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2012年3月 1日 (木)

ドイツの1:25,000地形図

前回までの概説を踏まえて、これからドイツの地形図の特色を縮尺別に見ていきたい。デジタル地形図データベース「公式地形・地図情報システム Amtlichen Topografisch-Kartografischen Informationssystem(アトキス ATKIS)」にはさまざまな縮尺の地図データが管理されているが、全土をカバーするものでは1:25,000が最大だ。今回はこれをテーマに取り上げよう。

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1:25,000地形図表紙
(左)ツークシュピッツェ Zugspitze 1972年森林域加刷版
(中)リューベック Lübeck 1995年通常版
(右)ガルミッシュ・パルテンキルヘン Garmisch-Partenkirchen 2007年アトキス新図式版

紙地図なら緑の表紙の1:25,000地形図は、通常TK25という略号で呼ばれる。TKはトポグラフィッシェ・カルテ Topographische Karte(地形図)の頭文字、25はもちろん25,000のことだ。すでに多くの州でデジタル図化版に切り替わっており、それらは正確にはデジタルの頭文字を加えてDTK25とすべきだが、紙地図の場合、ひとまとめにTK25ということが多いようだ。

その歴史については、本ブログ「ドイツの地形図概説 I-略史」でも紹介したが、各期の特徴とともにもう一度まとめておこう。TK25のルーツは19世紀前半に実施されたプロイセン王国の地形測量(初期平板測量図 Urmeßtischblatt)に遡る。経度10分、緯度6分で区切る現在の図郭は、このときに確立されたものだ。

■参考サイト
1:25,000彩色平板測量図の画像
ベルリン北部 Berllin Nord
http://commons.wikimedia.org/wiki/File:Urmesstischblatt_3446_(Berlin_Nord)_um_1840.jpg

ドイツ統一後、1876年に改めて測量事業が開始され、1931年までに、改測を含めて整備を完了した(下注)。当時の測量方式は地上で平板(ドイツ語でメスティッシュ Meßtisch)を用いるものだったので、地図に対して「メスティッシュブラット Meßtischblatt(平板測量図)」という呼称が広まった。まだ紙地図にデジタル図化版を採用していない州では、今なお、この19世紀以来の伝統を保つ旧図式が使われている。

*注 なお、バイエルン州地図目録(1990年版)によれば、同州域全558面が完成したのは、もっと後の1960年で、製作には空中写真も併用されたとしている。

■参考サイト
1:25,000平板測量図の画像
ボン Bonn 1906年追補版
http://commons.wikimedia.org/wiki/File:Bonn1906.jpg
ドレスデン Dresden 1904年版(ザクセン王国による刊行図)
http://de.wikipedia.org/wiki/Datei:Messtischblatt_Dresden_1904.jpg
シュヴィーブス Schwiebus、現ポーランド シフィエボジン Świebodzin 1933年修正版
http://de.wikipedia.org/wiki/Datei:Messtischblatt_nr_3759_(Schwiebus)_z_1933.jpg

当初は黒1色で刷られていたが、1920年代には等高線を赤茶色に、水部を青色に分版して3色化したものが、さらに第二次大戦後の1950年代から、森林を緑(アップルグリーン)でベタ塗りした4色刷のものが登場した。通常版 Normalausgabe(略号TK25N)に対し、後者は森林域加刷版 Normalausgabe mit Waldflächen(略号TK25NW)と呼ばれていた。その異版として、庭園や植生記号も分版して緑色を当てた図葉もある(下注)。1色刷に比べればずいぶん見栄えが改良されたが、初めから多色刷を前提に設計されたTK50(1:50,000)などと比べると、まだ十分とは言えなかった。

*注 かつてはこのほか、1色刷の作業用(TK25E)、ハイキングルート加刷版(TK25W、バイエルン州など)といった各種のバリエーションがあった。現在残っている旧図式の地形図では、緑を加えた4色刷が通常版 Normalausgabe と呼ばれている。

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1:25,000旧図式、緑(アップルグリーン)の塗りを加えた4色刷
フュッセン Füssen 1984年版
(c) Landesamt für Vermessung und Geoinformation Bayern, 2012

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旧図式の凡例(鉄道と道路)

ちなみに、TK25に対して筆者が違和感をいだいていたのは、鉄道の記号だ。ドイツのそれは、わが国の地形図が影響を受けたこともあって、棒を白黒に塗り分けた旗竿式のイメージが強い。だが、実はこれは1:100,000帝国図で用いられた様式だ。TK25のほうは、旗竿の中の黒塗りがなく、梯子のようなデザインになっている(右写真の上)。複線の場合、梯子の横木を二重にして表し、狭軌線は、横木の間隔を2倍に延ばす。しかし、このデザインは旗竿に比べて、線描主体の図中ではあまり目立たないのだ。後発の帝国図は地勢表現がケバ式であることもあって、設計者は視認性を高めようと隙間を黒塗りにしたのだろう。ただ、駅構内や操車場など線路が何本も並ぶ区間は、帝国図やその流れを汲むTK50の図式でも、梯子式を使っている。

それはさておき、ドイツが東西に分割されていた冷戦時代、西側の市民が、東側の作成した地形図を目にする機会はまずなかった。しかし、そのような状況下でも、東側の地形をつぶさに知ることは難しくなかった。連邦の測量局である応用測地研究所 Institut für Angewandte Geodäsie (IfAG)(現 連邦地図・測地局 BKG)が、第二次大戦以前に作成された地形図を複製・頒布していたからだ。

