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2010年6月24日 (木)

スウェーデンの山岳地図

Blog_sweden_fjallkartan_index スカンジナビア半島の背骨をなす山岳地帯を、スウェーデンとノルウェーが東西に分け合う。同じ山の続きでも両者の風景はずいぶん違う。端的に表現するなら、西のノルウェー側は垂直方向へ展開するのに対して、東のスウェーデン側は水平方向に広がっている。それは川の表情でもわかる。東側の山地(特に上流域)では、川は広い谷間を悠然と流れ下っていく。途中、谷に沿う細長い湖や湿地が横たわり、水の流れはしばしば停滞する。氷河が置いていったモレーン(堆石)が川を堰き止めているのだが、それによって長さ50kmも続くような湖ができるのも、谷の勾配が緩やかな証拠だ。

スウェーデンの地形図は、この山岳地域だけ仕様が異なり、紫の表紙に「山岳地図 Fjällkartan」の名称で刊行されている。通常の地形図に山岳レジャーの必要情報を追加してあるので、内容としては他国の旅行地図(旅行情報を加えた地形図)と同様のものだ。ただ、ノルウェーやドイツなどの場合は同じエリアで通常の地形図と旅行地図の両方が手に入るが、この国では両者の刊行区域がはっきり分かれている。山地に入って地形図を使うのは、ほとんど山岳レジャーの愛好家だと割り切っているのだろう。

Blog_sweden_fjallkartan100k_old1 同国の山岳地図のルーツは1930年代に遡る。このころ旅行や野外生活への関心が高まり始めたことを受けて、16点が刊行されたのが最初だという。筆者が初めて目にしたのは、内外交易による教材用外国地形図セット(1978年)に含まれていた1:100,000山岳地図「ケブネカイセ Kebnekaise」だった。ケブネカイセは同国の最高峰の名で、標高は2106m(下注1)、代表的なトレッキングルート「王様の散歩道(クングスレーデン Kungsleden)」(下注2)で目指す目的地にもなっている。地図は、旧 陸地測量部 Rikets allmänna kartverk の製作で、丈夫なコート紙を使った立派なものだった。地勢を強調する手描きのぼかし(陰影)は絵画的な美しさを湛え、暗めの色使いと濃い山影が北極圏の厳しい気候も連想させた。

*注1 ケブネカイセ(南峰)は山頂が氷河で覆われているため、標高が常に変化する。文献によって数値が異なるのはそのためだ。官製山岳地図では、8月測定値の10年間平均で表示しているという。

*注2 王様の散歩道は、ラップランドの山岳地帯を縦走するトレッキングルートで、アビスコ Abisko ~クヴィックヨック Kvikkjokk 間425km。スウェーデン旅行協会 Svenska Turistföreningen (STF) が1899~1926年に整備して知られるようになった。日本語訳はいかにも詩的だが、散歩道どころか本格的な山岳路だ。

Blog_sweden_fjallkartan100k_old2 当時に比べて山岳地図1面の図郭はかなり拡大され、まとまりのある地域を収めるために、相互に重複を持たせている。図番も、県(レーンlän)のコードと数字連番を組合せたものになった(冒頭の索引図参照)。筆者の手元にある「アビスコ-ケブネカイセ-ナルヴィク Abisko-Kebnekaise-Narvik」図葉の1994年版(右写真はその表紙)を見ると、色調が思い切って明るくなり、スカンジナビアよりピレネーの山々に似合いそうだ。スイスの官製図と同様、ぼかしは光の当たる部分に1色、影になる部分にもう1色使っているので、その組合せ次第で地図の表情がこれほど違うものになるのだ。

*注 県のコードは県名の頭文字などではなく、ストックホルム県をA(現在はAB)としてアルファベットを機械的に付与している。なお、ヴェステルボッテン Västerbotten 県はAC、ノールボッテン Norrbotten 県はBD。

旧図ではトレッキングルートに黒色が当てられていたが、1980年代以降は紫を用いて目立たせている。トレッキングルートの記号は、整備されたものが通年用と冬用、夏用、それに標識はないが推奨するルートという4種に分類され、冬用の一部はスノーモービルの表示も添えられている。その他紫色を使っているのは、山小屋など宿泊施設の記号、スキートレール、橋、渡渉地点、駐車場、キャラバンサイト、緊急電話、また緑を使っているのは、密な植生 tät vegetation(迷い込まないようにするため)と国立公園の境界などだ。

