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2010年11月25日 (木)

カナダの旅行地図-アドべンチャーマップ

見ごたえのあるカナダの旅行地図をもう2種類紹介しておきたい。どちらも、官製地形図データを使用せず、空中写真から自ら図化したオリジナルの地形図を用いているところに特色がある。なぜそのような手間をかけているのか。いわく、全国画一的な縮尺で描かれた官製図に対して、ユーザーが必要としているエリアを自由な区画、自由な縮尺で表現できる。国土が広すぎるため更新作業が追いつかず、内容が古くなりがちな官製図の向こうを張って、随時こまめな改訂が施せる。コストを投じても、自社製地形図が持つアドバンテージを売り物にしているのだ。

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今回紹介するのはその一つ、オンタリオ州 Ontario などの主要なレクリエーションスポットを網羅した「アドべンチャーマップ The Adventure Map」というシリーズだ。同州トロント Tronto 近郊に本拠を置くクリスマー Chrismar 社が刊行している。オンタリオ州は、首都オタワ Ottawa や同国最大の都市トロントを擁し、地理的にも政治・経済上もカナダの中心的存在だ。いきおい州内旅行地図の需要も旺盛なのだろう。カタログによると、シリーズは現在44点あり、同州内の図が36点と大多数を占める。

トロントから約200km北上すると、アルゴンキン州立公園 Algonquin Provincial Park が広がる(下注)。日本ではカナダ東部の紅葉三大名所の一つと宣伝されているが、秋のみか四季を通じて、同州の代表的なリクリエーションエリアだ。森の中に無数の湖が点在しているので、カヌーやカヤックといったパドリング愛好家にとって人気スポットになっている。

注:旅行会社のサイトによれば、三大名所のあと二つは、ケベック州のローレンシャン高原 Laurentian mountains / Laurentides とイースタンタウンシップス Eastern Townships / Cantons de l'Est。

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「アルゴンキン州立公園3」
地図の凡例

アドべンチャーマップも、公園のほぼ全域を5面でカバーする縮尺1:80,000の全体図と、1:25,000~1:50,000の拡大図(周辺を含む)6点という手厚い布陣で応える。地図の地勢表現は等高線のみだが、官製図と並べても遜色のない精度であるばかりか、縮尺に合わせて描かれているので、無理な拡大や縮小がなく、読みやすい。パドラーを顧客に想定しているのは、用紙が耐水の合成紙というだけでなく、設けられた地図記号からも明白だ。堰堤、滝、早瀬といった障害物の位置が記され、湖岸のキャンプサイトが、メンテナンスのあるなしで区別される。さらに、2つの湖の間や障害物を避けるために舟を担いで歩くポーテージ portage のルートと距離も、もれなく示されている。

ちなみにこの一帯では、かつて木材輸送を担った鉄道(下注)が湖岸を縫い、入江に多数のトレッスル(木組みの橋)を架けていた。鉄道ファンとしては、バイクトレール(自転車道)として一部が残る廃線跡を図上でたどれるのも嬉しい。また、地図の裏面には、地域の概要とともに、パドリングやハイキングの推奨ルート、キャンプ、魚釣りなどアクティビティの紹介、それに熊のような野生動物や初夏に発生するブユや蚊の対策など、文字情報が満載され、旅行ガイドとしても有益だ。

*注 オタワ・アーンプライア・パリーサウンド鉄道 Ottawa, Arnprior & Parry Sound Railway として、1896年に現在の公園中心部まで開業。最終的に首都と、五大湖の一部であるジョージア湾 Georgian Bay に通じる港パリーサウンドを結んだ。

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アドべンチャーマップのテリトリーとしては従の位置づけになるが、カナディアンロッキーを対象にしたものも4点ある。「グレイシャー国立公園ロジャーズパス Rogers Pass, Glacier National Park」(右写真)を例に挙げよう。

縮尺は1:50,000で官製図と差がないように見えるが、内容ははるかに上を行っている。一つは地勢表現だ。どちらも等高線だけで表しているが、官製デジタル図が40m間隔のところを、こちらは25m間隔に詰めて精度を高めている。また、色も通常茶色のところを、岩場は灰色、氷河は青とヨーロッパの地形図のように変化させている。この見栄えの違いは大きい。二つ目は情報の鮮度だ。峠を越える鉄道には1988年に2本目のマクドナルド山トンネル Mt. Macdonald Tunnel が完成していて、2008年刊のこの図には当然描かれているのだが、官製図ではなんとデジタル版でも無視されている。

