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2011年10月 2日 (日)

新線試乗記-東北新幹線、新青森延伸+レールバス見学

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(上)新幹線七戸十和田駅
(下)在りし日のレールバス
(1984年3月、七戸駅)

8月の終わりのある日、盛岡駅で新青森行き「はやて159号」(下注)に乗り込んだ。お昼の便なので盛岡から先ならすいているだろうと、特定特急券を買っていた。列車がホームに停まっている間に空席をざっと探してみたのだが、車内は案外混んでいて、片側1列空いているのは数えるほどしかない。なんとか右側の窓際席に落ち着き、午後の活動に備えてさっそく弁当を広げることにした。

*注 震災後の暫定ダイヤのため、平常の「はやて19号」のスジで159号が運転されていた。

説明するまでもないが、「はやぶさ」はもとより「はやて」も早朝・深夜の一部を除いて、座席はすべて指定席だ。しかし、盛岡以北については座席指定をしない特急券が発売されていて、普通車の空いている座席が利用できる。これが特定特急券で、料金も他の区間と同じ1駅840円からの設定になっている。これは自由席のある列車が走らないことに対する救済措置だが、空いていればどこでも座れるというのがなんだかヨーロッパの特急列車のようで、ちょっと羨ましい。

車窓から見える山並みの一番奥に、早池峰山(はやちねさん)のシルエットがひときわ高く浮かんでいる。それもつかの間、外は闇に閉ざされてしまった。八戸の手前まで、岩手一戸トンネルをはじめ長短のトンネルが連続していることは知っている。在来線時代、奥中山を越えていく列車の窓から山里の景色を飽きるほど味わえたことを思い返せば、実に味気なくなった。ただ、この「はやて」は各駅停車なので、駅の前後で減速がある。前回乗った時より明かり区間が多いように錯覚したのは、たぶんそのせいだ。

八戸では、さすがにかなりの客が下車して、周囲の席に空きが目立つようになった。ここからが昨年(2010年)12月4日に開通したばかりの初乗り区間なので、鞄から地図を取り出す。八戸駅は、市街地から5kmも離れた川向うに設置されている。そして駅を出ると、線路は町に目もくれず、そそくさと向きを北西に変えて、内陸へ走り去る。これでも国道4号線(奥州街道)の道筋に比べれば、八戸市街を十分に意識したルートなのだが、窓から眺めていてもよそよそしさはぬぐえない。

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八戸駅遠望

新幹線は、青い森鉄道に転換された旧東北本線の西側を進む。洪積台地の末端を一直線に、今まで地元の人しか見ることのなかった風景に割り込んでいく。奥羽山脈から流れてきた川が台地を削って谷底平野を拡げているので、車窓には、青い稲穂の田園風景と掘割やトンネルが交互に現れる。

「まもなく七戸十和田(しちのへとわだ)に到着」と車内のアナウンスが入った。この機会にぜひとも訪れたいところがあるので、降りる支度を始めた。七戸十和田は、新規開業区間の中間に一つだけ設けられた駅だ。三沢や十和田市の市街地から遠く離れ、七戸の町からも北に2km行った鶴児平(つるのこたい)と呼ばれる開拓地の一角にぽつんとある。空中写真で見ると、一帯は広々とした牧場や畑地だが、駅の周囲だけは今、商業施設や住宅が建ち始め、にわか景気の真っ只中だ。

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(左) 高い防音壁越しに田園風景が飛び去る (右)七戸十和田駅南口

駅前に降り立つと、吹き通る風がさらっとしていて心地よい。真新しいロータリーに、タクシーと十和田湖行の観光バスが数台停まっている。路線バスの時刻を調べてあったので、それを待って七戸方面へ出た。国道を約10分、笊田川久保(ざるたかわくぼ)のバス停で降り、少し東へ歩くと、目的の南部縦貫鉄道、旧七戸駅がある。

南部縦貫鉄道の名を聞いて懐かしさがこみあげてくる人は、年季の入った鉄道ファンに違いない。1997年5月、ついに運行休止となるまで、野辺地からこの七戸へ原野を貫いて走っていた。20.9kmの小路線ながら、バス用の車体を載せたディーゼルカー、いわゆるレールバスが名物で、車体を激しく揺らしながら健気に走る姿を多くの人がカメラに収めようとしたはずだ。

筆者が最初で最後に乗ったのは1984年3月18日、北の大地は深い雪に覆われていた。野辺地へ帰る途中、運転士が急ブレーキをかけた。見ると、切通しの法面から崩れてきた雪で線路が半分埋まっている。どうするのかと思ったら、運転士と車掌がやおら線路に降りて、スコップで雪を掻き出し始めた。示し合せたように作業をしていたので、よくあることだったのだろう。しかし、筆者は初めて見る光景に、遥か遠くまでやってきたという感慨にとらわれた。あの光景は今も脳裏に焼き付いている。