さらに裏面全面が、山岳安全協議会 Fjällsäkerhetsrådet の提供による山岳情報のスペースに充てられている。余白に配された雄大な山のカラー写真も旅心を誘う。このように山に入るための情報が網羅されているのだが、記述のほとんどがスウェーデン語で、英語やドイツ語が併記されているのは、地図の凡例を除くと公共通行権に関する注意だけというのが惜しい。幸い、同協議会やスウェーデン旅行協会のウェブサイトでは、これら山岳地域についての詳細情報を英語でも提供しているので、実際に出かけるなら、そちらを参照されたい(下記参考サイト)。

Blog_sweden_fjallkartan100k なお、最新の山岳地図は、表紙が他の地形図シリーズに合わせて新装されている(右写真はサーレク国立公園 Sareks nationalpark、2009年2月版)。表紙に刊行年月が入り、掲載された情報がどの時点のものかがすぐにわかるようになったのは、大きな進歩だ。地図から受ける印象も以前と違うように思うのは、ぼかしが影を表す1色だけになったからだろう。それ以外は情報内容に変化はない。この山岳地図シリーズは全部で25面を数えるが、まだ欠番が存在する。

Blog_sweden_fjallkartan50k ところで、スウェーデン中部のイェムトランド Jämtland、ダーラナ Dalarna 両県の山間部では、上記の1:100,000の図郭にだぶらせて、縮尺1:50,000の山岳地図も16面刊行中だ。もともとこの地域の1:50,000地形図は旅行情報が入った特別版だったので、その後継ということらしい。ただし、地形図に地勢を示すぼかしがなく(すなわち通常の地形図のまま)、裏面の文字情報も省かれているなど、1:100,000の山岳地図に比べると簡易仕様になっている。

これらの山岳地図は、地形図と同様、カートブティーケン Kartbutiken(地図販売所の意)のサイトから容易に入手できる。

Blog_sweden_fjallkartan_kpn なお、「王様の散歩道」の主要部については、KartPoolen i Norr(北部地域地図組合の意)が独自の1:50,000~1:75,000山岳地図を刊行している(右写真はその一つ。ケブネカイセ~アビスコ2枚組。左が別刷りカバー、右は索引図)。等高線間隔は20mで、トレッキングルートをはじめ、山小屋、キャンプ地などの旅行情報が記号化されている。官製山岳地図より大縮尺であるという意味で、利用価値がある。これもカートブティーケンで扱っている。

■参考サイト
国土測量庁 http://www.lantmateriet.se/
 英語版サイトもあるが、印刷地図に関する情報はスウェーデン語版のみ。
 トップページ > kartor > Kartor och geografisk information > Fjällkarta > Trykt Fjällkarta
 (Tryktは英語のprintedに当る)
カートブティーケン http://www.kartbutiken.se/ 英語版あり

スウェーデン旅行協会 Svenska Turistföreningen (STF)
http://www.svenskaturistforeningen.se/
 英語版、ドイツ語版あり。主要トレッキングルートの解説とルートマップ(概略)がある。
同協会による「王様の散歩道」ルート全体図
http://www.svenskaturistforeningen.se/sv/upptack/Omraden/Lappland/Kungsleden/Karta/
区間ごとのルートマップもある。下記はアビスコ~ニッカルオクタ Nikkaluokta 間の例
http://www.svenskaturistforeningen.se/sv/upptack/Omraden/Lappland/Kungsleden/Turforslag/Karta/
山岳安全協議会 Fjällsäkerhetsrådet  http://www.fjallsakerhetsradet.se/
 英語版でも、山に入る際の各種心得、気候、地図についての解説がある。

KartPoolen i Norr  http://www.kartpoolen.se/

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2010年6月17日 (木)

スウェーデンの地形図

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地図カタログ(Kartförlaget
1990年代)

