
 →年次の個所をダブルクリックで選択して、任意の年次を手入力する。

注意すべきこととして、その時点で未作成だった縮尺図は表示できないので、画面が空白になる。場所によって異なるが大雑把にいえば、1860年代までは1:100,000(デュフール図)しか存在しない。1870年から20世紀前半にかけて、この1:100,000とともに、国土の北半(ジュラ Jura とミッテルラント Mittelland)では1:25 000、南半のアルプス地域 Alpen では1:50,000が現れる(これをジークフリート図という)。すべての地域で3種の縮尺が揃うのは、1970年代からだ。

*注 旧版地形図の詳細は本ブログ「スイスの地形図略史 I-デュフール図」「スイスの地形図略史 II-ジークフリート図」「スイスの地形図略史 III-ランデスカルテ」参照

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地図のデータを表示

表示地図の改訂年次などを知るには、図上でクリックする。シリーズ名称(National Maps of Switzerland 1:100'000など)とともに Sheet number(図番)、Sheet name(図名)、Data status(改訂年次)、Bibliographical informations(書誌情報へのリンク)が表示される(上図①)。

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時代順に地図を自動切替え

さらに興味深いのは、時代順に地図が自動で切替わる機能だ。これは、時間旅行バーの右端にあるプレイボタン(上図①)をクリックすればスタートする。

都市部なら市街地が拡大していくようす、郊外なら交通網の発達や水路の変遷、アルプスなら氷河が後退していくようすなど、スイスの国土の変遷が手に取るようにわかる。当然ながらその時点で未作成だった縮尺図は表示されない(または最新図で代用される)ので、最も早くから整備された1:100,000で見るのがお薦めだ。拡大縮小ボタンを操作して、画面左下の縮尺表示が「1000m」のときに、1:100,000図が表示されている。

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異なる年次の地図を重ねて表示

もう一つの機能は、異なる年次の地図を表示するというものだ。

複数の地図を重ねて表示
 手順は上図①~④のとおりで、
 ① Maps displayed > Journey through time - Maps の歯車マークをクリックして、付加機能を表示させる。
 ② 付加機能のシートマークをクリックして、レイヤーを追加する。
 ③ 各レイヤーに、比較したい年次を入力する。
 ④ 透明度バーで、レイヤーの透明度を調整する。

2枚の地図を並べて表示
 上記①~③を実行してから、左メニューの Advanced tools > Compare を選択

アニメーションはおもしろい反面、いささか慌しいので、細部を比較するならこの固定方式がいいだろう。その他詳しい使い方は画面右上の Help にある。175年の時を超える「地図による時間旅行」、日本でも実現してほしいサービスだ。
(2016年4月3日改稿)

使用した地形図の著作権表示 (c) 2016 Data: swisstopo.

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2014年2月22日 (土)

スイスの地形図-ウェブ版 I

これまでスイスの官製地形図「ランデスカルテ Landeskarte」について、印刷された紙地図を中心に紹介してきたが、この美しく精巧な地形図は今、インターネットでも思う存分楽しむことができる。今回は連邦地形測量所スイストポが開設している地図閲覧サイトを紹介したい。
(記述は2016年4月現在の仕様に基づく)

連邦ジオポータル Geoportal des Bundes/ The Federal Geoportal
http://map.geo.admin.ch/

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初期画面

このサイトでは、すべての縮尺の現行地形図はもとより、空中写真や陰影図、土地利用図その他さまざまな地図情報を組合せて表示できる。応答速度が速く、地形図の解像度も高いので、使い勝手がすこぶるよい。基本的な使い方は以下の通りだ。

表示言語は独・仏・伊・レートロマン・英の5か国語が用意されているが、ここでは英語版で説明する。まず右上隅の使用言語(上図②)で "EN" を選択して英語表示にしていただきたい。

次に右上隅の背景図(上図④)は、初期画面で "Color Map(カラー地図)" になっている。ほかに、White background(白紙)、Grey Map(モノクロ地図)、Aerial imagery(空中写真)も選択できる(下注)。

*注:後述するように、表示する地図は何層にも重ねることができるので、初期画面は背景(あるいは基層といってもいい)になる。

特定の地域の地図を表示するには、地名、郵便番号、座標、経緯度で指定するほか、マウスで直接矩形を描いて選択する方法がある。

・地名/郵便番号で検索
 →検索窓(上図①)に、表示したい地名(例:Bern)または郵便番号(例:3011)を入力。候補が表示された場合はその中から選択

・座標/経緯度で検索
 →検索窓(上図①)に、座標値(例:座標原点であるベルン旧天文台なら、600000 200000)または経緯度(経度, 緯度の順、例:7.4386, 46.9511)を入力