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1984年3月の記録から
(左)七戸駅舎 (右)七戸駅ホームにて
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(左)2条のレールだけが頼り (右)崩れた雪を掻き出す
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(左)天間林駅 (右)雪に埋もれた野辺地駅ホーム

レールバスは鉄道の正式廃止後も、愛好家の手により七戸駅で動態保存されてきた。そして、今年は新幹線開業を記念して、町の観光協会の主催で車庫が見学できるようになっている(下注)。2011年の七戸駅舎は、のっぺりとした外観といい、筆書き風の社名の文字と言い、遠い昔のままだった。中に入ると、女性が一人店番をしていた。きょうは日曜なので社員はおらず、観光協会から派遣されて見学の世話をしているのだという。さっそくホームの向こうにある車庫に案内してもらった。

*注 1か月に一度程度、屋外展示も行われている。詳しくは下記参考サイト。また同サイトで、観光協会による一般公開は2012年3月までと告知されている。

納屋のような木造車庫に電球の明かりが点ると、あの車体が記憶と変わらぬ姿で目の前にあった。クリームとオレンジの塗り分けに白帯を巻き、乗降用の折り扉、上下2段のバス窓、正面の額にヘッドライト、無骨だがちょっとユーモラスな独特の風貌だ。ボディーに刻まれた無数の凹みや塗装を重ねた跡は、35年間に及んだ奮闘の証しだろう。2両仲良く並んだレールバスの後ろには、国鉄キハ10形、砂鉄輸送計画の形見であるディーゼル機関車、その脇には小さな除雪車も残されている。かすかに機械油の匂いが残る車庫は、時代の宝箱ともいうべき濃密な空間だった。

案内の礼を言って外に出ると、構内はきれいに整備され、線路が国道バイパスの手前まで延びている。ホームの先にぽつんと一本残された腕木式信号機が、来ることのない列車を待ち続けているように見えた。

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(左)2011年8月の旧 七戸駅 (右)保存されたレールバス
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(左)サボも昔のまま (右)傍らに除雪車も
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(左)夏草茂る七戸駅跡 (右)ぽつんと立つ腕木式信号機

ところで、新幹線とレールバス、一見かけ離れた取り合せだが、実は因縁がある。新幹線が開通すれば、南部縦貫鉄道の厳しい経営状態が改善されると期待されていたからだ。新幹線駅予定地のすぐ近くを走る地の利を生かし、線路を駅まで引き込んで、野辺地方面との連絡運輸の受け皿とする構想だった。しかし鉄道の廃止で、それは見果てぬ夢に終わってしまった。

七戸十和田駅に戻り、新青森に向けて再び「はやて」の客となる。駅を出ていくらも経たないうちに、列車はまたトンネルに突入する。岩手一戸を抜いて、東北新幹線最長となる26455mの八甲田トンネルだ。湾沿いに走る在来線に比べて、緩い曲線でショートカットしているので、付随するトンネルをいくつか抜ければ、もう青森平野だ。右手遠方には青森市街が白く光り、左の窓には、八甲田連峰が優美に裾野を広げている。しかし、新幹線は市街に入らず、遠巻きにしながら西へ北へと回り込んでいく。減速して、到着を告げるアナウンスが聞こえる頃には、八甲田山さえ右の窓に移っていた。

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(左)青森平野を貫く線路(空港バスから撮影)
(右)三内丸山高架橋から見た青森市街

北海道に直通するため、新青森駅が設けられた場所は、在来線の青森駅から西4kmの町はずれだ。在来線(奥羽本線)のホームが併設されているとはいえ、駅前広場も閑散としていて、唯一活気があったのが、構内1階にオープンした名産コーナーだった。おそらく、在来線青森駅頭の賑わいがここへ引っ越してきたのだろう。再びホームに上がると、緑地に紅帯のE5系電車が北方の車両基地に引揚げていくのが見えた。あの先が数年後、青函トンネルを経て北海道に延びる。レールバスの鉄路は永遠の眠りについたが、こちらの夢はまだ当分続いている。

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(左)新青森駅到着 (右)車両基地へ引揚げるE5系
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新青森駅東口

■参考サイト
南部縦貫鉄道 思い出のレールバス
http://www.ogaemon.com/r-bus/r-bus-top.html
七戸十和田駅付近の1:25,000地形図
http://maps.gsi.go.jp/#15/40.720000/141.153800
七戸十和田駅付近のGoogle地図
http://maps.google.com/maps?f=q&hl=ja&ie=UTF8&ll=40.7200,141.1538&z=16

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