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2010年4月 8日 (木)

ノルウェー フロム鉄道 II-ルート案内

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地形図で見るフロム鉄道全線

フロム鉄道 Flåmsbana の時刻表を読むと、鉄道の運行事情が浮き彫りになる。オフシーズン(9月27日~翌年5月1日)は上下とも4本しか設定されておらず、1編成が振子のように往復している。所要時間はミュールダール Myrdal 行き(上り)40分、フロム Flåm 行き(下り)45~50分だ。下り坂のほうが遅いのは、55‰の急勾配に速度制限がかかっているのだろう。この季節、沿線が雪に覆われることを思い出さなければならない。

一方、利用者が集中する夏は対照的だ。列車本数は、ミドルシーズン(5月2日~6月12日、8月30日~9月26日)が9往復、ハイシーズン(6月13日~8月29日)は10往復と、冬の2倍以上の密度になる。上下とも所要時間は平均56~57分で、冬よりさらに時間をかけている。その理由は、本数が多いので中間駅で列車交換の待合せをすること、そして、鉄道最大の名物である滝を見るための観光停車だ。

■参考サイト
時刻表を含めてフロム鉄道の参考サイトは、前回「ノルウェー フロム鉄道 I-その生い立ち」の末尾を参照。

今回は列車に乗ったつもりで、ミュールダールからフロムへと下りながら、車窓に展開する景色を楽しむことにしたい。本文の拙さを補うために、現地サイト(下注)から提供を受けた写真をいくつか掲げている。参考までに、推定される撮影位置を右上の地形図上に①、②のように記しておいた。

*注 著作権表示 All Photos (except #6 & #13) from Visit Flåm, © Flåm Utvikling. Photographers as follows ;
#1: E.A. Vikesland, #2, 10 & 11: Kyrre Wangen, #3, 4 & 12: Flåm Utvikling as, #5: Rolf M Sørensen, #7 & 9: Morten Rakke, #8: Per Eide
また、写真6及び13は、2014年に現地を訪れた海外鉄道研究会の松本昌太郎氏から提供を受けた。ご好意に心より感謝したい。

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1. ミュールダール駅
右の列車がフロム鉄道
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2. ミュールダール駅
フロム鉄道のホーム
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スパイラル概略図

ベルゲン鉄道との接続駅ミュールダールでは、谷側にフロム鉄道の列車ホームがある(写真1、2)。始発駅では進行方向左側の見晴らしがいいので、そちらの席はすでに埋まっているかもしれない。トータルでは左の車窓が開ける時間のほうが長いが、右側席にも後ほど見どころがやってくる。

駅の標高は866m、列車がホームを離れるや、いきなり急な下り勾配になる。フロムスダール Flåmsdalen の谷へ降下しようとしているのだが、谷底とは300mの高度差があり、これを克服するためのルート設定はかなり複雑だ。一回転するスパイラル(日本でいうループ線)こそないが、狭い敷地で方向転換を繰り返し、切り立つ岩壁にトンネルをうがって、技巧の限りを尽くしている。既成の地図はどれもその経路をうまく表現できていないので、見取図を描いてみた(右図)。ルートが途中でクロスしているように見えるが、もちろん平面交差ではない。

スノーシェッド(雪覆い)や短いトンネルを経て、1つ目のヴァトナハルセン Vatnahalsen 駅に停まる。すぐ近くに同じ名のホテルが建っていて、崖っぷちには谷を見下ろす展望台がある。線路はいったんラインウンガ湖 Reinungavatnet の方に向かい、半径150mの急なカーブで180度回転する(写真3)。湖の周囲にはコテージが点在しているが、最寄のラインウンガ Reinunga 駅は乗降があるときのみ停車する、いわゆるリクエストストップなので、客がなければ通過してしまう。

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3. ラインウンガ湖
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4. ショース滝の俯瞰
 列車の背後に観瀑用の
ホームが見える

ここから先はトンネルの連続だ。1つ目のトンネルは途中で片側がオープンになる個所があり(見取図ではトンネルから出たように描いてある)、右の窓からU字谷のダイナミックな風景を垣間見ることができる。トンネルの中で向きを180度変えるため、次の明かり窓は左側に現れるので驚かないように。向こうの谷壁の中腹に、これから通る線路が刻まれているのが確認できるだろう。

まもなく列車は路線随一のビュースポット、ショース滝 Kjosfossen にさしかかる(下注。写真4)。夏のダイヤでは上下列車とも約10分停車するので、テラスに降り、轟音やしぶきを浴びて、目の前を落下していく圧倒的な水量を思う存分体感したい。

