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2010年4月29日 (木)

スヴァールバル諸島の地形図

Blog_svalbard スヴァールバル諸島 Svalbard は北極海に浮かぶ世界最北の陸地の一つで、北の端は北緯80度50分に達する。主な島は大きい順に、スピッツベルゲン島(ノルウェー語ではスピッツバルゲン Spitsbergen)、北東島(同 ノールアウストランネ Nordaustlandet)、エッジ島(同 エドゲオイヤ Edgeøya)などだ。高緯度にあるため、メルカトル図法で描いた世界地図では巨大な姿をしている。しかし、実際の総面積は、日本の四国地方と九州地方(沖縄を除く)を足したものに近い61,000平方kmだ。

諸島はすでに17世紀には捕鯨基地として使われていたが、長らくどの国にも属していなかった。ノルウェーの主権が確定したのは、1920年に調印されたスヴァールバル条約による。同時に条約では、締結国の国民もノルウェー国民と等しく経済活動に従事する権利を持つことや、軍事利用の禁止など、主権の行使に一定の制約が課せられた。おそらくそのことが影響しているのだろう。諸島の地形図、地質図の作成業務は、本土の官製地図の作成元であるノルウェー地図局 Statens Kartverk ではなく、トロムソ Tromsø に本拠を置くノルウェー極地研究所 Norsk Polarinstitutt が担っている。

研究所は、気候変動、環境汚染、生物調査など同国における極地研究の中心的機関だ。スピッツベルゲン島のニーオーレスン Ny-Ålesund にも調査基地を置くとはいえ、なぜ国の測量業務まで代行しているのだろうか。それは、研究所の起源に関わりがある。現在の名称となったのは、業務範囲に南極(同国が領有を主張していたドロニング・モード・ラン Dronning Maud Land)が加えられた1948年だが、それ以前は、ノルウェー スヴァールバル・北極海研究調査所 Norges Svalbard- og Ishavsundersøkelser, NSIU と称し、北極圏の地図・海図作成と地質調査を目的とする組織だったのだ。

ノルウェー極地研究所の公式サイトで、スヴァールバル諸島の地理的特徴を紹介している。それによると、諸島は地表の6割までが氷で覆われていて、植生のあるのは1割に満たない。永久凍土の深さは450mに達し、夏も表面から最大1mが融けるだけだ。しかしこれでも、気候は同緯度の他の地域より温和だという。それは、暖かい北大西洋海流が達しているからで、スピッツベルゲンの西側のフィヨルドは、冬でもかなりの期間結氷しない。それで、調査基地は別として、集落はこの地域にのみ立地している。

Blog_svalbard_1000kそうはいっても、1年のうち白夜4か月、極夜4か月という、住むには極めて厳しい条件の土地だ。総人口は2600人程度に過ぎない。しかし、地形図については、氷河や無人の小島も含めて全域で整備されていて、図化のクオリティも高い。諸島全域をカバーする最大縮尺は1:100,000だが、資源探査の目的でもないかぎり需要はないと思うので、本稿では旅行者向けに編集された2種類の地形図を紹介しよう。

1つは、諸島を1枚に収める1:1,000,000(100万分の1)だ。諸島と本土の中間にある離島ベアー島(ノルウェー語でビョルノイヤ Bjørnøya)は挿図になっている。地勢表現は地味ながら、細部まで美しい。200m間隔の等高線とぼかし(陰影)が併用され、緩傾斜地はベージュ、山地はコルク色、氷河は白で塗られている。海域には等深線も描かれており、自然地名を英訳した用語解が付されているのも親切だ。スピッツベルゲンという地名は尖った山々を意味するが、この地図からは、名付け親のオランダの探検家が目撃したような、氷河の上に黒々とそそりたつ岩峰の群れを容易に想像することができる。右上の写真は、筆者の手元にある、片面に地形図だけを印刷したものだが、旅行地図 Turistkart と題して、旅行情報を付加した特別版も刊行されている。

Blog_svalbard_200k_turkart 2つ目は、スピッツベルゲン島中央部、ノーレンスキエル・ラン Nordenskiöld Land と呼ばれる半島を描いた縮尺1:200,000の旅行地図だ(右写真)。先述のとおり、人口の大半はこの地域にある2つの町、行政の中心ロングイェールビーン Longyearbyen と、ロシア人の鉱山町バレンツブルグ Barentsburg に集中しているので、旅先での行動範囲をカバーする地図ということになる。縮尺の近い1:250,000も刊行されているが、それに比べて、施設の記号が多く、スノーモービルのルート、危険地域の表示が付加されるなど、旅行地図としての配慮が窺える。

地勢表現は、50m間隔の等高線とぼかしの併用で、地表面の塗分けは1:1,000,000の方法に準じている。この縮尺であれば、地勢を大づかみすることと、地形をある程度詳しく知ることの両方が叶う。たとえば、全体を眺めると、西から東に行くに従って氷河の面積が拡大しているので、両岸の気候の違いが推測できる。併せて、約10年の間に起きた氷河の先端位置の変化にも注目だ。細部を見れば、モレーンが堆積するさまや、歌舞伎で投げられる蜘蛛の糸のように扇状地を流れ下る無数の水流など、自然のさまざまな造形が読み取れる。もちろん、集落、道路、教会、鉱山、灯台など人工物も明瞭に描かれている。しかし、図全体からすれば実にささやかなものだ。