スウェーデンは、面積、人口とも北欧諸国では最大だ。穀倉地帯である最南部のスコーネ地方 Skåne län を別にすれば、森の中に大小の湖が点在する氷河由来の地形がどこまでも続く。この広い国土を精緻な地形図群が覆っている。製作している国の測量機関はラントメーテリエット Lantmäteriet だ(以下「国土測量庁」と訳す)。参謀本部地図を継承していた陸地測量部 Rikets allmänna kartverk と地籍管理を行う国土測量局 Lantmäteristyrelsen の統合により、1974年に設立された。ラントメーテリエットという名は長らく通称だったが(下注)、2008年9月1日に21の地方測量局と統合されたときに、機関の正式名称となった。

*注 正式名称は Lantmäteriverket といった。verket は英語の (the) work に当り、ここでは役所を意味する。

国土測量庁の刊行地図を縮尺別にみると、1:1,000,000(100万分の1)、1:250,000、1:100,000、1:50,000で、その次は1:12,500に飛ぶ。日本をはじめ諸外国で一般的な1:25,000は作成されていない。その概要を、縮尺の小さいものから順に紹介しよう。

1:1,000,000(100万分の1)は、スウェーデン全土を1面に収める地図だ。南北に1500km以上も延びる国土なので、74×160cmとかなり縦長のサイズになっている。ぼかし(陰影)で地勢を、アップルグリーンの塗りで森林のエリアを表したベースマップに、主に都市・村落とそれらを結ぶ交通網(道路、鉄道、航路)を描いたものだが、他国の部分は地勢と植生が省かれている。ポスターのため地名索引などはないものの、国土の概略をつかむことができる。なお、北欧全体の地勢を見たければ、これの姉妹版として、北欧諸国(フィンランド、スウェーデン、ノルウェー、デンマーク、アイスランド、バルト三国)を1面に収めた縮尺1:2,000,000(200万分の1)北欧 Norden が刊行されている。

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1:250,000地形図表紙
(左)ストックホルム 2002年版
(右)スンツヴァル 2009年版

縮尺1:250,000からは、いよいよ等高線が入って、地形図の体裁が整う。利用者へのアピール度を高めるために、縮尺ごとにシリーズ名がつけられている。以前はフランス流に表紙の色名を冠していたが、1999年に、地図の用途を示す即物的な名称に変えられた。

1:250,000は「概観図 Översiktskartan」(旧名レッドマップ Röda kartan)と称し、全土を21面でカバーする。地勢表現は等高線とぼかし(陰影)を併用している。等高線間隔が標高600m以下は25m、それ以上は50mと高度によって密度が違う。一方、ぼかしは低地の微地形がよくわかる繊細なもので、等高線の間隙を補っている。概観図は基本的な地形図の要素を持ちながら、面数も少なく、文字通りその地域を概観するには手ごろな地形図といえる。

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1:100,000地形図表紙
(左)ストックホルム 2003年版
(右)ファールン 2008年版

1:100,000は「道路地図 Vägkartan」(旧名ブルーマップ Blå kartan)と称し、79面ある。等高線間隔は低地10m、高地20mだ。索引図では北西部のノルウェー国境一帯が未刊行のように見えるが、この部分はスカンジナビア山脈の中心部で、トレッキングやスキーの用途を想定した「山岳地図Fjällkartan」が別に存在する(「スウェーデンの山岳地図」参照)。

道路地図という名称はいささか誤解を招くかもしれない。みかけは普通の地形図だからだ。道路地図なら備えてほしい区間距離やガソリンスタンド、駐車場などドライバー向けの情報は見当たらない。道路番号も幹線道路にしかついていない。唯一、国道 riksväg が青、それ以外は赤茶と色分けしてあるのが他の縮尺図との違いだ。

もう一つ地図のイメージを決定づける相違点がある。それは土地利用の色分けだ。居住地がオレンジ、裸地(耕地・空地)öppen mark がクリームイエローなのはともかく、森に対して緑系ではなくクリームイエローをさらに薄めた色が使われているのだ。そのため図上では、国土を覆う広大な森林地帯も不毛の原野と見間違うのだが、もちろんこれは、道路網を浮かび上がらせるための意図的な配色だろう。おかげで主要道路のみならず、森の中に延びる小道さえ、緑色に埋もれることなく明瞭に読み取れる。道路地図と名づけた真意はこの点にあるのかもしれない。

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1:50,000地形図表紙
(左)ストックホルム北東部
1991年版
(中)マルメ 2001年版
(右)ウプサラ 2009年版

