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2012年2月25日 (土)

ドイツの地形図概説 III-カタログおよび購入方法

外国の官製地形図を手に入れたい、というときにどうしたらよいか。ヨーロッパの他の国なら、おそらく数行で片付いてしまうような実用的話題でも、ドイツの場合は一項目設けるだけの価値がある。

まずは各測量機関が作成している製品カタログを一読することをお勧めしたい。ドイツ語で Kartenverzeichnis(カルテン・フェアツァイヒニス=地図目録)あるいは外来語そのままに Produktkatalog(プロドゥクト・カタローグ)などと題されている。たいてい公式サイトの、地形図を解説しているページかその近くにPDFファイルで上がっている(下注)。

*注 各測量機関サイトのURLは、「官製地図を求めて-ドイツ」および各州のページにあるURL欄に記載している。

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各測量機関のカタログ

たとえば、最も充実しているヘッセン州の場合、製品カタログは5分冊になっていて、第1号 Heft 1が地図(現行の)とCD-ROM/DVD製品 Karten und CD-ROM/DVD-Produkte、第2号が旧版地図 Historische Karten、第3号が空中写真製品 Luftbildprodukte、第4号がデジタル地理基礎データ Digitale Geobasisdaten、第5号が一般情報 Allgemeine Informationen という構成だ。

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ヘッセン州製品カタログ (左)第1号、(右)第2号

ドイツの測量機関が刊行する地図製品は、現行の地形図やデジタルデータにとどまらない。ハイキングやサイクリングのルート、休憩施設などを加刷した旅行地図が州域をおおむねカバーしているし、旧版地図つまり過去の地形図は、18世紀の初期測量図から複製品のストックがある。製品カタログには、こうした製品の特徴、一覧図(図番、図名、製作年などを含む)、価格などが詳しく記載されていて、頼もしい道案内を務めてくれる。

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カタログ集成版

しかし、惜しいことにカタログには自局の製品しか載っていない。連邦各地の地形図がほしいと思えば、それぞれの測量機関のカタログに当らなければならない。かつては、全測量機関(当時は旧西独地域)のカタログをリング綴じしたファイルが存在した(右写真)。これは、前回紹介した協議機関、ドイツ連邦共和国州測量機関作業委員会 Arbeitsgemeinschaft der Vermessungsverwaltungen der Länder der Bundesrepublik Deutschland (AdV) がヘッセン州測量局に委託して作成した集成版 Sammelband だった。厚さが5cmもあって、わが家に郵送されてきたときは予想外のボリュームに腰を抜かしたものだ。

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総合地図目録
1995/96年版

しかしこの形式は1992年で終了し、翌1993年から、新連邦州(旧東独地域)の製品を含めて1冊に編集した総合地図目録に切り替わった(右写真)。収録内容は現行地形図と、その集成図である地方図 Gebietskarte、旅行地図などの特別地図 Sonderkarte に絞られたが、これまで目にしたことのなかったドイツ全土のTKシリーズと東独全域のAS、AVシリーズの地図一覧図が添付されていたので、たいへん重宝した。写真は第2版に当たる1995/96年版の表紙だ。残念ながらこれも、知らない間に廃刊になってしまった。

現在、国内すべての公式地図製品を概観できる資料やサイトは見当たらない。州が製作を担っている1:100,000とそれより大縮尺の地形図については、一覧図も州別でがまんするしかないようだ。

さて、入手したい地形図の目星をつけたら、次は発注にとりかかることになる。方法は2通りある。一つは各測量機関への直接発注、もう一つは民間の地図店への発注だが、それぞれメリットとデメリットがある。

測量機関直注のメリットの第一は、カタログ掲載の地図が在庫切れでない限りすべて揃っていることだ。特に旧版地図の複製品や空中写真などは、地図店でほとんど扱っていないし、ノルトライン・ヴェストファーレン州のように市販しなくなった場合(下注)もほかに選択肢がない。メリットの二つ目は、定価で買えることだろう。地形図の価格はヘッセン、バーデン・ヴュルテンベルク、バイエルン州などを除いて5ユーロに設定されているが、これは測量機関での販売価格だ。地図店の店頭では、1~2割のマージンを上乗せした価格になる。

