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2010年8月26日 (木)

アイスランドの地図-M&M社の旅行地図

「大地図帳」の功績が一夜にして成ったものでないことは、前回少し触れた製作者ハンス・H・ハンセン氏の経歴でおわかりのことだろう。氏が手がけてきた作品群は、現在マゥル・オク・メンニング(言語と文化)社 Mál og menning(以下、M&M社と記す)の地図カタログの中に結実している。同社の地図体系はシンプルで明瞭だ。

1:600,000:1枚もの(全国1面)
1:300,000:1枚もの(区分図、名称はクォーター地図 Fjórðungskort)と、小地図帳 Kortabók
1:100,000:1枚もの(区分図、名称はアトラス地図 Atlaskort)と、大地図帳 Íslandsatlas

以上の縮尺別体系のほかに、旅行目的地に焦点を合わせた特別地図 Sérkort と、地質図や動植物地図といった主題図が数点ある。前回に引き続き、このレパートリーを紹介していこう。

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1:600,000旅行地図

1:600,000は、島全体が1面に収まり、旅行地図 Ferðakort(英訳は Touring Map)と名付けられている。ライバル会社であり、官製地図の後を継ぐフェルザコルト Ferðakort ブランド(以下、F社と記す)も全島1面の旅行地図を刊行しているが、こちらは1:500,000で、図自体が若干大きめだ。しかし、道路網や道路番号、地名などの基本事項の記載にはほとんど差がない。等高線を使わないのも両者共通しているが、F社が地勢をラフなぼかし(陰影)で表すだけなのに対して、M&M社のそれは彩色を高度に応じて連続変化させた上で、精密なぼかしで立体感を出している。観賞用として求めるなら、迷うことなくM&M社だろう。

反対に、旅行情報はF社のピクトグラムが見易い。M&M社にも記号が設定されているが、サイズが小さすぎ、地勢表現に紛れてしまっている。実用性からすれば、F社に軍配を上げたい。なお、M&M社の地図は両面刷りで、1:600,000の裏面には、代表的観光地が4か国語(アイスランド、英、独、仏)と写真つきで一言紹介されていて、簡単な旅行知識を仕入れることができる。

1:300,000は全島を4面でカバーする区分図で、そのためかクォーター地図 Fjórðungskort と称している(4等分の意。ただし、英語では一般図 General Map と言い換えてある)。別に集成図として「中央高地 Hálendið」がある。一方のF社は、1:250,000で全島3面、それと「中央高地」図だ。この競作も上記と同じことが指摘できる。すなわち、道路や地名データはそれほど違いがない。地勢表現は両者とも等高線とぼかし(陰影)が入るが、等高線間隔はM&M社100m、F社は50mだ。M&M社は上記と同様、高度を表す彩色を施しているので、等高線を間引いても土地の高低はわかると考えたのだろう。F社は等高線を読取れないと、地形が明確に見えてこない。一方、旅行情報はやはりF社のほうが親切だ。

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1:300,000クォーター地図(画像はM&M社のサイトから)

M&M社は1:300,000の地図帳も用意している。名称の Kortabók は「地図の本」という意味だが(英語では道路地図帳 Road Atlas と言い換え)、横17×縦24cmとコンパクトサイズなので、大地図帳に対して「小地図帳」と呼んでおこう。メインの地図は上記のクォーター地図そのもので、全土を60ページに分割している。そのほか、市街図24ページ、観光図6ページ、地名・街路名索引40ページという構成だ。ハンセン氏の美しい地形図を全土にわたって眺めることができ、大地図帳のようにかさばることもなく、価格的にも手ごろ(定価3,490アイスランドクローナ。1クローナ0.7円として2,443円。現地ではさらに値引がある)とあって、観賞派にはお薦めだ。

しかし、道路地図帳という英語のタイトルに惹かれて買うと、失望するかもしれない。メインの地図にはドライバーのための情報はあまり載っていないからだ。区間距離を知りたければ、巻末の主要都市間距離表を繰るしかないし、ガソリンスタンドやゴルフ場のありかを描いた地図は別に用意されているが、あまりに小縮尺で、位置は特定できそうにない。その目的なら、残念だがF社の1:200,000アイスランド道路地図 Ísland Vegaatlas を選択すべきだろう。

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小地図帳 Kortabók
(左)表紙 (右)裏表紙の一部拡大(エイヤフィヤトラヨークトルとレイキャヴィク近郊市街図)