1:50,000は原語でテレングカルタン Terrängkartan(旧名グリーンマップGröna kartan)と称する。terräng は英語の terrain に当たるので、地形あるいは地勢を描いた地図ということだ。topografisk kartan(英語の (the) topographic map)と区別がつかないが、本稿では、括弧をつけた「地形図」で通すことにする。

「地形図」は244面あるが、全土をカバーしておらず、内陸の最北部ラップランド Lappland 全域、イェムトランド Jämtland の山間部などは空白域となっている。後述する旧図郭の時代もそうだったから、整備が遅れているのではなく、需要の観点から製作しない方針らしい(下注)。冒頭にも書いたとおり、1:25,000の刊行図はないので、一般用としてはこれが最大縮尺の地形図だ。等高線間隔は低地5m、高地10mとなっている。

*注 イェムトランドの山間部を含め、中部の山岳地帯には、縮尺1:50 000の山岳地図が整備されつつある。

Blog_sweden_50k_legend 「地形図」のユニークな点は道路表現だ(右写真は「地形図」凡例の一部)。中央(おそらく真位置)に細い実線を描き、その両側に縁取りのように茶色の線を引くことで、道路の幅(幅員)を示している。一般的な二重線の道路もあるが、市街地の主要路か、郊外では茶線道路より一級低い扱いになっている。

また、道路記号の区分は、管理者別でも車線数でもなく、幅員(道幅)基準だ。世界的に見ても幅員で分けるのは少数派だが、ここではさらに5m未満、5~7m、7m以上(正確には「少なくとも7m」)という妙な3区分になっている。日本の地形図図式も最近まで幅員別だったが、およそ車線数に応じていて、2.5m~5.5mが1車線、5.5m~11.0mが2車線という理解だった。スウェーデンの場合、5m未満は1車線とわかるが、そのあとの刻みが小さすぎる。5~7mは離合可能な道、7m以上はセンターラインの引ける道だろうか。この幅員区分は他の縮尺図でも一貫して採用されている。

最後は、1:12,500の「土地区画図 Fastighetskartan」(下注)だが、これはオルソフォトマップの上に地籍界や建物、水路、道路などを描いたものだ。全土で9,807面もあり、完全受注生産となっている。

*注 地籍図 Registerkartan が別にあるので、土地区画図と訳した。なお、以前はイエローマップ Gula Karta と称する縮尺1:20,000のシリーズがあった。これは土地区画図を縮刷したもので、1983~95年の間に刊行されたが、それ以降、更新が途絶えた。

スウェーデンの地形図は、つい最近(2008~09年)大きな変革を経験している。地図の図式ではなく、頒布方法の思い切った変更が行われたのだ。それまでは片面刷り、横13cm×縦26.5cmの折図で販売されていたが、両面刷りとなり、折ったサイズも横13cm×縦21.5cmとコンパクトになった。印刷はオフセット方式からデジタルプリントに、用紙も上質紙から耐水紙に替わった。

両面化によって逆に1面あたりの収載範囲は広くなり、それに伴って図郭も一新された。今までどおり、図郭は一部の重複図葉を除いて経緯度ですっぱりと切られているが、各図のマージンに隣接図を薄く刷ることで、接続する内容がわかるようにしている。その代わり、たとえ地名の一部が図郭からはみ出しても、位置をずらすなどの編集は一切行っていない。また、旧図番は数字と英字に方位を組み合わせた複雑な体系だったが、シンプルな通し番号に置換えられた。

国土測量庁の著作物であることは従前どおりだが、印刷と販売は、ノーシュテッツ出版グループ Norstedts Förlagsgrupps に託されている。紹介した地形図は、同社のショッピングサイトであるカートブティーケン Kartbutiken(地図販売所の意)で、外国からも全点入手可能だ。

■参考サイト
国土測量庁 http://www.lantmateriet.se/
 英語版サイトもあるが、印刷地図に関する情報はスウェーデン語版のみ。
 トップページ > kartor > Kartor och geografisk information >  .....karta > Trykt .....karta
 (tryktは英語のprintedに当る)
カートブティーケン http://www.kartbutiken.se/
 地形図は、トップページ英語版 > NATIONAL MAP SERIES
地図閲覧サイト、販売店については「官製地図を求めて-スウェーデン」にまとめた。
http://homepage3.nifty.com/homipage/map/map_sweden.html