これらの地図は、ノルウェーの官製地図(民間に移管した旅行地図等を含む)の販売サイトであるカルトブティッケン kartbutikken.no、イギリスの地図商スタンフォーズ Stanfords などで扱っている。

■参考サイト
ノルウェー極地研究所 http://www.npolar.no/
 1:100 000地形図の索引図とリスト
  http://npweb.npolar.no/english/subjects/topo_svalbard100000

カルトブティッケン http://www.kartbutikken.no/
スヴァールバル観光協会 http://www.svalbard.net/

本稿で取り上げなかった地形図については、「官製地図を求めて-スヴァールバル諸島」参照
http://homepage3.nifty.com/homipage/map/map_svalbard.html

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2010年4月22日 (木)

ノルウェーの旅行地図

Blog_norway_touristmap1_indexヨーロッパでは、まとまりのあるエリアごとに自由に図郭を設定した地形図をよく見かける。その多くは登山道や山小屋などの情報を付加した山岳地図、ハイキング地図などと呼ばれるシリーズだ。日本ではこうした事業は民間会社が営利目的で行うものという意識があるが、ヨーロッパ各国ではむしろ公的機関である測量局が地域の観光組織などと協力しながら、率先して製作してきた。

ノルウェー地図局 Statens Kartverk もその例にもれない。ノルウェー観光協会 Den Norske Turistforening (DNT)などから情報の提供を得て、旅行地図 Turkart、ボートスポーツ地図 Båtsportkart の各シリーズを1970年代から、狩猟・魚釣り地図 Jakt- og fiskekart を1990年代から刊行している。その後の機構改革で紙地図製作・販売を民間に委託してしまったため、もはや純粋の官製図とは言えなくなったが、シリーズ自体は存続している。

今回はそのうち、旅行地図に注目しよう。製作しているのは、道路地図と同じユーグランITグループ Ugland IT Group だ。表紙は天の帯、文字書体、ロゴを変えたものの、地図局時代と見た目はほとんど同じだ。ただし、委託元の名は「地図局のN50地図データを使用」と小さい文字でクレジットされているだけで、過去の経緯を知らなければ同社のオリジナル商品と言われてもわからなくなっている。

Blog_norway_touristmap1 同社のウェブサイトによれば、このシリーズは現在185タイトル刊行されているそうだ(セット販売を含む)。縮尺別に見ると、最も多数を占めるのが1:50,000で、約半数が該当する。次に多いのは1:100,000で、広域を見渡せることから、同社は旅行計画を立てるときに使ってほしいと言っている。1:25,000はそれらより少数で、特に人気のある目的地を選んで、詳細かつ有益な情報を提供するものだという(右写真は旅行地図の表紙の変遷、左:地図局時代の1:50,000ヤイロGeilo 1989年、中:同じく1:25,000ベルゲン Bergen 1994年、右:ユーグランITグループ委託後の1:100,000ロムスダーレン Romsdalen 2008年)。

しかし、どの縮尺図もベースマップは同じN50(1:50,000)地図データ Kartdata で、原寸使用か、縮小・拡大をかけたかの違いがあるに過ぎない。当然のことながら、1:100,000は等高線が込み過ぎて見にくく(下注)、1:25,000はいわゆる「でか字版」になって、いささか間延びする。地図局時代には、写真の1:25,000ベルゲン図葉のように別編集した図が刊行されていたことを思えば、手抜きのそしりを免れないだろう。

*注 参考にした Romsdalen 図葉の場合、地形情報は50K、集落や交通網などの地物は250Kデータを使用しているため、両者のバランスが悪く、スマートとはいいがたい。

Blog_norway_touristmap1_legend 一方、旅行情報の記号は失望感を埋めるもので、洗練された北欧デザインの感覚が反映されているように思う(右写真はその一部)。ポイントは、配色をカテゴリーの区別にうまく利用していることだ。たとえば道の関係では、徒歩で利用するものはオレンジ、スキーで行くものは青、自転車道は赤にしている。その他のレジャー情報はピクトグラム(絵文字)で表しているが、スポーツ系は赤、自然系は緑、交通・宿泊関連は青と色分けしている。ここで使われているピクトグラムは、塗りつぶした正方形に白抜きで、連想される絵柄を配したものだ。オーストリアのコンパス社にも例があるが、ユーグラン版のほうが統一感があって、図上における視認性の点でも優れている。

このように、シリーズはノルウェーの等高線入り旅行地図の定番だった。ところが、昨年(2009年)、民間地図業界の老舗であるカペレン(カペレン・ダム社 Cappelen Damm)が「山岳地図 Fjellkart」を発表し、静かだったフィヨルドにさざ波が立ち始めた。このシリーズは、トレッキングやウィンタースポーツで人気のある山岳地域を1:100,000広域図、またはそれと1:50,000拡大図の組合せで描くもので、現在8点が刊行済みだ。実用性に配慮して、耐水紙に印刷されている。

