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2013年3月 1日 (金)

アメリカ合衆国の州別地図帳-ベンチマーク・マップス社

前回紹介したデローム社の州別地図帳は、全米をカバーする唯一のシリーズなのだが、ロッキー山脈から西海岸にかけては、ライバルと目される地図帳が版図を拡げている。オレゴン州メドフォード Medford とカリフォルニア州サンタバーバラ Santa Barbara に拠点を置くベンチマーク・マップス社 Benchmark Maps の「ロード・アンド・レクリエーション・アトラス Road & Recreation Atlas」だ。

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シリーズの1点 モンタナ州版

こちらは等高線を用いない代わり、きわめて精密な陰影と高度に応じた彩色を組み合わせて、立体写真以上の鮮やかさで人の目を奪う。かつて、同社サイトで引用されていた書評にはこう表現されていた。「アリゾナは決して平坦ではない。この地図帳は州がどのように平坦でないかを細かいところまで手に取るように見せてくれる。」平板な道路地図が優勢な国ならでは、刊行時のインパクトの大きさが想像できる。

このシリーズで最初に世に出たのはニューメキシコ州版で、1995年のことだ。西海岸で地図製作を手掛けていた3つの会社が、見栄えと表現法を根本から変える地図帳をつくろうと共同研究した成果だった。斬新な地図表現は高い評価を得て、アメリカ測量地図会議 American Congress on Surveying and Mappingによって、その年の「ベスト・アトラス Best Atlas」に選ばれた。

余勢を駆って翌年のアリゾナ州版では「ベスト・アトラス」と「ベスト・オブ・ショー Best of Show」の二冠に、次のカリフォルニアを経て、地勢表現をさらに精緻化したオレゴン州版(1998年)では三たび「ベスト・アトラス」に輝き、ベンチマークはすっかりアメリカ地図業界の台風の目に成長した。それ以来、ワシントン、ユタ、ネヴァダ、アイダホ、コロラド、モンタナ、ワイオミングと1~2年ごとに続刊が発表され、2008年までにロッキー山脈とその西側の11州がすべて揃った。

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「景観」図の山地表現の例、ワイオミング州版表紙より
(c) Benchmark Maps, 2013

ベンチマーク地図帳は、そのページ構成に特徴がある。あたかも、拡大縮小や図種の切替えが自由なネット上の地図のように、対象のエリアについて縮尺を変え、表現を変えながら、徹底的に説明しようとするのだ。全体は「地域 Regionals」「レクリエーション Recreation」「景観 Landscape」、そして地名録である「索引 Index」の計4つのセクションから成っている。また、州によっては、さらに州都など中心都市の拡大図がある「都市近郊 Metro Areas」セクションが付随する。順に内容を説明していこう。

まず「地域」セクションは、地図帳への導入部に当たる。最初の見開きは合衆国本土全体の概観図だ。主なインターステート・ハイウェー(州間高速道路)と主要都市をプロットした縮尺1:9,600,000(960万分の1)の地勢図上に、テーマとなる当該州が白枠で示されている。次の見開きはその拡大版で、縮尺はほぼ倍の1:4,500,000(450万分の1)となり、近隣州の範囲がより詳細に示される。3番目の見開きは州全図で、縮尺はさらに大きくなり(例えばコロラド州の場合1:1,650,000)、小さな町の位置まで確かめられる。こうして、ページを繰るたびに地図がズームアップしていくので、なじみのない州でも国土における位置関係が容易に把握できるのだ。

次の「レクリエーション」セクションは、州を10面前後に割った区分図と情報集が、見開きで対になっている。地図は、コロラド州の場合、縮尺が1:500,000だ。地勢図のベースの上に、公有地や公園・森林・保護区など土地の管理区分を色分けしている。一方の情報集は、野外活動の適地や史跡・博物館などの概要と、連絡先や地図上の位置をまとめたレクリエーションガイドで、中心地の年間気温と降水量グラフも添えてある。機能的には、デローム地図帳のガゼッティアー(地名録)と同じだが、見開きにまとめたことで、検索のたびにページを繰る手間が要らない。

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「景観」図の凡例(一部)

「景観」セクションで、いよいよ地図帳のメインに移る。縮尺はさらに大きくなり、州によって異なるが1:200,000から1:400,000の範囲だ。これでもデロームと比べるとまだ小さめなのだが、それをハンディと感じさせることがない。

その理由は、第一に地勢表現の迫真性だ。鮮明かつ精細に描かれたぼかし(陰影)と、高度に応じてシームレスに変化する彩色。その絶妙なアンサンブルで、山塊のボリューム、尾根と谷の複雑な交錯、あるいは平原に刻まれた細かな襞を余すところなく描ききる。あたかも飛行機の窓から眼下の大地を眺めているようで、どこまでも飽きさせない。もちろんこれは手描きではなく、メッシュ標高データを用いて生成しているのだが、表現法としてはもはや芸術的な域に達している。

第二には、道路網描写の的確さをあげたい。道路網に使われている色の数は、デロームの新図式よりむしろ控えめだ。骨格となる幹線道路(地図帳の表現を使えば「出入口が限定されたハイウェー Limited Access Highway」)に青や緑を配するほかは、赤、橙、濃赤といった赤系の色に絞っている。しかし、色以外にくくり(縁取り)の有無や、実線・破線、線幅などを駆使することで、道路種別を効果的に表現する。たとえばくくりのない実線は幹線以外の舗装道、破線は同じく未舗装道の意味を持たせている。実際の図面では、都市近郊を除いてこの手のバックロード backroad が大半を占めているので、幹線道路と明瞭に区別でき、デザイン的にもスマートだ。

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「景観」図、河谷表現の例、オレゴン州版表紙より
(c) Benchmark Maps, 2013

「ロード・アンド・レクリエーション・アトラス」というタイトルから、実用に徹した内容を想像してしまう人もいるだろう。しかし、同社の代表ジョン・グランヴィル John Glanville の目標とするところはもっと高い。情報の質とまとめ方、地図としてのルック・アンド・フィール(見た目と使い勝手)でグーグルと差別化する、と彼は語っている。巨人グーグルに呑み込まれるどころか、むしろ品質では優位に立つ。どの州でも地図帳を一通り読めば、その意気込みが空手形でないことが伝わるはずだ。

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「1995年以来、100万部を優に超える地図帳が世界中の見識ある地図ユーザーに購入されてきた。地図帳を全巻買ったという人の話が私たちの耳に届くのは珍しいことではない。」同社のサイトには誇らしげにそう書いてある。筆者もその一人であることを嬉しく思うが、それと同時に、叶うならば、東部アパラチア山脈の地形を一度、ベンチマークの地図帳で見てみたいものだ。

ベンチマーク・マップスの地図帳は、アマゾン、紀伊國屋などのサイトでも扱っている。また、「レクリエーション」セクションに使われている地図は、「ベンチマーク・レクリエーション・マップ Benchmark Recreation Map」の名称で、1枚ものの折図(右図)としても販売されている。

(2006年12月21日付記事を全面改稿)

■参考サイト
ベンチマーク社 http://www.benchmarkmaps.com/

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