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ロジャーズパス図の一部
Here is a small sample section of our Rogers Pass map. All text & graphics © 2015 Chrismar Mapping Services Inc.
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カナディアンロッキーの索引図

最後に、表現のていねいさにも注目したい。峠付近には氷河を見に行くトレールがいくつも伸びているが、官製図では単なる破線記号で済ませるところを、赤色でなぞり、一つずつ名称を付している。標高1314mの峠の上には初期の線路跡が残っているのだが、そこにも Abandoned Rails(廃線跡の意)の注記が打たれているのには、思わず唸った。製作者の矜持が目に浮かぶようだ。裏面は、アルゴンキンと同じような旅行の文字情報とともに、美しい山岳写真が数点配されて旅心を誘っている。

アドべンチャーマップは、大判のITMBはもとより官製図と比べても、サイズがコンパクトなことに気づく。公式サイトによれば、寸法が45×61cmを越えるものはなく、その理由は面倒な折り畳みの手間を減らすことにあるそうだ。野外の風や雨の中で使うことを想像すれば、扱いやすさもまた大きなアドバンテージということだろう。

刊行元のサイトにもオンラインショップがあるが、残念ながらカナダとアメリカ合衆国にしか送ってくれない。各国の主要地図商でも扱っているし、筆者はカナダ、カルガリーの地図商マップタウン Map Town から取り寄せた。

■参考サイト
クリスマー社 http://www.chrismar.com/
 左メニューの Map Locator Guideに索引図、Features & Samplesに見本図、Product Listに刊行物一覧表がある。

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2010年11月18日 (木)

カナダの旅行地図-バックロード・マップブックス

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シリーズの1点
カナディアンロッキー 表紙

アメリカのデローム DeLorme やベンチマーク・マップス Benchmark Maps のような地勢のわかる道路地図帳が、カナダにもないものか、と探したことがある。数年前までは見当たらなかったが、嬉しいことに今は存在する。マッシオ・ベンチャーズ Mussio Ventures という会社が刊行している「バックロード・マップブックス Backroad Mapbooks」というシリーズだ。カナダ南部の多くの地域をカバーして、2010年のカタログでは21種が出ている。

Back Roadを辞書で引くと、裏道、田舎道などと訳されているが、これを日本でいう抜け道地図だろうと早合点してはいけない。会社のサイトにある沿革の記述から少し引用しよう。「(探検好きの創立者マッシオ兄弟は、)ブリティッシュコロンビア British Columbia 州南部ハリソン湖 Harrison Lake 周辺にある、迷路のような林道を通り抜けるために、本と地図をいくつか持ってきた。道を探そうとして、兄弟は大いに失望を味わっていた。地域には実際、何百もの道があるにもかかわらず、どの資料にも幹線道路しか示されていなかった。(中略)『なぜ全部の道路を記したガイドブックを作る人がいないのか。』 そう考えた野心家の兄弟はブレーンストーミングを開始し、その結果、バックロード・マップブックのアイデアが生まれた。」(下注)

*注 デローム社 DeLorme の州別地図帳も同じような体験から生まれた。本ブログ「アメリカ合衆国の州別地図帳-デローム社」参照。

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凡例図 (左)道路 (右)旅行情報

つまり、新大陸でバックカントリー Backcountry と呼ばれるような田舎や未開地の、細かい道まですべて記載した地図帳というのが、タイトルの意味するところだ。事実、自動車道路の種別はフリーウェー(高速道路)、ハイウェー(幹線道路)から林道、四輪駆動向きの難路まで、色や線で10段階に区分される。トレール(小道)もトランスカナダトレール Trans Canada Trail を含めて6段階、さらにフェリーや外輪船の航路、トレッキングの目印となる送電線やパイプラインまで、線状のものならなんでも取り込む勢いだ。

旅行情報の記号は、主に暗緑地に白抜きのピクトグラムが使われている。キャンプサイト(設備別)のほか、クロスカントリースキー、ダウンヒルスキー、サイクリング、ダイビング、フィッシング、ゴルフコース、ハイキング、パドリング(カヌー、カヤック)など15種を超えるアクティビティの適地が確認できる。

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サンプル図
from Backroad Mapbooks: Vancouver, Coast and Mountains © 1993-2011 Backroad Mapbooks

