« 2011年6月 | トップページ | 2011年8月 »

2011年7月21日 (木)

オーストラリアの大分水嶺を越えた鉄道-トゥーンバ付近

オーストラリア大陸の東側には、南北3500kmにわたって大分水嶺山脈 Great Dividing Range が長々と横たわる。特にその南半分は、分水界が海岸から直線距離で150kmにまで迫っていて、海岸に拠点を置く各植民地にとって、開発を待つ土地の多くは連なる山の向こう側にあった。19世紀半ばになると、海港とこれら内陸地域を結ぶ鉄道が何本も計画されたが、いずれも間に立ちはだかる峠道の克服という課題を解決しなければならなかった。

Blog_toowoomba1
1907年頃のスプリングブラフ駅
image from wikimedia

最も早くハードルを乗り越えたのは、1862年、ヴィクトリア植民地のメルボルン Melbourne から北へ150km、金鉱で繁栄するベンディゴ Bendigo まで通じた鉄道だ。ただし通過した分水界の地勢は穏やかで、標高も550m程度しかない。新大陸で初めての山越えが、広軌1600mmの複線で、勾配や曲線も緩いイギリス本国並みの高規格で造ることができたのは、ゴールドラッシュに酔う新興地の勢いもさることながら、比較的工事がしやすい地勢に負うところも大きかっただろう。

次にその課題に挑戦したのはクイーンズランド植民地で、イプスウィッチ Ipswich を起点として西に向かう鉄道だった。今回は、オーストラリアで最初に本格的な山越えを達成したこのルートにスポットを当てたい。

Blog_toowoomba_map1イプスウィッチは、ブリスベン(ブリズベン)Brisbane から川上へ40kmの地点にある町だ。当時ここまで船が遡行できたことから、石炭や羊毛の積出港として賑わっていた。大分水嶺の西斜面、広大なダーリングダウンズ Darling Downs で産するこれらの貨物を輸送するのが、鉄道敷設の主目的だった。

当面の目標は、西80kmに位置するトゥーンバ Toowoomba で、いまはガーデンシティの異名をとる緑豊かな美しい内陸都市だ。この付近では、山脈としての大分水嶺はほとんど消失し、ダーリングダウンズの台地の東端が、そのまま分水界になっている。ブリスベン川の支流が東側から台地を盛んに侵食し続け、比高300m以上の急斜面を作ってきた。トゥーンバの町はこの崖に面して発達したため、町のへりを分水界が通っている。

地形は、先駆者ベンディゴ鉄道に比べてはるかに厳しく、そのため、東斜面を上る約40kmの区間は今なお、州の鉄道を運営するクイーンズランドレール Queensland Rail(QR)きっての難所だ。さらに付け加えれば、QRの軌間が日本のJR在来線と同じ1067mmである理由も、この分水界越えにあった。

Blog_toowoomba_map2
イプスウィッチ~トゥーンバ間概略図

オーストラリア遺産委員会 Australian Heritage Commission による「国を一つにする:オーストラリアの運輸と通信1788~1970年 Linking a Nation: Australia's Transport and Communications 1788 - 1970」の第4章が、植民地の鉄道創業期の状況を記している。一節を引用させていただく(迷訳ご容赦)。

「政府は、ブリスベン川航路の起点イプスウィッチから豊かな農牧地域ダーリングダウンズ最大の町トゥーンバを結ぶ鉄道の建設に際して、事業を託す主任技師にアブラム・フィッツギボン Abram Fitzgibbon を任命した。ダーリングダウンズへは緩い登り道がなく、鉄道には、大分水嶺山脈の東斜面を上る険しい勾配が必要になると考えられた。フィッツギボンは1863年に、この計画は実現可能であり、コスト削減のために急曲線と3フィート6インチ(1067mm)の狭軌を採用するのがよいと報告した。このような軌間はノルウェーで1862年にはじめて使用されたばかりだった。イギリスの大手建設会社が路線建設の契約を結んだ。

路線の最初の区間はブリスベン川の平野部を進むイプスウィッチからビッゲズキャンプ Bigge's Camp(現在のグランチェスター Grandchester)までで、1865年7月31日に開通した。現存する「ミディアムゲージ」では世界初の路線である。トゥーンバまで57マイル(92km)の延長は1867年5月1日に開通したが、標高143mのヘリドン Helidon からトゥーンバ近くの標高612mのハーラクストン Harlaxton まで上っていく。延長27マイル(43km)のうち優に2/3が切通しの中を走り、47の橋梁、9つのトンネルと126か所のカーブ(そのうち49か所は半径100m)が設けられた。多くの橋は木製の橋脚に鉄製の橋桁を載せた混成構造だった。制限勾配は単純な仕様で、1/50(20‰)が続いていた。