・マウスで直接選択
 →地図上でShiftキーを押しながらマウスで任意の範囲をドラッグする(矩形を描く)

縮尺を変更するには、画面右の拡大縮小(+-)ボタンを使うが、図上でダブルクリックする方法もある。

・拡大縮小ボタンを使う 

・図上でダブルクリックする
 →図上でダブルクリックすると、1段階ずつ拡大する。Shiftキー+ダブルクリックで1段階ずつ縮小する

上記の操作では、1:25,000や1:50,000といった縮尺図(ピクセルマップ)が自動的に切り替わるが、特定の縮尺図を固定で表示させることもできる。

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地図情報の選択

・特定の縮尺図を固定表示(例:1:50,000ランデスカルテ)
 →左メニューで、Geocatalog > Base information and Planning > Base Maps > National Map 1:50'000を選択(上図②)してから、スケールバーで拡大/縮小する。

この左メニューからは、実にさまざまな地図情報を選択することができる。Base Mapsのカテゴリーでは、National Map(地形図、いわゆるランデスカルテ)、Division National Map(地形図の図郭と図番・図名。下注1)、Map swissTLM(1:10,000地形景観モデル)、Dufour Map First edition(デュフール図初版、下注2)、Siegfried Map First edition(ジークフリート図初版、下注3)、CadastralWebMap(地籍図)、Single objects VECTOR200(ベクトルマップ上にある単体の地物)、Elevations VECTOR200(同 標高点)などが提供されている。

*注1 Division National Mapを表示させた状態で、図上をクリックすると地図の改訂年次 Data status がわかる。
*注2 デュフール図は1845~65年に初版が刊行されたスイス最初の全国地形図シリーズ。詳細は「スイスの地形図略史 I-デュフール図」参照
*注3 ジークフリート図は1870~1926年に初版が刊行された全国地形図シリーズ。詳細は「スイスの地形図略史 II-ジークフリート図」参照

複数の地図、または地図と空中写真を画面上で比較するときは、2通りの方法がある。まず、地図や空中写真を先述の手順で複数選択しておく。

・透過度バーを使う
 →左メニュー下部の Map displayed > National Map 1:50'000 > 右の歯車マークをクリック
Transparency(透過度)バー(上図③)をスライドさせて、各層の透過度を調整する。重ね順は右側の矢印をクリックして変更できる。

・左右に並べて表示
 →左メニューの Advanced tools > Compare で左右に並べて表示できる。境界線はスライド(左右に移動)できる。

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地図の印刷

地図をプリントするときは、左メニューのPrint から必要事項を選択する。Orientation(印刷の向き、右図①)は、"1 A4 landscape" がA4判横長、"2 A4 portrait" が同 縦長の形式になる。Scale(印刷の縮尺、右図②)の意味するところは、印刷対象となる地図本来の縮尺ではなく、紙に印刷したときの縮尺のことだ。たとえば1:50,000地形図が印刷対象のとき、ここで1:25,000を選択すると2倍に拡大したものが出力される。

選択後、Create PDF for print(右図③)をクリックする。生成されたPDFファイルを保存し、アドビリーダー等を使ってプリントする。

その他詳しい使い方は画面右上の Help にある。

このサイトでは、最新の地図情報を表示するだけでなく、過去の膨大な旧版地形図のストックを包括的に閲覧することもできる。次回はこれを紹介しよう。
(2016年4月2日改稿)

使用した地形図の著作権表示 (c) 2016 Data: swisstopo

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2014年2月16日 (日)

スイスの1:200,000地形図ほか

今回は、スイス官製地形図「ランデスカルテ Landeskarte」のもう一方のグループ「地勢図 geografischer Landeskarte」について簡単に記しておこう。広域の概観を表現するので地勢図と訳したが、具体的には1:200,000、1:500,000、1:1,000,000(100万分の1)といった小縮尺図のことだ。

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1:200,000表紙
(左)図番1 北西部 1972年初版 (右)図番3 南西部 2009年版

スイストポの紹介サイトによると、1:200,000は「バイクと自動車の運転者、鉄道旅行者および冒険家のための最も正確で明瞭に読み取れるスイスの総合地図」だ。全土を北西、北東、南西、南東の4面でカバーする。用紙は横117cm×縦76cmと、1:25,000などの「地形図 topografischer Landeskarte」グループ(78cm×57cm)に比べて大判で、実面積では東西200km×南北142kmの範囲を表すことができる。また、隣接図葉との間には、縦横とも8cm(実距離で16km)程度の重複が設けられている。