*注 ノルトライン・ヴェストファーレン州は、地形図の刊行を廃止し、直注のオンデマンド方式でのみ頒布している(前回の記述参照)。また、ヘッセン州は、2012年1月1日から地形図の市販(地図商・書店での販売)を行わなくなった。旅行地図等はこの限りではない。反対にバイエルン州は直販を行っておらず、市販のみ。

では、いいところばかりかというと、そうでもない。カタログと同じく、原則的に自局の刊行物しか取り扱っていないのだ。地形図の場合は、隣の州が製作したものでも、図郭に自分の州域が含まれれば販売しているが、例外措置はその範囲にとどまる。全国各地の地図がほしいと思えば、それぞれの州とコンタクトをとる必要がある。これはいかにも不便だ。

さらに問題なのは代金の支払いで、ネットショッピングのサイトがある場合でも、たいてい即時決済はできない。請求書が郵送されてくるので、そこに書かれている銀行口座に対して、市中銀行か郵便局の窓口から指定金額を振込むことになる。請求書はドイツ語だし、送金手数料も数千円かかる。手続きとしてはたいへん煩雑で、ハードルが高い。

一方、民間の地図店の場合は、上記のメリット、デメリットが逆転する。特殊なものは扱っていないし、少々価格は高くなるが、全国の地図が買え、支払いにクレジットカードやペイパル PayPal が使える。ただし、ドイツ国外の地図店の場合は概して価格が高く(下記のような例外はあるが)、需要度を反映してか、扱っているのは旅行地図が中心になる。さまざまな種類の地図をできるだけ早く入手するには、同国内の地図店に依頼することだ。

筆者は、時々の事情に応じていくつかの店を使い分けている。急がないときは、手近な紀伊國屋書店BookWebをまず探す。ここのレパートリーは主として旅行地図だが、バイエルン州やバーデン・ヴュルテンベルク州の地形図もリストに上がっている(Topographische Karte などの語句で検索するとよい)。すべて取寄せのため届くまでに3~4週間かかるが、日本語で手続きでき、価格も現地とほぼ同じなので、お勧めだ。

急ぐ時やここにないアイテムは、ドイツ国内の地図商の MapFox.de か Karten-Schrieb に注文を出す。前者はオンライン画面で発注し、添付メールで送られてくる見積書に従って、銀行送金する。画面表記はすべてドイツ語なので、その知識が必要だ。後者は発注画面が用意されていないので、最初から英語でメール発注する。前者と同じように見積書が送られてくるが、こちらはペイパル決済が可能だ。いずれも現地価格(店によって価格設定は異なる)だが、日本への送料が7~20ユーロ加算される。現物は2週間もあれば到着する。

他に、クレジット決済ができる地図店サイトもある。地図購入に関する情報は、上記「官製地図を求めて」各ページの現地販売の項を参照されたい。

次回からは、縮尺別にドイツの地形図の特色を探っていく。

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2012年2月18日 (土)

ドイツの地形図概説 II-連邦と州の分業

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ドイツ各州の位置関係

インターネットで流れる情報がまだ多くなかった1990年代、筆者は地形図のカタログを取り寄せるために、各国の測量機関にせっせと手紙を書いていた。中でもドイツとのやりとりは頻繁だった。というのも、日本なら公の測量機関といえば国土地理院のことだが、連邦制を採用するドイツの場合、連邦政府だけでなく、州(ラント Land)にも測量機関があり、自州の地形図を作っていたからだ。これがドイツの地形図体系を特徴づけるもう一つの要素で、歴史の縦軸に対して地域性の横軸というべきものだ。

連邦の測量機関は、名称を「連邦地図・測地局 Bundesamt für Kartographie und Geodäsie(以下、BKGと略す)」という。本拠を首都ベルリン Berlin に、地理情報部門をフランクフルト・アム・マイン Frankfurt am Main に置いている。片や、州の測量機関はそれぞれ州政府が設置していて、名称もさまざまだ。ドイツの州は、歴史的経緯から市に州と同格の権限を付与しているベルリン Berlin、ハンブルク Hamburg、ブレーメン Bremen を含めて16を数える。連邦と16州、計17もの測量機関がひしめいていて、いったいどのように分業しているのだろうか。

