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2010年5月20日 (木)

イギリスの鉄道地図 VII-トラック・マップス社

地図帳形式のイギリス鉄道地図は数々出版されているが、1枚ものでは、時刻表添付地図を除けばトーマス・クック社製が入手できる唯一のものだった。しかし2008年に新顔が登場している。発刊から時間が経ってしまったが、ここで報告しておきたい。

Blog_uk_railmap_trackmaps

トラック・マップス社 Track Maps は、その名のとおり、線路配置図の専門出版社だ。鉄道地図というのは一般に、鉄道の通るルートと駅を図で表したものと思われているが、線路配置図はそれとは違い、単線・複線、渡り線、側線・待避線、引込み線など実際に線路がどのように配置されているかを模式的に描いている。重要なのは線路相互の位置関係であって、縮尺や方位はふつう考慮されないから、地図よりは電気回路図に似ているかもしれない。

同社は、クエール社のイギリス鉄道線路配置図 Quail Track Diagrams シリーズ全5巻の販売を引き継いでいたのだが、その資料も参照しながら製作されたという今度の新刊は、意外にも「ふつうの」鉄道地図だった。

タイトルは「イギリス鉄道地図 Rail Map of Britain」(右上写真)、82cm×118cmの大判用紙の片面刷りを折ってある。地図の縮尺は1:895,000だが、大ロンドン Greater London、ロンドン中心部 Central London のほか、ウェールズ渓谷群 Welsh Valleys(炭鉱の集中していたウェールズ南部)、バーミンガム Bermingham、マンチェスター Manchester、リヴァプール Liverpool、そしてスコットランドのグラスゴー Glasgow は、余白に拡大図が用意されている。というのも、旅客駅の全駅記載が売りの一つなので、路線網の稠密な地域はこうしないと描けない。表紙の解説によると、2008年9月現在の営業駅をすべて表示し、近い将来開業予定の駅も若干加えてあるそうだ。

Blog_uk_railmap_trackmaps_legend

もう一つ特徴をあげるとすれば、ロンドン発の歴史的な四本の幹線(下注)と英仏海峡線 Channel Tunnel Rail Line が特に太く描かれ、色分けされていることだろう。これらは現在も特急列車が行き交うメインルートなので、路線網の骨格がはっきりする。そのかわり、選にもれた旅客線は、近郊線も地方の閑散線もおかまいなしに、黒の細線で統一されている。また、貨物のみの路線はグレー、保存鉄道は緑で区別され、後者については、欄外に名称と軌間(標準軌か狭軌か)の一覧表がある。

*注 イースト・コースト(東海岸)本線 East Coast Main Line 、ミッドランド本線 Midland Main Line、ウェスト・コースト(西海岸)本線 West Coast Main Line 、そしてグレート・ウェスタン(大西部)本線 Great Western Main Line

鉄道地図出版が盛んな国とはいえ、よく知られたトーマス・クックと同じ舞台にあえて競作を持ち出した意図はどこにあるのだろうか。不思議なことに、トラック・マップス社の公式サイトは、この地図に関してはまったく沈黙しているので、真意はわからない。ただ、筆者が初めてこれを目にしたときに直感したのは、乗り潰し地図に使える、ということだった。

クック版は以前紹介したように(「イギリスの鉄道地図 I-トーマス・クック社」参照)、多彩な色使いで運行ルートを塗り分ける一方、小駅の掲載は省いている。一般旅行者向けとしてはこれでいいが、鉄道愛好家には少し物足りなさが残る。それに比べてこちらはずいぶんと飾り気がないが、作業用の地図は路線と駅がもれなく表示されていれば十分で、デザインはむしろシンプルなほうがいい。トラック・マップス社はこうした白地図的な鉄道地図を求める、クックとは別のユーザ層を狙ったのだろう。

Blog_uk_railatlas_trackatlas

ところで、同社公式サイトにおける最近のトピックスは、「イギリス本土のトラックアトラス(線路配置図地図帳)The Trackatlas of Mainland Britain」の刊行だ(右写真は同社サイトより)。同社本来の土俵である線路配置図を、いわゆる「正縮尺」の地図に落とし込もうという意欲作で、線路配置はもとより、ホーム位置、信号所、トンネルや高架橋などの構造物、それに踏切までも、名称、起点からの距離 railway mileages を添えて描かれている。

日本の鉄道地図に踏切を描けばきりがないが、この国では立体交差のほうが一般的だ。陸地測量部 Ordnance Survey の地形図でも、踏切には特に LC(平面交差 Level Crossing の略)と注記してあるくらいだから、目印でもあり注意個所でもあるということだろう。ともかく、イギリス鉄道地図帳のラインナップに、また一つバリエーションが加わることになった。興味がおありなら、同社のサイトにサンプル図が掲げられている。

■参考サイト
トラック・マップス社  http://www.trackmaps.co.uk/
スタンフォーズによる「イギリス鉄道地図 Rail Map of Britain」の紹介(サンプル図あり)
http://www.stanfords.co.uk/stock/britain-rail-map-178060/

★本ブログ内の関連記事
 イギリスの鉄道地図 I-トーマス・クック社
 イギリスの鉄道地図 II-鉄道史を知る区分地図
 イギリスの鉄道地図 III-ボール鉄道地図帳
 イギリスの鉄道地図 IV-ベーカー鉄道地図帳
 イギリスの鉄道地図 V-ウェブ版
 イギリスの鉄道地図 VI-コッブ大佐の鉄道地図帳

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コメント

 いつも楽しく拝見しております。今回ご紹介の "TRACKatlas of Mainland Britain" ですが、当方も既に入手しておりました。複線が原則の幹線にあっても、Royal Albert Bridge や Ribblehead Viaduct のように、その区間のみ単線になっていることをはっきりと確認することができます。他にも Tonbridge から Hastings の間は途中4か所の隧道が単線になっています。
 踏切が少ないという話は、昔堀淳一さんの御指摘を読んだものでした。とにかく計算しにくかろうと思う1哩=80鎖による距離制は、日本でも当初は採用していたものでした。Silver Blaze の事件で、Sherlock Holmes が乗車中の列車速度をたちどころに計算してしまうのは驚異的だと思います。
 頁を繰っていると色々なことが連想されて楽しい本です。7年をかけて作成したと前書きにありますが、それこそ Big Four の時代、全盛期の頃の配線図も見てみたいものです。

#細かい点ですが、5月6日付『デンマークの鉄道地図』中、小ベルト海峡は「最も西」のように存じます。ご確認ください。

いつもコメントありがとうございます。
複線区間に単線が混じっている。なるほど! プリマスのロイヤル・アルバート橋はOS 1:25 000図でもそこだけ単線に描かれているので目につくのですが、セトル~カーライル線にもあったとは。線路配置図までは手を出すまいと思っていたのに、意志がぐらつき始めました。
シャーロック・ホームズは「バスカヴィル家の犬」で、スタンフォードの店から軍用地図を取寄せたりもしているので、私たちの大先輩です。
小ベルト海峡は誤記でした。ご指摘ありがとうございます。

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