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2012年3月20日 (火)

ドイツの1:200,000地形図ほか

各州が地形図作成に責任を負うドイツでも、1:200,000以下の小縮尺については連邦政府の所管下にある。担当しているのは、内務省に属する連邦地図・測地局 Bundesamt für Kartographie und Geodäsie(略称BKG)という部局だ。ここで1:200,000(略称TÜK200)、1:500,000(同TK500)、1:1,000,000(TK1000)の各地形図、それにDTK250とDTK1000の地図データベースが製作されている。地形図のなかで1:200,000だけ、TKではなくTÜKと略称が異なる。それは「地勢図 Topographische Übersichtskarte」の頭文字を取っているからだが、名称は戦前から存在した。

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1:200,000地形図表紙
(左)ベルリン Berlin 1985年ぼかし版
(中)ロストック Rostock 1992年暫定版(東部様式)
(右)ライプツィヒ Leipzig 2011年版(改訂図式)

TÜK200の前身は、19世紀の終わりから第二次大戦にかけて製作されていた「ドイツ帝国地勢図 Topographische Übersichtskarte des Deutschen Reiches」だ。前回紹介した1:100,000帝国図の4面分を1面に収める縮尺なので、名称に、見通しとか概要を意味するユーバージヒトÜbersichtの語が付加されたのだろう。2色(黒、青)または3色刷(黒・青・茶)で、地勢表現には1:100,000のようなケバではなく、20m間隔の等高線を用いた近代的な地形図だった(下図参照)。帝国地勢図は、第一次大戦以前の帝国全土を196面でカバーした。

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1:200,000帝国地勢図の例 アーヘン Aachen 1917年版
image from GeoGREIF

第二次大戦後、地形図体系を再編する過程では、まず縮尺の選択が議論の対象になった。というのも、1:200,000は世界的に見れば少数派で、ドイツの戦後処理に関わった連合国(英米仏)をはじめ、西側諸国では1:250,000が一般的なのだ。しかも、米国陸軍地図局AMSは、戦時中からドイツを含む西ヨーロッパ全域の1:250,000地形図(M501シリーズ)を作成しており、これをベースにすれば編集作業も捗るはずだった。試作図も検討されたが、最終的に採用されたのは1:200,000のほうだった。資料(下注)はその理由を、米軍に1:250,000の図式規程を改訂する用意がなかったためとしている。

*注 Hermann Seeger et al. "Geschichte des Instituts für Angewandte Geodäsie" Deutsche Geodätische Kommission, p.211

1950年にフランクフルト Frankfurt am Main に設立されていた応用測地研究所 Institut für Angewandte Geodäsie (IfAG) が、TÜK200をはじめとする小縮尺図を担当した。TÜK200の製作は1958年に着手され、早いものは1963年に、最後まで残っていたベルリン Berlin、ゴスラー Goslar、エアフルト Erfurt 図葉も1973年に完成して、西ドイツ全土をカバーする44面が出揃った。

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1:200,000図の例
フランクフルト・アム・マイン西部 Frankfurt a.M.-West 1980年版
© Bundesamt für Kartographie und Geodäsie, 2012

ただし、バイエルン州との間には一悶着があった。これも上記資料によると、「1961年にバイエルン州から管理協定解除の通告があり、すでに試し刷りもできていた同州5面の作業が中止された。1962年、同州の図葉については、バイエルン州測量局 Bayerisches Landesvermessungsamt が IfAGに編集作業を委託し、刊行は自ら行う形で作業が再開された」。このような経緯で、1998年に両者の間で改めて協定が結ばれるまで、バイエルン州12面だけは表向き、同州測量局の製品として販売されていた(下注)。

*注 後述する東部各州(新連邦州)の図葉作成に際しても、ザクセン州 Sachsen で同じ問題が起こった。当時の一覧図には、ザクセン州2面は同州測量局が刊行すると記されているが、間もなく撤回された。

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バイエルン州1:200,000地形図表紙 州の紋章が配されている
(左)ミュンヘン München 1978年通常版(ぼかしなし)
(右)ニュルンベルク Nürnberg 1989年通常版(ぼかしあり)

地図は黄色の表紙をもち、図番の前にローマ数字の200を意味するCCをつけている(例:CC 1510)。図郭はTK100の4面分に当たる経度1度20分×緯度48分の範囲だ。通常版 Normalausgabe は焦茶、黒、青、薄茶、濃緑、淡緑、赤の7色刷だが、これとは別に、地勢のぼかし(陰影)を加えた10色刷のぼかし版 Schummerungsausgabe もあった(下注)。なお1980年代後半に、(旧)通常版は作業版 Arbeitsausgabe に、(旧)ぼかし版が通常版に改称されたため、通常版の仕様が製作年次によって異なるという現象が生じた。

