アイスランドの地図-M&M社 II
「大地図帳」の功績が一夜にして成ったものでないことは、前回少し触れた製作者ハンス・H・ハンセン氏の経歴でおわかりのことだろう。氏が手がけてきた作品群は、現在マゥル・オク・メンニング(言語と文化)社Mál og menning(以下、M&M社と記す)の地図カタログの中に結実している。同社の地図体系はシンプルで明瞭だ。
1:600 000:1枚もの(全国1面)
1:300 000:1枚もの(区分図、名称はクォーター地図Fjórðungskort)と、小地図帳Kortabók
1:100 000:1枚もの(区分図、名称はアトラス地図Atlaskort)と、大地図帳Íslandsatlas
以上の縮尺別体系のほかに、旅行目的地に焦点を合わせた特別地図Sérkortと、地質図や動植物地図といった主題図が数点ある。前回に引き続き、このレパートリーを紹介していこう。
◆
![]() 1:600 000 旅行地図 |
1:600 000は、島全体が1面に収まり、旅行地図Ferðakort(英訳はTouring Map)と名付けられている。ライバル会社であり、官製地図の後を継ぐフェルザコルトFerðakortブランド(以下、F社と記す)も全島1面の旅行地図を刊行しているが、こちらは1:500 000で、図自体が若干大きめだ。しかし、道路網や道路番号、地名などの基本事項の記載にはほとんど差がない。等高線を使わないのも両者共通しているが、F社が地勢をラフなぼかし(陰影)で表すだけなのに対して、M&M社のそれは彩色を高度に応じて連続変化させた上で、精密なぼかしで立体感を出している。観賞用として求めるなら、迷うことなくM&M社だろう。
反対に、旅行情報はF社のピクトグラムが見易い。M&M社にも記号が設定されているが、サイズが小さすぎ、地勢表現に紛れてしまっている。実用性からすれば、F社に軍配を上げたい。なお、M&M社の地図は両面刷りで、1:600 000の裏面には、代表的観光地が4か国語(アイスランド、英、独、仏)と写真つきで一言紹介されていて、簡単な旅行知識を仕入れることができる。
![]() 1:300 000クォーター地図 画像はM&M社のサイトから |
1:300 000は全島を4面でカバーする区分図で、そのためかクォーター地図Fjórðungskortと称している(4等分の意。ただし、英語では一般図General Mapと言換えてある)。別に集成図として「中央高地Hálendið」がある。一方のF社は、1:250 000で全島3面、それと「中央高地」図だ。この競作も上記と同じことが指摘できる。すなわち、道路や地名データはそれほど違いがない。地勢表現は両者とも等高線とぼかし(陰影)が入るが、等高線間隔はM&M社100m、F社は50mだ。M&M社は上記と同様、高度を表す彩色を施しているので、等高線を間引いても土地の高低はわかると考えたのだろう。F社は等高線を読取れないと、地形が明確に見えてこない。一方、旅行情報はやはりF社のほうが親切だ。
![]() 小地図帳Kortabók 左は表紙 右は裏表紙の一部拡大 (エイヤフィヤトラヨークトルと レイキャヴィク近郊市街図) |
M&M社は1:300 000の地図帳も用意している。名称のKortabókは「地図の本」という意味だが(英語では道路地図帳Road Atlasと言換え)、横17×縦24cmとコンパクトサイズなので、大地図帳に対して「小地図帳」と呼んでおこう。メインの地図は上記のクォーター地図そのもので、全土を60ページに分割している。そのほか、市街図24ページ、観光図6ページ、地名・街路名索引40ページという構成だ。ハンセン氏の美しい地形図を全土にわたって眺めることができ、大地図帳のようにかさばることもなく、価格的にも手ごろ(定価3,490アイスランドクローナ。1クローナ0.7円として2,443円。現地ではさらに値引がある)とあって、観賞派にはお薦めだ。
しかし、道路地図帳という英語のタイトルに惹かれて買うと、失望するかもしれない。メインの地図にはドライバーのための情報はあまり載っていないからだ。区間距離を知りたければ、巻末の主要都市間距離表を繰るしかないし、ガソリンスタンドやゴルフ場のありかを描いた地図は別に用意されているが、あまりに小縮尺で、位置は特定できそうにない。その目的なら、残念だがF社の1:200 000アイスランド道路地図Ísland Vegaatlasを選択すべきだろう。
![]() 特別地図1 レイキャネス・ シンクヴェトリル 2009年版 |
そのほかに特別地図Sérkortがある。これも明らかにライバルF社を意識した企画だ。国内の旅行適地をピックアップして、現在12種が出ている。地図の縮尺はおもて面が1:100 000で、これはアトラス地図や大地図帳と内容的に変わりはない。裏面には、その一部を1:50 000に拡大した地図がついている。等高線などの地形図データは元来1:50 000レベルで作成されたものなので、拡大図というより原図といったほうが正しい。また、1:100 000にはないフットパス(徒歩用の小道)や乗馬道もていねいに記載されている。余白は、旅行スポットの一言紹介と、付近で見られる鳥類の図鑑で満たされ、アウトドア派の行動を誘う。M&M社の地図群の中で最も旅行地図の特徴を備えているのが、このシリーズだ。
■参考サイト
マゥル・オク・メンニング(M&M)社 http://www.forlagid.is/
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