ドイツの憲法に当たる基本法 Grundgesetz では、土地利用計画の策定について各州の権限(下注)としている。州は自ら土地測量を実施し、現地資料を収集し、その成果をもとに地形図の製作を行う。地籍管理についても同様だ。

*注 2006年の基本法改正で土地利用計画の策定は、いわゆる競合的立法権 Konkurrierende Gesetzgebung(連邦が法律で定めない範囲で州が立法権を有する)から大綱的立法権 Rahmengesetzgebung(連邦の大綱法の範囲内で各州に詳細を委ねる)の範疇に変更された。

地形図には大小さまざまな縮尺があるが、1:100,000とそれより大縮尺のもの(1:50,000、1:25,000など)は、州が自らの州域について製作の責任を負うことになっている。これはもちろん、全国共通の図式規程 Musterblatt に則り、図郭や図番を含めて基準の一律化を図った上での分担制だ。ただし、州と同格の上記3市はエリアが小さいため、中・小縮尺図については隣接する州の測量機関に業務を委託している(下注)。また、2つ以上の州にまたがる図葉は、含まれる面積が大きいほうの州が作る。もし、手元にドイツの地形図がおありなら、表紙の下部に注目されたい。製作した測量機関名が、州の紋章とともに記載されているはずだ。

*注 ベルリン州の州域はブランデンブルク州、ハンブルク州の州域はシュレースヴィヒ・ホルシュタイン州、ブレーメン州の州域はニーダーザクセン州の各測量機関に業務委託されている。

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地図表紙の州紋章

一方、連邦BKGが受け持つのは、より小縮尺の図に限られる。すなわち1:200,000、1:500,000といった広範囲を概観する地形図は、BKGが、各州が製作した地形図などから編集のうえで刊行してきた。このような連邦と州の分業は、アトキスATKISと呼ばれる地形図データベースの維持更新作業でも全く同じルールだ。

統一基準が定められているとはいえ、技術革新その他に伴って改定が必要になった場合はどうするのだろうか。各測量機関が協議する場として設置されているのが、ドイツ連邦共和国州測量機関作業委員会 Arbeitsgemeinschaft der Vermessungsverwaltungen der Länder der Bundesrepublik Deutschland (略称AdV)だ。地理情報に関する基本事項や州域を越えた重要事項はここで決定される。地形測量に関するさまざまな基準・規則を策定し、地図情報データベースの開発と応用の分野でも中心的な役割を担っている。

ところが、この枠組みで一糸乱れぬ統制がとれているのかというと、各論では必ずしもそうではない。特に紙地図は最近、種々の規格が入り乱れて混沌とした状況に陥っている。その原因は、アトキスの導入に伴って施行された図式変更にある。これによって、新旧2種類の異なる図式が併存することになったからだ。地形図の表紙に通常版 Normalausgabe と記載されているのは旧図式、アトキスのマークが入っていれば新図式が適用されている。1990年にデータベースの構築が始まってから20年以上になるが、紙地図の対応は州によって温度差が甚だしく、そのため旧図式の地図もまだかなり流通している。

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官製地形図 図式変更の現状

現状を表(上の画像)にまとめてみた。州・縮尺別にOは旧図式、Nは新図式を表しているが、17ある測量局の間で、また7種の縮尺の間でも全く統一がとれていない状況が見てとれるだろう。

シュレースヴィヒ・ホルシュタイン州やバーデン・ヴュルテンベルク州のように旧図式にこだわり続けているところもあれば、東部各州のようにあらかた新図式を普及させたところもある。さらに、新図式も一様ではなく、黒抹家屋を描くか否か(下注)、地勢を表すぼかしを入れるか否かといった細かなバリエーションがすでに生まれているのだ。詳しくは縮尺別に稿を改めて紹介するが、この状況を移行期として片づけるにはあまりに長すぎるし、規模から見てもこのカオスが収束するのはかなり先になりそうだ。

*注 黒抹家屋 Einzelne Gebäude は黒の小さな矩形を並べる集落の表現法。「実際の大きさ、家の数とは無関係に、既定の大きさで」(武揚堂『図説地図事典』1984  p.297)描く総描法の一つ。

