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2010年12月30日 (木)

カナダの道路地図

クルマが日常の主たる移動手段なら、カナダの道路地図もアメリカ合衆国同様、たくさん種類があるものと想像していた。しかし、地図商のカタログを当ってみると、そうでもない。印刷物としての地図の選択肢はかなり限られているのだ。カーナビに象徴されるようなデジタル化の洗礼を受けて、早々と淘汰されてしまったのだろうか。いやそうではなく、理由は、人口がアメリカより一桁少ないというマーケット規模から考えるべきだろう。

*注 国連人口部のサイトによれば、2010年の人口はアメリカ3億1800万人に対してカナダ3400万人  http://esa.un.org/UNPP/

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カナダに関する道路地図を類型化すれば、3つのグループに分けられる。一つは、アメリカ合衆国やメキシコも含めて、北米大陸全体を1冊にまとめた地図帳だ。これは比較的種類が多く、合衆国の地図ブランドであるランド・マクナリー Rand McNally(右写真、下注)、カッパ・マップ・グループ Kappa Map Group(旧 アメリカンマップ American Map)、アメリカ自動車協会 AAA をはじめ、イギリスのAA出版社 AA Publishing、フランスのミシュラン Michelin などから選ぶことができる。

カナダについては、全国図と州別図で構成され、余白には主な都市の拡大図が配されているというのが、各社共通した仕様だ。州ごとの主要道路網を把握したいといったニーズならこれで十分用が足せる。

*注 ランド・マクナリー社の道路地図については、本ブログ「アメリカ合衆国の道路地図-ランド・マクナリー社」参照

二つ目は、対象をカナダ一国に絞ったものだ。この全国版は、1枚もの(大判用紙を折り畳んだもの)と地図帳に綴ったタイプがある。三つ目はそれをさらに州別か、地域別に分けたシリーズだ。当然、縮尺は1枚ものより地図帳、全国版より地域特定版のほうが大きく、描写はより詳細に、情報量はより豊かになる。とはいえ、実際問題として、商業ベースに乗るカナダの道路地図は、同国アルバータ州のカルガリーに本社を置くマップアート出版社 MapArt Publishing の系統が、選択肢の大部分を占めている。

地図商スタンフォーズのサイトによると、マップアート社が刊行していた地図の一部が最近の業界再編によって、カナディアンカートグラフィックス社 Canadian Cartographics Corporation (CCC) に移ったという。内容は今一つ定かでないが、カタログで見る限りCCC社に移された地図(表紙に cccmaps.com とある)は1枚ものが中心のようだ。また、これとは別に、フランス語圏のケベック州では、JDMジェオ社 JDM Géo Inc. が刊行する地図に、マップアートのロゴが掲げられている。

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では、マップアート社の地図帳を見てみよう。右写真は、同社の「全国道路地図帳 Canada Road Atlas」2009年版だ(下注)。判型はA4判より縦が少し短い横21.5cm×縦27.5cmで、表紙を除いて全112ページ。まず1:5,000,000(500万分の1)の概要図が14ページあり、そのあとに人口の集中する南部のより詳しい地図(縮尺は1:625,000~1 660,000、地域によって異なる)が76ページにわたって続く。それから主要都市の拡大図7ページがあり、最後に地名索引がつく。

*注 同社の最新カタログでは、この黄表紙の全国道路地図帳が見当たらず、青表紙の「カナダ詳細道路地図帳 Canada Back Road Atlas」が紹介されている。これは後述する州別地図帳の内容を合冊したもので700ページもあり、携帯に向いているとはいいがたい。

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全国道路地図帳の一部 (表紙、裏表紙を拡大)

道路の記号は、高速専用道 Expressway が青、同 有料道 Toll expressway が紫、主要道 Principal highway が赤、地方道 Secondary highway が黄色に赤の縁どりと、なかなかカラフルだ。道路番号とともに区間距離も当然入っているが、km単位のカナダに対して、国境の南側(アメリカ)はマイル単位になっている。主要な鉄道路線も細い実線で描かれる。全駅ではないが、駅の位置がプロットされているので、別途、鉄道地図と対照することも可能だ。

