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2013年3月24日 (日)

アメリカ合衆国の地形図-廃止された旧体系 II

今回は、2008年以前のUSGSの地形図体系を縮尺別に見ていこう。

1:1,000,000(100万分の1)
いわゆる国際図(IMW)図式によるシリーズだが、陸軍地図局AMSのクレジットが入った1950年代の編集図(変更多円錐図法 Modified Polyconic Projection による)と、1962年の国連技術会議の決定を受けたUSGS製作のシリーズ(ランベルト正角円錐図法 Lambert conformal Conic Projection による)の2系統があり、図郭によっては併存する。本来ならUSGS版で置換えを完了すべきところ、予定面数の半分にも達しないうちに事業が中止されてしまったからだ。そのため、最も新しいものでも1979年の編集で、資料としてはいささか古びている。しかし、州を越えた100km単位の広域で地勢、鉄道網などを概観したいときには、今でも役に立つ。

緯度4度、経度6度の図郭で、地勢表現は等高線と段彩による。高度表示は日本人にとって扱い慣れたメートル法のため、読図に抵抗がない。国際図については、下記サイトで、合衆国エリアを含む世界各地の地図画像が公開されている。

■参考サイト
ペリー・カスタネダ図書館地図コレクション > 国際図
http://www.lib.utexas.edu/maps/imw/

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1:1,000,000 カスケード山脈 1951年版

1:500,000
州別地図 State map の形式をとっているので、州域全体をある程度詳しく見たいときに適した地図だ。1州1面が原則だが、州の面積は、最小のロードアイランド州と最大の(アラスカは別として)テキサス州で170倍以上の開きがある。そのため、ニューハンプシャーとバーモント、コネチカット(下注)とマサチューセッツとロードアイランド、デラウェアとメリーランドはそれぞれ複数州で1面となる一方、カリフォルニア、ミシガン、モンタナの各州は2面に、テキサス州は4面に分割されている。

*注 コネチカット州の州別地図は、1:125,000の単独版もカタログに掲載されている。

用紙サイズもかなり大きいものがあり、例えばカリフォルニア州は北部版、南部版とも54×44インチ(137×112cm)と、平図のままでは取扱いに苦労する。

州別地図には、3つの異なる版が存在した(必ずしも全ての州で3つの版が揃っているわけではない)。1つ目は「基本図 Base map」で、交通網、水部、居住地、行政界、公有地界など地図の基本項目は網羅しているが、等高線は省かれている。2つ目は「地形図 Topographic map」で、「基本図」に等高線が入る。3つ目は「ぼかし地図 Shaded-relief map」で、「地形図」にさらに地勢を表すぼかし(陰影)が加わる。日本の1:200,000地勢図に似た仕様だが、多くの場合、ぼかしは濃いめにかけられ、立体感が強調されている。なお、どの版も州の外側はほぼ完全に白紙で、道路や河川が州境を越えるとどの方向へ進んでいくのかはわからない。

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1:500,000 カリフォルニア州南部 「地形図」 1981年版
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1:500,000 コロラド州 「ぼかし地図」 1980年版

なお、州別地図については、1:1,000,000(100万分の1)バージョンも一部の州、一部の版で刊行されていた。また、アラスカの州別地図には1:500,000がなく、カタログに掲載されているのは1:1,584,000(158万4千分の1)、1:2,500,000(250万分の1)、1:5,000,000(500万分の1)、1:12,000,000(1200万分の1)などだ。

1:250,000からは、図郭の経緯度幅を用いた独特の名称がある。1:250,000は"1x2 (one by two) degree map"といい、緯度1度、経度2度の範囲の図郭という意味だ。個々の図は1x2 degree quadrangle(クウォドラングルは四角形の意)とも表現する。同じように1:100,000は"30x60 minute map"、図郭は緯度30分、経度60分(=1度)になる。たまたま経緯度の区切りがそうだというだけで、縮尺との間に有意の関係はないのだが、通称としてよく見かける。

1:250,000(1×2度地図)
150km程度の幅のまとまった地域を概観することができる地形図で、合衆国本土(アラスカ州を除く)を489面でカバーする。このシリーズはUSGSのオリジナルではなく、1950年代に陸軍地図局AMSが作成した軍用地図をベースにしている。USGSがそれに適宜、経年変化の修正を加えてきた。

