« 2010年8月 | トップページ | 2010年10月 »

2010年9月30日 (木)

フィンランドの鉄道地図

フィンランドに鉄道が開通したのは、1862年のヘルシンキ Helsinki ~ハメーンリンナ Hämeenlinna 間96kmが最初だ。当時はロシア帝国に属する大公国だったことから、軌間は本国と同じ5フィート(1524mm、ロシアンゲージと呼ばれる)が採用された。幹線網は大公国時代に概ねできあがっていたため、1917年にロシアから独立した後も、軌間はそのままだ。1960年代後半にソ連(当時)は軌間を1520mmと定義し直したが、4mmの差は許容範囲なので、フィンランドとロシアの間は貨物を含めて列車が今も直通する。

Blog_norway_railmap21995年まで存在したフィンランド国鉄 Valtionrautatiet は、上下分離政策によって、インフラを管理する鉄道庁 Ratahallintokeskus(直訳は鉄道管理センター。略称 RHK。英語名称 Finnish Rail Administration)と、列車を運行する国有企業のVR(ヴェーエールと読む)に分けられた。VRはもともと国鉄の略称だったが、現在はこれが正式名称だ。また、2010年1月1日の機構改革で、鉄道庁は海事庁 Merenkulkulaitos および道路庁 Tiehallinto の一部機能と統合されて、交通庁 Liikennevirasto(英語名称:Finnish Transport Agency)に衣替えした。

フィンランドに関して筆者が知っている印刷物の鉄道地図は、いつも紹介するM. G. Ball地図帳の北欧諸国編(右上写真。画像は公式サイトから)だけだ。ここには全路線と主要駅のほか、単線・複線、電化・非電化、貨物線、休止線などの情報が図示されているので、同国鉄道網の概略をつかむには必要十分だろう。

Blog_finland_railmap_hp1 ウェブ上で見られる鉄道地図は、まず旧 鉄道庁のサイトにいくつか見つかる。鉄道庁はもはや存在しないのだが、今のところウェブサイトの統合は完了しておらず、鉄道インフラに関する情報は旧来のサイトに残されている。フィンランド語、スウェーデン語、英語の3か国語で利用できるが、ここでは英語版を紹介する。最もシンプルなのは、「フィンランドの鉄道網 Finland's Railway Network」と題されたものだ。路線を旅客+貨物輸送か、貨物のみかに色分けしてある。しかし、文字が小さいのが難点で、JPEG画像のため、拡大しても読めない。

「統計 statistics」のページには、PDF化された年度ごとのデータ集がある。ここにもさまざまな鉄道地図が収録されていて、興味深い。2010年版では、8ページの鉄道網、11ページの鉄道網の運行状況、12ページの主要駅間距離、13~16ページの上部構造(枕木の材質、締結装置、溶接レール、使用年数)、18ページの電化区間、19ページの運行制御方式、21ページの踏切数、28ページの通過トン数、34ページの旅客輸送量、37ページの貨物輸送量と、地図のテーマは多岐にわたる。

■参考サイト
交通庁 http://portal.liikennevirasto.fi/
(旧)鉄道庁 http://www.rhk.fi/
同サイト「フィンランドの鉄道網」
http://www.rhk.fi/in_english/rail_network/finland_s_railway_network/
「統計」
http://www.rhk.fi/in_english/rail_network/statistics/

Blog_finland_railmap_hp2 一方、VRのサイトには、旅客営業に関する鉄道地図がある。「長距離サービス網 Long-distance Services Network」というリンクをたどると、まずフィンランド全図のクリッカブルマップ、さらに地方別の拡大図へリンクしている。地図としてのデザインは洗練されているとはとても言えないが、首都近郊線を除けば旅客駅はすべて書かれているので、時刻表との照合に使うことができる。バス代行区間は破線で区別されているが、拡大図でないとわかりにくいだろう。

ヘルシンキとその近郊については、「通勤通学サービス Commuter service」として、方面別に色分けし、停車駅も明示した運行系統図が別に用意されている。また、Geographical map(いわゆる正縮尺図)と称するルートの略地図もあるが、注記はフィンランド語だけだ。ちなみに、フィンランド語で鉄道はラウタティエ rautatie(rauta は鉄、tie は道の意)、時刻表はアイカタウル aikataulu(aika は時間、taulu はテーブル)という。