感心するのは旅行情報が充実している点で、公園、自然保護区 Conservation area、野生動物保護区 Wildlife area、インフォメーションセンター、キャンプ地などがシンプルな記号で表され、明るい赤の文字で必ず名称が付されている。その数は相当なもので、ロッキーや西海岸ではこの赤文字で地図が埋め尽くされるかと思うほどだ。また、背景の地勢表現も美しい。道路や文字を読取る邪魔にならないようトーンを抑えながら、高度別の段彩とぼかし(陰影)を微妙に組合せ、高山域ではその上に氷河の水色を載せている。繊細な描写は、道路地図としては上出来の部類と言えよう。

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州別・地域別地図帳は縮尺がもっと大きくなる。手元にあるブリティッシュコロンビア州版(右写真)は、北部が1:1,000,000(100万分の1)、南部が1:500,000だ。これも116ページある。タイトルをBack Road Atlas(バックロードは裏道、田舎道の意)としているのは、道路表現の詳しさをアピールするのはもちろんのこと、他社の旅行地図帳(「バックロード・マップブックス Backroad Mapbooks」、別稿で詳述)も意識したのだろう。もちろん道路地図なので、マップブックスのように登山道までは描いていないが、車の通れる道は赤い縁取りをした太めの線を用いていて、識別性はこのほうが高い。さらに、ほとんどすべての道に丹念に名称を添えているのには驚くほかない。

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BC州地図帳の一部 (裏表紙を拡大)

旅行情報の充実度は、全国版に準じている。地勢表現も同様で、特にカナディアンロッキーや海岸山脈 Coast Mountains のような山岳地域では、立体感がひときわ見事だ。鉄道記号は旗竿型に変わり、駅は黒丸の記号に駅名つきで、さらに旅客列車の停車駅には、運行会社であるVIAレールのロゴを付して知らせている。

これほど丁寧に編集された地図があるなら、敢えてライバルの登場を願う必要もないのだが、一応、CCC社の1枚ものにも触れておこう。右下写真は、ブリティッシュコロンビア州の道路地図だ。大判用紙の両面を使い、片面に北部、別の面に南部、余白に主要都市の市街図を配している。道路網を強調すべく、地勢表現を省略したデザインは、アメリカの典型的な道路地図のスタイルだ。

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それはともかく、上記の地図帳と比較すれば、主要道と地方道の記号がどちらも赤で見分けにくく、旅行情報の記号のバリエーションが少ないなど、記号デザインの工夫不足は覆いがたい。また、添付の市街図は狭いスペースに詰め込もうとしたため、文字が細かくなりすぎた。価格が5ドル程度と安価な点は評価できても、地図としての魅力は薄いと言わざるをえない。アメリカ合衆国と同様、カナダでも州政府監修の公式道路地図 Official Highway Map が定期的に作られている(下注)。道路情報だけが必要なら、これで十分だろう。

*注 公式道路地図については、本ブログ「アメリカ合衆国の道路地図-公式交通地図」参照

■参考サイト
マップアート http://www.mapart.com/
カナディアンカートグラフィックス(CCC) http://www.cccmaps.com/

公式道路地図の例
オンタリオ州運輸局  http://www.mto.gov.on.ca/english/traveller/map/southindexpdf.shtml

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2010年12月23日 (木)

カナダの鉄道地図 III-ウェブ版

カナダの鉄道を描いた地図はウェブサイトでも見ることができるが、貨物主体という鉄道輸送の実態を反映して、鉄道路線のネットワークを表現したものがほとんどだ。まず、全国の鉄道網を包括的に表示したものから紹介しよう。

Blog_canada_railmap_hp1 カナダのナショナルアトラス(国勢地図帳)である「アトラス・オブ・カナダ The Atlas of Canada」が、全面的にウェブ公開されている。その中の交通運輸 Transportation の項に、「鉄道輸送インフラ地図 Rail Transportation Infrastructure Map」というインタラクティブマップがある。初期画面は、一見何の変哲もない全国の鉄道路線図だが、ちょっとした仕掛けが隠されている。右側のメニューにあるラジオボタンの操作で、会社ごとの路線表示に切替えられるのだ。デフォルト表示の路線はすべて赤色だが、選択した会社あるいはカテゴリーに該当する路線だけ、他の色に変わるようになっている。内容は、カナダ鉄道協会(RAC)刊行の地図帳を基礎資料としたものだ。地図は上側のメニューを使ってズームアップできるほか、ウィンドウも4段階に拡げることができる。

■参考サイト
アトラス・オブ・カナダ http://atlas.nrcan.gc.ca/
 英語版トップページ > Economy > Transportation > Rail Transportation Infrastructure Map
同 「鉄道輸送インフラ地図」(英語版)の直接リンク
http://atlas.nrcan.gc.ca/site/english/maps/economic/transportation/pm_r