このような鉄道はそれまで建設されたことがないもので、トゥーンバ山嶺鉄道 Toowoomba Range Railway は世界中のこうした軽規格で曲線の多い狭軌山岳鉄道の先例となった。」

Blog_toowoomba_map3
トゥーンバ付近の1:250,000地形図
© Commonwealth of Australia (Geoscience Australia), 2006. License: CC-BY 4.0

QRの歴史資料によると、イギリスのグレートウェスタン鉄道 Great Western Railway で採用されていた7フィート(2134mm)軌間に比較すれば、1435mm(現在の標準軌)も1067mmも狭いことには変わりなく、建設コストの点で1067mmがより有利だったとしている。ともあれ、この選択が、その後のクイーンズランド鉄道網の拡張にあたって、事実上の標準となったのは確かなことだ。

さて、フィッツギボンの合理的な提案が功を奏して、鉄道は事業の認可からわずか4年程度で実現した。標準軌を採用した南隣のニューサウスウェールズ植民地が、山容がさらに深いとはいえ1850年に着工した山脈横断鉄道をまだ完成させられなかった(下注)のに比べて、驚くべきスピードと言える。しかし、コスト抑制のために選んだ規格の低さは、輸送量の増加に伴って次第に足枷となっていく。機関車を大型化しようにも、急曲線とトンネル断面がそれを阻み、勾配が連続するため、牽引定数も制限された。のちに重軌条化とともに、曲線緩和が数個所で実施されて、走行条件はいくらか改善されたようだが、羊腸の行程そのものは解消していない。

*注 シドニーから西へ進んだ現在の西部本線が、2か所のジグザグ(スイッチバック)を介して現在のリスゴーLithgow付近まで達したのは、トゥーンバ線開通2年後の1869年。このジグザグについては次回以降詳述。

現在、QRのメイン線 Main Line の一部となっているこの登坂区間は、麓からサミットまで470mの高度差がある。勾配を20‰(1000m進んで20m上る)にするなら、水平距離にして23.5kmの線路を敷き回さなければならない計算だ。いったいどのようなルートをとっているのだろうか。東側から見ていこう。

Blog_toowoomba2
現在のヘリドン駅
Photo by TravellerQLD from wikimedia. License: CC-BY-SA 3.0

ヘリドン Helidon を後にした線路は、4kmほど西向きの平坦な道を走ったあと、北に針路を振って、支流の谷へ向かう。高度をかせぐために、川の流路に従わず半径200m程度のカーブでぐいぐい回り込んでいくが、これはまだ序の口だ。少し開けた谷の中にある信号所マーフィーズクリーク Murphys Creek は開通当時、蒸気機関車への給水施設を備えた峠下の補給基地だった。信号の自動化と普通列車の廃止によって、駅は1992年に機能を停止し、列車交換だけが行われている。ここを通過すれば、いよいよ大分水嶺の東斜面にとりつくことになる。

細かい山襞をほとんどトンネルに頼らず忠実に巻いていくので、反向する急曲線が際限なく続き、180度向きを変えることも一度や二度ではない。使われている曲線半径100mは幹線鉄道では例外的で、厳しい速度制限がかけられているはずだ。道路交通が主流になるまで、この路線は州都と山上の町や後背地を結ぶ動脈だったのだが、ニューサウスウェールズのように抜本的な線路改良を行う計画はなかったのかと訝しく思うほどだ。

Blog_toowoomba_map4
スプリングブラフ駅前後の1:50,000地形図
©  The State of Queensland (Department of Environment and Resource Management), 2002

険しい山坂の途中に、スプリングブラフ Spring Bluff 駅が現れる。周りを森に囲まれたささやかな施設だが、旧信越本線碓氷峠の熊ノ平のように、蒸機の時代は給水のために必ず停まり、上下の列車が行き違う重要な駅だった。駅の機能はマーフィーズクリークと同時に廃止となったものの、駅舎や付属施設は1994年に州のナショナルトラストから歴史遺産のリストに登録されることになった。さらに、駅にはもう一つの顔がある。それは、線路の山手に広がる色鮮やかな花畑の眺めだ。駅長夫妻が始めた園芸が評判になり、早くから庭園駅として知られてきた。毎年9月後半に開催されるトゥーンバの春の一大行事、フラワーカーニバル Carnival of Flowers の間は臨時列車も運転されて、多くの人々が観賞に訪れる。