Blog_norway_touristmap2実は、同社の企画はこれが初めてではない。筆者がはるか昔に購入した山岳地図「ヨートゥンハイメン Jotunheimen」(1985年編集、1993年第5版)は、地図局と当時のカペレン出版社が共同制作したものだったからだ。官民提携のその後は知らないが、この図葉自体はユーグラン版旅行地図として引き継がれているので、20年近い時を経て今度は二者がライバル関係に立ったことになる。新旧の表紙を並べてみると(右写真の左側が1993年版、右側2009年版)、新版はまだ8点しか出ていないのに図番が「45」になっている理由がわかる。カペレンとすれば伝統復活の意味を込めたつもりなのだろう。

新しい山岳地図も地図局のN50地図データをベースにしているので、ユーグラン版と同じように1:100,000になると等高線が込み過ぎる。さらにぼかし(陰影)がつけられているから、地勢表現はかなり濃厚だ。一方、自動車道路や登山道は自社編集による。アクティブな雰囲気を出そうとしているのか、幹線道路の塗りなどに蛍光色と見まがうルビー色が使われ、土地利用を表す塗りも彩度を高めにしてある。1:100,000は少々くどいが、表現に余裕が出る1:50,000は同じデザインでもずいぶん美しく感じられる。

両者を比較すると、地図局が築いた膨大な成果を今ひとつ生かしきれないユーグランITグループと、独自性を前面に押し出そうとしているカペレンの違いが見えてくる。ノルウェーの場合、陰影つきのすばらしいデジタル地形図をウェブサイトで閲覧できるどころか、ダウンロードすることもできるので、有料の紙地図はたえず品質を磨いていないと、お客にそっぽを向かれかねない。両者が刺激し合って、紙地図の世界が今以上に活性化することを期待したいものだ。

■参考サイト
ユーグランITグループ http://www.uglandit.com/
  地図リストは http://www.kartbutikken.no/
カペレン・ダム http://www.cappelendamm.no/
 地図リストは http://www.cappelenkart.no/
 サンプル地図は、左メニューの Fjellkart > 刊行図一覧の下方にある平図 Plano のどれかを選択して、個別紹介ページで Last ned omslag(表紙をダウンロード)とあればクリック。

「官製地図を求めて-ノルウェー」
http://homepage3.nifty.com/homipage/map/map_norway.html

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2010年4月15日 (木)

ノルウェーの道路地図

ノルウェー西海岸の旧来の道路網が地形と格闘するさまは、けなげなほどだ。標高1000m以上の山地と奈落のフィヨルドが入り乱れる険しい地勢を前に、断崖の足下を縫い、九十九折の坂を駆け上がり、海に阻まれればフェリーに後を託して、どうにか通路をつないできた。一方で、近年の土木技術の成果はめざましく、山道を長いトンネルで短絡し、湾を吊橋や海底トンネルで陸化して、あまたの難所をまるで平地のようにしてしまう。同国の道路地図 Bilkart, Veikart は、そうした地形克服の知恵の限りを居ながらにして学べる標本箱といえるだろう。

Blog_norway_roadatlas 筆者は、国の測量機関である地図局 Statens Kartverk が刊行した、縮尺1:300,000の「ノルウェー道路地図帳 Veiatlas Norge」を愛用している(右写真)。手元にあるのは1998-99年版で、メイン地図114ページの後に、50都市の主要市街図28ページ、地名索引58ページが続く。情報源としては古くなったが、道路地図の域を超えて、観賞にも耐える逸品なのでいまだに手放せない。特長は地勢表現だ。等高線はないものの、繊細かつ濃いめの陰影と、森林はアップルグリーン、それ以外はアイボリーの塗分けが効果的で、彫りの深い地形がものの見事に浮かび上がる。国道の赤帯、地方道の黄帯、そしてピクトグラムで示される観光情報も、この背景の前ではよく目立つ。全体として、ストレートに視覚に訴えかける優れたデザインだった。

この地図帳は、地図局が紙地図の刊行を大幅に縮小した後も、ユーグランITグループ Ugland IT Group の手で刊行が続けられている。しかし、サンプル図を見る限り、旧版とはすっかり仕様が変わってしまった。最大の問題点は、地勢表現の著しい後退だ。陰影は以前より精密になったが、コントラストが弱すぎて起伏がはっきりしない。地表の色分けが省かれ、高度差も実感できなくなった。新図への疑問は筆者に限らず、イギリスの地図商スタンフォーズ Stanfords もその紹介文で、自然地名と居住地名の区別ができない、集落の位置がわからない(下注)、地方道が目立たない、区間距離が示されていない、など珍しく不備を指摘している。

*注:集落の記号がないことが原因。ただしこれは旧地図帳から引き継がれた仕様。

Blog_norway_roadmap1 本稿を書くために道路地図帳を更新するつもりだったが、投資意欲をなくしてしまい、折図(1枚もの)の道路地図で代用することにした。ユーグラン版の折図では、1面で全土が収まる縮尺1:1,000,000(100万分の1、右写真)と、4点(地図は8面)に分かれる1:400,000の2種がある。