また、北隣のデンマークで実施されているような紙地図刊行を見直す動きも、一部の州で起きている。たとえば、ノルトライン・ヴェストファーレン州の州域の地形図は、もはや市中の地図販売店では取り扱っていない。なぜなら、測量局機能の整理に伴って、オフセット印刷による通常の刊行を中止し、オンデマンドでの対応に切替えてしまったからだ。各州の測量局は地形図を利用した旅行地図を作っているが、同州はこれも民間会社に委ねてしまい、地図のストックを持たなくなった(下注)。

*注 ノルトライン・ヴェストファーレン州は行政改革の一環で、2008年に州政府直轄の測量局を廃止し、その機能をケルン県庁 Bezirksregierung Köln の一部局に置いた。地図刊行事業はこのとき廃止された。

オンデマンドの地形図とはどのようなものかと、該当部局に直注したところ、厚めの用紙にデジタルプリンタで出力したものが送られてきた(下図参照)。内容は地形図そのものだが、体裁はずいぶん違う。表紙部分もなければ、地図記号・凡例、道路・鉄道の到達先注記なども省かれ、整飾部分には図番・図名と縮尺、それに著作権表示程度しかない。図郭も、経緯度ではなくUTM座標系で区切っているため、従来図郭とずれが生じる分、広めに取られていた。

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オンデマンド印刷の地形図の例
1:50,000 ボン Bonn
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一部を拡大
(c) GEObasis.nrw, 2012

これほど徹底的な例でなくても、地図刊行物のデジタル印刷への切替えなどはヘッセン州でも始まっている。ただ、こうした動きは全国一斉ではなく、各州の裁量に任されているのがドイツらしいところだ。統一されたデータベースと図式規程がありながら、紙地図のような製品になると考え方の違いが表れる。連邦制における州間の協調と独自性の微妙な関係は、地形図体系にも少なからぬ影響を及ぼしているのだ。

それでは、こうした地形図はどうやって入手したらよいか。次回はその実践法を紹介したい。

■参考サイト
ドイツ連邦共和国州測量機関作業委員会(AdV)
http://www.adv-online.de/
連邦地図・測地局(BKG)
http://www.bkg.bund.de/
ケルン県庁第7局(ノルトライン・ヴェストファーレン州基礎地理局)
http://www.bezreg-koeln.nrw.de/brk_internet/organisation/abteilung07/

官製地図を求めて-ドイツ
http://homepage3.nifty.com/homipage/map/map_germany.html

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2012年2月 2日 (木)

ドイツの地形図概説 I-略史

中小国の分立状態から統一国家へ、2度の敗戦を経て東西に分割、そして再統一と、19~20世紀のドイツ史は波乱に満ちている。地形図製作の歴史もその動きを反映して、実に多彩だ。さらに現代ドイツは、広い自治権を有する16の州から成る連邦制をとっている。土地測量は州の権限とされ、地形図データベースの整備も各州と連邦の分担方式だ。

いつものように地形図体系を紹介する前に、歴史の縦軸と地域性の横軸、この2つの特徴を押さえておくことが、この国の地形図を理解する上で助けになるだろう。今回は、そのうち縦軸に焦点を当てて、同国地形図の歴史を概観してみよう。

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1:25,000平板測量図の例
シュテティーン Stettin (現ポーランド シュチェチン Szczecin) 1938年版

ドイツの地に近代測量が広まるのは18世紀後半からだが、それから約1世紀の間は領邦国家と呼ばれる中小の独立国が、各々独自の体系で領内の地図を作成していた。初期の例として、北部のハノーファー王国では1764~1786年に作られた縮尺1:21,333相当のクーアハノーファー測量図 Kurhannoversche Landesaufnahme 165面(下記参考サイト)、南西部の各邦では1797年に完成した縮尺1:57,600相当のシュミット図 Schmitt'sche Karte 198面などがある。いずれも地勢をケバ式で表し、都市・集落や水部、耕作地などを彩色した美麗な手描き地図だ。

■参考サイト
クーアハノーファー測量図の画像(2点)
http://de.wikipedia.org/wiki/Datei:Syke_Kurhannoversche_Landesaufnahme_1773.jpg
http://commons.wikimedia.org/wiki/File:Weyhe_Kurhannoversche_Landesaufnahme_1773.jpg
シュミット図のインタラクティブマップ
http://mapire.eu/en/map/schmittsche-karte/