スプリングブラフからさらに上ると、しばらく森のかなたに遠ざかっていた道路がこともなげに追いついてきて、頭上をまたいでいく。線路は大きな尾根を一つやり過ごして、高度差が実感できる区間に入る。短いトンネルをいくつかくぐり、採石場を左手にして切通しへ突っ込むと、ここがようやくサミットだ。冒頭に記したとおり、分水界の西斜面は、東側とは至って対照的に、丘が点在するなだらかな平原で、降った雨は海に注ぐまで3000kmもの旅をする。線路は、高原の風情が漂う庭園都市の一角をしばらく進んでから、トゥーンバ駅に滑り込む。

残念なことに現在、興味深い分水嶺越えの車窓を楽しむ機会はごく限られている。ブリスベンからの近郊列車は、イプスウィッチを経由してローズウッド Rosewood までしか行かない。その先で運行されている代行バスも、山の手前のヘリドン Helidon が終点だ。トゥーンバ方面まで足を延ばす旅客列車は、週2往復の長距離便「ウェストランダー The Westlander」だけになる。ウェストランダーの東行き(ブリスベン方面)が現場を通過するのは朝7時台でまだしも、坂を上る西行きは22~23時ごろと、車窓は闇の中だ。また、ヘリドン~トゥーンバ間は無停車なので、もしスプリングブラフ駅を訪れたければ、クルマを使わない限り、フラワーカーニバルの期間にトゥーンバ駅との短区間を往復している臨時列車が、唯一のアクセスになる。

なお、今年(2011年)1月の豪雨で、この区間は大きな被害を受けた。線路の路盤が各所で流失し、スプリングブラフの庭園も土石流に襲われ、大小の岩が散乱した。しばらくウェストランダー号はグレーハウンドバスで代行すると告知されていたが、その後どうなっただろうか。

(2006年9月8日、同15日付「オーストラリアの大分水嶺を越えた鉄道-トゥウンバ付近 I およびII」を全面改稿)

本稿は、参考サイトに挙げたウェブサイトおよびWikipedia英語版の記事(The Westlander, Toowoomba, Murphys Creek)、地元紙記事Web版を参照して記述した。

■参考サイト 
Dr Robert Lee "Linking a Nation: Australia's Transport and Communications 1788 - 1970", Australian Heritage Commission, 2003
http://www.environment.gov.au/heritage/ahc/publications/commission/books/linking-a-nation/
クイーンズランドレール http://www.queenslandrail.com.au/
スプリングブラフ駅 http://springbluff.com.au/
写真集
http://www.panoramio.com/photo/51136032
http://www.flickriver.com/places/Australia/Queensland/Spring+Bluff/
YouTube トゥーンバ~スプリングブラフの臨時列車
http://www.youtube.com/watch?v=usyFNBwId40
スプリングブラフ駅付近のGoogleマップ
http://maps.google.com/maps?hl=ja&ie=UTF8&ll=-27.4658,151.9766&z=17

★本ブログ内の関連記事
 オーストラリアの大分水嶺を越えた鉄道-ジグザグ鉄道 I
 オーストラリアの大分水嶺を越えた鉄道-ジグザグ鉄道 II

2011年7月 9日 (土)

オーストラリアの地形図-連邦1:250,000ほか

ジオサイエンス・オーストラリア Geoscience Australia の刊行する地形図(区分図)には、前回紹介した1:100,000のほかに、1:250,000と1:1,000,000(100万分の1)がある。

blog_au_250k_detail
連邦1:250,000 ウロンゴン付近
© Commonwealth of Australia (Geoscience Australia) , 2011. License: CC-BY 4.0

1:250,000は、全土をカバーする最大縮尺の地形図で、面数は513面。図郭は1:1,000,000の図郭を縦横とも4分割(計16分割)したもので、経度1度30分、緯度1度をカバーする。ただし、海岸線などでは、隣接図郭を取り込んだ拡大版も50面ほど作られている。Sydney Special のように、図名の後ろに "special" が付いているのがそれだ。また、タスマニア州は全域を4面でカバーする独自仕様で、同州測量局が刊行している(下注)。

