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2010年8月12日 (木)

アイスランドの地図-フェルザコルトの旅行地図

アイスランドを訪れた旅行者が必ず立ち寄るという南西部の3つの観光ポイント、それをつなぐルートが、いつしか「ゴールデンサークル The Golden Circle」と名付けられた。ポイントの1つ目は、国立公園で世界遺産にも登録されている平原、シンクヴェトリル Þingvellir(下注)。大西洋中央海嶺が地表に露出して、ユーラシアプレートと北アメリカプレートを生み出している現場だ。同時に、アイスランド議会(アルシンギAlþingi、英語ではアルシング Althing)の発祥地として、重要な歴史の舞台でもある。

*注 アイスランド語のアルファベットには、独特の文字が含まれる。Þ(小文字は þ、代用表記はth)の発音は、英語のthinkのth。Ð(同ð、代用表記はd)の発音は、thatのthに相当する。

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特別地図の索引図
(フェルザコルトのサイト掲載の図に図名を付記)

2つ目は、黄金の滝を意味するグトルフォス Gullfoss。2段の高さ32m、氷河を水源としているため、夏季は毎秒140立方m、冬季も同80立方mの水量を誇る迫力満点の瀑布だ。最後が間欠泉のゲイシール Geysir。古くは70mも噴上げて、英語で間欠泉を意味する一般名詞 geyser(ガイザー)の由来にさえなったが、近年は活動が弱まり、近くのストロックル Strokkur 間欠泉に主役を譲っている。どれも火と氷が創り出した国土を象徴する地形・自然現象で、首都レイキャヴィク Reykjavík から日帰り可能な距離にあるのも、人気の理由らしい。

地図のブランド、フェルザコルト Ferðakort もそれにあやかって、2008年に特別地図 Sérkort「ゴールデンサークル The Golden Circle」を刊行した(右写真)。3つのポイントに加えて、レイキャネス Reykjanes 半島にある広大な露天風呂ブルーラグーン Bláa lónið も範囲に含めたワイド版だ。縮尺は1:200,000で、前回紹介した地図帳と同じ図版を使っているが、小地名はかなり割愛されているようだ。余白には、写真とともにこれらの旅行目的地が手短に説明されている(表記はアイスランド、英、仏、独の4か国語)。この縮尺で実際に現地を歩くのは難しいが、ツアーの起点となる首都やケフラヴィーク Keflavík 空港との位置関係を把握するのにいい。

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ゴールデンサークル 2008年版
(左)表紙 (右)サンプル図(裏表紙の一部を拡大)

こうした特別地図は、測量局直営の時代から製作されていて、1998年のカタログでは10種を数えた。民営化に際して、図郭が重複する大縮尺図を整理するなどした結果、現在は7種に絞られている。特別地図は、日本の国土地理院における山岳集成図のように、テーマに合わせてそのつど縮尺や地図デザインが設計された。それだけに通常のシリーズものとは違って、地図ごとに「開けてのお楽しみ」が待っている。サンプル図などを参考にしながら、いくつか紹介しよう。

南西アイスランド Suðvesturland」は縮尺1:75,000で、首都を中心に、東はシンクヴェトリル、西はレイキャネス半島の先端までを図郭内に収めている(右写真左側)。20m間隔の等高線と濃いめのぼかし(陰影)を併用し、森、湿地、草地、溶岩原といった地表の状況を塗りやパターンで表して、ていねいに仕上げている。小道(トレール)の表現も詳しい。乗馬道 bridleway は茶色の線、人専用の道は緑の線で表すが、さらに前者には乗馬姿のシルエットを模した記号が、後者には人形の記号が付され、おまけに区間距離まで記されているのだ。宿泊施設やスポーツ施設といった旅行情報もすべて記号化され、特別地図シリーズの標準装備になっている。

フーサヴィーク/ミーヴァトン Húsavík / Mývatn」は、水鳥の繁殖地となっている火山性堰止湖ミーヴァトンを図の中心に据え、港町フーサヴィーク、2つの名瀑デティフォス Dettifoss とゴーザフォス Goðafoss といった島北部の観光モデルルートをカバーする(右写真右側)。地勢表現は20m間隔の等高線で、陰影(ぼかし)は入っていない。

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(左)南西アイスランド 2005年版
(右)フーサヴィーク/ミーヴァトン 2000年版(2008年再刷)
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サンプル図(「南西アイスランド」裏表紙の一部を拡大)

南岸の「ソゥルスモルク/ランドマンナロイガル Þórsmörk / Landmannalaugar」も似た図式だ(右写真左側)。ソゥルスモルクは氷河に隣接する谷間で、植生の豊かさから自然保護区に指定されてきたが、今年(2010年)春、ヨーロッパ中の航空路が麻痺した氷河エイヤフィヤトラヨークトル Eyjafjallajökull の噴火によって、一帯に火山灰が降り注いだ。ランドマンナロイガルはより内陸の地熱地帯で、地質の違いによって周囲の山がさまざまな色合いを見せる。この1:100,000地形図の地勢表現は20m間隔の等高線で、氷河も青色の等高線で同じように描かれている。たびたび噴火している活火山、ヘックラ(ヘクラ)山 Hekla が図の左上に見え、溶岩流の到達範囲が年次別に赤色で図示されているのが興味深い。ちなみに測量局時代は、ヘックラ山だけの旅行地図も存在した(右写真右側)。使われていたのはデンマーク領時代、1907年の1:50,000地形図(1988年改訂)で、筆者にとっては旧版1:50,000の貴重なサンプルになっている。

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(左)ソゥルスモルク/ランドマンナロイガル
(右)ヘックラ山 1988年版

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スカフタフェットル

南東岸の「スカフタフェットル Skaftafell」は、島最大の氷河ヴァトナヨークトル Vatnajökull の南部を範囲とする(右写真)。地図は両面印刷されている。おもての1:100,000はやはり、デンマーク領時代のアトラス地図 Atlaskort で、1904年測量、1982年改訂の図番87と88を接合したものだ。ただし、原図にはない陰影(ぼかし)が加えられ、素朴な絵画のような雰囲気を放つユニークな地図に仕上げられている。地図の上半分は広大な氷河、下は雪解け水が気ままに網流する砂地の扇状地で占められ、眺めれば、人為が及ばない大自然の力強さを感じないわけにはいかない。裏面は縮尺1:25,000の拡大図で、見るからに近年の製作だ。1:100,000では表しきれないハイキングルートの位置を詳しく描いている。

地形図の見本市のようなこのシリーズは、フェルザコルトのサイトで発注できる(前回参照)ほか、欧米の主要地図商でも扱っている。

■参考サイト
フェルザコルト http://www.ferdakort.is/

アイスランド各地の概要と地名表記については、アイスランド観光文化研究所のサイトおよび同研究所発行の「アイスランドトラベル・ガイドブック」「アイスランド全図」を参考にした。「アイスランド全図」は、掲載されたすべての地名に原語綴りと日本語読みが併記され、その数も日本製の地図では随一だ。自然地名が多く盛り込まれているのも役に立つ。
アイスランド観光文化研究所 http://www.iceland-kankobunka.jp/

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