*注 平野部の図葉はぼかしが付けられていない。また、ベルリン図葉のように、東西国境を紫で強調した8色刷(ぼかし版は11色刷)もある。

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かつての通常版とぼかし版
(左)旧 通常版 フライブルク南部 Freiburg-Süd 1977年版
(右)旧 ぼかし版 同 1985年版
© Bundesamt für Kartographie und Geodäsie, 2012

TÜK200は連邦の機関が製作しているので、全ての図葉で仕様が統一されるはずだ。しかし、ドイツ再統一後、新連邦州となった旧東独地域については、この原則が守られなかった。共産圏の図式に準じ、図郭を連邦式に変更した暫定版 vorläufige Ausgabe (TÜK200 VA) が作られたからだ。暫定版は、1978~88年の旧東独1:200,000地形図(国家版 Ausgabe Staat)をベースにして1992~93年に製作された。オリジナルは黒、青、淡緑、赤(実際はキャロットオレンジに近い)の4色刷だが、分版により7色刷(黒、焦茶、薄茶、青、淡緑、赤、黄)とされた。色が変わった以外、旧東独図と暫定版の間で記載内容の異同はない(下図参照)。

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新連邦州の暫定版は旧東独図を利用
(左)旧東独 国家版 N-33-XIV Stralsund 1983年版
(右)TÜK200暫定版 シュトラールズント Stralsund 1992年版
© Bundesamt für Kartographie und Geodäsie, 2012

この、西部の従来図式と東部の暫定版が並存した時代は意外に長く、10年続いた。この間、1997年8月に応用測地研究所 IfAG は、現名称の連邦地図・測地局 BKG に改称されている。

ようやくTÜK200の改訂図式が適用されたのは、2003年版からだ。従来図式に一部手が加えられた程度だが、見た目はけっこう違う(下図参照)。変更点の第一は、他の縮尺と同様に、市街地の表現を黒抹家屋からベタ塗りに変えたことだ。この時点では色がアンバー(褐色)だったため、図面全体が重苦しかった。しかし、後にサーモンピンクに代わり、他の色も明度が上がって、印象が一変した。第二はぼかし効果の見直しだ。黄色を弱めた(あるいは省いた)せいで、ぼかしが旧版ほどくっきりと目立たなくなった。新版の発売は2004年夏から始まり、暫定版が優先的に置換えられた。現在は全59面が改訂図式になり、地形図の世界でもドイツ再統一が完了している。

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TÜK200改訂図式への切替え
(左)東西国境が描かれた旧図式 ゴスラー Goslar 1987年版
(右)改訂図式 同 2010年版
© Bundesamt für Kartographie und Geodäsie, 2012

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幻の1:250,000
表紙(見本図)

ところでTÜK200の図式は、前回までに見てきたTK100やTK50のようなアトキス ATKIS 仕様ではない。なぜなら、アトキスは1:200,000のデータを持たず、最も近いのは縮尺が1:250,000(DTK250)だからだ。まるで1950年代の選択結果が仇になったような話だが、データベースの縮尺をあえてそうしたのには理由がある。欧州共通のユーロリージョナルマップ EuroRegionalMap(下注)が1:250,000で設計されており、各国はそれにデータを供給する必要があるのだ。実は、DTK250の紙地図フォーマットも試作され(右図参照)、2006年に公表されたのだが、使われないままになっている。

*注 ユーロリージョナルマップは、欧州各国の測量機関が参加する組織ユーロジオグラフィクス EuroGeographics が開発した、欧州全域をカバーする1:250,000汎用ベクトルマップ。

BKGが製作する地形図には、このほか1:500,000(TK500)と1:1,000,000(TK1000)がある。TK500も、TÜK200と同じく、対応するアトキスデータが存在しないため、従来図式のままだ。オリジナルは図郭の重複がない国際図1404シリーズ World Serie 1404だが、1980年代で廃版となり、それを集成した横98×縦127cmの大判図 Großblatt が4面で全土をカバーした。これは図郭の重複がかなりあったが、用紙サイズを78×102cmに縮小し、図郭の重複を少なくした改訂版が2005年に刊行された。

一方、TK1000は、1面で全土をカバーするので、都市の位置関係や地勢などドイツの地理を概観するのに適した地図だ。アトキス図式に置換えられたことにより、以前のような等高線ではなく、ぼかし(陰影)のみで地勢を表現している。

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(左)1:500,000表紙 東南部 Südost 1985年初版
(右)1:1,000,000表紙 2009年版

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1:500,000図の例
(左)旧図式 図番3 南東部 1985年版
(右)新図式 BKG提供のサンプル図 2012年
© Bundesamt für Kartographie und Geodäsie, 2012

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1:1,000,000図の例 2009年版
© Bundesamt für Kartographie und Geodäsie, 2012

■参考サイト
BKG  http://www.bkg.bund.de/

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