*注 タスマニア州の1:250,000図については「オーストラリアの地形図-タスマニア州 I」参照。

1:250,000も通常折図で販売されるので、用紙の左側に表紙がデザインされている。1:100,000の赤帯に対して、1:250,000は青帯で識別される(タスマニア州刊行図を除く)。

blog_au_250k
1:250,000地形図表紙
(左から)Sydney(JOG)1989年、Melbourne(NTMS)1984年、Sydney Special(デジタル)2004年、Tasmania North East(タスマニア州)2010年

blog_au_natmap_index
索引図(シドニー周辺)
青字が1:250,000図名、紫字は "Special"のつく拡張版

地勢表現は50m間隔の等高線による。わが国の1:200,000地勢図が100m間隔であることと比較しても、地形の描写精度は高い。実際、大分水嶺山脈のような山地を含む図葉では、等高線がほとんど隙間もないほど、ぎゅうぎゅう詰めに描かれる。ただ残念なことに、以前はあったぼかし(陰影)が、1998~2003年に実施されたデジタル図化版への切替えに伴って省かれてしまったため、地勢は格段に読取りにくくなった。デジタルファイルの容量を減らす目的かもしれないが、これは明らかに改悪だろう。

道路網の表現も、このときの図式改正で味わった失望の理由の一つだ。道路の記号は新旧とも、くくりのない赤色の実線を用いるが、旧版では、舗装道だけに原色を充て、未舗装道は網掛けで薄めた色を使っていた。こうすることで幹線道路が強調され、地図にメリハリがつくからだ。ところが、デジタル図化版ではどちらも原色が使われ、未舗装道は破線で表現されることになった。その結果、錯雑感が強まると同時に、ぼかしの省略と相まって、視覚的な奥行きが感じられないものになってしまった。

blog_au_250k_legend
1:250,000凡例の一部

地図記号の話のついでに、オーストラリアの地形図で特徴的な地図記号といえば、何だろうか。筆者なら空路に関するものをあげたい。道路網の赤に対して空港・着陸施設は紺色と、対比を意識した配色になっているし、記号の形状も具体的に滑走路の配置や方向を表したものだ。さらに、飛行時に注意を要する送電線も同じ紺色で強調されている。

航空図に似たこれらの記号は、1:250,000地形図の一部が、標準軍用地形図である JOG(Joint Operations Graphic、直訳すると共同作戦図)として整備されてきたことに関係がある。1988年に全土の地形図整備事業が完了したとき、1:250,000全544面(当時)のうち、軍の測量機関だった王立オーストラリア測量隊 Royal Australian Survey Corps が製作したものが3割を占めていた。そうしたJOGの航空情報に関する記号が、民生図(下注)にも引き継がれている。飛行機が一般的な交通手段であるこの国ならではのことだ。

*注 軍用のJOG(1501シリーズ)に対して、NATMAPやAUSLIGが刊行した民生用は NTMS(National Topographic Map Seriesの略)と呼ばれる。デジタル図化以前は、表紙に配されたサンプル図を見れば、JOGかNTMSかが判断できた。

Blog_au_250k_detail2
(左)JOG図の例 SG56-15 Brisbane
(右)NTMS図の例 SJ55-2 Wangaratta
© Commonwealth of Australia (Geoscience Australia) , 2011. License: CC-BY 4.0

1:250,000地形図は、1:100,000図から編集されていることもあって、概観図というイメージがある。しかし、等高線精度のおかげで細かい地形も表現できるし、東西150km、南北110kmという収載エリアがクルマによる小移動の範囲にも適合する。わが国の20倍の国土面積があるオーストラリアでは、これでちょうど手軽さと詳しさのバランスがとれた縮尺だといえるだろう。

1:1,000,000は国際図図式によるもので、1面で経度6度、緯度4度のエリアをカバーする。地勢表現は等高線(200m、そのあと500m間隔)と段彩に加えて、ぼかしもかけられる。経緯度で区切った図郭を図式どおり忠実に守っているため、ほとんど海が占めるような図葉も存在する。その点であまり一般向けとは言えないのだが、わが国土地理院の地図もそうであるように、この図郭はオーストラリアのすべての地形図図郭の基準となっている。