■参考サイト
VR  http://www.vr.fi/
同 時刻表・路線図トップページ
http://www.vr.fi/eng/aikataulut/reittikartat/

Blog_finland_railmap_hp3 ヘルシンキ首都圏の公共交通は2010年1月1日から、域内自治体の交通局を統合した新組織ヘルシンキ地域交通局 Helsingin seudun liikenne(略称 HSL、英語名称 Helsinki Regional Transport Authority)が担うことになった。ただし、ヘルシンキ市内については計画および調達部門が新組織に移行しただけで、市内のメトロやトラムの運行は従来どおり、ヘルシンキ市交通局 Helsingin kaupungin liikennelaitos (略称 HKL、英語名称 Helsinki City Transport)が管轄する。メトロ、トラムの路線図、系統図や時刻表は同じものが両組織のサイトにある。

■参考サイト
ヘルシンキ地域交通局  http://www.hsl.fi/
 トラム路線図は英語版のMaps and Lines > Tram Lines
ヘルシンキ市交通局  http://www.hkl.fi/
 トラムの情報は英語版のHKL Tram Transport、メトロはHKL Metro Transport

★本ブログ内の関連記事
 フィンランドの旅行地図
 フィンランド カレリアの歴史と鉄道

 近隣諸国のウェブ版鉄道地図については、以下を参照。
 スウェーデンの鉄道地図 II-ウェブ版
 ノルウェーの鉄道地図
 ロシアの鉄道地図 II-ウェブ版
 ヨーロッパの鉄道地図 V-ウェブ版

2010年9月23日 (木)

フィンランドの旅行地図

整然とした体系の地形図や道路地図とは対照的に、フィンランドの旅行地図分野は図式にしろ体裁にしろ、とてもバラエティに富んでいる。その全体像は筆者にもわからないが、カルッタ・ケスクス Karttakeskus を通して入手したいくつかの地図で、垣間見ることにしたい。

Blog_finland_touristmap1 右写真は、カルッタ・ケスクスが"Genimap"と名乗っていた時期に出されていた、首都ヘルシンキの市街図 Kaupunkikartta(2003年版)だ(右写真)。両面刷りだが、扱いやすい蛇腹折りの体裁としている。

メインは縮尺1:15,000の市街図で、すべての街路名が大きめの文字で記され、メトロやトラムのルート・停留所位置、主要施設なども入って、実用的だ。街路名索引があるので、住所から図上の位置も特定できる。さらに、中心街は、建物を斜め上空から見た形に描いた1:6,700相当の鳥瞰図が参考になる。他に、1:100,000の近郊図、トラムやメトロ、近郊列車線 lähijunalinjat の路線図も添えた念入りな構成で、市内のガイドマップとしてはなかなかの優れものと言えるだろう。説明も国際仕様で、フィンランド語、スウェーデン語、英語、独語、仏語、エストニア語、露語と、実に7か国語に対応している。残念ながら、カルッタ・ケスクスのサイトでは現在、この形式のものは扱っていないようだが、ロンドンの地図店スタンフォーズ Stanfords にはまだ残っている。

Blog_finland_touristmap2 タンペレ Tampere は首都の北北西170kmに位置する。ヘルシンキ首都圏以外では最も人口が多く、湖の水位差を利用した発電によって「フィンランドのマンチェスター」と呼ばれた工業都市だ。しかし一歩町を出れば、湖水地方の明媚な風景がどこまでも広がっている。それが地図「タンペレ周辺 Tampere ympäristöineen 1:40 000」(右写真は表紙)の主題で、より正確に言うと、タンペレ市街とその北にあるナシヤルヴィ湖 Näsijärvi 沿岸が対象だ。