*注 foss、fossen は滝の意。ショースフォッセン滝あるいはヒョース滝の表記もある。ノルウェー語の"kj"は「ドイツ語の ich の ch「ヒ」のように聞こえるが、舌を硬口蓋の中央に近づけ息をするどく出す。西部ノルウェーの方言では舌が硬口蓋についてしまい「チ」のように聞こえる。」(森 信嘉「ノルウェー語文法入門-ブークモール」大学書林, 1990 p.21)

ガイドブックなどに、滝のそばで音楽に合わせて女性が舞い踊るのが見える、と書かれている。女性が扮しているのは、森の精フルドラ Huldra だ。前回紹介したJ.B.トゥーエの『フロム鉄道』日本語版(p.46)によれば、この森の精は”こびと”で、「正面から見ると非常に美しいが、後ろから見るとまるで動物のような尻尾を生やし、背中がくぼんでいることもあったという。」 フルドラはまた、「音楽の才に恵まれており、歌を歌ったり、楽器を奏でているのが時々聞こえた」「人々は”こびと”の音楽にいつまでも聞き惚れた」とされている。

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5. ヴァトナハルセンからの眺め
右下を列車が走る
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6. ミュールダール(滝の上部)
とラッラルの道
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7. 最急半径130m、
最急勾配55‰の標識

さて、線路は築堤でフロム川 Flåmselvi を横断して、再びトンネルへ突っ込む。ここでも急な左カーブで高度を落としながらトンネルを出たところが、さきほど見えていた線路だ(写真5)。左側、向かいの谷壁を白糸のような流れがすべり落ちているが、あの上にミュールダールの駅がある。ベルゲン鉄道建設のために拓かれたラッラル(工夫)の道が、17のヘアピンカーブを連ねて急斜面を上っている(写真6)。

*注 ラッラルの道については、本ブログ「ベルゲン鉄道を地図で追う III-雪山を越えて」も参照

次のノーリトンネル Nålitunnelen は路線で最も長い1342m、続くブロムヘレルトンネル Blomhellertunnelen は2番目に長い1030mで、削るにはあまりに危険な断崖をこうしてトンネルでかわしていく。ブロムヘレル Blomheller 駅に近づくころにはフロム川の流れも穏やかになり、線路はようやく谷底に達する。

しかし、旅程は半分も終わっていない。標高もまだ450mある。この先、風景が変化するタイミングは、遷急点の通過と同期していると覚えておくとわかりやすいだろう。遷急点とは、緩やかだった川の流れが突然急になる場所(遷移点ともいう)で、フロム川もこうしたポイントを経て、階段状に高度を落としていく。しかし線路勾配は川のように自在にはいかないので、遷急点の後は相対的に高みを走るようになり、車窓から谷を見下ろす形になる。また、遷急点を境に川幅が狭まるため、交通路はしばしばここを谷の横断に利用する。

フロム川はおおまかに言ってあと3個所、遷急点をもつ。ブロムヘレル駅のすぐ後に1個所めがあり、セオリーどおりに鉄道は川を渡って左岸にとりつく。フロム鉄道の特徴の一つは、橋を造らず、築堤の下にトンネルを設けて水流をくぐらせていることで、そのために乗客は川を横切ったことに気づかないかもしれない。ここからしばらく右側の車窓に眺望が移る。

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8. ベレクヴァム駅の列車交換
左がフロム行き
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9. ホーガ付近
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10. リョーアンネ滝
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11. フロムの村
 中央手前が教会
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12. フロム駅と港
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13. フロム駅舎

ベレクヴァム Berekvam はミュールダールから10.5km、フロムから9.7kmと両者のほぼ中間にあり、夏の日中、上下列車がここで対向する(写真8)。道路に接していない右側の線路に入るミュールダール行きは、無停車扱いで乗降はできないが、定刻なら先着している。線路はゆるく右カーブしているので、駅進入直前、右の窓から前方に対向待ちしている列車を捉えることができるはずだ。

トンネルを2本くぐると、線路は再び川を渡って、右手から張り出す岩壁に開けられたトンネルに突っ込んでいく(写真9)。ここはホーガ Høga(高みを意味する)と呼ばれ、2つ目の遷急点だ。ダールスボトン Dalsbotn 駅あたりまで降りると、左前方に140mの高さを豪快に落下するリョーアンネ滝 Rjoandefossen の姿が捉えられる(写真10)。滝と並ぶ直前で、列車は尾根を横切る最後のトンネルに入ってしまうので、シャッターチャンスに注意したい。

この間に、川は最後の遷急点を通過して、ついに谷間の平地にたどりつく。トンネルの闇を抜けると左前方に、小さな木造教会と民家の赤壁が印象的なフロムの村の光景が広がって、思わず目を奪われるに違いない(写真11)。ここで左後方を振り返れば、リョーアンネ滝が遠くで見送ってくれているのにも気づくだろう。平和なたたずまいを見せる村の脇をゆっくりとすり抜けた列車は、1時間弱の旅を終えて、フィヨルド観光船が待つフロムの港に到着する(写真12, 13)。