出自の違いは、他の中縮尺図と異なる地図記号にも表れている。合衆国の地図では、鉄道は概して不遇で、省かれるか、そうでなくても消え入りそうな細線で描かれることが多いが、ここでは太めの目立つ実線だ。また、市街地には他で使われない黄色のベタ塗りが配され、図面上のアクセントになっていた(改訂図式では色数が減らされたため灰色のアミとなり、効果は薄れた)。

地勢表現は原則として等高線のみによるが、初期の図にはぼかし(陰影)を加えたものも散見される。等高線間隔や高度表示はフィート単位で、距離もマイルで示される。カタログでも図上1インチが実長約4マイルと記されていて、実用上は1/4インチ地図 Quarter-inch Map(分数化すると1:253,433)と同等に扱われているようだ。従来は平図で頒布されていたが、近年の刊行図は折図仕様で、表紙の色は等高線の茶色を用いる。

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1:250,000 サンフランシスコ 1956年版
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1:250,000 カンザスシティ(ぼかし付加) 1954年版

なお、ハワイ州の1:250,000は、島の位置に合わせた特別図郭で4面ある。また、アラスカ州では、アラスカ探査シリーズ Alaska reconnaissance series と呼ばれる旧版が153面で本土と付属島嶼をカバーしていたが、より精度を高めた新シリーズへ置換えが順次実施された。

下記サイトで、合衆国全土の1:250,000の地図画像を見ることができる。ページ最上段にある索引図で図名を検索するとよい。

■参考サイト
ペリー・カスタネダ図書館地図コレクション>合衆国地形図1:250,000
http://www.lib.utexas.edu/maps/topo/250k/

1:100,000(30×60分地図)
緯度30分、経度60分(=1度)の図郭をもつ地形図で、1面で東西80km、南北50km程度の範囲をカバーする。かつて中縮尺図として1:125,000(下注)が作られていたが、第二次大戦後、1:24,000から新たに編集されたこのシリーズに置換えられた。旧図に比べて図郭は、東西方向が2倍に拡大されている。

*注 1:250,000を2倍に拡大した縮尺。図上1インチが実長2マイルを表す1/2インチ地図 Half-inch Map とほぼ同等。

比較的新しい設計のため、等高線間隔、高度表示ともメートル法に統一され、図上1cmが実長1kmという切りの良さと相まって、使い易いものに仕上がっている。地勢表現は、等高線のみの簡潔なスタイルで、表紙の色は水色だ。一部の図葉では等高線を省いたプラニメトリック(平面図)版 Planimetric edition も用意されていた。

なお、この地形図をベースにして、土地管理局 Bureau of Land Management は、国有地などの範囲を加刷した土地管理区分図 Surface Management Status および表層鉱物管理区分図 Surface Minerals Management Status を製作している。これは主として西部各州をカバーする。

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1:100,000 カンバーランド 1981年版

1:62,500または1:63,360(15分地図)
緯度15分、経度15分の図郭のため、15分地図 15 minute map と称する。本土48州とハワイ州では縮尺1:62 500で作成された。これは1:125,000を2倍に拡大した縮尺で、図上1インチが実長でおよそ1マイルとなる。東部では19世紀から着手されていたが、全国をカバーすべく本格的に製作が始まったのは1910年とされ、それ以来1950年代まで、合衆国の基本地形図に位置付けられていた。比較的遅い時期まで残っていたので、目にする機会は多い。ハワイ州では、最大のハワイ島を除き、1島を1面に収めた図郭拡大版が作成されている。

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1:62,500 ジョージタウン 1903年版

一方、アラスカ州では、本来の1インチ地図(図上1インチが実長1マイル)である1:63,360で作成された。2008年のカタログでは、州域2920面のうち97%が製作済とされている。いずれも等高線間隔、高度表示はフィート単位だ。

これら15分地図の作成・更新は、アラスカ州を除いて、より大縮尺の1:24,000に主役の座を譲る形で廃止された。そのため、合衆国は、先進国では縮尺1:50,000かそれと同等の区分地形図を維持していない唯一の国となっていた(下注)。

