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2010年4月15日 (木)

ノルウェーの道路地図

ノルウェー西海岸の旧来の道路網が地形と格闘するさまは、けなげなほどだ。標高1000m以上の山地と奈落のフィヨルドが入り乱れる険しい地勢を前に、断崖の足下を縫い、九十九折の坂を駆け上がり、海に阻まれればフェリーに後を託して、どうにか通路をつないできた。一方で、近年の土木技術の成果はめざましく、山道を長いトンネルで短絡し、湾を吊橋や海底トンネルで陸化して、あまたの難所をまるで平地のようにしてしまう。同国の道路地図 Bilkart, Veikart は、そうした地形克服の知恵の限りを居ながらにして学べる標本箱といえるだろう。

Blog_norway_roadatlas 筆者は、国の測量機関である地図局 Statens Kartverk が刊行した、縮尺1:300,000の「ノルウェー道路地図帳 Veiatlas Norge」を愛用している(右写真)。手元にあるのは1998-99年版で、メイン地図114ページの後に、50都市の主要市街図28ページ、地名索引58ページが続く。情報源としては古くなったが、道路地図の域を超えて、観賞にも耐える逸品なのでいまだに手放せない。特長は地勢表現だ。等高線はないものの、繊細かつ濃いめの陰影と、森林はアップルグリーン、それ以外はアイボリーの塗分けが効果的で、彫りの深い地形がものの見事に浮かび上がる。国道の赤帯、地方道の黄帯、そしてピクトグラムで示される観光情報も、この背景の前ではよく目立つ。全体として、ストレートに視覚に訴えかける優れたデザインだった。

この地図帳は、地図局が紙地図の刊行を大幅に縮小した後も、ユーグランITグループ Ugland IT Group の手で刊行が続けられている。しかし、サンプル図を見る限り、旧版とはすっかり仕様が変わってしまった。最大の問題点は、地勢表現の著しい後退だ。陰影は以前より精密になったが、コントラストが弱すぎて起伏がはっきりしない。地表の色分けが省かれ、高度差も実感できなくなった。新図への疑問は筆者に限らず、イギリスの地図商スタンフォーズ Stanfords もその紹介文で、自然地名と居住地名の区別ができない、集落の位置がわからない(下注)、地方道が目立たない、区間距離が示されていない、など珍しく不備を指摘している。

*注:集落の記号がないことが原因。ただしこれは旧地図帳から引き継がれた仕様。

Blog_norway_roadmap1 本稿を書くために道路地図帳を更新するつもりだったが、投資意欲をなくしてしまい、折図(1枚もの)の道路地図で代用することにした。ユーグラン版の折図では、1面で全土が収まる縮尺1:1,000,000(100万分の1、右写真)と、4点(地図は8面)に分かれる1:400,000の2種がある。

前者は、表紙の側にオスロOslo、ベルゲン Bergen、トロンハイム Trondheim の市街図と地名索引、裏面に1:1,000,000ノルウェー全図(2分割して1面に配置)という構成だ。この全図は、色調が少し淡いものの、旧地図帳が持っていた地勢表現の特長を保持していて、見ごたえがある。内容面でも、区間距離が表示され、集落位置が黒点で置かれているなど、スタンフォーズが新地図帳で指摘した欠点が解消されている。同種の地図は、ヨーロッパの大手地図出版社が軒並み刊行しているが、精密さと美しさが兼ね備わっているところを買って、番付の上位につけたい。これ1枚でノルウェーの地理と交通網の概略がつかめるので、鉄道やバスの旅行に携行しても役立つはずだ。

後者の1:400,000は4点で全土をカバーし、おのおの地図2枚がセットになっているが、新地図帳と同じ仕様のため、あまりお奨めはできない。

地元出版社による道路地図でより有名なのは、カペレン Cappelen だ。1829年創業の老舗総合出版社で、2007年にダム・オ・ソン社 N.W. Damm & Søn と合併して、カペレン・ダム出版社 Cappelen Damm Forlag AS と名乗るようになった。カペレンの道路地図には、大別して1:1,000,000(100万分の1)前後と、1:350,000前後の2種の図版がある。これを使って、地図帳は1:900,000(全国版)と1:325,000(全国版大地図帳 Stort bilatlas および地方別の地図帳)、1枚ものの折図は1:1,000,000(全国版)と1:335,000~1:400,000(地方版)が刊行されている。

Blog_norway_roadmap2 筆者の手元にあるのは折図の地方版(タイトルは「道路・旅行地図 Bil- og turistkart」)だが、コピーライトのところには「1965年から」と書かれている。地図局のデータベースの直接利用が可能になるはるか以前から、自前でこつこつと編集を重ねてきたのだろう。細かいところに創意工夫が散りばめられ、ユーグラン版とはまた別の個性的な図面に仕上がっているのも道理だ(右写真はシリーズの一つ「南ノルウェー南部 Sør-Norge sør」、右下写真はシリーズの索引図)。

個性の一つに、道路網が通常よりデフォルメされていることがあげられる。小縮尺になればなるほど道路の屈曲や接続を忠実に再現することが難しくなるのは当然だが、カペレンのラフな描き方は、技術的限界とは別の意図的なものを感じる。それは、ドライバーが知りたいのは道路網のおよその位置関係であって、地形図のような精度は要求されていないという考え方だ。その代わりに主要道路は思い切り太く目立たせることができる。そして、描ききれないつづら折の個所には波線の矢印を添えて注意を促している。

Blog_norway_roadmap2_index 一方、ベースマップとなる地形や地勢には、ユーグラン版とは一線を画す絵画的要素が認められる。陰影に手描きのタッチが残っているし、森林はミントグリーン、その他はアイボリーという塗分けも今は無き地図局の地図帳を思い出させて好ましい。国立公園のエリアに薄い黄色をかぶせているのも、読み手を注目させるのに十分効果的だ。

旅行地図をタイトルに掲げるだけあって、その方面の情報も充実している。山岳地帯に縦横に描かれたトレッキングルートには主要地点間の所要時間が添えられ、山小屋、キャンプサイトなどの宿泊施設の記号は設備のグレード別にする凝りようだ。極北地域では、スノースクーターの通れる道という記号もある。等高線がないのを補うかのようにかなりの頻度で標高点が打たれ、滝の高さにゴルフコースのホール数と、特異な数値情報も盛りこまれている。

地図・鉄道ファンとしては、隠れた個性にも注目したい。一つは、鉄道駅が駅名つきで表示されていることで、居住地名と区別しにくいという難点はあるものの、この縮尺の地図としては異例といっていい。もう一つは、官製1:50,000地形図の図郭が図番を添えて表示されていることだ。1:50,000は唯一の官製地形図シリーズだが、カペレン・ダム社が販売を請負っているので、競合するどころかプロモーションの対象になっているのだ。

ユーグランITグループ、カペレン・ダムとも自社製品の通信販売に応じてくれた(下記「官製地図を求めて-ノルウェー」の民間地図作成機関の項参照)が、ウェブサイトはどちらもノルウェー語で、外国人にはハードルが高い。扱う品目がときに限定されるが、欧米の主要地図商に発注するほうがいいだろう。

■参考サイト
ユーグランITグループ http://www.uglandit.com/
  地図リストは http://www.kartbutikken.no/
カペレン・ダム http://www.cappelendamm.no/
 地図リストは http://www.cappelenkart.no/
「官製地図を求めて-ノルウェー」
http://homepage3.nifty.com/homipage/map/map_norway.html

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