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特別地図1
レイキャネス・
シンクヴェトリル
2009年版

そのほかに特別地図 Sérkortがある。これも明らかにライバルF社を意識した企画だ。国内の旅行適地をピックアップして、現在12種が出ている。地図の縮尺はおもて面が1:100,000で、これはアトラス地図や大地図帳と内容的に変わりはない。裏面には、その一部を1:50,000に拡大した地図がついている。等高線などの地形図データは元来1:50,000レベルで作成されたものなので、拡大図というより原図といったほうが正しい。また、1:100,000にはないフットパス(徒歩用の小道)や乗馬道もていねいに記載されている。余白は、旅行スポットの一言紹介と、付近で見られる鳥類の図鑑で満たされ、アウトドア派の行動を誘う。M&M社の地図群の中で最も旅行地図の特徴を備えているのが、このシリーズだ。

■参考サイト
マゥル・オク・メンニング(M&M)社  http://www.forlagid.is/

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2010年8月19日 (木)

アイスランドの地図-M&M社の大地図帳

見本図だけで一目惚れする地図というのは、そうどこにもあるものではない。ほんの数センチ角のサンプルに含まれる情報は限られているし、部分の印象だけでは全体を測れない場合も多いからだ。しかし、この地図帳はここで即決しないと後悔すると直感させる何かがあった。

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地図帳のタイトルは「アイスランド地図帳 Íslandsatlas」という。次回紹介する姉妹品と区別するために、以下これを「大地図帳」と呼ぶことにしよう。全208ページ、用紙の寸法は横35×縦45cmで、大型地図帳の代表であるタイムズ世界地図帳 The TIMES Atlas of the world と比べて縦は同じ、横は5cmも長い。もちろん、筆者の手元にあるものの中では最大だ。日本の時刻表と比べてみると、その大きさがわかる(右写真)。サイズだけでなく、2005年11月に上梓されたとき、初刷りが大統領と環境大臣に贈られたというから、アイスランドの記念碑的な出版物であったことが想像できる。

メインの地図は縮尺1:100,000だが、北海道の1.3倍の面積をもつ島なので、大判のページ全面を使っても132ページを要している。その前座として地図の歴史、地質、氷河の分類と年代史、花と植物といった百科事典的なチャプターがあり、巻末には43,000件の地名をカバーする広範な索引がついている。いずれも興味深いのだが、残念なことに、表記がアイスランド語しかない。地図や写真は言葉を知らなくてもある程度理解できるとはいえ、せめて見出しや凡例ぐらいは英語その他を併記してほしかった。

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外箱に描かれているサンプル図を掲げておこう(上写真)。場所は島の南部で、万年雪に覆われた山は、今年(2010年)噴火したエイヤフィヤトラヨークトル Eyjafjallajökull、右上の緑がかった谷間は、自然保護区のソゥルスモルク Þórsmörk だ。さて、ほかの地図とどこが違うのだろうか。

見ての第一印象は精密さや立体的表現に優れていることだ。等高線は20m間隔だが、国土測量局が作成する1:50,000レベルの地形図データベースに基づいているので、50%縮小の1:100,000ではかなり凝縮されている。一方、立体感は、地勢を表すぼかし(陰影)のなせる業だ。正確に言うと、筆で描いたようなぼかしではなく、隣接する等高線の位置と間隔から斜面の方向と角度を割り出して、色の明度に置き換えているらしい。図で、氷河の南東斜面に鑿で面取りしたような陰影が見られるのはそのためだ。緩傾斜地ではより人工的な雰囲気になるが、メッシュ標高データから生成するぼかし(陰影)と異なり、等高線にぴったり合致するところが案外、精密感を醸し出す源泉なのかもしれない。

ソゥルスモルクのあたりでは、地名もぎっしり記載されている。この谷間に限ったことではなく、国土全体にわたって、山地に刻まれた小さなひだや尾根のこぶ、海上に豆粒のように散らばる小島に至るまで、地名の数は実に豊富だ。実はライバル社、フェルザコルトの近刊図でも、地名の密度や配置は変わらない。耕地、植生、裸地など土地利用の状況についても同様で、測量局のデータベースが適切に用いられていることを示すものだ。