加えて、筆者が感心するのは地勢表現だ。冒頭に掲げたデローム社の地図帳は、等高線も陰影(ぼかし)もかなり粗っぽかった(近刊は改良)。ベンチマーク社は陰影と、高度に応じて連続的に変化する彩色がとても美しいが、等高線は入っていない。対してバックロード・マップブックスの地図は、等高線、陰影、連続彩色の3要素がうまく組合わされ、立体感の表現が実にみごとだ。等高線は100m間隔なので、平野部では精度的に十分とはいえないが、ロッキー山脈のような険しい山岳部のページを眺めると、あたかも空を飛んでいるような錯覚に陥る。等高線の色を通常の地形図より控えめにして、売り物である細かい道路網の読取りに支障がないよう配慮してあるのもいい。

地図帳の後半は、地図を補完するレクリエーション・スポットの説明に充てられている。1か所につき数行から十数行、特色やデータが文章で綴られ、地図索引とピクトグラムが添えられているので、地図との照合も容易だ。兄弟の目指したのがただの道路地図ではなく、森の中へ何冊も運ばなくても済むような、ガイドブックと地図を兼ねた本だということが、この構成からわかる。サイズがA4判に近い横21.5cm ×縦28cmと、デローム地図帳の半分強のサイズなのも、野外での使用を考えてのことだろう。

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プリンス・エドワード島 表紙

1993年に始まったシリーズは、現在、会社の本拠地ブリティッシュコロンビア州のほか、アルバータ Alberta、マニトバ Manitoba、オンタリオ Ontario、ニューブランズウィック New Brunswick、ノヴァスコシア Nova Scotia 各州の全域をカバーするまでに拡大した。ほかにも、サスカチュワン Saskatchewan 州南部、ケベック Québec 州の2点、それにプリンス・エドワード島 Prince Edward Island(州も同名)がカタログに上がっているが、これは、2005年までに刊行された地勢表現がない白地図ベースのバージョンだ。表紙が、南洋の島の地図と見間違えそうな派手なデザイン(右写真)なので、すぐに区別がつく。会社の目標は、数年以内にカナダ全土を地図化することで、ゆくゆくは国際舞台への進出も夢に描いているそうだ。

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同社は、このほかにもいくつかの地図シリーズを製作している。一つは、この美しい地図データベースを転用した1枚ものの旅行地図だ。人気の旅行地については、「野外レクリエーション地図 Outdoor Recreation Map」(右写真左側)と銘打って、現在7点を一般の販売ルートに乗せている。耐水紙に両面印刷され、縮尺は地図帳より大きめ(図を単純拡大)なので、細部まで読取りやすくなっているのが特徴だ。また、オンデマンド印刷サービスは「トポマップ Topo Map」(右写真右側)と称し、自社のショッピングサイトで扱っている。地図帳の1ページ分を2倍強(面積は4倍強)に拡大してくれるものだが、さすがに等高線や主要道路が太くなりすぎるきらいがある。

地図帳のデジタルデータ版もCD-ROMで提供されているので、専らモニター画面で見たいという人はこちらを利用するとよい。バックロード・マップブックスは日本のアマゾンでも入手可能だが、1枚ものは自社サイトに拠るしかない。

■参考サイト
バックロード・マップブックス http://www.backroadmapbooks.com/
 トップページ > Products > Backroad Mapbooks
 各巻のDetailsボタンから、サンプル図や内容見本が見られる。このサイトで直接購入も可能だが、送料が大変高いので、アマゾンを利用するほうがいいだろう。

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2010年11月11日 (木)

カナダの旅行地図-ITMB

地形図を、もっと旅行や野外活動に役立つものに改良しようとする動きは、カナダでも見られる。ITMBが手掛ける旅行地図シリーズの刊行がその一例だ。ITMB出版社 ITMB Publishing は、カナダ西岸、ブリティッシュコロンビア州リッチモンド Richmond に本拠を置いている。その名が International Travel Maps and Books の略であることに象徴されるように、地図ファンにとってITMBは、世界の国・地域別地図のメーカーという印象が強いかもしれない。

事実、会社のサイトに掲げられた沿革によれば、きっかけは南米の500万分の1図だったという。1980年代、まだ南方の大陸に関心を払うような地図会社がなかった時代に、南米好きのオーストラリア人地図作家がカナダ人の地図商と組んで、その自費出版を試みた。国別地図は1990年のコスタリカ編が最初だ。これが同地への観光ブームに乗ってヒットしたことで、中南米の国・地域別地図をシリーズ化する道が拓かれた。その後は、対象範囲を全世界に拡大するとともに、地元ブリティッシュコロンビア British Columbia の旅行地図分野にも進出している。しかし、これらの地図はいずれも、オリジナルの図版を製作するか、または各国の民間地図会社の図版を利用したものだった。