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1:200,000 リギ山付近 (図番2 北東部に収載)

縮尺からして地図に表されているのは、地勢・水部、都市・集落の分布、交通網、そして地名と標高点が主なものになる。

このうち地勢は、100m間隔の等高線で表され、立体感を強調する2色方式のぼかし(陰影)も健在だ。これにアップルグリーンの森林域が重ねられ、穏やかな美しさを醸し出している。一方、山岳地域では、ランデスカルテの特色である岩山や氷河の描写が同じように施され、あたかも精巧な地形模型を眺めているような感覚になる。初版の刊行が1971~76年と、ランデスカルテの中では遅かったので、製作に当たってそれまでに蓄積された技術や経験が十分に注ぎ込まれたであろうことは、洗練された図面の雰囲気からも見て取れる。

交通網の表現では、鉄道が赤の実線、道路網は高速道、主要道、地方道がそれぞれ橙、赤(ピンク)、黄に塗り分けられる。この仕様は初版から変わらない。「地形図」グループも今この図式に統一されようとしている(本ブログ「スイスの新しい1:25,000地形図」参照)が、ルーツはこの1:200,000なのだ。総描化されているとはいえ、集落の広がりも明瞭に読み取れる。

凡例によると、このほか城、教会・礼拝堂、城跡、洞窟、修道院、記念碑、原子力発電所、スタジアムなどの記号も用意されているが、図上ではほとんど目立たず、名称の注記もないので、旅行計画の資料としては役に立たないと思っておいた方がいい。

2014年2月現在、1:200,000の単価は14フラン(同1610円)だ。1:100,000などの「地形図」シリーズが16スイスフラン(1フラン115円として1840円)であるのに比べて、用紙が大きいのに価格は抑えられている。さらにスイストポの直販サイトでは、4面のセット販売で52フラン(同5980円)に割引かれる。

少ない面数で全土をつぶさに眺めることができ、かつ割安とあれば、利用しない手はない。実際、筆者も昔、まず1:200,000を揃えてスイスの地理感覚を養った記憶がある。加えて国境の外側についても、1:100,000より一回り広い範囲が図郭に取り込まれている。なじみのないフランスやイタリア領の土地まで、精巧なスイス様式で眺められるのもまた嬉しい。

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1:200,000道路地図表紙とサンプル図

1:200,000ではほかに、ドライバー向けに道路網を強調した「道路地図 Strassenkarte」版もある。こちらはスイス全土を東西に分割し、両面に印刷している。19.80フラン(同2277円)と高めの価格設定だが、1枚買えば済むところがポイントだ。ベースの地図図版は、等高線がないだけで、「地勢図」版と共通のものを使っている。テーマである主要道路網が赤色で特別に太く描かれ、2地点間の距離も付されている。駐車場、ガソリンスタンド、冬季の閉鎖個所などドライブ旅行の必要情報が盛り込まれ、官製図でありながら、見栄えはすっかり普通の道路地図だ。

さらに小縮尺の地図では、以下のものがある。1:300,000は「概観図 Generalkarte」と呼ばれ、正確にはランデスカルテの仲間ではない。内容は、上記1:200,000図を縮小して全土を1面に収めたものだ。ただし、等高線は省略されている。注記も2/3のサイズに縮小されているのでいささか読みづらく、あまりお薦めできるものではない。

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1:500,000表紙
(左)1976年版(1978年ジュラ州境追加) (右)2005年版

それに対して1:500,000は、同じように全土を1面でカバーするが、この縮尺で編集された正式のランデスカルテだ。無理な縮小がないだけで、ずいぶん読み易くなっている。もちろん2色方式のぼかし(陰影)と岩山や氷河の描写も、1:200,000と変わりなく施されている。初期の版は200m間隔の等高線が入っていたが、現行版では省かれ、その代り森林域の塗りが加えられた。等高線がないと、大きな氷河がどうしても間延びした印象になるのはやむをえない(右図の比較参照)。価格は12フラン(同1380円)と1:200,000よりさらにお得になっている。

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1:500,000ユングフラウ地域の新旧比較
(左)等高線入りの1976年版 (右)等高線なし、森林域付加の2008年版

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1:1,000,000表紙
(左)1994年版 (右)2012年版