地図は横82cm×縦80cm、マージンなしの両面刷りで、大胆に凡例も説明も省かれている。それだけでなく、デザインはかなり異色だ。たとえば、アップルグリーンに塗られた森の中に青の線が入り込んでいるのが見える(右写真を参照)。水路と言われても違和感はないが、実は等高線だ。さらにグレーの太い線は道路ではなく川を示し、読者の混乱に輪をかける。図郭の中央を占めるナシヤルヴィ湖にはていねいに段彩をつけた等深線が書き込まれ、モノトーン風の陸地に対して、絵画的な効果をあげている。個性的で何かしら心に残る地図だ。

Blog_finland_touristmap3 サンタクロースに会える町として日本でも知られるロヴァニエミ Rovaniemi は、フィンランド最北部、ラッピ州 Lapin lääni の中心地だ(ラッピ Lappi は英語でラップランド Lapland)。市域を北極線が横断する。この地図は、ラッピ州測量局 Lapin maanmittaustoimisto が製作したロヴァニエミのレクリエーション地図 Virkistyskarttaで、片面印刷された横112cm×縦88cmの用紙を折ってある。

地図は、縮尺1:50,000の地形図をベースに、赤色でハイキングルートや旅行情報を加刷している。旅行情報は升の中に絵をはめ込んだピクトグラムだが、中でも目につくのは、スポーツ施設でも宿泊地でもなく、クラウドベリーが採れる湿地 hillasuo の記号だ。クラウドベリー(フィンランド語でラッカ lakka あるいはヒッラ hilla。日本語でホロムイイチゴ)は野生のイチゴの一種で、同国ではユーロ硬貨に描かれるほど代表的な野草だという。また、スノーモービルのルートが、川も湖面もおかまいなしに走っているのに驚く。冬は凍結して、氷上が立派な陸の交通路になるのだ。地図自体はとりたてて特徴がないが、載せられた情報から彼の地の生活事情が伝わってくるのが興味深い。

Blog_finland_touristmap4 最後は、フィンランド東部の北カレリア県 Pohjois-Karjalan maakunta にあるコリ国立公園 Kolin kansallispuisto の旅行地図だ。美しい湖水地方の中でも、コリは眺望の素晴らしさで人気が高い。中心をなすウッコ・コリ Ukko-Koli(ウッコは翁の意。叙事詩カレワラでは「至高の神」とされる)は、頂きにある風化に耐えた石英岩の露頭から、眼下のピエリネン湖 Pielinen を見晴らす標高347m(湖面からの高さ約250m)の展望台で、国立公園の紹介写真に必ず登場する名所になっている(右の表紙写真)。作曲家シベリウスら国民主義の芸術家たちも、この地で作品のインスピレーションを得たという。

地図は「コリ、夏の旅行地図 Koli Kesämatkailukartta / Map for summer tourists」と題され、公園全域をカバーする縮尺1:50,000と、ウッコ・コリ周辺の1:20,000を両面に配している。いずれも地形図データベースをもとに、ハイキングルートや旅行情報を加えたものだ。湖岸の船着き場からウッコ・コリ、マクラ Mäkrä などいくつかのピークを結ぶ縦走路には、地点間距離と分岐点番号が細かに記され、2日間コースとなる全長40kmのヘラヤルヴィ湖周遊路 Herajärven kierros は、特に太線で強調されている。旅行情報は大きめのピクトグラムを用いて、駐車場や土産物屋から各種の宿泊場所、見どころに至るまで詳しく図示している。コンパクトに折り畳まれたこの地図は野外でも使いやすく、コリを歩く人には必携品と言えるだろう。

■参考サイト
カルッタ・ケスクス http://www.karttakeskus.fi/
同 オンラインショップ http://www.karttakauppa.fi/
  旅行地図は英語版左メニューの Maps of Finland > Outdoor maps 
コリ国立公園(outdoors.fiのサイトより)
http://www.luontoon.fi/page.asp?Section=6834

★本ブログ内の関連記事
 フィンランドの地形図
 フィンランドの道路地図
 フィンランドの鉄道地図

 スウェーデンの山岳地図
 ノルウェーの旅行地図

2010年9月16日 (木)