*注 ただし、各郡域を描く郡別地図 County Map の多くは、旧版1:62,500から編集された1:50,000地形図だ。

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アラスカ州1:63,360 スワードD-5 1952年版

1:24,000(7.5分地図)
緯度、経度とも7分30秒の図郭をもつこのシリーズの普及で、アラスカ州を除くと、これが合衆国の基本地形図になった。いうまでもなく最大の地形図シリーズで、1947年から鋭意製作が進み、本土48州については1991年に整備が完了した。オンラインカタログによると、面数は48州とハワイ州、海外領土 U.S. Territories を合わせて約57,000面あるとされる。ちなみに、日本の1:25,000地形図は全部で4,372面(2013年3月現在)だ。1面の大きさが日本の2倍以上あり、さらに面数が約13倍だから、全体のボリュームは想像を超えている。

なお、アラスカ州は、先述のとおり1:63,360が基本地形図とされているが、アンカレジ Anchorage、フェアバンクス Fairbanks、プルードー湾 Prudhoe Bay 周辺で1:25,000が作成されている。

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1:24,000 ワシントン西部 1956年版(再掲)
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1:24,000 ワシントン西部 1983年改訂版
改訂個所はマゼンタで加刷されている

1960年代後半からは並行して改訂作業も始まったが、予算上の制約により、各原版に手を入れる全面改訂ではなく、主として、変化した個所をマゼンタ(赤紫色)で加刷する方式(訂補 minor revision あるいは基本修正 basic revision)が採られた。修正は空中写真や行政資料に基づくもので、現地調査はしていないという断り書きも見られる。

これとは別に、農務省森林局 U.S. Forest Service が改訂を加えた版(刊行はUSGS)も流通している。そこでは、国有林 National Forest 内にある山道の状態や道路番号、管轄地の分布といった情報が付加されている。

ところで、ふつうなら1:25,000とすべきところを、なぜ1:24,000という半端な縮尺にしているのだろうか。それはこの地形図が、図上1インチで実長2000フィート(=24000インチ)を表すという、純然たるヤード・ポンド法で描かれているためだ。当然、等高線間隔や高度の表示もフィート単位になる。イギリス、アイルランド、ニュージーランドなどもかつて地形図にヤード・ポンド法を用いていたが、とうにメートル法への切替えを完了している。それに比べて合衆国の場合、測地測量の単位がフィート(測量フィート)のままという理由もあるようだが、地形図体系は混乱気味だ。

むろんUSGSも状態を放置していたわけではなく、縮尺を1:25,000に変え、高度もメートル法表示にした新版の刊行に着手していた(下注)。このバージョンは、図郭を東西方向で2倍(経度15分)に拡大し、7.5×15分地図と称した。薄緑色の表紙もつけて、先述の1:250,000や1:100,000と仕様を共通化しようとしていたのだ(下図参照)。しかし、予算不足で更新は遅々として進まず、結局、新しいデジタル地図(次回詳述)では、図郭も縮尺も単位系も、多数派である旧来のものを採用せざるを得なかった。メートル法への統一は、当面おあずけの状況だ。

*注 ただし、等高線は描き直さず、等高線間隔10フィートは3mに、20フィートは6mに換算表示していた。

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1:25,000 ボストン南部 1987年版

ここまでがUSGS地形図の旧体系の概要だが、新体系ではこれがどのように整理され、変貌したのだろうか。次回はその内容を見ていきたい。

Map images courtesy of the U.S. Geological Survey.

■参考サイト
合衆国地質調査所 USGS http://www.usgs.gov/
ナショナル・マップ(国勢地図) http://nationalmap.gov/

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 アメリカ合衆国の地形図-廃止された旧体系 I
 アメリカ合衆国の地形図-新シリーズ「USトポ」

 ペリー・カスタネダ図書館地図コレクション
 アメリカ合衆国の州別地図帳-ナショナル・ジオグラフィック
 カナダの地形図

2013年3月23日 (土)