1:1,000,000は、1975年に全土49面の刊行が完了したものの、1983年以降、更新が行われていない。そのため、在庫切れとなる図葉が相次いでいたが、その後もとの印刷図からの複製が作られて、すべての図葉が入手可能になった。

blog_au_1000k
1:1,000,000国際図 Melbourne
Blog_au_1000k_detail
図の一部を拡大
© Commonwealth of Australia (Geoscience Australia) , 2011. License: CC-BY 4.0

これらの官製地形図はデジタルデータでも無償提供されていて(ダウンロード方法は「官製地図を求めて-オーストラリア」参照)、クリエイティブ・コモンズ表示4.0国際ライセンスに従い、著作権表示をすれば二次利用も可能となっている。使いでのある地形図が、自由に利用できるパブリックドメイン(公有物)とされているのは、アメリカ、カナダなどと並んでオーストラリア連邦の地形図の大きなアドバンテージだ。

Blog_au_1000k2
1:1,000,000地形図表紙
(左)旧図 SK55 Tasmania 第2版 1981年
(右)新図 SJ55 Melbourne 2013年

【追記 2017.5.21】
1:1,000,000については、新たに編集されたオフセット印刷図が2012~13年に刊行された。これは、ジオサイエンス・オーストラリアの基本地理データベース(GEODATA TOPO-250K 第2シリーズ)をベースにして2006年に製作された新しい国際航空図 World Aeronautical Charts (WAC) シリーズ42面の汎用版だ。シリーズ名称も「一般参照(汎用)地形図 General Reference Topographic Map」とされ、図郭は旧版と同じで、オーストラリア全土(離島を除く)を50面でカバーする。

新旧の地図表現を比較するために、同じメルボルン周辺の図を下に掲げておこう。地勢表現では、等高線・等深線の刻みや段彩が踏襲されているが、ぼかし(陰影)は掛けられなかった。そのため、図の印象が平板になり、等高線の精度も旧版に比較すると少し甘いようだ。地図記号では、青色で強調される空港、飛行場、ヘリポートとともに、送電線、高塔、発電風車、煙突など高さのある地物の設定がある。いずれも航空図由来の特徴だ。また、市街地の交通網が省略されており、都市の情報はほとんど得ることができない。

Blog_au_1000k_detail2
新1:1,000,000地形図の例(上図と同じ範囲)
© Commonwealth of Australia (Geoscience Australia) , 2017. License: CC-BY 4.0

1:250,000、1:1,000,000の印刷図(紙地図)は、ジオサイエンスやオーストラリア国内の地図商で扱っている。また、ジオサイエンスのウェブサイトで、旧図も含めてPDFまたはTIFFファイルの形でダウンロードできる。「官製地図を求めて-オーストラリア」参照。

■参考サイト
ジオサイエンス・オーストラリア  http://www.ga.gov.au/

★本ブログ内の関連記事
 オーストラリアの地形図-連邦1:100,000
 オーストラリアの地形図-クイーンズランド州
 オーストラリアの地形図-ニューサウスウェールズ州
 オーストラリアの地形図-ビクトリア州

 ニュージーランドの1:50,000地形図

2011年7月 3日 (日)

オーストラリアの地形図-連邦1:100,000

オーストラリアの官製地形図の製作体制は、ドイツに似て、連邦と州の二段構造になっている。連邦は1:100,000とそれより小縮尺の図を担当し、各州は1:50,000、1:25,000など大きな縮尺の図を整備するというのが原則だ。ただし、例外もあるので、それは文中で言及していくとして、まずは連邦の地図を概観してみたい。

blog_au_100k_detail
連邦1:100,000, 1:250,000 キャンベラ周辺
© Commonwealth of Australia (Geoscience Australia) 2009, 2006. License: CC-BY 4.0

blog_au_natmap_catlg
ジオサイエンス
地図索引図表紙
2002年10月改訂版

連邦が作成する地形図群は NATMAP(下注)と呼ばれ、州の地図と区別されている。担当しているのは、資源・エネルギー・観光省 Department of Resources, Energy and Tourism の管轄下にあるジオサイエンス・オーストラリア Geoscience Australia という組織だ。ジオサイエンスは地学、地球科学を意味する。筆者などは、一世代前の組織であるオースリグ AUSLIG、すなわちオーストラリア測量・土地情報グループ Australian Surveying and Land Information Group の名が耳に馴染んでいるが、それが2001年にオーストラリア地質調査所 Australian Geological Survey Organisation と統合されて、いまの形となった。