Blog_canada_railmap_hp2 インタラクティブマップの操作がまだるっこしいとお思いの方は、カナダ鉄道協会とカナダ地方自治体連合(FCM)の共同サイト(下記)にある州別の鉄道網概観図(PDF)を利用されるとよい。前回紹介したように、これは、上記地図が準拠するカナダ鉄道協会の鉄道地図帳の一部を抽出したものだ。

■参考サイト
「鉄道・自治体近接問題情報ベース」の鉄道地図のページ
http://www.proximityissues.ca/english/maps1.cfm

ウェブ版「アトラス・オブ・カナダ」の画期的な点は、過去の版まで含めて画像ファイル化されていることだ。初版は1904年まで遡り、以後1978~95年の第5版まで、すべての版に全国鉄道路線図が見つかる。カナダでは、鉄道の建設ブームが第1次大戦前後まで続いていて、たとえば初版の刊行時点では、カナディアンロッキーを横断する鉄道のうち、現在カナディアン・ナショナル鉄道 Canadian National Railway (CN) となっているイエローヘッド峠越えはまだ建設されていなかった。20世紀の同国路線網の変遷を知るうえで、この地図群は貴重な資料になるだろう。

地図は、左メニューにある「地図アーカイブ Map Archives」からたどれるアトラス各版のページにあるが、上記「鉄道輸送インフラ地図」の概要Abstractページに、鉄道地図のリンクがまとめてある。このインタラクティブマップは反応が遅めなので、各ページ下部にあるJPEGかPDFのファイルをダウンロードしたほうがいいかもしれない。

■参考サイト
アトラス・オブ・カナダ「地図アーカイブ」(英語版)
http://atlas.nrcan.gc.ca/site/english/maps/archives
アトラス・オブ・カナダ「鉄道輸送施設設備地図」概要
http://atlas.nrcan.gc.ca/site/english/maps/economic/transportation/pm_r/1
 ページ下部の Related Maps(関連地図)の項に、各年代の鉄道地図へのリンクがある。

次に、各鉄道会社はどんな鉄道地図を作っているだろうか。
Blog_canada_railmap_hp3 もと国鉄であるカナディアン・ナショナル鉄道(CN)のサイト(下記)は、鉄道地図が比較的充実していて、興味深い。

「鉄道駅とターミナル Rail Stations and Terminals」は路線網と駅を示している。オリジナルの路線図ではなく、グーグルマップの機能を利用しているので、縮尺の拡大縮小が自在だ。円の記号はインターモーダルステーション(自動車など他の輸送機関との結節点)、三角形は(貨物)駅を表す。CN線は赤色で最も目立つが、カナディアン・パシフィック(CPR)、BNSF鉄道、ユニオン・パシフィック(UP)など他の一級鉄道も、色を変えて表示される。ただ、ライバルのCPRだけ、地図を拡大表示していくと途中で表示が消えるのはなぜだろう。

「ネットワーク地図:CNは北米の鉄道 Network Map: CN is North America's Railroad」は、大西洋、太平洋に加えてメキシコ湾にも積出し港を持ち、メキシコの鉄道とも連絡運輸を行うという、目覚ましい拡張ぶりをアピールした地図(JPEG画像)だ。別の地図「太平洋・大西洋横断輸送 Trans-Pacific and Trans-Atlantic shipping」によれば、CNがヨーロッパだけでなく、中国にも事務所を数か所構えていることがわかる。カナダにとって中国は、すでに合衆国に次ぐ貿易相手国だという。

「CNと一級鉄道 CN and Class 1 Railroads」は、自社の鉄道網と、カナダおよびアメリカの一級鉄道の路線群を比較したものだ。会社別に路線の表示・非表示を変えられるので、どの会社がどの地域にネットワークを張っているかが一目でわかる。北米の鉄道網理解の入門編にいいだろう。

「線路荷重-重量制限 Rail Capacity - Weight Limitations」は、自社路線の線路荷重を分類したPDF地図だ。ポンド(lbs.)別5段階に路線を色分けし、管理区分 subdivision 名を記載していて、CN鉄道網の詳細図としても使える。

■参考サイト
カナディアンナショナル鉄道  http://www.cn.ca/
Maps  http://www.cn.ca/en/shipping-maps.htm
ネットワーク地図
http://www.cn.ca/documents/Investor-Factbook-current/System-Map.pdf