前者は、表紙の側にオスロOslo、ベルゲン Bergen、トロンハイム Trondheim の市街図と地名索引、裏面に1:1,000,000ノルウェー全図(2分割して1面に配置)という構成だ。この全図は、色調が少し淡いものの、旧地図帳が持っていた地勢表現の特長を保持していて、見ごたえがある。内容面でも、区間距離が表示され、集落位置が黒点で置かれているなど、スタンフォーズが新地図帳で指摘した欠点が解消されている。同種の地図は、ヨーロッパの大手地図出版社が軒並み刊行しているが、精密さと美しさが兼ね備わっているところを買って、番付の上位につけたい。これ1枚でノルウェーの地理と交通網の概略がつかめるので、鉄道やバスの旅行に携行しても役立つはずだ。

後者の1:400,000は4点で全土をカバーし、おのおの地図2枚がセットになっているが、新地図帳と同じ仕様のため、あまりお奨めはできない。

地元出版社による道路地図でより有名なのは、カペレン Cappelen だ。1829年創業の老舗総合出版社で、2007年にダム・オ・ソン社 N.W. Damm & Søn と合併して、カペレン・ダム出版社 Cappelen Damm Forlag AS と名乗るようになった。カペレンの道路地図には、大別して1:1,000,000(100万分の1)前後と、1:350,000前後の2種の図版がある。これを使って、地図帳は1:900,000(全国版)と1:325,000(全国版大地図帳 Stort bilatlas および地方別の地図帳)、1枚ものの折図は1:1,000,000(全国版)と1:335,000~1:400,000(地方版)が刊行されている。

Blog_norway_roadmap2 筆者の手元にあるのは折図の地方版(タイトルは「道路・旅行地図 Bil- og turistkart」)だが、コピーライトのところには「1965年から」と書かれている。地図局のデータベースの直接利用が可能になるはるか以前から、自前でこつこつと編集を重ねてきたのだろう。細かいところに創意工夫が散りばめられ、ユーグラン版とはまた別の個性的な図面に仕上がっているのも道理だ(右写真はシリーズの一つ「南ノルウェー南部 Sør-Norge sør」、右下写真はシリーズの索引図)。

個性の一つに、道路網が通常よりデフォルメされていることがあげられる。小縮尺になればなるほど道路の屈曲や接続を忠実に再現することが難しくなるのは当然だが、カペレンのラフな描き方は、技術的限界とは別の意図的なものを感じる。それは、ドライバーが知りたいのは道路網のおよその位置関係であって、地形図のような精度は要求されていないという考え方だ。その代わりに主要道路は思い切り太く目立たせることができる。そして、描ききれないつづら折の個所には波線の矢印を添えて注意を促している。

Blog_norway_roadmap2_index 一方、ベースマップとなる地形や地勢には、ユーグラン版とは一線を画す絵画的要素が認められる。陰影に手描きのタッチが残っているし、森林はミントグリーン、その他はアイボリーという塗分けも今は無き地図局の地図帳を思い出させて好ましい。国立公園のエリアに薄い黄色をかぶせているのも、読み手を注目させるのに十分効果的だ。

旅行地図をタイトルに掲げるだけあって、その方面の情報も充実している。山岳地帯に縦横に描かれたトレッキングルートには主要地点間の所要時間が添えられ、山小屋、キャンプサイトなどの宿泊施設の記号は設備のグレード別にする凝りようだ。極北地域では、スノースクーターの通れる道という記号もある。等高線がないのを補うかのようにかなりの頻度で標高点が打たれ、滝の高さにゴルフコースのホール数と、特異な数値情報も盛りこまれている。

地図・鉄道ファンとしては、隠れた個性にも注目したい。一つは、鉄道駅が駅名つきで表示されていることで、居住地名と区別しにくいという難点はあるものの、この縮尺の地図としては異例といっていい。もう一つは、官製1:50,000地形図の図郭が図番を添えて表示されていることだ。1:50,000は唯一の官製地形図シリーズだが、カペレン・ダム社が販売を請負っているので、競合するどころかプロモーションの対象になっているのだ。

ユーグランITグループ、カペレン・ダムとも自社製品の通信販売に応じてくれた(下記「官製地図を求めて-ノルウェー」の民間地図作成機関の項参照)が、ウェブサイトはどちらもノルウェー語で、外国人にはハードルが高い。扱う品目がときに限定されるが、欧米の主要地図商に発注するほうがいいだろう。

■参考サイト
ユーグランITグループ http://www.uglandit.com/
  地図リストは http://www.kartbutikken.no/
カペレン・ダム http://www.cappelendamm.no/
 地図リストは http://www.cappelenkart.no/
「官製地図を求めて-ノルウェー」
http://homepage3.nifty.com/homipage/map/map_norway.html

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2010年4月 8日 (木)