*注 NATMAP はもともと、1956年に当時の国土開発省に設置された地図作成部門、Division of National Mapping の略称だった。同部門は1987年に廃止され、AUSLIGに改組されていくのだが、NATMAPの名称だけは連邦の地図を表す名称としてまだ使われている。州が刊行する地図でも、VICMAP(ヴィクトリア州)、TASMAP(タスマニア州)のように愛称をつけている例が見られる。

ジオサイエンスが製作した区分図は NTMS と呼ばれる(下注)。これは「官製地形図シリーズ National Topographic Map Series」の頭文字をとったもので、後述する軍の測量機関が製作した図と区別するための呼称だ。NTMSには縮尺1:100,000と1:250,000のシリーズがあり、ほかに国際図規格の1:1,000,000(100万分の1)もある。

表紙に赤い帯が入っているのが1:100,000で、全国統一規格としては最も大縮尺の地形図シリーズだ。1965年に、今後10年間(1975年度末まで)でオーストラリア全土の地図作成を完了するという大規模な計画が閣議承認されたときに、これが基本図の縮尺と定められた。残念ながら整備計画自体は、予算不足のために目標の期間内に終えられなかったのだが。

blog_au_100k
1:100,000地形図表紙
(左)Perth(NTMS 旧表紙)1976年
(中)Malbourne(NTMS)1984年
(右)Moss Vale(デジタル)2000年

では、冒頭に掲げた首都キャンベラ Canberra の図で、1:100,000の仕様を確かめてみよう。対比のために、同じ範囲の1:250,000(次回紹介)を右上に挿入してある。まず、市街地の道路表示では、1:250,000がほぼ貫通路に限定されるのに対して、1:100,000では小街路も忠実に書き込まれている。環状道路に囲まれた国会議事堂 Parliament House は両図でまったく形が異なり、当然1:100,000のほうが真影に近い。市街地の右(東)に位置する国際空港も、1:250,000は滑走路のみだが、1:100,000では誘導路やヘリポート(円の中にH字の記号)まで分かる。

*注 図名はACT Special、図郭を拡張し、ぼかし(陰影)の入った特別版だ。なお、ACTは首都特別地域 Australian Capital Territory の意。

このように、特定の範囲を拡大して見たいときには、1:100,000は確かに役に立つツールだ。1988年に最初の整備計画を完遂したとき、1:100,000は全土で計3,066面を数えた。だが、予算上の制限から、比較的人口が張付いていない内陸地域(全体の48%)については編集原図の段階にとどめられ、刊行対象とされなかった。

刊行域と未刊行域を分ける境界線はレッドライン Red Line(下注)と言われ、後者の図葉は、リクエストに応じて原図のコピーで提供される形をとった。該当する図葉は1,410面あり、刊行図はそれを差し引いた1,656面にとどまった。その後、1:100,000にも図郭拡大版(図名の後ろに Special がつく)が少数ながら作られており、総面数は若干減少している。

*注 大陸中央部(アウトバック Outback)の大部分は乾燥地で、赤い砂地と岩山の光景からレッドセンター Red Center と呼ばれる。レッドラインはおよそその範囲と重なる。

1:100,000の1面がカバーしているのは、1:250,000の図郭を横3×縦2=6分割した経度30分、緯度30分の区画だ。そのため、横長判の1:250,000に対して、こちらは縦長になる。図番の振り方は国際図の体系ではなく、フランスやドイツの官製図に見られる4桁コードを使う。すなわち、前2桁は東西方向30分(=1図葉)ごとの列の位置を、後ろ2桁は南北方向30分ごとの行の位置を表している。例えば、西南岸のパース Perth 図葉は2034、東北岸ケアンズ Cairns 図葉は8064となる。

blog_au_natmap_index
索引図(シドニー周辺)
緑字が1:100,000図名、茶字はレッドライン内の未刊行区域

等高線間隔が20mと1:250,000(50m間隔)に比べて精度は高まるが、地図記号はほぼ共通している。2000年5月からデジタル図式への切替えが始まったときに、ぼかしの省略と道路記号の変更が行われたのも同じだ。1:250,000と事情が異なるのは、面数がはるかに多いのと、ジオサイエンスが担当していない地域もあるという点だ(後述)。製作年代の古い図葉がまだ相当数残っており、1:250,000のように旧図式が一掃されることは当分ないだろう。

