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2014年1月19日 (日)

スイスの1:50,000地形図

スイスの1:50,000は、世界で最もよく知られた地形図シリーズといっても過言ではないだろう。ランデスカルテ Landeskarte の中で最も早く整備され、同国官製地形図の名声を高める役割を担ってきた。国内のみならず世界中の書店や地図店で広く販売されているので、目にする機会も多い。

1:50,000の図郭は、東西35km×南北24kmの範囲を表し、1:25,000の4面分になる。全土を78面でカバーし、3桁の図番が使われる。

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1:50,000表紙
左から1代目Walenstadt 1963年修正、2代目Genève 1974年修正
3代目Mischabel 2004年版、4代目Basel 2013年版

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1:50,000索引図

スイストポの公式サイトでは、「ハイカーや登山家、サイクリスト、都市計画家、旅行者、冒険家のためのスイスで最も正確で情報の多い地形図」と紹介する。1:25,000の売り文句に比べ、対象者は個人旅行者からサイクリストへ、長所は詳しさよりも情報の多さへと重点を移した言い方だ。より広域が扱えるので、そうした潜在的需要をもつ層にアピールしようとしているのだが、筆者のように鉄道のルートを細かく追いたい時でも、この縮尺であれば十分用が足せる。

表紙は代々緑色だが、上図でもわかるように、元来やや暗めのフォレストグリーン(あるいはビリジアン)が使われていた。同じように縮尺で色分けしている近隣諸国では、ドイツ1:25,000、オーストリア1:25,000、フランス旧1:100,000など、いずれも黄緑系が好まれ、こうした濃緑は珍しい。アルプスの裾野を覆う針葉樹林帯との連想からご当地らしさが感じられたのだが、3代目の表紙からは明るい色調に移行している。

等高線の間隔は、日本のそれと同じ20mだ。アルプス地域では1:25,000も同じ20m間隔で描かれるので、両者を並べると1:50,000の凝縮感がいっそう強い(下図参照)。込み入った印象を和らげるためか、計曲線は200m間隔に開けてある。

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等高線間隔の違いの比較
ジュラ地方は2倍の間隔のため、見かけはあまり変わらない
(上)1:25,000(10m間隔) ヴァロン・ド・サンティミエ Vallon de St-Imier 2011年
(下)1:50,000(20m間隔) シャスラル Chasseral 2011年

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アルプス地方は同じ間隔のため、1:50,000は凝縮感がある
(上)1:25,000(20m間隔) ニーゼン Niesen 2010年
(下)1:50,000(20m間隔) ガントリッシュ Gantrisch 2010年

スイスの地形図-概要」でも触れたように、精巧なぼかしと美しい配色で描く地勢表現は、かねてから定評のあるところだ。さらに1994年の図式改訂では、道路と国境線に塗りが施された。これにより、黒、青、緑が主体だった図面に橙、赤といった暖色系が加わった。記号の視認性が著しく改善しただけでなく、図全体がカラフルになり第一印象が大きく変わった。とはいえ、落ち着いたトーンを用いているので、道路網が発達した都市部でもうるさくはなく、むしろ適当なアクセントになっている(下図参照)。

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道路の塗りがアクセントに
マルティニー Martigny 2010年

ところで、全78面のなかには、図郭のほとんどを他国領が占めていても1面として刊行している例がいくつかある。用紙サイズの許す範囲で隣接図郭を延伸すれば、面数を削減できるし、そうする国も多いのだが、敢えて合理性を優先しないのがスイス流なのだろう。たとえばレマン湖南岸の「271 シャブレー Chablais」や、アルプスの南側の「294 グレッソネー Gressoney」では自国領の面積はどう見ても5%未満だ。それどころか、図郭のすぐ外を国境線が通るものの、図郭内には自国領が全く含まれない「285 ドモドッソラ Domodossola」のような奇特な図葉もある(下図参照)。他国の山や谷まで美しいスイス様式で描かれるのは、愛好家としては喜ばしいことだが、果たして需要はあるのだろうか。

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緑の帯がスイス・イタリアの国境線
スイス領がわずかなグレッソネー Gressoney 図葉と皆無のドモドッソラ Domodossola 図葉、いずれも1:25,000図郭の設定はない