フィンランドの道路地図

カルッタ・ケスクス Karttakeskus のショッピングサイト(下記 参考サイト)には、官製地形図などとともに自社ブランドの地図や旅行書もたくさん並んでいる。かつて一時的に Genimap と名乗っていたので、まだその名称を扉に残す出版物もあるが、現在はフィンランド語で地図センターの意味をもつカルッタ・ケスクスに統一されているようだ。今回はその中から道路地図をいくつか紹介しよう。

Blog_finland_roadmap1600k道路地図 tiekartta は、1枚もの(折図)と地図帳に大別される。1枚ものは全国1面の縮尺1:1,600,000(160万分の1)と1:800,000、それに区分図になっている1:250,000シリーズがある。

1:1,600,000は最もコンパクトな全国図だ(右写真。画像はカルッタ・ケスクスのサイトより)。横60cm×縦84cmの用紙に片面刷りされている。表紙にYTと大きく書かれているのは、Yleis tiekartta の略で、道路概観図といった意味を表す。表示されているのは主要道路と鉄道網、地勢表現は段彩のみと、たいへんシンプルだが、東西はサンクトペテルブルク Sankt-Peterburg(フィンランド語でピエタリ Pietari)からストックホルム、北端はノルウェーのノールカップ Nordkapp まで包含するワイドな図郭で、フィンランドのおおまかな土地勘を養うにはちょうどいい。

Blog_finland_roadmap800k 1:800,000は Autoilijan tiekartta(ドライバーの道路地図の意)を略して AT と呼んでいる(右写真。画像はカルッタ・ケスクスのサイトより)。横100cm×縦70 cmの用紙を使って、国土の南半と北半を表裏に印刷している。道路網は1:1 600,000よりだいぶ詳しくなる。まず、緑色の自動車専用道と、バーミリオンの主要道を太く目立たせる。以下、オレンジ、ピンク、黄色(未舗装)まで全部で5種類に区分し、道路番号を付し、車線、幅員の分類もしている。区間距離は都市間と、より短区間を分けて細かく示す。鉄道網も黒の実線で比較的明瞭だ。地勢表現はやはり段彩による。

Blog_finland_roadmap250k 上記2種類に対して、1:250,000は複数面に分割されている。略称の謂れは不明だが、上記のYT、ATに対してGTの名称が定着している。シリーズは2通りあって、両面刷り、東西南北4面で揃う広域版と、片面刷り、全17面を要する地域版だ(右写真は地域版。左側は旧1:200,000、右は新1:250,000)。遠出に携行するなら前者、日帰り旅なら後者というところだろうか。価格も前者17.90ユーロ、後者12.50ユーロと差をつけてある。

地図自体は、道路地図にしては詳細すぎる印象があるが、それは2つの理由による。1つは、ベースマップが多目的な利用を前提に編集されたものだからだ。以前の地形図体系は、縮尺1:400,000の次が1:100,000まで飛んでいた。隙間を埋める1:200,000は、一般には道路情報を強調して(道路地図として)頒布されるかたわら、さまざまな機関が作成する主題図にも広く使われていたという(『世界地図情報事典』原書房, 350pによる)。そのため、20m間隔の等高線、農地や湿地のような土地利用景(下注)、自然地名などが入った地形図仕様になっているのだ。

*注 1:50,000地形図などと同じく、森林は明示されない。フィンランドの地図では、色の塗っていないエリアは森林という理解であることに留意。

2つ目の理由は、1:200,000の縮尺で編集されたベースマップを、1:250,000に縮小したことにある。縮尺が変わったのは最近のことで、それに合わせて図郭も微調整され、旧来の全18面が17面に再編成された。しかし、これは改悪というべきだろう。画面表示のような拡大縮小が効かない紙地図は、文字や表現のサイズの決定に細心の配慮が望まれる。極端な「でか字」は要しないが、一般的な読者が見るのにストレスを感じるようではいけない。一律80%に縮小したために、主要道路網はまだしも、もともと詳しい地形図データがかなり読みづらくなってしまった。