Blog_canada_railmap_hp4 もう一つの一級鉄道、カナディアン・パシフィック鉄道 Canadian Pacific Railway(略称CPRまたはCP、日本語の正式社名は「カナダ太平洋鉄道」)のサイトには、ささやかな「路線網地図 Network Map」しか見当たらなかった。これもインタラクティブマップで、初期画面は、カナダからメキシコにかけての広域図に、自社路線(赤い線)と連絡運輸路線が表示されている。上部にある「Make a Selection(選択する)」のドロップダウンリストをクリックすると、合衆国との連絡ルート、インターモーダルターミナルや積替え施設の配置などが現れる。

■参考サイト
カナディアン・パシフィック鉄道  http://www.cpr.ca/
 トップページ > Customers > New Customers > Where We Ship
Network Map 直接リンク
http://www8.cpr.ca/cms/English/Customers/New+Customers/Where+We+Ship/default.htm

Blog_canada_railmap_hp5 旅客鉄道専業のVIA(ヴィア)レール VIA Rail は、公式サイトのトップページに運行路線図(クリッカブルマップ)へのリンクを掲げている。クリックすると拡大図が表示される。ルート別に色分けされた地図は、貨物鉄道のそれに比べ大きくて、好感が持てる。図上でルートにマウスを載せると、車両や等級、時刻表などの列車情報に、また、駅の位置にマウスを載せると、グーグルを利用した周辺地図を含む駅の情報にリンクする。

■参考サイト
VIAレール  http://www.viarail.ca/
 トップページのWelcomeから入り、最初のページで右肩に運行路線図がある。または、そのページのメニュー Trainsを選択。
PDF版の時刻表(英語版)
http://www.viarail.ca/en/useful-info/printable-timetables

Blog_canada_railmap_hp6 最後にもう一つ、興味深いサイトを紹介しておきたい。「アルバータ州鉄道地図帳 Atlas of Alberta Railways」と称するサイトだ。ロッキー山脈の東側に位置するアルバータ州の鉄道史を、廃止路線を含めて一つずつていねいに紹介している。

記事には、当時の写真とともに詳細な鉄道地図が添えられているが、その中には、等高線やぼかし(陰影)で地勢を表現した本格的な地形図も含まれている。驚くことに、どれも旧版地形図のコピーではなく、個人の地図製作者によるオリジナルの作品だという。アルバータ州と西隣のブリティッシュコロンビア州との境界で、西海岸へ向かう鉄道がロッキーの大陸分水嶺を越えていく。この3つの峠道、南から順に、クローズネスト峠 Crowsnest Pass、キッキングホース峠 Kicking Horse Pass、イエローヘッド峠 Yellowhead Pass のいずれの線路も、勾配や曲線半径などデータも交えながら完璧に描かれているのには、感心する。大容量のファイルが多いため、フラッシュインターフェースを使用しているが、別途ダウンロード用ファイルが用意されているのも親切だ。

■参考サイト
アルバータ州鉄道地図帳
http://railways-atlas.tapor.ualberta.ca/cocoon/atlas/
 Main Linesは幹線鉄道の記述、Alberta Networkはその他の小鉄道の記述、Before the Railwaysはアルバータの地歴概説と鉄道前史、Railway Maniaは建設史。上部メニューのMapsで地図の一覧ページに飛べる。

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2010年12月16日 (木)

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前回、旅客列車の鉄道地図を話題にしたので、今回は範囲を拡大して、貨物専業を含めカナダの全ての路線網を表示したものを紹介したい。

本題に入る前に、カナダの鉄道業界を概観しておこう。貨物と旅客に大別するとして、まず、貨物鉄道には、ファーストクラスすなわち一級鉄道 Class I carrier にランクされる大手2社がある。前回も触れたが、もと国鉄のカナディアン・ナショナル鉄道(CN)と、由緒ある大陸横断鉄道カナディアン・パシフィック鉄道(カナダ太平洋鉄道、CPRまたはCP)だ。この2社で、貨物鉄道路線の約7割を所有している(下注)。その他は、短距離路線 Short Lines または地方鉄道 Regional Carriers に分類されるが、中には、バンクーバーから北上するBCレール BC Rail のように2,303km(1,431マイル)もの路線長をもつような鉄道も含まれる。