アメリカ合衆国の地形図-廃止された旧体系 I

1884年12月5日、アメリカ合衆国地質調査所 U.S. Geological Survey(以下、USGSという)の第2代所長ジョン・ウェズレー・パウエル John Wesley Powell は、連邦議会で次のように証言した。「この国に適した地形図を構築すること以上に、政府は、人々の役に立ついかなる科学事業もなしえません。」 民生用地形図作成の幕開けを告げる声明だった。時は移り2009年、USGSは地図事業が始まって125年になるのを盛大に祝ったが、皮肉なことにその時すでに、パウエルの後継者たちは、地形図の改訂作業を放棄してしまっていた。伝統的な手法による地形図の維持更新は、前年の2008年をもって中止されたのだ。

印刷を前提にした地図の時代は終わり、現在は、その代替として特別なフォーマットによるデジタル地図(USトポ)が提供されている。製作過程は大きく異なるものの、図郭の踏襲を含め、従来の地形図の使い勝手をそがない配慮を払った設計が特徴だ。一方で、これまで製作されてきた膨大な数の地形図も、価値ある歴史資料として、インターネット上で大規模に公開されている。これから数回にわたり、アメリカ合衆国の変貌する地形図体系を、過去から現在へと順に紹介したい。

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1:24,000 ワシントン西部 1956年版の一部
右端にユニオン駅や国会議事堂、中央にホワイトハウス、左はポトマック川

地形図の用途には大別して軍用と民生用がある。もとをたどれば、地形図は主に軍事作戦や国土防衛のための資料として整備されたのだが、近代国家が成熟する過程で、段階的に機密が解除され、国土の開発計画や民間のさまざまな用途に供されるようになった。

USGSは1879年に創設され、それまで陸軍工兵隊と内務省が行っていた地図製作業務を引き継いだ。1917年、アメリカの第一次大戦参戦を機に、海外(特に欧州)の地形図整備のために軍用地図部門が新たに編成されていった(下注)が、USGSは内務省のもとで民生用地形図の製作部局としてとどまり、現在に至っている。

*注 このとき陸軍工兵隊に設置された工作複製部隊 Engineer Reproduction Plant (ERP) が、第二次大戦下の1941年に、戦後日本の地形図作成にも少なからぬ影響を及ぼした陸軍地図局 U.S. Army Map Service (AMS) に発展する。

2008年以前、USGSの地形図は次のような体系を持っていた。

・合衆国全図 1:10,000,000(1000万分の1、1982年版)、1:7,000,000(700万分の1、1974年版)、1:6,000,000(1974年訂補版)、1:3,168,000(1インチ50マイル図、1965年版)、1:2,500,000(1972年版)
・1:1,000,000国際図
・1:500,000州別地図
・1:250,000 (1×2度地図 1x2 degree map)

*注 以上は、USGS "Index to Small-scale Maps of the United States", April 1, 1989による。ただし、第二次大戦以前の編集図は省略した。

・1:100,000 (30×60分地図 30x60 minute map)
・1:62,500 (15分地図 15 minute map)。アラスカ州は1:63,360
・1:24,000 (7.5分地図 7.5 minute map)。一部図葉は1:25,000

USGSが築いた地図体系は、さまざまな地図カタログからも跡をたどることができる。"Catalog of Maps"(下写真) は、地図の種類をサンプル図とともに列挙したリーフレットだ。本稿の記述の多くもこれに拠っているが、地形図はもとより、USGSのもう一つの重要業務である地質調査、鉱物資源探査などに関するカラフルな地図も多数紹介されていて、たいへん興味深い。内容はUSGSのサイトにも転載され、今でも残置されているが、地図画像が粗くて詳細が読み取れないのが残念だ。

■参考サイト
USGS地図オンライン版-地形図(内容は従来地形図廃止以前の状況)
http://egsc.usgs.gov/isb/pubs/booklets/usgsmaps/usgsmaps.html

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"Catalog of Maps" 1991年8月版、表紙と内容の一部

ほかに地形図に特化したものでは、小縮尺図(合衆国全図~1:250,000)の索引図 "Index to Small-scale Maps of the United States"、中縮尺図(1:100,000、郡別地図)の索引図 "Index to Intermediate-scale Mapping"、同(7.5および15分地図)の刊行・改訂範囲の表示図 "Status of Topographic Mapping" などがある。図葉ごとに刊行年次や異版の列挙など、刊行状況が詳しく記載されている貴重な資料だ。

