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2013年4月 5日 (金)

アメリカ合衆国の地形図-新シリーズ「USトポ」

アメリカ合衆国の新しい地形図は、「US Topo(以下、USトポと表記)」という愛称で呼ばれる。トポは、トポグラフィック(マップ) Topographic (map) で、地形図を意味する。2008年に旧来の地形図の更新作業が廃止されたが、その後、約3年の製作期間を経て、2012年10月に本土48州をカバーするUSトポが完成を見た。引き続き、2013年中にアラスカ州、ハワイ州と、海外領土であるプエルトリコ Puerto Rico の製作が進められることになっている。

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USトポ 1:24,000 ワシントン西部 2011年版
前回掲載の旧版地形図画像と縮尺を合わせるため137%に拡大
この版では構造物および地表面レイヤーは未装備

USトポの一部を掲げた(上写真)。縮尺は1:24,000(下注)、1面の図郭は緯度、経度とも7分30秒と、旧来の枠に準じて展開されているものの、見慣れたこれまでの地形図とは全く趣きが異なる。ベースになっているのは、空中から地上を撮影した写真だ。正確にはオルソイメージ(正射画像)といい、撮影時のカメラの傾きや地表の高度差によって写真に生じるひずみを補正してある。その上に、等高線や道路など別途作成されたデータを重ねて生成したのが、この地図だ。

*注 1:24,000を優先的に整備するため、その他の縮尺図の作成については、見通しが示されていない。

こうした写真地図は決して珍しいものではなく、デジタル化以前から作成されていた。地形図は、縮尺に応じて描く対象を取捨選択し、記号化、総描という編集過程を経ることによって読み易さを実現する。そのため、重要度が低いと判断されて描かれないものや、総描でひとまとめにされてしまうものが出てくる。一方、オルソイメージは位置補正を施す以外、ありのままの地表の様子が捉えられているが、土地の高度や地名、建物の機能(たとえば郵便局なのか警察署なのか)など上空から写せないものは表現しようがない。写真地図は、二者を合体しておのおのの欠点を補完することを目論むものだ。

しかし、USトポは、印刷物が前提の写真地図とも異なり、デジタル化の時代らしい特徴を備えている。その一つが、データを複数のレイヤー(層)に分けているという点だ。そのため、画面上で、各レイヤーの表示と非表示を自由に切替えることができる。オルソイメージを非表示にすれば見た目は地形図になり、逆に地形図の要素をすべて非表示にすれば空中写真として使える。

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USトポ 1:24,000 サンフランシスコ北部 2012年版
(上)全レイヤー表示 (下)画像レイヤー非表示

現在のレイヤーの種類は、階層順に以下の通りだ。

「図枠外の記述 Map Collar」
 図名、図歴・図法等、凡例、縮尺など、いわゆる整飾事項のレイヤー。

「図枠内の記述 Map Frame」
 これはさらに以下のレイヤーから構成されている。
-「投影法とグリッド Projection and Grids」 UTM座標値、地理座標値、UTMグリッド線を含む。
-「地名 Geographic Names」 居住地名、自然地名を含む。これらは、USGSが地名委員会 U.S. Board on Geographic Names (BGN) と共同開発した地名情報システム Geographic Names Information System (GNIS) に定義された標準地名。なお、街路名はここではなく、交通レイヤーにある。
-「構造物 Structures」 現在は、消防署(赤四角にFの文字)、病院(青四角にHの文字)に限られる。
-「境界 Boundaries」 行政界(国・州・郡)と名称、自然保護区界と名称を含む。
-「交通 Transportation」 道路と道路番号・街路名、空港(滑走路)とその名称、フェリー航路を含む。道路は、インターステート、連邦道、州道、地方道、森林局U.S. Forest Service所管の道路、4WD道路(四輪駆動など車高の高い車しか通れない)などに細かく分類されている。残念ながら鉄道は対象外。
-「水系 Hydrography」 河川、湖沼、海洋のほか、これらに関係する堰堤、水門、閘門、滝、早瀬、隠顕岩、湧水、運河、パイプラインなどを含む。
-「等高線 Contours」 10~20フィート間隔の等高線。全国高度データセット National Elevation Dataset (NED) から取られているため、旧来の地形図の等高線とは異なる。
-「地表面 Land Cover」 全国地表面データベース National Land Cover Database (NLCD) に拠る。現在は森林のみ、緑のハーフトーンで表示。