*注 下記地図帳 p3によると、一級鉄道21,154マイル(68%)、その他9,812マイル(32%)。

一方、旅客鉄道はVIAレールが唯一全国規模で(ただし、ごく一部を除き線路は保有しない)、それ以外はモントリオールやトロント、バンクーバーといった大都市圏の通勤路線 Commuter Railways と、若干数の観光鉄道 Tourist Railways だ。

これら、カナダの鉄道約50社が加盟する業界団体として、カナダ鉄道協会 Railway Association of Canada (RAC) がある。協会が情報提供活動の一環として編集しているのが、「カナダ鉄道地図帳 Canadian Railway Atlas」だ。判型はA4判に近い横21.5×縦28cm、フルカラー72ページで、州別概観図、全駅記載の詳細図、都市圏拡大図、さらにアメリカ合衆国とメキシコの概略図から構成され、巻末に駅名索引がつく。

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オンタリオ州概観図の一部
「鉄道・自治体近接問題情報ベース」より

少し詳しく説明しておこう。各州1ページを充てた州別概観図は、各州の鉄道網の全体像をつかむための図だ。路線は会社別に色分けされ、主要駅とともに、社名の略号(報告記号 reporting mark という)、管理区分 subdivision 名が付されている。余白にはその州を運行する鉄道会社の一覧があって、会社のクラス別に、親会社名、所轄(連邦か地方政府か)、州内の路線延長などのデータがリストアップされている。

路線網を詳しく知りたければ、次の詳細図だ。会社別着色はここでも踏襲されているので、前の概観図と直感的に同期がとれるのがいい。駅の密度は一見、日本の時刻表並みだが、縮尺が1:2,000,000(200万分の1)程度なので、駅間距離を計算すると平均10kmを越える。旅客扱いのある駅は限られているはずだが、ほかはまだ貨物扱いを続けているのだろうか。地形の描写は水部(主要河川、湖、海)だけの白地図のような体裁だが、背景にハイウェー網が番号つきで薄く刷られていて、位置特定の助けになる。

都市圏拡大図は、さらに縮尺が大きくなる。ヤード(操車場)や飛行場への引込み線のほか、インターモーダル基地 intermodal facility や積替えセンター transload center(いずれも鉄道輸送と自動車輸送の接続点)の記号も現れ、鉄道の果たしている役割が想像できる。

合衆国とメキシコの路線図では、CNとCPRが太く強調されて、特別扱いだ。CNは1998年にイリノイ・セントラル鉄道 Illinois Central Railroad を買収した。その結果、シカゴ Chicago から南部のニューオーリンズ New Orleans までの合衆国縦断ルートを含む約5,000kmの路線を獲得し、カナダの鉄道がメキシコ湾に到達することになった。国境を越えて延びる線路を描いて、カナダの鉄道産業の進展を誇らしげにアピールするこの地図は、一巻の締めくくりにふさわしい。

地図帳は内容ばかりか、地図デザインも簡潔かつ機能的で、同国の鉄道網を一目で見渡せる良質の資料だ。ところが残念なことに、2003年の第4版以来、更新が止まったままで(下注)、協会の直販サイトでも品切れになっている。同業者団体が監修するいわば公式資料でもあるので、ぜひ復活させてもらいたいものだ。

*注 ただし、2004年に、連邦政府の選挙区 Federal Electoral Districts 別にカナダの鉄道を表示した特別版が製作された(情報は、地図商オムニマップ Omnimap のサイトによる)。

なお、カナダ鉄道協会とカナダ地方自治体連合 Federation of Canadian Municipalities (FCM) が共同で立ち上げた鉄道・自治体近接問題情報ベース Railway/Municipality Proximity Issues Information Base のサイトに、州別概観図と都市圏拡大図のPDFファイルがある。2004年版のようだが、基本的に地図帳の掲載図と内容は変わらない。

■参考サイト
カナダ鉄道協会 http://www.railcan.ca/
同 地図帳紹介ページ http://atlas.railcan.ca/
「鉄道・自治体近接問題情報ベース」の鉄道地図のページ
http://www.proximityissues.ca/english/maps1.cfm

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そのほかに、以下の地図帳がある。

イギリスのSPV社による「北米鉄道総合地図帳 Comprehensive Railroad Atlas of North America」は、北米の鉄道を網羅したシリーズで、16巻中5巻がカナダに関するものだ(カナダ西部 Western Canada、カナダ中部 Central Canada、オンタリオ Ontario、ケベックおよびラブラドル Quebec & Labrador、ニューイングランドおよびカナダ沿海州 New England & Maritime Canada)。