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2010年6月10日 (木)

南アフリカの旅行地図 II

アフリカ大陸南部の地勢を描いた地図(下記サイト)を見ると、白く塗られた山岳部は、南アフリカ共和国に周りを囲まれたレソト王国 Kingdom of Lesotho の領域とほぼ重なっていることがわかる。ここでは川(オレンジ川 Orange River の上流部)は海岸に背を向けて西向きに流れ出るので、その反対側、両国国境の東と南には高度差の大きいダイナミックな地形が広がる。

■参考サイト
南アフリカの地勢図(Wikipediaファイル)
http://en.wikipedia.org/wiki/File:South_Africa_Topography.png

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ドラケンズバーグ Drakensberg(ドラゴンの山の意)と呼ばれるこの地域は、レソト側が標高3000m前後のなだらかな高原になっているのに対して、南アフリカ側は一気に1000m以上も高度を下げる。大規模な急崖が連なるようすは、あたかも王国を護る堅固な石垣のようだ。このラインは南アフリカのインド洋沿岸と内陸地方を分かって1000kmも延びる大断層崖 the Great Escarpment の一部なのだが、とりわけ両国国境付近では、双方の地勢の違いが際立っている。

レソト領内を流れる川は山中で蛇行を繰り返し(穿入蛇行)、断層崖に接する支流の谷頭は断ち切られて、いわゆる風隙(ふうげき)wind gap になっている。中でも、ドラケンズバーグの最北部にあるロイヤル・ナタール国立公園 Royal Natal National Park の「円形劇場 Amphitheatre」は、この風隙が4km余りにわたって露出した奇観だ(下の写真参照)。

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ロイヤル・ナタール国立公園 円形劇場の景観
Photo by Diriye Amey from wikimedia. License: cc-by-2.0

たまたま川の流路を縦に裂く形に開析が進んだために、劇場の頂きはみごとに平たく揃っている。両端を押さえる尾根の存在もなかなか芸術的だ。ちなみに世界で2番目に高い滝、断崖の上から947mを落下するトゥゲラ滝 Tugela Falls は、この一角に位置する。

■参考サイト
円形劇場付近のGoogleマップ
http://maps.google.com/maps?f=q&hl=ja&ie=UTF8&ll=-28.7513,28.9098&z=14
世界の滝データベース World Waterfall Database - Tugela Falls
http://www.world-waterfalls.com/waterfall.php?num=2

ドラケンズバーグの東部一帯は国立公園、禁猟区、自然保護区などに指定され、2000年には世界遺産にも登録されている。同時に、愛好家にとっては、トレッキングをはじめとする山岳レジャーの目的地でもある。先回紹介したバールスケルデル Baardskeerder 社のショッピングサイトで、当該地域をカバーする旅行地図を見つけた。全6点あり、政府機関であるクワズール・ナタール野生生物局 Ezemvelo KZN Wildlife が編集する、いわば公式地図だ(写真はそのうちの2点)。

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ドラケンズバーグ ハイキング地図
(左)ロイヤル・ナタール (右)ジャイアンツ・キャッスル Giant's Castle

各図とも66cm×96cmの大判用紙の両面印刷で、片面がフルカラーの旅行地図になっている。ベースマップの地勢表現は、地形図ファンも納得する出来栄えだ。官製地図のデータを使用した20m間隔の等高線に、そこから生成したぼかし(陰影)が加えられて、先述した国境両側の地形のコントラストがくっきりと浮かび上がる。三角点、標高点もかなりの頻度で打たれている。一方で居住地は、ラベンダー色の網かけに学校や教会の位置を記号で示しただけの、簡略な表現にとどまる。

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ロイヤル・ナタール図葉の一部
(c) 2010 KZN wildlife

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凡例の一部

旅行情報は主に国立公園などのエリアに限定しての表示だが、トレッキングルートを6段階に区分し、難所、ジグザグ(道をはずれないよう警告あり)、沢渡りの位置を示すほか、分岐点の番号と次の分岐点までの距離も明示している(右写真は凡例の一部)。宿泊場所の記号では、建物の立面形が山小屋 hutted camps、キャンピングカーの絵はキャラヴァンサイトと、直感的なデザインにしてあるのが興味深い。一風変わったものでは、音楽記号のフェルマータが山中に点々と置かれている。これは、宿泊設備のある洞穴 overnight cave で、定員も図上に明示されている。どんなものなのかは見ていただいたほうが早い。写真が載っているサイトを一つあげておこう。