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(左)表紙 (右)裏表紙

今回のテーマである官製地形図をベースにした旅行地図は、それとは別で、2007年から始まったカナダ天然資源省 Natural Resources Canada との共同事業による成果物だ。筆者の手元にある地図で紹介しよう。シリーズの一つ、「カナディアンロッキー:バンフ、クートネーおよびヨーホー国立公園 Canadian Rockies: Banff, Kootenay and Yoho National Parks」は、縮尺1:250,000の集成図だ(右写真)。表紙に 82N&K などとあるのは使用した地形図の図番を指す。具体的には 82J、82K、82N、82O の4図葉をペアで貼り合わせて、大判耐水紙の両面に配している。全体は北緯50~52度、西経114~118度の範囲に当り、地名で言うと、東西はカルガリー Calgary からロジャーズ峠 Rogers Pass に至るエリアだ。美しい山岳景観で旅行者に人気のある標記の3国立公園(下注)と、西方のグレイシャー国立公園 Glacier National Park がほぼ含まれている。

*注 バンフ国立公園はブリティッシュコロンビア州の東隣、アルバータ州 Alberta に属する。

地形図の上に付加された旅行情報は、ITMBの担当した部分だ。展望所、キャンプ場、宿泊施設、駐車場などの位置を記号で示し、原図にある小道の表示にハイキングルートやマウンテンバイクルートなど用途を表す記号を添えている。ただの地形図なら、自分がいる位置を特定したり、道路網を確かめる程度の用途しかないが、ここには旅行者の情報ニーズに応じられるだけの内容が盛り込まれている。

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「ガリバルディ州立公園」図の旅行情報の凡例

ただし、1:250,000(図上1cmが実長2.5kmを表す)では山歩きに使うのは無理で、地域の概観図あるいは自動車や鉄道で訪れるときの参考資料と考えるべきだろう。また、ベースとされた地形図は、1991~92年に発行された印刷図の写真版(あるいはスキャニングによる)だ。それ以降の経年変化は反映されておらず、道路などの情報は古くなっている可能性があることにも注意したい。

残念ながらこのシリーズでロッキー山脈を対象にしたものは、上記のほか、ウェルズグレー州立公園 Wells Grey Provincial Park、レヴェルストーク山国立公園 Mount Revelstoke National Park ぐらいしかない。他方、人口の集中するローワー・メインランド Lower Mainland(バンクーバー Vancouver のある平野)周辺やバンクーバー島 Vancouver Island については、合わせて10種ほど刊行されているので、こちらが主力のようだ。

*注 Vancouver の日本語表記は、ヴァンクーヴァーではなく、慣用の「バンクーバー」に従う。

たとえば、2010年冬季オリンピックの会場の一つだった、バンクーバーの北120kmにあるウィスラー Whistler も、「ガリバルディ州立公園 Garibaldi Provincial park」という図に含まれている。これは1:50,000地形図がベースなので、トレッキングやスキーのようなマウンテンスポーツの参考にも使える縮尺だ。町の背後のウィスラー山やブラッコム Blackcomb 山には、地上からの高さ436mという驚異の谷渡りをするピーク・トゥ・ピーク Peak 2 Peak を含めて、多数のゴンドラやチェアリフトが設けられている。地図にはその位置だけでなく、種類や延長距離まで記す徹底ぶりだ。

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地形図をベースにした旅行地図は、必ず表紙に "Canadian Topographic Maps" というロゴが刷り込んである。逆に言えば、これがない地図はオリジナルの図版を使ったものとみなすことができる。たとえば、「フレーザー谷とバンクーバー Fraser Valley and Vancouver」(右写真)というタイトルの地図がある。デザインといい、縮尺1:250,000と1:50,000の組合せといい、かのシリーズそっくりだが、表紙にあのロゴがない。これは、以前から出ていたオリジナル図なのだ。しかし、これも悪くはない。1:250,000図は高度300mごとに段彩を施してあって、初心者にとっては等高線の地図よりむしろ地勢を読取りやすいかもしれない。