Blog_finland_roadatlas650k 地図帳タイプは、縮尺の小さいものと大きいものの2種類が出ている。小さいほうは「ドライバーの道路地図帳 Autoilijan tiekartasto / Road Atlas Finland」で、64ページのスリム版だ(右写真。画像はカルッタ・ケスクスのサイトより)。メインの地図の縮尺は南部1:650,000、北部1:800,000で、後者は道路密度が低いため、縮尺を変えてある。図版はいうまでもなく1枚もののAT図と同じものだ。そのほか、ヘルシンキ周辺の1:100,000拡大図、主要都市の1:40,000市街図、約7000件の地名索引と区間距離表がついている。

Blog_finland_roadatlas200k 大きいほうは、「GT道路地図帳 GT Tiekartasto Suomi Finland / GT Road Atlas」といい、スパイラル綴じで340ページもある分厚い地図帳だ(右写真は2003年版。現行版はデザインが異なる)。メインの地図の縮尺は1枚もののGT図と違って、旧来の1:200,000のまま(北部は1:250,000)なのだが、惜しむらくは等高線が省かれて、地形図の性格を失っている。また拡大図として、ヘルシンキ Helsinki とその周辺、トゥルク Turku、タンペレ Tampere とオウル Oulu の1:100,000、それに40都市以上の1:40,000市街図、地名索引と区間距離表がついていて、情報量は申し分ない。価格は39ユーロと少し高いが、1枚もので全国を揃えることを思えばお得だ。フィンランドの道路地図は、縮尺、種類が適切に揃っているので、ユーザとしても用途や活動範囲などに応じて賢く選ぶようにしたい。

■参考サイト
カルッタ・ケスクス http://www.karttakeskus.fi/
 同 オンラインショップ http://www.karttakauppa.fi/ 
 各地図の紹介ページにサンプル画像がある。

★本ブログ内の関連記事
 フィンランドの地形図
 フィンランドの旅行地図

 スウェーデンの道路・旅行地図と地形図地図帳
 ノルウェーの道路地図

2010年9月 9日 (木)

フィンランドの地形図

フィンランドには「森と湖の国」のイメージが定着している。事実、森林面積は国土の7割弱、湖水も1割を占めるそうだ。森林率(下注)で比べると、フィンランド73.9%に対して日本も68.2%で、数字の上では匹敵している。しかし、前者の国土は、氷河起源の小さな起伏をもちながらも全体的に平坦で、特に南半は多くが標高200m以下だ。人口が530万人に過ぎないこともあって、居住地に隣接して豊かな平地森が広がっている。心理的な近さには大きな差があるはずだ。

*注 国土に占める森林面積の割合。但し内水面を除く。FAO "Global Forest Resources Assessment 2005" 190-195pp. による。

Blog_finland_50k_legend
1:50,000凡例の一部

ところが、そのイメージを胸にフィンランドの地形図を開けると、間違いなく違和感にとらわれる。その理由は、地形図に青い湖はあっても、緑の森がどこにも見当らないからだ。森林、耕地、荒地、市街地などの表示、すなわち土地利用景は地形図の基本的な表示項目の一つであり、もちろんフィンランドでも地図記号にちゃんと定義されている。ただ、森林には、緑ではなく白色が充てられているのだ(右写真の最上段右の記号説明に、forested area (white)とある)。そのため、森で覆われているはずのエリアが、地図ではまるで空地のように見える。森はあるのが当たり前という意識の反映だろうか。他国の地形図にはない特色だ。

フィンランドの地形図作成は、国土測量局 Maanmittauslaitos(マーン・ミッタウス・ライトス。英訳 National Land Survey of Finland)が担っている。現在、発行者に測量局の名を冠しているのは、縮尺1:50,000と1:25,000の2種類のみだ。1990年代には1:100,000地形図と1:400,000一般図(その後1:500,000)などもあったが、すでに絶版となってしまった。

それ以外の小縮尺図の刊行は民間の手に委ねられている。測量局に代わって官製地図の普及に努めてきたのがカルッタ・ケスクス Karttakeskus(地図センターの意)で、地形図データベースを用いて道路地図や旅行地図を製作し、直販店も持っている。昨今は、GISソフトウェアなどデジタル分野に広く進出している。