冒頭で全国統一規格と書いたが、実際に統一されているのは図郭と図番だけで、地図の仕様は複数存在する。そうなった理由は、先述の全国地形図整備にあたって軍の測量機関が相応の寄与をしたことと、更新作業を一部、州の測量機関が引受けている例があるからだ。

軍の測量機関であった王立オーストラリア測量隊 Royal Australian Survey Corps (下注)は、1982年までに862面の1:100,000作成委任業務を完了している。これが現在も残っていて、筆者が購入した例では、たとえばクイーンズランド州ケアンズ Cairns, Queensland のような沿岸部やニューサウスウェールズ州バサースト Bathurst, NSW といった比較的近郊域でも、測量隊製だった。しかも、ケアンズはJOG系の図式によるR631シリーズ、バサーストはNATMAP図式のR651シリーズと、場所によって別仕様だ。

*注 王立オーストラリア測量隊は、1915年に創立された軍用地図の作成機関。第二次大戦後、整備が遅れていた国土測量を国家プロジェクトとして推進した際の実行組織となり、その後も国内外での地図作成事業を多数手がけた。1990年代に進んだ軍事部門の民間移管の一環で、1996年に解散した。

blog_au_100k2
1:100,000地形図表紙
(左)Brisbane(SUNMAP)1982年
(右)Pipers(TASMAP)2000年

一方、州の測量機関が1:100,000の更新と刊行をしているのは、クイーンズランド州(一部の地域)とタスマニア州だ。

クイーンズランド州のそれは、中身こそ標準の1:100,000図式だが、右図のとおり、表紙はオリジナル仕様だ。この州の官製図は、陽光降り注ぐリゾートのイメージを喚起させるサンマップ Sunmap という愛称を持っていて、1:100,000もそのラインナップに組込まれているようだ。後者タスマニア州の官製図はタスマップ(タズマップ) Tasmap と称し、内製化が一層徹底している。表紙デザインに共通性がないばかりか、折り寸法が違い、図式も一部変えているなど、独自色が濃厚だ。

*注 タスマニア州の1:100,000については、「オーストラリアの地形図-タスマニア州 I」も参照

全国一律の1:250,000に対して、1:100,000は地域ごとのスタイルを温存していて、地図ファンにとっては興味深いシリーズになっている。ここで紹介した各縮尺の地形図(紙地図およびデジタルメディア)は、ジオサイエンスのセールスセンター Geoscience Australia Sales Centre をはじめ、各州の地図商で扱っており、容易に入手できる。

Blog_au_100k_detail2
旧版は地勢を表すぼかし(陰影)入り 7722 Bacchus Marsh 1986年
© Commonwealth of Australia (Geoscience Australia) 2017. License: CC-BY 4.0
Blog_au_100k_detail3
洗練された地図表現が見られるタスマニア州版 8212 Tyenna 2009年
© Tasmanian Government, 2017
Blog_au_100k_detail4
新版はぼかしが省かれ、平板な印象に 9029 Wollongong 1998年
© Commonwealth of Australia (Geoscience Australia) 2017. License: CC-BY 4.0

【追記 2017.5.8】
ジオサイエンス刊行の1:100,000は、2008年を最後に更新停止になっている。各図葉の最終更新図は、在庫のある限りジオサイエンスやオーストラリア国内の地図商から販売されるほか、ジオサイエンスのウェブサイトでも、PDFまたはTIFFファイルの形でダウンロードできる。地図ダウンロード、紙地図購入の方法については「官製地図を求めて-オーストラリア」にまとめた。なお、州の中には、連邦に代わって独自の1:100,000図を刊行するところも出てきている。

連邦の1:250,000地形図については次回

■参考サイト
ジオサイエンス・オーストラリア  http://www.ga.gov.au/
 トップページ > Topographic Mapping

★本ブログ内の関連記事
 オーストラリアの地形図-連邦1:250,000ほか
 オーストラリアの地形図-クイーンズランド州
 オーストラリアの地形図-ニューサウスウェールズ州
 オーストラリアの地形図-ビクトリア州

 ニュージーランドの1:50,000地形図

« 2011年6月 | トップページ | 2011年8月 »

2017年8月
    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31    

BLOG PARTS


無料ブログはココログ