地形図の標準価格が11.45カナダドル(2010年11月現在)であるのに対して、ITMB版は多くが14.95ドルと少し高めの設定だ。しかし、両面刷りで用紙も地形図の2倍ほどあり、旅行のプランニングにも使えるのだから、価格差に見合う価値は十分あると言えるだろう。

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今、官製地形図を使った旅行地図のレンジは、ブリティッシュコロンビアの州境を越えてさらに広がる傾向にある。カタログで見たところ、点在する湖沼のたたずまいが美しいオンタリオ州のアルゴンキン州立公園 Algonquin Provincial Park(右写真左側)や、「赤毛のアン」の故郷として有名な、東海岸のプリンスエドワード島 Prince Edward Island(同右側。下注)の地図も、シリーズと同じ仕様で作られている。眺めるほどに、ITMBの今後のリリースが楽しみだ。なお、これらの地図を求めるなら、同社のオンラインショップを利用するのがいい(下記参考サイト)。

*注 よく似た名称の "Nova Scotia and Prince Edward Island Travel Map" 1:400,000は、ノヴァスコシア州も入った別物のオリジナル編集図なので注意。

■参考サイト
ITMB出版社  http://itmb.com/
同 オンラインショップ  http://shop.itmb.ca/
同 地図見本  http://www.itmb.com/view_map_samples.htm

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2010年11月 4日 (木)

カナダの地形図

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官製地形図索引図 2001年版

上に示したのは、カナダの官製地形図の索引図の表紙だ。例として大西洋諸州 Atlantic Provinces 編を示した(下注)が、右側に添付した地図でわかるとおり、全体は6分冊になっている。なにしろロシアに次いで世界第2位、日本の26倍もの面積をもつ国土なので、1:50,000の縮尺で網をかけると、インデックスでさえこれぐらいのボリュームになるということだ。

*注 大西洋に突き出したニューブランズウィック州 New Brunswick / Nouveau-Brunswick、ノバスコシア州 Nova Scotia、プリンス・エドワード・アイランド州 Prince Edward Island の3州を沿海州 Maritime provinces / the Maritimes、これに北方のニューファンドランド・ラブラドール州 Newfoundland and Labrador を加えて、大西洋諸州と呼ぶ。

カナダの地形図は、カナダ天然資源省 Natural Resources Canada のもとにある地形情報センター Centre for Topographic Information が作成している。2005年ごろ議論された地形図の刊行廃止はどうやら撤回されたようで、同センターのサイトではその後も、全国をカバーする汎用地形図体系の提供が案内されている。とはいえ、調べてみると、筆者が最初に同国の地形図を入手した1990年代に比べて、だいぶ様相が変わってきたようだ。

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1:1,000,000国際図 NM 9/10 バンクーバーを縮小

まず、縮尺別シリーズのいくつかが姿を消した。現在、刊行されているのは縮尺1:250,000と1:50,000の区分図シリーズだけだが、かつてはいわゆる国際図(IMW)図式による1:1,000,000(100万分の1)もカタログに掲載されていた。さらに遡れば、1:125,000や1:500,000も存在した。1:1,000,000国際図というのは、世界標準の地形図体系として第1次大戦以前から開始されていた国際プロジェクトだ。カナダでも、共通仕様に基づいて69面(下注)が製作されたが、在庫整理によって廃版となったようだ。代替措置として、ウェブ上のアーカイブで全点が閲覧可能になっているほか、スキャニングによるデジタルプリントを行う事業者も存在する。

*注 自国領が含まれる図葉は74面あるが、国境をまたぐ5面はアメリカ合衆国が作成した(図郭内に含まれる面積が多いほうの国が担当)。

販売体制も民間に完全移譲された。数年前までカナダ・マップ・オフィス Canada Map Office という小売をしてくれる部局があったが、現在は、地域流通センター Regional Distribution Centre と称される各地の公式ディーラー(地図商)を通じて購入するように告知が出ている。

また、印刷方式も、オフセット印刷からデジタルプリンタ出力に変わった。これまでは両面刷りで、裏面に薄い色で詳しい凡例(記号の説明や略号の意味)が掲載されていたのだが、新しいデジタル版の裏面には何も刷られていない。その代わり、凡例欄がおもて面に移され、カラー化されている。2010年9月の段階では、公式ディーラーの中でもオフセットの古いストックを送ってくれるところがまだあった。しかし、消えていくのは時間の問題だろう。筆者はデジタルプリント特有の、線のキレの悪さや用紙の湿ったような手触りが今一つ好きになれないが、地図印刷のオフセット離れは、ユーザーの嗜好を越えて、もはや世界的な趨勢だ。

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1:250,000地形図 30M トロントの一部
(c) Department of Natural Resources, Canada. All rights reserved.