「地勢図」グループの最小縮尺は1:1,000,000(100万分の1)だ。用紙サイズは1:500,000と同じ(91cm×57cm)で、実面積では実に740km×500kmの範囲が収まる。東はザルツブルク Salzburg、西はリヨン Lyon、北はシュトゥットガルト Stuttgart、南はボローニャ Bologna まで広くカバーするので、タイトルはむしろ「スイスとその周辺」とすべきところだ。眺めていると、例えばジュネーヴ Genève からは首都ベルンよりフランスのリヨンの方が近いとか、イタリアのミラノ Milano はスイス国境から南へわずか40kmといった、意外な位置関係も明らかになる。

この1:1,000,000は、ランデスカルテ整備計画の仕上げとして1993~94年に初めて刊行された(下注)が、この初版は、パリ、フランクフルト、フィレンツェ、ウィーンを含む大図郭に、別冊の地名索引が付属する特別版だった。しかし、現行の2012年版は上記のサイズに変更されるとともに、新1:25,000に先駆けて、数値地図モデル Digital Cartographic Models からの出力という新しいプロセスで製作された地図になった。価格は1:500,000と同じ12フランだ。

*注 初版のタイトルは、直訳すると「周辺諸国を伴うスイスのランデスカルテ Landeskarte Schweiz mit umliegenden Ländern」。

本稿は、参考サイトに挙げたウェブサイトおよびスイストポ発行の製品現物を参照して記述した。
下記画像はおのおの記載のウェブサイトから取得した。
・1:200,000表紙 2009年版: http://www.das-landkartenhaus.de/
・1:200,000道路地図表紙: http://www.swisstopo.admin.ch/
・1:500,000表紙 2005年版: http://www.eastview.com/
使用した地形図の著作権表示 (c) 2014 swisstopo.

■参考サイト
スイストポ 公式サイト http://www.swisstopo.admin.ch/

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 スイスの1:50,000地形図
 スイスの1:100,000地形図

 ドイツの1:200,000地形図ほか
 オーストリアの新しい1:250,000地形図

2014年2月 1日 (土)

スイスの新しい1:25,000地形図

1:25,000地形図のことは先日、本ブログに書いたばかりだ(「スイスの1:25,000地形図」参照)というのに、まるでタイミングを計ったかのようにスイストポ swisstopo から、新しい図式の発表がなされた。今後、更新される図版はすべてこの図式になり、将来的には1:50,000や1:100,000にも拡大されるという。

しかも今回の措置は単なる図式改訂というレベルにとどまらない。地図記号や整飾(図郭外の記載事項)も相当程度見直されてはいるが、より重要なのは地図作成のプロセスが根本的に改められたことだ。何がどのように変化したのか、公式サイトの記述を参考にレポートしたい。

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新1:25,000地形図 オルテン Olten 付近
(閲覧サイト map.geo.admin.chより)

まずは従来図式と新図式で描かれた地形図を見比べてみよう(右下図参照)。一見したところ、従来図式に漂う古風さ、厳格さに対して、新図式はカラフルでずいぶんと垢抜けた雰囲気になった。地図記号に関する主な変更点は以下の通りだ。

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1:25,000新旧比較、市街地の例 上が従来図式、下が新図式
アーラウ Aarau 図葉の一部 (スイストポのリーフレットより)

・注記文字の書体が、サンセリフ(先端に飾りのない)タイプのフルティガー Frutiger に変更され、かつ最小寸法や地物との空隙がわずかに拡大された。いずれも読取り易さの向上を意図したものだが、特に書体の変更が、新図のスタイリッシュな印象を生み出す主因となっている。

・道路網は、幅員で等級化され、図上でも二重線の幅による区分に統一された(従来図式では二重線の片側を太線や破線等にして区別)。また、高速道、主要道、地方道はそれぞれ橙、赤(ピンク)、黄に着色され、高速道のインターチェンジとジャンクションには名称が表示された。1:50,000、1:100,000と同じ仕様だ。

・鉄道網は、赤色で表示され(従来図式では黒)、駅名も記載された(従来図式では記載なし)。赤色にした理由についてスイストポは、交通網の概観を強調し、建物密集地での識別性を高めるためであり、すでに1:200,000~1:1,000,000の小縮尺図で使われてその効果は実証済みだとしている。確かに黒づくめの市街地では目立つが、その代り、幹線道路(ピンクに着色)と並行する個所では識別しにくくなった。

・行政界のうち、国や州 Kanton のそれは紫の実線で表されるとともに、薄紫の帯が添えられた。また、郡 Bezirk は薄紫の実線、市町村 Gemeinde は同じく破線で表された(従来図式は線の形状のみで区分)。行政界が一目で追えるようになったのは大きな改良だ。

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1:25,000新旧比較、山地の例 左が従来図式、右が新図式
アーラウ Aarau 図葉の一部 (スイストポのリーフレットより)