しかし、元データはあくまで素材に過ぎず、味付け(編集)次第で、地図の美しさは大きく変わる。大地図帳の場合、ポイントはまず、色の使い方にあるだろう。土地利用に用いられたきわめて自然な配色がその一例だ。植生のあるところは緑の濃淡、溶岩原などの裸地はベージュ系で、それに先述した陰影がからんでいくが、決して等高線が読み取りにくくなることはない。文字表記の配色もそうで、基本は黒色だが、水部に関するものを紫青にすることで、文字の多さから来る錯雑感をうまく回避している。さらに、アクセントの役割を果たしているのが道路網だ。舗装路に配された赤がよく効き(サンプル図にはないが)、茶色の未舗装路とともに、くくり(縁取り)無しのすっきりとした形状が好ましい。小道は濃いグレーの破線だが、太めにしてあるので、荒涼とした溶岩原ではよく目立つ。

取捨選択も編集の要点だ。ここでは市街地の表現が簡略化され、バラ色のベタ塗りで範囲を示すにとどまる。街路も、貫通路のほかは描かれない。この縮尺ではどのみち市街の詳細を描くのは難しいから、仔細は専門の市街図に任せればいいと考えたのだろう。旅行情報の記号もそうだ。あるのはキャンプサイト、スイミングプール、ゴルフコース程度で、しかも小さく見つけにくい。思うに、デザイナーの意図は、あくまで最良の「地形図」を作るところにあるようだ。

作者のハンス・H・ハンセン Hans H. Hansen 氏は、1961年、アイスランドのヴェストマンナ(ウェストマン)諸島 Vestmannaeyjar 生まれで、アイスランド大学を経て国土測量局に入り、地図作成に携わった経歴をもつ。アイスランド自然史研究所 Náttúrufræðistofnun Íslands の主題図や、次回紹介する1:300,000地形図など、先進的な地図編集の実績を積み、国際的に高い評価を得てきた。大地図帳は、ハンセン氏が主宰するフィクスランダ Fixlanda 社が編集し、エッダ出版社 Edda útgáfa により刊行されたが、現在は、マゥル・オク・メンニング社 Mál og menning(社名は「言語と文化」の意。以下、M&M社と記す)が発売元を引継いでいる。定価は24,990アイスランドクローナ(1クローナ0.7円として17,493円)と、大型本だけに少々値が張るが、それに見合う価値は十分に持っている。

ところで、M&M社は最近、これを全土31面に区分した折図の刊行(いわばバラ売り)に踏切った。名称は、測量局-フェルザコルト版の同縮尺図シリーズに倣って、「アトラス地図 Atlaskort」としている(下写真、画像はM&M社のサイトから)。名前は紛らわしいが、あちらが20世紀前半に描かれた歴史的作品なのに対し、こちらは言うまでもなく21世紀の最新作だ。説明文にはアイスランド語のほか、英語、独語、仏語が追加され、国際的にも通用する商品になっている。2010年5月に刊行が完了し、記念に全点をセットした美装函入も登場した。いずれも、M&M社のショッピングサイトをはじめ、アイスランドの地図を扱う内外の地図商から購入できる。

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アトラス地図シリーズ

次回は、同社が刊行するその他の地図を紹介しながら、大地図帳に先行するハンセン氏の作品群を概観してみたい。

■参考サイト
マゥル・オク・メンニング(M&M)社  http://www.forlagid.is/
フィクスランダ社  http://fixlanda.is/

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2010年8月12日 (木)

アイスランドの地図-フェルザコルトの旅行地図

アイスランドを訪れた旅行者が必ず立ち寄るという南西部の3つの観光ポイント、それをつなぐルートが、いつしか「ゴールデンサークル The Golden Circle」と名付けられた。ポイントの1つ目は、国立公園で世界遺産にも登録されている平原、シンクヴェトリル Þingvellir(下注)。大西洋中央海嶺が地表に露出して、ユーラシアプレートと北アメリカプレートを生み出している現場だ。同時に、アイスランド議会(アルシンギAlþingi、英語ではアルシング Althing)の発祥地として、重要な歴史の舞台でもある。

*注 アイスランド語のアルファベットには、独特の文字が含まれる。Þ(小文字は þ、代用表記はth)の発音は、英語のthinkのth。Ð(同ð、代用表記はd)の発音は、thatのthに相当する。

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特別地図の索引図
(フェルザコルトのサイト掲載の図に図名を付記)