「画像 Images」
 最下層にあるオルソイメージのレイヤー。農務省の全国農業画像プログラム National Agriculture Imagery Program (NAIP) を使用しており、解像度(1ピクセル当り)は1mから1フィート(0.3m)かそれより高いとされる。

USGSは、連邦、州、地方の各行政機関と連携して地理的基礎情報のデータベースを構築しており、「ナショナル・マップ(国勢地図)National Map」と称してウェブ上で公開している(下注)。ここには全国規模のシームレスで一貫性のあるデータが集積されていて、自由に取り出して利用できるようになっている。すでに2000年の段階でUSGSは、旧来の地形図更新事業を段階的に縮小して、このデータベースで代替していくと表明していたが、地形図の持つ総合性や記録性を端から否定するつもりはなかったようだ。

*注 ナショナル・マップ・ビューアー National map Viewer
http://viewer.nationalmap.gov/

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USトポの地図記号(一部)

従来の地形図のルック・アンド・フィール(見た目と使い勝手)を保ちながら、ナショナル・マップから得られる最良のデータを組合せて新世代のデジタル地形図を作る。USトポはこのビジョンのもとに作られている。実は、オルソイメージの上に従来の地図記号を単純に載せると、可読性に問題が生じる。写真に無秩序に写り込んだ地物の中に、地図記号が紛れ込んでしまうのだ。USGSは、その問題の解決のためにペンシルベニア州立大学と共同研究を行い、地図デザインの改良に取組んだ。その成果が、新しい地図記号の形状や配色に生かされている。

アドビ社のPDFを拡張した地理参照型PDF (GeoPDF) という形式で配布されているのも特徴だ。ユーザーズガイドには、無償の専用ツールを使うことで、座標値の決定、地点間の距離や角度、面積の測定、GPS端末との連携などが容易になると書かれているが、閲覧だけなら、通常のアドビリーダーでも全く支障はない。

USトポは3年周期で更新される予定になっている。これは、オルソイメージが農務省の全国農業画像プログラム National Agriculture Imagery Program (NAIP) から提供されていて、その更新周期に合せているためだ。しかし、57,000面といわれる膨大な数をわずか3年で一巡させるには、単純計算でも1日50面以上の恐るべき量産化が要求される。手作業の多い旧来の地形図とは違い、地図1面の生成に費やす対話作業は、せいぜいテキスト配置と最終検査程度だという。ナショナル・マップという既存の統合データベースを最大限利用しているからこそ可能な計画だ。

さて、画期的な次世代地形図は、当初のビジョンどおりの仕上がりになっているだろうか。地形図として見た場合、不十分な点は多々ある。構造物レイヤーの情報量が貧弱で、教会や学校のような基本的施設すら表示されていない。交通レイヤーでは鉄道や駅の表示がない。地表面レイヤーでは植生表示が森林のみで、詳細はオルソイメージを解読するしかない。等高線レイヤーでは、精度が低い(甘い)ため道路の屈曲に適応していない。また、かなり拡大しないと主曲線と計曲線の区別がつかない、標高点の記載がない等々。

USGSの資料によれば、地勢を三次元的に表現するぼかし(陰影)を含めて、今後、データやレイヤーの追加が検討されている。つまりUSトポはこれが最終形ではなく、まだ開発途上ということらしい。旧来の地形図のルック・アンド・フィールにできるだけ近づくように、さらなる情報充実と品質改良を期待したいものだ。

USトポは、USGSのサイトにあるナショナル・マップ・ビューアー National Map Viewer か、USGSストア(USGS地形図の閲覧・購入サイト)からダウンロードできる。

Map images courtesy of the U.S. Geological Survey.

■参考サイト
合衆国地質調査所USGS http://www.usgs.gov/
ナショナル・マップ(国勢地図) http://nationalmap.gov/

★本ブログ内の関連記事
 アメリカ合衆国の地形図-廃止された旧体系 I
 アメリカ合衆国の地形図-廃止された旧体系 II

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