対象範囲は、共産圏に取り込まれた第一次大戦以前の領土全域とされたので、東ドイツのみならず、ポーランドやソ連領となった旧 東プロイセン Ostpreußen にまで及んだ。もちろんその中で最大縮尺であり、等高線の入った唯一の地図がTK25だった。東欧民主化に伴って各国で地形図の公開が進んだことで旧図が持つ貴重性は薄れたが、現在でも頒布サービスは継続されている(下注)。

*注 ドイツ領内の旧図は各州の測量機関が、東部の旧領土についてはBKGが頒布している。

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東部旧領土の1:25,000
ケーニヒスベルク Königsberg (現ロシア領カリーニングラード)東部 1937年追補版

その東ドイツでは、東欧共産圏(ワルシャワ条約機構加盟国)で共通の図郭・図式で地形図が製作されていた。1990年の再統一後、図郭はもとに戻され、西側と接合されたが、図式については、共産圏時代のものがおおむね引継がれた。そのため、地名の書体や記号デザインだけでなく、等高線の計曲線が25m刻み(TK25は20mまたは50m)というように、西側のTK25とは大きく異なっていた。ただ、主要道路を示す赤茶色の塗りを省き、居住地の範囲を示す塗りも黒のアミに変えるなど、細部ではTK25の図式との整合が取られたようすも窺える。

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計曲線(太い等高線)は25m刻み
新連邦州1:25,000 ヴェルニゲローデ Wernigerode 1997年版
(c) Landesamt für Vermessung und Geoinformation Sachsen-Anhalt, 2012

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旧図式(東部様式)の凡例(鉄道、道路、植生)

新連邦州(旧東独地域)ではこれが通常版とされていたが、それもアトキスによる新図式に切り替わるまでのつなぎで、実質的に暫定版だったといってよい。冒頭で紹介したアトキスの出力イメージを使用した新たなTK25の準備は、1990年代からすでに着手されていたからだ。ブランデンブルク州の場合、旧図式の更新は2001年が最後で、同じ年に新図式での刊行が始まっている。

それでは、現在の州別の状況はどうなっているのだろうか。下表にまとめてみた。北部のシュレースヴィヒ・ホルシュタイン州(ハンブルク州域を含む)と南西部のバーデン・ヴュルテンベルク州以外は、新図式に切替えられた。TK50やTK100 に比べてもTK25の切替え率は高く、古い図版から早期の移行が求められていたことが読み取れる。

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官製地形図 図式変更の現状

新旧図式には決定的な違いがある。旧図式は、銅版に彫ることを前提にして、線ですべてを表現する。たとえば密集市街地でも、斜線を用い、決して塗りつぶすことはない。それに対して新図式は、土地利用景のような面的な広がりを色面で表現している。森林や耕作地はもとより、居住地や工場地域も塗りの色で区別し、黒抹家屋のような総描方法は用いない。

これはデジタル地図では一般的な表現方法なのだが、1:25,000のような大きめの縮尺で印刷物にすると、甚だ締まりのない図になってしまう。実際にこのイメージを使ったヘッセン州やテューリンゲン州(下注)のTK25を、細部まで描き込んでいた旧図式と並べると、前者はまるでラフスケッチだ。さすがに作成側もこの落差に気づいていたのだろう。多くの州では、居住地の塗りの上に黒抹家屋を重ねる措置を施している(下図参照)。確かにこうでもしなければ、見る側も落ち着かない。

*注 テューリンゲン州も、2010年以降に刊行されたTK25は黒抹家屋を加えたものになっている。

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居住地を塗りのみで表した例
ATKIS新図式1:25,000 オーバーカウフンゲン Oberkaufungen 2010年版
(c) Hessisches Landesamt für Bodenmanagement und Geoinformation, 2012
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居住地の塗りの上に黒抹家屋を重ねた例
ATKIS新図式1:25,000 ボッパルト Boppard 2009年版
(c) Landesamt für Vermessung und Geobasisinformation Rheinland-Pfalz, 2012

TK25には、さらなる発展形も出現している。バイエルン州では2007年以降、新図式のTK25に地勢を表すぼかし(陰影)が入った(下図参照)。コンピュータグラフィックと多色化で格段に明瞭性を増した図面に、今度は立体感が加わったわけだ。地形図のデジタル化では、機能性を重んじるあまり、デザイン面の配慮が不足しがちだが、バイエルンのTK25はそうした懸念を払拭する出来栄えだ。特に南部バイエルンアルプス一帯の図葉は、陰影に富んだ美しい仕上がりで、観賞にも耐える。

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ぼかし(陰影)を加えた例
ATKIS新図式1:25,000 ガルミッシュ・パルテンキルヘン Garmisch-Partenkirchen 2007年版
(c) Landesamt für Vermessung und Geoinformation Bayern, 2012

同州ではそれとは別に、ぼかしは掛けないが、図郭を拡大して旅行情報を付加したATK25と称する新シリーズも、州全域で展開の予定だ。TK50(1:50,000)が魅力の乏しい図面に変質(次回詳述)する一方で、今後はTK25が、ドイツの地形図体系の主役を担っていくのかもしれない。

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