また、デスクマップシステムズ社 DeskMapSystems の「北米鉄道専門地図帳 Professional Railroad Atlas of North America」は、合衆国をメインとしながらも、カナダ、メキシコの鉄道網にもページを割いている。これらについては、いつかアメリカの鉄道地図を紹介する機会に詳述したい。

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2010年12月 9日 (木)

カナダの鉄道地図 I

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今も63,500kmの線路延長を有するカナダの鉄道網(下注)だが、多くは貨物輸送専用になっている。

カナディアン・ナショナル鉄道 Canadian National Railway(略称 CN)や、カナディアン・パシフィック鉄道 Canadian Pacific Railway(略称 CPR または CP、日本語の正式社名は「カナダ太平洋鉄道」)といった大手の貨物鉄道会社も、昔は旅客営業を行っていた。しかし、自動車や航空機利用の普及で斜陽化が進んだため、政府は、アメリカのアムトラック Amtrak に倣って、旅客専門の事業体への集約を目論んだ。受け皿となったのが、公共企業体VIA(ヴィア)レール VIA Rail だ。計画は1978年に実行に移された。

*注 "Railway Trends 2009" The Railway Association of Canada, p16 によれば、2008年の営業路線総距離 63,507km。VIAレールが走るのは、同社サイトの「概要 Overview」によると12,500km。

以来、VIAレールは、所有する車両を他社の線路で走らせる方式で、カナダの長距離旅客輸送をほぼ一手に担っている。ただ、政府が、増え続ける経費負担を理由に、予算を段階的にカットしたため、発足時に比べて運行本数は大幅に減少してしまった。トロント Toronto、モントリオール Montreal などカナダの中心都市を連絡するコリドー Corridor(回廊の意)と呼ばれる区間(ウィンザー Windsor ~ケベックシティ Quebec City)では、今も1日6往復程度確保されているが、東海岸や、大草原を貫いて西海岸へ行く長距離列車は、路線も限られ、週にせいぜい3~5往復というありさまだ。

なにしろ、トロントから西海岸を目指すカナディアン号 The Canadian は、走行距離4466km、車中4泊という大旅行の末、バンクーバー Vancouver に到着する。飛行機なら4時間30分だから、こんな長旅を敢えて選ぶのは、時間をかけても鉄道旅行を楽しみたいというような、特別の目的を持つ人に限られる。近距離利用を除けば、他の列車の傾向も似たり寄ったりだろう。鉄道地図もそれに合わせるように、旅人向けに編集されたものが流通している。ウェー・オブ・ザ・レール社 Way of the Rail が刊行する「レールウェー・マップガイド Railway Map Guide」という地図で、「全国版 Across Canada(右上写真)」と「ブリティッシュコロンビアおよびカナディアンロッキー British Columbia and Canadian Rockies(右下写真)」の2種類がある。

手に取ってまず驚くのは、上製本のようないかにも頑丈な装丁だ。蛇腹に折り畳んだ地図を、厚さ2mm強もある板紙製の表紙の間にはさんである。これなら、トランクの中に詰め込まれても、旅先で手荒に扱われても、皺になったり破損したりする心配はなさそうだ。地図が表紙に糊付けされているので、表紙を開けば地図が同時に開く点も、便利な工夫だ。

「全国版」は、片面に東部、その裏面に西部を配置する。鉄道がない、あるいは少ない極北部は省かれているが、旅行という主目的からすれば当然のことだろう(下注)。旅客列車が走る路線は太い線で、愛称のあるルートごとに色分けしてあるので、よく目立つ。他の貨物専用線はごく細い線で存在がわかる程度に描かれているので、違いは歴然としている。駅も、停車駅は路線と同じ色で塗り、その他(貨物駅?)は白抜きにしてある。ベースの地図は、繊細なぼかし(陰影)と高度に応じた彩色で地勢を表現したもので、背景としては暗めだが、その分、路線や大小の湖を浮かび上がらせる効果をもつ。鉄道沿線に限らず地名がたくさん入っているので、一般図としても使えるはずだ。

*注 スカグウェー Skagway(アラスカ州)からユーコン準州の内陸へ延びるホワイトパス・ユーコンルート White Pass and Yukon Route(WP&Y)も図郭からはずれている。