■参考サイト
宿泊設備のある洞穴の例  http://www.baviaans.co.za/bakkrans/

一方、地図の裏面は、保護区の解説と入域に際しての注意事項で埋め尽くされている。ブッシュマンの壁画や一帯の地理・環境に関する記事をはじめ、モノクロながら、山の名称を同定できる展望図や、生息する鳥獣や自生する植物のミニ図鑑などたいへん多彩な内容で、一読しておけば格好の事前学習になるはずだ。この地図は、イギリスの地図商スタンフォーズ Stanfords でも扱っている。

ちなみに、表紙の上部に掲げられたロゴで、円形劇場を背景に飛んでいるのは、ヒゲワシ bearded vulture だそうだ。翼を広げると3mにもなる大型の鳥で、同国ではドラケンズバーグにのみ生息している。開発によって草原や森林の消失が進行し、食物連鎖の上位を占める猛禽類の生存環境が脅かされる状況は、世の東西を問わない。このロゴは、ドラケンスバーグのシンボルを二つ重ねたというにとどまらず、生物の多様性 biodiversity を将来にわたって維持していくという組織のミッションをも象徴しているのだろう。

■参考サイト
クワズール・ナタール野生生物局  http://www.kznwildlife.com/
スタンフォーズ Stanfords による当該地図の紹介記事
http://www.stanfords.co.uk/stock/south-africa-50k-hiking-maps-of-the-drakensberg-mountains/
索引図、サンプル図あり。

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 南アフリカの旅行地図 I

2010年6月 3日 (木)

南アフリカの旅行地図 I

アフリカ大陸南端の喜望峰を回って、というおなじみの表現がある。喜望峰は英語で Cape of Good Hope といい、「発見」者のバルトロメウ・ディアス Bartolomeu Dias や、インド洋航路を開拓したヴァスコ・ダ・ガマ Vasco da Gama の名を出すまでもなく、大航海時代を象徴する地名の一つといえるだろう。ただし、実際の喜望峰は漢字から連想されるような「峰」ではなく、扁平な隆起海蝕台だ。観光客は2kmほど東のケープポイント Cape Point にある展望台に上って、喜望峰を「見下ろす」のが恒例になっている。むしろこのケープポイントのほうが、標高209mの切り立った山が海に落ち込んで、岬と呼ぶにふさわしいのだが、若干北に位置するため、名誉を獲得し損ねている。

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さらに、喜望峰が南端というのも実は誤りだ。ほんとうの最南端は、喜望峰の東150kmにあるアガラス岬(アグラス岬)Cape Agulhas で、そこが大西洋とインド洋を分ける地理上の境界とされている(上図)。しかし、交通の便、知名度の差、そして地形が平板なためにケープ半島 Cape Peninsula(その先端に喜望峰がある)に比べると到達したという達成感に欠けるのだろう。圧倒的多数の旅行者が、アガラス岬ではなく喜望峰をめざす(下注)。

*注 資料によると、2009年の観光シーズン4~6月の訪問者数はアガラス岬4,648人に対して、喜望峰143,896人。("Western Cape Tourism Barometer" Volume 3, Issue 3, 2009. p13-19による。ここでの喜望峰はケープポイントを含む一帯)。ちなみに地元では、喜望峰をアフリカ最南西端と言っているそうだ。

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喜望峰 Cape of Good Hope とケープポイント Cape Point の位置関係
高度単位はフィート。官製1:25,000 Cape Peninsula 1932年版より

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ケープ半島の旅行地図では、ナショナル・ジオグラフィック National Geographic のアドヴェンチャー・マップ Adventure Map シリーズに1点ある。図番3200「ケープタウンと半島 Cape Town & Peninsula」だ(右写真)。メインは縮尺1:55,000の旅行地図で、ケープタウン市街から先端ケープポイントまで、ケープ半島全域をカバーする。地図には居住地、自動車道、トレッキングルート、保護地域が示されるほか、サーフィン、ダイビング、シーカヤック、ロッククライミング、パラグライダー、それにアザラシやペンギンの生態観察など、活動の種類ごとに色分けした記号が散りばめられ、欄外に解説が配置されている。ベースは官製地形図なので、20m間隔の等高線にぼかし(陰影)がついて、地勢表現は申し分ない。