これらは全国版だが、州ごとの編集版も別に用意されている。「刊行図索引図 Index to Topographic and Other Map Coverage」と「刊行図カタログ Catalog of Topographic and Other Published Maps」だ。

「刊行図索引図」は、当該の州に関するすべての地形図シリーズの索引図を集めたもので、簡単な紹介記事もついている。とりわけ1:24,000地形図の索引図は、居住地名、交通網、水部が描かれた図をベースにしていて、膨大な面数から見たい図葉が簡単に特定できる優れものだ。

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州別刊行図索引図、カリフォルニア州版 (左)表紙 (右)索引図の一部

「刊行図カタログ」は、縮尺別にファイル番号、図名、刊行年、索引コードを列挙したリストを収載している。索引コードというのはUSGSの作成図に共通のコード体系で、5桁の数字で緯度(2桁)と経度(3桁)を、次の2桁でその枠内の位置を、次の1桁で地図の種別を、次の1桁で単位系(フィートまたはメートル)を、次の3桁で縮尺を表す(下写真)。地形図の表紙や整飾にも必ず記載されていたが、新しいデジタル地図では省かれてしまった。

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刊行図カタログ、カリフォルニア州版 (左)表紙 (右)刊行図リストの一部
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索引コード

これらUSGSの地形図は直販サイトまたは合衆国内の主要地図商で扱っていて、旧体系の更新が廃止された今でも、現物のストックがあればそれを、なければプリンタ出力のコピーを送ってくれる。ただし、USGSの直販サイトは国内専用のため、国外から発注するには、注文書面をFAXか郵送しなければならなかった。しかし、高精度の地図画像が製作時期の新旧を問わずPDFファイルで直接入手できるようになった今では、その手間も昔語りになったといっていい。

ウェブサイトからのダウンロードについては、稿を改めて紹介することにして、次回は、この地形図体系を個別に見ていこう。

(2006年12月8日付記事を全面改稿)

Map images courtesy of the U.S. Geological Survey.

■参考サイト
合衆国地質調査所 USGS http://www.usgs.gov/
ナショナル・マップ(国勢地図) http://nationalmap.gov/

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 アメリカ合衆国の地形図-新シリーズ「USトポ」

 アメリカ合衆国の州別地図帳-ナショナル・ジオグラフィック
 ペリー・カスタネダ図書館地図コレクション
 カナダの地形図

2013年3月10日 (日)

アメリカ合衆国の州別地図帳-ナショナル・ジオグラフィック

赤表紙のデローム、黒表紙のベンチマーク・マップス、この二社で占められていたアメリカの州別地図帳界に、2012年、突如三社目が現れた。モバイル機器の普及で紙地図の未来にいささかの不安を抱いていただけに、それは予想外の朗報だった。新参の名乗りを上げたのは、黄表紙をまとうナショナル・ジオグラフィック・マップス National Geographic Maps。いうまでもなく、ナショナル・ジオグラフィック協会 National Geographic Society(以下、協会という)の地図部門だ。

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シリーズの1点 ミシガン州版

同部門は1915年の創設で、アメリカ地図業界では老舗の部類に入る。協会が刊行する「ナショナル・ジオグラフィック」誌の付録地図や掲載図を通じて、ほぼ1世紀にわたり、学術地図の分野で評価を確立してきた。また、地図帳、壁掛け地図(ウォールマップ)、レクリエーション地図や旅行地図など、学校教育や一般分野でも多数の製品を送り出している。その意味でこれは、大御所の登場と言えよう。

「レクリエーション・アトラス Recreation Atlas」と名づけられた州別地図帳シリーズは、昨年(2012年)5月に五大湖周辺のミシガン州とミネソタ州の2巻が刊行されたのが最初だ。同年9月に同じくウィスコンシン州と、南部のジョージア、アラバマ、フロリダの3州が続刊され、現時点で6州6巻が入手できる。また、公式サイトの告知によれば、間もなくニューヨーク、ペンシルベニア、バージニアの東海岸3州が、ラインナップに加わるようだ(2013年3月下旬刊行予定)。刊行のペースはかなり速く、デロームの向こうを張って全国をカバーするのも時間の問題かもしれない。