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これに対して「ブリティッシュコロンビアおよびカナディアンロッキー」は、ロッキー山脈とその西側に図郭を絞ったものだ。この地域には、先述のカナディアン号だけでなく、ロッキーマウンテニア号 Rocky Mountaineer のような豪華ツアー列車も運行され(下注)、美しい山岳風景を求めて世界中から観光客が集まってくる。当然、このような地図があれば、旅に携行するだけでなく、お土産としても喜ばれる。出版されたのもこちらがずっと早く(2002年初版。全国版の刊行は2008年)、手元の地図はすでに改訂第2版になっている。

*注 ロッキーマウンテニア号(バンクーバー~カルガリー、バンクーバー~ジャスパー)は、山岳地帯の景勝区間を昼間走行し、夜はホテルに宿を取るツアー列車。バンフ Banff 経由のCPR線から旅客列車の運行が廃止されたのを受けて、1990年にスタートした。人気が高く、2006年からは、BC Rail線を通るウィスラー Whistler 発着の列車も設定されている。

地図は片面で全範囲を収めているのだが、斜め上空から見た形の鳥瞰図のため、プリンスルパート Prince Rupert のような北部へ行くほど、表示が小さくなって見づらい。それを補う北部だけの拡大図が、裏面に用意されている。路線は、旅客列車が走るルートと駅を網羅するだけでなく、トンネル、橋梁、それに車窓から見える山(ピーク)まで図示され、主なものには名称が振られている。さらに、カメラのマークがついているのは、車窓からの撮影ポイント Excellent Photo Opportunity で、展望車へ行くタイミングも測れそうだ。

路線情報の詳しさとともに、際立った地勢表現にも触れておきたい。陰影と彩色を施してあるのは「全国版」と同じ手法だが、こちらはさらに、立体視写真のように高度が極端に強調してある。ロッキー山脈の尖った稜線が隊列を成し、その間を、氷河が削り取った大規模なU字谷と湖が埋める描写は、観賞に値する見事さだ。列車旅をするつもりがなくても、壁に飾っておきたい逸品といえるだろう。

両者とも余白には、ルート各駅の起点からの距離と高度の一覧表がある。そして、鉄道標識や信号機の現示の意味、マイルポストの通過時間から時速を換算するためのスピードテーブルと、かなりマニアックな内容が盛り込まれている。製作者がカナダとアメリカの鉄道を計50万km以上乗ったという猛者だと聞けば、この徹底ぶりもわかるというものだ。

なお、地図の姉妹品に、「列車でカナダ-VIAレール旅行完全ガイド Canada By Train - The Complete VIA Rail Travel Guide」があり、カナダの旅客鉄道の乗り尽くしに格好の参考書となっている。これらは、日本のアマゾンや紀伊國屋Bookwebでも扱っている。

■参考サイト
ウェー・オブ・ザ・レール社 http://www.wayoftherail.com/
 上部メニューのCatalog > 各アイテムのページ。縮小されているが、サンプル図も各ページに数点ずつある。

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2010年12月 2日 (木)

カナダの旅行地図-ジェムトレック

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カナディアンロッキー Canadian Rocky は、北米大陸の背骨というべきロッキー山脈のうち、カナダ領の部分の呼称だ。行政的には、ブリティッシュコロンビア州 British Columbia とアルバータ州 Alberta との州境一帯で、大陸横断列車からも雄姿を仰げる標高3954mのロブソン山 Mount Robson をはじめ、3000mを優に超す険しい岩山が連なっている。

前回まで紹介してきたITMBやクリスマー社の旅行地図シリーズにも、カナディアンロッキーの地図が数点含まれていたが、この地域では、ジェムトレック社 Gem Trek の地図が一歩抜きんでているだろう。最も北寄りのジャスパー国立公園 Jasper National Park から、最南部アメリカ国境のウォータートン湖国立公園 Waterton Lakes National Park まで、旅行者に特に人気の高いエリアがおおむねカバーされ、内容も充実しているからだ。

ジェムトレック社のサイトでは、地図体系を道路地図 Driving Maps とトレール地図 Trail Maps(下注)に分けている。前者は広域を表した図で、全部で5面、縮尺は1:250,000~1:840,000だ。縮尺の小さいものは、地勢表現が省略されている。それに対して、トレール地図は縮尺1:100,000~1:20,000の地形図仕様で、トレール関連の情報が詳しく、国立公園内の徒歩旅行を計画している人には必需品と言える。

*注 トレール Trail またはトレイルは、登山道に限らず、日本で自然歩道などと呼ばれている歩くための道(ハイキングトレール)や自転車が走れる小道(バイクトレール)も指す。対して自動車が走る道は、ロード road として区別される。

