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2013年3月10日 (日)

アメリカ合衆国の州別地図帳-ナショナル・ジオグラフィック

赤表紙のデローム、黒表紙のベンチマーク・マップス、この二社で占められていたアメリカの州別地図帳界に、2012年、突如三社目が現れた。モバイル機器の普及で紙地図の未来にいささかの不安を抱いていただけに、それは予想外の朗報だった。新参の名乗りを上げたのは、黄表紙をまとうナショナル・ジオグラフィック・マップス National Geographic Maps。いうまでもなく、ナショナル・ジオグラフィック協会 National Geographic Society(以下、協会という)の地図部門だ。

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シリーズの1点 ミシガン州版

同部門は1915年の創設で、アメリカ地図業界では老舗の部類に入る。協会が刊行する「ナショナル・ジオグラフィック」誌の付録地図や掲載図を通じて、ほぼ1世紀にわたり、学術地図の分野で評価を確立してきた。また、地図帳、壁掛け地図(ウォールマップ)、レクリエーション地図や旅行地図など、学校教育や一般分野でも多数の製品を送り出している。その意味でこれは、大御所の登場と言えよう。

「レクリエーション・アトラス Recreation Atlas」と名づけられた州別地図帳シリーズは、昨年(2012年)5月に五大湖周辺のミシガン州とミネソタ州の2巻が刊行されたのが最初だ。同年9月に同じくウィスコンシン州と、南部のジョージア、アラバマ、フロリダの3州が続刊され、現時点で6州6巻が入手できる。また、公式サイトの告知によれば、間もなくニューヨーク、ペンシルベニア、バージニアの東海岸3州が、ラインナップに加わるようだ(2013年3月下旬刊行予定)。刊行のペースはかなり速く、デロームの向こうを張って全国をカバーするのも時間の問題かもしれない。

地図帳の判型は横11×縦15インチ(27.9×38.1cm)、ページ数は州によって異なるものの112~144ページだ。綴じ方や用紙の質を含めて先行2社と大差なく、同じ土俵での勝負は覚悟の上のようだ。

ページ構成はどうだろうか。最初の見開きは「全米道路地図 United States Highway Map」、次が当該州の道路地図で、幹線道路と主要都市を州境とともに描いたものだ。ベンチマークのように地勢を表すぼかしも入れられ、平面的な道路地図とは一線を画している。ただ、ベンチマークではここが導入部として効果的に使われていたが、協会版はテーマとなる州を目立たせたり、詳細図の索引図を添えたりしてはおらず、単なる扉地図という位置づけにとどまる。

次は「州内の見どころ Places of Interest」の紹介で、1個所10~20行程度の概要とともにカラー写真が配され、場所のイメージを喚起する。続く「自然・気候図 Physical & Climate Maps」では、見開きに土地利用図、地形学的あるいは生態系分類図、そして州内の降水量、気温、結氷初日、紅葉期間などを表した気候分布図が多数配置される。こうした情報ページは2社の及ぶところではなく、豊富な地理データを有する組織の特色が全面に出ている。

その後は、各社とも力を注ぐレクリエーション情報のページだ。協会版も、キャンプ場、州立公園、トレール、ゴルフ場・スキー場、湖・水浴場と、一通りのリストが揃っている。見開きの左ページに場所を記した州全図、右ページに文字情報をそれぞれ配置する方法は、ベンチマークの「レクリエーション」セクションと似ているが、まとめ方には違いがある。ベンチマークが区分図に含まれる地域単位で文字情報を一括りにするのに対し、協会版は情報の項目ごとに地図を当てる。つまり、行動するエリアが決まっていて、そこでどんなレクリエーションが楽しめるかを知りたいなら前者が役に立つ。そうではなく、やりたいスポーツが決まっていて、それが州内のどこでできるかを知りたいなら後者がいい。

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区分図の例、ミシガン州版表紙より
(c) natgeomaps.com, 2013

メインである区分図の図式にも個性が滲み出る。まず縮尺だが、デロームの場合、州によってまちまちで、州境を越えての探索に戸惑いを覚えることがある。その点、協会版は今のところ1:175,000(南部3州)か1:150,000(それ以外の州)に統一されている。今後、面積や人口密度が極端に異なる州が対象になってくればこれほどスマートには行かないだろうが、縮尺はできるだけ広域で揃っているほうが好ましい。

地図記号については、道路や公有地界などの表現はデローム(新図式)と似たり寄ったりだ。そもそも、道路の配色や番号を配する図形などは、道路地図で一般的に使われる一種の約束事になっていて、変えようがない。それに協会版の図式は1枚ものの旅行地図などで早くから使われていて、2009年ごろに現れたデロームの新図式のほうが後発だ。デロームが改良に際して協会版を参照したとすれば、似ていても不思議なことではない。

注記文字では、協会版はデローム新図式よりポイントが小さめだが、字体の工夫で決して読みにくくはない。むしろデロームのほうが、集落名のポイントの大きさと比べて街路名が小さすぎるなど、バランスの点で問題がある。

一方、地勢表現は、両者で大きな差があるところだ。デロームは、メッシュ標高から生成した等高線のため、滑らかさがなく、あまりに小さな閉曲線など一部で不自然な表現が残るが、読取りに支障はない。一方の協会版は、おそらくUSGS(合衆国地質調査所)のラスタデータを利用しており、正確な代わり、縮尺に比べて等高線間隔が狭くなる(注1)。平野部はともかく、ちょっとした傾斜地でもぎっしり詰まってしまう。ぼかし(陰影)も掛っているのだが、薄すぎるのか、影の部分が等高線の集積と重なるためか、効果を発揮していない(注2)。この点ではデロームに分があるだろう。

*注1 縮尺1:175,000で等高線間隔50フィート=15m。日本の官製1:200,000の同100mはもとより、1:50,000の同20mに比べても狭い。
*注2 3月刊行のペンシルベニア州版のサンプルでは、ぼかし効果の改良が見て取れる。

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区分図の凡例(一部)

根っからの地図ファンでもない限り、同じ州の地図帳を複数揃えようとは思わない。1冊だけ選ぶとすれば、デローム、ベンチマーク、協会版のどれにすべきか迷うところだ。そのうち、ベンチマークと協会版は、現時点では前者が西部、後者は中部から東部と棲分けができていて、競合しない。そのためか、協会自身のオンラインショップで、ベンチマークの地図帳が堂々と販売されている。

問題は、デロームと協会版が両方刊行されている州だ。比較すれば上述したような差異があるほか、協会版は、各ページに配された凡例(地図記号一覧)、現在ページや接続ページの明瞭な表示など、使い易さがよく研究されている。デロームの先駆者としての功績に敬意を払いつつも、全体的なデザインの洗練度も総合的に勘案して、筆者は協会版のほうに軍配を上げたいと思う。

■参考サイト
ナショナル・ジオグラフィック・マップスのページ http://www.natgeomaps.com/
地図帳に関する情報は、トップページ左メニューの"State Recreation Atlases"

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