ノルウェー フロム鉄道 II-ルート案内

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地形図で見るフロム鉄道全線

フロム鉄道 Flåmsbana の時刻表を読むと、鉄道の運行事情が浮き彫りになる。オフシーズン(9月27日~翌年5月1日)は上下とも4本しか設定されておらず、1編成が振子のように往復している。所要時間はミュールダール Myrdal 行き(上り)40分、フロム Flåm 行き(下り)45~50分だ。下り坂のほうが遅いのは、55‰の急勾配に速度制限がかかっているのだろう。この季節、沿線が雪に覆われることを思い出さなければならない。

一方、利用者が集中する夏は対照的だ。列車本数は、ミドルシーズン(5月2日~6月12日、8月30日~9月26日)が9往復、ハイシーズン(6月13日~8月29日)は10往復と、冬の2倍以上の密度になる。上下とも所要時間は平均56~57分で、冬よりさらに時間をかけている。その理由は、本数が多いので中間駅で列車交換の待合せをすること、そして、鉄道最大の名物である滝を見るための観光停車だ。

■参考サイト
時刻表を含めてフロム鉄道の参考サイトは、前回「ノルウェー フロム鉄道 I-その生い立ち」の末尾を参照。

今回は列車に乗ったつもりで、ミュールダールからフロムへと下りながら、車窓に展開する景色を楽しむことにしたい。本文の拙さを補うために、現地サイト(下注)から提供を受けた写真をいくつか掲げている。参考までに、推定される撮影位置を右上の地形図上に①、②のように記しておいた。

*注 著作権表示 All Photos (except #6 & #13) from Visit Flåm, © Flåm Utvikling. Photographers as follows ;
#1: E.A. Vikesland, #2, 10 & 11: Kyrre Wangen, #3, 4 & 12: Flåm Utvikling as, #5: Rolf M Sørensen, #7 & 9: Morten Rakke, #8: Per Eide
また、写真6及び13は、2014年に現地を訪れた海外鉄道研究会の松本昌太郎氏から提供を受けた。ご好意に心より感謝したい。

Blog_flaamsbana1
1. ミュールダール駅
右の列車がフロム鉄道
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2. ミュールダール駅
フロム鉄道のホーム
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スパイラル概略図

ベルゲン鉄道との接続駅ミュールダールでは、谷側にフロム鉄道の列車ホームがある(写真1、2)。始発駅では進行方向左側の見晴らしがいいので、そちらの席はすでに埋まっているかもしれない。トータルでは左の車窓が開ける時間のほうが長いが、右側席にも後ほど見どころがやってくる。

駅の標高は866m、列車がホームを離れるや、いきなり急な下り勾配になる。フロムスダール Flåmsdalen の谷へ降下しようとしているのだが、谷底とは300mの高度差があり、これを克服するためのルート設定はかなり複雑だ。一回転するスパイラル(日本でいうループ線)こそないが、狭い敷地で方向転換を繰り返し、切り立つ岩壁にトンネルをうがって、技巧の限りを尽くしている。既成の地図はどれもその経路をうまく表現できていないので、見取図を描いてみた(右図)。ルートが途中でクロスしているように見えるが、もちろん平面交差ではない。

スノーシェッド(雪覆い)や短いトンネルを経て、1つ目のヴァトナハルセン Vatnahalsen 駅に停まる。すぐ近くに同じ名のホテルが建っていて、崖っぷちには谷を見下ろす展望台がある。線路はいったんラインウンガ湖 Reinungavatnet の方に向かい、半径150mの急なカーブで180度回転する(写真3)。湖の周囲にはコテージが点在しているが、最寄のラインウンガ Reinunga 駅は乗降があるときのみ停車する、いわゆるリクエストストップなので、客がなければ通過してしまう。

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3. ラインウンガ湖
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4. ショース滝の俯瞰
 列車の背後に観瀑用の
ホームが見える

ここから先はトンネルの連続だ。1つ目のトンネルは途中で片側がオープンになる個所があり(見取図ではトンネルから出たように描いてある)、右の窓からU字谷のダイナミックな風景を垣間見ることができる。トンネルの中で向きを180度変えるため、次の明かり窓は左側に現れるので驚かないように。向こうの谷壁の中腹に、これから通る線路が刻まれているのが確認できるだろう。

まもなく列車は路線随一のビュースポット、ショース滝 Kjosfossen にさしかかる(下注。写真4)。夏のダイヤでは上下列車とも約10分停車するので、テラスに降り、轟音やしぶきを浴びて、目の前を落下していく圧倒的な水量を思う存分体感したい。

*注 foss、fossen は滝の意。ショースフォッセン滝あるいはヒョース滝の表記もある。ノルウェー語の"kj"は「ドイツ語の ich の ch「ヒ」のように聞こえるが、舌を硬口蓋の中央に近づけ息をするどく出す。西部ノルウェーの方言では舌が硬口蓋についてしまい「チ」のように聞こえる。」(森 信嘉「ノルウェー語文法入門-ブークモール」大学書林, 1990 p.21)