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「ケープタウンと半島」表紙の一部を拡大

裏面は、ウォーターフロントを含めて主要施設の名称が注記された縮尺1:9,500のケープタウン市街図と、市街の南にそびえるテーブルマウンテン Table Mountain の1:30,000旅行地図だ。後者は20m間隔の等高線入りで、山を縦横に巡るトレッキングルートが明瞭に描かれている。このようにたいへん充実した内容で、当地域をふつうに旅するなら、地図はこれ1枚で足りるだろう。現地筆頭の地図メーカー、マップ・スタジオ Map Studio が編集しているから、情報の信頼性も期待できる。

■参考サイト
ナショナル・ジオグラフィック「Cape Town & Peninsula」
http://shop.nationalgeographic.com/ngs/product/maps/travel-and-hiking-maps/adventure-world-maps/cape-town-%26-peninsula-adventure-map
 画面左のZOOMリンクで、内容の拡大図を見ることができる。

しかしながら、もう一段詳しい旅行地図も存在する。それは、バールスケルデル(とオランダ語読みしておく)Baardskeerder 社による縮尺1:20,000のテーブルマウンテン国立公園シリーズだ。全部で4点あり、ケープ半島全域をカバーする(下写真、下注)。旧版の表紙には日本語で「おみやげ&ハイキングマップ」と記してあったが、おみやげ地図すなわち粗悪品、と早合点してはいけない。それどころか、詳細情報が何層にも積まれ、色使いや意匠にはご当地色が滲み出ていて、見過ごすわけにはいかない作品群なのだ。

*注 旧版は Hout BayとSilvermine が別図葉だったので、全5点あった。

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バールスケルデル社 テーブルマウンテン国立公園シリーズ
(上)テーブルマウンテン (下)サイモンズタウン

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凡例の一部

まず地勢については、10m間隔の等高線と、高度に応じて連続変化する彩色で表現している。トレッキングルートには区間距離と所要時間を添え、市街の主要建物は用途別に塗り分けて一つ一つに名称を入れている(サイモンズタウン Simon's Town の歴史街区は各建物の竣工年まで!)。旅行地図らしく、海や山のレジャースポットの記号も盛りだくさんだ。さらに、植生は、ケープ地域特有のフィンボス Fynbos(灌木林)を植物種によって分類表示しているし(右写真はその凡例)、ヴィヴィッドな原色が踊る図飾が、日本の眠たげな配色の地図を見慣れた目には、とても新鮮に映る。

このこだわりようは商業ベースの企画ではまずありえないと思ったら、やはり、ピーター・スリングズビー Peter Slingsby という地元の地図製作者が、1972年から改良を重ねてきた自信作なのだった。彼は、良い住所録と同じように、情報量が多い地図ほどよく使われると信じていて、この国の商業地図のあてにならない状況を憂い、自ら調べあげたデータで今も地図を更新し続けているという。

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同シリーズ
ケープ半島

同社からは、彼が製作した、より広範囲をカバーする旅行地図も9点ほど刊行されている。西ケープ州 Western Cape から東ケープ州 Western Cape にかけての南岸一帯がテーマで、縮尺は1:50,000から1:400,000までさまざまだ。わがケープ半島も、このシリーズなら縮尺1:50,000で1枚に収まる(右写真)。地図のデザインは上記1:20,000シリーズに準じていて、等高線("Day Drives from Cape Town"を除く)と彩色が施された表情豊かなベースマップの上に、旅行情報が満載されている。上述のナショナル・ジオグラフィックとは、縮尺が近く、地形データも同じ出処のはずだが、並べてみると、同じ場所を描いているとは思えないほどのコントラストが見ものだ。

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バールスケルデル社地図サンプル Cederberg Wilderness 図の一部
image from http://www.slingsbymaps.com/maps.aspx

■参考サイト
バールスケルデル社  http://www.themaps.co.za/
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