*注 フィンランド語の複合名詞は日本語表記にすると読みにくいので、適宜「中黒」を用いている。

Blog_finland_50k
1:50,000地形図表紙
(左)旧版 トゥルク/オーボ 1998年
(右)新版 サヴォンリンナ 2009年

今回は、測量局名義の1:50,000と1:25,000を紹介しよう。

1:50,000地形図は、Maastokartta(マースト・カルッタ、地形図の意)と称し、全部で385面ある。2001年までに全土の図葉が揃ったが、その後、2005年から新版への切替えが始まり、2008年に完了した。旧版のツバメが羽ばたく黄色の表紙に対して、新版では枝先に止まるウソの仲間の写真が配され、図郭も図番体系もまったく異なっている。新版の表紙に記された"EUREF-FIN" とは、ヨーロッパ基準座標系に準拠するフィンランドの新たな座標系の略称で、これに基づいて構築された地形図データベースからの製作であることを示している。

新版では地図記号の構成にもかなり手が入れられていて、土地利用景の細分化や、水路情報の追加が目につく。まず、土地利用景だが、自然景観の区分はおおむね旧版から引き継がれたものだ。先述した白い森のほか、沼沢地を通過不能か容易か、木が生えているかいないかの4つに区分し、周辺の湿地化している所も別表示する。軍用図の影響かもしれないが、冷湿な土地のようすがみごとに表現されている。新版ではさらに、人の手が加わった土地の描写がていねいだ。採掘地の区分は鉱物、砂利、泥炭の3種類に増え、その他、埋立地、盛り土、干拓地、伐採地なども図示されている。森の代わりに緑色が使われたのは、スポーツ・レクリエーションエリアと公園だ。

水路情報も、走行路、方向、喫水のほか、浮標の個々の形状が示されるなど、かなり実用的なレベルまで踏み込んでいる。一方、市街地の描写は面的な総描から黒抹家屋を並べる方式に変わり、道路や鉄道の線もスリムにされた。残念ながら、それによって中心街では色や線が錯綜してしまい、視認性の点で旧図に劣ると言わざるを得ない。

Blog_finland_25k
(左)1:20,000地形図表紙
ヘルシンキ 2001年
(右)1:25,000地形図表紙
タンペレ 2008年

1:25,000地形図は、Peruskartta(ペルス・カルッタ、基本図の意)と称する。面数はまだ360程度に過ぎず、全土をカバーするには程遠い。というのは、1:50,000と同様、EUREF-FIN座標系を用いた新図として2006年秋に刊行が始まったものの、完了予定は2016年(下注)とかなり先だからだ。それまでの間、更新が停止された旧図も引き続き販売されることになっている。

*注 2016年という年限の記述は当初の計画に基づいている。現在、測量局のサイトでは、2010年初めに新図の全国カバーが完了したように紹介されているが、実際には未刊の図葉が相当数残っている。

対応する旧図の縮尺は1:20,000で、ラップランド北部を除く全土について作成され、2968面を数えるが、図郭、図番とも両者の相関関係はない。右写真のとおり、旧図がリスのイラストを配した青表紙なのに対して、新図は写真に変わっているので、識別は容易だ。地図記号については、地番や地籍界など地籍に関するデータが追加されたほかは、1:50,000をほぼ踏襲している。

この新図のリソースである地形図データベースは、1:20,000縮尺相当で作製されており、印刷図は80%に縮小されていることになる。そのため、1:50,000ほどではないにしろ、こちらの表示もかなりの細かさを覚悟しなければならない。次回紹介する1:250,000道路地図も同様で、総じてフィンランドの地形図は、老眼者に拡大鏡の使用を強いる傾向がある。

地形図シリーズは、下記カルッタ・ケスクスのオンラインショップで発注できる。また、これとは別に、オンデマンドで任意の範囲を選択して地形図を印刷またはPDF化するサービス(Karttapaikka / MapSite)も存在する。最新データが得られるメリットはあるが、価格は印刷1点につき49ユーロ以上(サイズによって変わる)、PDFでも39ユーロ以上だ。上記のオフセット印刷版1:50,000の1枚15ユーロ、1:25,000の12ユーロ(これでもかなり高価格だが)に比べて、コストパフォーマンスの点でいささか疑問符が付く。