ガイドブックなどに、滝のそばで音楽に合わせて女性が舞い踊るのが見える、と書かれている。女性が扮しているのは、森の精フルドラ Huldra だ。前回紹介したJ.B.トゥーエの『フロム鉄道』日本語版(p.46)によれば、この森の精は”こびと”で、「正面から見ると非常に美しいが、後ろから見るとまるで動物のような尻尾を生やし、背中がくぼんでいることもあったという。」 フルドラはまた、「音楽の才に恵まれており、歌を歌ったり、楽器を奏でているのが時々聞こえた」「人々は”こびと”の音楽にいつまでも聞き惚れた」とされている。

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5. ヴァトナハルセンからの眺め
右下を列車が走る
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6. ミュールダール(滝の上部)
とラッラルの道
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7. 最急半径130m、
最急勾配55‰の標識

さて、線路は築堤でフロム川 Flåmselvi を横断して、再びトンネルへ突っ込む。ここでも急な左カーブで高度を落としながらトンネルを出たところが、さきほど見えていた線路だ(写真5)。左側、向かいの谷壁を白糸のような流れがすべり落ちているが、あの上にミュールダールの駅がある。ベルゲン鉄道建設のために拓かれたラッラル(工夫)の道が、17のヘアピンカーブを連ねて急斜面を上っている(写真6)。

*注 ラッラルの道については、本ブログ「ベルゲン鉄道を地図で追う III-雪山を越えて」も参照

次のノーリトンネル Nålitunnelen は路線で最も長い1342m、続くブロムヘレルトンネル Blomhellertunnelen は2番目に長い1030mで、削るにはあまりに危険な断崖をこうしてトンネルでかわしていく。ブロムヘレル Blomheller 駅に近づくころにはフロム川の流れも穏やかになり、線路はようやく谷底に達する。

しかし、旅程は半分も終わっていない。標高もまだ450mある。この先、風景が変化するタイミングは、遷急点の通過と同期していると覚えておくとわかりやすいだろう。遷急点とは、緩やかだった川の流れが突然急になる場所(遷移点ともいう)で、フロム川もこうしたポイントを経て、階段状に高度を落としていく。しかし線路勾配は川のように自在にはいかないので、遷急点の後は相対的に高みを走るようになり、車窓から谷を見下ろす形になる。また、遷急点を境に川幅が狭まるため、交通路はしばしばここを谷の横断に利用する。

フロム川はおおまかに言ってあと3個所、遷急点をもつ。ブロムヘレル駅のすぐ後に1個所めがあり、セオリーどおりに鉄道は川を渡って左岸にとりつく。フロム鉄道の特徴の一つは、橋を造らず、築堤の下にトンネルを設けて水流をくぐらせていることで、そのために乗客は川を横切ったことに気づかないかもしれない。ここからしばらく右側の車窓に眺望が移る。

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8. ベレクヴァム駅の列車交換
左がフロム行き
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9. ホーガ付近
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10. リョーアンネ滝
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11. フロムの村
 中央手前が教会
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12. フロム駅と港
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13. フロム駅舎

ベレクヴァム Berekvam はミュールダールから10.5km、フロムから9.7kmと両者のほぼ中間にあり、夏の日中、上下列車がここで対向する(写真8)。道路に接していない右側の線路に入るミュールダール行きは、無停車扱いで乗降はできないが、定刻なら先着している。線路はゆるく右カーブしているので、駅進入直前、右の窓から前方に対向待ちしている列車を捉えることができるはずだ。

トンネルを2本くぐると、線路は再び川を渡って、右手から張り出す岩壁に開けられたトンネルに突っ込んでいく(写真9)。ここはホーガ Høga(高みを意味する)と呼ばれ、2つ目の遷急点だ。ダールスボトン Dalsbotn 駅あたりまで降りると、左前方に140mの高さを豪快に落下するリョーアンネ滝 Rjoandefossen の姿が捉えられる(写真10)。滝と並ぶ直前で、列車は尾根を横切る最後のトンネルに入ってしまうので、シャッターチャンスに注意したい。

この間に、川は最後の遷急点を通過して、ついに谷間の平地にたどりつく。トンネルの闇を抜けると左前方に、小さな木造教会と民家の赤壁が印象的なフロムの村の光景が広がって、思わず目を奪われるに違いない(写真11)。ここで左後方を振り返れば、リョーアンネ滝が遠くで見送ってくれているのにも気づくだろう。平和なたたずまいを見せる村の脇をゆっくりとすり抜けた列車は、1時間弱の旅を終えて、フィヨルド観光船が待つフロムの港に到着する(写真12, 13)。

最後に、フロム港からの交通機関について記しておこう。ここまで降りてきた旅行者のお目当ては、やはりアウルランフィヨルド Aurlandsfjorden ~ネーロイフィヨルド Nærøyfjorden を進む観光船だろう。船は Fjord1(フィヨールエット)社が運航していて、夏は4往復設定されている。所要時間は2時間10分だ。

グドヴァンゲン上陸後はバス移動になる。ソグネフィヨルド最奥部とベルゲンを結ぶソグネバス Sognebussen がフロム、グドヴァンゲン、ヴォス経由で走っているので、これをつかまえれば、ベルゲンまでバスで直行することも可能だ。これもFjord1が運行元のようだが、時刻表は、地方バス会社40社が共同運営する「ノル・ウェーバス急行 NOR-WAY Bussekspress」のサイト(下記参考サイト)に載っている。土日は運行しない便があるので注意が必要だ。
また、グドヴァンゲン~ヴォス間のローカルバスの時刻表は、下記シス(ヒス)Skyssのサイトにある。

