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2010年8月 5日 (木)

アイスランドの地図-フェルザコルトの地形図

前回紹介したように、アイスランド国土測量局 Landmælingar Íslands の地図刊行と販売の業務は民間に引継がれ、フェルザコルト Ferðakort(旅行地図の意)のブランド名で復活した。フェルザコルトは、今までの官製地図を再刊するにとどまらず、ブランド名に見合った独自の旅行地図編集も手がけている。主なものを縮尺の小さい順に報告していこう。

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1:500,000表紙

アイスランド全土を1面で表す地図は、旧来、1:750,000と1:500,000の2種類があった。しかし、近い縮尺なので整理されたと見え、1:500,000旅行地図 Ferðakort だけがリストに残っている(右写真は、測量局時代の1:500,000。現在はデザインが異なる)。アイスランド島は北海道の1.3倍ほどの面積があるので、この縮尺で片面に収めようとすると、地図用紙も78×110cmと大判になる。地図のテーマである旅行情報は、統一的な正方形のピクトグラムで示されている。ホテルやペンションが通年営業と夏季営業に区分されるなど、宿泊・休憩施設の表示が重視されているようだ。道路網は、道路番号と区間距離が細かく記され、別に主要集落間の距離表もあって、道路地図としても十分使える。注意すべきは、地勢表現が濃いめのぼかし(陰影)だけで示され、等高線がない点だ。

この1:500,000を地図帳仕立てにしたもの(旅行地図帳 Ferðakortabók、ただし英語名は Road Atlas)もある。地図自体は1枚ものと同じだが、レイキャヴィクReykjavíkなど主要都市の市街図と観光地の拡大図がついている。1枚ものより価格が少し高くなるが、場所を取らない分、旅先では使いやすいだろう。

次は1:250,000だが、民営化以前は、20世紀前半のデンマーク領時代に作られたクラシカルな地形図(「主要図 Aðalkort」と呼ばれる。上写真の左側)が、道路など後年の変化を修正した上で販売されていた。しかし、現在は廃版となり、新作に置き換えられている。地図のカバーには旅行地図 Ferðakort / Touring Map とだけ書かれているが、全土を3面でカバーするので、英語の販売サイトでは区分図 Section Map と案内されている。別に、島の中央部を1面に収めた集成版「中央高地 Hálendið」(上写真の右側)も作られている。

旅行情報や道路情報は1:500,000と同程度だが、50m間隔の等高線にぼかし(陰影)が重ねられ、植生や砂地、湿地、溶岩原など地表の状態が描かれて、火山地形と氷河地形が混在する島の地勢がよくわかる。1:500,000で物足りなさを感じる人にはお薦めだ。ただし、氷河の部分は等高線がなく、とってつけたような粗いぼかしのみで、表現方法には違和感が残る。

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1:250,000表紙 (左)旧版 (右)新版
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新版のサンプル図(裏表紙の一部を拡大)

1:200,000道路地図帳 Vegaatlas(右写真)は、スパイラル綴じの冊子をさらに縦に2つ折りして、横約16×縦30cmの携帯に便利なサイズにしてある。収納時はコンパクトだが、ページを開けば幅60cmのワイド版になる。ユニークなこの形式は、かつてデンマークの地図帳が採用していたもので、フェロー諸島の地図帳も同類だ。使われている地図は、上記1:250,000の単純拡大版で、全50ページに分割されている。宿泊施設などの旅行情報は、メインの地図にほとんど記載されず、別に設けたテーマ別の全国図にまとめてあるのが特徴だ。ほかに、レイキャヴィク市街図、行政区分図、そして地名索引がついている。

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1:200,000道路地図帳 表紙

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1:100,000表紙

1:100,000は「アトラス地図 Atlaskort」 と称し、全土を87面でカバーする(右写真)。他とは違って、デンマーク領時代の手描き図版を用いたシリーズだ。前回紹介したアイスランドに複数ある地形図体系の1つ目にあたる。等高線間隔は20m。出自は古いが、氷河の等高線と融水の流路は藤色、川と湖は明るい青、等高線は茶、植生は緑、主要道路は赤、その他は黒と、堂々6色を駆使したカラフルな地図だ。アイスランドの地表の6割以上を占める荒蕪地やそこを通過する小道の分類が詳しく、行軍のための実用図として設計された痕跡をとどめている。その一方で、氷河の裂け目や砂地を網流する河川の克明な描き方は、芸術的な雰囲気さえ醸し出している。

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1:100,000 凡例の一部

他国ではとうに絶版で、古地図にさえ分類されているものが、鮮明なオフセット印刷で現役を演じ続けているのは驚くべきことだ。デンマーク領時代、区分図は1:250,000、1:100,000、1:50,000の3シリーズあったが、測量の精度と地図表現の精度とのバランスは1:100,000が最もよかった。それが、民営化後も頒布されている理由の一つだろう。ただし、地図の情報更新は1980年代を最後に実施されておらず、そればかりか一部の図葉はすでに在庫切れになっている。今後、再版するのか、あるいはオンデマンド方式に変更するのかも未定だという。測量局がこの地図を閲覧できるウェブサイトを設置しているのが、来るべき方向を暗に示しているようだ。

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1:50,000 表紙

1:50,000はデンマーク領時代の旧図ではなく、アイスランド国土測量局とアメリカ国防省地図作成局 Defense Mapping Agency (DMA) の協力で更新された地形図C761シリーズが頒布されている(右写真は、販売用の別刷りカバー)。前回の地形図体系でいうと2つ目に該当する。そのため、道路記号の区分や文字書体、地図の体裁(整飾など)は明らかにアメリカの様式だ。しかし、軍用地形図の製作には迅速さが要求され、そのため既存の地形図など先行する測量成果がしばしば参考にされる。全体はアメリカ風でありながら、例の荒蕪地の記号やクレバスの描写など、デンマーク領時代の旧図を彷彿とさせるのも、不思議なことではない。

等高線間隔は20mだが、緩傾斜地には10m間隔の補助曲線が多用され、地形描写は詳しいほうだ。海域や主な湖には等深線も描かれている。原図は全土を199面でカバーしているそうだが、刊行対象となっているのは、中央部の102面のみだ。シリーズは1977~1990年の製作で、その後改訂されていない。1:100,000と同様、オリジナルの印刷図がすでに底をついた図葉もあるが、こちらはスキャニング版で補充する方針のようだ。

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1:50,000 凡例の一部

フェルザコルトの出版カタログには、人気のある観光地に的を絞った特別地図 Sérkort も上がっているが、これについては次回紹介しよう。また、測量局時代には、1:25,000地形図 Staðfræðikort も一部の地域で刊行されたが、現在は販売リストから外されている。

さて、地図の購入についてだが、フェルザコルトのサイトで発注すると、Bóksala stúdenta http://www.boksala.is/ のサイトに移るようになっている。ここにも英語版が用意されているので、購入手続きはスムーズだ。ただし、地形図シリーズは扱っておらず、別途フェルザコルトにEメールかFAXで発注しなければならない。

■参考サイト
フェルザコルト http://www.ferdakort.is/
 英語版あり。各地図の紹介は、左メニューの Product Categories から選択。

地図閲覧サイト、販売店については「官製地図を求めて-アイスランド」にまとめた。
http://homepage3.nifty.com/homipage/map/map_iceland.html

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