■参考サイト
国土測量局  http://www.maanmittauslaitos.fi/ 英語版あり
カルッタ・ケスクス http://www.karttakeskus.fi/
同 オンラインショップ http://www.karttakauppa.fi/ 英語版あり
同 地形図等の索引図(インタラクティブマップ)http://jm.karttakeskus.fi/mapwizard/#printed
  表記はフィンランド語。Maastokartat=地形図。GT-kartat=1:250,000道路地図。EUREFとあるのが新版。

地図閲覧サイト、販売店については「官製地図を求めて-フィンランド」にまとめた。

★本ブログ内の関連記事
 フィンランドの道路地図
 フィンランドの旅行地図

 スウェーデンの地形図
 ノルウェーの地形図

2010年9月 2日 (木)

アイスランドの地図-M&M社のテーマ別地図

アイスランドの地図の最終回は、マゥル・オク・メンニング(言語と文化)社 Mál og menning(以下、M&M社と記す)から刊行されている各種の主題図、すなわちテーマ別地図についてぜひ記しておきたい。これらはアイスランドの自然を楽しむ旅に貴重な参考データを提供してくれるだけでなく、グラフィックの点でもすこぶる魅力的な作品群だからだ。

Blog_iceland_thematicmap1
(左)探鳥地図 (右)植物地図

まずは、自然観察のための地図として、「アイスランド探鳥地図 Fuglakort Íslands / Birdwatcher's Map of Iceland」(写真左側)、「アイスランド植物地図 Plöntukort Íslands / Botanical Map of Iceland」(同 右側)の2種がある。いずれも両面刷りで、野鳥や草花の美しい水彩画が紙面いっぱいに配され、見かけは図鑑のような構成だ。地図はというと、それぞれの種の分布域を示すために、小さな全島図が使われている。また、探鳥地図には、別に主な探鳥地(バードウォッチングサイト)をプロットした地図がある。参考までに探鳥地図の一部を右下に掲げた。内容については、裏表紙の英文による紹介を一部引用させてもらおう(以下、迷訳ご容赦)。

Blog_iceland_thematicmap1_detail

探鳥地図は「アイスランドの野鳥に関するわかりやすいガイド。78種の夏鳥 breeding birds、27の旅鳥 migrants、冬鳥 winter visitors および漂鳥 vagrants をカバーする。夏鳥については図版とともに、分布図、卵の大きさ・外観のイラストがある。」。また、植物地図は「78種の顕花植物 flowering plants を表示し、分布図や草丈、生育地および開花期のデータを付す。また、同国で見られる主な隠花植物 cryptogams(胞子植物 spore-bearing plants)、草類 grasses、藻類 algae、地衣類 lichens および真菌 fungi の図版を含む。」

図版の見出しはアイスランド語だが、ラテン語の学名と英・独語での呼び名も併記されている。生息地・生育地による分類(探鳥図なら海鳥、陸鳥、水鳥など、植物図なら草原、砂地、山地など)もピクトグラムにするなど、ユニバーサルデザインへの配慮がある。上記の英文コピーは、こう続いている。「(この地図は)アイスランドの自然を愛し、旅行中、アイスランドの野鳥(あるいは植物相)について知りたいと思っているすべての人にとって必携品だ」。実物を手に取ってみれば、これがあながち宣伝文句だけではないことがわかるだろう。

Blog_iceland_thematicmap2
(左)地質図 (右)テクトニクス地図

次は、地質図だ。こちらも「地質図 Jarðfræðikort / Geological map」(写真左側)と「テクトニクス地図 Höggunarkort / Tectonic map」(同 右側)の2種がある。いずれも、1998年にアイスランド自然史研究所 Náttúrufræðistofnun Íslands / Icelandic Institute of Natural History が刊行した地図の改訂版だ。