地図帳の判型は横11×縦15インチ(27.9×38.1cm)、ページ数は州によって異なるものの112~144ページだ。綴じ方や用紙の質を含めて先行2社と大差なく、同じ土俵での勝負は覚悟の上のようだ。

ページ構成はどうだろうか。最初の見開きは「全米道路地図 United States Highway Map」、次が当該州の道路地図で、幹線道路と主要都市を州境とともに描いたものだ。ベンチマークのように地勢を表すぼかしも入れられ、平面的な道路地図とは一線を画している。ただ、ベンチマークではここが導入部として効果的に使われていたが、協会版はテーマとなる州を目立たせたり、詳細図の索引図を添えたりしてはおらず、単なる扉地図という位置づけにとどまる。

次は「州内の見どころ Places of Interest」の紹介で、1個所10~20行程度の概要とともにカラー写真が配され、場所のイメージを喚起する。続く「自然・気候図 Physical & Climate Maps」では、見開きに土地利用図、地形学的あるいは生態系分類図、そして州内の降水量、気温、結氷初日、紅葉期間などを表した気候分布図が多数配置される。こうした情報ページは2社の及ぶところではなく、豊富な地理データを有する組織の特色が全面に出ている。

その後は、各社とも力を注ぐレクリエーション情報のページだ。協会版も、キャンプ場、州立公園、トレール、ゴルフ場・スキー場、湖・水浴場と、一通りのリストが揃っている。見開きの左ページに場所を記した州全図、右ページに文字情報をそれぞれ配置する方法は、ベンチマークの「レクリエーション」セクションと似ているが、まとめ方には違いがある。ベンチマークが区分図に含まれる地域単位で文字情報を一括りにするのに対し、協会版は情報の項目ごとに地図を当てる。つまり、行動するエリアが決まっていて、そこでどんなレクリエーションが楽しめるかを知りたいなら前者が役に立つ。そうではなく、やりたいスポーツが決まっていて、それが州内のどこでできるかを知りたいなら後者がいい。

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区分図の例、ミシガン州版表紙より
(c) natgeomaps.com, 2013

メインである区分図の図式にも個性が滲み出る。まず縮尺だが、デロームの場合、州によってまちまちで、州境を越えての探索に戸惑いを覚えることがある。その点、協会版は今のところ1:175,000(南部3州)か1:150,000(それ以外の州)に統一されている。今後、面積や人口密度が極端に異なる州が対象になってくればこれほどスマートには行かないだろうが、縮尺はできるだけ広域で揃っているほうが好ましい。

地図記号については、道路や公有地界などの表現はデローム(新図式)と似たり寄ったりだ。そもそも、道路の配色や番号を配する図形などは、道路地図で一般的に使われる一種の約束事になっていて、変えようがない。それに協会版の図式は1枚ものの旅行地図などで早くから使われていて、2009年ごろに現れたデロームの新図式のほうが後発だ。デロームが改良に際して協会版を参照したとすれば、似ていても不思議なことではない。

注記文字では、協会版はデローム新図式よりポイントが小さめだが、字体の工夫で決して読みにくくはない。むしろデロームのほうが、集落名のポイントの大きさと比べて街路名が小さすぎるなど、バランスの点で問題がある。

一方、地勢表現は、両者で大きな差があるところだ。デロームは、メッシュ標高から生成した等高線のため、滑らかさがなく、あまりに小さな閉曲線など一部で不自然な表現が残るが、読取りに支障はない。一方の協会版は、おそらくUSGS(合衆国地質調査所)のラスタデータを利用しており、正確な代わり、縮尺に比べて等高線間隔が狭くなる(注1)。平野部はともかく、ちょっとした傾斜地でもぎっしり詰まってしまう。ぼかし(陰影)も掛っているのだが、薄すぎるのか、影の部分が等高線の集積と重なるためか、効果を発揮していない(注2)。この点ではデロームに分があるだろう。

*注1 縮尺1:175,000で等高線間隔50フィート=15m。日本の官製1:200,000の同100mはもとより、1:50,000の同20mに比べても狭い。
*注2 3月刊行のペンシルベニア州版のサンプルでは、ぼかし効果の改良が見て取れる。

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区分図の凡例(一部)