(2015年4月28日写真追加)

■参考サイト
フロム港の運営 http://www.flaam-cruise.com/
Fjord1社 http://www.fjord1.no/ 英語版あり
 英語版トップページ > Tourist routes boat > Flåm - Gudvangen 紹介と時刻表がある。
ノル・ウェーバス急行 NOR-WAY Bussekspress  http://www.nor-way.no/ 英語版あり
 英語版トップページ > Timetables > 450 Sognebussen
Skyss http://www.skyss.no/ 英語版あり
 英語版トップページ > Timetables and Maps > Timetables > Click here for English timetables  > 950 Voss - Gudvangen

地形図は、地図局 Statens Kartverk のデータベースによる地図閲覧サイト kart i skolen の画像を使用した © www.avinet.no 2009

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 ノルウェーの鉄道地図

2010年4月 1日 (木)

ノルウェー フロム鉄道 I-その生い立ち

Blog_flaamsbana_map1
フロム鉄道の位置

フロム鉄道 Flåmsbana は、ベルゲン鉄道のミュールダール Myrdal 駅から分岐している延長20.2kmの支線だ。支線とはいえ年間の旅客数は50万人を優に超え、特に夏場の賑わいようは、ノルウェーの鉄道で群を抜いている。試しにノルウェーを訪れるパックツアーを検索してみるといい。フィヨルド周遊のような謳い文句がついていれば、十中八九、この路線がコースに組み込まれているはずだ。

いまや同国屈指の観光資源として押しも押されぬ位置につけている鉄道だが、最初からそうだったわけではない。開業したのが1941年とかなりの遅咲きなうえに、1950~60年代には早くも存続が疑問視されるほどの低調さをかこっていた。確かに、せいぜい数百人しか住んでいないような狭い谷間に、いったい何の目的で鉄道が造られたのだろうか。

フロム鉄道に関しては、公式サイトに日本語版が併設されているし、日本語で書かれたガイドブックも出版されている(本稿末尾で紹介)。それらをも参照しながら、ユニークな小鉄道の過去と現在をまとめてみた。

Blog_flaamsbana_map2
交易路としてのフロム鉄道

さて、上の問いに先に答えておこう。敷設の目的は、当然といえばそれまでだが、ベルゲン鉄道の培養線とするためだ。培養線とは、植物の根のように、幹線へ集貨・集客するために造られた支線をいう。ベルゲン鉄道が通る一帯は、北にソグネフィヨルド Sognefjorden、南にハルダンゲルフィヨルド Hardangerfjorden が深く入り込んで、半島状を成している。地勢の険しいこの地方では、古くから波静かなフィヨルドが道路の代わりだった。それゆえに、内陸を走る幹線から各々フィヨルドの最奥部へ短い支線を延ばすだけで、海を媒介にした沿岸の村々との交易路ができあがる(右図参照)。

初期の段階では、ヴォス Voss から北はグドヴァンゲン Gudvangen、南はグランヴィン Granvin への路線(下注)が検討された。前者は現在、国道E16号線が通るルートだが、議論の末に計画が変更され、ミュールダールから分岐して現在のフロム Flåm 駅があるフレトハイム Fretheim で船と接続させることになった。このほうがオスロ方面への近道となり、建設する距離も半分で済むからだ。しかしこの間には860mもの高度差があるため、いったんは部分的にラック式を採用した狭軌鉄道案が承認されるなど、計画案は揺れ動いた。

*注 グランヴィンへの路線は、後にハルダンゲル鉄道 Hardangerbanen (ヴォス~グランヴィン間27.5km)として実現した。1919年認可、1935年開業。しかし、旅客輸送は1985年、貨物輸送は1989年に休止となった。ヴォスから3.4kmは貨物線として残るが、以南の線路敷は、大部分自転車道に転換されている。

Blog_flaamsbana_map3
地形図で見るフロム鉄道全線

1916年、全線粘着式(通常のレール)で標準軌とすることが、議会で最終決定された。その内容は、ルートの8割(16km)が勾配28‰(1/36)以上、3割(5.7km)がトンネルで、最急勾配55.6‰(1/18)、最急曲線130mという、まさしく山岳路線のプロフィールだった。工事は1924年に着手されたものの、不況の影響も受けて、進捗は目覚しくなかった。ところが、第二次大戦下、ノルウェーに侵攻したドイツ軍は、フロム鉄道で貨物輸送を行うことを要求した。開通時期が急遽前倒しされ、1940年、蒸気機関車による暫定運行が開始された。鉄道の電化が完了したのは、少し遅れて1944年、沿線のショース滝 Kjosfossen に新しい発電所が設けられてからだ。

期待に反して、戦後のフロム鉄道の利用状況は低迷し続けた。1970年代に乗客数が少し上向いたものの、夏に集中していたので、鉄道当局は損失の大きい冬期の運行を取止めることさえ検討していたという。