・森林界は、新図式では省かれた(旧図式には存在し、境界が明確か不明確かで区分されていた)。その理由についてスイストポは、人口密度の比較的高いミッテルラント Mittelland では小道や自動車道と重なることが多く、アルプスでは低木林との区別が難しい。樹木の中には地図データの更新周期である6年で3~4m成長するものもあるため、実態に合わないからとしている。

・その他、高層建物(25m超)、ヘリポート、病院、駐車場等の記号が追加され、教会、礼拝堂、競技場、冷却塔、疎林、低木林等の記号デザインが変更された。

次に地勢表現だが、等高線と標高点は、平均精度±0.5mの新標高モデルswissALTI3Dから取得されている。1:25,000地形図から生成された旧来のデジタル標高モデルDHM25では、ミッテルラントで1.5m、アルプスでは3~8mの誤差が許容されていたので、それに比べて精度の一層の向上が図られたことになる。その一方で、緩傾斜地に挿入されてきた補助曲線がなくなり、道路や鉄道の築堤や切通しも記号で表現されなくなったため、微地形の判読は困難だ。

スイスの官製地形図を特徴づけているぼかし(陰影)と露岩・崖の描写については、従来図式と同じものが使用されている。精緻で美的にも優れた地勢表現が将来へ引き継がれたことは喜ばしい。

整飾部では、図郭を取り囲んでいた伝統的な太罫がなくなり、従来そこにあった経緯度は図枠に直接ティックマーク(分目盛)を立てて青色で記されるようになった。また、隣接図郭との重複部分が削られてしまい、図郭をまたぐような注記の表示方法もなくなった。さらに従来、左下に記されていた初版年の表示が後述する理由で意味をなさなくなり、省略されている。

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アーラウ図葉(従来図式)
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アーラウ図葉(新図式)

地図表現法の変化もさることながら、冒頭で述べたとおり、そこに至るまでの地図製作のプロセスが一新されている。これまでは、空中写真や実地調査等をもとに更新されてきた1:25,000の地形図データが、スイスの地形景観モデル Topographical Landscape Model (TLM) の基盤の位置づけだった。

しかし、今後は流れが大きく変わる。まず、地図上に表現すべきオブジェクト(対象物)は、縮尺1:10,000で構築された地形景観モデルから選択され、必要に応じて総描化の自動処理が施される。等高線と標高は、先述のとおりの標高モデルから取得される。同時に地籍測量データのようなすでに地形景観モデルと統合されている他の公的機関のデータも使いながら、基盤となる数値地図モデル Digital Cartographic Models (DCMs) が自動生成されるのだ。そのため、刊行図の原版は、インターネットや電子媒体用のピクセルマップ、ベクトルマップと同様、数値地図モデルから出力された二次生成物に過ぎなくなる(下注)。

*注 日本の1:25,000地形図も、昨年(2013年)11月から同様のプロセスで製作された新図式に変更されている。

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最初の新図式
アーラウ図葉表紙
2014年版

新しい1:25,000地形図の予備的研究は早くも2001年に着手され、2006年から試作と評価が繰り返されてきた。2011年に1:1,000,000地勢図が更新されたが、これが新しいプロセスで製作された最初の刊行図だった。縮尺1:25,000での新図の作成作業は昨年から本格的に始まり、その結果、今年(2014年)1月に、新図式による最初の4面「1088 ハウエンシュタイン Hauenstein」「1089 アーラウ Aarau」「1108 ムルゲンタール Murgenthal」「1109 シェフトラント Schöftland」が発表された。

地形図の更新周期は6年とされているので、2019年には1:25,000の全図葉がこの新図式に置換えられる予定だ。また、スイストポの地形図閲覧サイト(下記参考サイト)でも、刊行版に対応した新図式のピクセルマップが公開され始めた。1952年に最初の図葉が刊行されてから60年余、ランデスカルテの最大縮尺1:25,000は今まさに、歴史的変革のときを迎えている。

■参考サイト
スイストポ 公式サイト http://www.swisstopo.admin.ch/
新図式に関する情報は、英語版Topics > New national maps for Switzerland
連邦地形測量所地図閲覧サイト map.geo.admin.ch-1:25,000地形図 http://map.geo.admin.ch/?layers=ch.swisstopo.pixelkarte-farbe-pk25.noscale

本稿は、参考サイトに挙げたウェブサイトおよびスイストポ発行のリーフレット"Neue Landeskarten für die Schweiz"を参照して記述した。
使用した地形図の著作権表示 (c) 2014 swisstopo.

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