存続している地形図シリーズについて少し紹介しておこう。カナダの地形図はすっきりと明るいデザインが特徴だ。ナイアガラ滝 Niagara Falls 周辺の1:250,000を例に挙げよう(上図参照)。中央を北上するナイアガラ川を境に左がカナダ、右はアメリカ領になる。地図そのものはカナダの刊行物だが、アメリカ領の部分は同国製の地形図をそっくり用いているので、両者の違いが歴然としている。特に目立つのは道路記号だ。アメリカは黒のくくり(縁取り)つきなのに対して、カナダはくくりを用いず、色の線だけで表現している。さらに、赤(舗装道)と橙(未舗装道)という、暖色系で明度の高い色を用いている。これが明るいイメージをもたらす原因だろう。また、鉄道記号もアメリカに比べて線がずいぶんとスマートだ。

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1:50,000地形図表紙
(左)レイク・ルイーズ 1996年
(右)プリンス・ルパート 2001年

高度の単位はメートル表示だが、イギリスの自治領という出自から1975年まではヤードポンド法に拠っていた。その名残りを示すフィート単位の地図がまだ残っている。むしろ、メートル法を採用した地図には、図郭の両端に METRIC/MÉTRIQUE(メートル法による)と大書して、ユーザーの注意を促しているほどだ。注記では最近、左下隅に Provisional Print(暫定印刷)と加刷されたものも散見する。同センターの2008年10月の発表資料によると、これは公式のデジタルファイルから印刷された正本であることを証明するもので、販売枚数の少ない図葉はこの方式にするとある。しかし、全面移行によってこの区別は意味をなさなくなり、代わりに正本の印として、円形のホログラムシールが張られるようになった。

2種類のシリーズのうち、1:250,000は6~7色刷りが基本(デジタルプリントでは4色に変換)で、北部ではモノクロ図もある。経度2度(北緯68度以北では4度)、緯度1度の区割りが1図郭で、1991年のカタログによれば、全土を915面でカバーしている。等高線間隔は平地か山岳地域かによって異なる。平地では20m(フィート表示の場合100フィート)、山岳地域は100m(同500フィート)が多数派のようだが、その中間の刻みを採用した図葉もある。地勢表現としてはそれのみで、ぼかし(陰影)など視覚的な効果は一切考慮されていない。氷河の表現も、等高線の色を青に代えるか、その範囲を水色の塗りで覆っただけの、いささか淡泊なものだ。

一方、1:50,000は、1:250,000を縦横とも4等分した図郭だ。2000年ごろの改訂図から表紙にフルカラーの写真が配置され、折図としての体裁が整った。印刷もこの時点でプロセスカラー(CMYKの4色)印刷になっている。もちろん、居住地のほとんどない地域では、モノクロ図や、空中写真に地名だけ付加したいわゆる写真図も相当数ある。

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1:50,000地形図 31G/5 オタワの一部
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1:50,000地形図 103J/8 プリンス・ルパートの一部
(c) Department of Natural Resources, Canada. All rights reserved.

さて、これらの地形図の入手方法についてだが、先述した公式ディーラーは、外国からの注文にも対応してくれるはずだ。ただし、ディーラーによってはその州内の図葉しか扱わないところもあるので、確認が必要だ。もちろん、カナダの地形図はウェブサイトでも全面的に公開されているので、大判用紙の印刷図という古典的な形態にこだわらなければ、入手に何の障害もない。また、情報源を明記すればオンラインや印刷物にも自由に使ってよいとされていて、アメリカと並び、地形図にもパブリックドメイン(公有物)の考え方が貫かれている。カナダを学ぶのに、ナビゲーター役として、あるいは記録のツールとして、これを利用しない手はない。

■参考サイト
地形情報センター  http://maps.nrcan.gc.ca/

ウェブ閲覧、公式ディーラーについては「官製地図を求めて-カナダ」を参照。
http://map.on.coocan.jp/map/map_canada.html
また、地図複製に関するセンターの見解は下記URLの"Commercial and non-commercial Reproduction" 参照。
http://geogratis.gc.ca/geogratis/en/notiavis.html

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