様相が変化を見せ始めたのは、オスロからの長距離列車のミュルダール停車が定着した1980年前後からだ。フィヨルド観光が国際的に注目を集めるようになり、乗客数の増加傾向がはっきりしたことで、廃止論を唱える人はいなくなった。さらに1991年、それまで道路がなくフェリーで連絡していたフロムとグドヴァンゲンの間に道路トンネル(下注)が開通すると、自家用車やバスによる入れ込みが急増し、フロム鉄道の年間乗客数は30万人台に載るようになった。2002年には40万人、ネーロイフィヨルド Nærøyfjorden が世界遺産に登録された翌2006年には、50万人の大台を突破している。

*注 東からフレーニャトンネル Flenjatunnelen(5053m、1986年開通)、グドヴァンガトンネル Gudvangatunnelen(11428m、1991年)。後者は当時、同国最長の道路トンネルだった。2000年に世界最長となるラルダールトンネル Lærdalstunnelen(24510m)が完成して、E16号線が陸路でつながり、ルートの選択肢はさらに広がった。

フロム鉄道の成功は、フィヨルド周遊ルートの確立に拠るところが大きい。ミュールダール~(フロム鉄道)~フロム~(フィヨルド観光船)~グドヴァンゲン~(バス)~ヴォス~(ベルゲン鉄道)~ミュールダールという、地図上で直角三角形をなす一周ルートがそれだ。氷河起源のダイナミックな風景が連続する恵まれたシチュエーションに加えて、さまざまな交通手段の組合せ、一周しても5~6時間のコンパクトサイズ、そしてオスロとベルゲンを移動する途中に位置していることなど、ツアーに好まれる資格を兼ね備えている。フロム鉄道自体は並行する自動車道がないため、クルマと競合しないのも有利だ。

一方で、周辺の急速な道路整備は、鉄道の本来の目的であったソグネフィヨルドの交通網における比重を著しく減少させ、とりわけ貨物輸送の需要をあらかた奪ってしまった。山間の過疎地で地域利用があまり見込めないため、観光路線としてアピールを強める以外に存続の道はないというのが、現実のところだろう。

フロム鉄道は、鉄道庁 Jernbaneverket がインフラを管理し、ノルウェー鉄道 Norges Statsbaner(略称 NSB)が列車を運行していて、運営体制はベルゲン鉄道などと同じだ。しかし、一つ違う点がある。営業と商品開発を、1998年からフロム開発公社 Flåm Utvikling AS に任せているのだ。公社はフロムとアウルラン Aurland の観光港やホテルの営業も行い、鉄道と組合せた旅行商品の開発を担っている。たかだか20kmのローカル線に、16か国語もの案内リーフレット、6か国語のウェブサイトを用意して、鉄道の知名度浸透に努めている。訪問者が着実に増加しているのも、そうした努力の結果に違いない。

営利活動だけではなく、フロムの旧駅舎に設けられた鉄道博物館も、公社の運営だ。フロム駅で列車を降りたら、観光船に乗継ぐ前に博物館を訪れて、先人がこの地で挑んだ難工事の過程を振り返るひとときを持ちたいものだ。

次回はフロム鉄道の見どころを紹介する。

Blog_flaamsbana_guidebook

■参考図書
フロム鉄道については、下記の出版物がある。

ヨハンネス・B・トゥーエ Johannes B. Thue 著 伊奈真己 訳『フロム鉄道』日本語版 SKALD AS, 2002

現地のスカル Skald 社が刊行する、カラー写真をふんだんに使った80ページ、ハードカバーの冊子で、沿線紹介、歴史、建設秘話、データ集で構成されている。ノルウェー語(ブークモールおよびニーノシュク)のほか英、独、露、中、西、そして日本語の8か国語版がある。フロム鉄道の売店に置いているそうだが、日本の書店では扱っていないため、筆者はオスロの書店から取寄せた。現物をご覧になりたければ、JTB旅の図書館 http://www.jtb.or.jp/library/ が所蔵している。
出版社による紹介記事 http://skald.no/utgjevingar/flaamsbana.html

■参考サイト
フロム鉄道公式サイト http://www.flaamsbana.no/
 日本語版あり。時刻表は中間駅が省かれている。全駅時刻表は次のサイトで。
ノルウェー鉄道時刻表  http://www.nsb.no/timetables/
 路線ごとのPDFファイルがある。
 フロム鉄道は時刻表番号42 Flåm - Myrdal。

フロム鉄道博物館 Flåmbana Museet / The Flåm Railway Documentation Centre
http://www.flamsbana-museet.no/
 詳しいデータ集が役に立つ。英語版あり。
鉄道庁 Jernbaneverket のサイトにあるフロム鉄道写真集
http://www.jernbaneverket.no/no/Jernbanen/Virtuell-togreise/Flamsbana/
フロム開発公社 http://www.visitflam.com/

本稿は上記参考図書、参考サイトのほか、John Cranfield "The Railways of Norway" John Cranfield, 2000 を参照して記述した。
地形図は、地図局 Statens Kartverk のデータベースによる地図閲覧サイト kart i skolen の画像を使用した © www.avinet.no 2009

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