図名にも要注意だ。主要都市の名称が採用されていると限らないからだ。例えば、1:50,000にはルツェルン Luzern やルガーノ Lugano という名の図葉は存在しない。ルツェルン市街が載っているのは、「235ロートクロイツ Rotkreuz」だ。この図郭にはルツェルンとツーク Zug という2つの州都が含まれるため、どちらを立てるわけにもいかず、鉄道の乗換駅でもある中間の村の名にしているのだと思われる。日本流ならルツェルン及びツークとするところだ。一方、ルガーノは「235マルカントーネ Malcantone」に載っている。マルカントーネはルガーノの西側にある広域地名で、この地域が図郭のちょうど中央に来ることから採用されたのだろう。

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1:50,000集成図表紙
左から1代目Gotthard 1961年修正
2代目Vierwaldstätter See 1979年修正
3代目Berner Oberland 1997年版

1:50,000でも、通常の区分図とは別に、まとまりのある地域を1面に収めた「集成図 Zusammensetzung」が多数刊行されている。集成図の図郭は原則、東西50km×南北36km(縦長図郭は東西36km×南北50km)と大きく、区分図比で距離が約1.5倍、面積では2倍以上をカバーする。むろん価格は区分図の14フランに対して集成図は25フランと高いが、区分図を2点買うよりはいくらか経済的だ。

発注に当たっては、区分図と集成図の図郭を比較して、見たい地域がどのように含まれているかをよく確かめることが重要だ。インターラーケンを足場にするなら「5004 ベルナー・オーバーラント Berner Oberland」、ルツェルンなら「5008 フィーアヴァルトシュテッテ湖 Vierwaldstätter See」、サン・モリッツSt. Moritzなら「5013 オーバーエンガディン Oberengadin」など、集成図のほうが網羅的で結局お得な場合がある。

1:50,000集成図の歴史は結構古い。第一弾は今から60年前の1954年で、「5001 ゴットハルト Gotthard」だ。この年、1:100,000区分図はようやく刊行が始まったばかりだった。戦前の旧図に代わる新たな広域図に期待が高まるなか、とりあえず1:50,000を集成する形で応えようとしたのだろう。集成図はその後も刊行が続けられ、現在(2014年1月)は26面のラインナップになっている。空き番があるのでまだ新刊が予定されているようだ。なお、集成図の図番は刊行順に振っているため、区分図とは全く連動していない。

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(左)ハイキング地図表紙 ミシャベル Mischabel 2004年版
(右)スキールート地図表紙 ズステンパス Sustenpass 1999年版

1:50,000はこのほか、旅行地図のベースマップとしても活用されている。黄表紙のハイキング地図 Wanderkarte(もちろん山岳地帯では登山地図になる、下注1)が国土全域をカバーしているし、青表紙の雪靴・スキー旅行地図 Schneeschuh- und Skitourenkarte(下注2)もアルプス全域で利用可能だ。内容は通常の地形図に赤や青でルートを加刷したものだが、前者はスイスハイキング連盟 Schweizer Wanderwege、後者はスイスアルペンクラブ Schweizer Alpen Club (SAC) とスイススキー連盟 Swiss-Ski が監修しており、各団体の公式地図に位置づけられている。

*注1 ハイキング地図については、本ブログ「スイスのハイキング地図-スイストポ」参照。
*注2 かつては、スキールート加刷地図 Landeskarte mit Skirouten の名称で刊行されていたが、2000年に改称。

本稿は、参考サイトに挙げたウェブサイトおよびスイストポ発行の製品カタログを参照して記述した。
使用した地形図の著作権表示 (c) 2014 swisstopo.

■参考サイト
スイストポ 公式サイト http://www.swisstopo.admin.ch/
連邦地形測量所地図閲覧サイト map.geo.admin.ch-1:50,000地形図 http://map.geo.admin.ch/?layers=ch.swisstopo.pixelkarte-farbe-pk50.noscale

★本ブログ内の関連記事
 スイスの地形図略史 I-デュフール図
 スイスの地形図略史 II-ジークフリート図
 スイスの地形図略史 III-ランデスカルテ
 スイスの地形図-概要
 スイスの1:25,000地形図
 スイスの1:100,000地形図
 スイスの1:200,000地形図ほか
 スイスのハイキング地図-スイストポ

 ドイツの1:50,000地形図
 オーストリアの1:50,000地形図
 フランスの1:50,000地形図

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