2つ目は、黄金の滝を意味するグトルフォス Gullfoss。2段の高さ32m、氷河を水源としているため、夏季は毎秒140立方m、冬季も同80立方mの水量を誇る迫力満点の瀑布だ。最後が間欠泉のゲイシール Geysir。古くは70mも噴上げて、英語で間欠泉を意味する一般名詞 geyser(ガイザー)の由来にさえなったが、近年は活動が弱まり、近くのストロックル Strokkur 間欠泉に主役を譲っている。どれも火と氷が創り出した国土を象徴する地形・自然現象で、首都レイキャヴィク Reykjavík から日帰り可能な距離にあるのも、人気の理由らしい。

地図のブランド、フェルザコルト Ferðakort もそれにあやかって、2008年に特別地図 Sérkort「ゴールデンサークル The Golden Circle」を刊行した(右写真)。3つのポイントに加えて、レイキャネス Reykjanes 半島にある広大な露天風呂ブルーラグーン Bláa lónið も範囲に含めたワイド版だ。縮尺は1:200,000で、前回紹介した地図帳と同じ図版を使っているが、小地名はかなり割愛されているようだ。余白には、写真とともにこれらの旅行目的地が手短に説明されている(表記はアイスランド、英、仏、独の4か国語)。この縮尺で実際に現地を歩くのは難しいが、ツアーの起点となる首都やケフラヴィーク Keflavík 空港との位置関係を把握するのにいい。

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ゴールデンサークル 2008年版
(左)表紙 (右)サンプル図(裏表紙の一部を拡大)

こうした特別地図は、測量局直営の時代から製作されていて、1998年のカタログでは10種を数えた。民営化に際して、図郭が重複する大縮尺図を整理するなどした結果、現在は7種に絞られている。特別地図は、日本の国土地理院における山岳集成図のように、テーマに合わせてそのつど縮尺や地図デザインが設計された。それだけに通常のシリーズものとは違って、地図ごとに「開けてのお楽しみ」が待っている。サンプル図などを参考にしながら、いくつか紹介しよう。

南西アイスランド Suðvesturland」は縮尺1:75,000で、首都を中心に、東はシンクヴェトリル、西はレイキャネス半島の先端までを図郭内に収めている(右写真左側)。20m間隔の等高線と濃いめのぼかし(陰影)を併用し、森、湿地、草地、溶岩原といった地表の状況を塗りやパターンで表して、ていねいに仕上げている。小道(トレール)の表現も詳しい。乗馬道 bridleway は茶色の線、人専用の道は緑の線で表すが、さらに前者には乗馬姿のシルエットを模した記号が、後者には人形の記号が付され、おまけに区間距離まで記されているのだ。宿泊施設やスポーツ施設といった旅行情報もすべて記号化され、特別地図シリーズの標準装備になっている。

フーサヴィーク/ミーヴァトン Húsavík / Mývatn」は、水鳥の繁殖地となっている火山性堰止湖ミーヴァトンを図の中心に据え、港町フーサヴィーク、2つの名瀑デティフォス Dettifoss とゴーザフォス Goðafoss といった島北部の観光モデルルートをカバーする(右写真右側)。地勢表現は20m間隔の等高線で、陰影(ぼかし)は入っていない。

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(左)南西アイスランド 2005年版
(右)フーサヴィーク/ミーヴァトン 2000年版(2008年再刷)
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サンプル図(「南西アイスランド」裏表紙の一部を拡大)

南岸の「ソゥルスモルク/ランドマンナロイガル Þórsmörk / Landmannalaugar」も似た図式だ(右写真左側)。ソゥルスモルクは氷河に隣接する谷間で、植生の豊かさから自然保護区に指定されてきたが、今年(2010年)春、ヨーロッパ中の航空路が麻痺した氷河エイヤフィヤトラヨークトル Eyjafjallajökull の噴火によって、一帯に火山灰が降り注いだ。ランドマンナロイガルはより内陸の地熱地帯で、地質の違いによって周囲の山がさまざまな色合いを見せる。この1:100,000地形図の地勢表現は20m間隔の等高線で、氷河も青色の等高線で同じように描かれている。たびたび噴火している活火山、ヘックラ(ヘクラ)山 Hekla が図の左上に見え、溶岩流の到達範囲が年次別に赤色で図示されているのが興味深い。ちなみに測量局時代は、ヘックラ山だけの旅行地図も存在した(右写真右側)。使われていたのはデンマーク領時代、1907年の1:50,000地形図(1988年改訂)で、筆者にとっては旧版1:50,000の貴重なサンプルになっている。

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(左)ソゥルスモルク/ランドマンナロイガル
(右)ヘックラ山 1988年版