ブリティッシュコロンビア州ヴィクトリア Victoria にオフィスを構える同社だが、2005年以前はロッキーの東麓にあるコークラン Cochrane という小さな町で活動していた。さらに遡れば、冬季オリンピックの翌年(1989年)に、近くの都市カルガリー Calgary でマップタウン Map Town という地図店を開いたのがルーツだという。そこで販売した自家製の旅行地図が好評だったため、以後、カナディアンロッキーの詳細地図を次々と発表することになった。同社は自社地図の特色の一つに、「地元の人間が作っている」ことを挙げ、地域を熟知した調査員が薦める情報であることを強調している。

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トレール地図の凡例

道路に関する地図記号は、自動車道路が実線、トレールには破線を用いる。トレールは、その名称とともに区間距離や標高が細かく添えられ、ところどころに、双眼鏡を手にする人を象ったビューポイント(展望台)の印も置かれている。赤い線に黄色でマーキングされてことさら目立つトレールは、編集者の推薦コースを意味し、裏面に難易度、距離、高度差、所要時間を含めて詳しく紹介されている。本格的なトレッキングはもとより、ドライブ途中で車を停めてあの展望台まで少し歩いてみよう、というような、にわかナチュラリストにとっても参考になるはずだ。

トレールに利用者区分を示しているのも、特色とされる。乗馬やマウンテンバイクの通行が許される区間は、色や形状、絵文字などで明確に区別されている。自転車のトレール乗入れは制限があって、違反者には罰金ばかりか、自転車の没収までされるそうだから、この表示の確認は案外重要だ。

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トレール地図の索引図

地勢表現については、ちょっとした方針の揺り戻しがある。2005年以前に編集された地図は、等高線にぼかし(陰影)を加え、森林はミントグリーン、草地や裸地はアプリコット、氷河は薄い藤色に塗り分けた、たいへん美しいものだった。ところが、2006年以降の改訂では、そうした視覚的工夫が排され、等高線主体の伝統的な画法に後退してしまった。

自信を持っていたレリーフシェーディング(地形の影をつけること)をなぜ捨ててしまったのかを、同社はこう説明している。同社の地図のユーザーは、主として年配者だ。彼らから、地図の見た目はいいが、野外では、背景色が重なった暗い個所の文字や等高線が読み取りにくいと苦情が多く寄せられていた。地図の価格を抑えるために非コート紙を使っているので、色見本どおりに仕上がらず、暗めになるといった事情もあり、形式より機能を選択した、と。

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この方針は5年間続き、その間にトレール地図の7割が更新され、山の影が消えてしまった。しかし、今年(2010年)の新刊「キャンモアとカナナスキス村 Canmore & Kananaskis Village」(右写真)では、再びもとの方式に回帰することになった。同社は、読者の意見が変化してきたことや、発色のいい耐水紙を使い始めたことを理由に挙げているが、ライバル社が見栄えのいい地図を次々と市場に投入しているという背景もあるように思われる。

冒頭の写真はシリーズの一つ、「ボウ湖とサスカチュワン・クロッシング Bow Lake & Saskatchewan Crossing」だ。縮尺1:70,000で、レイクルイーズ Lake Louise とジャスパー Jasper を結ぶ、アイスフィールド・パークウェー Icefields Parkway の中央部を範囲にしている。ボウ湖、ペイトー湖 Peyto Lake といった、ツアーが必ず立ち寄る絶景スポットが収まるが、もちろん、真のターゲットは、一般客の来ない山中の湖を目指すトレッカーだ。初心者でも歩ける短いコースから、経験者向けの難路や宿泊を伴う峠越えまで、地図と写真とそれにリンクした豊富な文字情報で紹介されている。

この北に接続する「コロンビア大氷原 Columbia Icefield」図や南側の「レイクルイーズ-ヨーホー Lake Louise - Yoho」を組合せれば、カナディアンロッキーのハイライトが押えられる。これはやはり、視覚を刺激する影付きの地図で眺めたいものだ。

ジェムトレックの地図は、先述のマップタウンで全点扱っているほか、いくつかの地図商(たとえばアメリカのオムニマップOminimap)でも入手できる。

■参考サイト
ジェムトレック出版社 http://www.gemtrek.com/
 地図紹介ページにサンプル図や両面のレイアウトの画像がある。
マップタウン  http://www.maptown.com/
 左メニュー > Gem Trek Maps ここにもサンプル図がある。

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