根っからの地図ファンでもない限り、同じ州の地図帳を複数揃えようとは思わない。1冊だけ選ぶとすれば、デローム、ベンチマーク、協会版のどれにすべきか迷うところだ。そのうち、ベンチマークと協会版は、現時点では前者が西部、後者は中部から東部と棲分けができていて、競合しない。そのためか、協会自身のオンラインショップで、ベンチマークの地図帳が堂々と販売されている。

問題は、デロームと協会版が両方刊行されている州だ。比較すれば上述したような差異があるほか、協会版は、各ページに配された凡例(地図記号一覧)、現在ページや接続ページの明瞭な表示など、使い易さがよく研究されている。デロームの先駆者としての功績に敬意を払いつつも、全体的なデザインの洗練度も総合的に勘案して、筆者は協会版のほうに軍配を上げたいと思う。

■参考サイト
ナショナル・ジオグラフィック・マップスのページ http://www.natgeomaps.com/
地図帳に関する情報は、トップページ左メニューの"State Recreation Atlases"

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 アメリカ合衆国の州別地図帳-デローム社
 アメリカ合衆国の州別地図帳-ベンチマーク・マップス社
 アメリカ合衆国の道路地図-ランド・マクナリー社
 アメリカ合衆国の道路地図-カッパ・マップ、AAA他
 アメリカ合衆国の道路地図-公式交通地図

2013年3月 1日 (金)

アメリカ合衆国の州別地図帳-ベンチマーク・マップス社

前回紹介したデローム社の州別地図帳は、全米をカバーする唯一のシリーズなのだが、ロッキー山脈から西海岸にかけては、ライバルと目される地図帳が版図を拡げている。オレゴン州メドフォード Medford とカリフォルニア州サンタバーバラ Santa Barbara に拠点を置くベンチマーク・マップス社 Benchmark Maps の「ロード・アンド・レクリエーション・アトラス Road & Recreation Atlas」だ。

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シリーズの1点 モンタナ州版

こちらは等高線を用いない代わり、きわめて精密な陰影と高度に応じた彩色を組み合わせて、立体写真以上の鮮やかさで人の目を奪う。かつて、同社サイトで引用されていた書評にはこう表現されていた。「アリゾナは決して平坦ではない。この地図帳は州がどのように平坦でないかを細かいところまで手に取るように見せてくれる。」平板な道路地図が優勢な国ならでは、刊行時のインパクトの大きさが想像できる。

このシリーズで最初に世に出たのはニューメキシコ州版で、1995年のことだ。西海岸で地図製作を手掛けていた3つの会社が、見栄えと表現法を根本から変える地図帳をつくろうと共同研究した成果だった。斬新な地図表現は高い評価を得て、アメリカ測量地図会議 American Congress on Surveying and Mappingによって、その年の「ベスト・アトラス Best Atlas」に選ばれた。

余勢を駆って翌年のアリゾナ州版では「ベスト・アトラス」と「ベスト・オブ・ショー Best of Show」の二冠に、次のカリフォルニアを経て、地勢表現をさらに精緻化したオレゴン州版(1998年)では三たび「ベスト・アトラス」に輝き、ベンチマークはすっかりアメリカ地図業界の台風の目に成長した。それ以来、ワシントン、ユタ、ネヴァダ、アイダホ、コロラド、モンタナ、ワイオミングと1~2年ごとに続刊が発表され、2008年までにロッキー山脈とその西側の11州がすべて揃った。

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「景観」図の山地表現の例、ワイオミング州版表紙より
(c) Benchmark Maps, 2013

ベンチマーク地図帳は、そのページ構成に特徴がある。あたかも、拡大縮小や図種の切替えが自由なネット上の地図のように、対象のエリアについて縮尺を変え、表現を変えながら、徹底的に説明しようとするのだ。全体は「地域 Regionals」「レクリエーション Recreation」「景観 Landscape」、そして地名録である「索引 Index」の計4つのセクションから成っている。また、州によっては、さらに州都など中心都市の拡大図がある「都市近郊 Metro Areas」セクションが付随する。順に内容を説明していこう。