地質図とは、「ある地域内における地層や岩石の分布、地質構造や地質状態を示した地図」(広辞苑第6版)で、多くの国で製作されているが、一般的なニーズがあるものではない。ところが、アイスランドは事情が違う。大西洋中央海嶺が活発な火山列を伴って海面上に現れた島は、素人でもプレートテクトニクスを実感できる地球上でも貴重な場所だ。地質図が旅行地図と並べて販売されても、不思議ではない。

Blog_iceland_thematicmap2_detail

しかも、この図をデザインしたのは、例の大地図帳の作者、ハンス・H・ハンセン Hans H. Hansen 氏だ(「アイスランドの地図-M&M社の大地図帳」参照)。ベースマップのシャープさといい、パステル調で穏やかながら識別性を損なわない選色といい、ポスターにしたくなるほどの出来栄えは、彼の作と聞けば納得だろう(右写真はその一部)。この「地質図」は、片面全面に1:600,000の地質図を掲載し、裏面では地学的な注目スポットを写真つきで紹介している。地図の凡例を含めて、アイスランド語と英、独、仏語が併記されているのも親切だ。

一方の「テクトニクス地図」とは何なのか。「地質図」とどう違うのか。和訳タイトルは英語の Tectonic map を筆者が苦し紛れに直訳しただけで、内容を正確に説明してはいない。それに地図の印象や紙面の構成は、一見「地質図」と瓜二つだ。しかし、よく見ると地質の分類基準が違うようだ。「テクトニクス地図」は岩石の種類ではなく、14,000~10,000年前以降の後氷期 postglacial の溶岩流から、1,500万年以上前の中新世後期基盤岩まで、年代別7段階の区分になっている。

例を挙げれば、「地質図」では、U字谷のような氷河地形が見られる北西岸や東岸は、330万年以前の基盤岩として一まとめにされ、一面の青色だ。しかし、「テクトニクス地図」ではそのエリアがさらに形成年代によって4段階に塗り分けられる。また、活発な地殻変動を表現するために、活火山と死火山を分けてカルデラや中央火山域、亀裂、断層などの位置を示し、褶曲の背斜・向斜軸や傾斜方向を独特の記号や矢印で描いている。2種の地図はそれぞれ単独の商品だが、興味がおありなら、ぜひ一揃いと思ってお買いになるといい。

Blog_iceland_thematicmap3

最後は「子どものためのアイスランド地図 Íslandskort barnanna / Children's Map of Iceland」だ(右写真は表紙、右下写真はその一部)。要はイラストマップなのだが、「一番若い旅行者のニーズを念頭に置いてデザインされたもので、アイスランドで美しい自然が見られる主な場所、動物たち、そして9世紀の入植から今日までの史跡を表示している」(地図の紹介文より)。島の輪郭や地勢表現は鳥瞰図風だが、その中に人、動物、乗り物、建物その他が所狭しと描き込んである。これは眺めるだけでも楽しい。さらに、絵に添えられた番号に対応する説明書きがあり、裏面に英訳もついているので、子どもたちといっしょに、私たちもアイスランドの地理と歴史の勉強に参加できる。

Blog_iceland_thematicmap3_detail

おまけに、イラストも説明もユーモアたっぷりだ。たとえば、絵の中で大噴火を起こしているヘックラ山 Hekla の説明には、「アイスランドで一番 famous(有名な)あるいは infamous(悪名高い)な山」とある。スナイフェルスヨークトル氷河 Snæfellsjökull の絵には「ようこそ」と看板が立っていて、「謎めいたこの氷河こそUFOの着陸地だと、多くの人は信じている」と解説されている。読めば大人も時を忘れてしまいそうな地図は、アイスランド土産にお薦めだ。

■参考サイト
マゥル・オク・メンニング(M&M)社  http://www.forlagid.is/

★本ブログ内の関連記事
 アイスランドの地図-M&M社の大地図帳
 アイスランドの地図-M&M社の旅行地図

 アイスランドの地形図、その後
 アイスランドの地図-フェルザコルトの地形図
 アイスランドの地図-フェルザコルトの旅行地図

« 2010年8月 | トップページ | 2010年10月 »

2017年12月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31            

BLOG PARTS


無料ブログはココログ