1815年のウィーン議定書によって領土を拡張したプロイセン王国は、1822年から全土の測量事業に着手し、1850年までに縮尺1:25,000の手描き彩色図(初期平板測量図 Urmeßtischblatt)を完成させた。この地図は1868年に公開制限が解除されるまで、長い間機密の扱いだった。また、1:25,000を基礎資料にしてより広範囲を収録した1:100,000地形図の編集も行われている。

1:100,000は1847年に完成したが、西部地域については、既存のフォン・ルコック図 Karte von v. Lecoq などを利用したため、フランス系の1:86,400という縮尺が採用された(下注1)。なお、初期平板測量図で定められた経度10分、緯度6分の図郭は、その後ドイツの地形図体系の骨格となり、今日まで引き継がれている(下注2)。

*注1 1:86,400はカッシーニ図由来の縮尺で、図上1リーニュ ligne が実地100トワーズ Toises を表す。リーニュ、トワーズはメートル法以前のフランスの計測単位。
*注2 ただし、初期の図番は連番方式だった。現行の4桁図番は1937年に使われ始めた。

■参考サイト
1:25,000彩色平板測量図の画像
ベルリン北部 Berllin Nord
http://commons.wikimedia.org/wiki/File:Urmesstischblatt_3446_(Berlin_Nord)_um_1840.jpg

1866年、1871年と対外戦争(普墺戦争、普仏戦争)に勝利したプロイセンは、領邦国家と連合してついにドイツ統一を成し遂げた。そして、1875年から国土の再測量を開始し、改めて全国規模で1:25,000図の整備を進めていった。北ドイツではプロイセンが測量を主導したが、南ドイツ諸邦(ヘッセン大公国、バーデン、ヴュルテンベルク、バイエルンおよびザクセン)では、既存の地形図の編集や改測によっている。

この地図は、測量方式から「メスティッシュブラット Meßtischblatt(平板測量図)」と呼ばれ、1:25,000地形図の同義語にもなった。図郭や投影法は旧図に倣っているが、高度の単位は、その年に締結されたメートル条約に基づいてメートルとされた。また、高度の統一基準に初めて平均海面(ノルマールヌル Normalnull)を採用し、地勢表現にはケバに代えて等高線を使う(下注)など、現代地形図のスタイルが確立されたのが、このシリーズだ。

*注 等高線は、1846年の初期平板測量図で初めて適用され、このシリーズに引き継がれた。

■参考サイト
1:25,000平板測量図の画像
ボン Bonn 1906年追補版
http://commons.wikimedia.org/wiki/File:Bonn1906.jpg
ドレスデン Dresden 1904年版(ザクセン王国による刊行図)
http://de.wikipedia.org/wiki/Datei:Messtischblatt_Dresden_1904.jpg
シュヴィーブス Schwiebus、現ポーランド シフィエボジン Świebodzin 1933年修正版
http://de.wikipedia.org/wiki/Datei:Messtischblatt_nr_3759_(Schwiebus)_z_1933.jpg

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1:100,000ドイツ帝国図の例
ツヴィッカウ Zwickau 1937年版の単色復刻 (原図を2倍拡大)

並行して1878年から1:100,000図の再整備が、バイエルン、プロイセン、ザクセンおよびヴュルテンベルク各諸邦の協定により始まり、1909年に銅版1色刷で全675面が完成した。こちらは「ドイツ帝国図 Karte des Deutschen Reiches」、あるいはプロイセンの旧図時代から使われてきた「参謀本部地図 Generalstabskarte」の名称で知られる。図郭が小ぶりなため、4面を貼り合せた大判図 Großblatt も作られた。

ドイツ帝国図は、地勢表現がケバ式のままだったが、それは当時、等高線に比べて精密で立体的な地形描写ができると考えられていたからだという。1899年からの改訂版(B版)は黒、茶、青の3色刷とされたが、世界恐慌のあおりですべての改訂を終えることなく製作中止となった。

ちなみに、わが国でも1889~95年にかけて、これを模範にした1色刷1:100,000帝国図が製作されたことがある。東海地方8面を製作しただけに終わったが、内容はドイツのお手本に引けを取らない精妙なケバで描かれた地図だった。