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スカフタフェットル

南東岸の「スカフタフェットル Skaftafell」は、島最大の氷河ヴァトナヨークトル Vatnajökull の南部を範囲とする(右写真)。地図は両面印刷されている。おもての1:100,000はやはり、デンマーク領時代のアトラス地図 Atlaskort で、1904年測量、1982年改訂の図番87と88を接合したものだ。ただし、原図にはない陰影(ぼかし)が加えられ、素朴な絵画のような雰囲気を放つユニークな地図に仕上げられている。地図の上半分は広大な氷河、下は雪解け水が気ままに網流する砂地の扇状地で占められ、眺めれば、人為が及ばない大自然の力強さを感じないわけにはいかない。裏面は縮尺1:25,000の拡大図で、見るからに近年の製作だ。1:100,000では表しきれないハイキングルートの位置を詳しく描いている。

地形図の見本市のようなこのシリーズは、フェルザコルトのサイトで発注できる(前回参照)ほか、欧米の主要地図商でも扱っている。

■参考サイト
フェルザコルト http://www.ferdakort.is/

アイスランド各地の概要と地名表記については、アイスランド観光文化研究所のサイトおよび同研究所発行の「アイスランドトラベル・ガイドブック」「アイスランド全図」を参考にした。「アイスランド全図」は、掲載されたすべての地名に原語綴りと日本語読みが併記され、その数も日本製の地図では随一だ。自然地名が多く盛り込まれているのも役に立つ。
アイスランド観光文化研究所 http://www.iceland-kankobunka.jp/

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2010年8月 5日 (木)

アイスランドの地図-フェルザコルトの地形図

前回紹介したように、アイスランド国土測量局 Landmælingar Íslands の地図刊行と販売の業務は民間に引継がれ、フェルザコルト Ferðakort(旅行地図の意)のブランド名で復活した。フェルザコルトは、今までの官製地図を再刊するにとどまらず、ブランド名に見合った独自の旅行地図編集も手がけている。主なものを縮尺の小さい順に報告していこう。

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1:500,000表紙

アイスランド全土を1面で表す地図は、旧来、1:750,000と1:500,000の2種類があった。しかし、近い縮尺なので整理されたと見え、1:500,000旅行地図 Ferðakort だけがリストに残っている(右写真は、測量局時代の1:500,000。現在はデザインが異なる)。アイスランド島は北海道の1.3倍ほどの面積があるので、この縮尺で片面に収めようとすると、地図用紙も78×110cmと大判になる。地図のテーマである旅行情報は、統一的な正方形のピクトグラムで示されている。ホテルやペンションが通年営業と夏季営業に区分されるなど、宿泊・休憩施設の表示が重視されているようだ。道路網は、道路番号と区間距離が細かく記され、別に主要集落間の距離表もあって、道路地図としても十分使える。注意すべきは、地勢表現が濃いめのぼかし(陰影)だけで示され、等高線がない点だ。

この1:500,000を地図帳仕立てにしたもの(旅行地図帳 Ferðakortabók、ただし英語名は Road Atlas)もある。地図自体は1枚ものと同じだが、レイキャヴィクReykjavíkなど主要都市の市街図と観光地の拡大図がついている。1枚ものより価格が少し高くなるが、場所を取らない分、旅先では使いやすいだろう。

次は1:250,000だが、民営化以前は、20世紀前半のデンマーク領時代に作られたクラシカルな地形図(「主要図 Aðalkort」と呼ばれる。上写真の左側)が、道路など後年の変化を修正した上で販売されていた。しかし、現在は廃版となり、新作に置き換えられている。地図のカバーには旅行地図 Ferðakort / Touring Map とだけ書かれているが、全土を3面でカバーするので、英語の販売サイトでは区分図 Section Map と案内されている。別に、島の中央部を1面に収めた集成版「中央高地 Hálendið」(上写真の右側)も作られている。

旅行情報や道路情報は1:500,000と同程度だが、50m間隔の等高線にぼかし(陰影)が重ねられ、植生や砂地、湿地、溶岩原など地表の状態が描かれて、火山地形と氷河地形が混在する島の地勢がよくわかる。1:500,000で物足りなさを感じる人にはお薦めだ。ただし、氷河の部分は等高線がなく、とってつけたような粗いぼかしのみで、表現方法には違和感が残る。

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1:250,000表紙 (左)旧版 (右)新版
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新版のサンプル図(裏表紙の一部を拡大)