最後に、フロム港からの交通機関について記しておこう。ここまで降りてきた旅行者のお目当ては、やはりアウルランフィヨルド Aurlandsfjorden ~ネーロイフィヨルド Nærøyfjorden を進む観光船だろう。船は Fjord1(フィヨールエット)社が運航していて、夏は4往復設定されている。所要時間は2時間10分だ。

グドヴァンゲン上陸後はバス移動になる。ソグネフィヨルド最奥部とベルゲンを結ぶソグネバス Sognebussen がフロム、グドヴァンゲン、ヴォス経由で走っているので、これをつかまえれば、ベルゲンまでバスで直行することも可能だ。これもFjord1が運行元のようだが、時刻表は、地方バス会社40社が共同運営する「ノル・ウェーバス急行 NOR-WAY Bussekspress」のサイト(下記参考サイト)に載っている。土日は運行しない便があるので注意が必要だ。
また、グドヴァンゲン~ヴォス間のローカルバスの時刻表は、下記シス(ヒス)Skyssのサイトにある。

(2015年4月28日写真追加)

■参考サイト
フロム港の運営 http://www.flaam-cruise.com/
Fjord1社 http://www.fjord1.no/ 英語版あり
 英語版トップページ > Tourist routes boat > Flåm - Gudvangen 紹介と時刻表がある。
ノル・ウェーバス急行 NOR-WAY Bussekspress  http://www.nor-way.no/ 英語版あり
 英語版トップページ > Timetables > 450 Sognebussen
Skyss http://www.skyss.no/ 英語版あり
 英語版トップページ > Timetables and Maps > Timetables > Click here for English timetables  > 950 Voss - Gudvangen

地形図は、地図局 Statens Kartverk のデータベースによる地図閲覧サイト kart i skolen の画像を使用した © www.avinet.no 2009

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コメント

私は油絵2年生の老女画家です。2008年に北欧へ旅行しましたが、思い出の写真を資料にして、足りない資料をネットサーフィンしながら、四苦八苦して絵を仕上げています。昨年はS・ペテルブルグのロストラ灯台を描きましたが、今春はフロムからウルネス教会までをF30号に描きました。でも手元にある資料写真の立地条件がつかめず、昨年同様想像を巡らすより方法はなくて、一番のお気に入りの写真(B&Bと自転車を掛けた建物と紅い家と標識)を資料に今回も描き始めました。でも7割しか描き込めないまま、美術展に出展してしまいました。描く時間が2週間しか無かったからです。1週間で返ってきますので、私の疑問がスラスラと解けたこのページに、嬉しくて心からのお礼を申し上げます。
 このページから戴いたの大いなる収穫は、私の写真にトンネルも写っているこの場所は、実はミュルダールの駅で、山の麓のトンネルから出てくるのは、赤と緑の両列車で有ったことです。それにフロム港の後ろが緑の小山で(想像通り)、フロム川も港直前に急カーブしており、列車はトンネル(あるいは地下)を通って向こうの山側へ行き、駅へ入って行くという事ですね。少し線路を描いて駅舎を描けば良いのでしょうか?フロム川の曲がり具合もいい加減な蛇行をしていますので描き直します。立地条件と山の形と建物を参考に、私の思い出の場所を再認識できました。トンネルから出てくるフロム列車だけ描くつもりでしたが、オスロ行き急行も描き、秋の美術展目指して描き足します。今回資料検索して、一番の驚きはフロム港の前方が、あの有名なフィヨルドの山々とフィヨルドが重なる、絶景ポイントだったことです。
今後も絵を通して憧れの北欧を描いて行きます。
有難う御座いました。

マダム・リヴィエール様

コメントありがとうございました。お役に立てて光栄です。
少し補足しますと、写真1はミュルダール駅裏から南西方向を撮ったもので、正面奥のトンネルはベルゲン方面への線路です。フロム鉄道(緑の列車)はこのトンネルに入るのではなく、逆方向(右手)へ発車して山を下っていきます。
とはいえ、旅の想い出を絵にするのにあまり堅苦しい考証は無粋ですね。ご放念ください。

マダム・リヴィエールを検索していて、偶然にお返事を見つけました。有難う御座います。フロム鉄道が山を下るのは気が付きましたが、待機中の赤い電車の線路が、トンネルから出た線路横を後ろの山の下方に伸びているように思いますが、これはどうなっておりますか?お時間が有ればよろしくお願いいたします。

お尋ねの件ですが、
待機中の赤い電車の線路、ということはベルゲン鉄道ですね。トンネル脇に別の線路が延びているように見えるということでしょうか。実際にはトンネルの左右に引込み線などは存在しませんので、道路がそのように見えているのだと思います。

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