それはともかく、第二次大戦以前のドイツの地形図体系では、上記1:25,000と1:100,000の2種が全国をカバーする代表的なシリーズだった。

■参考サイト
ドイツ1:100,000帝国図の画像
コッヘム Cochem 1914年追補版
http://commons.wikimedia.org/wiki/File:Cochem_(Karte_des_Deutschen_Reiches,_504._Cochem)_-_urn-nbn-de-0128-1-12751.jpg

戦後、英米仏ソ4か国による分割占領を経て、ドイツ連邦共和国(西ドイツ)とドイツ民主共和国(東ドイツ)が成立した。西ドイツでは、1950年代に1:25,000から編集した1:50,000図が初めて登場している。続いて1:100,000も多色刷の編集図に変わり、面目を一新したが、1:25,000のほうは3~4色化された以外あまり手が加えられず、近年まで戦前の図式が引き継がれていた。

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東ドイツ1:25,000地形市街図の例
ベルリン中心部 Berlin-Mitte 1989年版の1993年復刻

一方、東ドイツはこの系譜から切り離され、東欧共産圏(ワルシャワ条約機構加盟国)に共通する新基準で、地形図の整備が進められた。基本図 Grundkarte と位置づけられた1:10 000で全土をカバーしており、1:25,000、1:50,000、1:100,000、1:200,000など、より小縮尺の地形図はこれをもとに編集された。これらはすべて軍事機密として扱われたが、軍用情報を省いた業務用地形図も作成されていた。前者は国家版 Ausgabe Staat(略称 AS)、後者は国民経済版 Ausgabe Volkswirtschaft(同 AV)と呼んで区別された(下注)。

*注 東ドイツが作成した地形図については本ブログ「旧 東ドイツの地形図 I-国家版」「旧 東ドイツの地形図 II-国民経済版」で詳述している。

1990年のドイツ再統一後、旧東側の各州(新連邦州)ではこうした地形図の機密が解除され、国家版を含めて膨大な数の地形図が一般の用に供された。右上図はその1枚で、東側に属していたベルリン中心部の1:25,000地形市街図 Topographischer Stadtplan だ。しかし、数年のうちに、旧西側の図郭に合わせて(すなわち戦前の図郭を踏襲して)、編集し直された暫定版 Vorläufige Ausgabe が刊行されるようになった。この時期、地形図の表紙は同じデザインであっても、地形図の図式は東西でほとんど共通性がなかった。

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1:50,000地形図表紙
ミュンヘン 2011年版

1990年はまた、ドイツの地形図データの管理システムが新たな方向に動き出した記念すべき年でもある。連邦と各州の測量局が構築した公式地形・地図情報システム(アトキス)Amtlichen Topografisch-Kartografischen Informationssystem (ATKIS) と呼ばれるデータベースがこの年、稼働し始めたからだ。もちろん、国家再統一を受けて、対象範囲は旧東側にも拡張された。

ここで管理された地形図データは、ウェブ上の地図閲覧システムで提供されるだけでなく、印刷物としての地形図にも反映されていった。版が古かった1:25,000が優先されたが、現在ではすでに他の縮尺の地形図も多くがここからの出力イメージに拠っている。地形図の表紙に、地球を模したATKISのマークが入っていれば、その製品だ(右図はその例、下注)。

*注 地形図の近年の動向は、1:25,000、1:50,000など縮尺別の記事(下記「本ブログの関連記事」からリンク)で詳述している。

ドイツの地形図は長らく精巧な銅版画の持ち味を継承していたが、デジタル化に際して図式が抜本的に見直された結果、同じ国の地形図とは思えないほどの変貌を遂げた。過去との連続性がない東欧図式が消えたのはやむを得ないこととしても、同時にプロイセン以来の伝統が見捨てられてしまったのは惜しい気がする。

次回は横軸の側面、すなわち連邦内の協調と独自性のバランスが地形図の世界にどう現れているかを見てみたい。

使用した地形図の著作権表示 (c) Bundesamt für Kartographie und Geodäsie.

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 旧 東ドイツの地形図 I-国家版
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 スイスの地形図略史 I-デュフール図
 オーストリアの1:25,000と1:200,000地形図
 デンマークの地形図
 フランスの1:25,000地形図

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