まず「地域」セクションは、地図帳への導入部に当たる。最初の見開きは合衆国本土全体の概観図だ。主なインターステート・ハイウェー(州間高速道路)と主要都市をプロットした縮尺1:9,600,000(960万分の1)の地勢図上に、テーマとなる当該州が白枠で示されている。次の見開きはその拡大版で、縮尺はほぼ倍の1:4,500,000(450万分の1)となり、近隣州の範囲がより詳細に示される。3番目の見開きは州全図で、縮尺はさらに大きくなり(例えばコロラド州の場合1:1,650,000)、小さな町の位置まで確かめられる。こうして、ページを繰るたびに地図がズームアップしていくので、なじみのない州でも国土における位置関係が容易に把握できるのだ。

次の「レクリエーション」セクションは、州を10面前後に割った区分図と情報集が、見開きで対になっている。地図は、コロラド州の場合、縮尺が1:500,000だ。地勢図のベースの上に、公有地や公園・森林・保護区など土地の管理区分を色分けしている。一方の情報集は、野外活動の適地や史跡・博物館などの概要と、連絡先や地図上の位置をまとめたレクリエーションガイドで、中心地の年間気温と降水量グラフも添えてある。機能的には、デローム地図帳のガゼッティアー(地名録)と同じだが、見開きにまとめたことで、検索のたびにページを繰る手間が要らない。

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「景観」図の凡例(一部)

「景観」セクションで、いよいよ地図帳のメインに移る。縮尺はさらに大きくなり、州によって異なるが1:200,000から1:400,000の範囲だ。これでもデロームと比べるとまだ小さめなのだが、それをハンディと感じさせることがない。

その理由は、第一に地勢表現の迫真性だ。鮮明かつ精細に描かれたぼかし(陰影)と、高度に応じてシームレスに変化する彩色。その絶妙なアンサンブルで、山塊のボリューム、尾根と谷の複雑な交錯、あるいは平原に刻まれた細かな襞を余すところなく描ききる。あたかも飛行機の窓から眼下の大地を眺めているようで、どこまでも飽きさせない。もちろんこれは手描きではなく、メッシュ標高データを用いて生成しているのだが、表現法としてはもはや芸術的な域に達している。

第二には、道路網描写の的確さをあげたい。道路網に使われている色の数は、デロームの新図式よりむしろ控えめだ。骨格となる幹線道路(地図帳の表現を使えば「出入口が限定されたハイウェー Limited Access Highway」)に青や緑を配するほかは、赤、橙、濃赤といった赤系の色に絞っている。しかし、色以外にくくり(縁取り)の有無や、実線・破線、線幅などを駆使することで、道路種別を効果的に表現する。たとえばくくりのない実線は幹線以外の舗装道、破線は同じく未舗装道の意味を持たせている。実際の図面では、都市近郊を除いてこの手のバックロード backroad が大半を占めているので、幹線道路と明瞭に区別でき、デザイン的にもスマートだ。

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「景観」図、河谷表現の例、オレゴン州版表紙より
(c) Benchmark Maps, 2013

「ロード・アンド・レクリエーション・アトラス」というタイトルから、実用に徹した内容を想像してしまう人もいるだろう。しかし、同社の代表ジョン・グランヴィル John Glanville の目標とするところはもっと高い。情報の質とまとめ方、地図としてのルック・アンド・フィール(見た目と使い勝手)でグーグルと差別化する、と彼は語っている。巨人グーグルに呑み込まれるどころか、むしろ品質では優位に立つ。どの州でも地図帳を一通り読めば、その意気込みが空手形でないことが伝わるはずだ。

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「1995年以来、100万部を優に超える地図帳が世界中の見識ある地図ユーザーに購入されてきた。地図帳を全巻買ったという人の話が私たちの耳に届くのは珍しいことではない。」同社のサイトには誇らしげにそう書いてある。筆者もその一人であることを嬉しく思うが、それと同時に、叶うならば、東部アパラチア山脈の地形を一度、ベンチマークの地図帳で見てみたいものだ。

ベンチマーク・マップスの地図帳は、アマゾン、紀伊國屋などのサイトでも扱っている。また、「レクリエーション」セクションに使われている地図は、「ベンチマーク・レクリエーション・マップ Benchmark Recreation Map」の名称で、1枚ものの折図(右図)としても販売されている。

(2006年12月21日付記事を全面改稿)

■参考サイト
ベンチマーク社 http://www.benchmarkmaps.com/

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