1:200,000道路地図帳 Vegaatlas(右写真)は、スパイラル綴じの冊子をさらに縦に2つ折りして、横約16×縦30cmの携帯に便利なサイズにしてある。収納時はコンパクトだが、ページを開けば幅60cmのワイド版になる。ユニークなこの形式は、かつてデンマークの地図帳が採用していたもので、フェロー諸島の地図帳も同類だ。使われている地図は、上記1:250,000の単純拡大版で、全50ページに分割されている。宿泊施設などの旅行情報は、メインの地図にほとんど記載されず、別に設けたテーマ別の全国図にまとめてあるのが特徴だ。ほかに、レイキャヴィク市街図、行政区分図、そして地名索引がついている。

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1:200,000道路地図帳 表紙

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1:100,000表紙

1:100,000は「アトラス地図 Atlaskort」 と称し、全土を87面でカバーする(右写真)。他とは違って、デンマーク領時代の手描き図版を用いたシリーズだ。前回紹介したアイスランドに複数ある地形図体系の1つ目にあたる。等高線間隔は20m。出自は古いが、氷河の等高線と融水の流路は藤色、川と湖は明るい青、等高線は茶、植生は緑、主要道路は赤、その他は黒と、堂々6色を駆使したカラフルな地図だ。アイスランドの地表の6割以上を占める荒蕪地やそこを通過する小道の分類が詳しく、行軍のための実用図として設計された痕跡をとどめている。その一方で、氷河の裂け目や砂地を網流する河川の克明な描き方は、芸術的な雰囲気さえ醸し出している。

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1:100,000 凡例の一部

他国ではとうに絶版で、古地図にさえ分類されているものが、鮮明なオフセット印刷で現役を演じ続けているのは驚くべきことだ。デンマーク領時代、区分図は1:250,000、1:100,000、1:50,000の3シリーズあったが、測量の精度と地図表現の精度とのバランスは1:100,000が最もよかった。それが、民営化後も頒布されている理由の一つだろう。ただし、地図の情報更新は1980年代を最後に実施されておらず、そればかりか一部の図葉はすでに在庫切れになっている。今後、再版するのか、あるいはオンデマンド方式に変更するのかも未定だという。測量局がこの地図を閲覧できるウェブサイトを設置しているのが、来るべき方向を暗に示しているようだ。

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1:50,000 表紙

1:50,000はデンマーク領時代の旧図ではなく、アイスランド国土測量局とアメリカ国防省地図作成局 Defense Mapping Agency (DMA) の協力で更新された地形図C761シリーズが頒布されている(右写真は、販売用の別刷りカバー)。前回の地形図体系でいうと2つ目に該当する。そのため、道路記号の区分や文字書体、地図の体裁(整飾など)は明らかにアメリカの様式だ。しかし、軍用地形図の製作には迅速さが要求され、そのため既存の地形図など先行する測量成果がしばしば参考にされる。全体はアメリカ風でありながら、例の荒蕪地の記号やクレバスの描写など、デンマーク領時代の旧図を彷彿とさせるのも、不思議なことではない。

等高線間隔は20mだが、緩傾斜地には10m間隔の補助曲線が多用され、地形描写は詳しいほうだ。海域や主な湖には等深線も描かれている。原図は全土を199面でカバーしているそうだが、刊行対象となっているのは、中央部の102面のみだ。シリーズは1977~1990年の製作で、その後改訂されていない。1:100,000と同様、オリジナルの印刷図がすでに底をついた図葉もあるが、こちらはスキャニング版で補充する方針のようだ。

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1:50,000 凡例の一部

フェルザコルトの出版カタログには、人気のある観光地に的を絞った特別地図 Sérkort も上がっているが、これについては次回紹介しよう。また、測量局時代には、1:25,000地形図 Staðfræðikort も一部の地域で刊行されたが、現在は販売リストから外されている。

さて、地図の購入についてだが、フェルザコルトのサイトで発注すると、Bóksala stúdenta http://www.boksala.is/ のサイトに移るようになっている。ここにも英語版が用意されているので、購入手続きはスムーズだ。ただし、地形図シリーズは扱っておらず、別途フェルザコルトにEメールかFAXで発注しなければならない。

■参考サイト
フェルザコルト http://www.ferdakort.is/
 英語版あり。各地図の紹介は、左メニューの Product Categories から選択。

地図閲覧サイト、販売店については「官製地図を求めて-アイスランド」にまとめた。
http://homepage3.nifty.com/homipage/map/map_iceland.html

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