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2010年9月 9日 (木)

フィンランドの地形図

フィンランドには「森と湖の国」のイメージが定着している。事実、森林面積は国土の7割弱、湖水も1割を占めるそうだ。森林率(下注)で比べると、フィンランド73.9%に対して日本も68.2%で、数字の上では匹敵している。しかし、前者の国土は、氷河起源の小さな起伏をもちながらも全体的に平坦で、特に南半は多くが標高200m以下だ。人口が530万人に過ぎないこともあって、居住地に隣接して豊かな平地森が広がっている。心理的な近さには大きな差があるはずだ。

*注 国土に占める森林面積の割合。但し内水面を除く。FAO "Global Forest Resources Assessment 2005" 190-195pp. による。

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1:50,000凡例の一部

ところが、そのイメージを胸にフィンランドの地形図を開けると、間違いなく違和感にとらわれる。その理由は、地形図に青い湖はあっても、緑の森がどこにも見当らないからだ。森林、耕地、荒地、市街地などの表示、すなわち土地利用景は地形図の基本的な表示項目の一つであり、もちろんフィンランドでも地図記号にちゃんと定義されている。ただ、森林には、緑ではなく白色が充てられているのだ(右写真の最上段右の記号説明に、forested area (white)とある)。そのため、森で覆われているはずのエリアが、地図ではまるで空地のように見える。森はあるのが当たり前という意識の反映だろうか。他国の地形図にはない特色だ。

フィンランドの地形図作成は、国土測量局 Maanmittauslaitos(マーン・ミッタウス・ライトス。英訳 National Land Survey of Finland)が担っている。現在、発行者に測量局の名を冠しているのは、縮尺1:50,000と1:25,000の2種類のみだ。1990年代には1:100,000地形図と1:400,000一般図(その後1:500,000)などもあったが、すでに絶版となってしまった。

それ以外の小縮尺図の刊行は民間の手に委ねられている。測量局に代わって官製地図の普及に努めてきたのがカルッタ・ケスクス Karttakeskus(地図センターの意)で、地形図データベースを用いて道路地図や旅行地図を製作し、直販店も持っている。昨今は、GISソフトウェアなどデジタル分野に広く進出している。

*注 フィンランド語の複合名詞は日本語表記にすると読みにくいので、適宜「中黒」を用いている。

Blog_finland_50k
1:50,000地形図表紙
(左)旧版 トゥルク/オーボ 1998年
(右)新版 サヴォンリンナ 2009年

今回は、測量局名義の1:50,000と1:25,000を紹介しよう。

1:50,000地形図は、Maastokartta(マースト・カルッタ、地形図の意)と称し、全部で385面ある。2001年までに全土の図葉が揃ったが、その後、2005年から新版への切替えが始まり、2008年に完了した。旧版のツバメが羽ばたく黄色の表紙に対して、新版では枝先に止まるウソの仲間の写真が配され、図郭も図番体系もまったく異なっている。新版の表紙に記された"EUREF-FIN" とは、ヨーロッパ基準座標系に準拠するフィンランドの新たな座標系の略称で、これに基づいて構築された地形図データベースからの製作であることを示している。

新版では地図記号の構成にもかなり手が入れられていて、土地利用景の細分化や、水路情報の追加が目につく。まず、土地利用景だが、自然景観の区分はおおむね旧版から引き継がれたものだ。先述した白い森のほか、沼沢地を通過不能か容易か、木が生えているかいないかの4つに区分し、周辺の湿地化している所も別表示する。軍用図の影響かもしれないが、冷湿な土地のようすがみごとに表現されている。新版ではさらに、人の手が加わった土地の描写がていねいだ。採掘地の区分は鉱物、砂利、泥炭の3種類に増え、その他、埋立地、盛り土、干拓地、伐採地なども図示されている。森の代わりに緑色が使われたのは、スポーツ・レクリエーションエリアと公園だ。

水路情報も、走行路、方向、喫水のほか、浮標の個々の形状が示されるなど、かなり実用的なレベルまで踏み込んでいる。一方、市街地の描写は面的な総描から黒抹家屋を並べる方式に変わり、道路や鉄道の線もスリムにされた。残念ながら、それによって中心街では色や線が錯綜してしまい、視認性の点で旧図に劣ると言わざるを得ない。

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(左)1:20,000地形図表紙
ヘルシンキ 2001年
(右)1:25,000地形図表紙
タンペレ 2008年

1:25,000地形図は、Peruskartta(ペルス・カルッタ、基本図の意)と称する。面数はまだ360程度に過ぎず、全土をカバーするには程遠い。というのは、1:50,000と同様、EUREF-FIN座標系を用いた新図として2006年秋に刊行が始まったものの、完了予定は2016年(下注)とかなり先だからだ。それまでの間、更新が停止された旧図も引き続き販売されることになっている。

*注 2016年という年限の記述は当初の計画に基づいている。現在、測量局のサイトでは、2010年初めに新図の全国カバーが完了したように紹介されているが、実際には未刊の図葉が相当数残っている。

対応する旧図の縮尺は1:20,000で、ラップランド北部を除く全土について作成され、2968面を数えるが、図郭、図番とも両者の相関関係はない。右写真のとおり、旧図がリスのイラストを配した青表紙なのに対して、新図は写真に変わっているので、識別は容易だ。地図記号については、地番や地籍界など地籍に関するデータが追加されたほかは、1:50,000をほぼ踏襲している。

この新図のリソースである地形図データベースは、1:20,000縮尺相当で作製されており、印刷図は80%に縮小されていることになる。そのため、1:50,000ほどではないにしろ、こちらの表示もかなりの細かさを覚悟しなければならない。次回紹介する1:250,000道路地図も同様で、総じてフィンランドの地形図は、老眼者に拡大鏡の使用を強いる傾向がある。

地形図シリーズは、下記カルッタ・ケスクスのオンラインショップで発注できる。また、これとは別に、オンデマンドで任意の範囲を選択して地形図を印刷またはPDF化するサービス(Karttapaikka / MapSite)も存在する。最新データが得られるメリットはあるが、価格は印刷1点につき49ユーロ以上(サイズによって変わる)、PDFでも39ユーロ以上だ。上記のオフセット印刷版1:50,000の1枚15ユーロ、1:25,000の12ユーロ(これでもかなり高価格だが)に比べて、コストパフォーマンスの点でいささか疑問符が付く。

■参考サイト
国土測量局  http://www.maanmittauslaitos.fi/ 英語版あり
カルッタ・ケスクス http://www.karttakeskus.fi/
同 オンラインショップ http://www.karttakauppa.fi/ 英語版あり
同 地形図等の索引図(インタラクティブマップ)http://jm.karttakeskus.fi/mapwizard/#printed
  表記はフィンランド語。Maastokartat=地形図。GT-kartat=1:250,000道路地図。EUREFとあるのが新版。

地図閲覧サイト、販売店については「官製地図を求めて-フィンランド」にまとめた。
http://homepage3.nifty.com/homipage/map/map_finland.html

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