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2014年1月26日 (日)

スイスの1:100,000地形図

鮮やかな真紅の表紙が1:100,000の目印だ。4代目こそ色の使い方が控えめになったが、それまでは地図棚で一番目を引く存在だった。とりわけ緑の1:50,000と並ぶと、補色の関係で違いが際立つ。反面、その利用価値が人々に浸透しているかどうかは少々疑問だ。この縮尺は、ハイキングや登山で使うには小さいし、逆にドライブのお供にはやや詳しすぎて何面も必要になるからだ(詳しめの道路地図でも、縮尺はせいぜい1:200,000~1:300,000)。

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1:100,000表紙
左から1代目Bözberg 1970年修正、2代目Brünigpass 1987年修正
3代目Beromünster 1994年修正、4代目Monte Rosa 2013年版
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1:100,000索引図

スイス1:100,000の図郭は、1:50,000の4面分、1:25,000の16面分になる。1面で東西70km×南北48kmと、かなりの行動範囲をカバーすることから、スイストポの紹介サイトは、「自転車、バイク、自動車旅行者とともに旅行者や冒険家のためのスイスの正確な地形図」とうたっている。日帰りのサイクリングやツーリングで動く程度のエリアを収めているということだろう。

同時に、正確な地形図という側面にも注目したい。ランデスカルテの「地形図」グループの一員として、目の肥えた研究者や愛好家の期待に応えうる地形表現がここでも健在だからだ。確かに、より大きな縮尺図と比較すれば、等高線は50m間隔に広がる。岩山も総描化と称して、細部を大胆に省略してあるのだが、見た目はあたかも実物を精密に写生したようだ。例の名人芸的なぼかし(陰影)効果のおかげで、ジュラ山地の複雑な起伏が露わになり、アルプスでは岩の山稜が鋭利な刃先であるかのように錯覚する。縮尺1:100,000という条件で実現できる最高水準のグラフィックであるのは間違いないところだ。

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1:100,000地形図の例
ブリューニックパス Brünigpass 2006年
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コル・デュ・ピヨン Col du Pillon 2010年
ヴァル・ド・バーニュ Val de Bagnes 2010年
(50%縮小)

1:100,000は、23面で全土をカバーしている。図番が26という半端なところから始まるのは、前身の1:100,000デュフール図 Dufourkarte(下注)の図番が1~25(I~XXV)だったためだ。現行の1:100,000は1954年に刊行が始まり、順次デュフール図を置換えながら、1965年に全図葉が揃った。その10年余りの間は新旧の図が併存していたので、番号をずらして設定された。旧図が市場から消えた後も番号体系は見直されないまま、現在に至る。

*注 デュフール図については本ブログ「スイスの地形図略史 I-デュフール図」参照

全23面の中にはユニークな図葉もある。「28bis リンダウ Lindau」は、図郭の西半分だけのハーフサイズだ。他国領(ドイツとオーストリア)が大部分を占めるためと思われるが、図番も、29をわざわざ空き番にして28 bis(28の2の意)にしてある(下注)。ただ、半裁図といえども売価の割引はされていない。一方、「45 オート・サヴォワ(上サヴォワ)Haute-Savoie」は、ほとんどがフランス領だ。そのため1:25,000や1:50,000の図郭が設定されていないのだが、1:100,000はずっとフルサイズで作成されている。

*注 当初の刊行計画では「39 フリュエラパス Flüelapass」の東に「39 bis レッシェンシャイデック Reschenscheideck」というもう一つの半裁図が予定されていたが、フリュエラパス図郭の延伸で対応されたため、幻に終わった。

図名に必ずしも主要都市名が冠されないことは1:50,000の項でも述べたが、この傾向は1:100,000のほうが甚だしい。首都ベルンBernだけでなく、国内最大のチューリッヒ Zürich や第2の都市ジュネーヴ Genève も図名に採用されていないのだ。

レマン湖畔のジュネーヴが「40 レマン湖 Le Léman」図葉に含まれるのはまだ理解できるとして、チューリッヒが載っている図は「32 ベロミュンスター Beromünster」だ。これは人口5000人足らずの小さな町の名なのだが、図郭の中心に位置するというだけの理由で図名に採用されている(下図参照)。この図郭にはチューリッヒのほか、ルツェルン Luzern、ツーク Zug、アーラウ Aarau と州都が4つも入ってしまうので、日本の地勢図のように都市名併記というわけにもいかない。

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ベロミュンスター図郭の収録範囲

ベルンが含まれる「36 ザーネ/サリーヌ Saane/Sarine」の図名は、図郭の中央を南から北へ流れる河川から採られている。この図も、ベルン、フリブール Fribourg、ヌーシャテル Neuchâtel と3つの州都が入るからだと思われるが、連邦制国家では首都でさえ優位ではないようだ。図名に採用されるどころか、ザーネ川はベルン市域を通ってさえいない。このように、地形図の購入に際して、図名が頼りにならないことはままある。

ところで1:50,000などと同様、1:100,000でも、まとまりのある地域を1面に収めた「集成図 Zusammensetzung」が用意されている。上の索引図のとおり本来10点刊行されていたのに、現在(2014年1月)の公式販売サイトでは、6図葉(図番101~105と107)しか扱っていない。これまで集成図だけで全土をほぼカバーしており、区分図23面を生真面目に揃えるよりはるかに安く済ませることができたのだが、さすがの地形図王国も時流に逆らえず、紙地図の整理を検討し始めたのだろうか。

■参考サイト
スイストポ 公式サイト http://www.swisstopo.admin.ch/
連邦地形測量所地図閲覧サイト map.geo.admin.ch-1:100,000地形図 http://map.geo.admin.ch/?layers=ch.swisstopo.pixelkarte-farbe-pk100.noscale

本稿は、参考サイトに挙げたウェブサイトおよびスイストポ発行の製品カタログを参照して記述した。
使用した地形図の著作権表示 (c) 2014 swisstopo.

★本ブログ内の関連記事
 スイスの地形図略史 I-デュフール図
 スイスの地形図略史 II-ジークフリート図
 スイスの地形図略史 III-ランデスカルテ
 スイスの地形図-概要
 スイスの1:25,000地形図
 スイスの1:50,000地形図
 スイスの1:200,000地形図ほか

 ドイツの1:100,000地形図
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